IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

特開2024-32122スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032122
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20240305BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240305BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/013
C08L3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135594
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】五月女 春香
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB043
4J002AB053
4J002AC01W
4J002AC03X
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】氷雪路面では、一般路面に比べて摩擦係数が低下し、滑りやすくなる。そこで従来、スタッドレスタイヤの氷上性能を向上させるために数多くの手法が提案されているが、さらに氷上性能を高めることが求められている。また、環境上の負荷を低減することも求められている。
【解決手段】ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物によって上記課題を解決した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部
配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記米由来の食品副産物または食品廃棄物が、酒粕、米糠および/またはみりん粕であることを特徴とする請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末の平均粒径が、15μm~500μmであることを特徴とする請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ブタジエンゴムの配合量が、前記ジエン系ゴム100質量部中、30質量部以上を占めることを特徴とする請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものであり、詳しくは、環境負荷を抑制するとともに優れた氷上性能を有するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では、一般路面に比べて摩擦係数が低下し、滑りやすくなる。そこで従来、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)を向上させるために数多くの手法が提案されている。例えば、スタッドレスコンパウンドに硬質異物や中空ポリマーを配合し、これによりゴム表面にミクロな凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させる手法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、トレッド表面から脱落した硬質異物や高分子化合物は分解されにくく、環境上の問題が懸念される。
そこで現在、環境的に優れ、かつトレッド表面の粗さをさらに効率良く付与する手法が求められている。
【0003】
下記特許文献2には、米穀のもみ殻、麦殻、コルク片およびおがくずから選ばれた粉体を配合してなるスタッドレスタイヤ用ゴム組成物が開示されている。しかし、特許文献2に開示された上記粉体は、生分解性に乏しく、環境的に優れているとは言えない。
また下記特許文献3には、米糠油のような油脂を配合したコンパウンドをトレッドに用いたスタッドレスタイヤが開示されている。しかし、特許文献3に記載された米糠油のような油脂は、低温時のゴムの柔軟性を高めるために配合されるものであり、下記で説明する本発明の作用効果とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-35736号公報
【特許文献2】特許第2554536号公報
【特許文献3】特許第4638950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環境負荷を抑制するとともに優れた氷上性能を有するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに、無機充填剤および米由来の食品副産物または食品廃棄物を特定量でもって配合したゴム組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち本発明は、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部配合してなることを特徴としているので、環境負荷を抑制するとともに優れた氷上性能を有するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することができる。
【0009】
本発明における米由来の食品副産物または食品廃棄物は、タイヤトレッド表面に粗さを効率的に付与することができ、これにより路面に対する高い引っ掻き効果が発現し、氷上性能を高めることができる。また、上記米由来の食品副産物または食品廃棄物は生分解性に優れるため、路面に脱落しても迅速に生分解され、環境上優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)を必須成分とする。なおイソプレンゴム(IR)は本発明で言うNRに含まれるものとする。また本発明で使用されるジエン系ゴムは、上記NRおよびBR以外にも、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
また、氷上性能を向上させるという観点から、ジエン系ゴム100質量部中、BRを20質量部以上、好ましくは20~80質量部用いることが好ましく、またNRを20質量部以上、好ましくは20~80質量部用いることがさらに好ましい。
また、ジエン系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であることが好ましい。このようにTgを規定することにより、氷上性能が向上する。
なおジエン系ゴムが複数種類含まれる場合において、本明細書で言うTgは、各ゴムのガラス転移温度に、各ゴムの重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値とする。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
さらに好ましい前記平均Tgは、-60℃以下である。
【0011】
(無機充填剤)
本発明に使用される無機充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、氷上性能がより良好となる理由から、シリカが好ましい。
【0012】
シリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
シリカは、氷上性能向上の観点から、CTAB吸着比表面積が50~300m/gであるのが好ましく、90~220m/gであるのがさらに好ましい。
なお、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0014】
また、本発明のゴム組成物には、カーボンブラックを配合するのが好ましい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カーボンブラックは、氷上性能向上の観点から、窒素吸着比表面積(NSA)が10~300m/gであるのが好ましく、50~150m/gであるのがさらに好ましい。
なお窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0015】
(米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末)
本発明で使用される米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末は、例えば精米加工に生じる廃棄物である米糠、脱脂糠、米を原料として使用した食品副産物、とくに醸造副産物である酒粕、みりん粕、焼酎粕等の粉末が挙げられる。
中でも、本発明の効果が高まるという観点から、酒粕、米糠およびみりん粕から選択された1種以上の粉末が好ましい。
なお、もみ殻は生分解性に劣るという観点から、本発明には使用されない。
【0016】
また、本発明で使用される米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末は、本発明の効果がさらに高まるという観点から、平均粒径が、15μm~500μmであることが好ましく、15μm~400μmであるのがさらに好ましい。なお、上記平均粒径は公知の測定方法に準じて測定でき、例えば100点のサンプルから、電子顕微鏡、レーザー顕微鏡等を用いて測定できる。粉末が異形である場合は、円相当径を粉末の粒径とみなし、平均粒径を算出できる。また、平均粒径は下記で説明する乾燥後の米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末を用いて測定される。本発明で使用される米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末は公知であり、各種製造会社から商業的に入手できる。
【0017】
また、本発明で使用される米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末は、本発明の効果がとくに高まるという観点から、米糠の粉末であるのが好ましく、該米糠の粉末は、長径を(L)、短径を(W)としたときに、アスペクト比(L/W)の平均が1~15であるのが好ましく、2~10であるのがさらに好ましい。なお、上記アスペクト比は公知の測定方法に準じて測定でき、例えば100点のサンプルから、電子顕微鏡、レーザー顕微鏡等を用いて測定できる。
【0018】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末を0.5~30質量部配合してなることを特徴とする。
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記無機充填剤の配合量が20質量部未満では、ゴム組成物の機械的特性や耐摩耗性が悪化する。
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末の配合量が0.5質量部未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができず、逆に30質量部を超えると氷上性能が低下する。
【0019】
前記無機充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、25~100質量部が好ましい。
前記米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、3~30質量部が好ましい。
なおカーボンブラックを配合する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~80質量部が好ましい。
【0020】
なお、前記米由来の食品副産物または食品廃棄物の粉末の配合量は、前記米由来の食品副産物または食品廃棄物を乾燥物を基準とする。乾燥条件は例えば、常圧、135℃、3時間が挙げられる。一方で、乾燥手段としてスプレードライや凍結乾燥等を用いてもよい。
【0021】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;老化防止剤;可塑剤;シランカップリング剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0022】
また本発明のスタッドレスタイヤは、本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を使用して調製することができ、空気入りタイヤであることが好ましく、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。また本発明のゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド、とくにキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0024】
実施例1~6、比較例1
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を160℃、20分の条件でプレス加硫し、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0025】
氷上性能:得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃、荷重5.5kg/cm、ドラム回転速度20km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。
結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
*1:NR(TSR20)
*2:SBR(日本ゼオン株式会社製Nipol 1739)
*3:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*4:カーボンブラック(キャボットジャパン社製ショウブラックN339)
*5:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m/g)
*6:シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
*7:酒粕粉末(平均粒径=150μm)
*8:米糠粉末(平均粒径=150μm、アスペクト比=1~10)
*9:みりん粕粉末(平均粒径=150μm)
*10:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*11:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ-G)
【0028】
表1の結果から、各実施例のゴム組成物は、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部配合してなるものであるので、比較例1に比べて、氷上性能が向上している。
【0029】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1]:ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、および米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末を0.5~30質量部配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
発明[2]:前記米由来の食品副産物または食品廃棄物が、酒粕、米糠および/またはみりん粕であることを特徴とする発明1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
発明[3]:前記米由来の食品副産物または食品廃棄物(ただし、もみ殻を除く)の粉末の平均粒径が、15μm~500μmであることを特徴とする発明1または2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
発明[4]:前記ブタジエンゴムの配合量が、前記ジエン系ゴム100質量部中、30質量部以上を占めることを特徴とする発明1~3のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
発明[5]:発明1~4のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。