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特開2024-32097硬化性セメント組成物の製造方法、硬化性セメント組成物及びセメント硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032097
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】硬化性セメント組成物の製造方法、硬化性セメント組成物及びセメント硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20240305BHJP
   C04B 14/36 20060101ALI20240305BHJP
   C04B 24/00 20060101ALI20240305BHJP
   C04B 103/30 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/36
C04B24/00
C04B103:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135554
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】木原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】清水 和昭
(72)【発明者】
【氏名】幸田 圭司
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA14
4G112PA20
4G112PA25
4G112PC02
(57)【要約】
【課題】製造時の二酸化炭素排出量を削減できる、硬化性セメント組成物の製造方法の提供。
【解決手段】セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを混合して硬化性セメント組成物を製造する方法であって、前記バイオ炭として、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を用いる、硬化性セメント組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを混合して硬化性セメント組成物を製造する方法であって、
前記バイオ炭として、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を用いる、硬化性セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
前記複数のバイオ炭粒子群のそれぞれについて、予め、前記バイオ炭粒子群の添加量及び前記AE剤の添加量を説明変数とし、前記硬化性セメント組成物の空気量を目的変数とする重回帰分析により、前記バイオ炭粒子群の添加量の回帰係数を求め、
前記回帰係数を用いて、前記複数のバイオ炭粒子群の比率を設計する、請求項1に記載の硬化性セメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記化学混和剤がさらにAE減水剤を含み、
前記重回帰分析において、前記バイオ炭粒子群の添加量、前記AE剤の添加量、及び前記AE減水剤の添加量を前記説明変数とする、請求項2に記載の硬化性セメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記複数のバイオ炭粒子群として、粒径が1mm以下の粉状バイオ炭と、粒径が1mmを超える粒状バイオ炭とを用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性セメント組成物の製造方法。
【請求項5】
セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを含む硬化性セメント組成物であって、
前記バイオ炭が、粒径が1mm以下の粉状バイオ炭と、粒径が1mmを超える粒状バイオ炭とを含む、硬化性セメント組成物。
【請求項6】
前記化学混和剤がさらにAE減水剤を含む、請求項5に記載の硬化性セメント組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の硬化性セメント組成物を硬化したセメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化性セメント組成物の製造方法、硬化性セメント組成物及びセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは製造時に二酸化炭素を多量に排出するセメントを用いるため、二酸化炭素排出量が非常に多い材料である。従来技術では、セメントの代替として、副産物である高炉スラグ微粉末を多量に用いる低炭素セメントが用いられている例が多い。
【0003】
特許文献1には、プレミクスモルタル製品中、セメントと、低炭素材料が少なくとも2種以上配合されてなる低炭素複合材とを、質量比が97:3~70:30の配合で含有することにより、該プレミクスモルタル製品の製造時の二酸化炭素排出量を、低炭素材料を含まないプレミクス製品製造時の二酸化炭素排出量と比較して0.03CO-kg/kg以上削減することを特徴とする、プレミクスモルタル製品製造時の二酸化炭素排出量の削減方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、所定の大きさに破砕したコンクリート塊を100~500℃に加熱処理後、すりもみ処理することによって、該コンクリート塊から骨材を回収する際に生じる副産微粉を、セメントに所定割合混入させたことを特徴とする環境負荷低減型セメントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-207686号公報
【特許文献2】特開2003-104763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、高炉スラグ微粉末を多量に用いた低炭素セメントを用いた場合、コンクリート製造時の二酸化炭素排出量を低減することは可能だが、セメントによる二酸化炭素排出量をゼロにはできないため、充分とは言えない。
【0007】
本発明は、製造時の二酸化炭素排出量を削減できる、硬化性セメント組成物の製造方法を提供することを課題のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、バイオ炭の二酸化炭素固定効果に着目し、硬化性セメント組成物にバイオ炭を含有させることで二酸化炭素排出量を削減する方法を見出した。そして検討を進めるなかで、AE剤(空気連行剤)を含む硬化性セメント組成物にバイオ炭を混入させると、空気が入り難くなる場合があることを知見した。AE剤の一部がバイオ炭の未燃炭素に吸着されたと考えられる。かかる知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1] セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを混合して硬化性セメント組成物を製造する方法であって、前記バイオ炭として、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を用いる、硬化性セメント組成物の製造方法。
[2] 前記複数のバイオ炭粒子群のそれぞれについて、予め、前記バイオ炭粒子群の添加量及び前記AE剤の添加量を説明変数とし、前記硬化性セメント組成物の空気量を目的変数とする重回帰分析により、前記バイオ炭粒子群の添加量の回帰係数を求め、前記回帰係数を用いて、前記複数のバイオ炭粒子群の比率を設計する、[1]の硬化性セメント組成物の製造方法。
[3] 前記化学混和剤がさらにAE減水剤を含み、前記重回帰分析において、前記バイオ炭粒子群の添加量、前記AE剤の添加量、及び前記AE減水剤の添加量を前記説明変数とする、[2]の硬化性セメント組成物の製造方法。
[4] 前記複数のバイオ炭粒子群として、粒径が1mm以下の粉状バイオ炭と、粒径が1mmを超える粒状バイオ炭とを用いる、[1]~[3]のいずれかの硬化性セメント組成物の製造方法。
[5] セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを含む硬化性セメント組成物であって、前記バイオ炭が、粒径が1mm以下の粉状バイオ炭と、粒径が1mmを超える粒状バイオ炭とを含む、硬化性セメント組成物。
[6] 前記化学混和剤がさらにAE減水剤を含む、[5]の硬化性セメント組成物。
[7] 前記[5]又は[6]の硬化性セメント組成物を硬化したセメント硬化体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造時の二酸化炭素排出量を削減できる硬化性セメント組成物を提供することができる。
【0011】
本発明の硬化性セメント組成物は、その硬化物であるセメント硬化体(コンクリート)にバイオ炭が長期にわたり分解されずに貯留されることで、二酸化炭素固定効果を発揮し、二酸化炭素の排出量を削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0013】
本発明の硬化性セメント組成物の製造方法は、セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、化学混和剤とを混合する工程を有する。
本発明の硬化性セメント組成物は、セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、化学混和剤とを含む。
【0014】
<硬化性セメント組成物>
(セメント)
前記セメントは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体であれば特に限定されない。例えば、ポルトランドセメント(JIS R 5210:2009)、高炉セメント(JIS R 5211:2009)、シリカセメント(JIS R 5212:2009)、フライアッシュセメント(JIS R 5213:2009)、及びエコセメント(JIS R 5214:2009)が挙げられる。
前記セメントとしては、ポルトランドセメント及び高炉セメントからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメントA種、高炉セメントB種、及び高炉セメントC種からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0015】
ポルトランドセメントは、普通・早強・超早強・中庸熱・低熱・耐硫酸塩の6種類の各ポルトランドセメントと、それぞれの低アルカリ形の合計12種類が規格化されている(JIS R 5210:2009)。
【0016】
高炉セメントは、高炉スラグの混合量によって、高炉セメントA種、高炉セメントB種、高炉セメントC種に分類されている(JIS R 5211:2009)。
高炉セメントA種・・・高炉スラグ混合量5~30質量%
高炉セメントB種・・・高炉スラグ混合量10~60質量%
高炉セメントC種・・・高炉スラグ混合量60~70質量%
【0017】
ポルトランドセメントは、製造工程における焼成の際の石灰石の熱分解(CaCO→CaO+CO↑)と焼成に要する燃料から二酸化炭素が発生する。一方、高炉セメントの混合材である高炉スラグ微粉末は、焼成が不要なため、その混合量に比例してセメント製造時に発生する二酸化炭素量を削減できる。そのため、本実施形態に係る硬化性セメント組成物に使用するセメントとしては、高炉セメントが好ましく、高炉スラグ混合量が多い高炉セメントB種又は高炉セメントC種がより好ましく、高炉セメントC種がさらに好ましい。また、高炉セメントとしては、高炉セメントC種と同等の高炉スラグ混合量であるECM(登録商標)(エネルギー・CO・ミニマム)セメントを使用してもよい。
【0018】
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記セメントの含有量は、特に限定されない。例えば、200~500kg/mが好ましく、250~400kg/mがより好ましく、300~350kg/mがさらに好ましい。
【0019】
(水)
前記水は、特に限定されず、水道水、井水、地下水等、通常、セメントを練る際に用いられる水を使用できる。
【0020】
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記水の含有量は、特に限定されない。例えば、50~250kg/mが好ましく、100~200kg/mがより好ましい。
【0021】
また、本実施形態の硬化性セメント組成物における前記水の前記セメントに対する割合を表す水/セメント比(単位:質量%)は、特に限定されない。例えば、40~65質量%が好ましく、45~60質量%がより好ましい。
【0022】
(骨材)
前記骨材は、粒の大きさにより細骨材と粗骨材に分類される。
【0023】
(細骨材)
前記細骨材は、特に限定されず、通常、セメントと混合して用いられる細骨材を使用できる。例えば、粒径が5mm以下の砂が好ましい。なお、前記細骨材の粒径は、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径である。
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記細骨材の含有量は、特に限定されない。例えば、600~1000kg/mが好ましく、700~900kg/mがより好ましい。
【0024】
(粗骨材)
前記粗骨材は、特に限定されず、通常、セメントと混合して用いられる粗骨材を使用できる、例えば、粒径が5mm超の砂利(砕石)が好ましい。前記砂利(砕石)の粒径の上限は特に限定されない。例えば、25mm以下が好ましい。なお、前記粗骨材の粒径は、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径である。
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記粗骨材の含有量は、特に限定されない。例えば、800~1200kg/mが好ましく、900~1100kg/mがより好ましい。
【0025】
(バイオ炭)
前記バイオ炭は、燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物である(2006年IPCC国別温室効果ガスインベントリガイドラインの2019年改良)。
【0026】
前記バイオ炭の原料であるバイオマスとしては、木材、おがくず、竹、草本、もみ殻、稲わら、木の実、家畜糞尿、製紙汚泥、下水汚泥等が挙げられる。前記バイオ炭として、原料が異なる2種以上のバイオ炭を併用してもよい。
前記バイオ炭の種類は、炭素含有率が高い点で、木材、おがくずを原料とするバイオ炭が好ましい。安価で入手しやすい点で、おがくずを原料とするバイオ炭がより好ましい。
【0027】
前記バイオ炭は、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を含む。好ましくは、粉状バイオ炭と粒状バイオ炭を含む。
本明細書において、「粉状バイオ炭」は粒径が1mm以下のバイオ炭粒子群を意味し、「粒状バイオ炭」は粒径が1mmを超えるバイオ炭粒子群を意味する。
粉状バイオ炭の粒径は、0.1mm以上、1mm以下が好ましい。粒状バイオ炭の粒径は1mm超、10mm以下が好ましい。
なお、本明細書における粒径は、1mm超の粒径については、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径であり、1mm以下の粒径については、レーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定により得られる平均粒径である。
【0028】
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記バイオ炭の含有量は、多いほど二酸化炭素固定化量(二酸化炭素削減量)を増大できる。前記バイオ炭の含有量の上限は、目標の空気量を得るために必要なAE剤の添加量が過剰とならない範囲が好ましい。
例えば、硬化性セメント組成物の1m当たりのバイオ炭の含有量は、5~150kg/mが好ましく、10~100kg/mがより好ましく、15~80kg/mがさらに好ましく、15~60kg/mが特に好ましい。
【0029】
粉状バイオ炭と粒状バイオ炭の比率は後述の方法で設計することが好ましい。例えば、粉状バイオ炭と粒状バイオ炭の合計に対して、粉状バイオ炭の割合は、1~99質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましい。
粒状バイオ炭は、粒径が2~5mmのバイオ炭粒子群を含むことが好ましい。粒状バイオ炭は、粒径が1mm超かつ2mm未満のバイオ炭粒子、及び粒径が5mm超のバイオ炭粒子の一方又は両方を含んでもよい。粒状バイオ炭の全体に対して、粒径が2~5mmのバイオ炭粒子群の割合は、例えば50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上とすることができる。100質量%でもよい。
【0030】
前記バイオ炭は前記細骨材の一部に置換して使用してもよい。本実施形態の硬化性セメント組成物における前記細骨材及び前記バイオ炭の合計の含有量は、特に限定されないが、600~1000kg/mが好ましく、700~900kg/mがより好ましい。
【0031】
(化学混和剤)
前記化学混和剤は、少なくともAE剤を含む。さらに、AE減水剤を含むことが好ましい。化学混和剤、AE剤、及びAE減水剤の定義は、JIS A 6204:2011の通りである。
【0032】
前記AE剤の添加量は、少なすぎると硬化性セメント組成物に導入される空気量が不十分となり、多すぎると硬化後のコンクリートの強度低下が生じるため、これらの不都合が生じない範囲が好ましい。
【0033】
AE減水剤の添加量は、硬化性セメント組成物の空気量及びスランプが適切な範囲となるように調整される。
【0034】
前記化学混和剤は、AE剤及びAE減水剤以外の、他の化学混和材を含んでもよい。他の化学混和材は、硬化性セメント組成物において公知のものを使用できる。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態の硬化性セメント組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記以外の従来使用されている成分を混合して使用してもよい。
【0036】
<空気量及びスランプ>
本実施形態の硬化性セメント組成物の空気量は、3.0~6.0%が好ましい。
本明細書において、硬化性セメント組成物の空気量は、JIS A 1128:2014「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法-空気室圧力方法」により測定した値である。
【0037】
本実施形態の硬化性セメント組成物のスランプは、8~18cmが好ましい。
本明細書において、硬化性セメント組成物のスランプは、JIS A 1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」により測定した値である。
【0038】
<硬化性セメント組成物の製造方法>
本実施形態の硬化性セメント組成物は、セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、化学混和剤とを混練することにより製造できる。
混練の方法は特に限定されず、重力式ミキサ(傾胴型ドラムミキサ等)、強制練りミキサ(水平1軸形、水平2軸形、パン型等)等を用いて、従来公知の硬化性セメント組成物の混練方法により行うことができる。
【0039】
前記バイオ炭として、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を用いる。
後述の実施例に示されるように、AE剤を含む硬化性セメント組成物において、バイオ炭の配合量の変化に伴う空気量の変化は、バイオ炭の粒径によって変わる。したがって、粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群を組み合わせることによって、硬化性セメント組成物の空気量を調整することができる。
【0040】
粒径が互いに異なる複数のバイオ炭粒子群の各使用量の比率は、以下の方法で設計できる。
まず、各バイオ炭粒子群について、バイオ炭粒子群の添加量が、硬化性セメント組成物の空気量に与える影響を調べる。好ましくは、重回帰分析法を用いて回帰係数を求める。
具体的には、セメントと、水と、骨材と、バイオ炭と、AE剤を含む化学混和剤とを混練(試験練り)して硬化性セメント組成物を調製し、得られた硬化性セメント組成物の空気量を測定する。試験練りにおいて、バイオ炭以外の成分の配合割合は、バイオ炭を含まずに、硬化性セメント組成物の空気量及びスランプが目標値となる配合割合(以下、基本配合ともいう)とする。この基本配合にバイオ炭粒子群を加えるとともに、バイオ炭粒子群の添加量を段階的に変えて試験練りを複数回行い、各回の空気量の測定値を記録する。
バイオ炭粒子群の添加量及びAE剤の添加量を説明変数とし、硬化性セメント組成物の空気量を目的変数として重回帰分析を行い、バイオ炭粒子群の添加量及びAE剤の添加量の回帰係数を求める。
なお、基本配合において、前記化学混和剤がAE剤とAE減水剤を含む場合は、前記重回帰分析における説明変数を、バイオ炭粒子群の添加量と、AE剤の添加量と、AE減水剤の添加量の3つとし、それぞれの回帰係数を求める。また、前記化学混和剤がAE剤及びAE減水剤のほかに、空気連行作用を有する化学混和剤を含む場合は、前記空気連行作用を有する化学混和剤の添加量を説明変数に加える。
【0041】
このようにして得られる回帰係数は、各バイオ炭粒子群を単独で添加するときの値であり、これを用いて、複数のバイオ炭粒子を所定の比率及び所定の添加量で添加するときの、硬化性セメント組成物の空気量を予測できる。
また、得られた回帰係数を用いて、硬化性セメント組成物の空気量が目標値となるように、前記複数のバイオ炭粒子群の比率と各添加量を設計することができる。
また、得られた回帰係数を用いて、硬化性セメント組成物の空気量が目標値となるように、前記複数のバイオ炭粒子群の比率と各添加量、及びAE剤の添加量を設計することができる。
また、得られた回帰係数を用いて、所定の空気量を得るために必要なAE剤の添加量が過剰にならないように、硬化性セメント組成物の配合を設計することができる。
【0042】
前記粒径が互いに異なるバイオ炭粒子群として、粉状バイオ炭と粒状バイオ炭を用いることが好ましい。
後述の実施例に示されるように、AE剤を含む硬化性セメント組成物の配合に、粉状バイオ炭を加えた場合、バイオ炭の添加量が増えると硬化性セメント組成物の空気量が減少する傾向がある。一方、粒状バイオ炭を加えた場合は、バイオ炭の添加量の増加に伴う、硬化性セメント組成物の空気量の減少は小さいが、粒状バイオ炭が多孔質であることによって圧送性が低下することが懸念される。
したがって、粉状バイオ炭と粒状バイオ炭を併用し、これらの比率を適切に設計することで、硬化性セメント組成物の空気量及び圧送性を確保しつつ、硬化性セメント組成物(コンクリート)へのバイオ炭の混入量を増やすことができる。
【0043】
[セメント硬化体]
本発明の別の一実施形態に係るセメント硬化体は、上述した硬化性セメント組成物を硬化したものである。前記硬化性セメント組成物の硬化は、通常、0~50℃の温度で静置することにより行う。
【0044】
[バイオ炭の使用]
本発明の一実施形態に係る硬化性セメント組成物において、前記バイオ炭は二酸化炭素固定化材料として使用できるほか、ブリーディング低減材、乾燥収縮抑制材、又はアンモニアガス発散抑制材としても使用できる。
【0045】
(二酸化炭素固定化材料)
バイオ炭については、二酸化炭素貯留方法として農地などの土壌への適用が検討されているが、バイオ炭を土壌に適用した場合、雨等による土壌の流出に伴いバイオ炭が長期間にわたって安定的に固定化されない。一方、バイオ炭を硬化性セメント組成物に適用した場合、セメント硬化体(コンクリート)は長期耐久性があるため、バイオ炭による二酸化炭素固定効果が長期間にわたり安定して発揮される。
【0046】
(ブリーディング低減材)
建設材料として一般的に使用されるコンクリートは、水、セメント、細骨材及び粗骨材を含む硬化性セメント組成物を硬化することで製造されるが、構成材料のうち、密度の最も小さい水が固体材料から遊離して上昇する現象(ブリーディング)が度々生じ、問題となることがある。
【0047】
過度のブリーディング水が発生した場合、コンクリートの性能低下が生じるおそれがある(十河ら、「委員会報告 構造物の耐久性向上のためのブリーディング制御に関する研究委員会」、コンクリート工学年次論文集、2017年、第39巻、第1号、p.19-28)。ここでいう性能低下とは、コンクリート表面の外観(色むら・砂すじ等)や沈降ひび割れの発生、物質移動抵抗性の低下など、様々である。
【0048】
バイオ炭をブリーディング低減材として用いることで、硬化性セメント組成物を製造する際の二酸化炭素排出量を低減できるうえに、硬化性セメント組成物を硬化して得られるセメント硬化体(コンクリート)のブリーディングを低減し、コンクリートの性能低下を防止することができる。
【0049】
ブリーディング試験は、日本コンクリート工学会(Japan Concrete Institute)の「小型容器によるコンクリートのブリーディング試験方法」(JCI-S-015-2018)によって行う。
【0050】
(乾燥収縮抑制材)
従来、セメント硬化体の乾燥収縮により発生するひび割れを抑制するため、主に、膨張材、乾燥収縮低減剤、石灰石骨材等が使用されている。前記膨張材は、セメント硬化体を硬化初期段階で膨張させ圧縮力を与えることで、以後の乾燥収縮による引張応力を打ち消すものである。前記乾燥収縮低減剤は、セメント硬化体の収縮低減効果を持つ化学混和剤である。前記石灰石骨材は、乾燥収縮が小さい骨材を使用することでセメント系硬化物自体の乾燥収縮を抑制するものである。
【0051】
硬化性セメント組成物に使用するセメントとして、特に、高炉セメントB種や高炉セメントC種などの高炉スラグ混合量が多いものを使用する場合、収縮が大きくなる傾向があり、ひび割れが入りやすい。
【0052】
バイオ炭を乾燥収縮抑制材として用いることで、硬化性セメント組成物を製造する際の二酸化炭素排出量を低減できるうえに、硬化性セメント組成物の乾燥収縮を抑制することができる。
【0053】
(アンモニアガス発散抑制材)
新設コンクリートからは材料に含まれる窒素を元にアンモニアガスが発生する。特に、高炉セメントのように高炉スラグを混合したセメントを使用する場合、多量のアンモニアガスが発生しやすい。発生したアンモニアガスにより、新築の美術館や博物館では、収蔵している美術品や文化財が変色してしまうという問題が生じる。
【0054】
アンモニアガスによる美術品や文化財の劣化を回避するため、竣工後半年から1年ほどアンモニアガスの発生が収まるのを待つ措置が取られる場合があるが、竣工した建物をすぐには供用できないため経済的でない。また、アンモニアガスを吸着するシート等が開発されているが、広範囲に貼り付ける作業が必要である。
【0055】
バイオ炭をアンモニアガス発散抑制材として用いることで、硬化性セメント組成物を製造する際の二酸化炭素排出量を低減できるうえに、硬化性セメント組成物を硬化して得られるセメント硬化体(コンクリート)からのアンモニアガスの発散を抑制することができ、アンモニアガス吸着シートなどでカバーしなくてもアンモニアガスが大気中に放出されることを防止し、美術品や文化財のアンモニアガスによる劣化を未然に防ぐことができる。
【0056】
[二酸化炭素排出量の削減方法]
上述した硬化性セメント組成物は、バイオ炭を混合することにより、その製造時の二酸化炭素排出量を削減することができる。
【実施例0057】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[製造例]
<材料>
(C)セメント
ECMセメント(高炉スラグ60~70質量%含有、高炉セメントC種相当)
(W)水
水道水
(S)細骨材
砂(粒径5mm以下)
(G)粗骨材
砂利(粒径5mm超、25mm以下)
(Carb.)バイオ炭
バイオ炭粒子群(1):粒径1mm以下の粉状バイオ炭、おがくず由来。
バイオ炭粒子群(2):粒径2~5mmの粒状バイオ炭、おがくず由来。
【0058】
以下において、バイオ炭の添加量を表すX1の単位は「kg/m」である。AE剤の添加量を表すX2の単位は「A」である。1Aはセメント質量に対して0.001質量%である。AE減水剤の添加量を表すX3の単位は「C×%」である。1(C×%)はセメント質量に対して1質量%である。
【0059】
<製造方法>
ECMセメント、水、砂、砂利、バイオ炭、AE剤、及びAE減水剤を混練(試験練り)して硬化性セメント組成物(フレッシュコンクリート)を製造し、得られた硬化性セメント組成物の空気量を測定した。混練機として強制練りミキサ(水平2軸形)を用いた。
【0060】
(試験例1)
本例ではバイオ炭として、粉状バイオ炭であるバイオ炭粒子群(1)を用いた。バイオ炭の添加量X1をゼロ(基本配合)、15kg/m、30kg/m、60kg/mと変化させて硬化性セメント組成物を製造し、空気量を測定した。
空気量の測定結果に基づいて重回帰分析を行った。目的変数を硬化性セメント組成物の空気量Yとし、説明変数をバイオ炭の添加量X1、AE剤の添加量X2、及びAE減水剤の添加量X3の3つとした。空気量YがX1、X2、X3の各パラメータと線形の関係で表されると仮定した。すなわち、下記の回帰式(1)で表されるとした場合の、回帰係数A1、A2、A3、及び切片Bを求めた。結果を表2に示す。
Y=(A1×X1)+(A2×X2)+(A3×X3)+B・・・(1)
【0061】
(試験例2)
試験例1において、バイオ炭を、粒状バイオ炭であるバイオ炭粒子群(2)に変更した。それ以外は、試験例1と同様にして回帰係数A1、A2、A3、及び切片Bを求めた。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示されるように、空気量Yに対するバイオ炭添加量X1の回帰係数A1は、バイオ炭粒子群(1)では-0.0979(単位:空気量%/バイオ炭kg/m)であり、バイオ炭粒子群(2)では+0.00109(単位:空気量%/バイオ炭kg/m)であった。
すなわち、バイオ炭粒子群(1)の添加量が増大すると、硬化性セメント組成物の空気量が減少する傾向があることがわかった。一方、バイオ炭粒子群(2)の添加量が増大しても、硬化性セメント組成物の空気量はほぼ変わらないか、又は緩やかに増加する傾向があることがわかった。
【0064】
具体的に、上記の回帰係数A1は、バイオ炭粒子群(1)の添加量が10kg/m増加するごとに空気量が0.979%減少し、バイオ炭粒子群(2)の添加量が10kg/m増加するごとに空気量が0.0109%増加することを意味する。
この結果から、例えば、バイオ炭粒子群(1)とバイオ炭粒子群(2)を質量比1:1で混合した混合物を添加する場合は、空気量Yに対する前記混合物の添加量の回帰係数A1は(-0.0979+0.00109)/2=-0.048%/kgとなり、前記混合物の添加量が10kg/m増加するごとに空気量が0.048%減少すると予測できる。すなわち、バイオ炭粒子群(1)の代わりに前記混合物を添加すると、バイオ炭を添加することによる空気量の減少を抑えることができる。その結果、所定の空気量を得るための、AE剤の増量を抑えることができる。さらに、バイオ炭粒子群(1)とバイオ炭粒子群(2)の比率を調整することで、バイオ炭の添加による空気量の減少をゼロにすることも可能である。
【0065】
(参考例1)
試験例1で得られたバイオ炭粒子群(1)の回帰係数を用い、空気量の目標値を4.5%、及びスランプの目標値を12cm、バイオ炭粒子群(1)の添加量を30kg/mとして、必要なAE剤の添加量を算出すると17.6(A)であった。
【0066】
(実施例1)
参考例1において、バイオ炭粒子群(1)30kg/mの代わりに、バイオ炭粒子群(1)とバイオ炭粒子群(2)の両方を質量比1:1となるように、かつ両者の合計量が30kg/mとなるように添加する配合とした。
試験例1、2で得られたバイオ炭粒子群(1)及びバイオ炭粒子群(2)の回帰係数を用い、空気量の目標値を4.5%、及びスランプの目標値を12cmとして、必要なAE剤の添加量を算出すると3.8(A)であった。参考例1に比べて、AE剤の必要量が低減した。
算出された配合で、全成分を混錬することにより硬化性セメント組成物(フレッシュコンクリート)を製造できる。
【0067】
(実施例2)
参考例1において、バイオ炭粒子群(1)の代わりに、バイオ炭粒子群(1)とバイオ炭粒子群(2)の両方を質量比1:1の比率で用い、かつAE剤の添加量を参考例1と同量の17.6(A)とした。
試験例1、2で得られたバイオ炭粒子群(1)及びバイオ炭粒子群(2)の回帰係数を用い、空気量の目標値を4.5%、スランプの目標値を12cmとすると、バイオ炭粒子群(1)とバイオ炭粒子群(2)の合計の添加量は140kg/mと算出された。参考例1に比べて、バイオ炭の添加量が増大した。
算出された配合で、全成分を混錬することにより硬化性セメント組成物(フレッシュコンクリート)を製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の硬化性セメント組成物の製造方法は、AE剤を含む硬化性セメント組成物に要求される性状を確保しつつ、コンクリートへのバイオ炭の混入量を増加させることができる。
【0069】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本発明の実施形態に係る硬化性セメント組成物及びその製造方法、並びにセメント硬化体は、バイオ炭をコンクリートに添加することによってセメント組成物を製造するため、カーボンニュートラルを達成するための技術の一つとなり得るものであり、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「12.つくる責任 つかう責任」、「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。