(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032004
(43)【公開日】2024-03-08
(54)【発明の名称】イムノクロマトテストストリップ、ならびに、それを用いる検査対象物検出方法およびイムノクロマトテストキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/543 525W
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135446
(22)【出願日】2022-08-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520374612
【氏名又は名称】NanoSuit株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】松田 直人
(72)【発明者】
【氏名】針山 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 千代
(57)【要約】
【課題】検査対象試料中の微量成分を検出し得る、簡易かつ高感度な検査対象物検出方法およびそれに用いられる新規なイムノクロマトテストストリップの形態を提供する。
【解決手段】少なくともa)検査対象物を含む可能性のある検査対象液を受容する検査対象液導入部、b)検査対象液導入部が受容した検査対象液を長さ方向に展開または流動させる展開部、c)展開部の所定の場所に位置し、検査対象物を捕捉する分子であって、標識物質として金属微粒子または蛍光色素を含む微粒子が担持された標識分子、およびd)展開部の標識分子が位置する部分よりも下流側に設けられ、検査対象物と標識分子の複合体を捕捉する分子を含む判定部を備えるイムノクロマトテストストリップにおいて、展開部は、幅方向の大きさが2ミリメートル以下であり、専ら標識物質を検出可能な検査装置によって判定部の状態が検査されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下のa~d:
a)検査対象物を含む可能性のある検査対象液を受容する検査対象液導入部、
b)前記検査対象液導入部が受容した検査対象液を長さ方向に展開または流動させる展開部、
c)前記展開部の所定の場所に位置し、検査対象物を捕捉する分子であって、標識物質として金属微粒子または蛍光色素を含む微粒子が担持された標識分子、および
d)前記展開部の前記標識分子が位置する部分よりも下流側に設けられ、検査対象物と標識分子の複合体を捕捉する分子を含む判定部
を備えるイムノクロマトテストストリップにおいて、
前記展開部は、幅方向の大きさが2ミリメートル以下であり、
専ら前記標識物質を検出可能な検査装置によって前記判定部の状態が検査されることを特徴とするイムノクロマトテストストリップ。
【請求項2】
前記展開部は、シート状のメンブレンで構成されている、請求項1に記載のイムノクロマトテストストリップ。
【請求項3】
前記展開部は、複数本の糸が撚糸された撚糸体で構成されている、請求項1に記載のイムノクロマトテストストリップ。
【請求項4】
前記展開部は、複数本の糸が互いに並行に配置された並置体で構成されており、前記並置体の空隙を検査対象液が移動可能に構成されている、請求項1に記載のイムノクロマトテストストリップ。
【請求項5】
前記展開部は、支持体に形成されたマイクロ流路で構成されており、前記マイクロ流路の底面または側面の一部または全部が表面処理されており、前記表面処理された部分の水の接触角が50度以下である、請求項1に記載のイムノクロマトテストストリップ。
【請求項6】
前記展開部は、支持体に形成されたマイクロ流路で構成されており、前記マイクロ流路に、当該マイクロ流路の幅方向の大きさに対して1/3以下の直径を有する微粒子が充填されているか、または前記マイクロ流路の底面に複数の凸部が設けられており、前記微粒子の表面、または前記凸部の表面を伝って検査対象液が移動可能に構成されている、請求項1に記載のイムノクロマトテストストリップ。
【請求項7】
請求項2に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
【請求項8】
請求項3に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
【請求項9】
請求項4に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のイムノクロマトテストストリップを用い、走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置または蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置によって前記判定部の状態を検査することを含む、イムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
【請求項11】
前記イムノクロマトテストストリップの判定部の状態を検査する前に、検査用補助液を適用することをさらに含み、前記補助液は、
必須成分として、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる、請求項10に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
【請求項12】
前記イムノクロマトテストストリップの検査対象液導入部に、検査対象液と前記補助液を同時に適用する、請求項11に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
【請求項13】
検査対象液を少なくとも前記イムノクロマトテストストリップの判定部まで展開または流動させた後に、前記補助液を前記判定部に適用する、請求項11または12に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載のイムノクロマトテストストリップを構成要素に含んでなるイムノクロマトテストキット。
【請求項15】
さらに検査用補助液を含んでなり、前記補助液は、
必須成分として、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる、請求項14に記載のイムノクロマトテストキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトテストストリップ、ならびに、それを用いる検査対象物検出方法およびイムノクロマトテストキットに関し、より具体的には、検査装置で結果を読み取ることを前提とし、目視(肉眼観察)による読み取りが極めて困難な、微量の検査対象物の検出に適したイムノクロマトテストストリップの構成ならびにイムノクロマトグラフ法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡易抗原検査法の一つであるイムノクロマトグラフ法では、抗原抗体反応を利用して、ウイルスや細菌が産生する抗原などを検出することが可能である。イムノクロマトグラフ法は、その簡便さ・有効性ゆえに、広く医療現場で使用されているが、検査対象液(検体)中に一定量の検査対象物が存在していないと検出が難しい、すなわち、感度がやや低いという欠点がある。
【0003】
一般に目視または光学測定によるイムノクロマトグラフ法の検出限界は、約100pg/mLとされている。例えば、尿中のクレアチニンは通常50μg/mL以上程度であって、イムノクロマトグラフ法での検査がなされている(例えば、株式会社テクノメディカ製;ICR-001)。また、タカラバイオ株式会社からは、主として細胞を培養した際の培養上清中のインターロイキン2やインターフェロンガンマの検出用にイムノクロマトグラフ法が提供されており、その説明によると、検出濃度は2.0ng/mL(2000pg/mL)以上となっている。一方、こうしたタンパク質はサイトカインと総称されるが、血中のサイトカイン濃度は、培養上清中よりも低い。例えば、住化分析センターの技術広報誌(SCAS NEWS)2021-II号(Vol.54)『サイトカイン測定の意義とその留意点』の文中には、「サイトカイン類は一般にその血中濃度が数十pg/mL以下と低いことから,市販の汎用キットではしばしば検出限界以下となる。」と記載されている(4 サイトカイン測定の実際,4.1 測定方法,4.1.2 超高感度測定法)。つまり、健常者では血中濃度が数10pg/mLレベルであるサイトカイン(例えば、インターロイキン2,6,8,10、TGF-β、TNF―α、インターフェロンγなど)のイムノクロマトグラフ法による検査は困難である。これらサイトカインのモニタリングは、例えば、COVID-19の重症化に伴うサイトカインストームの監視の点でも有用であり、簡易なイムノクロマトグラフ法で検査ができるようになることは望ましい。
【0004】
こうしたイムノクロマトグラフ法の感度向上という潜在的課題に対して、本発明者らは、走査型電子顕微鏡によってイムノクロマトテストストリップ中の標識物質である金属微粒子を検出することを考え、イムノクロマトテストストリップに走査型電子顕微鏡での観察を補助する補助液を適用すると、良好に走査型電子顕微鏡で金属微粒子を検出し得ることを見出し、非特許文献1において報告している。非特許文献1には、走査型電子顕微鏡を用いてイムノクロマトテストストリップ中の標識物質である金属微粒子を検出することにより、実質的にPCR法と同等の検出感度でインフルエンザウイルスを検出できることが記載されている。非特許文献1に記載の方法によれば、目視に対して100倍~数100倍の高感度化が可能である。つまり、検出すべき対象タンパク質濃度として、約1.0pg/mLまでが本方法で検出し得ると見込める。
【0005】
近年、医療分野における診断技術の進歩に伴って、微量に採取される細胞群または個々の細胞中に存在するタンパク質の解析などが試みられるようになってきている。例えば、がんの病態解析や診断技術、治療技術の分野では、検体試料からサーキュレーティング・チューモアー・セル(Circulating Tumor Cell;CTC)を分取して、そこに含まれる遺伝子やタンパク質を解析しようとする試みがある。現状では、CTCに含まれるタンパク質の検出は質量分析計によってなされることが多いが、質量分析計は装置が高価であって、汎用的に用いる、とりわけ診断目的で用いるには利便性が十分でない。また、CTCは、採取される細胞数が少ないことも課題である。例えば、株式会社日本遺伝子研究所のウェブサイトによれば、血液1mLあたりにCTCは数個から数10個しか含まれないとされている。
【0006】
また昨今、細胞外小胞とりわけエクソソームに含まれる遺伝子やタンパク質を解析する試みも盛んである。この分野においても、そもそもエクソソームは直径100ナノメートル程度と細胞に比べさらに小さい小胞であるため、解析対象であるタンパク質の量はさらに少なく、質量分析による以外に既存の手法では検出が困難である。
【0007】
細胞一つの重量は約1ngとされている。うちタンパク質が占める割合は15パーセント程度であるので、単純計算では、細胞一つに含まれるタンパク質は150pgとなる。ヒトを構成するタンパク質は約100,000種類とされているので、単純計算で、タンパク質1種類あたりでは、0.0015pgとなる。すなわち、一つの細胞の全量をイムノクロマトテストストリップに展開し、上述のように走査型電子顕微鏡で観察しても未だ100倍程度感度が足りないことになる。CTCを解析し、そこに含まれるタンパク質を解析することを想定し、数10個のCTCから得られる検体をイムノクロマトテストストリップに展開すると仮定すると、約0.01pgのタンパク質を検知できるシステムがあれば実用上使用可能となることが期待できる。すなわち、本発明者らが非特許文献1で示した方法論に対してさらに10倍以上イムノクロマトグラフ法を高感度化すれば、例えばCTCのタンパク質の測定を簡易に行うことができたり、エクソソームに含まれるタンパク質の解析を簡易に行うことができたりするなど、先端的な生命解析の分野や医療診断の分野での利用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2021/220755号
【特許文献2】特開2015-152306号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Kawasaki et al., Combination of the NanoSuit method and gold/platinum particle-based lateral flow assay for quantitative and highly sensitive diagnosis using a desktop scanning electron microscope, Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 196 (2021) 113924.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、元々は目視による読み取りを主たる検査手段として設計された既存のイムノクロマトテストストリップでは、非特許文献1に記載の走査型電子顕微鏡を用いる金属微粒子の検出によって可能となる高感度化の効果を十分に得られない。なぜなら、
図8に模式的に示すような従来技術に係るイムノクロマトテストストリップPにおいて、メンブレンp3の幅yはおよそ3ミリメートル~7ミリメートル程度であり、メンブレンp3において検査対象液が展開する距離(サンプルパッドp1の右端から判定ラインtの右端までの距離)zはおよそ2センチメートル~4センチメートルであり、検査対象液を展開するメンブレンp3の厚み(
図8の紙面貫通方向の大きさ)は数10ミクロンメートル~数100ミクロンメートルであって、検査対象液はこの大きさ(
図8において、長さx×幅y×厚みで計算される体積)のメンブレンp3中に拡散されるため、検査対象液に含まれる検査対象物の全てが、検査対象物を捕捉するための抗体が固定されている判定ラインtの範囲を首尾よく通過できない状況を必然的に生じるからである。
【0011】
また、従来技術に係るイムノクロマトテストストリップにおいて、判定ラインtの幅は、目視による読み取りを想定し、通常は0.3ミリメートル~1ミリメートル程度とされているが、走査型電子顕微鏡による観察では、例えば1,500倍での観察では、一つの視野の一辺はおよそ40ミクロンメートルであるので、その視野に対して上述した判定ラインの幅は広すぎ、そのことは、検査のたびに走査型電子顕微鏡による観察に適した視野を選択しなければならないという煩雑さを招く場合があった。
【0012】
本発明者らは、特許文献1において、電子顕微鏡による測定専用の検出部のみを備えるイムノクロマトテストストリップを提案し、コントロール部も電子顕微鏡による測定専用とすることによって、標識物質の集積による発色の有無を目視確認するステップを省略し、検出部およびコントロール部の両方を電子顕微鏡による測定に供することで、イムノクロマトグラフィーの結果を迅速かつより簡便に定量化することを提案している。また、特許文献1には、電子顕微鏡による標識物質の識別を行うことを利用して、検出部およびコントロール部の範囲を小さくすることができること、および、これによりイムノクロマトテストストリップの小型化が可能となることが記載されている。一方で、特許文献1に記載の発明の完成時点および特許文献1の出願時点において、当該検出部およびコントロール部の範囲を具体的にどの程度小さくすることができるのか、あるいは、実際にそのようにして小さくした範囲の検出部および/またはコントロール部を備えるイムノクロマトテストストリップを用いて、検査対象液に含まれる微量成分の検出が可能であるかどうかについては必ずしも十分な実証実験はなされておらず、検討の余地が残されていた。
【0013】
そのため、特許文献1の出願時点では走査型電子顕微鏡による読み取りを前提とした場合でも十分な高感度化のポテンシャルを引き出せておらず、検出部およびコントロール部の小型化は着想を得ていたものの具体的なイムノクロマトテストストリップの設計を見出すには至っておらず、かつ高感度化の効果も具体的な実験結果を伴って確認することはできていなかった。すなわち、急速に進む各細胞レベルあるいは細胞外小胞(例えばCTCやエクソソーム)に含まれるタンパク質のような微量のタンパク質に適用し得る新たなイムノクロマトテストストリップの形態は依然提案がなされておらず、解決が望まれており、また、それにより高感度に検査対象物を検出することができるイムノクロマトグラフ法を提供することが望まれていた。すなわち、上述したCTCやエクソソームに含まれるタンパク質のような微量成分を検出し得る、簡易かつ高感度な検査対象物検出方法に対するニーズが依然として存在する。
【0014】
従って、本発明の目的は、主として走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置で結果を読み取ることを前提とした、新規なイムノクロマトテストストリップの形態を提供することであり、それにより従来のイムノクロマトテストストリップを用いるイムノクロマトグラフ法では検出が困難であった微量の検査対象物の検出に道を拓くことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記課題は、以下の態様を有するイムノクロマトテストストリップによって解決され得ることを見出した。
【0016】
(1)少なくとも以下のa~d:
a)検査対象物を含む可能性のある検査対象液を受容する検査対象液導入部、
b)前記検査対象液導入部が受容した検査対象液を長さ方向に展開または流動させる展開部、
c)前記展開部の所定の場所に位置し、検査対象物を捕捉する分子であって、標識物質として金属微粒子または蛍光色素を含む微粒子が担持された標識分子、および
d)前記展開部の前記標識分子が位置する部分よりも下流側に設けられ、検査対象物と標識分子の複合体を捕捉する分子を含む判定部
を備えるイムノクロマトテストストリップにおいて、
前記展開部は、幅方向の大きさが2ミリメートル以下であり、
専ら前記標識物質を検出可能な検査装置によって前記判定部の状態が検査されることを特徴とするイムノクロマトテストストリップ。
(2)前記展開部は、シート状のメンブレンで構成されている、(1)に記載のイムノクロマトテストストリップ。
(3)前記展開部は、複数本の糸が撚糸された撚糸体で構成されている、(1)に記載のイムノクロマトテストストリップ。
(4)前記展開部は、複数本の糸が互いに並行に配置された並置体で構成されており、前記並置体の空隙を検査対象液が移動可能に構成されている、(1)に記載のイムノクロマトテストストリップ。
(5)前記展開部は、支持体に形成されたマイクロ流路で構成されており、前記マイクロ流路の底面または側面の一部または全部が表面処理されており、前記表面処理された部分の水の接触角が50度以下である、(1)に記載のイムノクロマトテストストリップ。
(6)前記展開部は、支持体に形成されたマイクロ流路で構成されており、前記マイクロ流路に、当該マイクロ流路の幅方向の大きさに対して1/3以下の直径を有する微粒子が充填されているか、または前記マイクロ流路の底面に複数の凸部が設けられており、前記微粒子の表面、または前記凸部の表面を伝って検査対象液が移動可能に構成されている、(1)に記載のイムノクロマトテストストリップ。
(7)(2)に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
(8)(3)に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
(9)(4)に記載のイムノクロマトテストストリップの少なくとも展開部が、支持体に形成されたマイクロ流路内に収容されてなる、イムノクロマトテストストリップ。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載のイムノクロマトテストストリップを用い、走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置または蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置によって前記判定部の状態を検査することを含む、イムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
(11)前記イムノクロマトテストストリップの判定部の状態を検査する前に、検査用補助液を適用することをさらに含み、前記補助液は、必須成分として、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる、(10)に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
(12)前記イムノクロマトテストストリップの検査対象液導入部に、検査対象液と前記補助液を同時に適用する、(11)に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
(13)検査対象液を少なくとも前記イムノクロマトテストストリップの判定部まで展開または流動させた後に、前記補助液を前記判定部に適用する、(11)または(12)に記載のイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法。
(14)(1)~(9)のいずれかに記載のイムノクロマトテストストリップを構成要素に含んでなるイムノクロマトテストキット。
(15)さらに検査用補助液を含んでなり、前記補助液は、必須成分として、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる、(14)に記載のイムノクロマトテストキット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、目視に依らず検査装置による検査に好適なイムノクロマトテストストリップが提供される。本発明のイムノクロマトテストストリップにおいては、検査対象液が展開または流動する展開部の幅が従来のものよりも極めて小さいため、検査対象液に含まれる検査対象物を効率よく判定部(当該展開部に設けられた、検査対象物と標識分子の複合体を捕捉する分子を含む部分)に導くことができる。また、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいては、当該判定部の大きさ(検査対象液が展開または流動する方向の大きさ)を従来のものよりも極めて小さくすることも可能であり、走査型電子顕微鏡や蛍光顕微鏡などの検査装置の視野との適合性を改善することも容易である。そのため、本発明のイムノクロマトテストストリップを用い、走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置または蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置によって判定部の状態を検査することを含むイムノクロマトグラフ法によって、従来は検出が難しかった微量の検査対象物を簡易かつ高感度に検出することができる。加えて、本発明によれば、本発明のイムノクロマトテストストリップを構成要素に含んでなるイムノクロマトテストキットが提供され、これにより本発明のイムノクロマトグラフ法を簡便に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施態様1の展開部を備える本発明の第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図。
【
図2】実施態様2の展開部を備える本発明の第2の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図。
【
図3】実施態様3の展開部を備える本発明の第3の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図。
【
図4】実施態様4の展開部を備える本発明の第4の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式斜視図。
【
図5A】実施態様5の展開部を備える本発明の第5の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成の一例を示す模式斜視図。
【
図5B】実施態様5の展開部を備える本発明の第5の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成の別の例を示す模式斜視図。
【
図6A】実施態様6の展開部を備える本発明の第6の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成の一例を示す模式斜視図。
【
図6B】実施態様6の展開部を備える本発明の第6の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成の別の例を示す模式斜視図。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップにおいて、判定部を展開部の複数箇所に設けることで、複数種類の検査対象物を1つのイムノクロマトテストストリップを用いて検出可能に構成した例を示す模式平面図。
【
図8】従来技術に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図
【
図9】(a)市販のイムノクロマトテストストリップを用いてそばタンパク質を検出した結果を示す写真画像、(b)(a)の判定ライン部分を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す写真画像(観察倍率:5000倍)。
【
図10】(a)市販のイムノクロマトテストストリップを用いて、
図9(a)の写真画像を得た条件(上段)と、検査対象液を2000倍に希釈した条件(下段)とで、そばタンパク質を検出した結果を示す写真画像、(b)(a)の判定ライン部分を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す写真画像(観察倍率:5000倍)。
【
図11】(a)実施例の試料1のテストストリップの外観を示す写真画像、(b)試料1のテストストリップを用いて、検査対象液を2000倍に希釈した条件で、そばタンパク質を検出した結果を示す写真画像(観察倍率:5000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[イムノクロマトテストストリップ]
本発明のイムノクロマトテストストリップは、少なくとも以下のa~d:
a)検査対象物を含む可能性のある検査対象液を受容する検査対象液導入部、
b)前記検査対象液導入部が受容した検査対象液を長さ方向に展開または流動させる展開部、
c)前記展開部の所定の場所に位置し、検査対象物を捕捉する分子であって、標識物質として金属微粒子または蛍光色素を含む微粒子が担持された標識分子、および
d)前記展開部の前記標識分子が位置する部分よりも下流側に設けられ、検査対象物と標識分子の複合体を捕捉する分子を含む判定部
を備え、専ら前記標識物質を検出可能な検査装置によって前記判定部の状態が検査されることを特徴とする。
【0021】
ここで、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいては、展開部の幅方向の大きさ、すなわち、検査対象液が展開または流動する方向に直交する方向の大きさが、従来のイムノクロマトテストストリップに比較して極めて小さいことを特徴の一つとしている。展開部の幅を狭くすることで、検査対象液の拡散範囲が小さくなり、検査対象液に含まれる検査対象物を効率よく判定部を通過させることができ、微量の検査対象物を高感度に検出することが可能になる。展開部の幅方向の大きさは2ミリメートル以下であり、好ましくは1ミリメートル以下であり、より好ましくは500ミクロンメートル以下であり、300ミクロンメートル以下が最も好ましい。
【0022】
展開部の構成としては、例えば、従来のイムノクロマトテストストリップで用いられるニトロセルロースなどのメンブレンであってもよい。あるいは、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいては、上述したメンブレンや繊維などの材料を用いずに、任意の支持体に検査対象液が通液可能な流路が形成された態様で、展開部が構成されていてもよい。この場合には、支持体に形成された展開部(すなわち流路)の一部に上記判定部が形成されていれば、上記標識物質を検出可能な検査装置によって当該判定部の状態を検査することができる。このような流路を備える従来のイムノクロマトテストストリップとしては、例えば特許文献2に開示がある。特許文献2には、0.01ミクロンメートル~1000ミクロンメートルの幅を有するマイクロ流路をポリジメチルシロキサン支持体上に形成したキャピラリー型のイムノクロマトテストストリップの構成が記載されている。
【0023】
しかしながら、特許文献2に記載されるような形態では、流路幅が比較的広い場合(例えば1ミリメートル以上の場合)は、流路を検査対象液で充たした上で当該検査対象液に含まれる検査対象物を判定ラインまで到達させるには、検査対象液の液量として相当程度必要であるため、微量の検査対象物、とりわけ微量の検査対象液に含まれる微量の検査対象物の検出には不向きである。例えば、上述のように細胞1個の重量が約1ngであるとすると、数10個のCTCを一度に取り扱うとしても重量は50ng程度に過ぎず、検出対象タンパク質は0.01pg程度かそれ以下と微量である。これを例えば幅1ミリメートル、深さ1ミリメートル、長さ2センチメートルの流路に満たし、かつ大半の成分を判定ラインを通過させようとすると、溶液量は少なくとも20マイクロリットルの2倍、すなわち40マイクロリットルに希釈する必要を生じる。これでは結果的に検出対象物の液中濃度を下げてしまう。
【0024】
そのため、イムノクロマトグラフ法において検査対象液が展開する部分の幅を狭くし、それによって微量の検査対象液に含まれる微量の検査対象物を検出しようとする場合、単に微小なマイクロ流路を形成することのみでは所望の結果を得ることは難しく、毛細管現象によって実質的に検査対象液が展開される部分の容積を小さくするためのメンブレンや繊維を用いた構成であるか、あるいは、多くの場合水溶液である検査対象液の展開を助ける(促進する)ための表面処理が施されたマイクロ流路型の構成であるか、または流路内に毛細管現象を起こさせるための微細構造を有するマイクロ流路型の構成であることが好ましいことを、本発明者らは着想した。
【0025】
すなわち、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいて、上記展開部の具体的な実施態様としては、以下のものを例示することができる。但し、展開部の態様としては、これらに限定されない点に留意されたい。
実施態様1:ニトロセルロース等からなるシート状のメンブレンであって、幅方向の大きさが2ミリメートル以下であるもの
実施態様2:ニトロセルロース等の糸が2本~100本程度撚糸されたもの
実施態様3:ニトロセルロース等の糸が少なくとも2本以上互いに並行に配置され、その空隙を検査対象液が移動可能に構成されたもの
実施態様4:ポリジメチルシロキサン、ポリシクロオレフィン、またはアルミニウム等からなる支持体に形成されたマイクロ流路であって、当該マイクロ流路の底面または側面の一部または全部が表面処理されており、当該表面処理された部分の水の接触角が50度以下であるもの
実施態様5:実施態様4と同様に形成されたマイクロ流路(但し表面処理は必須ではない)に、実施態様1~3のいずれかの展開部が収容されているもの
実施態様6:実施態様4と同様に形成されたマイクロ流路(但し表面処理は必須ではない)であって、当該マイクロ流路に、当該マイクロ流路の幅方向の大きさに対して1/3以下の直径を有する微粒子が充填されているか、または当該マイクロ流路の底面に複数の凸部が設けられており、当該微粒子の表面、または当該凸部の表面を伝って検査対象液が移動可能に構成されたもの。
【0026】
以下、各実施態様の展開部を備える本発明のイムノクロマトテストストリップについて添付の図面を参照して説明する。
【0027】
<第1の実施形態>
図1は、実施態様1の展開部を備える本発明の第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図である。
【0028】
図1に示すイムノクロマトテストストリップ100は、検査対象液の展開方向(
図1において矢印Dで示す方向)の上流から下流に向かって、検査対象液導入部110、展開部120、および吸収パッド130を備える。
【0029】
(検査対象液導入部)
検査対象液導入部110は、検査対象物を含む可能性のある検査対象液を受容する。また、検査対象液導入部110は、そこで受容した検査対象液を展開部120に安定に導入する役割を果たす。検査対象液導入部110は、セルロース誘導体等の繊維マトリックス、濾紙、ガラス繊維、布、綿等により、好ましく形成される。
【0030】
検査対象液導入部110の大きさは、1回にアプライする検査対象液の量に合わせて自由に設計することができる。本発明において1回にアプライする検査対象液は、0.1マイクロリットルから100マイクロリットルが好ましく、より好ましくは0.1マイクロリットルから10マイクロリットルである。
【0031】
(展開部)
展開部120は、検査対象液導入部110が受容した検査対象液を長さ方向に展開または流動させる。展開部120は、シート状のメンブレン122で構成されており、幅方向の大きさwが2ミリメートル以下である。展開部120の長さ方向の大きさLは特に限定されないが、Lの値を過剰に大きくすると、必要となる検査対象液の液量が多くなるため、好ましくない。一方で、検査対象液が全血などであり、夾雑物が多く含まれる可能性がある場合は、想定される検査対象液の液量に対してLの値を大きめに設定することで、検査対象物の検出精度を担保するようにしても良い。
【0032】
ここで、展開部120において、検査対象液が展開または流動する距離(検査対象液の移動距離)、すなわち、展開部120の左端(検査対象液導入部110の右端)から後述する判定部の右端までの距離mは、3センチメートル以下が好ましく、より好ましくは2センチメートル以下である。加えて、検査対象液が全血、未処理の唾液、未処理の尿を除く何らかの前処理がなされたものである場合、または予め血液や尿などから分取されたエクソソームやCTCを分散した液体である場合は、距離mは、1センチメートル以下とすることが好ましく、より好ましくは7ミリメートル以下である。なお、mの下限値は特に制限されないが、2ミリメートル以上であることが好ましい。
【0033】
展開部120の厚さ方向(
図1の紙面貫通方向)の大きさは、200ミクロンメートル以下が好ましく、より好ましくは100ミクロンメートル以下であり、最も好ましくは50ミクロンメートル以下である。展開部120の厚みが薄いほど、検査対象液が拡散する範囲が小さくなり、検査対象液に含まれる検査対象物を効率よく判定部に導くことができ、かつ検査装置による検査の際に標識物質(金属微粒子など)がメンブレン122に隠れてしまう(実際には判定部に存在している標識物質を検出することができなくなる)頻度が減少するので好ましい。
【0034】
展開部120を構成するメンブレンの材料としては、従来のイムノクロマトテストストリップに使用できるとされたものであれば、特に制限無く使用することができる。当該材料としては、例えば、綿、麻、絹、セルロース、ロックウール、獣毛、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ガラス繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。このうち、ニトロセルトース、セルロースアセテート、ガラス繊維、ポリエステルが望ましい。
【0035】
(標識分子)
展開部120には、所定の場所に、標識分子140が配置されている。標識分子140が位置する場所は、通常、展開部120の上流側であって、検査対象液導入部110との境界に近い領域である。標識分子140は、検査対象液導入部110から展開部120に導入された検査対象液に含まれ得る検査対象物を捕捉する分子であって、標識物質として金属微粒子または蛍光色素を含む微粒子が担持されている。具体的には、検査対象物が抗原である場合、標識分子140はマーカー抗体である。
【0036】
マーカー抗体は、検査対象物である抗原の第1部分(第1エピトープ)を特異的に認識してこれと結合する抗体と、標識物質との結合体である。当該抗体は、検査対象物に応じて任意に選択され得る。標識物質は、従来のイムノクロマトグラフ法に用いられる標識物質から任意に選択され得る。標識物質は、例えば、金属微粒子(金属ナノ粒子)、ラテックス微粒子、有機高分子微粒子、無機微粒子、および蛍光色素を含む微粒子(発色剤を内包したリポソームなど)からなる群から選択される少なくとも1つを含む。上記金属ナノ粒子としては、例えば、金ナノ粒子、白金ナノ粒子、白金-金ナノ粒子、銀ナノ粒子などの貴金属ナノ粒子、チタンナノ粒子、鉄ナノ粒子、ニッケルナノ粒子、およびカドミウムナノ粒子が挙げられる。上記金属ナノ粒子は、粒径が1nm以上200nm以下のコロイド状の金属ナノ粒子であり、好ましくは20nm以上100nm以下であり、より好ましくは40nm以上100nm以下である。また、粒子形状は球状のものが一般的であるが、ロッド状、平板状であっても良い。
【0037】
特に、検査装置として電子顕微鏡を使用する態様では、標識分子140としては、電子顕微鏡での観察に適する金属ナノ粒子を標識物質として担持するマーカー抗体が望ましい。
【0038】
(判定部)
展開部120には、標識分子140が位置する部分よりも下流側に、検査対象物と標識分子140の複合体を捕捉する分子(捕捉分子)を含む判定部150が設けられている。具体的には、検査対象物が抗原である場合、判定部150には、当該抗原と上述したマーカー抗体の複合体を捕捉する抗体(捕捉抗体)が固定されている。そして、イムノクロマトテストストリップ100は、専ら標識物質140を検出可能な検査装置によって判定部150の状態が検査される。
【0039】
捕捉抗体は、検査対象物である抗原のうち上記第1部分とは異なる第2部分(第2エピトープ)を特異的に認識してこれと結合する抗体である。異なる観点から言えば、捕捉抗体は、標識物質と結合している検査対象物と結合する性質を有する。捕捉抗体は、検出対象物に応じて任意に選択され得る。
【0040】
判定部150は、検査対象液が展開または流動する方向の大きさが500ミクロンメートル以下であることが好ましく、より好ましくは、200ミクロンメートル以下である。言い換えると、判定部150は、展開部120の長さ方向に500ミクロンメートル以下、幅方向に2ミリメートル以下の範囲に上記捕捉分子(捕捉抗体)を含んで形成されていることが好ましく、当該範囲は、展開部120の長さ方向に200ミクロンメートル以下、幅方向に2ミリメートル以下であることがより好ましい。イムノクロマトテストストリップ100において、判定部150が、展開部120と同様に従来のものよりも極めて小さい幅を有し、かつ長さ方向の大きさも小さくすることで、走査型電子顕微鏡や蛍光顕微鏡などの検査装置の視野との適合性に優れたテストストリップとなる。目視による読み取りを想定した従来のイムノクロマトテストストリップでは、判定ラインの視認性を確保するために一定の幅(0.3ミリメートル~1ミリメートル程度)が要求されているが、本発明者らの経験上、検査対象液を展開した後の判定ラインの状態は一様ではなく、上流側の方が標識物質に起因する発色度合いが強い傾向にあった。つまり、判定ラインに固定されている捕捉抗体の全てが意図された役割を果たしている訳では無く、より上流側に位置する捕捉抗体が、検査対象物である抗原との特異的結合を形成していると推測できる。従って、イムノクロマトテストストリップ上での抗原抗体反応においては、従来の判定ラインよりも狭い範囲に、従来と同程度の濃度(単位面積あたりの量)で捕捉抗体(捕捉分子)を固定することでも、検査精度を確保することは十分に可能であると言える。加えて、本発明で使用する検査装置との関係においては、判定部150の範囲が従来よりも狭いことで、当該装置による検査の際の視野の選択をより容易にすることができる。
【0041】
図1に示すイムノクロマトテストストリップ100では、判定部150は1箇所であり、判定部150には、1種類の捕捉分子が固定されていることが意図される。また、標識分子140としても1種類の標識分子が配置されていることが意図される。この場合には、イムノクロマトテストストリップ100は、目的とする1種類の検査対象物を検出するのに適した構成となる。一方、本発明のイムノクロマトテストストリップの実施形態としてはこれに限定されず、判定部150を展開部120の複数箇所に設けることで、複数種類の検査対象物を1つのイムノクロマトテストストリップを用いて検出可能に構成することもできる。
図7は、当該実施形態の具体的な構成例を示す模式平面図である。
図7に示すイムノクロマトテストストリップ102においては、3つの判定部(第1の判定部151、第2の判定部152、第3の判定部153)から構成される判定部150が、展開部120に設けられている。
【0042】
図1に示すイムノクロマトテストストリップ100の展開部120は、一般的には、上述した材料を用いて、所望の展開部の大きさよりも大きいシート状のメンブレンを製造し、その一部に、上記捕捉分子(捕捉抗体)を含む溶液を、上記幅を有して一定の長さに延びるように(例えばライン状に)塗布することで上記判定部(判定ライン)を形成し、続いて当該判定部の長さ方向と直交する方向に、目的の幅wとなるようにメンブレンを細断することによって、得ることができる。なお、長さ方向の大きさについては、最初にシート状のメンブレンを製造する段階で、目的の長さLに合わせてシートを製造しても良いし、上記細断する際に目的の長さLとなるようにメンブレンを切断しても良い。また、厚さ方向の大きさについては、上記細断した後のメンブレンの厚みが、上述した大きさとなるようにすれば良い。
【0043】
(吸収パッド)
吸収パッド130は、展開部120に対し検査対象液導入部110と反対側、すなわち展開部120を流れる検査対象液の下流側に位置する。吸収パッド130を設けることにより、展開部120における検査対象液の展開または流動が円滑になり、また、余剰な検査対象液を吸収パッド130で吸収することができる。但し、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいて、吸収パッドは必須の構成要素ではなく、その設置は任意である。
【0044】
吸収パッド130の材質としては、毛細管現象によって検査対象液を吸収し得るものであればいかなるものでもよく、例えば、パルプ、コットンリンター、架橋セルロース繊維などのセルロース繊維、レーヨン、アセテート、綿、羊毛、ガラス繊維等が挙げられる。
【0045】
(コントロール部)
図1に示すイムノクロマトテストストリップ100では、展開部120において、判定部150よりも下流側に、コントロール部160が設けられている。コントロール部160には、標識分子140を捕捉する分子が固定されている。具体的には、検査対象物が抗原であり、標識分子140がマーカー抗体である場合、コントロール部160に固定される分子は、当該マーカー抗体を特異的に認識する抗体(コントロール抗体とも呼ばれる。)である。当該コントロール抗体は、マーカー抗体に応じて任意に選択され得る。但し、本発明のイムノクロマトテストストリップは、専ら標識物質を検出可能な検査装置によって判定部の状態が検査されるため、コントロール部は必須の構成要素ではなく、その設置は任意である。つまり、従来の目視読み取り用のイムノクロマトテストストリップにおいては、検査が正しく実施されたことを確認するためにコントロール部(コントロールライン)の設置は必須であるが、本発明のイムノクロマトテストストリップにおいては、検査装置による読み取りの際に、検査の実施の正確性も評価することが可能であり得るため、コントロール部の設置は任意としても差し支えない。もちろん、従来のイムノクロマトテストストリップと同様にコントロール部を設けても良い。
【0046】
加えて、
図1には示されていないが、本発明のイムノクロマトテストストリップの任意的な構成要素としては、以下のものが挙げられる。
【0047】
(コンジュゲートパッド)
コンジュゲートパッドは、検査対象液が検査対象液導入部110から展開部120へ導入される部分に配置され得る。予めコンジュゲートパッドに上述した標識分子を固定し、当該コンジュゲートパッドを展開部120の所定の場所に配置することで、展開部120に導入された検査対象液中に含まれる検査対象物(抗原)と標識分子(マーカー抗体)を反応させることができる。コンジュゲートパッドの材質としては特に制限されないが、例えば、セルロース誘導体等の繊維マトリックス、濾紙、ガラス繊維、布、綿等が好ましい。
【0048】
(導電テープ)
上述したように、本実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100は、専ら標識物質140を検出可能な検査装置によって判定部150の状態が検査される。本実施形態において、好ましく用いられる検査装置は、走査型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置である。そのような検査装置を用いてイムノクロマトテストストリップ100の判定部150を観察し、標識分子140に担持された金属ナノ粒子等の金属コロイド粒子の画像をより鮮明に得るためには、当該検査装置(走査型電子顕微鏡)から照射される電子線による観察対象物における静電蓄積(チャージアップと呼ばれる。)による画像の乱れを低減することが望ましい。そのため、展開部120、とりわけ判定部150から静電気を逃す機構を有することが望ましく、そのような機構としては、上述したイムノクロマトテストストリップ100の少なくとも1つの構成要素(好ましくは展開部120)と接した状態で導電テープを配置することが挙げられる。予めイムノクロマトテストストリップ100に導電テープを配置しておき、検査装置によって判定部150の状態を検査する際に当該導電テープの一端を直接または後述するハウジングを介して検査装置を構成する金属部分に接するようにすることで、上述したチャージアップの低減効果を得ることができる。導電テープとしては、アルミニウムや金、白金、銅などの金属箔またはカーボンテープを用いることができる。
【0049】
(ハウジング)
イムノクロマトテストストリップ100のハンドリング性を良好にするために、イムノクロマトテストストリップ100の全体または一部分を収容するハウジング(筐体)を設けても良い。ハウジングは、従来の目視読み取り用のイムノクロマトテストストリップと同様に設計することができる。具体的には、例えば、イムノクロマトテストストリップ100の全体を収容する構造体であって、平面視において、検査対象液導入部110の少なくとも一部分を露出する開口部と、判定部150の少なくとも一部分を露出する開口部とを有するものが挙げられる。ハウジングを構成する材料としてはいかなるものでも良い。例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックであっても良く、ガラスであっても良く、またはアルミニウムやステンレスなどの金属であっても良い。上述したチャージアップの低減効果を得る観点からは、上記導電テープを介して、あるいはハウジングを導電性材料で構成して展開部120と直接接するようにして、展開部120(特に判定部150)から静電気を逃すことができるようにすることが好ましい。
【0050】
<第2の実施形態>
図2は、実施態様2の展開部を備える本発明の第2の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図である。
【0051】
図2に示すイムノクロマトテストストリップ200は、検査対象液の展開方向(
図2において矢印Dで示す方向)の上流から下流に向かって、検査対象液導入部210、展開部220、および吸収パッド230を備える。ここで、検査対象液導入部210および吸収パッド230としては、
図1を参照して説明した第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100の検査対象液導入部110および吸収パッド130と同様の構成を採用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0052】
展開部220は、2本~100本程度の糸が撚糸されたもの(撚糸体)224で構成されており、幅方向の大きさwが2ミリメートル以下である。展開部220を構成する糸の材料としては、上述した展開部120と同様の材料を使用することができる。当該糸の太さ(すなわち、撚糸される前の1本の糸の太さ)は、直径50ミクロンメートル以下が好ましく、より好ましくは30ミクロン以下であり、最も好ましくは10ミクロン以下である。
【0053】
図2に示すイムノクロマトテストストリップ200では、標識分子240は、撚糸された状態の糸(撚糸体224)に対して、標識分子(マーカー抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで配置することができる。また、判定部250も同様に、撚糸体224に対して、捕捉分子(捕捉抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで形成することができる。
【0054】
なお、上記以外の、展開部220、標識分子240、および判定部250に関する特徴については、第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100の展開部120、標識分子140、および判定部150と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0055】
また、吸収パッド230を含め、その他の任意的な構成要素については、第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100について上述したのと同様である。
図2に示すイムノクロマトテストストリップ200は、展開部220において、判定部250よりも下流側に、コントロール部260が設けられている態様であり、その形成法としては、判定部250と同様に、撚糸体224に対して、標識分子240を捕捉する分子(コントロール抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布すれば良い。
【0056】
<第3の実施形態>
図3は、実施態様3の展開部を備える本発明の第3の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式平面図である。
【0057】
図3に示すイムノクロマトテストストリップ300は、検査対象液の展開方向(
図3において矢印Dで示す方向)の上流から下流に向かって、検査対象液導入部310、展開部320、および吸収パッド330を備える。ここで、検査対象液導入部310および吸収パッド330としては、
図1を参照して説明した第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100の検査対象液導入部110および吸収パッド130と同様の構成を採用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0058】
展開部320は、少なくとも2本以上の糸が互いに並行に配置され、その空隙を検査対象液が移動可能に構成されたもの(複数本の糸の並置体)326で構成されており、幅方向の大きさwが2ミリメートル以下である。展開部320を構成する糸の材料としては、上述した第2の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ200の展開部220と同様の材料を使用することができる。但し、本実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ300では、糸を撚糸するのではなく、複数本の糸を互いに並行に配置して展開部320を構成する。そのため、当該糸の太さ(すなわち、並置体を形成する前の1本の糸の太さ)は、直径200ミクロンメートル以下が好ましく、より好ましくは100ミクロンメートル以下である。
【0059】
図3に示すイムノクロマトテストストリップ300では、標識分子340は、並置された状態の糸(並置体326)に対して、標識分子(マーカー抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで配置することができる。また、判定部350も同様に、並置体326に対して、捕捉分子(捕捉抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで形成することができる。
【0060】
なお、上記以外の、展開部320、標識分子340、および判定部350に関する特徴については、第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100の展開部120、標識分子140、および判定部150と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0061】
また、吸収パッド330を含め、その他の任意的な構成要素については、第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100について上述したのと同様である。
図3に示すイムノクロマトテストストリップ300は、展開部320において、判定部350よりも下流側に、コントロール部360が設けられている態様であり、その形成法としては、判定部350と同様に、並置体326に対して、標識分子340を捕捉する分子(コントロール抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布すれば良い。
【0062】
<第4の実施形態>
図4は、実施態様4の展開部を備える本発明の第4の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成を示す模式斜視図である。
【0063】
図4に示すイムノクロマトテストストリップ400は、支持体470に形成されたマイクロ流路480を備え、マイクロ流路480内において、検査対象液の展開方向(
図4において矢印Dで示す方向)の上流から下流に向かって、検査対象液導入部410、展開部420、および吸収パッド430を備える。ここで、検査対象液導入部410および吸収パッド430としては、
図1を参照して説明した第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100の検査対象液導入部110および吸収パッド130と同様の構成を採用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0064】
支持体470の材料としては、金属(アルミニウム、銅、ステンレスなどの合金)、ガラス、プラスチック(ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなど)、およびポリジメチルシロキサンなどの含ケイ素ポリマーを使用することができ、好ましくは金属、ガラス、ポリシクロオレフィン、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサンである。
【0065】
支持体470にマイクロ流路480を形成する方法としてはいかなるものでも良い。例えば、マイクロ流路480は、切削によって形成されていても良く、型押し(インプリント)で形成されていても良く、エッチングによって形成されていても良い。
【0066】
マイクロ流路480の幅方向(検査対象液の展開方向Dに直交する方向)の大きさ、および、深さ(支持体470の上面からマイクロ流路480の底面までの距離)は、1ミリメートル以下であり、好ましくは500ミクロンメートル以下であり、より好ましくは200ミクロンメートル以下であり、最も好ましくは100ミクロンメートル以下である。
【0067】
マイクロ流路480は、その底面または側面の一部または全部が表面処理されており、当該表面処理された部分の水の接触角が50度以下とされている。当該表面処理の方法はいかなるものでも良い。例えば、マイクロ流路480の所要の部分に大気圧プラズマ処理(コロナ放電やグロー放電も含む)を行うことで、当該処理が施された部分の水の接触角を低下させ、50度以下となるようにすることができる。別の方法としては、マイクロ流路480の所要の部分に、支持体470とは異なる材料(化合物)を塗布することで、当該材料を塗布した部分の水の接触角を低下させ、50度以下となるようにすることができる。後者の場合において、塗布する材料としては、例えば、エステル部分にヒドロキシル基、アルコキシ基、メトキシエトキシ基などのアルコキシアルコキシ基、アンモニウム基、スルホニル基、ホルホリル基などを有するポリアクリル酸またはポリメタクリル酸を挙げることができる。具体的には、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメトキシエトキシアクリレート、ポリエトキシメトキシアクリレートなどである。あるいは、国際公開第2014/038674号に記載されるように、様々な界面活性剤やアルコール類、糖類をマイクロ流路480の所要の部分に塗布したうえで、大気圧プラズマまたは電子線の照射によってそれらを重合させることで、当該部分の水の接触角を低下させ、50度以下となるようにすることも可能である。さらには、上述したようなアクリル酸またはメタクリル酸のポリマー材料を塗布することに代えて、マイクロ流路480の所要の部分にモノマー材料を適用し、グラフト重合させることによって当該アクリル酸またはメタクリル酸のポリマーを当該部分に形成(成膜)させる方法を採用することも可能である。
【0068】
展開部420は、マイクロ流路480の一部分で構成されており、幅方向の大きさwは、上述したマイクロ流路480の幅の大きさと等しいことが意図される。すなわち、
図4に示すイムノクロマトテストストリップ400では、展開部420の幅方向の大きさwは、1ミリメートル以下である。
【0069】
図4に示すイムノクロマトテストストリップ400では、標識分子440は、展開部420を構成するマイクロ流路480に対して、標識分子(マーカー抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで配置することができる。また、判定部450も同様に、展開部420を構成するマイクロ流路480に対して、捕捉分子(捕捉抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布することで形成することができる。
【0070】
なお、吸収パッド430を含め、その他の任意的な構成要素については、第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100について上述したのと同様である。
図4に示すイムノクロマトテストストリップ400は、展開部420において、判定部450よりも下流側に、コントロール部460が設けられている態様であり、その形成法としては、判定部450と同様に、展開部420を構成するマイクロ流路480に対して、標識分子440を捕捉する分子(コントロール抗体)を含む溶液を所定の位置に塗布すれば良い。
【0071】
<第5の実施形態>
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、実施態様5の展開部を備える本発明の第5の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成例を示す模式斜視図である。
【0072】
図5Aに示すイムノクロマトテストストリップ500は、支持体570に形成されたマイクロ流路580を備え、マイクロ流路580内に、
図1を参照して説明した第1の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100と同様の構成を有する構造体が収容されている。一方、
図5Bに示すイムノクロマトテストストリップ502は、支持体570に形成されたマイクロ流路580を備え、マイクロ流路580内に、
図2を参照して説明した第2の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ200と同様の構成を有する構造体が収容されている。なお、本実施形態のマイクロ流路580内に、
図3を参照して説明した第3の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ300と同様の構成を有する構造体が収容されている構成例については、図示を省略した。
【0073】
ここで、支持体570およびマイクロ流路580としては、
図4を参照して説明した第4の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ400の支持体470およびマイクロ流路480と同様の構成を採用することができる。但し、本実施形態においては、第4の実施形態に関して説明した表面処理は必須ではない点に留意されたい。第4の実施形態とは異なり、本実施形態のマイクロ流路580は、上述した実施態様1~3のいずれかの展開部を有する構造体(すなわち、イムノクロマトテストストリップ100、200、300のいずれか)が収容される収容器としての役割を果たし、当該収容された構造体における展開部(すなわち、展開部120、220、320のいずれか)が、本実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの展開部520として機能するからである。そのため、支持体570にマイクロ流路580を形成する際には、収容する構造体の大きさを考慮して、マイクロ流路580全体の大きさを設定する。
【0074】
第1~第3の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ100、200、300は、実用において、テストストリップ全体の物理的強度に劣る場合があり得るが、本実施形態のイムノクロマトテストストリップの構成を採用することにより、テストストリップ全体の物理的強度を確保することができる。また、上述した任意的な構成要素としてのハウジングを設けることが好ましくないような場合には、本実施形態のイムノクロマトテストストリップの構成を採用することにより、テストストリップ全体のハンドリング性を高めることもできる。加えて、本実施形態のイムノクロマトテストストリップでは、マイクロ流路580の上面(支持体570においてマイクロ流路580が形成されている面)を開放可能にすることも容易であるので、テストストリップの用途に応じて、マイクロ流路580に収容する構造体を交換可能とする、すなわち、1つの支持体570を用いて複数の構造体に関する検査を行うことも可能である。
【0075】
<第6の実施形態>
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、実施態様6の展開部を備える本発明の第6の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの構成例を示す模式斜視図である。
【0076】
図6Aに示すイムノクロマトテストストリップ600は、支持体670に形成されたマイクロ流路680を備え、マイクロ流路680内に、微粒子690が充填されている。これにより、イムノクロマトテストストリップ600では、微粒子690の表面を伝って検査対象液が移動可能に構成されている。これに対して、
図6Bに示すイムノクロマトテストストリップ602は、支持体670に形成されたマイクロ流路680を備え、マイクロ流路680の底面に、複数の凸部692が設けられている。これにより、イムノクロマトテストストリップ602では、凸部692の表面を伝って検査対象液が移動可能に構成されている。
【0077】
ここで、支持体670およびマイクロ流路680としては、
図4を参照して説明した第4の実施形態に係るイムノクロマトテストストリップ400の支持体470およびマイクロ流路480と同様の構成を採用することができる。但し、本実施形態においては、第4の実施形態に関して説明した表面処理は必須ではない点に留意されたい。第4の実施形態とは異なり、
図6Aに示すイムノクロマトテストストリップ600では、マイクロ流路680は、微粒子690が収容(充填)される収容器としての役割を果たし、検査対象液は、主として微粒子690の表面を伝って展開または流動し、そのような展開または流動が生じ得る微粒子690の一群が、本実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの展開部620の要部として機能するからである。また、
図6Bに示すイムノクロマトテストストリップ602では、マイクロ流路680は、その底面に複数の凸部692が設けられており、検査対象液は、主として凸部692の表面を伝って展開または流動し、そのような展開または流動が生じ得る凸部692の一群が、本実施形態に係るイムノクロマトテストストリップの展開部620の要部として機能するからである。もちろん、イムノクロマトテストストリップ600,602において、マイクロ流路680の底面または側面と微粒子690の表面または凸部692の表面を伝って検査対象液が展開または流動することも可能であるので、必要に応じて上述した表面処理を行っても良い。
【0078】
微粒子690としては、シリカゲル、アルミナ、あるいは有機ポリマービーズ等の微粒子を好ましく用いることができる。微粒子690のサイズは、マイクロ流路680の幅方向(検査対象液の展開方向Dに直交する方向)の大きさの1/3以下が好ましい。具体的には、微粒子690の直径が30ミクロンメートル以下であることが好ましく、より好ましくは10ミクロンメートル以下である。微粒子690の表面には、検査対象液の展開または流動を促すため、または検査対象物の種類に応じてタンパク質の非特異吸着を低減するための表面処理が施されていても良い。
【0079】
凸部692の形状としては特に限定されず、
図6Bに示すような側面視(検査対象液の展開方向Dに直交する方向から見た場合)で略円形(略楕円形)の形状であっても良く、略長方形、または略円錐形の形状であっても良い。また、凸部692の数、および間隔なども、適宜設計することができる。なお、国際公開第2015/062233号に開示されているようなブレード構造を採用することも、好ましい態様の一例として挙げられる。
【0080】
[イムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法]
次に、本発明のイムノクロマトテストストリップを用いる、イムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法について説明する。
【0081】
上述したように、本発明のイムノクロマトテストストリップは、専ら標識物質を検出可能な検査装置によって判定部の状態が検査される。すなわち、本発明に係るイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法は、目視による読み取りを検査手段として想定せず、目視に依らず検査対象物を検出する方法である。具体的には、本発明に係るイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法は、走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置または蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置によって本発明のイムノクロマトテストストリップの判定部の状態を検査することを含む。
【0082】
走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置による検査としては、例えば、検査装置に備えられた電子銃から発せられた電子線をイムノクロマトテストストリップの判定部に照射し、そこで発生する反射電子または二次電子をディテクターで検知することにより、画像情報として、標識分子(マーカー抗体)に担持された標識物質(この場合には金属微粒子が意図される)を観測することが挙げられる。このような検査手法は、非特許文献1に記載の手法を参照することができる。
【0083】
蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置による検査としては、例えば、標識物質として蛍光色素を含む微粒子が担持された標識分子(マーカー抗体)を用いる態様において、検査装置に備えられた光照射手段等から発せられたレーザー光などをイムノクロマトテストストリップの判定部に照射し、そこで発生する蛍光を光学ディテクターで検知することが挙げられる。但し、当該態様で用いる蛍光色素が金属元素(好ましくは周期律表においてカルシウムよりも原子番号が大きいもの)である場合には、蛍光顕微鏡の原理を用いた検査装置に代えて、もしくはそれと併用して、走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置による検査を行うことも好ましい。
【0084】
本発明に係るイムノクロマトグラフ法による検査対象物検出方法においては、検査装置(例えば、上述した走査型電子顕微鏡の原理を用いた検査装置)によって取得される画像の鮮明さを向上させる目的で、検査用補助液を適用することも好ましい。この場合、当該補助液は、検査装置によってイムノクロマトテストストリップの判定部の状態を検査する前に適用される。具体的には、イムノクロマトテストストリップの検査対象液導入部に、検査対象液と当該補助液を同時に適用することでも良いし、検査対象液を少なくともイムノクロマトテストストリップの判定部まで展開または流動させた後に、当該補助液を判定部に適用することでも良いし、これらを組み合わせても良い。
【0085】
検査用補助液は、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の界面活性性化合物を含むものであることが好ましい。また、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなるものが好ましい。
【0086】
グリセリンは3価のアルコール(いわゆる多価アルコール)であり、水酸基を分子内に有し、低蒸気圧物質である。また、グリセリンは粘性を有している。これらの特徴を有する物質は、グリセリンの代替成分として上記補助液に含めることができる。具体的には、グリセリン代替物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、トリグリセリド、ポリレゾルシノール、ポリフェノール、タンニン酸、ウルシオール、サポニンなどが挙げられる。グリセリンおよびグリセリン代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0087】
本明細書において、「ポリソルベート類」とは、ソルビタン脂肪酸エステル(非イオン性界面活性剤)にエチレンオキシドを反応させて作製されたものを意図する。現在一般に入手可能なポリソルベート類としては、ポリソルベート20(Tween 20)、ポリソルベート40(Tween 40)、ポリソルベート60(Tween 60)、ポリソルベート65(Tween 65)、ポリソルベート80(Tween 80)、ポリソルベート85(Tween 85)が挙げられるが、上記補助液に含めることができるポリソルベート類はこれらに限定されない。また、ポリソルベート類と同様に非イオン性界面活性剤に分類される物質は、ポリソルベート類の代替成分として上記補助液に含めることができる。具体的には、ポリソルベート類代替物としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。ポリソルベート類およびポリソルベート類代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0088】
単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトースなどが挙げられる。
二糖類としては、例えば、スクロース、トレハロースなどが挙げられる。
塩類としては、例えば、例えば、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類、ピペリジニウム塩類、ピロリジニウム塩類、四級アンモニウム塩類などが挙げられる。
緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液(酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液)、リン酸緩衝液(リン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸緩衝液(クエン酸・クエン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸リン酸緩衝液(クエン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。
これらの単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0089】
グリセリン、グリセリン代替物、ポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる必須成分は、上記補助液中に0.01重量パーセントから10重量パーセント含む態様が好ましく、0.01重量パーセントから2重量パーセント含む態様がより好ましい。
【0090】
[イムノクロマトテストキット]
本発明のイムノクロマトテストキットは、上述した本発明のイムノクロマトテストストリップを構成要素に含んでなる。
【0091】
本発明のイムノクロマトテストキットは、上記イムノクロマトテストストリップに加え、上述した検査用補助液をさらに構成要素に含んでいてもよい。なお、当該補助液の特徴および具体的な組成などについては上述した通りであるので、詳細な説明は省略する。
【0092】
また、本発明のイムノクロマトテストキットは、上記補助液とは別個に、検査対象液を調製するための液体(抽出液)などを構成要素に含んでいてもよい。加えて、本発明のイムノクロマトテストキットは、上記イムノクロマトテストストリップ、検査用補助液などを使用するための使用説明書を構成要素に含んでいてもよい。当該使用説明書は、パッケージ挿入物、パッケージラベルを含み、特に限定されないが、例えば、添付文書、処方情報(Prescribing Information)、および、リーフレット(Leaflet)などが挙げられる。当該使用説明書は、紙媒体で提供されてもよく、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【実施例0093】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に制限されるものではない。
【0094】
[実施例1]
(試料の準備)
市販のイムノクロマトテストストリップ「アレルゲンアイ イムノクロマト(そば)」(プリマハム株式会社製、以下では便宜的に「アレルゲンアイ」とも称する。)を、メンブレンの幅が1ミリメートルになるように細断して、本発明の第1の実施形態の構成を具備するイムノクロマトテストストリップ(以下、「試料1のテストストリップ」と称する。)を得た。また、検査対象液(陽性コントロール液)として、市販の乾麺そばを微量粉砕して純水に懸濁させた溶液を調製した。
【0095】
(比較実験)
比較試料として、上記テストストリップ「アレルゲンアイ」を、そのままの形態で使用し、100マイクロリットルの検査対象液をサンプルパッドに滴下して展開させたところ、目視により判定ラインに赤紫色の着色が生じたことから、このテストストリップを用いてそばタンパク質を検査対象物とする検査ができることが確認された(
図9(a)の写真画像参照)。
【0096】
また、上記の赤紫色の着色が生じた判定ライン部分のうち上流側の任意の場所を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製;卓上電子顕微鏡TM-4000)を用いて観察したところ、標識物質である金属ナノ粒子を確認することができた(
図9(b)の写真画像参照。観察倍率は5000倍であった。)。さらに、この写真画像に対して画像処理ソフトウエア(Multi image tool、株式会社システムインフロンティア製)を用いて画像中の金属ナノ粒子を抽出し、個数を数えたところ、388個との結果が得られた。
【0097】
これに対して、検査対象液を2000倍に希釈して、上記と同様に、そのままの形態でテストストリップ「アレルゲンアイ」にて展開させたところ、判定ラインの目視による読み取りは困難であり、陽性判定することはできなかった(
図10(a)の写真画像参照)。ここで、
図10(a)において、上段の写真画像は、
図9(a)の写真画像を得た条件で得られたものであり、下段の写真画像は、検査対象液を2000倍に希釈した条件で得られたものである。
【0098】
また、検査対象液を2000倍に希釈した条件で得られた判定ライン部分のうち上流側の任意の場所を、上記と同様に、走査型電子顕微鏡で観察した(
図10(b)の写真画像参照。観察倍率は5000倍であった。)。さらに、この写真画像に対して、上記と同様に、画像処理ソフトウエアを用いて画像中の金属ナノ粒子を抽出し、個数を数えたところ、16個との結果が得られた。
【0099】
次に、試料1のテストストリップを用いて、上記検査対象液を2000倍に希釈した条件で、そばタンパク質を検査対象物とする検査を行った。
【0100】
図11(a)は、本実施例で作製した試料1のテストストリップの外観を示す写真画像である。
図11(a)に示すように、比較試料のメンブレン(幅方向の大きさy:6ミリメートル)のうち、サンプルパッドの右端からコントロールラインの右端までの範囲において、幅方向の両端から内側にそれぞれ2.5ミリメートルの部分を切り取ることで、1ミリメートルの幅wを有する展開部を備えたテストストリップを得た。ここで、作製した試料1のテストストリップの平面視での寸法(符号は
図1を参照。)は以下の通りであった。
・全長(検査対象液導入部110の左端から吸収パッド130の右端までの長さ):110ミリメートル
・検査対象液導入部110および吸収パッド130の幅:6ミリメートル
・展開部120の幅w:1ミリメートル
・検査対象液が展開または流動する距離m:11ミリメートル
・判定部150の幅:1ミリメートル
【0101】
上記検査対象液の2000倍希釈液から、100マイクロリットルを試料1のテストストリップの検査対象液導入部(サンプルパッド)に滴下して展開部(メンブレン)を展開させ、判定部(判定ライン部分)のうち上流側の任意の場所を上記と同様に走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、
図11(b)に示すように、標識物質である金属ナノ粒子をはっきりと確認することができた(観察倍率は5000倍であった。)。さらに、この写真画像に対して、上記と同様に、画像処理ソフトウエアを用いて画像中の金属ナノ粒子を抽出し、個数を数えたところ、93個との結果が得られ、上記比較試料を用いた場合よりも有意な感度向上効果が確認された。つまり、試料1と比較試料とで、走査型電子顕微鏡による観察時の倍率は同じであり、観察に供した場所(判定ラインの上流側の場所)にある捕捉抗体の数はほぼ同じであると言えるところ、同じ組成を有する検査対象液を展開させたときに、試料1のテストストリップの方が、当該検査対象液に含まれる微量の検査対象物(そばタンパク質)が効率よく判定ラインに導かれる結果、当該そばタンパク質と捕捉抗体との特異的結合が効果的に生じ、標識物質である金属ナノ粒子の検出数が増加したと考えられる。