(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032099
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】コンクリートの色合わせ方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240305BHJP
C04B 14/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135556
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】幸田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】清水 和昭
(72)【発明者】
【氏名】木原 亮太
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA12
(57)【要約】
【課題】互いに色が異なるコンクリートどうしの色を近づける、色合わせ方法を提供する。
【解決手段】互いに色が異なる2種以上のコンクリートの色を近づける方法であって、前記2種以上のコンクリートのうち、最も色が濃い濃色コンクリートを判定し、前記濃色コンクリートよりも色が薄い淡色コンクリートの、硬化前の硬化性セメント組成物にバイオ炭を添加する、コンクリートの色合わせ方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに色が異なる2種以上のコンクリートの色を近づける方法であって、
前記2種以上のコンクリートのうち、最も色が濃い濃色コンクリートを判定し、前記濃色コンクリートよりも色が薄い淡色コンクリートの、硬化前の硬化性セメント組成物にバイオ炭を添加する、コンクリートの色合わせ方法。
【請求項2】
前記淡色コンクリートの色が前記濃色コンクリートの色に近づくように、前記バイオ炭の、粒径及び添加量の一方又は両方を調整する、請求項1に記載のコンクリートの色合わせ方法。
【請求項3】
コンクリートの色合わせ方法における色合わせ材料としてのバイオ炭の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの色合わせ方法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの仕上がりの色は、使用する材料によって異なる。例えば、セメントとして普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと、高炉セメントを用いたコンクリートとを比較すると、高炉セメントを用いたコンクリートの方が、仕上がりの色が薄く(白っぽく)なる。
【0003】
コンクリート構造物は、部位ごとに数回に分けて打設されるのが一般的であるが、部位によってフレッシュコンクリート(硬化前の硬化性セメント組成物)の配合が異なることがある。例えば、部位によってセメントの種類が異なれば、コンクリート構造物は部位によって仕上がりの色に違いが生じる。その結果、色の統一性のない構造物となってしまい、美観上の観点から問題となることもある。
【0004】
コンクリートの色を調整する方法としては、コンクリートの外面を塗装する方法が一般的であり、コンクリート用の塗料が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塗装により外面の色を調整する方法は、コンクリート打設後の塗装工程が必要になり、手間がかかる。
本発明は、互いに色が異なるコンクリートどうしの色を近づける、色合わせ方法を提供することを課題のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]互いに色が異なる2種以上のコンクリートの色を近づける方法であって、前記2種以上のコンクリートのうち、最も色が濃い濃色コンクリートを判定し、前記濃色コンクリートよりも色が薄い淡色コンクリートの、硬化前の硬化性セメント組成物にバイオ炭を添加する、コンクリートの色合わせ方法。
[2]前記淡色コンクリートの色が前記濃色コンクリートの色に近づくように、前記バイオ炭の、粒径及び添加量の一方又は両方を調整する、[1]のコンクリートの色合わせ方法。
[3]コンクリートの色合わせ方法における色合わせ材料としてのバイオ炭の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、互いに色が異なるコンクリートどうしの色を近づける、色合わせ方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】参考例1、比較例1、及び実施例1~3で製造したコンクリートの外観の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0011】
<コンクリートの色合わせ方法>
本発明のコンクリートの色合わせ方法は、互いに色が異なるコンクリートどうしの色を近づける方法である。
本発明におけるコンクリートは、セメントと、水と、骨材とを含む硬化性セメント組成物(フレッシュコンクリート)が硬化した硬化体である。
コンクリートの色は、通常、白っぽいグレー、青みがかったグレー、黒っぽいグレーなど、グレー系の色調である。前記互いに色が異なるコンクリートは、いずれもグレー系の色調であることが好ましい。
前記互いに色が異なるコンクリートは、互いに組成が異なるコンクリートであることが好ましい。例えば、硬化性セメント組成物の調製に用いたセメントの種類が互いに異なることが好ましい。
前記互いに色が異なるコンクリートは、2種のコンクリートでもよく、3種以上のコンクリートでもよい。
【0012】
本発明のコンクリートの色合わせ方法では、互いに色が異なる2種以上のコンクリートのうち、最も色が濃い濃色コンクリートを判定し、それより色が薄い淡色コンクリートの、硬化前の硬化性セメント組成物にバイオ炭を添加する。
本明細書において「色が薄い」とは相対的に淡く白っぽく見えることを意味し、「色が濃い」とは相対的に黒っぽく見えることを意味する。
【0013】
前記硬化性セメント組成物に、前記バイオ炭を添加することにより、硬化後のコンクリートの色を濃くすることができる。
前記バイオ炭は、前記2種以上のコンクリートの全部の色が互いに近づくように添加すればよい。すなわち、前記バイオ炭は、少なくとも前記淡色コンクリートの硬化前の硬化性セメント組成物に添加する。さらに、前記濃色コンクリートの硬化前の硬化性セメント組成物に、バイオ炭を添加してもよい。
バイオ炭の添加によるコンクリートの色の変化量は、バイオ炭の粒径及び添加量の一方又は両方を変えることによって調整できる。
【0014】
本発明のコンクリートの色合わせ方法では、バイオ炭を色合わせ材料として使用する。本明細書において、色合わせ材料とは、互いに色が異なるコンクリートどうしの色を近づけるために、硬化性セメント組成物に添加される材料を意味する。
前記バイオ炭は、色合わせ材料であるとともに、二酸化炭素を固定する材料(二酸化炭素固定材料)を兼ねることができる。コンクリートにバイオ炭が長期にわたり分解されずに貯留されることで、二酸化炭素固定効果を発揮し、硬化性セメント組成物の製造時の二酸化炭素排出量を削減することができる。
【0015】
<硬化性セメント組成物>
(セメント)
前記セメントは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体であれば特に限定されない。例えば、ポルトランドセメント(JIS R 5210:2009)、高炉セメント(JIS R 5211:2009)、シリカセメント(JIS R 5212:2009)、フライアッシュセメント(JIS R 5213:2009)、及びエコセメント(JIS R 5214:2009)が挙げられる。
前記セメントとしては、ポルトランドセメント及び高炉セメントからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメントA種、高炉セメントB種、及び高炉セメントC種からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0016】
ポルトランドセメントは、普通・早強・超早強・中庸熱・低熱・耐硫酸塩の6種類の各ポルトランドセメントと、それぞれの低アルカリ形の合計12種類が規格化されている(JIS R 5210:2009)。
【0017】
高炉セメントは、高炉スラグの混合量によって、高炉セメントA種、高炉セメントB種、高炉セメントC種に分類されている(JIS R 5211:2009)。
高炉セメントA種・・・高炉スラグ混合量5~30質量%
高炉セメントB種・・・高炉スラグ混合量10~60質量%
高炉セメントC種・・・高炉スラグ混合量60~70質量%
【0018】
ポルトランドセメントは、製造工程における焼成の際の石灰石の熱分解(CaCO3→CaO+CO2↑)と焼成に要する燃料から二酸化炭素が発生する。一方、高炉セメントの混合材である高炉スラグ微粉末は、焼成が不要なため、その混合量に比例してセメント製造時に発生する二酸化炭素量を削減できる。そのため、本実施形態に係る硬化性セメント組成物に使用するセメントとしては、高炉セメントが好ましく、高炉スラグ混合量が多い高炉セメントB種又は高炉セメントC種がより好ましく、高炉セメントC種がさらに好ましい。また、高炉セメントとしては、高炉セメントC種と同等の高炉スラグ混合量であるECM(登録商標)(エネルギー・CO2・ミニマム)セメントを使用してもよい。
【0019】
コンクリートの色は、フレッシュコンクリートに含まれるセメントの種類によって変わり得る。例えば、フレッシュコンクリート中のセメントが、普通ポルトランドセメントである場合に比べて、高炉セメントである場合の方が、コンクリートの色は薄く(白っぽく)なる傾向がある。
【0020】
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記セメントの含有量は、特に限定されない。例えば、200~500kg/m3が好ましく、250~400kg/m3がより好ましく、300~350kg/m3がさらに好ましい。
【0021】
(水)
前記水は、特に限定されず、水道水、井水、地下水等、通常、セメントを練る際に用いられる水を使用できる。
【0022】
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記水の含有量は、特に限定されない。例えば、50~250kg/m3が好ましく、100~200kg/m3がより好ましい。
【0023】
また、本実施形態の硬化性セメント組成物において、前記水の前記セメントに対する割合を表す水/セメント比(単位:質量%、以下「W/C」とも記す。)は、特に限定されない。例えば、40~65質量%が好ましく、45~60質量%がより好ましい。
【0024】
(骨材)
前記骨材は、粒の大きさにより細骨材と粗骨材に分類される。
【0025】
(細骨材)
前記細骨材は、特に限定されず、通常、セメントと混合して用いられる細骨材を使用できる。例えば、粒径が5mm以下の砂が好ましい。なお、前記細骨材の粒径は、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径である。
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記細骨材の含有量は、特に限定されない。例えば、600~1000kg/m3が好ましく、700~900kg/m3がより好ましい。
【0026】
(粗骨材)
前記粗骨材は、特に限定されず、通常、セメントと混合して用いられる粗骨材を使用できる、例えば、粒径が5mm超の砂利(砕石)が好ましい。前記砂利(砕石)の粒径の上限は特に限定されない。例えば、25mm以下が好ましい。なお、前記粗骨材の粒径は、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径である。
本実施形態の硬化性セメント組成物における前記粗骨材の含有量は、特に限定されない。例えば、800~1200kg/m3が好ましく、900~1100kg/m3がより好ましい。
【0027】
本実施形態の硬化性セメント組成物において、前記骨材の総体積に対する、前記細骨材の体積の割合を示す細骨材率(単位:体積%、以下「s/a」とも記す。)は、特に限定されない。
【0028】
(バイオ炭)
前記バイオ炭は、燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物である(2006年IPCC国別温室効果ガスインベントリガイドラインの2019年改良)。
【0029】
前記バイオ炭の原料であるバイオマスとしては、木材、おがくず、竹、草本、もみ殻、稲わら、木の実、家畜糞尿、製紙汚泥、下水汚泥等が挙げられる。前記バイオ炭として、原料が異なる2種以上のバイオ炭を併用してもよい。
前記バイオ炭の種類は、炭素含有率が高い点で、木材、おがくずを原料とするバイオ炭が好ましい。安価で入手しやすい点で、おがくずを原料とするバイオ炭がより好ましい。
バイオ炭の密度は特に限定されない。
【0030】
前記バイオ炭の粒径は特に限定されない。例えば10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。バイオ炭の粒径の下限は、例えば0.1mm以上が好ましい。
前記バイオ炭として、粉状バイオ炭と粒状バイオ炭を併用してもよい。
本明細書において、「粉状バイオ炭」は粒径が1mm以下のバイオ炭粒子群を意味し、「粒状バイオ炭」は粒径が1mmを超えるバイオ炭粒子群を意味する。
粉状バイオ炭の粒径は、0.05~1mmが好ましい。粒状バイオ炭の粒径は1mm超、10mm以下が好ましく、2~5mmがより好ましい。
なお、本明細書における粒径は、1mm超の粒径については、骨材のふるい分け試験方法(JIS A 1102:2014)に従って測定して得られる粒径であり、1mm以下の粒径については、レーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定により得られる平均粒径である。
【0031】
硬化性セメント組成物に含まれる、前記バイオ炭の粒径及び添加量の一方又は両方を変化させることによって、硬化後のコンクリートの色を調整することができる。
バイオ炭の粒径が同じである場合、添加量が多いほどコンクリートの色は濃くなる傾向がある。
バイオ炭の添加量が同じである場合、粒径が小さいほどコンクリートの色は濃くなる傾向がある。したがって、目標とする色の濃さが同じである場合、粒径が大きい方がより多くのバイオ炭を添加することができる。前記二酸化炭素排出量をより削減できる点からは、バイオ炭の添加量は多い方が好ましい。
【0032】
例えば、硬化性セメント組成物の1m3当たりのバイオ炭の含有量は、7~100kg/m3以下が好ましく、10~90kg/m3がより好ましく、15~75kg/m3がさらに好ましく、15~60kg/m3が特に好ましい。前記バイオ炭の含有量がこの範囲内であると、コンクリートの色を濃くする効果とコンクリートの施工性とのバランスがより良好となる。
【0033】
前記バイオ炭は前記細骨材の一部に置換して使用してもよい。本実施形態の硬化性セメント組成物における前記細骨材及び前記バイオ炭の合計の含有量は、特に限定されないが、600~1000kg/m3が好ましく、700~900kg/m3がより好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本実施形態の硬化性セメント組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記以外の従来使用されている成分を混合して使用してもよい。
【0035】
<空気量及びスランプ>
本実施形態の硬化性セメント組成物の空気量は、例えば3.0~6.0%が好ましい。
本明細書において、硬化性セメント組成物の空気量は、JIS A 1128:2014「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法-空気室圧力方法」により測定した値である。
【0036】
本実施形態の硬化性セメント組成物のスランプは、例えば8~18cmが好ましい。
本明細書において、硬化性セメント組成物のスランプは、JIS A 1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」により測定した値である。
【0037】
<硬化性セメント組成物の製造方法>
本実施形態の硬化性セメント組成物は、セメントと、水と、骨材と、バイオ炭とを混練することにより製造できる。
混練の方法は特に限定されず、重力式ミキサ(傾胴型ドラムミキサ等)、強制練りミキサ(水平1軸形、水平2軸形、パン型等)等を用いて、従来公知の硬化性セメント組成物の混練方法により行うことができる。
【0038】
<コンクリートの製造方法>
前記硬化性セメント組成物を硬化したものがコンクリートである。前記硬化性セメント組成物の硬化は、通常、0~50℃の温度で静置することにより行う。
【0039】
[バイオ炭の使用]
本発明の一実施形態に係るコンクリートの色合わせ方法において、前記バイオ炭は色合わせ材料として使用されるほか、二酸化炭素固定化材料、ブリーディング低減材、乾燥収縮抑制材、及びアンモニアガス発散抑制材から選ばれる1種以上を兼ねる材料としても使用できる。
【0040】
(二酸化炭素固定化材料)
バイオ炭については、二酸化炭素貯留方法として農地などの土壌への適用が検討されているが、バイオ炭を土壌に適用した場合、雨等による土壌の流出に伴いバイオ炭が長期間にわたって安定的に固定化されない。一方、バイオ炭を硬化性セメント組成物に適用した場合、セメント硬化体(コンクリート)は長期耐久性があるため、バイオ炭による二酸化炭素固定効果が長期間にわたり安定して発揮される。
【0041】
バイオ炭を二酸化炭素固定化材料として用いることで、コンクリートの色合わせができるうえに、硬化性セメント組成物を製造する際の二酸化炭素排出量を低減できる。
【0042】
(ブリーディング低減材)
建設材料として一般的に使用されるコンクリートは、水、セメント、細骨材及び粗骨材を含む硬化性セメント組成物を硬化することで製造されるが、構成材料のうち、密度の最も小さい水が固体材料から遊離して上昇する現象(ブリーディング)が度々生じ、問題となることがある。
【0043】
過度のブリーディング水が発生した場合、コンクリートの性能低下が生じるおそれがある(十河ら、「委員会報告 構造物の耐久性向上のためのブリーディング制御に関する研究委員会」、コンクリート工学年次論文集、2017年、第39巻、第1号、p.19-28)。ここでいう性能低下とは、例えば、コンクリート表面の外観(色むら・砂すじ等)や沈降ひび割れの発生、物質移動抵抗性の低下など、様々である。
【0044】
バイオ炭をブリーディング低減材として用いることで、コンクリートの色合わせができるうえに、コンクリートのブリーディングを低減し、コンクリートの性能低下を防止することができる。
【0045】
(乾燥収縮抑制材)
従来、セメント硬化体の乾燥収縮により発生するひび割れを抑制するため、主に、膨張材、乾燥収縮低減剤、石灰石骨材等が使用されている。前記膨張材は、セメント硬化体を硬化初期段階で膨張させ圧縮力を与えることで、以後の乾燥収縮による引張応力を打ち消すものである。前記乾燥収縮低減剤は、セメント硬化体の収縮低減効果を持つ化学混和剤である。前記石灰石骨材は、乾燥収縮が小さい骨材を使用することでセメント系硬化物自体の乾燥収縮を抑制するものである。
【0046】
硬化性セメント組成物に使用するセメントとして、特に、高炉セメントB種や高炉セメントC種などの高炉スラグ混合量が多いものを使用する場合、収縮が大きくなる傾向があり、ひび割れが入りやすい。
バイオ炭を乾燥収縮抑制材として用いることで、コンクリートの色合わせができるうえに、硬化性セメント組成物の乾燥収縮を抑制することができる。
【0047】
(アンモニアガス発散抑制材)
新設コンクリートからは材料に含まれる窒素を元にアンモニアガスが発生する。特に、高炉セメントのように高炉スラグを混合したセメントを使用する場合、多量のアンモニアガスが発生しやすい。発生したアンモニアガスにより、新築の美術館や博物館では、収蔵している美術品や文化財が変色してしまうという問題が生じる。
【0048】
アンモニアガスによる美術品や文化財の劣化を回避するため、竣工後半年から1年ほどアンモニアガスの発生が収まるのを待つ措置が取られる場合があるが、竣工した建物をすぐには供用できないため経済的でない。また、アンモニアガスを吸着するシート等が開発されているが、広範囲に貼り付ける作業が必要である。
【0049】
バイオ炭をアンモニアガス発散抑制材として用いることで、コンクリートの色合わせができるうえに、コンクリートからのアンモニアガスの発散を抑制することができ、アンモニアガス吸着シートなどでカバーしなくてもアンモニアガスが大気中に放出されることを防止し、美術品や文化財のアンモニアガスによる劣化を未然に防ぐことができる。
【実施例0050】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[製造例]
<材料>
(C)セメント
高炉セメントB種(BB55、密度3.04g/cm3)
(W)水
水道水
(S)細骨材
S1:砕砂(粒径5mm以下、表乾密度2.66g/cm3)
S2:山砂(粒径5mm以下、表乾密度2.60g/cm3)
(G)粗骨材
砕石(粒径5mm超、25mm以下、密度2.7g/cm3)
(Carb.)バイオ炭
バイオ炭(1):粒径0.05~1mmの粉状バイオ炭、黒色、おがくず由来、密度1.6g/cm3。
バイオ炭(2):粒径2~5mmの粒状バイオ炭、黒色、おがくず由来、密度1.6g/cm3。
【0051】
<実施例1~3、比較例1>
表1に示す配合で、セメント(C)、水(W)、細骨材(S)、粗骨材(G)、及びバイオ炭(Carb.)を混練して硬化性セメント組成物(フレッシュコンクリート)を調製し、型内で硬化させて、100mm×100mm×400mmの角柱供試体(コンクリート供試体)を作製した。各例で得られたコンクリート供試体の外観を同じ条件で撮像し、外観の色を比較した。
図1に各例のコンクリート供試体の外観の写真を示す。
図1(A)に、参考例1として、普通ポルトランドセメントを用いた標準的な配合のコンクリート供試体の外観を示す。
図1の(B)は比較例1、(C)は実施例1、(D)は実施例2、(E)は実施例3のコンクリート供試体の外観である。
各例の写真を画像解析してRGB値を求めた結果を表2に示す。黒に近づくほどRGB値は小さくなる。
【0052】
【0053】
【0054】
図1及び表2に示されるように、バイオ炭を含まない比較例1に比べて、バイオ炭を添加した実施例1~3のコンクリートは、外観の色が濃く(黒っぽく)なった。
比較例1及び実施例1~3は、いずれも高炉セメントを用いたコンクリートであるが、バイオ炭の粒径及び添加量の一方又は両方を調整することによって、普通ポルトランドセメントを用いた参考例1のコンクリートの色に近づけることができた。
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本発明の実施形態に係るコンクリートの色合わせ方法は、バイオ炭をコンクリートに添加することによって色合わせを行うため、カーボンニュートラルを達成するための技術の一つとなり得るものであり、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「12.つくる責任 つかう責任」、「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。