(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032151
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/58 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B21B37/58 Z
B21B37/58 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135649
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行成 麻佑
(72)【発明者】
【氏名】増百 寛之
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA17
4E124BB01
4E124BB02
4E124CC01
4E124CC03
4E124DD13
(57)【要約】
【課題】圧延機のロールギャップ設定値を補正する際に用いる摩擦係数変化量を高精度に予測することができるロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法を提供すること。
【解決手段】ロールギャップ補正装置は、圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測し、摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、圧延機のロールギャップ設定値を補正する圧延機のロールギャップ補正装置において、摩擦係数変化量モデル式が、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測し、摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、前記圧延機のロールギャップ設定値を補正する圧延機のロールギャップ補正装置において、
前記摩擦係数変化量モデル式は、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルである、
ロールギャップ補正装置。
【請求項2】
前記機械学習は、線形回帰、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰または勾配ブースティングである、
請求項1に記載のロールギャップ補正装置。
【請求項3】
圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測し、摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、前記圧延機のロールギャップ設定値を補正する圧延機のロールギャップ補正方法において、
前記摩擦係数変化量モデル式は、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルである、
ロールギャップ補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材との間に発生する摩擦係数を予測するために、以下のような手法が提案されている。この手法では、予め作成した摩擦係数モデル式によって摩擦係数を予測し、予測した摩擦係数の変化に応じて圧延機のロールギャップ設定値を補正する。またその際に、圧延荷重式によって逆算した摩擦係数μAと、摩擦係数モデル式によって予測した摩擦係数μCとの差である摩擦係数変化量εAを補正するための摩擦係数変化量εCを、機械学習(具体的にはニューラルネットワーク)によって予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案された技術では、機械学習を行う際に、実際の摩擦係数の変動に関連する変数の中で、比較的容易に測定可能なデータしか用いていない。そのため、摩擦係数変化量(摩擦係数変化量εA)の予測精度が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圧延機のロールギャップ設定値を補正する際に用いる摩擦係数変化量を高精度に予測することができるロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るロールギャップ補正装置は、圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測し、摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、前記圧延機のロールギャップ設定値を補正する圧延機のロールギャップ補正装置において、前記摩擦係数変化量モデル式が、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルである。
【0007】
本発明に係るロールギャップ補正装置は、上記発明において、前記機械学習が、線形回帰、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰または勾配ブースティングである。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るロールギャップ補正方法は、圧延材の圧延中に、圧延機のワークロールと圧延材間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測し、摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、前記圧延機のロールギャップ設定値を補正する圧延機のロールギャップ補正方法において、前記摩擦係数変化量モデル式が、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧延材の硬度、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数、を入力データとして追加して機械学習を施した予測モデルを用いることにより、圧延機のロールギャップ設定値を補正する際に用いる摩擦係数変化量を、高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るロールギャップ補正装置を適用可能な圧延機の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るロールギャップ補正装置の各構成要素の機能を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るロールギャップ補正方法の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、予測モデルがニューラルネットワークである場合の構造の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、従来技術で提案されたロールギャップ補正方法によってロールギャップ設定値を補正した場合の、板厚偏差とライン速度との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、圧延機のロール半径と摩擦係数との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、圧延材の硬度と摩擦係数との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、圧延材の硬度ごとに、従来技術および本発明の予測モデルの予測精度を比較した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、圧延機のロール半径ごとに、従来技術および本発明の予測モデルの予測精度を比較した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るロールギャップ補正方法によってロールギャップ設定値を補正した場合の、板厚偏差とライン速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(圧延機)
図1は、本実施形態に係るロールギャップ補正装置を適用可能な圧延機の構成の一例を示している。この圧延機は、一対のワークロール11と、一対のバックアップロール12と、油圧圧下装置13と、板厚計14,15と、張力計16,17と、一対のクーラントノズル18と、クーラントタンク19と、を備えている。
【0013】
一対のワークロール11の間には、圧延材Sが通板される。バックアップロール12は、ワークロール11の上下に配置されている。油圧圧下装置13は、バックアップロール12を押圧する。板厚計14は、圧延機の入側に配置されている。この板厚計14は、圧延機の入側における圧延材Sの板厚を測定する。板厚計15は、圧延機の出側に配置されている。この板厚計15は、圧延機の出側における圧延材Sの板厚を測定する。
【0014】
張力計16は、圧延機の入側かつ、板厚計14の上流側(圧延材Sの搬送方向上流側)に配置されている。この張力計16は、圧延機の入側における圧延材Sの張力を測定する。張力計17は、圧延機の出側かつ、板厚計15の下流側(圧延材Sの搬送方向下流側)に配置されている。この張力計17は、圧延機の出側における圧延材Sの張力を測定する。
【0015】
クーラントノズル18は、ワークロール11と板厚計14との間に配置されている。このクーラントノズル18は、クーラントタンク19から供給された圧延油を、ワークロール11に対して吹きかける。
【0016】
(ロールギャップ補正装置)
本実施形態に係るロールギャップ補正装置は、圧延材Sの圧延中に、圧延機のワークロール11と圧延材S間の摩擦係数を、予め作成した摩擦係数モデル式および摩擦係数変化量モデル式により予測する。そして、予測した摩擦係数の変化による圧延機出側の板厚変化を修正するように、圧延機のロールギャップ設定値(予め設定されている設定値)を補正する。
【0017】
また、本実施形態に係るロールギャップ補正装置では、前記した摩擦係数変化量モデル式が、所定のパラメータを入力データとし、摩擦係数変化量を出力データとして、機械学習が施された予測モデルからなる。この予測モデルを構築する際の入力データとしては、例えば圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率、入側板厚、出側板厚、圧延材Sの硬度、圧延材Sおよびワークロール11間の接触面積の変動に関する変数、が挙げられる。
【0018】
予測モデルを構築する際の機械学習の手法としては、例えば線形回帰、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰または勾配ブースティング等が挙げられる。また、入力データとして用いる「圧延材Sの硬度」としては、例えば圧延材Sの変形抵抗係数が挙げられる。また、入力データとして用いる「圧延材Sおよびワークロール11間の接触面積の変動に関する変数」としては、例えばワークロール11の半径(以下、「ロール半径」という)が挙げられる。
【0019】
図2は、本実施形態に係るロールギャップ補正装置の各構成要素の機能ブロックを示している。ロールギャップ補正装置は、圧延荷重式逆算部21と、圧延実績データ部22と、摩擦係数モデル式算出部23と、前処理部24と、摩擦係数変化量推定部25と、学習部26と、補正量算出部27と、を備えている。以下、本実施形態に係るロールギャップ補正方法の流れについて、
図2および
図3を参照しながら説明する。
【0020】
まず圧延荷重式逆算部21は、圧延実績データ部22から、圧延荷重P、入側板厚H、出側板厚h、後方張力tb、前方張力tfのデータを取得する。そして、下記式(1)に示す圧延荷重式を用いて、摩擦係数μAを逆算する(ステップS1)。
【0021】
【0022】
なお、上記式(1)において、Bは圧延板幅、Kmは圧延材Sの変形抵抗、Rはロール半径を示している。また、上記式(1)に示した圧延荷重式は、圧延荷重Pを、圧延板幅B、入側板厚H、出側板厚h、前方張力tf、後方張力tb、摩擦係数μA、圧延材Sの変形抵抗Kmおよびロール半径Rの関数として表したものである。
【0023】
続いて、摩擦係数モデル式算出部23は、圧延実績データ部22から、圧延速度V、圧下率rのデータを取得する。そして、下記式(2)に示す摩擦係数モデル式を用いて、摩擦係数μCを算出する(ステップS2)。ここで、ステップS1で逆算した摩擦係数μAと、ステップS2で算出した摩擦係数μCとの差を、「摩擦係数変化量εA」と定義する。
【0024】
【0025】
なお、上記式(2)において、a0~a5は各項の係数、εは圧延速度Vと圧下率r以外の要因によるμCの変化量を示している。この上記式(2)のεまたは係数a0~a5を適切に設定することができれば、摩擦係数μCを正確に予測することが可能となる。
【0026】
続いて、前処理部24は、圧延実績データ部22から、圧延速度V、圧下率r、入側板厚H、出側板厚h、圧延油の濃度C、圧延油の温度T、圧延材長L、圧延油の流量F、ロール半径R、圧延材Sの変形抵抗係数Kのデータを取得する。そして、摩擦係数変化量推定部25への入力データを作成する(ステップS3)。
【0027】
摩擦係数変化量推定部25は、前処理部24から入力データ(圧延速度V、圧下率r、入側板厚H、出側板厚h、圧延油の濃度C、圧延油の温度T、圧延材長L、圧延油の流量F、ロール半径Rおよび圧延材Sの変形抵抗係数K)を取得する。そして、これらの入力データを予測モデルに入力することにより、摩擦係数変化量εCを予測する(ステップS4)。
【0028】
ステップS4で用いる予測モデルは、所定のパラメータを入力データとし、摩擦係数変化量εCを出力データとし、摩擦係数変化量εAを教師データとして、学習部26において、予め機械学習が施されている。この予測モデルを構築する際の入力データとしては、例えば圧延油の濃度C、圧延油の温度T、圧延油の流量F、圧延速度V、圧延材長L、圧下率r、入側板厚H、出側板厚h、圧延材Sの変形抵抗係数Kおよびロール半径Rが挙げられる。
【0029】
学習部26は、予測モデルの学習の際に、摩擦係数変化量εAと摩擦係数変化量εCとの差が0に近付くように、予測モデルの重み係数を、例えば勾配法等に基づいて変更する。そして、ステップS4では、この重み係数が設定された予測モデルを用いて、摩擦係数変化量εCを予測する。
【0030】
ここで、予測モデルがニューラルネットワークである場合、例えば
図4のような構造となる。このニューラルネットワークは、入力層、中間層および出力層からなる三層のネットワーク構造を有している。同図において、入力層には、圧延油の濃度C、圧延油の温度T、圧延油の流量F、圧延速度V、圧延材長L、圧下率r、入側板厚H、出側板厚h、圧延材Sの変形抵抗係数Kおよびロール半径Rが入力される。また、入力層と中間層との間には、重み係数W
jiが設定され、中間層と出力層との間には、重み係数W
kjが設定される。そして、出力層からは、摩擦係数変化量ε
Cが出力される。
【0031】
予測モデルが
図4に示すようなニューラルネットワークである場合、学習部26は、
図4のニューラルネットワークの重み係数W
ji,W
kjを、例えば勾配法等に基づいて変更する。なお、同図では、予測モデルが三層のニューラルネットワークであるため、二つの重み係数W
ji,W
kjが設定されているが、重み係数の数は、ニューラルネットワークの層数に応じて適宜設定される。
【0032】
続いて、補正量算出部27は、ステップS2で算出した摩擦係数μCと、ステップS4で予測した摩擦係数変化量εCとの和を摩擦係数予測値μfとし、当該摩擦係数予測値μfから、周知の手法(例えば特許文献1参照)を用いて、圧延荷重変化量ΔPを算出する(ステップS5)。
【0033】
続いて、補正量算出部27は、圧延荷重変化量ΔPから、周知の手法(例えば特許文献1参照)を用いて、ロールギャップ補正量ΔSを算出する(ステップS6)。以上により、本処理は完了する。
【0034】
従来技術(例えば特許文献1)では、実際の摩擦係数の変動要因に関する変数の中で、比較的容易に測定可能な、圧延油の濃度、圧延油の温度、圧延油の流量、圧延速度、圧延材長、圧下率等のデータを入力データとして用いて、摩擦係数変化量を予測していた。
【0035】
しかしながら、上記の入力データには、圧延材の硬度や、圧延材およびワークロール間の接触面積の変動に関する変数が含まれていない。そのため、例えば硬度の高い性質を有する圧延材を圧延する際に、実際の摩擦係数と摩擦係数予測値と間に大きな差異が発生する。その結果、摩擦係数変化量に基づいて算出した圧延機のロールギャップ設定値の補正が不十分となり、例えば
図5に示すように、圧延材によっては、ライン速度が加減速する際に板厚偏差および張力変動が発生する。なお、同図において、(a)は、時間方向における板厚偏差を示すグラフであり、(b)は、時間方向におけるライン速度を示すグラフである。
【0036】
一般的に、圧延材とワークロールとの摩擦力は、真実接触面積と関係がある。すなわち、圧延材に対するワークロールの真実接触面積が大きくなると、摩擦力も増加する傾向にある。また、圧延材の硬度が高くなると真実接触面積は小さくなるため、圧延材の硬度が高くなると、摩擦係数は低下する。
【0037】
例えば圧延機によって圧延材を圧延する状況において、
図6に示すように、圧延機のロール半径が小さい程、摩擦係数は増加する。また、
図7に示すように、圧延材の硬度が高い程、摩擦係数は低下する。
【0038】
なお、
図6で示したロール半径は、比率で表すと、例えば「ロール半径:小」を「1」とした場合、「ロール半径:中」が「1.1」であり、「ロール半径:大」が「1.2」である。また、
図7において圧延材の硬度による摩擦係数の差を比較するために、「硬度低」での変形抵抗係数を「1」とした場合、「硬度高」での変形抵抗係数を「1.5以上」とした。
【0039】
しかしながら、従来技術では、予測モデルの学習時にこれらの影響を考慮していない。そのため、圧延材の硬度および圧延機のロール半径の違いによって、摩擦係数の予測精度が低下するという課題がある。これを
図8および
図9に示す。
【0040】
図8の(a)は、圧延材の硬度が高い場合において、従来技術および本発明の摩擦係数の予測精度を比較した結果を示している。また、
図8の(b)は、圧延材の硬度が低い場合において、従来技術および本発明の摩擦係数の予測精度を比較した結果を示している。
【0041】
図9の(a)は、ロール半径が「小」である場合において、従来技術および本発明の摩擦係数の予測精度を比較した結果を示している。また、
図9の(b)は、ロール半径が「中」である場合において、従来技術および本発明の摩擦係数の予測精度を比較した結果を示している。また、
図9の(c)は、ロール半径が「大」である場合において、従来技術および本発明の摩擦係数の予測精度を比較した結果を示している。
【0042】
本実施形態に係るロールギャップ補正方法では、摩擦係数変化量εCを予測する予測モデルの入力データとして、従来用いられていたパラメータに加えて、圧延材Sの硬度(圧延材Sの変形抵抗係数K)、圧延材Sおよびワークロール11間の接触面積の変動に関する変数(ロール半径R)を更に追加している。
【0043】
これにより、本実施形態に係るロールギャップ補正方法では、例えば
図8および
図9に示すように、予測した摩擦係数が、圧延荷重式から逆算した摩擦係数μ
Aとほぼ一致しており、従来技術と比較して、摩擦係数の予測精度が向上していることが分かる。従って、例えば
図10に示すように、ライン速度が加減速する際の、板厚偏差および張力変動を抑制することが可能となる。なお、同図において、(a)は、時間方向における板厚偏差を示すグラフであり、(b)は、時間方向におけるライン速度を示すグラフである。
【0044】
以上説明したロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法によれば、圧延材Sの硬度(例えば変形抵抗係数)、圧延材Sおよびワークロール11間の接触面積の変動に関する変数(例えばロール半径)、を入力データとして追加して機械学習を施した予測モデルを用いる。これにより、圧延機のロールギャップ設定値を補正する際に用いる摩擦係数変化量εCを、圧延材Sの硬度および圧延材Sとロール間の接触面積による変動を反映させて高精度に予測することが可能となる。その結果、圧延機のロールギャップ補正の精度が向上し、板厚精度の向上と張力の安定化を実現することができる。
【0045】
以上、本発明に係るロールギャップ補正装置およびロールギャップ補正方法について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
11 ワークロール
12 バックアップロール
13 油圧圧下装置
14,15 板厚計
16,17 張力計
18 クーラントノズル
19 クーラントタンク
21 圧延荷重式逆算部
22 圧延実績データ部
23 摩擦係数モデル式算出部
24 前処理部
25 摩擦係数変化量推定部
26 学習部
27 補正量算出部
S 圧延材