(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032079
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】病変検出方法および病変検出プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240305BHJP
A61B 6/46 20240101ALI20240305BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61B6/03 360T
A61B6/03 360Q
A61B6/03 360J
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135519
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 幸三
(72)【発明者】
【氏名】武部 浩明
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 信浩
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093FF13
4C093FF16
4C093FF17
4C093FF35
4C093FF42
4C096DC16
4C096DC19
4C096DC20
4C096DC33
4C096DC36
(57)【要約】
【課題】複数の断層画像からの病変領域の検出精度に対するスライス間隔の影響を低減する。
【解決手段】コンピュータが、二次元空間の画像データを有する入力画像から特定の病変の領域を検出する第1の機械学習モデルを用いて、人体の内部を撮影した複数の断層画像のそれぞれから特定の病変を示す第1の病変領域を検出し、三次元空間の画像データを有する入力ボリュームデータから特定の病変の領域を検出する第2の機械学習モデルを用いて、複数の断層画像を基に作成された三次元のボリュームデータから特定の病変を示す第2の病変領域を検出し、第1の病変領域と第2の病変領域との重複状態に基づいて、複数の断層画像のそれぞれから特定の病変を示す第3の病変領域を検出する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
二次元空間の画像データを有する入力画像から特定の病変の領域を検出する第1の機械学習モデルを用いて、人体の内部を撮影した複数の断層画像のそれぞれから前記特定の病変を示す第1の病変領域を検出し、
三次元空間の画像データを有する入力ボリュームデータから前記特定の病変の領域を検出する第2の機械学習モデルを用いて、前記複数の断層画像を基に作成された三次元のボリュームデータから前記特定の病変を示す第2の病変領域を検出し、
前記第1の病変領域と前記第2の病変領域との重複状態に基づいて、前記複数の断層画像のそれぞれから前記特定の病変を示す第3の病変領域を検出する、
病変検出方法。
【請求項2】
前記第1の病変領域と、前記第2の病変領域の少なくとも一部とが重複する場合に、前記第1の病変領域が前記第3の病変領域として検出される、
請求項1記載の病変検出方法。
【請求項3】
前記第3の病変領域の検出では、
前記複数の断層画像のそれぞれからの前記第1の病変領域の検出結果に基づいて、三次元空間における前記特定の病変を示す第1の閉領域を検出し、
前記ボリュームデータからの前記第2の病変領域の検出結果に基づいて、三次元空間における前記特定の病変を示す第2の閉領域を検出し、
前記第1の閉領域と前記第2の閉領域との重複状態に基づいて前記第3の病変領域を検出する、
請求項1記載の病変検出方法。
【請求項4】
前記第3の病変領域の検出では、
前記第1の閉領域と、前記第2の閉領域の少なくとも一部とが重複する場合に、前記複数の断層画像のそれぞれにおける、前記第1の閉領域に対応する領域を前記第3の病変領域として検出する、
請求項3記載の病変検出方法。
【請求項5】
前記第3の病変領域の検出では、
前記ボリュームデータから前記第2の閉領域が複数検出された場合、複数の前記第2の閉領域の中から体積が最大の第3の閉領域を選択し、
前記複数の断層画像から、前記第3の閉領域を含む第1の断層画像を選択し、
前記第1の断層画像における前記第3の病変領域を拡大した拡大領域と、前記第1の断層画像における前記第2の病変領域に対応する領域との間で重複する領域を、前記第1の断層画像における前記第3の病変領域として追加する、
請求項4記載の病変検出方法。
【請求項6】
前記第3の病変領域の検出では、
選択された前記第1の断層画像から前記第3の病変領域が検出されていない場合、前記第1の断層画像における前記第3の閉領域に対応する領域を、前記第1の断層画像における前記第3の病変領域として追加して検出する、
請求項5記載の病変検出方法。
【請求項7】
コンピュータに、
二次元空間の画像データを有する入力画像から特定の病変の領域を検出する第1の機械学習モデルを用いて、人体の内部を撮影した複数の断層画像のそれぞれから前記特定の病変を示す第1の病変領域を検出し、
三次元空間の画像データを有する入力ボリュームデータから前記特定の病変の領域を検出する第2の機械学習モデルを用いて、前記複数の断層画像を基に作成された三次元のボリュームデータから前記特定の病変を示す第2の病変領域を検出し、
前記第1の病変領域と前記第2の病変領域との重複状態に基づいて、前記複数の断層画像のそれぞれから前記特定の病変を示す第3の病変領域を検出する、
処理を実行させる病変検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病変検出方法および病変検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種疾患の診断には、CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)などによる医用画像が広く用いられている。医用画像を用いた画像診断では、医師は多数の画像を読影しなければならず、医師の負担が大きい。そのため、医師の診断作業をコンピュータによって何らかの形で支援する技術が求められている。
【0003】
そのような技術の例として、機械学習によって作成された学習済みモデルを用いて、医用画像から病変領域を検出する技術がある。例えば、複数の異なる断面方向の断面画像を取得し、各断面画像について各画素の病変の種類を特定する一次分類処理を、多層ニューラルネットワークを含む判別器を用いて実行し、各断面画像で共通する画素について一次分類処理の結果を評価する画像処理装置が提案されている。また、3D画像ボリュームのN個の異なる平面にしたがってN個の異なるCNN(Convolutional Neural Network)を結合する複合計算システムにおいて、2D画像を解析してセグメント化するために、知られているCNNの使用を3D画像に拡張することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-525198号公報
【特許文献2】特表2019-500146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、学習済みモデルを用いて病変領域を検出する方法としては、例えば、二次元の断層画像を入力として画素ごとに病変か否かを分類する第1の方法と、複数の断層画像を基に作成された三次元のボリュームデータを入力としてボクセルごとに病変か否かを分類する第2の方法とがある。一般的に、第2の方法の方が、病変領域の三次元的な形状特徴を正確に捉えて病変領域を検出可能であるので、検出精度を高めることができる。しかし、第2の方法では、ボリュームデータの作成元となる複数の断層画像のスライス間隔が、学習時より推論時の方が大きい場合に、推論用のボリュームデータにおける病変領域の形状の信頼性が低下する。このため、病変領域の検出精度も低下しやすいという問題がある。
【0006】
1つの側面では、本発明は、複数の断層画像からの病変領域の検出精度に対するスライス間隔の影響を低減可能な病変検出方法および病変検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの案では、コンピュータが、二次元空間の画像データを有する入力画像から特定の病変の領域を検出する第1の機械学習モデルを用いて、人体の内部を撮影した複数の断層画像のそれぞれから特定の病変を示す第1の病変領域を検出し、三次元空間の画像データを有する入力ボリュームデータから特定の病変の領域を検出する第2の機械学習モデルを用いて、複数の断層画像を基に作成された三次元のボリュームデータから特定の病変を示す第2の病変領域を検出し、第1の病変領域と第2の病変領域との重複状態に基づいて、複数の断層画像のそれぞれから特定の病変を示す第3の病変領域を検出する、病変検出方法が提供される。
【0008】
また、1つの案では、上記の病変検出方法と同様の処理をコンピュータに実行させる病変検出プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、複数の断層画像からの病変領域の検出精度に対するスライス間隔の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る病変検出装置の構成例および処理例を示す図である。
【
図2】第2の実施の形態に係る診断支援システムの構成例を示す図である。
【
図3】病変領域の検出のための機械学習モデルの第1の例を示す図である。
【
図4】病変領域の検出のための機械学習モデルの第2の例を示す図である。
【
図5】複数方向の断面の断層画像を用いた病変検出方法の例を示す図である。
【
図7】セグメンテーション精度に対するスライス間隔の影響について説明するための図である。
【
図8】診断支援装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
【
図9】2Dモデルおよび3Dモデルを用いたセグメンテーション処理の手順を示すフローチャートの例である。
【
図12】組合せ判定処理の手順を示すフローチャートの例(その1)である。
【
図13】組合せ判定処理の手順を示すフローチャートの例(その2)である。
【
図14】病変領域の検出結果の画面表示例を示す図である。
【
図15】変形例における組合せ判定処理の手順を示すフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る病変検出装置の構成例および処理例を示す図である。
図1に示す病変検出装置1は、医用画像から所定の病変の領域を検出する装置である。この病変検出装置1は、処理部2を有する。処理部2は、例えばプロセッサである。この場合、処理部2による以下の処理は、例えば、プロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。
【0012】
処理部2は、医用画像として、人体の内部を撮影した複数の断層画像3a,3b,3c,・・・を取得する。断層画像3a,3b,3c,・・・は、例えば、CTやMRIによる断層画像である。また、断層画像3a,3b,3c,・・・は、所定の臓器を含む人体の内部領域における同じ方向の断面(スライス面)に沿った画像であり、その断面に垂直な方向に対する位置を所定の間隔(スライス間隔)で変えながら撮影することで得られる。
【0013】
処理部2は、二次元空間の画像データを有する入力画像から上記の病変の領域を検出する機械学習モデル5aを用いて、断層画像3a,3b,3c,・・・のそれぞれから上記の病変を示す第1の領域を検出する。この処理により、例えば、断層画像3a,3b,3c,・・・のそれぞれにおいて、画素が病変の領域とそれ以外の領域とに分類される。
図1では、第1の領域を示す情報の例として、病変領域の画素値を「1」とし、それ以外の領域の画素値を「0」とした検出結果画像6a,6b,6c,・・・が出力されている。
【0014】
また、処理部2は、断層画像3a,3b,3c,・・・に基づいて三次元のボリュームデータ4を作成する。処理部2は、三次元空間の画像データを有する入力ボリュームデータから上記の病変の領域を検出する機械学習モデル5bを用いて、作成されたボリュームデータ4から上記の病変を示す第2の領域を検出する。この処理により、例えば、ボリュームデータ4の各ボクセルが病変の領域とそれ以外の領域とに分類される。
図1では、第2の領域を示す情報の例として、病変領域のボクセル値を「1」とし、それ以外の領域のボクセル値を「0」としたボリュームデータ7が出力されている。
【0015】
処理部2は、検出された第1の病変領域と、検出された第2の病変領域との重複状態に基づいて、断層画像3a,3b,3c,・・・のそれぞれから上記の病変を示す第3の病変領域を検出する。処理部2は、例えば、断層画像3a,3b,3c,・・・のそれぞれから検出された第1の病変領域を基に、三次元空間における病変領域を算出し、算出された病変領域と、三次元空間における領域として検出された第2の領域との重複状態を認識する。処理部2は、この重複状態に基づいて、断層画像3a,3b,3c,・・・のそれぞれから第3の病変領域を検出する。
図1では、第3の領域を示す情報の例として、病変領域の画素値を「1」とし、それ以外の領域の画素値を「0」とした検出結果画像8a,8b,8c,・・・が出力される。
【0016】
以上の処理によれば、ボリュームデータ4に基づく病変領域の検出結果だけでなく、二次元の断層画像3a,3b,3c,・・・に基づく病変領域の検出結果も用いて最終的な検出結果を作成する。これにより、複数の断層画像からの病変領域の検出精度に対する、ボリュームデータ4の作成元となった断層画像3a,3b,3c,・・・のスライス間隔の影響を低減できる。その結果、スライス間隔に依存せずに、病変領域の検出が高精度化する可能性を高めることができる。
【0017】
〔第2の実施の形態〕
次に、CT画像から肝臓の病変領域を検出可能なシステムについて説明する。
図2は、第2の実施の形態に係る診断支援システムの構成例を示す図である。
図2に示す診断支援システムは、CT撮影による画像診断作業を支援するシステムであり、診断支援装置100とCT装置200を含む。なお、診断支援装置100は、
図1に示した病変検出装置1の一例である。
【0018】
CT装置200は、人体のX線CT画像を撮影する。本実施の形態において、CT装置200は、肝臓を含む腹部領域におけるアキシャル面の断層画像を、人体の高さ方向(アキシャル面に垂直な方向)に対する位置(スライス位置)を所定間隔で変えながら所定枚数撮影する。
【0019】
診断支援装置100は、CT装置200によって撮影された各断層画像から肝臓の領域を抽出し、抽出された領域の画像情報に基づいて病変領域を検出する。本実施の形態では、病変領域として、肝内胆管の拡張が検出されるものとする。診断支援装置100は、例えば、病変領域の検出結果を示す情報を表示装置に表示させる。これにより診断支援装置100は、ユーザ(例えば読影医)の画像診断作業を支援する。
【0020】
以下、
図2を用いて診断支援装置100のハードウェア構成について説明する。診断支援装置100は、例えば、
図2に示すようなコンピュータとして実現される。
図2に示すように、診断支援装置100は、プロセッサ101、RAM(Random Access Memory)102、HDD(Hard Disk Drive)103、GPU(Graphics Processing Unit)104、入力インタフェース(I/F)105、読み取り装置106および通信インタフェース(I/F)107を備える。
【0021】
プロセッサ101は、診断支援装置100全体を統括的に制御する。プロセッサ101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Device)である。また、プロセッサ101は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLDのうちの2以上の要素の組み合わせであってもよい。なお、プロセッサ101は、
図1に示した処理部2の一例である。
【0022】
RAM102は、診断支援装置100の主記憶装置として使用される。RAM102には、プロセッサ101に実行させるOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM102には、プロセッサ101による処理に必要な各種データが格納される。
【0023】
HDD103は、診断支援装置100の補助記憶装置として使用される。HDD103には、OSプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、補助記憶装置としては、SSD(Solid State Drive)などの他の種類の不揮発性記憶装置を使用することもできる。
【0024】
GPU104には、表示装置104aが接続されている。GPU104は、プロセッサ101からの命令にしたがって、画像を表示装置104aに表示させる。表示装置104aとしては、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどがある。
【0025】
入力インタフェース105には、入力装置105aが接続されている。入力インタフェース105は、入力装置105aから出力される信号をプロセッサ101に送信する。入力装置105aとしては、キーボードやポインティングデバイスなどがある。ポインティングデバイスとしては、マウス、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0026】
読み取り装置106には、可搬型記録媒体106aが脱着される。読み取り装置106は、可搬型記録媒体106aに記録されたデータを読み取ってプロセッサ101に送信する。可搬型記録媒体106aとしては、光ディスク、半導体メモリなどがある。
【0027】
通信インタフェース107は、ネットワークを介して、CT装置200などの他の装置との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、診断支援装置100の処理機能を実現することができる。
【0028】
ところで、医用画像からの病変領域の検出処理は、例えば、機械学習モデルを用いて実行可能である。
図3は、病変領域の検出のための機械学習モデルの第1の例を示す図である。
図3に示す病変分類モデル10は、断層画像12の入力を受けると、断層画像12の画素ごとに特定の病変領域か否かを分類する学習済みモデルである。ここでは、断層画像12はアキシャル面の断層画像であるとする。
【0029】
この病変分類モデル10は、同じくアキシャル面の断層画像11a,11b,11c,・・・を教師データとして用いた機械学習(例えば深層学習)によって作成される。これらの断層画像11a,11b,11c,・・・には、画素ごとに病変領域か否かを示すラベルが付加されており、機械学習の際にはこれらのラベルが正解データとして用いられる。
【0030】
図4は、病変領域の検出のための機械学習モデルの第2の例を示す図である。CT装置200によってスライス位置を変えながら撮影された複数の断層画像(断層画像セット)を基に、三次元のボリュームデータを作成可能である。
図4に示す病変分類モデル20は、このようなボリュームデータ22の入力を受けると、ボリュームデータ22のボクセルごとに特定の病変領域か否かを分類する学習済みモデルである。
【0031】
この病変分類モデル20は、ボリュームデータ21a,21b,21c,・・・を教師データとして用いた機械学習(例えば深層学習)によって作成される。これらのボリュームデータ21a,21b,21c,・・・には、ボクセルごとに病変領域か否かを示すラベルが付加されており、機械学習の際にはこれらのラベルが正解データとして用いられる。
【0032】
以下、二次元空間の画像データによって形成される断層画像に対するセグメンテーションを行う上記の病変分類モデル10を、「2Dモデル10」と記載する。一方、三次元空間の画像データによって形成されるボリュームデータに対するセグメンテーションを行う上記の病変分類モデル20を、「3Dモデル20」と記載する。
【0033】
ここで、2Dモデル10を用いたセグメンテーションでは、断層画像の面に沿った形状の病変を比較的精度よく検出可能であるが、三次元的に断層画像の面に沿っていない形状の病変の検出精度が低いという問題がある。例えば、管状の病変が断層画像の面に沿っていない場合、その病変は断層画像上で円形または楕円形に投影されるので、腫瘤などの球状の病変と区別することが難しい。この問題を解決するための方法の例として、次の
図5に示す方法が考えられる。
【0034】
図5は、複数方向の断面の断層画像を用いた病変検出方法の例を示す図である。
図5に示す方法では、アキシャル面、サジタル面、コロナル面の各断層画像を用いて病変領域が検出される。
【0035】
具体的には、アキシャル面の断層画像を用いた機械学習によって作成された第1の2Dモデルと、サジタル面の断層画像を用いた機械学習によって作成された第2の2Dモデルと、コロナル面の断層画像を用いた機械学習によって作成された第3の2Dモデルとが用いられる。そして、第1の2Dモデルを用いてアキシャル面の断層画像15のセグメンテーションが実行され、第2の2Dモデルを用いてサジタル面の断層画像16のセグメンテーションが実行され、第3の2Dモデルを用いてコロナル面の断層画像17のセグメンテーションが実行される。これにより、断層画像15~17で共通する画素18の分類結果が各2Dモデルから算出され、これらの分類結果を基に、例えば多数決をとることによって画素18の最終的な分類結果が得られる。
【0036】
このような方法により、1つの断面の断層画像を用いた場合より、セグメンテーション精度を高めることが可能にはなる。しかし、複数方向の断面の断層画像を用いたとしても、あくまで二次元空間上の形状特徴を捉えた2Dモデルを用いたセグメンテーションが行われるので、三次元空間上の病変形状によっては高精度なセグメンテーションが不可能となる。
【0037】
図6は、病変形状の例を示す図である。
図6において、画像32は、病変領域30を人体の上側から見た(Z軸方向に見た)場合の画像であり、アキシャル面の断層画像に相当する。画像33は、病変領域30を人体の左側から見た(X軸方向に見た)場合の画像であり、サジタル面の断層画像に相当する。画像34は、病変領域30を人体の前側から見た(Y軸方向に対する反対方向に見た)場合の画像であり、コロナル面の断層画像に相当する。
【0038】
この病変領域30の形状は、斜視
図31に示すように、X軸、Y軸、Z軸のいずれに対しても対称性を有さない管状の形状となっている。この場合、アキシャル面、サジタル面、コロナル面のいずれの断層画像にも、病変領域30の全体像が写らない。このため、
図5に示した方法を用いたとしても、病変領域30の三次元空間上の形状を十分に捉えたセグメンテーションを行っているとはいえず、高精度なセグメンテーションを行うことは難しい。すなわち、管状の病変領域を球状の病変領域と正確に区別してセグメンテーションを行うことが難しい。
【0039】
これに対して、
図4に示した3Dモデル20を用いた方法により、病変領域30の三次元空間上の形状を十分に捉えたセグメンテーションを行うことが可能となり、セグメンテーションの精度を向上させることができる。しかし、3Dモデル20を用いた場合、学習時や推論時に用いるボリュームデータの作成元となる断層画像セットのスライス間隔が、セグメンテーションの精度に影響を与え得る。
【0040】
図7は、セグメンテーション精度に対するスライス間隔の影響について説明するための図である。
断層画像セットに含まれる各断層画像の画素の大きさより、断層画像間のスライス間隔の方が大きい場合、ボリュームデータの作成時においては断層画像間のボクセルのデータが補間演算によって算出される。本実施の形態のようにアキシャル面(X-Y平面)の断層画像が用いられる場合、上下方向(Z軸方向)に対する補間演算が実行される。このため、スライス間隔が大きいほど、ボリュームデータにおけるZ軸方向への病変領域の形状信頼性が低くなり、ボリュームデータにおいて病変領域の三次元形状を正確に保持できなくなる。
【0041】
図7では、Y軸方向に見た場合の病変領域40の形状を例示している。この病変領域40の形状は、X-Y平面、Y-Z平面、Z-X平面のいずれに対しても非対称である。この場合、病変領域40がX-Y平面に細長く投影される場合と、病変領域40がZ軸方向に細長く投影される場合とが混在することになる。肝内胆管の拡張を示す病変領域の形状は、このようにX-Y平面、Y-Z平面、Z-X平面のいずれに対しても非対称であることが多い。
【0042】
このような病変領域40は、撮影面41ではX-Y平面に対して長い線状に写り、撮影面42,43では微小な円状に写る。このため、例えば、撮影面41,43の各断層画像を用いて補間演算を行った場合と、撮影面41,42,43の各断層画像を用いて補間演算を行った場合とでは、ボリュームデータ上に現れる病変領域40の形状が異なる。すなわち、前者より後者の方が、ボリュームデータ上に現れる病変領域40の形状は本来の形状に近くなる。
【0043】
したがって、3Dモデル20の学習時においては、教師データとしてスライス間隔が小さい断層画像セットに基づくボリュームデータを用いるほど、セグメンテーション精度の高い3Dモデル20を作成可能となる。一方、3Dモデル20を用いた推論時においては、学習時よりスライス間隔が大きい断層画像セットに基づくボリュームデータを3Dモデル20に入力すると、セグメンテーション精度が低下する可能性がある。
【0044】
実際の医療現場では、コスト削減の観点から、一度に撮影される断層画像数を多くできないことが多い。このため、3Dモデル20を用いた推論時に用いる断層画像セットのスライス間隔が、3Dモデル20の学習時に用いられた断層画像セットのスライス間隔より大きくなる場合が多い。この場合、3Dモデル20を用いた推論精度が低下してしまう。
【0045】
そこで、本実施の形態の診断支援装置100は、2Dモデル10によるセグメンテーション結果と3Dモデル20によるセグメンテーション結果とを組み合わせて、最終的なセグメンテーション結果を取得する。これにより、高精度な病変のセグメンテーション処理を可能とする。
【0046】
図8は、診断支援装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
図8に示すように、診断支援装置100は、記憶部110、臓器領域抽出部121、2Dセグメンテーション処理部122、3Dセグメンテーション処理部123および組合せ判定部124を備える。
【0047】
記憶部110は、RAM102、HDD103などの診断支援装置100が備える記憶装置に確保された記憶領域である。記憶部110には、臓器領域分類モデルデータ111、2Dモデルデータ10aおよび3Dモデルデータ20aが記憶される。
【0048】
臓器領域分類モデルデータ111は、入力された断層画像から肝臓の領域をセグメンテーションする学習済みモデルを示すデータである。この学習済みモデル(臓器領域分類モデル)は、肝臓の領域か否かを示すラベルが画素ごとに付加された断層画像を多数、教師データとして用いて機械学習することで作成される。臓器領域分類モデルがニューラルネットワークとして形成される場合、臓器領域分類モデルデータ111には、ニューラルネットワーク上のノード間の重み係数が含まれる。
【0049】
2Dモデルデータ10aは、前述した2Dモデル10を示すデータである。2Dモデル10がニューラルネットワークとして形成される場合、2Dモデルデータ10aには、ニューラルネットワーク上のノード間の重み係数が含まれる。3Dモデルデータ20aは、前述した3Dモデル20を示すデータである。3Dモデル20がニューラルネットワークとして形成される場合、3Dモデルデータ20aには、ニューラルネットワーク上のノード間の重み係数が含まれる。
【0050】
臓器領域抽出部121、2Dセグメンテーション処理部122、3Dセグメンテーション処理部123および組合せ判定部124の処理は、例えば、プロセッサ101が所定のアプリケーションプログラムを実行することで実現される。
【0051】
臓器領域抽出部121は、断層画像セットに含まれる各断層画像を、臓器領域分類モデルデータ111に基づく臓器領域分類モデルに入力することで、断層画像から肝臓領域を抽出する。
【0052】
2Dセグメンテーション処理部122は、断層画像セットに含まれる各断層画像における肝臓領域の画像を、2Dモデルデータ10aに基づく2Dモデル10に入力する。これにより2Dセグメンテーション処理部122は、画素ごとに肝内胆管の拡張を示す病変領域か否かを分類する2Dセグメンテーション処理を実行する。
【0053】
3Dセグメンテーション処理部123は、断層画像セットに基づいてボリュームデータを作成し、ボリュームデータから肝臓領域を抽出して、3Dモデルデータ20aに基づく3Dモデル20に入力する。これにより3Dセグメンテーション処理部123は、ボクセルごとに肝内胆管の拡張を示す病変領域か否かを分類する3Dセグメンテーション処理を実行する。
【0054】
組合せ判定部124は、2Dセグメンテーションの処理結果と3Dセグメンテーションの処理結果とを組み合わせて、断層画像セットに含まれる各断層画像についての最終的なセグメンテーション結果を算出して出力する。
【0055】
図9は、2Dモデルおよび3Dモデルを用いたセグメンテーション処理の手順を示すフローチャートの例である。
[ステップS11]臓器領域抽出部121は、スライス面を1つ選択する。
【0056】
[ステップS12]臓器領域抽出部121は、入力された断層画像セットから、選択されたスライス面に対応する断層画像を抽出する。臓器領域抽出部121は、抽出された断層画像を、臓器領域分類モデルデータ111に基づく臓器領域分類モデルに入力することで、断層画像から肝臓領域を抽出する。この処理により、例えば、断層画像のうち、肝臓領域の画素を「1」とし、それ以外の領域の画素「0」としたマスク画像が作成される。
【0057】
[ステップS13]2Dセグメンテーション処理部122は、抽出された肝臓領域の画像を、2Dモデルデータ10aに基づく2Dモデル10に入力することで、病変領域のセグメンテーション(2Dセグメンテーション)を実行する。これにより、断層画像の各画素が、病変領域とそれ以外の領域とに分類される。
【0058】
[ステップS14]2Dセグメンテーション処理部122は、ステップS13の処理結果に基づき、断層画像のうち、病変領域の画素を「1」とし、それ以外の領域の画素を「0」とした2D結果画像を作成する。
【0059】
[ステップS15]2Dセグメンテーション処理部122は、全スライス面を選択済みかを判定する。未選択のスライス面がある場合、処理がステップS11に進められ、未選択のスライス面のうちの1つが選択される。一方、全スライス面を選択済みの場合、処理がステップS16に進められる。
【0060】
[ステップS16]3Dセグメンテーション処理部123は、断層画像セットに基づいて、ボリュームデータを作成する。
[ステップS17]3Dセグメンテーション処理部123は、作成されたボリュームデータを、3Dモデルデータ20aに基づく3Dモデル20に適するサイズにリサイズする。
【0061】
[ステップS18]3Dセグメンテーション処理部123は、リサイズされたボリュームデータを3Dモデル20に入力することで、病変領域のセグメンテーション(3Dセグメンテーション)を実行する。これにより、ボリュームデータの各ボクセルが、病変領域とそれ以外の領域とに分類される。
【0062】
[ステップS19]3Dセグメンテーション処理部123は、ステップS18の処理結果に基づき、各スライス面に対応する3D結果画像を作成する。3D結果画像は、リサイズされたボリュームデータにおけるスライス面に対応する画像のうち、病変領域の画素を「1」とし、それ以外の領域の画素を「0」とした画像を、入力された断層画像セットの断層画像と同じサイズにリサイズすることで作成される。
【0063】
次に、組合せ判定部124により、2Dセグメンテーションの処理結果と3Dセグメンテーションの処理結果との組合せに基づいて最終的なセグメンテーション結果が算出される。
【0064】
2Dセグメンテーションでは、肝内胆管の拡張を示す病変領域の形状特徴がアキシャル面に現れている場合には、その病変領域を比較的精度よく検出可能である。しかし、アキシャル面に現れる形状が類似する他の病変(例えば、嚢胞)の領域を過検出する場合がある。
【0065】
一方、3Dセグメンテーションでは、目的の病変領域の三次元的な形状特徴を捉えることができるので、肝内胆管の拡張を示す病変領域だけを検出できる可能性が高く、嚢胞などの他の病変領域を過検出する可能性は低い。しかし、前述したように、推論時に入力されるボリュームデータの作成元となった断層画像セットのスライス間隔が学習時より大きい場合に、肝内胆管の拡張を示す病変領域を精度よく検出できない可能性がある。例えばこのような場合には、スライス面上で実際の病変領域より広く検出される可能性がある。
【0066】
そこで、組合せ判定部124は基本的に、2Dセグメンテーションによって検出された病変領域が、3Dセグメンテーションによって検出された病変領域の少なくとも一部と重複している場合には、前者の病変領域を正しく検出された領域と判定する。一方、組合せ判定部124は、前者の病変領域が後者の病変領域と重複していない場合、前者の病変領域は過検出されたものであると判定し、この病変領域を最終的な検出結果に採用せずに棄却する。
【0067】
図10は、組合せ判定処理を示す第1の図である。この
図10を用いて、上記のような基本的な組合せ判定処理の手順について説明する。
組合せ判定部124は、まず、
図9のステップS14でスライス面ごとに作成された2D結果画像(2D結果画像セット)に基づいて、3Dラベリング処理を実行する。また、組合せ判定部124は、
図9のステップS19でスライス面ごとに作成された3D結果画像(3D結果画像セット)に基づいて、3Dラベリング処理を実行する。
【0068】
3Dラベリング処理では、同一断層画像上および隣接する断層画像間で同一の画素値「1」を有する画素が連続する場合に、それらの画素に同一値のラベルが割り当てられる。そして、同一値のラベルが割り当てられた画素の領域が連結される。これにより、画素が連結された連結領域(閉領域)のそれぞれに対して異なる値のラベルが割り当てられた状態となり、ラベルの値によって連結領域を識別可能になる。
【0069】
画素(ボクセル)の連結性は、例えば、6連結方式、18連結方式、26連結方式などを用いて判定される。6連結方式では、ボクセル値「1」の対象ボクセルに対して面を介して接する周囲の6ボクセルのそれぞれについて、ボクセル値が同じ「1」である場合に対象ボクセルと同一値のラベルが割り当てられ、これらが連結される。18連結方式では、ボクセル値「1」の対象ボクセルに対して面および辺を介して接する周囲の18ボクセルのそれぞれについて、ボクセル値が同じ「1」である場合に対象ボクセルと同一値のラベルが割り当てられ、これらが連結される。26連結方式では、ボクセル値「1」の対象ボクセルに対して面、辺および頂点を介して接する周囲の26ボクセルのそれぞれについて、ボクセル値が同じ「1」である場合に対象ボクセルと同一値のラベルが割り当てられ、これらが連結される。
【0070】
次に、組合せ判定部124は、2D結果画像セットを基に検出された連結領域と、3D結果画像セットを基に検出された連結領域とを比較する。組合せ判定部124は、前者の連結領域が、後者の連結領域の少なくとも一部と重複する場合に、前者の連結領域を正しく検出された領域と判定し、最終的な検出結果として採用する。
【0071】
図10では、2D結果画像セットに基づく連結領域と3D結果画像セットに基づく連結領域との組合せパターンについて、複数の例を示している。なお、
図10にパターンごとに示す2D結果画像、3D結果画像および分類結果画像は、同一のスライス面に対応する画像を示している。また、分類結果画像は、最終的に病変領域として検出された画素を「1」とし、それ以外の画素を「0」とした画像である。
【0072】
パターン1では、2D結果画像セットから連結領域51a,51bが検出されており、これらが2D結果画像に写っている。また、3D結果画像セットから連結領域51cが検出されており、これが同じスライス面の3D結果画像に写っている。連結領域51aは、連結領域51cの一部と重複していることから、最終的な病変領域の検出結果として採用される。一方、連結領域51bは、3D結果画像セットから検出された連結領域と重複していないので、病変領域の検出結果から棄却される。
【0073】
パターン2では、2D結果画像セットから連結領域52a,52bが検出されており、これらが2D結果画像に写っている。また、3D結果画像セットから連結領域52cが検出されており、これが同じスライス面の3D結果画像に写っている。連結領域52aは、連結領域52cの一部と重複していることから、最終的な病変領域の検出結果として採用される。一方、連結領域52bは、3D結果画像セットから検出された連結領域と重複していないので、病変領域の検出結果から棄却される。
【0074】
パターン3では、2D結果画像セットから連結領域53a,53bが検出されており、これらが2D結果画像に写っている。また、3D結果画像セットから連結領域53cが検出されており、これが同じスライス面の3D結果画像に写っている。連結領域53aは、3D結果画像セットから検出された連結領域と重複していないので、病変領域の検出結果から棄却される。一方、連結領域53bは、連結領域53cの一部と重複していることから、最終的な病変領域の検出結果として採用される。
【0075】
パターン4では、2D結果画像セットから連結領域54aが検出されており、これが2D結果画像に写っている。また、3D結果画像セットから連結領域54bが検出されており、これが同じスライス面の3D結果画像に写っている。連結領域54aは、連結領域54bの一部と重複していることから、最終的な病変領域の検出結果として採用される。
【0076】
以上の手順により、2D結果画像セットから検出された連結領域のうち、3D結果画像セットから検出された連結領域の少なくとも一部と重複している連結領域のみが、最終的な病変領域の検出結果として採用される。組合せ判定部124は、このような検出結果に基づいて、スライス面ごとの分類結果画像を作成する。
【0077】
このような組合せ判定処理により、2Dセグメンテーションによる過検知の発生を抑制でき、セグメンテーション精度を向上させることができる。すなわち、2Dセグメンテーションによって検出された連結領域の中には、誤って検出された領域が含まれ得る。一方、3Dセグメンテーションでは、病変領域の三次元形状をより正確に捉えた検出処理を期待できる。しかし、入力された断層画像セットのスライス数によっては、検出精度が低下する可能性がある。これに対して、2Dセグメンテーションによって検出された連結領域が、3Dセグメンテーションによって検出された連結領域の少なくとも一部と重複している場合には、前者の連結領域は信頼性が高いと推定される。したがって、このような処理によってセグメンテーション精度を向上させることができる。
【0078】
また、2Dセグメンテーションによる検出結果の中から最終的な検出結果が選択される。これにより、推論時に入力された断層画像セットのスライス数と、学習時に用いられたボリュームデータの作成元となった断層画像セットのスライス数との一致・不一致に関係なく、上記のセグメンテーション精度の向上効果を得ることが可能となる。
【0079】
図11は、組合せ判定処理を示す第2の図である。組合せ判定部124は、
図10で説明した処理を実行した後、以下のような処理を追加的に実行する。
組合せ判定部124は、3D結果画像セットから検出された連結領域の中から、体積が最大の連結領域を選択する。組合せ判定部124は、選択された連結領域を含むスライス面を選択し、このスライス面に対応する分類結果画像に病変領域が存在するかを判定する。
【0080】
図11に示す分類結果画像61には、病変領域61aが存在している。この場合、組合せ判定部124は、病変領域61aに対して、その周囲を拡大する膨張処理を施す。
図11の例では、病変領域61aの外縁に接する1画素分の領域を病変領域61aに加える膨張処理を施すことで、膨張領域61bが設定されている。
【0081】
組合せ判定部124は、膨張領域61bと、同一スライス面の3D結果画像62に含まれる病変領域62aとのAND(論理積)演算を実行する。組合せ判定部124は、このAND演算の結果、膨張領域61bと病変領域62aとの間で重複すると判定された画素を、分類結果画像に対して病変領域として追加する。実際の処理としては、膨張領域61bと病変領域62aとの間で重複すると判定された画素のうち、分類結果画像61において画素値「0」の画素について、画素値が「1」に更新される。
図11では、このように画素値が更新された分類結果画像63において、病変領域61aより拡大された病変領域63aが設定されている。
【0082】
この例では、分類結果画像61に含まれる病変領域61aは、2D結果画像セットから検出された病変領域のうち、信頼性の高い病変領域を示している。このような信頼性の高い病変領域の周囲に位置する、3D結果画像セットから検出された病変領域も、検出結果としての信頼性が高いと推定される。そこで、後者の病変領域も最終結果に組み入れることで、より正確な病変検出が可能となる。
【0083】
なお、膨張処理における膨張数(病変領域の周囲に拡大する画素の数)は、任意に設定可能である。膨張数を高くするほど、再現率が上昇するが、適合率が低下する傾向がある。
【0084】
一方、図示しないが、組合せ判定部124は、最大体積の連結領域を含むスライス面に対応する分類結果画像に、病変領域が存在しない場合には、同一スライス面の3D結果画像に含まれる病変領域を正しい検出結果と判定し、この病変領域を分類結果画像に追加する。実際の処理としては、分類結果画像の画素のうち、3D結果画像に含まれる病変領域の画素について、画素値が「0」から「1」に更新される。
【0085】
3D結果画像セットから検出された連結領域のうち、体積が小さい連結領域は、誤って検出された可能性が高いが、体積が大きい連結領域は正確に検出された可能性が高い。上記処理によれば、後者の連結領域に含まれる分類結果画像の画素も病変領域として検出することで、2Dセグメンテーションによる病変領域の検出漏れの発生を抑制し、セグメンテーション精度を向上させることができる。
【0086】
図12、
図13は、組合せ判定処理の手順を示すフローチャートの例である。
[ステップS21]組合せ判定部124は、2Dセグメンテーションによって作成された2D結果画像セットに基づいて3Dラベリング処理を実行し、三次元空間における病変の連結領域を検出する。
【0087】
[ステップS22]組合せ判定部124は、3Dセグメンテーションによって作成された3D結果画像セットに基づいて3Dラベリング処理を実行し、三次元空間における病変の連結領域を検出する。
【0088】
[ステップS23]組合せ判定部124は、2D結果画像セットに基づく連結領域を1つ選択する。
[ステップS24]組合せ判定部124は、選択された連結領域が、3D結果画像セットに基づいて検出された連結領域の少なくとも一部と重なっているかを判定する。前者の連結領域が後者の連結領域の少なくとも一部と重なっている場合、処理がステップS25に進められ、前者の連結領域が後者のいずれの連結領域とも重なっていない場合、処理がステップS26に進められる。
【0089】
[ステップS25]組合せ判定部124は、ステップS23で選択された連結領域を正しい病変領域と判定する。
[ステップS26]組合せ判定部124は、2D結果画像セットに基づいて検出された連結領域のすべてを選択済みかを判定する。未選択の連結領域がある場合、処理がステップS23に進められ、未選択の連結領域の中から1つが選択される。一方、すべての連結領域を選択済みの場合、処理がステップS27に進められる。
【0090】
[ステップS27]組合せ判定部124は、ステップS25での判定結果に基づいて、各スライス面に対応する分類結果画像を作成する。分類結果画像は、該当するスライス面の断層画像において、ステップS25で病変領域と判定された領域に含まれる画素を「1」とし、それ以外の画素を「0」とした画像である。
【0091】
[ステップS28]組合せ判定部124は、3D結果画像セットに基づいて検出された連結領域の中から、最大体積の連結領域を選択する。
[ステップS29]組合せ判定部124は、ステップS28で選択された連結領域を含むスライス面を選択する。
【0092】
[ステップS30]組合せ判定部124は、選択されたスライス面に対応する分類結果画像に病変領域が存在するかを判定する。病変領域が存在する場合、処理がステップS31に進められ、病変領域が存在しない場合、処理がステップS33に進められる。
【0093】
[ステップS31]組合せ判定部124は、分類結果画像上の病変領域に膨張処理を施し、病変領域が拡大された膨張領域を設定する。
[ステップS32]組合せ判定部124は、設定された膨張領域と、同じスライス面の3D結果画像に存在する病変領域とのAND演算を実行する。組合せ判定部124は、AND演算の結果、前者の膨張領域と後者の病変領域との間で重複すると判定された画素を、正しい病変領域と追加的に判定する。組合せ判定部124は、分類結果画像上の画素値「0」の画素のうち、AND演算によって重複すると判定された画素の画素値を「1」に更新する。
【0094】
[ステップS33]組合せ判定部124は、3D結果画像上に存在する病変領域(最大体積の連結領域に対応する領域)を、正しい病変領域と追加的に判定する。組合せ判定部124は、分類結果画像上の画素値「0」の画素のうち、3D結果画像から病変領域と判定された画素の画素値を「1」に更新する。
【0095】
[ステップS34]組合せ判定部124は、ステップS28で選択された連結領域を含むすべてのスライス面を選択済みかを判定する。未選択のスライス面がある場合、処理がステップS29に進められ、未選択のスライス面の1つが選択される。一方、該当するすべてのスライス面を選択済みの場合、組合せ判定処理が終了し、この時点におけるスライス面ごとの分類結果画像が出力される。
【0096】
図14は、病変領域の検出結果の画面表示例を示す図である。診断支援装置100は、スライス面ごとに作成された分類結果画像を用いて、病変領域の検出結果を示す情報を出力することができる。例えば、診断支援装置100は、
図14に示すような結果表示画面を表示装置に表示させることができる。結果表示画面70は、スライス選択部71、断層画像表示部72および病変検出領域表示部73を含む。
【0097】
スライス選択部71では、スライダ上のハンドル71aを移動させることで、断層画像表示部72に表示させる断層画像のスライス面を選択できるようになっている。断層画像表示部72には、スライス選択部71で選択されたスライス面に対応する断層画像が表示される。この断層画像には、同じスライス面に対応する分類結果画像に基づいて、病変領域72aが重畳表示される。すなわち、病変領域72aは、分類結果画像における画素値「1」の領域を示す。
【0098】
病変検出領域表示部73は、スライス選択部71におけるハンドル71aの可動領域のうち、病変領域が検出されているスライス面(画素値「1」の画素が存在する分類結果画像に対応するスライス面)の範囲を示す。この病変検出領域表示部73の表示により、ユーザは、病変領域が検出されているスライス面を容易に認識し、それらのスライス面に対応する断層画像を迅速に表示させ、その断層画像上の病変領域を確認できるようになる。
【0099】
なお、診断支援装置100の上記処理によれば、推論時に入力された断層画像セットのスライス数と、学習時に用いられたボリュームデータの作成元となった断層画像セットのスライス数との一致・不一致に関係なく、セグメンテーション精度を向上させることができる。このような観点に加えて、3Dモデル20の学習時において、教師データとして用いられる各ボリュームデータは、必ずしも同一のスライス間隔の断層画像セットを基に作成されたものとは限らない。スライス間隔の異なる断層画像セットに基づくボリュームデータを用いて機械学習が行われることで、作成された3Dモデル20のセグメンテーション精度が低下する可能性がある。上記の診断支援装置100は、このような3Dモデル20によるセグメンテーション結果を2Dモデル10によるセグメンテーション結果と組み合わせて最終結果を出力することで、前者の結果だけを用いた場合よりセグメンテーション精度を改善することもできる。
【0100】
また、上記の第2の実施の形態では、臓器として肝臓を適用し、検出対象の病変として肝内胆管の拡張を適用した例について説明した。しかし、臓器や病変は上記の例に限定されるものではなく、他の臓器における他の病変の検出のために上記技術を適用することも可能である。
【0101】
<第2の実施の形態の変形例>
次に、第2の実施の形態における診断支援装置100の処理の一部を変形した変形例について説明する。この変形例では、特定の病変として、球状の病変の領域、特に腫瘤の領域を検出する場合について示す。
【0102】
例えば、周辺の領域より暗い腫瘤の領域は、機械学習により作成された学習済みモデルを用いて検出可能であるが、正常な臓器領域(腫瘤が存在しない臓器領域)に対する過検出が発生する場合がある。過検出が多いと、読影は断層画像セットの中から余計な断層画像を確認する必要が生じ、確認に要する時間が長くなり、作業効率が低下する。一方、機械学習を用いた画像認識では、一般的に過検出と検出漏れとはトレードオフの関係にあり、検出漏れを増やさずに過検出の発生を抑制することは容易でない。
【0103】
そこで、2Dセグメンテーションの結果と3Dセグメンテーションの結果との組合せから病変領域を最終的に検出することで、過検出および検出漏れの発生を抑制し、病変領域の検出精度を向上させる。
【0104】
腫瘤領域の2Dセグメンテーションは、色に対する感度が強い。このため、周囲より暗い腫瘤領域の特徴を機械学習した場合、色への感度が強くなり、暗い円形の正常臓器領域を過検出しやすくなる。例えば、血管は2D画像上では円形で現れるので、腫瘤と誤って検出される場合がある。
【0105】
一方、3Dセグメンテーションは、三次元的な形状の特徴を機械学習するため、血管を過検出する可能性は低い。しかし、臓器の陰影の具合によっては、腫瘤と類似する形状の正常臓器領域を過検出する可能性がある。
【0106】
このように、球状の病変の検出では、2Dセグメンテーションと3Dセグメンテーションの両方で過検出が発生する可能性があるが、過検出の傾向は異なる。そこで、2Dセグメンテーションによって検出された病変領域と、3Dセグメンテーションによって検出された病変領域とが重複していない場合に過検出と判定することで、過検出の発生を抑制することが可能となる。
【0107】
この変形例において、診断支援装置100は、検出対象の病変を腫瘤として
図9と同様の2Dおよび3Dのセグメンテーション処理を実行する。その後、次の
図15に示す処理が実行される。
【0108】
図15は、変形例における組合せ判定処理の手順を示すフローチャートの例である。
図15では、
図12と同じ処理が実行される処理ステップには同じ符号を付して示している。
【0109】
診断支援装置100は、作成された2D結果画像セットおよび3D結果画像セットを用いてステップS21,S22の処理を実行する。その後、
図15に示すステップS41~S45の処理が実行される。
【0110】
[ステップS41]組合せ判定部124は、3D結果画像セットに基づく連結領域を1つ選択する。
[ステップS42]組合せ判定部124は、選択された連結領域が、2D結果画像セットに基づいて検出された連結領域の少なくとも一部と重なっているかを判定する。前者の連結領域が後者の連結領域の少なくとも一部と重なっている場合、処理がステップS43に進められ、前者の連結領域が後者のいずれの連結領域とも重なっていない場合、処理がステップS44に進められる。
【0111】
[ステップS43]組合せ判定部124は、ステップS41で選択された連結領域を正しい病変領域(腫瘤領域)と判定する。
[ステップS44]組合せ判定部124は、3D結果画像セットに基づいて検出された連結領域のすべてを選択済みかを判定する。未選択の連結領域がある場合、処理がステップS41に進められ、未選択の連結領域の中から1つが選択される。一方、すべての連結領域を選択済みの場合、処理がステップS45に進められる。
【0112】
[ステップS45]組合せ判定部124は、ステップS43での判定結果に基づいて、各スライス面に対応する分類結果画像を作成する。分類結果画像は、該当するスライス面の断層画像において、ステップS43で病変領域と判定された領域に含まれる画素を「1」とし、それ以外の画素を「0」とした画像である。
【0113】
上記処理では、2Dセグメンテーションと比較して3Dセグメンテーションの方が腫瘤領域の検出精度が高いと考えられることから、前者による連結領域が、後者による連結領域の少なくとも一部と重複する場合に、前者による連結領域が正しい病変領域と判定されている。これにより、過検出および検出漏れの発生を抑制し、病変領域の検出精度を向上させることができる。
【0114】
なお、上記の各実施の形態に示した装置(例えば、病変検出装置1、診断支援装置100)の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、各装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、半導体メモリなどがある。磁気記憶装置には、ハードディスク装置(HDD)、磁気テープなどがある。光ディスクには、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:BD、登録商標)などがある。
【0115】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CDなどの可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0116】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムにしたがった処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムにしたがった処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムにしたがった処理を実行することもできる。
【符号の説明】
【0117】
1 病変検出装置
2 処理部
3a~3c 断層画像
4,7 ボリュームデータ
5a,5b 機械学習モデル
6a~6c,8a~8c 検出結果画像