(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032149
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】熱式流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/684 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01F1/684 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135646
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】榎 隆宏
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035EA08
(57)【要約】
【課題】熱式流量計の配管内壁に設けられる測温抵抗体、発熱抵抗体の配線パターンに、段差部を十分にカバーして保護膜を形成する。
【解決手段】この熱式流量計は、第1配線102を被覆する第1保護膜121と、第2配線103を被覆する第2保護膜122と、第3配線104を被覆する第3保護膜123と、第4配線105を被覆する第4保護膜124とを備える。第1保護膜121、第2保護膜122、第3保護膜123、および第4保護膜124は、互いに分離して各々個別に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体を輸送する配管と、
前記配管の内壁に設けられて前記流体を加熱する発熱抵抗体を構成する第1配線と、
前記発熱抵抗体の上流側で前記配管の内壁に設けられて前記流体の温度を測定する第1測温抵抗体を構成する第2配線と、
前記発熱抵抗体の下流側で前記配管の内壁に設けられて前記流体の温度を測定する第2測温抵抗体を構成する第3配線と、
前記発熱抵抗体の熱影響を受けない上流側の位置における前記流体の温度を測定する第3測温抵抗体を構成する第4配線と、
前記第1配線を被覆する第1保護膜と、
前記第2配線を被覆する第2保護膜と、
前記第3配線を被覆する第3保護膜と
前記第4配線を被覆する第4保護膜と
を備え、
前記第1保護膜、前記第2保護膜、前記第3保護膜、および前記第4保護膜は、互いに分離して各々個別に形成されている
ことを特徴とする熱式流量計。
【請求項2】
請求項1記載の熱式流量計において、
前記第1保護膜、前記第2保護膜、前記第3保護膜、および前記第4保護膜は、10W/m・K以上の熱伝導性を有する材料から構成されている
ことを特徴とする熱式流量計。
【請求項3】
請求項2記載の熱式流量計において、
前記第1保護膜、前記第2保護膜、前記第3保護膜、および前記第4保護膜は、アルミナから構成されている
ことを特徴とする熱式流量計。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱式流量計において、
前記発熱抵抗体の温度と前記第3測温抵抗体により測定された温度との差が設定されている設定温度差となるように前記発熱抵抗体を制御するように構成された制御部と、
前記発熱抵抗体が前記制御部に制御されている状態で、前記第1測温抵抗体で測定された前記流体の温度と前記第2測温抵抗体で測定された前記流体の温度との温度差から前記流体の流量を算出するように構成された流量算出部と
を備えることを特徴とする熱式流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱式流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサとする測温抵抗体と、ヒータとする発熱抵抗体を、配管内壁に設ける熱式流量センサがある。この種の熱式流量センサで導電性の液体を計測する場合、配線パターンの短絡を防ぐため、発熱抵抗体と測温抵抗体と液体から絶縁分離する必要がある。また、導電性のない流体が計測対象であっても、例えば、隣り合う配線パターンの間をまたぐ形で異物が付着して電流の短絡が発生すると、出力異常となる可能性がある。このため、配線パターンを窒化シリコンなどの絶縁材料による保護膜で被覆している(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-328053号公報
【特許文献2】特開2009-025099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒化シリコンによる保護膜では、熱伝導率が低いため、ヒータの熱を流体へ効率よく伝えたり、流体の温度を正確に測定することは不利に働く。このため、保護膜を薄く形成しており、段差部分を十分にカバーできない領域が生じ、流体が侵入して異常を発生させる場合があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、熱式流量計の配管内壁に設けられる測温抵抗体、発熱抵抗体の配線パターンに、段差部を十分にカバーして保護膜を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱式流量計は、測定対象の流体を輸送する配管と、配管の内壁に設けられて流体を加熱する発熱抵抗体を構成する第1配線と、発熱抵抗体の上流側で配管の内壁に設けられて流体の温度を測定する第1測温抵抗体を構成する第2配線と、発熱抵抗体の下流側で配管の内壁に設けられて流体の温度を測定する第2測温抵抗体を構成する第3配線と、発熱抵抗体の熱影響を受けない上流側の位置における流体の温度を測定する第3測温抵抗体を構成する第4配線と、第1配線を被覆する第1保護膜と、第2配線を被覆する第2保護膜と、第3配線を被覆する第3保護膜と第4配線を被覆する第4保護膜とを備え、第1保護膜、第2保護膜、第3保護膜、および第4保護膜は、互いに分離して各々個別に形成されている。
【0007】
上記熱式流量計の一構成例において、第1保護膜、第2保護膜、第3保護膜、および第4保護膜は、10W/m・K以上の熱伝導性を有する材料から構成されている。
【0008】
上記熱式流量計の一構成例において、第1保護膜、第2保護膜、第3保護膜、および第4保護膜は、アルミナから構成されている。
【0009】
熱式流量計の一構成例において、発熱抵抗体の温度と第3測温抵抗体により測定された温度との差が設定されている設定温度差となるように発熱抵抗体を制御するように構成された制御部と、発熱抵抗体が制御部に制御されている状態で、第1測温抵抗体で測定された流体の温度と第2測温抵抗体で測定された流体の温度との温度差から流体の流量を算出するように構成された流量算出部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、熱伝導性の高い保護膜で発熱抵抗体や測温抵抗体を各々個別に被覆するので、保護膜をあまり薄くする必要が無く、熱式流量計の配管内壁に設けられる測温抵抗体、発熱抵抗体の配線パターンに、段差部を十分にカバーして保護膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る熱式流量計の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、保護膜の厚さと、第1測温抵抗体と第2測温抵抗体との温度差との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る熱式流量計について
図1を参照して説明する。この熱式流量計は、測定対象の流体を輸送する配管101と、配管101の内壁に設けられた第1配線102と、第2配線103と、第3配線104とを備える。第1配線102、第2配線103、第3配線104、第4配線105は、例えば、Ptから構成することができる。
【0013】
第1配線102は、配管101を流れる測定対象の流体を加熱する発熱抵抗体を構成する。第2配線103は、発熱抵抗体の上流側で流体の温度を測定する第1測温抵抗体を構成する。第3配線104は、発熱抵抗体の下流側で流体の温度を測定する第2測温抵抗体を構成する。第4配線105は、発熱抵抗体の熱影響を受けない上流側の位置における流体の温度を測定する第3測温抵抗体を構成する。例えば、第1配線102、第2配線103、第3配線104、第4配線105は、測定チップ106の上に形成されている。
【0014】
制御部108は、第1配線102による発熱抵抗体の温度と、第4配線105による第3測温抵抗体で測定される発熱抵抗体の熱影響を受けない位置、例えば発熱抵抗体より上流における流体の温度との差が、予め設定されている設定温度差となるように、発熱抵抗体を制御して駆動する。
【0015】
第2配線103による第1測温抵抗体は、第3測温抵抗体より下流側でかつ発熱抵抗体の上流側において、流体の温度を測定する。また、第3配線104による第2測温抵抗体は、発熱抵抗体の下流側において、流体の温度を測定する。流量算出部107は、第1測温抵抗体が測定している流体の温度と、第2測温抵抗体が測定している流体の温度との温度差より、流体の流量を算出する。
【0016】
よく知られているように、発熱抵抗体の温度と発熱抵抗体の熱影響を受けない位置における流体の温度との差が、予め設定されている設定温度差となるように発熱抵抗体を駆動しているときの、発熱抵抗体より上流の流体の温度と発熱抵抗体より下流の流体の温度との温度差と、流体の流量との間には相関がある。また、この相関関係は、同じ流体/流量/温度において再現性がある。従って、上述したように、発熱抵抗体が制御部108に制御されている状態で、第1測温抵抗体が測定した温度と第2測温抵抗体が測定した温度との差(温度差)より、所定の相関係数(定数)を用いることで流量が算出できる。
【0017】
また、実施の形態に係る熱式流量計は、第1配線102を被覆する第1保護膜121と、第2配線103を被覆する第2保護膜122と、第3配線104を被覆する第3保護膜123と、第4配線105を被覆する第4保護膜124とを備える。第1保護膜121、第2保護膜122、第3保護膜123、および第4保護膜124は、互いに分離して各々個別に形成されている。
【0018】
第1保護膜121、第2保護膜122、第3保護膜123、および第4保護膜124は、10W/m・K以上の窒化シリコンより高い熱伝導性を有する材料から構成することができる。例えば、第1保護膜121、第2保護膜122、第3保護膜123、および第4保護膜124は、高熱伝導率材であるアルミナから構成することができる。
【0019】
図2に、保護膜の厚さと、第1測温抵抗体と第2測温抵抗体との温度差との関係を示す。第1測温抵抗体と第2測温抵抗体との温度差が大きいほど、より高い感度が得られる。
図2において、黒丸は保護膜をアルミナから構成して厚さを1μmとした場合を示し、黒三角は保護膜を窒化シリコンから構成して厚さを1μmとした場合を示し、白丸は、保護膜をアルミナから構成して厚さ2μmとした場合を示している。また、黒四角は、アルミナから構成した保護膜を、第1配線102、第2配線103、第3配線104、第4配線105の全域(全面)に連続して形成した結果を示している。
【0020】
厚さ1μmと比較して、厚さ2μmとした場合でも第1測温抵抗体と第2測温抵抗体との温度差の変化は小さく、アルミナはSiNの2倍の厚さに形成しても感度を維持することができる。このように、実施の形態によれば、保護膜をより厚く形成できるので、段差部の被覆性をより高めることができるようになる。
【0021】
ところで、黒四角の結果に示すように、アルミナから構成した保護膜を全面に形成すると、第1測温抵抗体と第2測温抵抗体との温度差が大幅に低下してしまうことがわかる。これは、発熱抵抗体からの熱が、熱伝導率の大きいアルミナによる保護膜を介して第1測温抵抗体,第2測温抵抗体,第3測温抵抗体にも伝導しやすくなり、流体の温度差を正確に測温できなくなるためである。
【0022】
これに対し、実施の形態によれば、第1配線102を被覆する第1保護膜121と、第2配線103を被覆する第2保護膜122と、第3配線104を被覆する第3保護膜123と、第4配線105を被覆する第4保護膜124とを、互いに分離して各々個別に形成するので、発熱抵抗体からの熱が、保護膜を介して第1測温抵抗体,第2測温抵抗体,第3測温抵抗体に伝導することがなくなる。また、実施の形態によれば、保護膜をあまり薄くする必要が無いので、測定対象の流体が保護膜を浸透して発熱抵抗体や測温抵抗体に到達することが防げる。
【0023】
以上に説明したように、本発明によれば、熱伝導性の高い保護膜で発熱抵抗体や測温抵抗体を各々個別に被覆するので、保護膜をあまり薄くする必要が無く、熱式流量計の配管内壁に設けられる測温抵抗体、発熱抵抗体の配線パターンに、段差部を十分にカバーして保護膜を形成することができるようになる。
【0024】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0025】
101…配管、102…第1配線、103…第2配線、104…第3配線、105…第4配線、106…測定チップ、107…流量算出部、108…制御部、121…第1保護膜、122…第2保護膜、123…第3保護膜、124…第4保護膜。