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特開2024-32141監視装置、角度検出装置および監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032141
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】監視装置、角度検出装置および監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135635
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】岸田 学
(72)【発明者】
【氏名】桑原 昌樹
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA02
2F077FF34
2F077PP26
2F077TT38
(57)【要約】
【課題】温度ドリフトに伴う検出精度の変化とN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化との双方を監視する。
【解決手段】 N相(Nは3以上の整数)のレゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視部と、上記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の2乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視部と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N相(Nは3以上の整数)のレゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視部と、
前記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の二乗和によって前記レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視部と、
を備えた監視装置。
【請求項2】
前記二乗和において極大値あるいは極小値を生じる電気角θに基づいて、前記N相のうち、他の相に対してアンバランスを生じている相を特定する相特定部を更に備えた請求項1記載の監視装置。
【請求項3】
前記第2監視部は、前記二乗和における極大値と極小値との差を検出精度の指標とする請求項1記載の監視装置。
【請求項4】
前記第1監視部は、前記第2監視部による監視結果に基づいて調整された前記N相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する請求項1記載の監視装置。
【請求項5】
N相(Nは3以上の整数)のレゾルバと、
前記レゾルバの出力信号から当該レゾルバの電気角θを得る角度検出部と、
前記レゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視部と、
前記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の二乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視部と、
を備えた角度検出装置。
【請求項6】
N相(Nは3以上の整数)のレゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視ステップと、
前記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の二乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視ステップと、
を順不同で有する監視装置における監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視装置、角度検出装置および監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レゾルバを用いてモータなどの回転角度を検出する角度検出装置が知られている。また、レゾルバを用いた角度検出装置において、温度変化などを監視する機能を備えることも知られている。
例えば特許文献1には、レゾルバを用いた角度位置検出装置において、温度ドリフトの補償による検出精度向上を目的として、N相レゾルバ信号をアナログ加算することにより、N相レゾルバ信号の変調成分を相殺し、コイルの温度を反映した温度検出信号を生成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-91269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、温度ドリフトに伴う検出精度の変化を監視することができるが、N相の相互間でのアンバランスによる検出精度の変化を監視することはできない。
そこで、本発明は、温度ドリフトに伴う検出精度の変化とN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化との双方を監視することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る監視装置の一態様は、N相(Nは3以上の整数)のレゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視部と、上記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の2乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視部と、を備える。
【0006】
このような監視装置によれば、第1監視部によって温度ドリフトに伴う検出精度の変化を監視することができるとともに、第2監視部によってN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化を監視することができる。
また、上記の監視装置は、上記2乗和において極大値若しくは極小値を生じる電気角θに基づいて、上記N相のうち、他の相に対してアンバランスを生じている相を特定する相特定部を更に備えることが好ましい。アンバランスな相が推定されると、アンバランスの補正などが可能となる。
【0007】
また、上記の監視装置において、上記第2監視部は、上記二乗和における極大値と極小値との差を検出精度の指標とすることが好ましい。2乗和における極大値と極小値との差によって検出精度を精度よく監視することができる。
上記課題を解決するために、本発明に係る上記角度検出装置の一態様は、N相(Nは3以上の整数)のレゾルバと、上記レゾルバの出力信号から当該レゾルバの電気角θを得る角度検出部と、上記レゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視部と、上記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の2乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視部と、を備える。このような角度検出装置によれば、温度ドリフトに伴う検出精度の変化とN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化との双方を監視することができ、高精度の角度検出が可能となる。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る監視装置における監視方法の一態様は、N相(Nは3以上の整数)のレゾルバにおけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバにおける環境温度を監視する第1監視ステップと、上記N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の2乗和によって当該レゾルバにおける検出精度を監視する第2監視ステップと、を順不同で有する。
【0009】
このような監視方法によれば、温度ドリフトに伴う検出精度の変化とN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化との双方を監視することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度ドリフトに伴う検出精度の変化とN相相互間でのアンバランスによる検出精度の変化との双方を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の角度検出装置を含んだ駆動装置における全体構成を示す図である。
図2】レゾルバの構造を示す断面図である。
図3】レゾルバ信号φA、φB、φCと温度検出信号vtを示すグラフである。
図4】他の相に対してA相がアンバランスな場合における信号例を示すグラフである。
図5】他の相に対してB相がアンバランスな場合における信号例を示すグラフである。
図6】他の相に対してC相がアンバランスな場合における信号例を示すグラフである。
図7】角度検出装置の信号処理がプログラムで実現される場合のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0013】
本明細書において、三相(A相、B相、C相)の巻線を有する三相レゾルバの検出精度を監視する場合を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、四相または五相などを含むN相(Nは3以上の整数)の巻線を有するN相レゾルバの検出精度を監視する場合も本開示の範疇である。
【0014】
図1は、本実施形態の角度検出装置11を含んだ駆動装置10の全体構成を示す図である。図1には、主として角度検出装置11の回路構成が示されている。
駆動装置10は、モータ60と、モータ60の回転軸の回転角度に対応したレゾルバ信号を出力するレゾルバ40と、モータ60を駆動するドライブユニット20を備えている。ドライブユニット20は、レゾルバ信号からデジタル角度信号φを求める角度検出装置11と、駆動回路70を備えている。図1では便宜上、角度検出装置11のブロック内にレゾルバ40が示されているが、実際にはレゾルバ40は、例えばモータ60内に組み込まれて回転軸の回転角度を検出することができる。モータ60としては、例えば、ダイレクトドライブモータが好適であるが、ダイレクトドライブモータ以外のモータが用いられてもよい。
【0015】
駆動回路70は、角度検出装置11が出力するデジタル角度信号(電気角θを示す信号)に基づいてモータ60を駆動する。
角度検出装置11は、発信器21と、増幅器22と、電流電圧変換回路23と、3相2相変換器24と、R/D変換器(レゾルバ・デジタル・コンバータ)25と、温度検出回路30と、監視装置50とを備える。更に、角度検出装置11は、信号調整器26a、26b、26cと、温度補償器27を備える。
【0016】
発信器21は、数kHz程度の励磁信号(正弦波信号)を出力する。増幅器22は、励磁信号を適度な信号レベルに増幅した上でレゾルバ40の共通端子COMに供給する。電流電圧変換回路23は、レゾルバ40から出力される電流信号を電圧信号に変換する。3相2相変換器24は、3相信号を2相信号(sin信号,cos信号)に変換する。R/D変換器25は、2相信号をデジタル角度信号(電気角θを示す信号)に変換する。つまり、3相2相変換器24およびR/D変換器25により、3相のレゾルバ信号からレゾルバ40の電気角θが得られる。温度検出回路30は、レゾルバ40の温度に対応した温度検出信号vtを出力する。
【0017】
監視装置50は、例えばCPU(中央演算装置)によって構成される。後述するように、監視装置50は、レゾルバ40について温度監視と検出精度監視を行う。温度補償器27は、監視装置50で監視された温度に応じて検出角度の温度補償を行う。信号調整器26a、26b、26cは、監視装置50で監視された検出精度に応じて信号の調整を行う。
【0018】
ここで、レゾルバ40の構造について説明する。
図2は、レゾルバ40の構造を示す断面図である。
レゾルバ40は、ステータ(固定子)43と中空環状のロータ(回転子)41を備える。図2に一例としてされたレゾルバ40は、VR(バリアブルリラクタンス)型レゾルバである。
【0019】
ステータ43は、先端部に複数の極片歯45を有する外歯状の極片44を複数有する。極片44は、円周を等分する各箇所に固定支持され、各々の極片44には3相のコイルCa,Cb,Ccが順番に巻回される。3相のコイルCa,Cb,Ccは相毎に直列に接続される。
【0020】
ロータ41は、極片歯45に対向して形成されて円周方向に並んだ内歯状の歯42を有する。
A相、B相およびC相の極片44に巻回されるコイルCa,Cb,Ccの巻回方向は、隣り合う同一相の極片44において極性が反転する巻回方向に設定される。例えば、コイルの巻回方向が同一で電流の流れる方向が交互に逆向きとなるように結線される。あるいは結線方向が同一でコイルの巻回方向が時計巻き(CW)と反時計巻き(CCW)で交互に繰り返される。
【0021】
ロータ41とステータ43は同心配置されており、ロータ41とステータ43の間隙(エアギャップ)のリラクタンスがロータ41の回転角度位置により変化する。リラクタンス変化の基本波成分は、ロータ41の1回転で複数(ロータ歯数)周期となる。コイルCa,Cb,Ccの共通端子に励磁信号が供給されると、3相のコイルCa,Cb,Ccからは、ステータ43に対するロータ41の回転角度位置に応じたA相、B相およびC相の電流信号が出力される。A相、B相およびC相の電流信号は、互いに120°の電気角でずれた信号となる。
【0022】
尚、レゾルバ40として図2にはアウタロータタイプのものが例示されるが、レゾルバ40としてインナロータタイプのものが用いられてもよい。
図1に戻って説明を続ける。
電流電圧変換回路23は、A相、B相、およびC相それぞれのロータ41の回転角度に応じた電流信号を電圧信号(レゾルバ信号)に変換するためのセンス抵抗Ra1、Rb1、Rc1を備える。電流電圧変換回路23で得られる各相のレゾルバ信号は、高次成分を無視すると、下記の式(1)~式(3)に示す通りとなる。ここでは、説明の便宜上、A相を基準としてB相およびC相の位相がそれぞれ120度、240度の電気角で遅角位相である場合を例示する。
【0023】
φA=T・(Adc+Aac・sinθ)・sinωt … (1)
φB=T・{Bdc+Bac・sin(θ-120°)}・sinωt … (2)
φC=T・{Cdc+Cac・sin(θ-240°)}・sinωt … (3)
ここで、式(1)~式(3)のTは、コイルCa,Cb,Ccの温度係数を示しており、レゾルバ40の環境温度が高くなる程、温度係数Tの値は増加する。また、ωは発信器21の発信角周波数であり、θはロータ41とステータ43の相対的な回転で生じる電気角である。
【0024】
各相のレゾルバ信号は、それぞれ信号調整器26a、26b、26cに入力される。
信号調整器26a、26b、26cはアナログ演算手段である。各信号調整器26a、26b、26cは、オペアンプOPと、帰還抵抗Ra3、Rb3、Rc3と、入力信号用の抵抗Ra2、Rb2、Rc2と、調整信号用の抵抗Ra4、Rb4、Rc4とを備える。入力信号用の抵抗Ra2、Rb2、Rc2は、電流電圧変換回路23とオペアンプOPの非反転入力端子との間に設けられる。調整信号用の抵抗Ra4、Rb4、Rc4は、丸付き数字「1」「2」「3」が示す調整信号用の入力端子とオペアンプOPの非反転入力端子との間に設けられる。各相のレゾルバ信号には信号調整器26a、26b、26cで調整信号が加算される。調整信号は、各相のレゾルバ信号における直流成分を調整する信号である。調整信号の詳細については後述する。
【0025】
信号調整器26a、26b、26cを経た3相のレゾルバ信号は3相2相変換器24に入力されて2相信号に変換される。下記の式(4)および式(5)は、3/2相変換器24で得られる2相信号sin、cosを示す。
sin信号=φA-(φB+φC)/2 … (4)
cos信号=sqr(3/4)・(φB-φC) … (5)
【0026】
式(5)においてsqr(x)は引数xの平方根を返す関数である。
3相2相変換器24で得られる2相信号はR/D変換器25に入力される。R/D変換器25は、2相信号をデジタルの角度信号に変換する。角度信号は電気角θを示し、温度補償器27での温度補償を経て角度検出装置11から出力され、駆動回路70に入力される。なお駆動回路70は、電気角θからモータ60の回転軸における回転角度を算出する機能を有する。
【0027】
信号調整器26a、26b、26cを経た3相のレゾルバ信号は温度検出回路30にも入力される。
温度検出回路30は、アナログ加算回路31と、復調器32と、A/D変換器33を備える。アナログ加算回路31はアナログ演算手段であり、オペアンプOPと、帰還抵抗Rfと、抵抗Ra5、Rb5、Rc5を備える。抵抗Ra5、Rb5、Rc5は、信号調整器26a、26b、26cとオペアンプOPの非反転入力端子との間に設けられる。
【0028】
アナログ加算回路31は、レゾルバ信号φA、φB、φCを加算して、温度検出信号vtを出力する。復調器32は、温度検出信号vtの変調成分(sinωt)を復調して直流の振幅電圧VTを得る。A/D変換器33は、振幅電圧VTをデジタル値に変換する。
【0029】
図3は、レゾルバ信号φA、φB、φCと温度検出信号vtを模式的に示すグラフである。
図3には、変調成分(sinωt)が捨象されたエンベロープで各信号が示される。図3のグラフの横軸は電気角θを示し、縦軸は信号強度を示す。
3相のレゾルバ信号φA、φB、φCは互いに位相が120度ずれており、3相のレゾルバ信号φA、φB、φCが加算された温度検出信号vtは、図3に示すように電気角θに依らない一定値となる。3相のレゾルバ信号φA、φB、φCにおける直流成分が3相の相互間でアンバランスとなった場合でも、温度検出信号vtは一定値を示す。そして、温度検出信号vtから復調器32およびA/D変換器33を介して得られる振幅電圧VTは、コイルCa,Cb,Ccの温度係数Tおよび環境温度を示す。
【0030】
図1に示す温度検出回路30から出力される振幅電圧VTは、監視装置50の温度監視部51に入力される。温度監視部51は、振幅電圧VTが示す環境温度を監視し、電気角θを示したデジタル角度信号に対する温度補償値を環境温度に基づいて、従来周知の任意の方法で算出する。別の観点によれば、温度監視部51は、N相(例えば3相)のレゾルバ40におけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバ40における環境温度を監視する。温度監視部51で算出された温度補償値は、丸付き数字「4」が示すように温度補償器27に入力され、デジタル角度信号に対する温度補償に用いられる。
【0031】
3相2相変換器24で得られる2相信号sin、cosは、復調器34およびA/D変換器35を介してデジタルの2相信号SIN、COSに変換され、監視装置50の二乗和算出部52に入力される。二乗和算出部52は、下記の式(6)に示す二乗和Eを算出する。
【0032】
E=sinθ+cosθ … (6)
二乗和Eは、監視装置50の検出精度監視部53に入力され、検出精度監視部53では二乗和Eに基づいて検出精度が監視される。つまり、検出精度監視部53は、N相の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の二乗和によってレゾルバ40における検出精度を監視する。検出精度監視部53は、監視部54と、相特定部55と、調整値設定部56とを有する。
【0033】
検出精度監視部53の監視部54は、レゾルバ信号の相の相互間におけるアンバランスの有無を二乗和Eに基づいて監視する。具体的には、二乗和Eの値が電気角θに依存した変動を生じるか否かでアンバランスの有無を判定する。
別の観点では、監視部54は、二乗和Eにおける極大値と極小値との差を指標として検出精度を監視する。そして監視部54は、極大値と極小値との差が閾値を越えた場合、相の相互間におけるアンバランスを生じて検出精度が低下したと判定する。
【0034】
そして、アンバランスが生じて検出精度が低下した場合には、相特定部55により、他の相に対してアンバランスを生じた相が特定される。調整値設定部56は、特定された相について、アンバランスを修正するための調整量を信号調整器26a、26b、26cに設定する。即ち、調整値設定部56で算出された調整量に相当する調整信号が、丸付き数字「1」「2」「3」に示すように監視装置50から出力されて信号調整器26a、26b、26cに入力される。信号調整器26a、26b、26cでレゾルバ信号に調整信号が加算されることにより、相のアンバランスが修正され、検出精度が向上する。
【0035】
ここで、検出精度監視部53における具体的な処理を、信号例に基づいて説明する。
図4図6は、相の相互間でアンバランスを生じた場合における信号例を模式的に示すグラフである。図4図6の各グラフには、2相信号SIN、COSと二乗和Eが示され、図4には、他の相に対してA相がアンバランスな場合が示される。また、図5には、他の相に対してB相がアンバランスな場合が示され、図6には、他の相に対してC相がアンバランスな場合が示される。図4図6の各グラフの横軸は電気角を示し、縦軸は信号強度を示す。
【0036】
他の相に対してA相がアンバランスな場合、二乗和Eの信号強度は、0度に対し±90度の電気角において極小あるいは極大を示す。即ち、A相の直流成分が他の相よりも大きい場合には、図4(A)に示すように、90度で極大を示し、270度で極小を示す。また、A相の直流成分が他の相よりも小さい場合には、図4(B)に示すように、90度で極小を示し、270度で極大を示す。
【0037】
他の相に対してB相がアンバランスな場合、二乗和Eの信号強度は、120度に対し±90度の電気角において極小あるいは極大を示す。即ち、B相の直流成分が他の相よりも大きい場合には、図5(A)に示すように、210度で極大を示し、30度で極小を示す。また、B相の直流成分が他の相よりも小さい場合には、図5(B)に示すように、210度で極小を示し、30度で極大を示す。
【0038】
他の相に対してC相がアンバランスな場合、二乗和Eの信号強度は、240度に対し±90度の電気角において極小あるいは極大を示す。即ち、C相の直流成分が他の相よりも大きい場合には、図6(A)に示すように、330度で極大を示し、150度で極小を示す。また、B相の直流成分が他の相よりも小さい場合には、図6(B)に示すように、330度で極小を示し、150度で極大を示す。
【0039】
図1に示す検出精度監視部53の監視部54は、二乗和Eにおける極大値と極小値との差を指標として検出精度を監視し、極大値と極小値との差が閾値を越えた場合、相の相互間におけるアンバランスを生じて検出精度が低下したと判定する。
相特定部55は、二乗和Eの値が極大あるいは極小を示す電気角θに基づいて、他の相に対してアンバランスを生じた相を特定する。
【0040】
即ち、相特定部55は、N相レゾルバにおける相番M(0~N-1)の相について、(360°÷N)×M+90°の第1電気角および(360°÷N)×M-90°の第2電気角の少なくとも一方で二乗和Eを監視する。そして相特定部55は、第1電気角で値Eが増加した場合および第2電気角で値Eが減少した場合には相番Mの相でDC成分が増加したと判定する。また相特定部55は、第1電気角で値Eが減少した場合および第2電気角で値Eが増加した場合には相番Mの相でDC成分が減少したと判定する。
【0041】
調整値設定部56は、検出精度に応じた調整量として、極大値と極小値との差が大きいほど大きい調整量を算出する。調整値設定部56は、相特定部55で特定された相の信号調整器26a、26b、26cに調整信号を入力する。
ここで、調整量の具体例について説明する。
例えば、A相のレゾルバ信号φAにおけるDC成分Adcのみ10.1vで、B相とC相のDC成分Bdc、Cdcがいずれも10vである場合に、sinθ+cosθ=Eの波形は、
電気角0度(=360度):4.02[v]
電気角90度が極大 :4.55[v]
電気角270度が極小 :3.48[v]
となる。上述したように、上記波形の極大値と極小値の電気角から、A相でアンバランスが生じていることとアンバランスの正負が確認される。また、極大値と極小値との差分値=4.55-3.48=1.07に所定の係数を掛けた調整量が、調整値設定部56によってA相の信号調整器26aに入力され、アンバランスの少なくとも一部が修正される。係数はレゾルバ40やモータ60に応じた値に設定されている。
このような調整値によりアンバランス修正が繰り返されることで、A相のレゾルバ信号φAにおけるDC成分Adcが0.1v低くなり、その結果二乗和Eの波形は電気角全域で4.00[v]となる。
3相のレゾルバ信号の調整により、相の相互間におけるアンバランスが修正される。従って、温度監視部51は、検出精度監視部53による監視結果に基づいて調整された3相のレゾルバ信号の総和によってレゾルバ40における環境温度を監視することになる。
相の相互間におけるアンバランスは、レゾルバ40による角度検出の精度に影響するとともに、環境温度の変化に対応するための温度監視や温度補償の精度にも影響する。従って、アンバランスの修正によるモータ60の駆動制御の精度向上が望まれる。
図1に示す角度検出装置11では、信号調整器26a、26b、26cに入力された調整信号によって相の相互間におけるアンバランスが修正されることで、電気角θの検出精度が向上するとともに、温度検出信号vtの精度も向上するので温度補償の精度も向上する。従って、電気角θを示すデジタル角度信号の精度が向上し、モータ60に対する駆動制御の精度も向上する。
【0042】
図1に示す角度検出装置11では、温度検出回路30などにハードウェアによる演算手段が用いられているが、角度検出装置11は、図1に示す構成を等価回路としたプログラムによって信号処理を行ってもよい。
【0043】
図7は、角度検出装置11の信号処理がプログラムで実現される場合のフローチャートである。
プログラムが開始されると、ステップS101で、レゾルバ40から3相のレゾルバ信号φA、φB、φCが取得される。そして、ステップS102で、3相のレゾルバ信号φA、φB、φCが2相信号(sin信号,cos信号)に変換され、電気角θが算出される。
【0044】
その後、ステップS103~ステップS106の処理と、ステップS107~ステップS109の処理が並列で実行される。
ステップS103では、2相信号から二乗和Eが算出され、ステップS104では、二乗和Eに基づいて検出精度が監視される。言い換えると、ステップS104では、N相(例えば3相)の出力信号からN相-2相変換で得られたsin信号とcos信号の二乗和によってレゾルバ40における検出精度が監視される。ステップS105では、相番に対応した電気角における二乗和Eの極大あるいは極小の存在により、アンバランスを生じた相が特定される。ステップS106では、特定された相のレゾルバ信号に対し、二乗和Eにおける極大と極小との差分に基づいた調整が行われる。
【0045】
ステップS107では、3相のレゾルバ信号φA、φB、φCが加算され、ステップS108では、加算値に基づいて温度監視が行われる。言い換えると、ステップS108では、N相(例えば3相)のレゾルバ40におけるN相の出力信号の総和によって当該レゾルバ40における環境温度が監視される。ステップS109では、監視温度に応じた温度補償が行われる。
【0046】
なお、上記説明では、温度監視および検出精度監視の結果が、信号に対する温度補償やバランスの調整に用いられるが、温度監視および検出精度監視の結果は、信号の補償や調整への利用に限定されない。例えば、温度監視あるいは検出精度監視の結果が所定の閾値を超える場合に警告が発せられるように利用されてもよい。この場合、駆動装置10は警告(文字、音、光など)を出力する出力部を備えてよい。あるいは、駆動装置10は、警告を表す信号を外部装置(図示せず)に送信し、外部装置が警告を出力するようにしてもよい。温度監視および検出精度監視の結果が、補償や調整に利用される場合でも、警告が発せられる場合でも、N相の出力信号の総和による環境温度の監視と、sin信号とcos信号の二乗和による検出精度の監視との併用で、高い精度の監視が実現される。
【0047】
角度検出装置11では、レゾルバ信号の演算処理だけで温度情報および検出精度情報が取得されるため、モータの部品点数の増加を生じずに温度監視機能および検出精度監視機能が実現される。このため、システム設計の容易化、角度検出装置11の省スペース化とコンパクト化、システムの高信頼性化が実現される。
【0048】
角度検出対象としては、ダイレクトドライブモータに限られるものではなく、例えば、車両の電動パワーステアリング装置に角度位置検出装置11が組み込まれてステアリング操舵角が検出されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…駆動装置、11…角度検出装置、20…ドライブユニット、21…発信器、
22…増幅器、23…電流電圧変換回路、24…3相2相変換器、25…R/D変換器、
26a、26b、26c…信号調整器、27…温度補償器、30…温度検出回路、
31…アナログ加算回路、32、34…復調器、33、35…A/D変換器、
40…レゾルバ、50…監視装置、51…温度監視部、52…二乗和算出部、
53…検出精度監視部、54…監視部、55…相特定部、56…調整値設定部、
60…モータ、70…駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7