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  • 特開-不純物濃度測定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032120
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】不純物濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20240305BHJP
   G01N 29/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135590
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000252252
【氏名又は名称】和興フィルタテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100218095
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】明田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小池 義和
(72)【発明者】
【氏名】古谷 彬人
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047BC15
2G047CA04
2G047EA20
2G047GA21
2G047GG24
(57)【要約】
【課題】作動油等の液体に含まれる不純物の濃度の計測精度が気泡による影響を受けにくい不純物濃度測定装置を提供する。
【解決手段】容器40に入れられた作動油HOに対してパルス光を照射する光源10と、パルス光の照射により作動油HOに含まれる粒子に生じた振動によって容器40に加えられた圧力を検出し、当該検出した圧力に応じた検出信号を出力する圧電素子20と、圧電素子20から出力された検出信号に基づいて作動油HOの不純物濃度に応じた値を出力する不純物濃度出力部30とを備えて構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に入れられた液体に対してパルス光を照射する光源と、
前記パルス光の照射により前記液体に含まれる粒子に生じた振動によって前記容器に加えられた圧力を検出し、当該検出した圧力に応じた検出信号を出力する圧電素子と、
前記圧電素子から出力された検出信号に基づいて前記液体の不純物濃度に応じた値を出力する不純物濃度出力部とを備えることを特徴とする不純物濃度測定装置。
【請求項2】
前記光源は、赤外線レーザダイオードを有することを特徴とする請求項1に記載の不純物濃度測定装置。
【請求項3】
前記不純物濃度出力部は、
前記パルス光が照射されるタイミングを示す照射タイミング信号を出力するタイミング出力装置と、
前記タイミング出力装置から出力された照射タイミング信号に同期して前記検出信号の波形を生成する波形生成部とを有し、
前記波形生成部によって生成された波形のピーク値に基づいて前記液体の不純物濃度を判定する不純物濃度判定部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の不純物濃度測定装置。
【請求項4】
前記タイミング出力装置は、前記容器に対して照射されたパルス光が前記容器の表面で反射した反射光を検知し、当該検知した検知信号を前記照射タイミング信号として出力することを特徴とする請求項3に記載の不純物濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油等の液体に含まれる不純物の濃度を測定する不純物濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械等の油圧回路に使用される作動油は、建設機械等の作動によってスラッジと呼ばれる金属の摩耗粉や作業中に混入する土砂の微粒子(以下、「コンタミナント」または「コンタミ」という。)の混入などによって劣化していき、これにより建設機械等の寿命や作動効率に悪影響を及ぼす虞がある。このため、作動油に混入したコンタミを定期的に検査し、作動油の劣化が認められた場合は作動油やオイルフィルタなどを交換することが望ましい。
【0003】
従来、作動油などの液体中に存在する微粒子の測定には、日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)などに定められているように、光遮断、光散乱、光吸収、電気的特性、質量比較、顕微鏡などによる測定方法が用いられている。また、液体中の微粒子の測定が可能な測定器としては、例えば特許文献1に示すような液中パーティクルカウンタ(Liquid-borne particle Counter:LPC)が、古くから広く使用されている。この液中パーティクルカウンタはIoT(Internet of Things)への適応性が高いことから、例えば離れた場所から建設機械等に使用されている作動油の劣化を測定し、その測定結果を取得することが可能となり、建設機械等のメンテナンスに関する作業効率の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-164530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した液中パーティクルカウンタは、液体中の気泡も粒子として計数してしまうため、気泡の存在が計測精度に大きな影響を与えてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、作動油等の液体に含まれる不純物の濃度の計測精度が気泡による影響を受けにくくすることができる不純物濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に不純物濃度測定装置は、容器に入れられた液体に対してパルス光を照射する光源と、前記パルス光の照射により前記液体に含まれる粒子に生じた振動によって前記容器に加えられた圧力を検出し、当該検出した圧力に応じた検出信号を出力する圧電素子と、前記圧電素子から出力された検出信号に基づいて前記液体の不純物濃度に応じた値を出力する不純物濃度出力部により構成されている。
【0008】
また、上記構成の不純物濃度測定装置において、前記光源は、赤外線レーザダイオードを有して構成されることが好ましい。
【0009】
また、上記構成の不純物濃度測定装置において、前記不純物濃度出力部は、前記パルス
光が照射されるタイミングを示す照射タイミング信号を出力するタイミング出力装置(例えば、実施形態におけるフォトディテクタ34)と、前記タイミング出力装置から出力された照射タイミング信号に同期して前記検出信号の波形を生成する波形生成部とを有し、前記波形生成部によって生成された波形のピーク値に基づいて前記液体の不純物濃度を判定する不純物濃度判定部とを有して構成されていることが好ましい。
【0010】
また、上記構成の不純物濃度測定装置において、前記タイミング出力装置は、前記容器に対して照射されたパルス光が前記容器の表面で反射した反射光を検知し、当該検知した検知信号を前記照射タイミング信号として出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る不純物濃度測定装置によれば、容器に入れられた液体に対してパルス光を照射する光源と、パルス光の照射により液体に含まれる粒子に生じた振動によって前記容器に加えられた圧力を検出し、当該検出した圧力に応じた検出信号を出力する圧電素子と、圧電素子から出力された検出信号に基づいて液体の不純物濃度に応じた値を出力する不純物濃度出力部とを備えて構成されている。このような構成の不純物濃度測定装置では、液体中の微粒子に対してパルス光が照射されると光音響効果によって微粒子が音波を発生し、この音波による振動を圧電素子によって検出するため、その検出信号に基づく液体の不純物濃度に応じた値が、液体中の気泡による影響を受けにくくなる。
【0012】
また、上記の構成の不純物濃度測定装置において、光源は、赤外線レーザダイオードを有していることが好ましい。このように赤外線レーザダイオードを用いて光源を構成することで、装置の小型化やコストの軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る不純物濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
図2】上記不純物濃度測定装置の圧電素子から出力される検出信号の波形の形状を示す波形図である。
図3】上記不純物濃度測定装置の圧電素子から出力される検出信号の波形の形状を示す波形図である。
図4】上記不純物濃度測定装置の構成の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態における不純物濃度測定装置の構成を示すブロック図である。この図に示す本実施形態の不純物濃度測定装置は、光源10と、圧電素子20と、不純物濃度出力部30とで構成されている。光源10は、パルス発生器11と赤外線レーザダイオード12とによって構成されている。パルス発生器11はパルス波形の電源を赤外線レーザダイオード12へ供給し、これにより赤外線レーザダイオード12は容器40に入れられた作動油HO(図1中、ドットパターンで示す)に対してパルス光を照射する。このように、パルス光の発光源として高価なパルスレーザを用いずに赤外線レーザダイオード12を用いることでコストを低減することができ、装置全体の小型化が可能となる。
【0015】
容器40は、略直方体の透明なガラス製のセル(試料を入れる容器)であり、内部には作動油HOが満たされている。容器40の側面に赤外線レーザダイオード12から出射されたパルス光が照射される。これにより、作動油HOに含まれる微粒子(金属の摩耗粉や土砂の微粒子など)が光エネルギーの吸収・放出に合わせて膨張・収縮することで(すなわち光音響効果によって)音波が発生する。なお、容器40の側面に対してパルス光を照射する角度は垂直であることが望ましい。
【0016】
容器40の側面、より詳細にはパルス光が照射される側面と対向する側面には、矩形平板形状の圧電素子20が密着して取り付けられている。圧電素子20は、PZT(Pb(Zr,Ti)O)の圧電セラミックスであり、パルス光が照射されたことで作動油HOに含まれる微粒子から発生する音波が容器40の内壁面に加わることで生じる圧力、および容器40の壁面の振動による圧力を検出し、その検出信号を出力する。
【0017】
不純物濃度出力部30は、圧電素子20から出力された検出信号に基づいて作動油HOの不純物濃度に応じた値を出力するものであり、波形生成部31と、不純物濃度判定部32と、表示部33と、フォトディテクタ34とによって構成されている。波形生成部31は、フォトディテクタ34から出力される同期信号に基づいて圧電素子20から出力される検出信号の波形を生成する。不純物濃度判定部32は、波形生成部31によって生成された圧電素子20からの検出信号の波形に基づいて作動油HOの汚染度を判定し、その判定結果に応じた値を出力する。
【0018】
具体的には、不純物濃度判定部32は、上述した検出信号の波形のピーク値に基づいて作動油HOの汚染度を判定している。すなわち、不純物濃度判定部32は、作動油HOに含まれる微粒子の濃度が所定レベル未満であるときは作動油HOが汚染されていないと判定し、その判定結果に応じた値を(例えば「0」)を出力する。これに対して作動油HOに含まれる微粒子の濃度が所定レベル以上であるときは作動油HOが汚染されていると判定し、その判定結果に応じた値を(例えば「1」)を出力する。
【0019】
表示部33は、不純物濃度判定部32から出力された値に応じて作動油HOの汚染度を示す情報を表示する。例えば、不純物濃度判定部32が上述した値を出力する場合、不純物濃度判定部32から「0」の値が出力された場合は「正常です」というメッセージを表示し、不純物濃度判定部32から「1」の値が出力された場合は「作動油を交換して下さい」というメッセージを表示する。
【0020】
フォトディテクタ34は、赤外線レーザダイオード12から出射されたパルス光のうち、容器40の側面で反射した反射パルス光を検知し、その検知信号を波形生成部31に出力する。これにより、波形生成部31は、フォトディテクタ34から出力された検出信号を同期信号として、作動油HO(より詳細には作動油HOに含まれる微粒子)にパルス光が照射されてから所定時間までの間の、圧電素子20から出力された検出信号の波形を繰り返し生成する。
【0021】
次に図2に示す波形図を参照しつつ、不純物濃度判定部32における作動油HOの汚染度の判定方法について説明する。図2は、波形生成部31から不純物濃度判定部32へ出力される圧電素子20の検出信号の波形の形状を示す波形図である。また、図2(a)は作動油HOに微粒子が含まれていないときの波形を示し、図2(b)は作動油HOに含まれている微粒子の濃度が120[mg/L]のときの波形を示している。
【0022】
なお、図2(a)および(b)に示す波形図は、赤外線レーザダイオード12の出力が360[mW]で、パルス光の波長は850[nm]、繰り返し周波数は10[Hz]、パルス幅が6[ns]となっている。これにより、光音響効果によって微粒子が発生する音波の波長は、作動油HO内の音速を1500[m/s]とすると、1500[m/s]/(10[Hz])=150[m]となる。また、圧電素子20の外径寸法は5[mm]×12[mm]×0.5[mm]で、材質はC-213となっている。さらに、図2(b)に
おいて、作動油HOに含まれている微粒子はISO 12103-1,A3 medium test dustであり、
粒径は0.714~100弱[μm]となっている。なお、図2に示す横軸(時間[msec])におけるtは、パルス光の光が照射されたタイミングを示している。
【0023】
図2(a)および(b)に示す波形図を比較すると、圧電素子20から出力された検出信号の波形におけるピークの電圧値は、作動油HOに微粒子が含まれていない場合は約11.0[mV]になっているのに対して、微粒子の濃度が120[mg/L]の場合は約37.6[mV]と顕著に増大している。したがって、11.0+α[mV](αは許容される不純物の濃度を勘案して予め定められた電圧値)を基準値として、不純物濃度判定部32は、波形生成部31から出力された波形のピークにおける電圧値が11.0+α[mV]未満だった場合は、作動油HOは汚染されていないと判定し、11.0+α[mV]以上だった場合は、作動油HOは汚染されていると判定することができる。
【0024】
次に、作動油HO内の気泡による圧電電素子20の出力波形の影響について、図3を参照して説明する。図3は、波形生成部31から不純物濃度判定部32へ出力される圧電素子20の検出信号の波形の形状を示す波形図である。図3(a)は作動油HOに微粒子が含まれていないときの波形を示しており、図3(a-1)は作動油HOに気泡が含まれていないときの波形を示し、図3(a-2)は作動油HOに気泡が含まれているときの波形を示している。図3(b)は作動油HOに含まれている微粒子の濃度が120[mg/L]のときの波形を示しており、図3(b-1)は作動油HOに気泡が含まれていないときの波形を示し、図3(b-2)は作動油HOに気泡が含まれているときの波形を示している。
【0025】
これらの波形図に示すように、粒子濃度0mg/Lのとき、気泡無しおよび気泡有りのいずれにおいても波形のピーク値は約10.8[mV]となっている。また、粒子濃度120mg/Lのとき、気泡無しの場合は波形のピーク値が約57.7[mV]となり、気泡有りの場合は波形のピーク値が約49.0[mV]になっている。したがって、作動油HOに微粒子が含まれていない場合(図3(a)参照)、および微粒子が含まれている場合(図3(b)参照)のいずれにおいても、気泡の有無によって波形の形状や、波形の振幅(出力電圧)のピーク値に大きな差は見られない。このように、光音響効果によって作動油HO内の微粒子が発した音波による圧力の変動を圧電素子20によって検出し、その検出結果に基づいて作動油HOにおける不純物濃度を判断しているため、たとえ測定対象となる作動油に気泡が含まれていたとしても、その気泡の影響を取り除くための装置や、圧電素子20から出力された検出信号に対する複雑な演算処理などを施すことなく、作動油内の不純物濃度を容易に測定することができる。
【0026】
なお、図1に示した不純物濃度測定装置の構成では、圧電素子20を貼り付ける容器40の側面は、パルス光の照射面に対向する面になっていたが、例えば図4(a)に示すように、パルス光の光線方向に平行な側面に圧電素子20を貼り付けてもよい。この場合、圧電素子20から出力される検出信号の波形にオフセットが現れにくくなることが期待できる。また、図1に示した不純物濃度測定装置の構成では、フォトディテクタ34が出力した検出信号を同期信号として波形生成部31へ出力していたが、例えば図4(b)に示すように、パルス発生器11から出力されるパルス波形の電源の一部を同期信号として波形生成部31へ出力してもよい。
【0027】
また、不純物濃度判定部32は、圧電素子20から出力された検出信号の波形におけるピークの電圧値に基づいて作動油HOに含まれる不純物の濃度を判定していたが、例えば波形生成部31から出力された波形を周波数分析することによって、不純物濃度を表す値を導出し、その値を表示部33に表示させてもよい。また、表示部33は必ずしも備える必要はなく、例えば不純物濃度判定部32で判定された値を、インターネットなどを介して、遠隔地に設置されたモニタなどに表示するように構成してもよい。
【0028】
また、上述した実施形態において、容器40の形状は直方体であったが、例えば試験管のような円柱形状の容器であってもよい。さらに、容器全体が透明である必要はなく、パ
ルス光が照射される領域のみ透明であり、その他の領域は光を透過させない不透光領域であってもよい。
【0029】
本発明の不純物濃度測定装置の測定対象は、容器40に入れられた作動油に限らず、例えば建設機械等の油圧回路を構成する配管にパルス光を入射させるための透明な窓を設けるとともにその近傍に圧力素子を貼り付け、その建設機械が稼動する場所で、作動油の不純物の濃度を測定可能とするように構成してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 光源
11 パルス発生器
12 赤外線レーザダイオード
20 圧電素子
30 不純物濃度出力部
31 波形生成部
32 不純物濃度判定部
33 表示部
34 フォトディテクタ
40 容器
図1
図2
図3
図4