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特開2024-32132油圧システムにおけるキャリブレーションシステムおよびキャリブレーション方法
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  • 特開-油圧システムにおけるキャリブレーションシステムおよびキャリブレーション方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032132
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】油圧システムにおけるキャリブレーションシステムおよびキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20240305BHJP
   F15B 11/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F04B51/00
F15B11/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135612
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】喜安 浩一
【テーマコード(参考)】
3H089
3H145
【Fターム(参考)】
3H089AA22
3H089AA60
3H089BB30
3H089CC01
3H089DA03
3H089DB24
3H089DB47
3H089DB49
3H089DB63
3H089EE05
3H089FF08
3H089GG02
3H089JJ02
3H145AA01
3H145AA12
3H145AA24
3H145AA33
3H145BA30
3H145CA21
3H145DA04
3H145DA50
3H145EA20
3H145EA34
3H145EA43
3H145FA02
3H145FA13
3H145GA02
3H145GA33
(57)【要約】
【課題】ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプと、バルブ制御電流値に応じて開口面積が可変制御される流量制御弁と、流量制御弁の前後差圧を一定に保持する圧力補償弁とを備えた油圧システムにおいて、ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを、精度良く簡単に行えるようにする。
【解決手段】スプール弁8を、任意の目標流量のスプール弁出力流量に対応する開口面積に保持した状態で、ポンプ制御電流値をスイーブ上昇させ、該スイープ上昇中のポンプ圧力の変化のピークを、目標流量のポンプ流量のポンプ制御電流値として較正する構成にした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから油圧アクチュエータへの圧油供給路に配され、バルブ制御電流値に応じて供給用開口の開口面積が可変制御される流量制御弁と、該流量制御弁の上流側に配され、流量制御弁の前後差圧を一定に保持するべく作動する圧力補償弁と、前記ポンプ制御電流およびバルブ制御電流を出力するコントローラとを備えてなる作業機械の油圧システムにおいて、前記ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行うにあたり、
油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出手段を設けるとともに、
前記流量制御弁の出力側に出力流量を低背圧状態で油タンクに流すリリーフ油路を接続する一方、
前記コントローラに、
バルブ制御電流値と流量制御弁出力流量との較正済み対応データに基づいて、任意に設定される目標流量の流量制御弁出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値として出力するバルブ制御手段と、
前記較正時バルブ制御電流値が出力されている状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させて出力するポンプ制御手段と、
スイープ上昇中のポンプ圧の変化がピークとなるときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記任意に設定された目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正する較正制御手段とを設けたことを特徴とする油圧システムにおけるキャリブレーションシステム。
【請求項2】
ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから油圧アクチュエータへの圧油供給路に配され、バルブ制御電流値に応じて供給用開口の開口面積が可変制御される流量制御弁と、該流量制御弁の上流側に配され、流量制御弁の前後差圧を一定に保持するべく作動する圧力補償弁と、前記ポンプ制御電流およびバルブ制御電流を出力するコントローラとを備えてなる作業機械の油圧システムにおいて、前記ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行うにあたり、
油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出手段を設けるとともに、
前記流量制御弁の出力側に出力流量を低背圧状態で油タンクに流すリリーフ油路を接続する一方、
前記キャリブレーションは、
バルブ制御電流値と流量制御弁出力流量との較正済み対応データに基づいて、任意に設定される目標流量の流量制御弁出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値としてコントローラから出力するステップと、
前記較正時バルブ制御電流値が出力されている状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させてコントローラから出力するステップと、
スイープ上昇中のポンプ圧の変化がピークとなるときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記任意に設定された目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正するステップとを含むことを特徴とする油圧システムにおけるキャリブレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧システムにおけるキャリブレーションシステムおよびキャリブレーション方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の作業機械の油圧システムでは、各種油圧アクチュエータの油圧供給源として、コントローラから出力される制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプが汎用的に用いられているが、この場合に、コントローラに油圧ポンプのポンプ流量と制御電流値との対応関係を示すデータを保存し、該データを用いて求めた制御電流値をコントローラから出力するように構成したものが知られている。
前記ポンプ流量と制御電流値との対応関係を示すデータは、予め作成された仕様上のデータがコントローラに保存されており、該仕様上のデータを用いて制御電流値が出力されることになるが、製造上のバラツキや経年変化等により、制御電流値に対する仕様上のデータでのポンプ流量の値と実際のポンプ流量の値との間にズレが生じてしまうことがある。
そこで従来、前記仕様上のデータの値を実際値に一致させるためのキャリブレーションとして、油圧ポンプの斜板傾転角を可変調整するアクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングしながら制御電流値を変化させることで捉えられた圧力値の変化点に対応する、実際の最小斜板位置、最大斜板位置の少なくとも一方での電流値を求め、この実際の制御電流値と仕様上の制御電流値との差を補正値として制御電流値を補正する技術(例えば、特許文献1参照)や、油圧ポンプの吐出流量を最大流量及び最小流量とするときの制御電流値とポンプ圧とに基づいて、制御電流値に係る制御パラメータ(仕様上のテーブル)を更新するようにした技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。これら特許文献1、2のものは、キャリブレーションに斜板の傾転角センサや流量計を必要とせず、簡単な構成で低コストにキャリブレーションを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-303813号公報
【特許文献2】特開2014-177969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1、2のものは、何れも、油圧ポンプの制御電流値に対するポンプ流量(ポンプ容量)のキャリブレーションを行うにあたり、ポンプ流量が最小流量(最小斜板位置)、最大流量(最大斜版位置)となるときの圧力変化に基づいて最小流量、最大流量に対する制御電流値の較正値を求め、該較正値を用いて、最小流量と最大流量とのあいだの全域の流量に対する制御電流値も較正するようになっている。しかしながら、油圧ポンプが最小流量のときには圧力が低すぎるため正確な圧力の変位点を見出すことは難しく、また、油圧ポンプが最大流量のときにはエンジン出力が低下する惧れがあってやはり正確な圧力の変位点を見出すことは難しく、このため、最小流量、最大流量に対する制御電流値の較正値を精度良く求めることは難しい。つまり、特許文献1、2のものは、精度良く較正値を求めることが難しい最小流量、最大流量で較正を行っており、このため、較正の精度に劣るという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから油圧アクチュエータへの圧油供給路に配され、バルブ制御電流値に応じて供給用開口の開口面積が可変制御される流量制御弁と、該流量制御弁の上流側に配され、流量制御弁の前後差圧を一定に保持するべく作動する圧力補償弁と、前記ポンプ制御電流およびバルブ制御電流を出力するコントローラとを備えてなる作業機械の油圧システムにおいて、前記ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行うにあたり、油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出手段を設けるとともに、前記流量制御弁の出力側に出力流量を低背圧状態で油タンクに流すリリーフ油路を接続する一方、前記コントローラに、バルブ制御電流値と流量制御弁出力流量との較正済み対応データに基づいて、任意に設定される目標流量の流量制御弁出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値として出力するバルブ制御手段と、前記較正時バルブ制御電流値が出力されている状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させて出力するポンプ制御手段と、スイープ上昇中のポンプ圧の変化がピークとなるときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記任意に設定された目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正する較正制御手段とを設けたことを特徴とする油圧システムにおけるキャリブレーションシステムである。
請求項2の発明は、ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから油圧アクチュエータへの圧油供給路に配され、バルブ制御電流値に応じて供給用開口の開口面積が可変制御される流量制御弁と、該流量制御弁の上流側に配され、流量制御弁の前後差圧を一定に保持するべく作動する圧力補償弁と、前記ポンプ制御電流およびバルブ制御電流を出力するコントローラとを備えてなる作業機械の油圧システムにおいて、前記ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行うにあたり、油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出手段を設けるとともに、前記流量制御弁の出力側に出力流量を低背圧状態で油タンクに流すリリーフ油路を接続する一方、前記キャリブレーションは、バルブ制御電流値と流量制御弁出力流量との較正済み対応データに基づいて、任意に設定される目標流量の流量制御弁出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値としてコントローラから出力するステップと、前記較正時バルブ制御電流値が出力されている状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させてコントローラから出力するステップと、スイープ上昇中のポンプ圧の変化がピークとなるときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記任意に設定された目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正するステップとを含むことを特徴とする油圧システムにおけるキャリブレーション方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、2の発明とすることにより、高精度のキャリブレーションを効率良く簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】作業機械の油圧システムの一部を示す油圧回路図である。
図2】キャリブレーションの手順を示すフローチャート図である。
図3】キャリブレーション時におけるポンプ制御電流値とポンプ圧とポンプ圧の時間微分値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1に、作業機械の一例である油圧ショベルに設けられる油圧システムの一部を示すが、該図1において、1は車載のコントローラ(制御装置)、2は可変容量型の油圧ポンプ、2aは油圧ポンプ2の容量可変手段、3はポンプ用電磁比例弁、4は油タンク、5は油圧ポンプ2を油圧供給源とする油圧アクチュエータ、6は油圧ポンプ2から油圧アクチュエータ5への圧油供給路に配されて油圧アクチュエータ5に対する給排制御を行うコントロールバルブである。
尚、作業機械が油圧ショベルの場合、該油圧ショベルには、ブームシリンダ、スティックシリンダ、バケットシリンダ、走行モータ、旋回モータ、オプションアタッチメント用油圧アクチュエータ等の各種の油圧アクチュエータが設けられるとともに、これら油圧アクチュエータの油圧供給源となる単数または複数の油圧ポンプが設けられるが、図1には、本実施の形態のキャリブレーションが実施される油圧ポンプ2と、該油圧ポンプ2のキャリブレーションに用いられる回路のみを示してある。
【0009】
前記ポンプ用電磁比例弁3は、コントローラ1から入力されるポンプ制御電流値に基づき、該ポンプ制御電流値に応じたポンプ制御信号圧を、油圧ポンプ2の容量可変手段2aに出力する。そして、該容量可変手段2aは、入力されたポンプ制御信号圧に応じて作動して油圧ポンプ2の流量制御を行うようになっており、しかして、油圧ポンプ2のポンプ流量は、コントローラ1からポンプ用電磁比例弁3に出力されるポンプ制御電流値に応じて可変制御されるようになっている。
【0010】
また、前記コントロールバルブ6は、後述するパイロット作動式のスプール弁(本発明の流量制御弁に相当する)8と、該スプール弁8の上流側に配される圧力補償弁9と、スプール弁8にパイロット圧を出力する第一、第二電磁比例弁10A、10Bとを備えて構成されている。
前記スプール弁8は、油圧アクチュエータ5に対する給排流量制御を行うと共に給排方向を切換える方向切換弁であって、第一、第二電磁比例弁10A、10Bにそれぞれ接続される第一、第二パイロットポート8a、8bと、圧力補償弁9を介して油圧ポンプ2に接続されるポンプポート8pと、油タンク4に接続されるタンクポート8tと、油圧アクチュエータ5の第一入出力ポート5aに接続される第一アクチュエータポート8cと、油圧アクチュエータ5の第二入出力ポート5bに接続される第二アクチュエータポート8dと、負荷圧導入油路11を介して後述する圧力補償弁9の第二パイロットポート9bに接続される負荷圧出力ポート8eとを備えている。そして、スプール弁8は、第一、第二の両パイロットポート8a、8bにパイロット圧が入力されていない状態では、油圧アクチュエータ5に対する給排制御を行わず、且つ、負荷圧出力ポート8eを閉じる中立位置Nに位置しているが、第一パイロットポート8aにパロット圧が入力されることにより第一作動位置Xに切換わって、ポンプポート8pから第一アクチュエータポート8cに至る供給用開口8fと、第二アクチュエータポート8dからタンクポート8tに至る排出用開口8gと、供給用開口8fの下流側から負荷圧出力ポート8eに至る負荷圧用開口8hとを開き、また、第二パイロットポート8bにパイロット圧が入力されることにより第二作動位置Yに切換わって、ポンプポート8pから第二アクチュエータポート8dに至る供給用開口8fと、第一アクチュエータポート8cからタンクポート8tに至る排出用開口8gと、供給用開口8fの下流側から負荷圧出力ポート8eに至る負荷圧用開口8hとを開くように構成されている。そして、前記供給用開口8fの開口面積は、第一、第二電磁比例弁10A、10Bから出力されるパイロット圧によって移動するスプール弁8の移動ストロークに応じて定まるようになっていると共に、スプール弁8から油圧アクチュエータ5への出力流量は、供給用開口8fの開口面積によって制御されるようになっている。さらに、第一、第二作動位置X、Yのスプール弁8は、負荷圧用開口8hが開くことで、スプール弁8の出口側圧力(油圧アクチュエータ5の負荷圧)が負荷圧導入油路11に導入されるようになっている。
【0011】
また、前記圧力補償弁9は、スプール弁8の入口側圧力が入力される第一パイロットポート9aと、スプール弁8の出口側圧力が前記負荷圧導入油路11を介して入力される第二パイロットポート9bと、バネ9cとを備えているとともに、第一パイロットポート9aに入力されたスプール弁8の入口側圧力は圧力補償弁9の弁体を閉側に押圧し、第二パイロットポート9bに入力されたスプール弁8の出口側圧力とバネ9cの押圧力とは圧力補償弁9の弁体を開側に押圧するように構成されている。そして、該圧力補償弁9の開口面積は、スプール弁8の入口側圧力と出口側圧力との差圧(前後差圧)が一定となるように制御される。つまり、スプール弁8の前後差圧が大きくなると、圧力補償弁9の弁体が閉側に移動することで開口面積が小さくなって通過圧力損失が大きくなり、これによってスプール弁8の入口側圧力が下がる一方、スプール弁8の前後差圧が小さくなると、圧力補償弁9の弁体が開側に移動することで開口面積が大きくなって通過圧力損失が小さくなり、これによってスプール弁8の入口側圧力が上昇し、このような圧力補償弁9の作動によって、スプール弁8の前後差圧が一定に保持されるようになっている。
【0012】
ここで、前記スプール弁8から油圧アクチュエータ5への出力流量は、以下のオリフィスの式(1)により、スプール弁8の供給用開口8fの開口面積と、スプール弁8の前後差圧と、流量係数とによって求められる。
Q=C×A×√ΔP ・・・(1)
上記式(1)において、Qはスプール弁8からの出力流量、Cは流量係数、Aはスプール弁8の供給用開口8fの開口面積、ΔPはスプール弁8の前後差圧である。
そして、前述したように、スプール弁8の前後差圧ΔPは圧力補償弁9によって一定に保持されるとともに、供給用開口8fの開口面積Aは、第一、第二電磁比例弁10A、10Bから出力されるパイロット圧に応じて定まるから、流量係数Cを一定とみなすと、スプール弁8から油圧アクチュエータ5への出力流量は、油圧ポンプ2のポンプ圧や油圧アクチュエータ5の負荷が変動しても、第一、第二電磁比例弁10A、10Bから出力されるパイロット圧に応じて定まることになる。
【0013】
前記第一、第二電磁比例弁10A、10Bは、コントローラ1から入力されるバルブ制御電流値に基づき、該バルブ制御電流値に応じたパイロット圧を前記スプール弁8の第一、第二パイロットポート8a、8bにそれぞれ出力する。そして、スプール弁8は、入力されたパイロット圧に応じた開口面積で供給用開口8fおよび排出用開口8gを開いて油圧アクチュエータ5に対する供給流量制御および排出流量制御を行うようになっているとともに、スプール弁8の前後差圧は圧力補償弁9によって一定に保持されるようになっており、しかして、スプール弁8からの出力流量は、コントローラ1から第一、第二電磁比例弁10A、10Bに出力されるバルブ制御電流値に応じて可変制御されるようになっている。
【0014】
また、図1において、12は前記コントロールバルブ6と油圧アクチュエータ5とを接続するアクチュエータ油路13から分岐形成されて油タンク4に至るリリーフ油路であって、該リリーフ油路12には、コントローラ1からの制御信号に基づいてリリーフ圧を変更できる可変リリーフ弁14が配設されている。そして、例えば油圧アクチュエータ5がブレーカ等の背圧低減が必要な油圧アクチュエータの場合に、前記可変リリーフ弁14の設定圧を低圧に設定することで、低背圧状態で油圧アクチュエータ5からの排出油をリリーフ油路12を経由して油タンク4に流すことができるようになっている。
【0015】
さらに、図1において、18は前記コントローラ1に入出力自在に接続されるモニタ装置18であって、該モニタ装置18は、例えば油圧ショベルの運転室に配置されていて、図示しない表示画面や、キーボート、タッチパネル、ダイヤル等の操作手段を備えており、機体状態の表示や各種設定等を行うときに用いられるものであるが、本実施の形態では、該モニタ装置18の操作手段の操作に基づいて、後述するキャリブレーションの開始や作業、終了等を行うことができるようになっている。
【0016】
一方、前記コントローラ1は、入力側に、油圧アクチュエータ5用の操作具15の操作方向および操作量を検出する操作検出手段16や、油圧ポンプ2のポンプ圧を検出する圧力センサ(本発明の圧力検出手段に相当する)17等が接続される一方、出力側には前記ポンプ用電磁比例弁3や、第一、第二電磁比例弁10A、10B、可変リリーフ弁14等が接続されている。そして、コントローラ1は、後述するキャリブレーションが実行されていない通常作業時には、操作検出手段16から入力される操作具15の操作方向や操作量、圧力センサ17から入力されるポンプ圧等に基づいて目標ポンプ流量を求め、油圧ポンプ2のポンプ流量が該目標ポンプ流量となるように前記ポンプ用電磁比例弁3に対してポンプ制御電流値を出力する。この場合に、コントローラ1には、ポンプ制御電流値とポンプ流量との対応関係を示したポンプ用対応データPDが保存されており、該ポンプ用対応データPDに基づいて、目標ポンプ流量に対応するポンプ制御電流値をポンプ用電磁比例弁3に出力するように構成されている。そして、ポンプ用電磁比例弁3は、前述したように、ポンプ制御電流値に応じたポンプ制御信号圧を油圧ポンプ2の容量可変手段2aに出力し、これにより、油圧ポンプ2の吐出流量は目標ポンプ流量となるように制御されるようになっている。尚、後述するキャリブレーションの実行時には、操作具15の操作がなされていない状態で、コントローラ1からポンプ用電磁比例弁3に対してポンプ制御電流が出力される構成になっている。
【0017】
さらに、コントローラ1は、キャリブレーションが実行されていない通常作業時には、操作検出手段16から入力される操作具15の操作方向および操作量等に基づいてアクチュエータ要求流量を求め、スプール弁8から油圧アクチュエータ5への出力流量が該アクチュエータ要求流量となるように前記第一、第二電磁比例弁10A、10Bに対してバルブ制御電流を出力する。この場合、コントローラ1には、スプール弁8の出力流量とバルブ制御電流値との対応関係を示したバルブ用対応データVDが保存されており、該バルブ用対応データVDに基づいて、アクチュエータ要求流量に対応するバルブ制御電流値を第一、第二電磁比例弁10A、10Bに出力するように構成されている。そして、第一、第二電磁比例弁10A、10Bは、前述したように、コントローラ1から入力されるバルブ制御電流値に応じたパイロット圧をスプール弁8に出力し、これによりスプール弁8から油圧アクチュエータ5への出力流量はアクチュエータ要求流量となるように制御されるようになっている。尚、後述するキャリブレーションの実行時には、操作具15の操作がなされていない状態で、コントローラ1から第二電磁比例弁10Bに対してバルブ制御電流が出力される構成になっている。
【0018】
ここで、前記スプール弁8の出力流量とバルブ制御電流値との対応関係を示すバルブ用対応データVDは、後述するようにポンプ制御電流値とのポンプ流量との対応関係のキャリブレーションに用いられるが、該キャリブレーションに用いられるバルブ用対応データVDは、仕様上のものではなく、実測データに基づいてスプール弁8の出力流量とバルブ制御電流値との対応関係を較正した較正済みのバルブ用対応データVDが用いられる。該較正済みのバルブ用対応データVDは、例えば、コントロールバルブ6のサプライヤー側において、コントロールバルブ6の出荷前検査で実施された実測データに基づいて作成され、前記モニタ装置18を用いて、あるいは他の入力手段や通信手段を介して、コントローラ1に入力保存される。また、コントロールバルブ6を油圧ショベルに搭載した状態でスプール弁8の出力流量とバルブ制御電流値との対応関係を実測し、該実測データに基づき仕様上のバルブ用対応データVDを較正して較正済みバルブ用対応データVDを得ることもできる。そして、この較正済みバルブ用対応データVDは、ポンプ制御電流値とのポンプ流量との対応関係のキャリブレーションに用いられるだけでなく、前述した通常作業時に用いられることは勿論である。
【0019】
さらに、前記コントローラ1には、ポンプ制御電流値とポンプ流量との対応関係のキャリブレーションを制御するキャリブレーション制御部20が設けられているが、該キャリブレーション制御部20は、後述するように、キャリブレーションの実行時に、前記第二電磁比例弁10Bに対してバルブ制御電流を出力するバルブ制御部(本発明のバルブ制御手段に相当する)21、ポンプ制御電流値をスイープ上昇させて出力するポンプ制御部(本発明のポンプ制御手段に相当する)22、前記ポンプ用対応データPDを較正する較正制御部(本発明の較正制御手段に相当する)23等を備えて構成されている。
【0020】
次いで、前記キャリブレーション制御部20が行うキャリブレーション制御について、図2のフローチャート図に基づいて説明する。
尚、キャリブレーションを実行する場合には、前準備として、スプール弁8の第一、第二アクチュエータポート8c、8dと油圧アクチュエータ5の第一、第二入出力ポート5a、5bとの接続油路を閉鎖するとともに、スプール弁8の第二アクチュエータポート8dからの出力流量が前述したリリーフ油路12の可変リリーフ弁14を経由して油タンク4に流れるようにしておく。この場合に、可変リリーフ弁14の設定圧を低圧に設定することで、スプール弁8からの出力流量は低背圧状態で油タンク4に流れるようになっている。
【0021】
まず、キャリブレーション制御部20は、モニタ装置18からキャリブレーション作業開始の操作信号が入力されると、キャリブレーションポイントとなる任意の目標流量を設定する(ステップS1)。該目標流量は、モニタ装置18によって任意に設定、変更できる。
続けて、前記較正済みバルブ用対応データVDに基づいて、前記目標流量のスプール弁8出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値として設定する(ステップS2)。そして、該較正時バルブ制御電流値をバルブ制御部21から第二電磁比例弁10Bに対して出力する(ステップS3)。この較正時バルブ制御電流値の出力は、キャリブレーションが終了するまで継続される。これにより、スプール弁8は、第二作動位置Yに切換わるとともに、該第二作動位置Yの供給用開口8fの開口面積は、較正時バルブ制御電流値に対応する開口面積に固定保持される。
続けて、前記較正時バルブ制御電流値が出力されている状態で、ポンプ制御部22からポンプ用電磁比例弁3に対して、スイープに適した所定の一定速度でポンプ制御電流値をスイープ上昇させながら出力する(ステップS4)。
さらに、前記ステップS4のポンプ制御電流値のスイープ上昇中に、圧力センサ17により油圧ポンプ2のポンプ圧を検出する(ステップS5)。さらに、該検出されたポンプ圧の時間微分値を求め、該時間微分値に基づいて、スイープ上昇中におけるポンプ圧の変化のピークを検出する(ステップS6)。
つまり、スプール弁8の供給用開口8fの開口面積を、較正時バルブ制御電流値(任意の目標流量のスプール弁8出力流量に対応するバルブ制御電流値)に対応する開口面積に固定保持した状態で、ポンプ制御電流値をスイープ上昇させていくと、油圧ポンプ2の吐出油は、圧力補償弁9、スプール弁8、リリーフ油路12の可変リリーフ弁14を経由して油タンク4に流れるが、この場合に、ポンプ制御電流値のスイープ上昇に伴い増加するポンプ流量が目標流量より少ない場合は、供給用開口8fを抵抗なく通過したスプール弁8からの出力流量は低背圧状態で油タンク4に流れ、ポンプ圧は低圧に保持される。この状態からさらにポンプ制御電流値をスイープ上昇させて、ポンプ流量が目標流量を超えると、該ポンプ流量がスプール弁8の供給用開口8fを通過する際の抵抗が大きくなって、スプール弁8の入口側圧力が増加する。これによりスプール弁8の前後差圧が大きくなって、圧力補償弁9が閉じる。そして、該圧力補償弁9が閉じることでポンプ圧が急上昇するが、該ポンプ圧の急上昇を、ポンプ圧の時間微分値のピークに基づいて検出する。
さらに、較正制御部23において、ポンプ圧の変化がピークとなったときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として、前記コントローラ1に保存されているポンプ用対応データPDを較正する(ステップS7)。
この場合に、キャリブレーションを行うために設定される目標流量の設定数が一つの場合には、さらに較正制御部23によって、前記較正されたポンプ制御電流値と、コントローラ1に保存されているポンプ用対応データPDにおける目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値との差を較正量として、ポンプ流量の全域に亘ってポンプ用対応データPDのポンプ流量とポンプ制御電流値との対応関係を較正して、キャリブレーションを終了する。この場合に、目標流量の設定数が一つであっても、目標流量をポンプ流量の中間領域の流量として該中間領域流量のキャリブレーションを行うことで、ポンプ流量の全域に亘って高精度な流量制御を行うことができる。
また、目標流量の設定数が複数の場合には、図2のフローチャート図には図示しないが、各目標流量ごとに前記ステップS1~S7を行った後に、複数の較正されたポンプ制御電流値を用いて、ポンプ流量の全域に亘ってポンプ用対応データPDにおけるポンプ流量とポンプ制御電流値との対応関係を較正して、キャリブレーションを終了する。このように目標流量の設定数を複数にした場合には、より高精度なポンプ流量の流量制御を行うことができる。
尚、図3に、キャリブレーションの実行時においてコントローラ1から出力されるポンプ制御電流値と、油圧ポンプ2のポンプ圧と、該ポンプ圧の時間微分値との関係の実測例を示すが、該図3に示されるように、ポンプ圧の変化のピークは、時間微分値のスパイク状のピークによって検出される。
【0022】
叙述の如く構成された本実施の形態において、作業機械の油圧システムには、ポンプ制御電流値に応じて容量が可変制御される可変容量型の油圧ポンプ2、該油圧ポンプ2から油圧アクチュエータ5への圧油供給路に配され、バルブ制御電流値に応じて供給用開口8fの開口面積が可変制御されるスプール弁8、該スプール弁8の上流側に配され、スプール弁8の前後差圧を一定に保持するべく作動する圧力補償弁9、前記ポンプ制御電流およびバルブ制御電流を出力するコントローラ1等が備えられているが、このものにおいて、ポンプ制御電流値と油圧ポンプ2のポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行う場合には、油圧ポンプ2のポンプ圧を検出する圧力センサ17を設けるとともに、スプール弁8の出力側にスプール弁8の出力流量を低背圧状態で油タンク4に流すリリーフ油路12を接続する。さらに、前記コントローラ1には、バルブ制御電流値とスプール弁8出力流量との較正済みバルブ用対応データVDに基づいて、任意に設定される目標流量のスプール8出力流量に対応するバルブ制御電流値を求め、該バルブ制御電流値を較正時バルブ制御電流値として出力するバルブ制御手段21と、較正時バルブ制御電流値が出力されている状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させて出力するポンプ制御手段22と、スイープ上昇中のポンプ圧の変化がピークとなるときのポンプ制御電流値を求め、該ポンプ制御電流値を、前記任意に設定された目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正する較正制御手段23とが設けられることになる。
【0023】
このように本実施の形態にあっては、キャリブレーション時に、コントローラ1から較正時バルブ制御電流値を出力することで、スプール弁8の供給用開口8fの開口面積を、較正済みバルブ用対応データVDに基づいて求められた任意の目標流量のスプール8出力流量に対応する開口面積に保持し、この状態でポンプ制御電流値をスイープ上昇させて油圧ポンプ2のポンプ流量を増加させていく。そして、スプール弁8の供給用開口8fに供給されるポンプ流量が前記目標流量を超えると、スプール弁8の前後差圧を一定に保持するべく圧力補償弁9が閉じることになるが、該圧力補償弁9が閉じることでポンプ圧が急上昇し、該ポンプ圧の急上昇がポンプ圧の変化のピークとして検出され、そしてこのポンプ圧変化のピーク時のポンプ制御電流値が、目標流量のポンプ流量に対応するポンプ制御電流値として較正されることになる。
【0024】
この結果、ポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係を較正するキャリブレーションを行うにあたり、ポンプ圧の変化のピークに基づいて、任意に設定される目標流量のポンプ流量に対するポンプ制御電流値を較正できることになり、しかして、ポンプ圧の変位点を見出すことが難しいポンプ最低流量や最大流量で較正を行う場合のように較正の精度が劣るようなことなく、高精度で信頼性の高いキャリブレーションを行うことができる。さらに、任意に設定される目標流量をポンプ流量の中間領域として該中間領域のポンプ流量をキャリブレーションすることで、油圧ポンプ2の吐出流量全域に亘って高精度な流量制御を行えることになる。しかもこのキャリブレーションは、コントローラ1からバルブ制御電流値およびポンプ制御電流値を出力し、該出力中のポンプ圧を検出するだけで行うことができるから、キャリブレーション用の特別な機器を必要とせず、簡単な構成で効率の良いキャリブレーションを行えることになる。
【0025】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、例えば上記実施の形態では、キャリブレーション時に流量制御弁(スプール弁8)の出力側に接続されるリリーフ油路として、油圧アクチュエータ5がブレーカ等の背圧低減が必要な油圧アクチュエータの場合に、該油圧アクチュエータ5からの排出油を低背圧状態で油タンク4に流すために設けられたリリーフ油路12が用いられているが、このようなリリーフ油路12が設けられていない場合には、油圧システムに設けられている他のセクション(図1には図示せず)のリリーフ油路を流量制御弁に配管接続してキャリブレーションを実施することもできる。
また、上記実施の形態では、流量制御弁(スプール弁8)は、バルブ制御電流値が入力される第一、第二電磁比例弁10A、10Bから出力されるパイロット圧によりスプールが移動するパイロット作動式のものであるが、これに限定されることなく、流量制御弁を電磁弁として、該流量制御弁にバルブ制御電流値が直接入力される構成のものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧システムにおいて、コントローラから出力されるポンプ制御電流値と油圧ポンプのポンプ流量との対応関係をキャリブレーションする場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 コントローラ
2 油圧ポンプ
4 油タンク
5 油圧アクチュエータ
8 スプール弁
9 圧力補償弁
12 リリーフ油路
17 圧力センサ
20 キャリブレーション制御部
21 バルブ制御部
22 ポンプ制御部
23 較正制御部
図1
図2
図3