(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032070
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B21D22/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135509
(22)【出願日】2022-08-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 栄治
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137BA01
4E137BB01
4E137CA09
4E137CB01
4E137GA08
4E137GB01
(57)【要約】
【課題】ブランクの形状変動による影響を低減するプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品の製造方法は、基準プレス成形品形状5を取得する基準プレス成形品形状取得ステップと、波形状ブランクプレス成形品形状9を取得する波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、基準プレス成形品形状5と波形状ブランクプレス成形品形状9の乖離量を求める第1乖離量取得ステップと、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13を取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、基準プレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13の乖離量を求める第2乖離量取得ステップと、要対策部位を特定する要対策部位特定ステップと、実金型に凸パターン23、27を付与する凸パターン付与ステップと、凸パターン23、27を付与した実金型を用いてプレス成形する実プレス成形ステップと、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形したプレス成形品における前記ブランクの形状変動の影響を低減するプレス成形品の製造方法であって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得ステップと、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する波形状ブランクモデルを生成し、該生成した波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を波形状ブランクプレス成形品形状として取得する波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と前記波形状ブランクプレス成形品形状とを比較し、両形状の乖離する部位と乖離量とを求める第1乖離量取得ステップと、
前記波形状ブランクモデルにおける波形状とは振幅と波長が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類または複数種類生成し、該生成した周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と一種類または複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較し、両形状の乖離する部位と乖離量とを求める第2乖離量取得ステップと、
前記第1乖離量取得ステップで閾値を超える乖離量が生じた部位および前記第2乖離量取得ステップで閾値を超える乖離量が生じた部位に相当する前記プレス成形品の部位を要対策部位として特定する要対策部位特定ステップと、
前記プレス成形品を成形する実金型の上金型及び下金型において、前記要対策部位、または、前記要対策部位とその周囲を成形する部位に凸パターンを付与する凸パターン付与ステップと、
前記凸パターンを付与した上金型及び下金型を用いて、前記ブランクをプレス成形する実プレス成形ステップと、を備えたことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得し、
前記第2乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記凸パターンは、平面又は湾曲面上に所定間隔で形成された複数の凸部によって構成され、前記凸部の縦および横の長さAが3mm以上50mm以下、隣接する凸部間の距離が1.2A以上2.0A以下に設定されており、
前記凸パターン付与ステップは、前記凸パターンを前記上金型および前記下金型に、上金型の凸部が下金型の平面又は湾曲面に対向し、下金型の凸部が上金型の平面又は湾曲面に対向する配置となるように付与し、
前記実プレス成形ステップは、板厚t(mm)の前記ブランクを成形する場合の成形下死点における前記上金型の前記凸部の下面と前記下金型の前記凸部の上面との距離が0.1t以上0.5t以下になるようにプレス成形することを特徴とする請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形したプレス成形品における前記ブランクの形状変動の影響を低減するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により自動車車体の衝突安全性の向上が進展する中で、昨今の二酸化炭素排出規制を受けて自動車の燃費向上を図るため、車体の軽量化も必要とされている。これら衝突安全性能と車体の軽量化を両立するために、従来に比べてさらに高強度な金属板が車体に採用されつつある。
【0003】
従来から、プレス成形品を得るためのブランクを採取する実際の金属板は、完全に平坦なものはなく、波形状(形状変動)を有している。
したがって、金属板から採取した実際のブランクもまた、必ずしも平坦であるとは限らず、形状変動を有する場合がある。
【0004】
このような形状変動を有する金属板をブランクとして用いて、車体部品にプレス成形した場合、プレス成形後に得られたプレス成形品は、その形状変動が影響して、目標となる寸法精度から外れることが危惧される。
【0005】
プレス成形した後のプレス成形品について、目標となる寸法精度から外れたものを選別する技術として、例えば特許文献1、2が開示されている。
また、プレス成形金型の表面に凹凸を付与する手段を講じるものとしては、特許文献3、4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-047504号公報
【特許文献2】特開2019-002834号公報
【特許文献3】特開2020-127959号公報
【特許文献4】特開平3-077728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または特許文献2に開示の技術は、プレス成形後のプレス成形品同士の形状を比較し、寸法精度の不良な部位を特定するものであって、プレス成形前のブランクの形状変動により、プレス成形品のどの部位がブランクの形状変動による影響を受けやすいかを特定することが行われておらず、対策を講じることが難しかった。
【0008】
さらに、プレス成形に用いるブランクは、鋼板などの金属板から打ち抜きやせん断によって採取される。したがって、形状変動のある金属板から複数のブランクを採取すると、採取位置が異なることで、同じ金属板から採取したブランクであっても、個々のブランクで凹凸を呈する部位が異なる。
したがって、ブランクの形状変動による影響を低減するには、個々のブランクの形状変動に相違があることも考慮して対策を講じる必要がある。
【0009】
特許文献3の技術は、金型表面に凹凸を付与することでプレス成形中に金型とブランクの間に油を保持し、金型とブランクの間の摩擦を抑制して成形を容易にするものである。また、特許文献4の技術は、金型表面に凹凸を付与することで、意匠性の高い金属板を製造できるようにしたものである。したがって、特許文献3、4に開示の技術は、本発明が目的とするブランクの形状変動による影響を低減するものではない。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形したプレス成形品におけるブランクの形状変動の影響を低減するプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形したプレス成形品における前記ブランクの形状変動の影響を低減する方法であって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得ステップと、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する波形状ブランクモデルを生成し、該生成した波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を波形状ブランクプレス成形品形状として取得する波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と前記波形状ブランクプレス成形品形状とを比較し、両形状の乖離する部位と乖離量とを求める第1乖離量取得ステップと、
前記波形状ブランクモデルにおける波形状とは振幅と波長が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類または複数種類生成し、該生成した周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と一種類または複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較し、両形状の乖離する部位と乖離量とを求める第2乖離量取得ステップと、
前記第1乖離量取得ステップで閾値を超える乖離量が生じた部位および前記第2乖離量取得ステップで閾値を超える乖離量が生じた部位に相当する前記プレス成形品の部位を要対策部位として特定する要対策部位特定ステップと、
前記プレス成形品を成形する実金型の上金型及び下金型において、前記要対策部位、または、前記要対策部位とその周囲を成形する部位に凸パターンを付与する凸パターン付与ステップと、
前記凸パターンを付与した上金型及び下金型を用いて、前記ブランクをプレス成形する実プレス成形ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得し、
前記第2乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(1)または(2)に記載のものにおいて、前記凸パターンは、平面又は湾曲面上に所定間隔で形成された複数の凸部によって構成され、前記凸部の縦および横の長さAが3mm以上50mm以下、隣接する凸部間の距離が1.2A以上2.0A以下に設定されており、
前記凸パターン付与ステップは、前記凸パターンを前記上金型および前記下金型に、上金型の凸部が下金型の平面又は湾曲面に対向し、下金型の凸部が上金型の平面又は湾曲面に対向する配置となるように付与し、
前記実プレス成形ステップは、板厚t(mm)の前記ブランクを成形する場合の成形下死点における前記上金型の前記凸部の下面と前記下金型の前記凸部の上面との距離が0.1t以上0.5t以下になるようにプレス成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、個々のブランクにおける形状変動の相違も考慮した上で、プレス成形品におけるブランクの形状変動による影響が大きい部位を特定し、当該部位に対策を講じることで、ブランクの形状変動による影響を低減することができる。
これにより、寸法精度の良好なプレス成形品の製造が可能となって、形状変動を有する金属板から採取したブランクを用いても良好な寸法精度のプレス成形品を歩留まり良く生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係るプレス成形品の製造方法の各ステップの説明図である。
【
図2】実施の形態で対象とした部品の外観図である。
【
図4】
図3の平坦ブランクモデルを用いてプレス成形解析した基準プレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図6】
図5の波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図7】
図4の基準プレス成形品形状と
図6の波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第1乖離量を示した図である。
【
図8】
図5の波形状ブランクモデルにおける波形状とは振幅と波長が同じで周期が1/4波長分ずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルの説明図である。
【
図9】
図8の周期ずれ波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図10】
図4の基準プレス成形品形状と
図9の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第2乖離量を示した図である。
【
図11】
図7と
図10に示した第1乖離量と第2乖離量の範囲を目標形状に対応させて示した図である。
【
図12】金型に付与する凸パターンの説明図である。
【
図13】凸パターンを付与した金型モデルを用いてプレス成形解析した基準プレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図14】凸パターンを付与した金型モデルを用いてプレス成形解析した波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図15】
図13の基準プレス成形品形状と
図14の波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第1乖離量を示した図である。
【
図16】凸パターンを付与した金型モデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図17】
図13の基準プレス成形品形状と
図16の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第2乖離量を示した図である。
【
図18】
図15と
図17に示した第1乖離量と第2乖離量の範囲を目標形状に対応させて示した図である。
【
図19】
図5の波形状ブランクモデルにおける波形状とは振幅と波長が同じで周期が1/2波長分ずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルの説明図である。
【
図20】
図19の周期ずれ波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図21】
図4の基準プレス成形品形状と
図20の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第2乖離量を示した図である。
【
図22】
図7と
図21に示した第1乖離量と第2乖離量の範囲を目標形状に対応させて示した図である。
【
図23】凸パターンを付与した金型モデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状と、当該形状の各部位における成形下死点からの変化量を示した図である。
【
図24】
図13の基準プレス成形品形状と
図23の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの第2乖離量を示した図である。
【
図25】
図15と
図24に示した第1乖離量と第2乖離量の範囲を目標形状に対応させて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るプレス成形品の製造方法は、形状変動(凹凸)のある金属板から採取したブランクを用いてフォーム成形やドロー成形などのプレス成形した際のプレス成形品におけるブランクの形状変動による影響を低減する方法である。
具体的には、
図1に示すように、本実施の形態に係るプレス成形品の製造方法は、基準プレス成形品形状取得ステップS1~実プレス成形ステップS15を備えている。
図2に示すプレス成形品1を目標形状としてプレス成形する場合を例に挙げて、以下、各構成を詳細に説明する。なお、本実施の形態では板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板からなるブランク及びこれに対応するブランクモデルを用いたが、これにこだわるものではない。
【0017】
<基準プレス成形品形状取得ステップ>
基準プレス成形品形状取得ステップS1は、
図3に示すような平坦ブランクモデル3を用いて、所定の金型モデルでプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得するステップである。
なお、本説明の「プレス成形解析」とは、成形下死点の形状を取得する解析と、離型後、即ちスプリングバックした後の形状を取得する解析とを含むものとする。
【0018】
平坦ブランクモデル3とは、従来、一般的にプレス成形解析で用いられるブランクモデルであり、凹凸のない平らな形状のものである。
【0019】
プレス成形解析は、通常、有限要素法(FEM)などのCAE解析が行われる。プレス成形にはフォーム成形、ドロー成形等があるが、本実施の形態ではフォーム成形の場合を例に挙げて説明する。
【0020】
プレス成形解析による離型後の基準プレス成形品形状5を
図4に示す。
図4では、成形下死点からの変化量を数値および色の濃淡で示している。
変化量とは、プレス成形方向において、プレス成形後に離型しスプリングバックした後のプレス成形品形状の各部位の高さから、成形下死点の形状の対応する部位の高さを差し引いた値であり、プレス成形方向のスプリングバック量に相当する。高さの差(変化量)が+(プラス)の場合は成形下死点形状より凸状となり、高さの差(変化量)が-(マイナス)の場合は成形下死点形状より凹み状となる。
図4においては、成形下死点形状よりも凹み状になる部位の色を薄くし、凸状になる部位の色を濃くしている。また、図中に表示した数字は、+が凸方向(紙面手前)への変化量、-が凹方向(紙面奥)への変化量で、単位はmmである。
【0021】
本例においては、
図4に示すように、基準プレス成形品形状5の左端部(部位A)の変化量は1.06mmであり、天板部の左端(部位B)は0.63mm、長手方向中央部(部位C)は6.02mm、下フランジ部の右端(部位D)は1.10mm、右端部(部位E)は-2.61mmであった。
【0022】
<波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップ>
波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3は、金属板の形状変動に対応したブランクモデルを用いて、基準プレス成形品形状取得ステップS1と同じプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を取得するステップである。
【0023】
波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3では、まず、金属板の形状変動に対応した形状の波形状ブランクモデル7を生成する。波形状ブランクモデル7の一例を
図5(a)に示し、具体的な形状を以下に説明する。
【0024】
図5(a)に示す波形状ブランクモデル7は、所定の波長と所定の振幅の波形状を有するブランクモデルである。
図5(a)における濃淡が凹凸を表現しており、色の濃い部分が紙面手前に凸形状、色の淡い部分が紙面奥に凹む形状である。
図5(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が
図5(b)であり、その一部拡大図が
図5(c)である。
図5に示す例は、板厚1.2mmで、波形状の振幅が5.0mm(±2.5mm)、波長(
図5(d)参照)が320mmの形状である。また、ブランクに設定する波形状の開始位置や終了位置は金属板の端である必要はない。なお、
図5(e)に
図5(a)の波形状の凹凸を強調して示した。
【0025】
なお、波形状ブランクモデル7は、形状変動のある金属板の所定位置から採取した実ブランクの形状を測定し、測定結果に基づいて生成してもよい。例えば、実ブランクの形状をレーザ距離計による3次元形状測定器などによって測定し、測定結果における代表的な波長と振幅を用いるなどして生成してもよい。
【0026】
次に、波形状ブランクモデル7を用いて、基準プレス成形品形状取得ステップS1と同じ所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を波形状ブランクプレス成形品形状9として取得する。プレス成形解析した波形状ブランクプレス成形品形状9を
図6に示す。
図6に示す色や数値は、
図4と同様である。
本例においては、
図6に示すように、波形状ブランクプレス成形品形状9の左端部(部位A)の変化量は1.37mmであり、天板部の左端(部位B)は0.72mm、長手方向中央部(部位C)は6.02mm、下フランジ部の右端(部位D)は0.96mm、右端部(部位E)は-2.11mmであった。
【0027】
<第1乖離量取得ステップ>
第1乖離量取得ステップS5は、基準プレス成形品形状5(
図4)と波形状ブランクプレス成形品形状9(
図6)を比較し、両形状の乖離する部位と乖離量(第1乖離量)とを求めるステップである。
【0028】
本実施の形態では、成形下死点におけるプレス成形品形状を基準形状とし、基準形状からの離型後のプレス成形品形状の各部位における変化量(スプリングバック量)を求め、二つのプレス成形品形状の変化量の差を乖離量として求めた。
すなわち、第1乖離量取得ステップS5で求める第1乖離量とは、形状変動のあるブランクモデルを用いた波形状ブランクプレス成形品形状9の変化量(
図6)から、平坦なブランクモデルを用いた基準プレス成形品形状5の変化量(
図4)を差し引いた値となる。したがって、第1乖離量が+(プラス)の場合は、波形状ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準プレス成形品形状5に比べて凸形状となる。また、第1乖離量が-(マイナス)の場合は、波形状ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準プレス成形品形状5に比べて凹み形状となる。
【0029】
上記のように求めた第1乖離量を
図7に示す。
図7に示すように、波形状ブランクプレス成形品形状9と基準プレス成形品形状5との第1乖離量は、左端部(部位A)で0.31mmであり、天板部の左端(部位B)で0.09mm、長手方向中央部(部位C)で0.00mm、下フランジ部の右端(部位D)で-0.14mm、右端部(部位E)で0.50mmであった。
【0030】
<周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップ>
周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7は、波形状ブランクモデル7とは異なる形状の波形状ブランクモデルを用いて、基準プレス成形品形状取得ステップS1と同じプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を取得するステップである。
【0031】
周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7では、まず、波形状ブランクモデル7における波形状と波長および振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデル11を生成する。周期ずれ波形状ブランクモデル11の一例を
図8(a)に示し、具体的な形状を以下に説明する。
【0032】
図8(a)に示す例は、所定の波長と所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであり、
図8(a)における濃淡が波形状を表現している。
図8(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が
図8(b)であり、その一部拡大図が
図8(c)である。
図8に示す例は、板厚1.2mmで、波形状の振幅と波長が
図5の波形状ブランクモデル7と同じであるが、波形状の周期が波形状ブランクモデル7よりも1/4波長分紙面右方向にずれている(
図8(d)、
図8(e)参照)。
【0033】
次に、周期ずれ波形状ブランクモデル11を用いて、基準プレス成形品形状取得ステップS1と同じ所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13として取得する。周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13を
図9に示す。
図9に示す色や数値は、
図4、
図6と同様である。
本例においては、
図9に示すように、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13の左端部(部位A)の変化量は1.64mmであり、天板部の左端(部位B)は0.83mm、長手方向中央部(部位C)は6.13mm、下フランジ部の右端(部位D)は1.41mm、右端部(部位E)は-2.96mmであった。
【0034】
<第2乖離量取得ステップ>
第2乖離量取得ステップS9は、基準プレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13を比較し、両形状の乖離する部位と乖離量(第2乖離量)とを求めるステップである。第2乖離量の求め方は第1乖離量取得ステップS5で説明した方法と同様であるので説明を省略する。
【0035】
基準プレス成形品形状5(
図4)と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状13(
図9)とを比較したときの第2乖離量を
図10に示す。
図10に示すように、周期ずれ波形状ブランクモデル13と基準プレス成形品形状5との第2乖離量は、左端部(部位A)で0.58mmであり、天板部の左端(部位B)で0.20mm、長手方向中央部(部位C)で0.11mm、下フランジ部の右端(部位D)で0.31mm、右端部(部位E)で-0.35mmであった。
【0036】
<要対策部位特定ステップ>
要対策部位特定ステップS11は、第1乖離量取得ステップS5で閾値を超える第1乖離量が生じた部位および第2乖離量取得ステップS9で閾値を超える第2乖離量が生じた部位に相当するプレス成形品1の部位を要対策部位として特定するステップである。
【0037】
例えば、複数のプレス成形品を重ね合わせて接合して車体のメンバー類に組み立てる場合など、プレス成形品の形状(特にフランジ部分など)に乖離が大きいとプレス成形品同士の接合が困難となり、対策を要する場合がある。そこで、本実施の形態では、ブランクの形状変動による影響が大きい(乖離が大きい)と想定される部位を要対策部位として特定し、影響を低減するための対策をとれるようにした。
【0038】
第1乖離量取得ステップS5で求めた第1乖離量(
図7参照)と第2乖離量取得ステップS9で求めた第2乖離量(
図10参照)の両方をプレス成形品1の目標形状に対応させて
図11に示す。
図11に示されるように、乖離量は、部位Aで0.31mm~0.58mm、部位Bで0.09mm~0.20mm、部位Cで0.00mm~0.11mm、部位Dで-0.14mm~0.31mm、部位Eで-0.35mm~0.50mmであった。
【0039】
例えば、要対策部位特定ステップS11における閾値を±0.15mmとすると、閾値を超える乖離量が生じた部位は、部位A、部位B、部位D、部位Eとなる。よって、これらの部位を要対策部位として特定する。
【0040】
本実施の形態では、ブランクの形状変動による影響を低減するための対策として、プレス成形品を成形する実金型の上記要対策部位を成形する部位に凸パターンを付与し、該実金型を用いてプレス成形を行う。凸パターンは、実金型を構成する上金型と下金型の当該部位にそれぞれ付与する。実金型に付与する凸パターンの一例を
図12に示し、その形状について説明する。
【0041】
図12(a)は、成形下死点における上金型21の凸パターン23と下金型25の凸パターン27を側面視した図である。
図12(b)は、
図12(a)のC-C矢視図である。図中には、対向する下金型25の凸パターン27の位置を破線で示した。
図12(a)、
図12(b)に示すように、本実施の形態の凸パターン23、27は、上金型21又は下金型25の表面における平面又は湾曲面上に所定間隔で形成された複数の凸部23a、27a(凸部群)によって構成されている。
【0042】
凸部23a、27aの先端面の形状は、一辺の長さがA(mm)の正方形である。このような凸部23a、27aが縦横に所定の間隔B(mm)を設けて配置され、規則的な凸パターン23、27を構成している。
図12に示したような凸パターン23、27を上金型21と下金型25の要対策部位を成形する部分に付与することにより、凸部23a、27aが要対策部位の形状変動を押さえこみながらプレス成形できるので、ブランクの形状変動による影響が低減される。
【0043】
なお、凸部23a、27aの先端面の大きさ(縦および横の長さ)Aは3mm以上50mm以下とするのが好ましい。凸部23a、27aの先端面の大きさAを3mm未満とすると、プレス成形後にブランクの形状変動(波形状)がプレス成形品に残留する場合があって効果が小さくなる。また、凸部23a、27aの先端面の大きさAを50mm超えとすると、金型の天板部やフランジ部等の部位からはみ出す大きさとなって凸部先端の広い面でブランクを押さえることとなり、凸部のない場合と類似の成形となって効果がない。
【0044】
また、隣接する凸部間の距離Bは、凸部23a、27aの先端面の大きさAに対して1.2A以上2.0A以下とするとよい。隣接する凸部間の距離B(mm)を1.2A未満または2.0A超えとすると、プレス成形後にブランクの形状変動(波形状)がプレス成形品に残留する場合があって好ましくない。
【0045】
なお、
図12に示した凸部23a、27aの数や配置及び先端面の形状は一例であり、本発明の凸パターンの態様を限定するものではない。例えば凸部の先端面の形状は、長方形や円形であってもよい。
【0046】
また、上金型21に付与する凸パターン23と下金型25に付与する凸パターン27は、
図12(a)、
図12(b)に示すように互いの凸部同士が対向しないようにするとよい。即ち、凸パターン23、27を付与する際には、上金型21の凸部23aが下金型25の平面25a(又は湾曲面)に対向し、下金型25の凸部27aが上金型21の平面21a(又は湾曲面)に対向する配置となるように凸パターン23、27を上金型21および下金型25に付与するとよい。
【0047】
さらに、板厚t(mm)のブランクを成形する場合、成形下死点における上金型21の凸部23aの下面と下金型25の凸部27aの上面との距離dは、0.1t以上0.5t以下とするのが好ましい。
これにより、形状変動を有するブランクを上金型21と下金型25で挟み込んだ際に、ブランク表面の要対策部位に相当する部分に新たな交互の微小なひずみを与えることができる。その結果、該ひずみにより要対策部位の形状変動が緩和され、ブランクの形状変動による影響を抑制しやすくなる。
【0048】
なお、dを0.1t未満とすると、ひずみ量が大きくなり過ぎて凸部23a、27aの先端面形状がプレス成形後のプレス成形品表面に明瞭に転写されてしまうので好ましくない。また、dを0.5t超えとすると、ひずみの量が不足してブランクの形状変動を緩和する効果が小さくなるので好ましくない。
【0049】
上記凸パターン23、27を付与した上金型21及び下金型25を用いてプレス成形した場合の効果をプレス成形解析によって確認したので、以下に説明する。
【0050】
なお、下記に説明するプレス成形解析では、凸部23a、27aの先端面形状を3mm□の正方形とし(A=3mm)、隣接する凸部間の距離Bを4.5mmとした。
また、上金型21の凸パターン23と下金型25の凸パターン27は、互いの凸部が対向しないように付与した。具体的には、
図12(b)に示すように、上金型21の凸部23aと下金型25の凸部27aの位置を紙面横方向及び紙面縦方向に互いにずれるように設定した。なお、上金型の凸部と下金型の凸部の位置関係はこの限りではなく、紙面横方向のみ、または紙面縦方向のみにずれるようにしてもよい。
【0051】
また、成形下死点における上金型21の凸部23aの下面と下金型25の凸部27aの上面との距離dは0.36mmとした。前述のように本実施の形態のブランクの板厚tは1.2mmであるので、距離dとブランクの板厚tとの関係はd=0.3tである。
【0052】
前述のプレス成形解析に用いた所定の金型モデルにおける要対策部位に対応する部位に上記の凸パターン23、27を付与した。そして、当該金型モデル(以下、「凸パターン付与金型モデル」という)を用いて基準プレス成形品形状取得ステップS1~第2乖離量取得ステップS9と同様の解析を行った。なお、下記の説明における変化量及び乖離量は、
図4~
図11に示したものと同様の方法で求めたものである。
【0053】
凸パターン付与金型モデルを用いて平坦ブランクモデル3(
図3参照)をプレス成形解析して取得した基準プレス成形品形状31を
図13に示す。なお、
図13には、凸パターン付与金型モデルの凸パターン23、27によってひずみが付加される領域(ひずみ付加領域33)に網掛けを付している(
図14~
図18も同様)。
【0054】
図13に示すように、凸パターン付与金型モデルを用いてプレス成形解析した場合の基準プレス成形品形状31の部位Aの変化量は1.29mmであり、部位Bは0.07mm、部位Cは6.50mm、部位Dは2.10mm、部位Eは1.80mmであった。
【0055】
次に、凸パターン付与金型モデルを用いて波形状ブランクモデル7(
図5参照)をプレス成形解析して取得した波形状ブランクプレス成形品形状35を
図14に示す。
図14に示すように、波形状ブランクプレス成形品形状35の部位Aの変化量は1.45mmであり、部位Bは0.12mm、部位Cは6.50mm、部位Dは2.03mm、部位Eは2.05mmであった。
【0056】
基準プレス成形品形状31(
図13)と、波形状ブランクプレス成形品形状35(
図14)とを比較して求めた第1乖離量を
図15に示す。
図15に示すように、凸パターン付与金型モデルを用いてプレス成形解析した場合の基準プレス成形品形状31と波形状ブランクプレス成形品形状35との第1乖離量は、部位Aで0.16mm、部位Bで0.05mm、部位Cで0.00mm、部位Dで-0.07mm、部位Eで0.25mmであった。
【0057】
次に、凸パターン付与金型モデルを用いて周期ずれ波形状ブランクモデル11(
図8参照)をプレス成形解析して取得した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37を
図16に示す。
図16に示すように、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37の部位Aの変化量は1.58mmであり、部位Bは0.17mm、部位Cは6.60mm、部位Dは2.26mm、部位Eは1.63mmであった。
【0058】
基準プレス成形品形状31(
図13)と、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37(
図16)とを比較して求めた第2乖離量を
図17に示す。
図17に示すように、基準プレス成形品形状31と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37との第2乖離量は、部位Aで0.29mm、部位Bで0.10mm、部位Cで0.10mm、部位Dで0.16mm、部位Eで-0.17mmであった。
【0059】
図15の第1乖離量と
図17の第2乖離量の両方を目標形状に対応させて
図18に示す。
図18に示すように、第1乖離量と第2乖離量は、部位Aで0.16mm~0.29mm、部位Bで0.05mm~0.10mm、部位Cで0.00mm~0.10mm、部位Dで-0.07mm~0.16mm、部位Eで-0.17mm~0.25mmであった。
図18の乖離量は、
図11に示した対策前の乖離量と比べて低減している。したがって、凸パターン付与金型モデルを用いることでブランクの形状変動による影響を低減する効果があることが確認できた。
【0060】
<凸パターン付与ステップ>
凸パターン付与ステップS13は、
図12で説明した凸パターン23、27を実金型に付与するステップである。実金型の表面にレーザ加工やエッチング加工を施すなどして凸パターン23、27を付与するとよい。
凸パターン23、27は、実金型の上金型21及び下金型25における要対策部位、または、要対策部位とその周囲を成形する部位に付与する。その際、
図12で説明したように、上金型21の凸部23aが下金型25の平面25a又は湾曲面に対向し、下金型25の凸部27aが上金型21の平面21a又は湾曲面に対向する位置関係とするのが好ましい。
ここでは、
図13~
図18で説明したプレス成形解析に用いた凸パターン付与金型モデルと同様の凸パターン23、27を実金型に付与した。
【0061】
<実プレス成形ステップ>
実プレス成形ステップS15は、凸パターン付与ステップS13で凸パターン23、27を付与した上金型21及び下金型25を用いて、実ブランクをプレス成形するステップである。
実プレス成形ステップS15では、前述したように、成形下死点における上金型21の凸部23aの下面と下金型25の凸部27aの上面との距離dを0.1t以上0.5t以下になるようにプレス成形するのが好ましい(t(mm)はブランクの板厚)。
【0062】
凸パターン23、27を付与した実金型を用いて形状変動のある実ブランクをプレス成形すると、プレス成形後のプレス成形品の形状は、
図18の解析結果と同様に、ブランクの形状変動による影響が小さくなり、良好な寸法精度を得た。
【0063】
以上、本実施の形態によれば、ブランクの形状変動による影響が大きい部位を特定し、適切な対策をとることができるので、良好な寸法精度のプレス成形品を安定して得ることができる。
なお、本実施の形態では、形状変動のあるブランクを想定したブランクモデルを複数パターン生成し、それぞれの場合の乖離量を求めて要対策部位を特定しているので、個々の実ブランクの間で生じる形状変動の相違を考慮したものとなっている。
【0064】
なお、上記は周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類だけ生成したものであったが、周期ずれ波形状ブランクモデルを複数種類生成してもよい。その場合、周期ずれ波形状ブランクモデルの波形状は、互いに周期がずれるようにする(波長および振幅は波形状ブランクモデルおよびすべての周期ずれ波形状ブランクモデルで共通とする)とよい。
形状変動のあるブランクを想定したブランクモデルのパターンを増やすことで、個々の実ブランクの間で生じる形状変動の相違をより具体的に考慮できる。
【0065】
また、上記の説明では、二つのプレス成形品形状の乖離量を求めるにあたり、プレス成形方向における成形下死点からの変化量(スプリングバック量)の差を乖離量としたが、本発明はこれに限らない。
例えば、プレス成形方向において、一方のプレス成形品形状における離型後(スプリングバック後)の各部位の高さから、他方のプレス成形品形状における離型後(スプリングバック後)の各部位の高さを差し引いた差を乖離量としてもよい。
もっとも、この場合は、二つのプレス成形品形状に共通する固定点を設定する必要があり、固定点の選び方によって、乖離量が変動する場合がある。
この点、本実施の形態のように、ブランクの形状変動の有無によらず一定である成形下死点での形状を基準とした変化量同士を比較するようにすれば、正確かつ容易に乖離量を求めることができて好ましい。
【0066】
また、本実施の形態はフォーム成形の場合を例に説明したが、ドロー成形であってもよい。
【0067】
なお、凸パターンを付与した上金型及び下金型を用いることで、プレス成形後のプレス成形品に凹凸パターンが形成される場合がある。そのような場合には、実プレス成形ステップS15の後に、凹凸パターンが形成されたプレス成形品を再プレスして凹凸パターンを潰すリストライク工程をさらに備えてもよい。リストライク工程で凹凸パターンを潰すことで、凹凸パターンが形成された部位とその周辺にひずみが加わって加工硬化し、更に剛性が向上する。これにより、プレス成形品に残留する波形状(形状変動)を抑えることができて、寸法精度を向上できる。
【実施例0068】
本発明の効果を確認するために、
図1で説明したプレス成形品の製造方法を実施した。本実施例では実施の形態と同様に
図2のプレス成形品1を目標形状とした。また、本実施例におけるCAE解析の成形は実施の形態と同様にフォーム成形とした。
なお、本実施例における変化量及び乖離量は、実施の形態と同様の方法で求めた。
【0069】
まず、実施の形態と同様に平坦ブランクモデル3(
図3参照)を用いて基準プレス成形品形状取得ステップS1を実施した。
所定の金型モデルで平坦ブランクモデル3をプレス成形解析した場合の基準プレス成形品形状5の変化量は、
図4で説明したように、部位Aで1.06mm、部位Bで0.63mm、部位Cで6.02mm、部位Dで1.10mm、部位Eで-2.61mmであった。
【0070】
また、実施の形態と同様に波形状ブランクモデル7(
図5参照)を用いて波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3を実施した。
所定の金型モデルで波形状ブランクモデル7をプレス成形解析した場合の波形状ブランクプレス成形品形状9の変化量は、
図6で説明したように、部位Aで1.37mm、部位Bで0.72mm、部位Cで6.02mm、部位Dで0.96mm、部位Eで-2.11mmであった。
【0071】
さらに、第1乖離量取得ステップS5において、基準プレス成形品形状5(
図4)と波形状ブランクプレス成形品形状9(
図6)を比較し、両形状の乖離量(第1乖離量)を求めた。第1乖離量は、
図7で説明したように、部位Aで0.31mm、部位Bで0.09mm、部位Cで0.00mm、部位Dで-0.14mm、部位Eで0.50mmであった。
【0072】
続いて、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7において、波形状ブランクモデル7とは異なる形状の波形状ブランクモデルを生成し、上記と同様の所定の金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を取得した。
波形状ブランクモデル7とは異なる形状の波形状ブランクモデルとして、実施の形態では
図8で説明した周期ずれ波形状ブランクモデル11を用いたが、本実施例では
図19に示す周期ずれ波形状ブランクモデル41を用いた。周期ずれ波形状ブランクモデル41の具体的な形状を以下に説明する。
【0073】
図19に示す例は、所定の波長と所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであり、
図19(a)における濃淡が凹凸を表現している。
図19(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が
図19(b)であり、その一部拡大図が
図19(c)である。
図19に示す例は、板厚1.2mmで、凹凸の振幅と波長が
図5の波形状ブランクモデル7と同じであるが、波形状の周期が波形状ブランクモデル7よりも1/2波長分紙面右方向にずれている(
図19(d)、
図19(e)参照)。
【0074】
図19の周期ずれ波形状ブランクモデル41を所定の金型モデルでプレス成形解析した場合の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状43を
図20に示す。
図20に示すように、所定の金型モデルでプレス成形解析した場合の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状43の部位Aの変化量は0.85mmであり、部位Bは0.88mm、部位Cは5.95mm、部位Dは0.86mm、部位Eは-2.64mmであった。
【0075】
さらに、第2乖離量取得ステップS9において、基準プレス成形品形状5(
図4)と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状43(
図20)を比較し、乖離量(第2乖離量)を求めた。
図21に示すように、周期ずれ波形状プレス成形品形状43と基準プレス成形品形状5との第2乖離量は、部位Aで-0.21mm、部位Bで0.25mm、部位Cで-0.07mm、部位Dで-0.24mm、部位Eで-0.03mmであった。
【0076】
第1乖離量取得ステップS5で求めた第1乖離量(
図7)と第2乖離量取得ステップS9で求めた第2乖離量(
図21)の両方をプレス成形品1(目標形状)に対応させて
図22に示す。
図22に示すように、対策前の乖離量は、部位Aで-0.21mm~0.31mm、部位Bで0.09mm~0.25mm、部位Cで-0.07mm~0.00mm、部位Dで-0.24mm~-0.14mm、部位Eで-0.03mm~0.50mmであった。
【0077】
ここで、例えば、要対策部位特定ステップS15における閾値を±0.15mmとすると、閾値を超える乖離量が生じた部位は、部位A、部位B、部位D、部位Eとなる。よって、これらの部位を要対策部位として特定した。
【0078】
本実施例においても、ブランクの形状変動による影響を低減するための対策として、上記要対策部位に対応する実金型の表面に
図12で説明した凸パターン23、27を付与することとした。本実施例においてその効果をプレス成形解析によって確認したので、以下に説明する。
【0079】
なお、下記に説明するプレス成形解析では、凸部23a、27aの先端面形状を3mm□の正方形とし(A=3mm)、隣接する凸部間の距離Bを4.5mmとした。
また、上金型21の凸パターン23と下金型25の凸パターン27は、互いの凸部23a、27aが対向しないように付与した。具体的には、
図12(b)に示すように、上金型21の凸部23aと下金型25の凸部27aの位置を紙面横方向及び紙面縦方向に互いにずれるように設定した。
また、成形下死点における上金型21の凸部23aの下面と下金型25の凸部27aの上面との距離dは、0.36mmとした。本実施例のブランクの板厚tは実施の形態と同様に1.2mmであるので、距離dとブランクの板厚tとの関係はd=0.3tである。
【0080】
所定の金型モデルにおける要対策部位に対応する部位に上記の凸パターン23、27を付与し、当該金型モデル(凸パターン付与金型モデル)を用いて基準プレス成形品形状取得ステップS1~第2乖離量取得ステップS9と同様の解析を実施した。
【0081】
凸パターン付与金型モデルで平坦ブランクモデル3(
図3参照)をプレス成形解析した場合の基準プレス成形品形状31の変化量は、
図13で説明したように、部位Aで1.29mm、部位Bで0.07mm、部位Cで6.50mm、部位Dで2.10mm、部位Eで1.80mmであった。
【0082】
凸パターン付与金型モデルで波形状ブランクモデル7(
図5参照)をプレス成形解析した場合の波形状ブランクプレス成形品形状35の変化量は、
図14で説明したように、部位Aで1.45mmであり、部位Bで0.12mm、部位Cで6.50mm、部位Dで2.03mm、部位Eで2.05mmであった。
【0083】
基準プレス成形品形状31(
図13)と、波形状ブランクプレス成形品形状35(
図14)とを比較して求めた第1乖離量は、
図15で説明したように、部位Aで0.16mm、部位Bで0.05mm、部位Cで0.00mm、部位Dで-0.07mm、部位Eで0.25mmであった。
【0084】
次に、凸パターン付与金型モデルを用いて周期ずれ波形状ブランクモデル41(
図19参照)をプレス成形解析して取得した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状51を
図23に示す。
図23に示すように、凸パターン付与金型モデルを用いた場合の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状51の部位Aの変化量は1.19mmであり、部位Bは0.20mm、部位Cは6.44mm、部位Dは1.98mm、部位Eは1.82mmであった。
【0085】
基準プレス成形品形状31(
図13)と、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状51(
図23)とを比較して求めた第2乖離量を
図24に示す。
図24に示すように、凸パターン付与金型モデルを用いた場合の基準プレス成形品形状31と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状51との第2乖離量は、部位Aで-0.10mm、部位Bで0.13mm、部位Cで-0.06mm、部位Dで-0.12mm、部位Eで0.02mmであった。
【0086】
図15の第1乖離量と
図24の第2乖離量の両方をプレス成形品1(目標形状)に対応させて
図25に示す。
図25に示すように、凸パターン付与金型モデルを用いた場合の乖離量は、部位Aで-0.10mm~0.16mm、部位Bで0.05mm~0.13mm、部位Cで-0.06mm~0.00mm、部位Dで-0.12mm~-0.07mm、部位Eで0.02mm~0.25mmであった。
図25の乖離量は、
図22に示した対策前の乖離量と比べて著しく小さくなっている。したがって、要対策部位に対応して金型に凸パターンを付与することで、ブランクの形状変動による影響を低減する効果があることが確認できた。
【0087】
そこで、凸パターン付与ステップS13において、上記凸パターン付与金型モデルと同様の凸パターン23、27を実金型表面に付与した。具体的には、本実施例における要対策部位、または、要対策部位とその周囲を成形する金型の部位に凸パターン23、27を付与した。
そして、実プレス成形ステップS15において、上記凸パターン23、27を付与した実金型を用いて、形状変動のある実ブランクをプレス成形した。なお、実ブランクは、上述のブランクモデルに相当する板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板を用いた。
【0088】
本実施例において、実プレス成形ステップS15でプレス成形したプレス成形品の形状は、
図25の解析結果と同様にブランクの形状変動による影響が小さくなり、良好な寸法精度を得た。