(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032030
(43)【公開日】2024-03-11
(54)【発明の名称】工作機械の熱変位量導出方法、制御装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20240304BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135462
(22)【出願日】2022-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100155099
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】水田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】古川 和也
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB01
3C001KB09
3C001TA02
3C001TB10
3C001TC01
3C269AB02
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269CC13
3C269CC19
3C269EF10
3C269MN28
(57)【要約】
【課題】 工作機械及び工作機械の熱変位量導出方法において、より精度よく熱変位量を導出(予測)する。
【解決手段】 工作機械の熱変位量導出方法は、工作機械を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する測定記憶工程と、前記測定記憶工程にて記憶した所定回数分の前記温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ前記工作機械の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、前記熱変位量を導出する導出工程と、を有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する測定記憶工程と、
前記測定記憶工程にて記憶した所定回数分の前記温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ前記工作機械の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、前記熱変位量を導出する導出工程と、
を有する工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項2】
前記導出工程は、前記熱変位量を導出する時点の直近の前記所定回数分の前記温度データを使用して、前記熱変位量を導出する請求項1に記載の工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項3】
前記演算式は、前記熱変位量を、前記工作機械の任意の測定箇所の温度変化量に所定係数を乗算して得た乗算値の総和で表しており、
前記導出工程は、前記所定回数分の前記温度データの平均値を前記測定箇所の温度変化量として使用して前記熱変位量を導出する請求項1または請求項2に記載の工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項4】
前記測定箇所の前記温度変化量は、使用する前記所定回数分の前記温度データを重み付けして算出される請求項3に記載の工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項5】
前記演算式は、
P=K1・ΔTa+K2・ΔTb+… (数1)
であり、
Pは前記熱変位量であり、K*は係数であり、ΔT*は前記工作機械の任意の測定箇所の温度変化量である請求項1に記載の工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項6】
前記測定箇所の温度変化量ΔT*は、
ΔT*=(α1/n)・T*(1)+(α2/n)・T*(2)+…+(αn/n)・T*(n)
(数2)
により算出され、
α*/nは重み付け係数であり、T*(n)はn番目に測定した温度変化量であり、nは前記所定回数である請求項5に記載の工作機械の熱変位量導出方法。
【請求項7】
工作機械を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する測定記憶部と、
前記測定記憶部にて記憶した所定回数分の前記温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ前記工作機械の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、前記熱変位量を導出する導出部と、
を有する制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の制御装置を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、工作機械の熱変位量導出方法、制御装置及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の熱変位量導出方法の一形式として、特許文献1には、主軸旋回型多軸工作機械の発熱上の主要部に温度センサを取り付ける過程と、実稼働時の前に、主軸を回転させて、前記温度センサにより前記発熱上の主要部の温度変化およびこの温度変化に伴う変位を測定する過程と、前記温度変化と変位との関係を重回帰分析することにより補正式を得る過程と、実稼働時に得られた温度データを前記補正式に代入して予測変位を求める過程と、前記予測変位をもとに位置補正値を求めてNC装置へ送出する過程と、を備えた多軸工作機械の熱変位補正方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている多軸工作機械の熱変位補正方法において、実稼働時に得られた温度データを、前記温度変化と変位との関係を重回帰分析することにより得られた補正式に代入して予測変位(熱変位量)を求めることができるものの、より精度よく熱変位量を導出(予測)することが要請されている。
【0005】
このような事情に鑑みて、本明細書は、より精度よく熱変位量を導出(予測)することができる工作機械及び工作機械の熱変位量導出方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、工作機械を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する測定記憶工程と、前記測定記憶工程にて記憶した所定回数分の前記温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ前記工作機械の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、前記熱変位量を導出する導出工程と、を有する工作機械の熱変位量導出方法を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、熱変位量を導出する演算式のパラメータである温度データとして、所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、比較的高精度にて(より精度よく)熱変位量を導出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械が適用された複合加工機1の内部を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す複合加工機1の内部を示す側面図である。
【
図3】
図1に示す工具主軸装置2を示す側面図である。
【
図4】
図1に示す複合加工機1の外観正面図である。
【
図6】
図5に示す制御装置90にて実施されるプログラムを表すフローチャートである。
【
図7】
図5に示す制御装置90にて実施されるプログラムを表すフローチャートである。
【
図8】
図5に示す制御装置90にて実施されるプログラムを表すフローチャート(ワーク加工サブルーチン)である。
【
図9】
図5に示す制御装置90にて実施されるワークWの加工の実施例1及び比較例1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、工作機械及び工作機械の熱変位量導出方法が適用された複合加工機の一実施形態について説明する。本実施形態の複合加工機1は、NC旋盤とマシニングセンタの両方の機能を持った工作機械である。この複合加工機1は、
図1に示すように、把持したワークWに回転を与える第1ワーク主軸装置3および第2ワーク主軸装置4と、ワークWの加工に対応した複数の工具T(タレット工具)を有する第1タレット装置5および第2タレット装置6が、それぞれ左右対称に配置された対向二軸旋盤に加え、機体中央に旋盤では難しい加工を実行するための工具主軸装置2が設けられている。
【0010】
(複合加工機)
複合加工機1は、ワークWを加工する工作機械(ワーク加工装置)であり、第1ワーク主軸装置3および第2ワーク主軸装置4、第1タレット装置5および第2タレット装置6、工具主軸装置2が一つのベッド7に搭載されている。特に、複合加工機1は、省スペース化を達成することができるようにコンパクトな構成になっている。具体的には、機体前方側に第1ワーク主軸装置3と第2ワーク主軸装置4とが配置され、その後方には第1タレット装置5と第2タレット装置6が配置されている(
図2参照)。そして、複合加工機1は、こうした対向二軸旋盤に加えて第1タレット装置5と第2タレット装置6に挟まれるようにして機体中央に工具主軸装置2が配置されている。
【0011】
(対向二軸旋盤)
第1ワーク主軸装置3および第2ワーク主軸装置4は、主軸の中心線が機体幅方向であって且つ水平になるよう設計されており、その移動方向は主軸と平行なZ軸方向である。第1および第2タレット装置5,6と工具主軸装置2とは、いずれも主軸(Z軸)と直交する機体前後方向と機体上下方向に沿って移動するものである。特に、工具主軸装置2の移動方向が水平なY軸と鉛直なX軸であるのに対し、第1および第2タレット装置5,6の移動方向は、Y軸及びX軸を45度傾けたYL軸(
図2参照)とXL軸である。
【0012】
複合加工機1は、機体前後方向の寸法を抑えるため、ベッド7がスラントベッド構造であり、第1および第2ワーク主軸装置3,4の搭載面が前を低くした前側傾斜面11であり、逆に機体後方側に配置された第1および第2タレット装置5,6の搭載面は後を低くした後側傾斜面12(
図2参照)である。そして、装置全体の配置が前傾になるように、前側傾斜面11は低い位置に形成され、後側傾斜面12は高い位置に形成されている。
【0013】
第1および第2ワーク主軸装置3,4(以下、両装置共通の説明をする場合はワーク主軸装置3,4とする)は同じ構造であり、
図1,
図2に示すように、円筒形状の主軸台22にスピンドルが回転自在に組み込まれ、そこに加工対象であるワークWを把持および解放するチャック機構21が組付けられている。スピンドルにはスピンドルモータ23の回転軸との間にプーリを介してベルトが掛け渡され、チャック機構21に把持されたワークWに対する加工時の位相決めや所定速度での回転が与えられるようになっている。
【0014】
ワーク主軸装置3,4は、主軸台22やスピンドルモータ23が主軸スライド24に搭載され、ベッド7の前側傾斜面11をZ軸方向に沿って移動するようにした駆動機構が設けられている。前側傾斜面11には、Z軸に平行な2本のガイドレール25が固定され、主軸スライド24の下面に固定されたガイドブロック26が摺動可能に噛み合っている。主軸スライド24は、下面が前側傾斜面11の角度に合わせられ、主軸台22およびスピンドルモータ23が、前側傾斜面11から前方側に大きく突き出ないように、上下に搭載されている。尚、
図2に示すように、主軸台22は、主軸台固定用部材(イケール)24aを介して主軸スライド24に設けられている。
【0015】
ワーク主軸装置3,4は、
図1に示すように、ボールネジ機構によってZ軸方向に沿った移動が可能であり、2本のガイドレール25の間にはZ軸に平行なネジ軸27が軸受を介して支持されている。機体幅方向の外側にZ軸サーボモータ28が設けられ、その回転軸がネジ軸27に連結されている。一方、主軸スライド24にはネジ軸27が通ったナット部材が固定され、Z軸サーボモータ28の回転出力により主軸スライド24がZ軸方向に沿って直線移動するよう構成されている。
【0016】
次に、第1タレット装置5および第2タレット装置6(以下、両装置共通の説明をする場合はタレット装置5,6とする)は、複数の工具Tの中から該当する工具Tを旋回割出しによって選択し、ワークWに対する切削など所定の加工を行うものである。工具Tは、本実施形態では、バイト、ドリルなどの切削工具であり、ワークWを加工する加工工具の一種である。タレット装置5,6は、
図1,
図2に示すように、円盤状のタレット31に複数の工具Tが円周方向に沿って等間隔で取り付けられ、割出し用サーボモータ32の回転制御によって、任意の工具Tを円周上の加工位置に位置決めできるよう構成されている。タレット31の工具Tは、バイトやドリルなどの先端が機体幅方向の外側(対になっているワーク主軸装置)を向いて取り付けられている。従って、加工時には、ワーク主軸装置3,4がZ軸方向に沿って移動することにより、Z軸方向に沿って移動するワークWに対して工具Tが機体中央側から当てられることになる。
【0017】
タレット装置5,6は、
図2に示すように、工具Tを加工位置へと移動させるため、タレット31をZ軸に直交するXY平面上であって、水平方向および鉛直方向に対して45度の角度をもったYL軸方向とXL軸方向に沿って移動させるようにした駆動機構が設けられている。ベッド7にはYL軸に平行な後側傾斜面12が形成され、そこにYL軸ガイドレール33が固定されている。断面略三角形状のベーススライド(Ytコラムと称してもよい。)34は、その一面にYL軸ガイドレール33を摺動するガイド部35が設けられ、90度で隣り合う面がタレット31の搭載面であり、そこにはXL軸ガイドレール36が設けられている。タレットスライド37は、そのガイド部40がXL軸ガイドレール36に対して摺動可能に噛み合っている。尚、タレット31は、ベーススライド34に設けられたタレットボックス31aに回転自在に支持されている。
【0018】
ベーススライド34とタレットスライド37にはボールネジ機構が設けられている。YL軸ガイドレール33とXL軸ガイドレール36とのそれぞれに平行なネジ軸が軸受によって支持され、そのネジ軸がベーススライド34やタレットスライド37に固定されたナット部材を通っている。各々のネジ軸はYL軸サーボモータ38またはXL軸サーボモータ39の回転軸に連結されている。従って、タレット装置5,6は、YL軸サーボモータ38とXL軸サーボモータ39の駆動制御によってタレット31のYL軸およびXL軸の各方向に沿った移動制御のほか、両軸方向の移動を合成した水平方向に沿った移動制御が可能になっている。尚、XL軸サーボモータ39は、モータブラケット39aを介してタレットスライド37に固定されている。
【0019】
(工具主軸装置)
工具主軸装置2は、タレット装置5,6ではできない深さや角度でのワーク加工を可能にするものである。工具主軸装置2は、
図3に示すように、主軸ヘッド41内に主軸用サーボモータ41a(
図5参照)や工具スピンドルが内蔵され、その下端部に設けられた工具装着部に対して、自動工具交換装置8(
図4参照)に収められた様々な工具T(主軸ヘッド工具)の取り替えが行われるようになっている。
図3に示すように、主軸ヘッド41は、主軸スライド42に対して回転可能に取り付けられ、回転伝達機構を介してB軸モータ43の回転が伝達されるよう構成されている。
【0020】
工具主軸装置2は、工具Tを加工位置へと移動させるため、主軸ヘッド41を水平なY軸方向と鉛直なX軸方向に沿って移動させるようにした駆動機構が設けられている。ベッド7(工具主軸装置搭載面13)上に水平なガイドレール44が固定され、ベーススライド45のガイド部46が摺動可能に噛み合っている。ベーススライド45には、前側に鉛直な(X軸方向に沿って延びる)ガイドレール51が構成され、そこに主軸スライド42のガイド部47が摺動可能に噛み合っている。ベーススライド45と主軸スライド42は、ともにボールネジ機構が設けられている。各方向のネジ軸がベーススライド45または主軸スライド42に固定されたナット部材を通り、Y軸サーボモータ48またはX軸サーボモータ49が連結されている。尚、X軸サーボモータ49は、モータブラケット49aを介してベーススライド45の上端部に固定されている。
【0021】
複合加工機1は、第1ワーク主軸装置3と第2ワーク主軸装置4で同時にワークWを加工するほか、工具主軸装置2における工具交換も行うことが可能である。そのため、
図1に示すように、各装置がクーラントや切屑などの影響を受けないように、2枚の分離シャッタ15が設けられている。分離シャッタ15は、工具主軸装置2の幅方向両側に配置され、駆動機構によって機体前後方向に沿って水平移動するよう構成されたものである。複合加工機1は、この分離シャッタ15によって、第1ワーク主軸装置3と第1タレット装置5による第1加工室10Aと、第2ワーク主軸装置4と第2タレット装置6による第2加工室10Bと、工具主軸装置2に対して行われる工具交換室10Cとに分けることができる。なお、一方の分離シャッタ15だけを閉じることにより、工具交換室10Cを含めた空間を第1加工室10Aまたは第2加工室10Bとすることもできる。
【0022】
さらに、複合加工機1は、
図4に示すように、ベッド7上の第1ワーク主軸装置3などのほか、機体カバー100、自動工具交換装置8、ワーク自動搬送装置9、制御装置90などを備えている。工具主軸装置2、ワーク主軸装置3,4、タレット装置5,6、自動工具交換装置8、ワーク自動搬送装置9、制御装置90などは、機体カバー100によって覆われている。ガントリ式のワーク自動搬送装置9は、機体カバー100から上方に突き出すようにして設けられ、機体の内部では把持したワークWを3軸方向に沿って移動させるよう構成されている。機体正面には中央に操作盤110が設けられ、その左右両側には左正面扉151と右正面扉152とが形成されている。操作盤110の奥には工具主軸装置2が位置し、左正面扉151と右正面扉152の奥には第1および第2加工室10A,10Bがある。そして、自動工具交換装置8は、そのツールマガジンが機体前面の左右正面扉151,152よりも前方に突き出すようにして配置され、マガジンカバー153によって覆われている。
【0023】
(温度センサ)
複合加工機1は、多数の温度センサTH11~TH16,TH21~TH26,TH31~TH35を備えている。温度センサTH11~TH16は、第1温度センサ群TH10(
図5参照)と称してもよく、ワーク主軸装置3,4に設けられた温度センサである(
図1参照)。本実施形態では、ワーク主軸装置4の温度センサTH11~TH16を表示し、ワーク主軸装置3の温度センサを省略している。
【0024】
温度センサTH21~TH26は、第2温度センサ群TH20(
図5参照)と称してもよく、タレット装置5,6に設けられた温度センサである(
図1及び
図2参照)。本実施形態では、タレット装置6の温度センサTH21~TH26を表示し、タレット装置5の温度センサを省略している。温度センサTH31~TH35は、第3温度センサ群TH30(
図5参照)と称してもよく、工具主軸装置2に設けられた温度センサである(
図3参照)。
【0025】
温度センサTH11は、主軸スライド24の下部後部(
図1にて右下部)に設けられ、主軸スライド24の下部後部の温度を検出する。温度センサTH12は、主軸台固定用部材(イケール)24aの下部前部(
図1にて左下部)に設けられ、主軸台固定用部材24aの下部前部の温度を検出する。温度センサTH13は、主軸台固定用部材24aの下部後部(
図1にて右下部)に設けられ、主軸台固定用部材24aの下部後部の温度を検出する。温度センサTH14は、主軸台固定用部材24aの上下方向中間部に設けられ、主軸台固定用部材24aの中間部の温度を検出する。温度センサTH15は、主軸台22の前側ベアリング部(
図1にて左側のベアリング部)に設けられ、主軸台22の前側ベアリング部の温度を検出する。温度センサTH16は、主軸台22の後側ベアリング部(
図1にて右側のベアリング部)に設けられ、主軸台22の後側ベアリング部の温度を検出する。
【0026】
第1温度センサ群TH10は、ワーク主軸装置3,4に関する温度センサであり、ワーク主軸装置3,4に関する温度を検出する。温度センサTH11~TH16の各検出結果は、制御装置90に出力されている。
【0027】
温度センサTH21は、
図2に示すように、ベッド7の後側傾斜面12の下端部(ベッド下)に設けられ、ベッド7の後側傾斜面12の下端部の温度を検出する。温度センサTH22は、ベッド7の後側傾斜面12の上端部(ベッド上)に設けられ、ベッド7の後側傾斜面12の上端部の温度を検出する。温度センサTH23は、ベーススライド34のタレット搭載面の下端部(Ytコラムの下前部)に設けられ、ベーススライド34のタレット搭載面の下端部の温度を検出する。温度センサTH24は、ベーススライド34のタレット搭載面の上端部(Ytコラムの上端部)に設けられ、ベーススライド34のタレット搭載面の上端部の温度を検出する。温度センサTH25は、XL軸サーボモータ39をタレットスライド37に固定するためのモータブラケット39aの下端部に設けられ、モータブラケット39aの下端部(タレットスライド37の上端部)の温度を検出する。温度センサTH26は、
図1に示すように、タレットボックス31aに設けられ、タレットボックス31aの温度を検出する。
【0028】
第2温度センサ群TH20は、タレット装置5,6に関する温度センサであり、タレット装置5,6に関する温度を検出する。温度センサTH21~TH26の各検出結果は、制御装置90に出力されている。
【0029】
温度センサTH31は、
図3に示すように、ベッド7の工具主軸装置搭載面13の後端部(ベッド後)に設けられ、ベッド7の工具主軸装置搭載面13の後端部の温度を検出する。温度センサTH32は、ベーススライド45の下前部に設けられ、ベーススライド45の下前部の温度を検出する。温度センサTH33は、X軸サーボモータ49をベーススライド45に固定するためのモータブラケット49a(モータブラケット49aの取付部)に設けられ、モータブラケット49aの取付部すなわちベーススライド45の上端部の温度を検出する。温度センサTH34は、主軸スライド42のボールネジ機構のハウジング45aの上端部に設けられ、ハウジング45aの上端部すなわち主軸スライド42のボールネジ機構の温度を検出する。温度センサTH35は、主軸スライド42の下端部に設けられ、主軸スライド42の下端部を検出する。
【0030】
第3温度センサ群TH30は、工具主軸装置2に関する温度センサであり、工具主軸装置2に関する温度を検出する。温度センサTH31~TH35の各検出結果は、制御装置90に出力されている。
【0031】
機械要素は、工作機械を構成する機能部品であり、本実施形態では、工具主軸装置2、ワーク主軸装置3,4、及びタレット装置5,6を構成する各機能部品である。具体的には、工具主軸装置2において、ベッド7、ベーススライド45、モータブラケット49a、主軸スライド42のボールネジ機構、主軸スライド42などが挙げられる。ワーク主軸装置3,4において、主軸スライド24、主軸台固定用部材(イケール)24a、主軸台22の前側ベアリング部、主軸台22の後側ベアリング部などが挙げられる。タレット装置5,6において、ベッド7、ベーススライド34、モータブラケット39a、タレットボックス31aなどが挙げられる。
【0032】
(制御装置)
制御装置90は、工具主軸装置2、ワーク主軸装置3,4、タレット装置5,6、自動工具交換装置8、及びワーク自動搬送装置9を駆動制御する制御装置である。特に、制御装置90は、所定回数分の温度データを、機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ工作機械の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、熱変位量を導出する。制御装置90は、
図5に示すように、入力装置90a、表示装置90b、記憶装置90c、各温度センサTH11~TH16,TH21~TH26,TH31~TH35、各モータ23,28,32,38,39,41a,43,48,49、自動工具交換装置8、及び、ワーク自動搬送装置9に接続されている。
【0033】
入力装置90aは、複合加工機1の前面に設けられており、作業者(ユーザ)が各種設定、各種指示などを制御装置90に入力するためのものである。表示装置90bは、複合加工機1の前面に設けられており、作業者に対して運転状況やメンテナンス状況などの情報を表示するためのものである。記憶装置90cは、複合加工機1の制御に係るデータ、例えば、制御プログラム(加工プログラム)、制御プログラムで使用するパラメータ、各種設定や各種指示に関するデータ、実検出データ、関連付けデータなどを記憶している(記憶部)。特に、記憶装置90cは、上述した機械要素の温度データを記憶する。
【0034】
制御装置90は、マイクロコンピュータ(不図示)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも不図示)を備えている。CPUは、各種プログラムを実施して、入力装置90a、記憶装置90c及び各温度センサTH11~TH16,TH21~TH26,TH31~TH35からデータ、検出信号、制御情報などを取得したり、表示装置90b、各モータ23,28,32,38,39,41a,43,48,49、自動工具交換装置8、及び、ワーク自動搬送装置9を制御したりする。RAMは同プログラムの実施に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0035】
制御装置90は、
図5に示すように、測定記憶部91、導出部92、補正部93、及び加工部94を備えている。測定記憶部91は、複合加工機1(工作機械)を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する。導出部92は、測定記憶部91にて記憶した所定回数分の温度データを、機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ複合加工機1の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、熱変位量を導出する。補正部93は、導出部92にて導出された熱変位量に基づいて、モータ23,28,32,38,39,41a,43,48,49、自動工具交換装置8、及び、ワーク自動搬送装置9などへの制御指令値(指示値)を補正して補正後指令値(指示値)を導出する。加工部94は、補正部93にて導出した補正後指令値により、モータ23,28,32,38,39,41a,43,48,49を制御してワークWを加工する。
【0036】
(ワーク加工)
さらに、上述した工作機械(複合加工機1)におけるワーク加工について
図6に示すフローチャートに沿って説明をする。制御装置90は、自動運転開始の指示があれば、ワーク加工に係る自動運転を開始する。自動運転においては、加工工具によるワークWの加工が加工プログラムに沿って実施される。加工プログラムは、複数の加工グループにグループ分けされている。加工グループは、加工の内容によりグループ分けされている。加工の内容としては、加工工具の種別、加工が実施される加工部位などが挙げられる。加工部位としては、端面加工、内径加工、外径加工などが挙げられる。
【0037】
制御装置90は、自動運転開始の指示があれば、ワーク加工に係る自動運転を開始する。具体的には、ステップS102において、制御装置90は、自動起動スイッチ(不図示)のオン・オフに基づいて自動運転が開始されたか否かを判定する。制御装置90は、自動起動スイッチがオンであれば自動運転が開始されたと判定し(ステップS102にて「YES」)、プログラムをステップS104に進める。一方、制御装置90は、自動起動スイッチがオフであれば自動運転が開始されていないと判定し(ステップS102にて「NO」)、ステップS102の処理を繰り返す。
【0038】
ステップS104において、制御装置90は、ワークWの加工(ワーク加工)を実施する自動運転を実施する。例えば、複合加工機1では、次のような流れによってワークWの加工が行われる。入力側ストッカのワークWがワーク自動搬送装置9によって第1ワーク主軸装置3へと運ばれ、チャック機構21によって把持される。第1タレット装置5では、タレット31の駆動によって選択された工具Tが、YL軸に平行な加工移動線上を移動し、ワークWに対する加工位置に位置決めされる。第1ワーク主軸装置3では、スピンドルモータ23の駆動によりチャック機構21に把持されたワークWが回転し、主軸スライド24がガイドレール25に沿ってZ軸方向に沿って移動することにより、ワークWに対して工具Tが当てられて所定の加工が行われる。
【0039】
第1ワーク主軸装置3におけるワークWの第1加工は、第1タレット装置5による加工のほか、工具主軸装置2を加えた加工、或いは工具主軸装置2のみによる加工が行われる。工具主軸装置2によってワークWの加工が行われる場合には、タレット31が第1ワーク主軸装置3から離れる。工具主軸装置2は、Y軸方向およびX軸方向に沿った移動によって位置決めが行われ、主軸ヘッド41がB軸の回転により工具Tの角度が調整される。
【0040】
次に、第1ワーク主軸装置3から第2ワーク主軸装置4へとワークWを移すため、両装置が機体中央に近づき、先に停止した第1ワーク主軸装置3に対して第2ワーク主軸装置4がワークWを取りにいき、チャック機構21同士によるワークWの掴み替えが行われる。第2ワーク主軸装置4では、第1加工と同様にワークWに対して第2タレット装置6による第2加工が実行され、或いは工具主軸装置2による加工を加え、また、工具主軸装置2のみによる加工が行われる。そして、第2加工が終了したワークWは、ワーク自動搬送装置9によって取り出されて、出力側ストッカに回収される。
【0041】
制御装置90は、加工プログラムが終了するまで、すなわちワーク加工が終了するまで異常が発生しない場合(ステップS106,S108にてそれぞれ「NO」と判定し)、自動運転を継続し、加工プログラムが終了しワーク加工が終了すると(ステップS106にて「YES」と判定し)、本プログラムを終了して自動運転を終了する。
【0042】
一方、制御装置90は、自動運転中(ワーク加工中)に異常が発生した場合に(ステップS106,S108にて「NO」,「YES」と判定し)、自動運転を停止する。具体的には、制御装置90は、ステップS108において、ステップS104によるワーク加工の途中(自動運転中(ワーク加工中))に異常を検出する。例えば、制御装置90は、駆動軸に係る加工負荷の実検出データと、記憶装置90cに記憶されている監視範囲(ティーチングデータ)とを比較し、実検出データが監視範囲外であるか否かを判定することにより、ワークWの加工に関する加工負荷の異常(ワークWの負荷異常)の有無を判定する。例えば、駆動軸に係る加工負荷の実検出データにおいては、ワーク主軸のスピンドルを駆動するためのスピンドルモータ23の駆動電流を検出する電流センサ(不図示)から取得し、その検出電流からスピンドルモータ23の加工負荷(ワーク主軸にかかるトルク負荷(ワーク主軸加工負荷)、Z軸加工負荷、工具主軸加工負荷など)を導出することができる。
【0043】
制御装置90は、実検出データが監視範囲内にある場合には、加工負荷に異常はないと判定し(ステップS108にて「NO」)、一方、実検出データが監視範囲外である場合には、加工負荷に異常がある(即停止異常が発生した旨)と判定し(ステップS108にて「YES」)、プログラムをステップS110に進める。ステップS110において、制御装置90は、自動運転を停止する。
【0044】
さらに、制御装置90は、
図7に示すフローチャートに沿ってプログラムを実施し、自動運転中において、所定の測定箇所の温度を測定・記憶する。制御装置90は、自動起動スイッチがオンであれば自動運転が開始されたと判定し(ステップS202(上述したステップS102と同様の処理)にて「YES」)、プログラムをステップS204に進める。一方、制御装置90は、自動起動スイッチがオフであれば自動運転が開始されていないと判定し(ステップS202にて「NO」)、ステップS202の処理を繰り返す。
【0045】
ステップS204において、制御装置90は、所定の測定箇所にそれぞれ配置されている各温度センサTH11~TH16,TH21~TH26,TH31~TH35を使用して、例えば、所定時間毎、工具Tの加工(使用)タイミング毎などにて、前記所定の測定箇所の温度を測定(入力)し、記憶装置90cに工具T毎に記憶する。すなわち、制御装置90は、ステップS204において、複合加工機1(工作機械)を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する(測定記憶工程)。
【0046】
このように、制御装置90は、加工が終了するまで(ステップS206にて「NO」)、前述した温度の測定・記憶を継続し、加工が終了すると(ステップS206にて「YES」)、本プログラムを終了する。尚、ステップS206は、上述したステップS106と同様な処理である。
【0047】
また、制御装置90は、自動運転中(ワーク加工中)において、
図8に示すフローチャート(ワーク加工サブルーチン)に沿ってプログラムを実施する。具体的には、制御装置90は、ステップS302において、記憶装置90cから加工プログラムを読み込む。すなわち、制御装置90は、読み込んだ加工プログラムに係る加工の内容に関する駆動軸を認識(決定)する。
【0048】
制御装置90は、ステップS304において、先に認識した駆動軸に係る温度データを記憶装置90cから読み込む。そして、制御装置90は、ステップS306において、先に読み込んだ温度データを使用して、先に認識した駆動軸に係る熱変位量を導出する。すなわち、ステップS306において、ステップS204(測定記憶工程)にて記憶した温度データのうち所定回数分の温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ複合加工機1(工作機械)の熱変位量を導出するための演算式に使用することにより、熱変位量Pを導出する(導出工程)。
【0049】
ステップS306において、制御装置90は、上述した導出部92と同様に、熱変位量を導出する時点の直近の所定回数分の温度データを使用して、熱変位量Pを導出する。尚、制御装置90は、熱変位量を導出する時点の直近の所定回数分の温度データに限定されず、所定回数分の温度データを使用すればよく、熱変位量を導出する時点より所定時間前の時点から所定回数分の温度データを使用して、熱変位量Pを導出することも可能である。また、温度データには、検出した検出温度、及び検出温度から導出した温度変化量を含めることが可能である。
【0050】
尚、温度変化量は、温度を測定する毎に、前回測定した温度と今回測定した温度との差として導出して記憶装置90cに記憶してもよい。記憶装置90cには、測定温度だけ記憶してもよく、測定温度と温度変化量の両方を記憶してもよい。
【0051】
制御装置90は、上述した導出工程において下記数1に示す演算式を使用する。
[数1]
P=K1・ΔTa+K2・ΔTb+…
ここで、Pは上述した熱変位量であり、K*は任意の測定箇所の温度変化量に対する係数であり、ΔT*は複合加工機1(工作機械)の任意の測定箇所の温度変化量である。
【0052】
具体的には、第1タレット装置5による加工に係る熱変位量Paを導出する場合には、任意の測定箇所の温度は、第1温度センサ群TH10によって測定された温度、及び第2温度センサ群TH20によって測定された温度が好適である。これは、熱変位量Paは、タレット装置5,6の工具Tとワーク主軸装置3,4のワークWとの間の距離(相対変位量)がこれらに係る機械要素の熱膨張により変動するために発生するからである。熱変位量Paは、温度センサTH11~TH16により測定された温度の変化量及び温度センサTH21~TH26により測定された温度の変化量を使用して導出される。例えば、ΔTaとしては、温度センサTH11によって測定される主軸スライド24の下部後部の温度の変化量が挙げられ、ΔTbとしては、温度センサTH12によって測定される主軸台固定用部材24aの下部前部の温度の変化量が挙げられる。尚、温度センサTH11によって測定される主軸スライド24の下部後部の温度はTaで表され、温度センサTH12によって測定される主軸台固定用部材24aの下部前部の温度はTbで表される。
【0053】
上述した演算式は、工作機械の任意の測定箇所の温度変化量から熱変位量Pを算出できるものであればよく、熱変位量を、工作機械の任意の測定箇所の温度変化量に所定係数を乗算して得た乗算値の総和で表すのが好ましい。
【0054】
上述した導出工程においては、所定回数分の温度変化量の平均値を測定箇所の温度変化量として使用して熱変位量Pを導出するのが好ましい。この場合、温度センサTH11によって測定される主軸スライド24の下部後部の温度Taの温度変化量ΔTaは、具体的には、下記数3により演算することが可能である。
[数3]
ΔTa=(ΔTa(1)+ΔTa(2)+…+ΔTa(n))×(1/n)
ここで、ΔTa(n)はn番目に測定または演算した温度変化量であり、nは所定回数である。尚、他の測定箇所の温度(温度変化量)についても、主軸スライド24の下部後部の温度Ta(温度変化量ΔTa)と同様に、演算することが可能である。
【0055】
よって、所定回数分の温度変化量の平均値を測定箇所の温度変化量として使用する場合には、熱変位量Pは、上記数1に上記数3を代入して算出できる下記数4により導出することが可能である。
[数4]
P=K1×((ΔTa(1)+ΔTa(2)+…+ΔTa(n))×(1/n))
+K2×((ΔTb(1)+ΔTb(2)+…+ΔTb(n))×(1/n))
+・・・
ここで、((ΔTa(1)+ΔTa(2)+…+ΔTa(n))×(1/n))は、温度センサTH11によって測定される主軸スライド24の下部後部の温度Taの温度変化量ΔTaについての所定回数分の温度変化量の平均値であり、((ΔTb(1)+ΔTb(2)+…+ΔTb(n))×(1/n))は、温度センサTH12によって測定される主軸台固定用部材24aの下部前部の温度Tbの温度変化量ΔTbについての所定回数分の温度変化量の平均値である。
【0056】
また、工具主軸装置2による加工に係る熱変位量Pbを導出する場合には、任意の測定箇所の温度は、第1温度センサ群TH10によって測定された温度、及び第2温度センサ群TH20によって測定された温度が好適である。熱変位量Pbも、熱変位量Paと同様に導出することが可能である。
【0057】
さらに、制御装置90は、ステップS308において、上述した補正部93と同様に、先にステップS306にて導出した熱変位量Pを使用して制御指令値を補正する。例えば、制御装置90は、制御指令値に熱変位量Pを加算または減算した値を補正後指令値として導出(演算)する。
【0058】
制御装置90は、ステップS310において、上述した加工部94と同様に、補正後指令値にて駆動軸(モータ23,28,32,38,39,41a,43,48,49)を制御してワークWを加工する。
【実施例0059】
以下に実施例を示し、本実施形態をさらに具体的に説明をする。ただし、本実施形態は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0060】
図9に比較例1、実施例1及び実測値の寸法変化量(熱変位量)を示す。実施例1の制御装置90は、上述した数1によって熱変位量Pを演算し、その演算した熱変位量Pを使用して補正後指令値を演算し、その演算した補正後指令値を使用してワークWを加工する。比較例1の制御装置90は、上述した数1において加工前(または加工直前)の一つの温度変化量(または測定温度)を使用することで熱変位量を演算し、その演算した熱変位量を使用して補正後指令値を演算し、その演算した補正後指令値を使用してワークWを加工する。さらに、実測値(実際の変位量である実変位量)は、熱変位量(工具とワークWの相対変位量)を実際に測定したものである。尚、実測値は、シミュレーションした値でもよい。
【0061】
図9において、実測値を太い実線で示し、実施例1を細い実線で示し、比較例1を細い破線で示す。比較例1は、実測値に対して比較的大きく乖離する場合がある。これに対して、実施例1は、実測値に対して乖離する度合は小さく、かつ、実測値によく追従している。このように、本実施形態によれば、熱変位量を導出する演算式のパラメータである温度データとして、所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、比較的高精度にて(より精度よく)熱変位量を導出することが可能となる。すなわち、測定分解能の低い温度センサを使用する工作機械においても、比較的高精度にて熱変位量を導出(予測)することが可能となり(温度センサの分解能を疑似的に高くすることが可能となり)、ひいては補正誤差(実変位量と誤差)を小さく抑制することが可能となる。よって、高コストを招くことなく、比較的高精度にて熱変位量を導出(予測)し、補正誤差ひいては加工誤差を小さく抑制することが可能となる。
【0062】
尚、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0063】
(本実施形態の作用効果)
上述した実施形態による工作機械の熱変位量導出方法は、複合加工機1(工作機械)を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶するステップS204(測定記憶工程)と、ステップS204にて記憶した所定回数分の温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ複合加工機1の熱変位量Pを導出するための演算式に使用することにより、熱変位量Pを導出するステップS306(導出工程)と、を有する。
【0064】
本実施形態によれば、熱変位量Pを導出する演算式のパラメータである温度データとして、所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、比較的高精度にて(より精度よく)熱変位量Pを導出することが可能となる。
【0065】
また、ステップS306は、熱変位量Pを導出する時点の直近の所定回数分の温度データを使用して、熱変位量Pを導出する。これによれば、熱変位量Pを導出する演算式のパラメータである温度データとして、直近の所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、直近の温度を最も反映することにより、より比較的高精度にて熱変位量Pを導出することが可能となる。
【0066】
また、上記演算式は、熱変位量Pを、複合加工機1の任意の測定箇所の温度変化量に所定係数を乗算して得た乗算値の総和で表しており、ステップS306は、所定回数分の温度データの平均値を測定箇所の温度変化量として使用して熱変位量Pを導出する。これによれば、測定分解能の低い温度センサを使用する複合加工機1においても、比較的高精度にて熱変位量Pを導出(予測)することが可能となり(温度センサの分解能を疑似的に高くすることが可能となり)、ひいては補正誤差(実変位量と誤差)を小さく抑制することが可能となる。
【0067】
また、上記演算式は、
P=K1・ΔTa+K2・ΔTb+… (上記数1)
であり、
Pは熱変位量であり、K*は係数であり、ΔT*は複合加工機1の任意の測定箇所の温度変化量である。これによれば、熱変位量Pを簡便かつ比較的高精度に演算することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態による制御装置90は、複合加工機1を構成する機械要素の温度に係るデータである温度データを測定して記憶する測定記憶部91と、測定記憶部91にて記憶した所定回数分の温度データを、前記機械要素の温度変化量をパラメータとして有しかつ複合加工機1の熱変位量Pを導出するための演算式に使用することにより、熱変位量Pを導出する導出部92と、を有する。これによれば、複合加工機1の制御装置90において、熱変位量Pを導出する演算式のパラメータである温度データとして、所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、比較的高精度にて(より精度よく)熱変位量Pを導出することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態による複合加工機1は、上述した制御装置90を備えている。これによれば、複合加工機1において、熱変位量Pを導出する演算式のパラメータである温度データとして、所定回数分すなわち多数の測定データを使用するため、比較的高精度にて(より精度よく)熱変位量Pを導出することが可能となる。
【0070】
尚、上述した実施形態においては、複合加工機1(工作機械)の任意の測定箇所の温度変化量として、所定回数分の温度変化量の平均値を採用するようにしたが、これに限定されず、使用する所定回数分の温度データを重み付けして算出するようにしてもよい。具体的には、測定箇所の温度変化量ΔT*は、下記数2により算出することが可能である。
[数2]
ΔT*=(α1/n)・T*(1)+(α2/n)・T*(2)+…+(αn/n)・T*(n)
ここで、α*/nは重み付け係数であり、α1/n+α2/n+…+(αn/n)=1であり、T*(n)はn番目に測定した温度変化量であり、nは所定回数である。
【0071】
このように、測定箇所の温度変化量ΔTa,ΔTbなどは、使用する所定回数分の温度データを重み付けして算出される。これによれば、重み付けを任意に設定(変更)することにより、フィードバック的またはフィードフォワード的などの所望の熱変位量Pを導出することが可能となる。
【0072】
また、上述した実施形態においては、加工工具として切削工具を使用するようにしたが、ワークWを加工する他の加工工具を使用するようにしてもよい。また、工作機械として、複合加工機1を採用することとしたが、これに限定されず、ワークWを加工する装置であればよく、単なる旋盤加工装置、マシニングセンタを採用するようにしてもよい。
【0073】
尚、本明細書では、請求項5において「請求項1に記載の工作機械の熱変位量導出方法」を「請求項1から請求項4の何れか1項に記載の工作機械の熱変位量導出方法」に変更した技術思想も開示されている。
1…複合加工機(工作機械)、90…制御装置、91…測定記憶部、92…導出部、K*…係数、n…所定回数、P…熱変位量、S204…ステップS204(測定記憶工程)、S306…ステップS306(導出工程)、T…工具加工(工具)、T*(n)…n番目に測定した温度変化量、W…ワーク、α*/n…重み付け係数、ΔT*…複合加工機1の任意の測定箇所の温度変化量。