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  • 特開-冠型保持器及び玉軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032173
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】冠型保持器及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240305BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240305BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135682
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】山縣 森
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA50
3J701EA31
3J701FA15
(57)【要約】
【課題】信頼性が高められた冠型保持器及び玉軸受を提供する。
【解決手段】冠型保持器10は、円環状のリング部11と、リング部11から軸方向の一方側に突出すると共に周方向に沿って並ぶように形成された複数の柱部12と、を備える。隣り合う柱部12の間には、複数の玉の1つが配置されるポケット20が形成されている。ポケット20の内面20aは、径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在している。リング部11における少なくともポケット20の底部21に対応する部分には、径方向の内側又は外側に突出した突起15が形成されている。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って並んで配置される複数の玉を転動自在に保持するための冠型保持器であって、
円環状のリング部と、
前記リング部から軸方向の一方側に突出すると共に周方向に沿って並ぶように形成された複数の柱部と、を備え、
隣り合う前記柱部の間には、前記複数の玉の1つが配置されるポケットが形成されており、
前記ポケットの内面は、径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在しており、
前記リング部における少なくとも前記ポケットの底部に対応する部分には、径方向の内側又は外側に突出した突起が形成されている、冠型保持器。
【請求項2】
樹脂材料により形成されている、請求項1に記載の冠型保持器。
【請求項3】
前記突起は、前記リング部における前記ポケットの底部に対応する部分のみに形成されている、請求項1又は2に記載の冠型保持器。
【請求項4】
前記突起は、前記リング部から径方向の内側に突出している、請求項1又は2に記載の冠型保持器。
【請求項5】
前記突起は、前記リング部から径方向の外側に突出している、請求項1又は2に記載の冠型保持器。
【請求項6】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された前記複数の玉と、前記複数の玉を転動自在に保持する請求項1又は2に記載の冠型保持器と、を備える玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠型保持器及び玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円環部と、円環部の軸方向の一方側で周方向に間隔を空けて配置された複数の柱部とを備え、周方向に隣り合う柱部と円環部とにより形成されて複数の玉を保持する球面ポケットを有する冠型保持器が記載されている。この冠型保持器は、玉軸受において用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3210224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような玉軸受の使用時には、保持器が高速に回転する。このとき、遠心力によって柱部の先端部が径方向の外側に向かって変形し、これによりポケットの底部に応力が発生する場合がある。この場合、変形した柱部の先端部が外輪に干渉することや、応力により保持器が破損することが懸念される。信頼性の観点から、そのような事態の発生を抑制することが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、信頼性が高められた冠型保持器及び玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の冠型保持器は、[1]「周方向に沿って並んで配置される複数の玉を転動自在に保持するための冠型保持器であって、円環状のリング部と、前記リング部から軸方向の一方側に突出すると共に周方向に沿って並ぶように形成された複数の柱部と、を備え、隣り合う前記柱部の間には、前記複数の玉の1つが配置されるポケットが形成されており、前記ポケットの内面は、径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在しており、前記リング部における少なくとも前記ポケットの底部に対応する部分には、径方向の内側又は外側に突出した突起が形成されている、冠型保持器」である。
【0007】
この冠型保持器では、ポケットの内面が径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在している。このような円筒状のポケットを有する冠型保持器は、玉案内(転動体案内)ではなく、外輪案内又は内輪案内の軸受において用いられ得る。ポケットが円筒状である場合、遠心力により変形した場合でも柱部が玉と干渉しにくい。一方、ポケットが円筒状である場合、例えばポケットが球状であると比べて、保持器が高速に回転した場合に柱部に遠心力による変形が発生しやすくなる。この点、この冠型保持器では、リング部における少なくともポケットの底部に対応する部分に、径方向の内側又は外側に突出した突起が形成されている。これにより、冠型保持器の剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。よって、この冠型保持器によれば、信頼性を高めることができる。
【0008】
本発明の冠型保持器は、[2]「樹脂材料により形成されている、[1]に記載の冠型保持器」であってもよい。この場合、例えば樹脂材料を用いた射出成形により冠型保持器を製造することができ、製造を容易化することができる。また、リング部における少なくともポケットの底部に対応する部分に突起が形成されているため、当該部分を厚肉に形成することができ、射出成形時にウェルド位置を当該部分から逃がしやすくなる。その結果、ウェルド位置が当該部分に位置することで当該部分の強度が低下してしまう事態の発生を抑制することができ、信頼性を一層高めることができる。
【0009】
本発明の冠型保持器は、[3]「前記突起は、前記リング部における前記ポケットの底部に対応する部分のみに形成されている、[1]又は[2]に記載の冠型保持器」であってもよい。この場合、リング部におけるポケットの底部に対応する部分の剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。
【0010】
本発明の冠型保持器は、[4]「前記突起は、前記リング部から径方向の内側に突出している、[1]~[3]のいずれかに記載の冠型保持器」であってもよい。この場合にも、冠型保持器の剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。
【0011】
本発明の冠型保持器は、[5]「前記突起は、前記リング部から径方向の外側に突出している、[1]~[3]のいずれかに記載の冠型保持器」であってもよい。この場合にも、冠型保持器の剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。
【0012】
本発明の玉軸受は、[6]「内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された前記複数の玉と、前記複数の玉を転動自在に保持する[1]~[5]のいずれかに記載の冠型保持器と、を備える玉軸受」である。この玉軸受では、上述した理由により、信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、信頼性が高められた冠型保持器及び玉軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の玉軸受の断面図である。
図2】実施形態の保持器の斜視図である。
図3】変形例の玉軸受の断面図である。
図4】変形例の保持器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示されるように、玉軸受1は、内輪2と、外輪3と、複数の玉5と、保持器10(冠型保持器)と、を備えている。玉軸受1は、例えば電動コンプレッサにおいてロータを支持するために用いられる。以下、玉軸受1の中心線Aに平行な方向を軸方向といい、中心線Aに垂直な方向を径方向といい、中心線Aに平行な方向から見た場合に中心線Aを中心とする円周に沿った方向を周方向という。
【0017】
内輪2は、円環状に形成され、内輪軌道面2aを有している。内輪軌道面2aは、径方向の外側を向いた面であり、周方向に沿って円環状に延在している。内輪軌道面2aは、玉5に対応した形状に形成されている。内輪2は、例えば径方向の内側において軸(図示省略)と嵌め合わされる。
【0018】
外輪3は、円環状に形成され、径方向において内輪2の外側に配置されている。外輪3は、外輪軌道面3a及び案内面3bを有している。外輪軌道面3a及び案内面3bは、径方向の内側を向いた面であり、周方向に沿って円環状に延在している。外輪軌道面3aは、玉5に対応した形状に形成されている。案内面3bは、例えば、軸方向において外輪軌道面3aの両側に位置する一対の面(周方向に沿って円環状に延在する一対の面)によって構成されている。外輪3は、例えば径方向の外側においてハウジング(図示省略)と嵌め合わされる。
【0019】
複数の玉5の各々は、球状に形成されている。複数の玉5は、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に配置されている。複数の玉5は、保持器10により保持されており、周方向に沿って所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0020】
保持器10は、内輪2の内輪軌道面2aと外輪3の外輪軌道面3aとの間に配置され、複数の玉5を転動自在に保持している。この例では、保持器10は、外輪3の案内面3bにより案内される。すなわち、玉軸受1は外輪案内の軸受として構成されている。保持器10は、例えば樹脂材料からなる冠型保持器である。保持器10は、例えば樹脂材料を用いた射出成形により形成される。保持器10は、複数(この例では7つ)のポケット20を有している。複数のポケット20には、複数の玉5がそれぞれ配置されている。
【0021】
図2に示されるように、保持器10は、リング部11と、複数(この例では7つ)の柱部12と、を有している。リング部11は、円環状に形成されている。各柱部12は、リング部11から軸方向の一方側(図2中の上側)に突出している。複数の柱部12は、周方向に沿って所定の間隔を空けて並ぶように形成されている。隣り合う柱部12の間に、上述したポケット20が形成されている。ポケット20は、隣り合う一対の柱部12と、それらの間を延在するリング部11の一部11aによって画定されている。
【0022】
各柱部12は、本体部13と、一対の爪部14と、を有している。本体部13は、リング部11から軸方向の一方側に突出している。一対の爪部14は、本体部13から軸方向の一方側に突出している。一対の爪部14は、周方向の一方側に配置された爪部14aと、周方向の他方側に配置された爪部14bとを含んでいる。爪部14aは、本体部13から離れるほど周方向の一方側に向かうように延在しており、爪部14bは、本体部13から離れるほど周方向の他方側に向かうように延在している。本体部13及び一対の爪部14は、ポケット20を画定している。一対の爪部14は、ポケット20に配置された玉5の軸方向への脱落を抑制する。
【0023】
ポケット20は、円筒状に形成されている。具体的には、ポケット20の内面20aは、径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在している。上述したとおり、ポケット20は、リング部11の一部11aと、柱部12の本体部13及び一対の爪部14とによって画定されている。リング部11の一部11aは、ポケット20の底部21を画定している。すなわち、一部11aは、リング部11におけるポケット20の底部21に対応する部分である。「リング部11における底部21に対応する部分」とは、例えば、リング部11のうち底部21を画定している部分であって、軸方向から見た場合に底部21と重なる部分をいう。
【0024】
リング部11の一部11aには、径方向の内側に突出した突起15が形成されている。突起15は、リング部11の内周面に形成されている。突起15は、リング部11の一部11aのみに形成されており、リング部11における他の部分(例えば柱部12との接続部分)には形成されていない。保持器10は、複数(この例では7つ)の突起15を有している。複数の突起15は、周方向に沿って所定の間隔を空けて並ぶように形成されている。
【0025】
軸方向において、突起15は、ポケット20の底部21とリング部11におけるポケット20とは反対側の表面との間にわたって形成されている。突起15は、ポケット20の底部21に連続する湾曲した表面15aを有している。周方向における突起15の長さは、周方向におけるポケット20の長さより短い。この例では、周方向における突起15の一対の側面15bは、中心線Aに近づくほど(径方向の内側に向かうほど)互いに近づくように傾斜した傾斜面となっている。径方向における突起15の長さは、径方向におけるリング部11の長さよりも短い。
[作用及び効果]
【0026】
保持器10では、ポケット20の内面20aが径方向と平行な中心軸を有する円筒に沿って延在している。このような円筒状のポケット20を有する保持器10は、玉案内(転動体案内)ではなく、外輪案内又は内輪案内の軸受において用いられ得る。ポケットが円筒状である場合、遠心力により変形した場合でも柱部が玉と干渉しにくい。一方、ポケット20が円筒状である場合、例えばポケット20が球状であると比べて、保持器10が高速に回転した場合に柱部12(爪部14)に遠心力による変形が発生しやすくなる。この点、保持器10では、リング部11の一部11a(ポケット20の底部21に対応する部分)に、径方向の内側に突出した突起15が形成されている。これにより、保持器10の剛性を高めることができる。すなわち、リング部11の一部11aの剛性を高めることができ、ひいては保持器10全体の剛性を高めることができる。その結果、遠心力による保持器10の変形を抑制することができる。よって、保持器10によれば、信頼性を高めることができる。
【0027】
保持器10が、樹脂材料により形成されている。これにより、例えば樹脂材料を用いた射出成形により保持器10を製造することができ、製造を容易化することができる。また、リング部11の一部11aに突起15が形成されているため、一部11aを厚肉に形成することができ、射出成形時にウェルド位置を一部11aから逃がしやすくなる。その結果、ウェルド位置が一部11aに位置することで一部11aの強度が低下してしまう事態の発生を抑制することができ、信頼性を一層高めることができる。
【0028】
すなわち、突起15が形成されていない場合、リング部11の一部11aの断面積(周方向に垂直な断面の面積)とリング部11における柱部12との接続部分の断面積(周方向に垂直な断面の面積)との間の差(肉厚差)が大きくなる。この場合、一部11aの断面積が小さいことで、射出成形において溶融した樹脂を型内に流し込む際に、一部11aに対応する部分において樹脂の流動速度が遅くなってしまう。そのため、リング部11の一部11aにウェルド位置(型内に流れ込んだ樹脂が合流する位置)が位置しやすい。換言すれば、射出ゲート位置や射出条件を変更してリング部11における一部11a以外の部分にウェルド位置が位置するように調整することが難しい。ウェルド位置では樹脂同士が融合しにくく、成形後の強度が低下しやすい。保持器10では、リング部11の一部11aが最も薄く強度が低い部分であることから、ウェルド位置がリング部11の一部11aに位置すると、一部11aの強度が一層低下してしまう。この点、保持器10では、リング部11の一部11aに突起15が形成されているため、一部11aを厚肉に形成することができ(一部11aの断面積を大きくすることができ)、射出成形時にウェルド位置を一部11aから逃がしやすくなる。その結果、ウェルド位置が一部11aに位置することで一部11aの強度が低下してしまう事態の発生を抑制することができ、信頼性を一層高めることができる。
【0029】
突起15が、リング部11の一部11aのみに形成されている。これにより、リング部11の一部11aの剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。また、射出成形時にウェルド位置を一部11aから一層逃がしやすくなる。
【0030】
突起15が、リング部11から径方向の内側に突出している。これにより、保持器10の剛性を高めることができ、遠心力による変形を抑制することができる。
[変形例]
【0031】
図3及び図4に示される変形例では、突起15がリング部11の一部11aから径方向の外側に突出している。この変形例では、保持器10が突起15において外輪3により案内される。より具体的には、突起15における径方向の外側の表面15cが外輪3に対する案内面となり、表面15cが外輪3の案内面3bによって案内される。このような変形例によっても、上記実施形態と同様に、信頼性を高めることができる。また、突起15が外輪3に対する案内面となることで、保持器10と外輪3との接触面積を低減することができ、保持器10と外輪3との間に発生する摩擦を低減することができる(低フリクション効果)。
【0032】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。保持器10は、樹脂材料以外の材料により形成されていてもよい。
【0033】
上記実施形態では突起15がリング部11の一部11aのみに形成されていたが、突起15は、少なくともリング部11におけるポケット20の底部21に対応する部分に形成されていればよく、例えばリング部11の全周にわたって形成されていてもよいし、一部11aからリング部11における柱部12との接続部分に至るように形成されていてもよい。リング部11の一部11aには、径方向の内側に突出する突起、及び径方向の外側に突出する突起の両方が形成されていてもよい。
【0034】
玉軸受1は、内輪案内の軸受として構成されてもよい。この場合において、突起15がリング部11の一部11aから軸方向の内側に突出するように形成され、保持器10が突起15において内輪2により案内されてもよい。この場合、保持器10と内輪2との接触面積を低減することができ、保持器10と内輪2との間に発生する摩擦を低減することができる。内輪案内の場合において、突起15がリング部11の一部11aから軸方向の外側に突出するように形成されてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…玉軸受、2…内輪、3…外輪、5…玉、10…保持器(冠型保持器)、11…リング部、12…柱部、15…突起、20…ポケット、20a…内面、21…底部。
図1
図2
図3
図4