(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032184
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】活性化方法、二酸化炭素吸収方法、セメント組成物製造方法、モルタル組成物製造方法、コンクリート製造方法、及びプレキャストコンクリート製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/10 20060101AFI20240305BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240305BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240305BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20240305BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C04B18/10 Z
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B18/16
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135696
(22)【出願日】2022-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 無機マテリアル学会 刊行物名 Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan Vol.29,Jul.2022 発行日 令和4年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 正美
(72)【発明者】
【氏名】畑 実
(72)【発明者】
【氏名】井川 秀樹
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
4G112PA29
4G112PA30
(57)【要約】
【課題】下水汚泥焼却灰をコンクリート混和材としてより多量に利用可能とする活性化方法を提供する。
【解決手段】
下水汚泥焼却灰に、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、回転架台を使用したボールミル混合を行う。この際、ボールとして、特定密度以上、例えばジルコニアボール以上の密度のものが用いられる。ジルコニアボールは、直径の異なる球が複数個用いられる。また、回転架台の回転数は、30rpm~50rpm、下水焼却灰の質量に対して、水25~200%、砂40~80%、及び飽和水酸化カルシウム溶液量20~80%、ボールミル混合の混合時間は、1~5時間である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥焼却灰の活性化方法であって、
前記下水汚泥焼却灰に、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、
特定密度以上のボールにて回転架台を使用したボールミル混合を行う
ことを特徴とする活性化方法。
【請求項2】
前記ボールは、直径の異なる球が複数個用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載の活性化方法。
【請求項3】
前記回転架台の回転数は、30rpm~50rpm、
前記下水汚泥焼却灰の質量に対して、前記水を25~200%、前記砂を40~80%、及び前記飽和水酸化カルシウム溶液の量を20~80%、
前記ボールミル混合の混合時間を0.3~2時間とする
ことを特徴とする請求項1に記載の活性化方法。
【請求項4】
前記ボールミル混合により、前記下水汚泥焼却灰の平均粒子径を5μm以下とする
ことを特徴とする請求項1に記載の活性化方法。
【請求項5】
前記ボールミル混合により、層状の結品が粒子の表面に付着している状態とする
ことを特徴とする請求項1に記載の活性化方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の活性化方法に係る前記飽和水酸化カルシウム溶液に、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化する
ことを特徴とする二酸化炭素吸収方法。
【請求項7】
高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、廃コンクリート粉砕物、及びコンクリートスラッジのいずれか又は任意の組み合わせを更に混合する
ことを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素吸収方法。
【請求項8】
高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、廃コンクリート粉砕物、及びコンクリートスラッジのいずれか又は任意の組み合わせに、水、砂、水酸化カルシウム溶液を混合し、
回転架台を使用したボールミル混合を行い、
前記水酸化カルシウム溶液に、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化する
ことを特徴とする二酸化炭素吸収方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の活性化方法により活性化された前記下水汚泥焼却灰を配合する
ことを特徴とするセメント組成物製造方法。
【請求項10】
前記活性化された前記下水汚泥焼却灰は、セメン卜の質量比5%~25%で、砂の内割置換となるように配合される
ことを特徴とする請求項9に記載のセメント組成物製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のセメント組成物製造方法にて製造されたセメント組成物を用いてモルタル組成物を製造する
ことを特徴とするモルタル組成物製造方法。
【請求項12】
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、減水剤とが配合され、
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、及び下水汚泥焼却灰のいずれか又は任意の組み合わせを含み、
前記アルカリ刺激材は、消石灰又は炭酸カルシウムを含み、
前記下水汚泥焼却灰は、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、ジルコニアボールで、回転架台を使用したボールミル混合を行い、活性化される
ことを特徴とするコンクリート製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載のモルタル組成物製造方法にて製造されたモルタル組成物、又は請求項12に記載のコンクリート製造方法で製造されたコンクリートを用いてプレキャストコンクリートを製造する
ことを特徴とするプレキャストコンクリート製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にコンクリート製造時に使用される下水汚泥焼却灰の活性化方法、二酸化炭素吸収方法、セメント組成物製造方法、モルタル組成物製造方法、コンクリート製造方法、及びプレキャストコンクリート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥とは下水処理の際に処理場の沈殿池や反応タンクに生じる汚泥であり、下水汚泥焼却灰(Sewage sludge burnt ash、以下、「SSA」と略記する。)は下水汚泥を減容化のために焼却した燃焼灰である。
我が国内の産業廃棄物排出量は、年間約3.8億tであり、下水汚泥はそのうち約2割を占める。下水汚泥のリサイクル率は、東日本大震災の影響で78%から55%まで低下したものの、2016年には73%まで回復した。下水汚泥のリサイクルされている用途は大きく3つあり、(1)レンガやセメント、代替骨材等の建設材料のようなモルタル組成物やコンクリートのようなセメント分野での利用、(2)コンポスト化し肥料としての緑農地での利用、及び(3)固形燃料や消化ガスとしてエネルギー分野での利用が行われている。しかし、資源として有効利用できているのは一部分であり、いまだ下水汚泥の約三割が埋め立て処分されている。
そのため、SSAの資源としての価値を高めることにより、利用用途の拡大及び利用量の増大を促進させることが重要な技術的な課題となっている。
【0003】
ここで、SSAには、セメン卜分野の材料として、3つの長所がある。すなわち(1)セメントの水和反応で生じたCa(OH)2が、SSA中のシリカ成分とポゾラン反応を起こすことにより、ケイ酸カルシウム水和物を生成し圧縮強度を増進させる可能性をもつこと。(2)年聞を通して成分のばらつきが少なく、(3)安定した供給が可能であることである。
【0004】
特許文献1によれば、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、製造されることで、塗布等が必要なく、耐用年数が長い耐酸性コンクリートが記載されている。
この特許文献1の耐酸性コンクリートは、産業廃棄物としてSSAを用いることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微粉炭燃焼灰であるフライアッシュ(Fly ash、以下、「FA」と略記する。)とは異なり、従来のSSAには、リン成分が多く含まれる。このため、従来のSSAをコンクリート製造に用いると、リン成分がセメントの構成化合物であるエーライト及びビーライトと反応することでセメン卜の硬化を遅らせる凝結遅延現象を引き起こしていた。
加えて、SSAは、多孔質性であるため吸水性が高く、コンクリー卜のワーカビリティーに悪影響を与えることがあった。
このため、SSAをコンクリート混和材として利用するためには量的な限界があり、より大量に使用可能とする技術が求められていた。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消し、SSAをコンクリート混和材としてより多量に利用可能とするSSAの活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の活性化方法は、下水汚泥焼却灰の活性化方法であって、前記下水汚泥焼却灰に、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、特定密度以上のボールにて回転架台を使用したボールミル混合を行うことを特徴とする。
本発明の活性化方法は、前記ボールは、直径の異なる球が複数個用いられることを特徴とする。
本発明の活性化方法は、前記回転架台の回転数は、30rpm~50rpm、前記下水汚泥焼却灰の質量に対して、前記水を25~200%、前記砂を40~80%、及び前記飽和水酸化カルシウム溶液の量を20~80%、前記ボールミル混合の混合時間を0.3~2時間とすることを特徴とする。
本発明の活性化方法は、前記ボールミル混合により、前記下水汚泥焼却灰の平均粒子径を5μm以下とすることを特徴とする。
本発明の活性化方法は、前記ボールミル混合により、層状の結品が粒子の表面に付着している状態とすることを特徴とする。
本発明の二酸化炭素吸収方法は、前記活性化方法に係る前記飽和水酸化カルシウム溶液に、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化することを特徴とする。
本発明の二酸化炭素吸収方法は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、廃コンクリート粉砕物、及びコンクリートスラッジのいずれか又は任意の組み合わせを更に混合することを特徴とする。
本発明の二酸化炭素吸収方法は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、廃コンクリート粉砕物、及びコンクリートスラッジのいずれか又は任意の組み合わせに、水、砂、水酸化カルシウム溶液を混合し、回転架台を使用したボールミル混合を行い、前記水酸化カルシウム溶液に、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化することを特徴とする。
本発明のセメント組成物製造方法は、前記活性化方法により活性化された前記下水汚泥焼却灰を配合することを特徴とする。
本発明のセメント組成物製造方法は、前記活性化された前記下水汚泥焼却灰は、セメン卜の質量比5%~25%で、砂の内割置換となるように配合されることを特徴とする。
本発明のモルタル組成物製造方法は、前記セメント組成物製造方法にて製造されたセメント組成物を用いてモルタル組成物を製造することを特徴とする。
本発明のコンクリート製造方法は、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、減水剤とが配合され、前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、及び下水汚泥焼却灰のいずれか又は任意の組み合わせを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰又は炭酸カルシウムを含み、前記下水汚泥焼却灰は、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、ジルコニアボールで、回転架台を使用したボールミル混合を行い、活性化されることを特徴とする。
本発明のプレキャストコンクリート製造方法は、前記モルタル組成物製造方法にて製造されたモルタル組成物、又は前記コンクリート製造方法で製造されたコンクリートを用いてプレキャストコンクリートを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SSAに、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、特定密度以上のボールにてボールミル混合を行うことで、リン成分をリン酸カルシウムとして不活性化させつつ、微粒子化により吸水性を良くしてワーカビリティーに悪影響を与えなくすることで、従来よりセメント分野で大量に使用可能となるようSSAを活性化することが可能なSSAの活性化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係るSSAの活性化可能性についての実験手順の流れを示す概念図である。
【
図2】本発明の実施例に係るボールミル混合されたFA添加モルタルの圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例に係るボールミル混合されたSSA添加モルタルの圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係る最適混合条件の探索の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係る(a)未処理のSSA(b)活性化されたSSAの電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の実施例に係る添加率別の活性化SSA添加モルタルの圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例に係る活性化能の時間依存性を示す圧縮試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、SSAの有効利用を促進させるため、モルタルの圧縮強度の増加、硬化遅延の低減、及び吸水性の向上を目的として下水汚泥燃焼灰(SSA)を高度に活性化する技術を開発することにした。
【0012】
このため、本発明者らは、微粉炭燃焼灰であるフライアッシュ(Fly ash。以下、「FA」と略記する。)のボールミル混合による活性化方法に着目し、これを基に、鋭意実験を重ねて、本発明のコンクリート混和材としてのSSAの活性化方法を完成するに至った。
具体的には、後述する実施例で示すように、広口試薬瓶に、SSA、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液、及びセラミックス球を加え、回転架台を使用しボールミル混合することで、SSAの圧縮強度発現性を向上させた。この際、特に、セラミックス球としてジルコニアボールを用いることで、圧縮強度発現性を向上させ、硬化遅延改善や吸水性の低下を抑えるといったSSAの活性化の効果が顕著となった。加えて、ステンレスボールを用いても、SSAの活性化の効果が現れた。
すなわち、ボールミル混合に用いるボールとして、密度約6.00g/mlのジルコニアボール、密度約7.9g/mlのステンレスボール等を用いることで、硬度が高いSSAを高付加価値なコンクリート混和材に改質することができる。これにより、活性化されたSSAを従来より多量のモルタル組成物製造及びコンクリート製造での配合が可能となった。
【0013】
以下、本発明のSSAの活性化方法、及びSSAを用いたセメント組成物製造方法、モルタル組成物製造方法並びにコンクリート製造方法、及びプレキャストコンクリートの製造方法の実施の形態について説明する。
【0014】
〔SSAの活性化方法〕
本実施形態に係る活性化方法は、SSAの活性化方法であって、SSAに、水、砂、飽和水酸化カルシウム溶液を混合し、特定密度以上のボールにて回転架台を使用したボールミル混合を行うことを特徴とする。
【0015】
本実施形態に係るSSAは、通常のリンを含んでいてもよい下水処理の際に取得される下水汚泥焼却灰を用いることが可能である。この際、平均粒径が10~15μm程度のSSAを用いることが好適である。
さらに、本実施形態のSSAとして、特許文献1に記載されているような、SSAを粒度調整した「スーパーアッシュ」を用いることも可能である。
【0016】
本実施形態に係る水は、特に制限されず、水道水であってもよい。本実施形態に係る水のpH等も任意である。
【0017】
本実施形態に係る砂は、通常のコンクリートの細骨材に用いるような標準的な砂を用いることが可能である。具体的には、例えば、JIS A 5005 砕砂(硬質砂岩)に該当するもので、密度が2.62g/cm3程度のものを用いることが好適である。より具体的には、JISモルタル用標準砂、珪砂等を用いることが可能である。
【0018】
本実施形態に係る飽和水酸化カルシウム溶液は、例えば、JIS R 9001特号に該当する消石灰、すなわち水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を、上述の水に飽和状態に溶解して用いることが好適である。溶解前の水酸化カルシウムの密度は、例えば、2.30g/cm3程度であることが好適である。
【0019】
本実施形態に係るボールミル混合は、容器に材料とボールを入れ、回転架台で回転させ微細な粉末にする(微粒子化)混合法である。
本実施形態においては、特定密度以上のボールを用いてボールミル混合を行う。具体的には、特定密度以上のボールとして、少なくとも密度が6.00g/mlのジルコニア(ZrO2)ボールを用いる。ジルコニアボールは、アルミナセラミックス(Al2O3、密度3.61g/ml)よりも密度が大きく、常温において機械的強度が最高のセラミックス球である。これに加えて、本実施形態に係る特定密度以上のボールとしては、他のセラミックス球、ステンレスボール等も用いることが可能である。
【0020】
ここで、本実施形態に係るボールは、直径の異なる球が複数個用いられることが好適である。
具体的には、後述の実施例で示すように、500ml広口試薬瓶の場合、例えば、ジルコニアボールの場合、直径15mm以上のボールが複数個、具体的には、3個以上で配合をすることが好適である。より具体的には、直径が異なるものが複数用いられると、より活性化の効果が得られるために好適である。ジルコニアボールの場合、後述の実施例で示すように、直径15mmのものを10個と、10mmのものを5個のジルコニアボールを配合することがより好適である。
なお、実際のSSAの活性化時には、このような500ml広口試薬瓶の構成を基に、スケールアップすることで対応可能である。
【0021】
より具体的な本実施形態に係るボールミル混合の構成として、回転架台の回転数は、30rpm~50rpm、SSAの質量に対して、水を25~200%、砂を40~80%、及び飽和水酸化カルシウム溶液量を20~80%、ボールミル混合の混合時間を0.3~2時間とすることが好適である。
このような範囲内で、SSAを特定密度以上のボールで高いエネルギーを付加して微粒子化することで、SSAを十分活性化させることができる。また、上述のように複数個のボールを用いることで、より活性化させることもできる。
【0022】
また、本実施形態に係るボールミル混合により、SSA粒子の平均粒子径を5μm以下とすることが好適である。
具体的には、上述のような各条件やスケールアップした条件でSSAを粉砕することで、SSA粒子の見かけ上の平均粒子径を5μm程度以下とすることがより好適である。
【0023】
さらに、本実施形態に係るボールミル混合により、層状の結品が粒子の表面に付着している状態とすることが好適である。
すなわち、具体的には、SSA粒子の粉砕時に、SSAに含まれるリンが水酸化カルシウムと反応して、コンクリートの凝結遅延現象を抑えるリン酸カルシウムの結晶が生じるようにすることが可能である。
【0024】
〔二酸化炭素吸収方法〕
上述の、SSAの活性化方法では、飽和水酸化カルシウム溶液と反応することで、SSAに含まれるリンを固定化する。この際に、飽和水酸化カルシウム溶液に、リンだけではなく、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化することも可能である。
【0025】
この二酸化炭素は、例えば、大気中から吸収圧縮設備で吸収又は圧縮されたものを用いることが可能である。または、大気中に400ppm程度含まれる非圧縮の二酸化炭素を用いてもよい。さらに、石油、石炭、天然ガス等の燃焼排ガス、及び/又は廃棄物の焼却排ガスに含まれる二酸化炭素を用いることも可能である。このうち、燃焼排ガスは、セメント製造に使用されるロータリーキルン炉の排ガスを用いることも可能である。さらに、廃棄物の焼却排ガスは、下水汚泥の焼却時の排ガスを用いることも可能である。この場合は、上述の下水道汚泥焼却灰の取得と同時に、排ガスを炭酸カルシウム製造に用いることが可能となる。
【0026】
さらに、上述の実施形態においては、SSAのみを活性化する例について記載したものの、高炉スラグ微粉末、FA、廃コンクリートを粉砕物、及びコンクリートスラッジのいずれか又は任意の組み合わせを更に混合することも可能である。このコンクリートスラッジは、遠心成形コンクリートから排出されるセメントスラッジ(コンクリートスラッジ)である。
さらに、SSAを混合せず、高炉スラグ微粉末、FA、及び廃コンクリート粉砕物のみを用いることも可能である。このように、高炉スラグ微粉末、FA、及び廃コンクリート粉砕物のみを用いる場合、SSAより比較的硬度が低い場合は、ボールミル混合用のボールとして、アルミナボールのような特定密度未満の密度のものを用いることも可能である。
【0027】
ここで、本実施形態に係るFAは、火力発電所において石炭の微粉炭燃焼の集塵機で捕集されるコンクリート用のポラゾン石炭灰(フライアッシュ)である。本実施形態に係るFAは、例えば、JIS A 6201で規定された、フライアッシュ II種又はこれらの類似品、密度2.20g/cm3程度のものであることが好適である。
【0028】
また、本実施形態に係る高炉スラグ微粉末は、銑鉄製造過程で副産される微粉末である。この高炉スラグ微粉末は、例えば、JIS A 6206で規定された、粉末度4000の比表面積のもの等が好適である。また、密度が2.91g/cmg/cm3程度のものであることが好適である。
【0029】
加えて、飽和水酸化カルシウム溶液の代わり、又は飽和水酸化カルシウム溶液に追加して上述のコンクリートスラッジを用いることも可能である。
これにより、炭酸カルシウムを生成させて、二酸化炭素を吸収させた骨材としての用途に用いることも可能となる。
【0030】
まとめると、本実施形態に係る二酸化炭素吸収方法は、産業廃棄物として、SSA、高炉スラグ微粉末、FA、及び廃コンクリート粉砕物のいずれか又は任意の組み合わせに、水、砂、水酸化カルシウム溶液を混合し、ボールにて回転架台を使用したボールミル混合を行い、水酸化カルシウム溶液に、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を吸収させ、固定化し、水酸化カルシウム溶液は、飽和水酸化カルシウム溶液及び/又はコンクリートスラッジであることを特徴とする。
この際、産業廃棄物として、SSAを含む場合はジルコニアボール、SSAを含まない場合はアルミナボール又はジルコニアボールを用いることが好適である。
【0031】
〔セメント組成物製造方法〕
本実施形態に係るセメント組成物製造方法は、上述の活性化方法により活性化されたSSA、及び/又は上述の二酸化炭素吸収方法により二酸化炭素を吸収させた産業廃棄物を配合することを特徴とする。
より具体的には、本実施形態に係るモルタル組成物を製造する際に、上述の活性化されたSSA、及び/又は二酸化炭素を吸収させた産業廃棄物を混和材として、セメントやその他の混和材を含むプレミックスや混合物(以下、単に「セメント組成物」と称する。)を用意することも可能である。
【0032】
ここで、本実施形態に係るセメントは、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、及びこれらの混合セメント等を用いることが可能である。このうち、普通ポルトランドセメントは、例えば、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩等の性質を備える各種ポルトランドセメントであってもよい。
また、普通ポルトランドセメントとして、例えば、JIS R 5210等で規定された、密度3.15g/cm3程度、比表面積3310cm2/g程度のものを用いてもよい。
【0033】
または、特許文献1の記載のコンクリートのように、ポルトランドセメントを用いない構成のコンクリート用の組成物を含んだセメント組成物を用意することも可能である。
【0034】
ここで、本実施形態に係るセメント組成物において、活性化されたSSA及び/又は二酸化炭素を吸収させた産業廃棄物は、セメン卜の質量比5%~25%で、砂(細骨材)の内割置換となるように配合されることが好適である。
上述のポルトランドセメントを用いない構成の場合は、特許文献1の記載のSSAよりも多い量を用いることが可能である。
【0035】
なお、本実施形態に係るセメント組成物は、この他にも、細骨材、及び減水剤のいずれか又は任意の組み合わせを含めた形式で提供されてもよい。この場合、プレキャストか現場打設かにより、配合比等を変更してもよい。
【0036】
〔モルタル組成物及びコンクリート製造方法〕
本実施形態に係るセメント組成物製造方法で製造されたセメント組成物を用いて、モルタル組成物又はコンクリートを製造することが可能である。
具体的には、本実施形態に係るセメント組成物に水、細骨材、その他の混和材を加えて、又はこれに粗骨材も加えて練り混ぜ、成型し、養生することで、モルタル組成物を又はコンクリートを製造することができる。
【0037】
ここで、本実施形態に係る細骨材は、砕砂(砂)、及び炭酸カルシウムを用いることが可能である。
この砂は、上述のSSA活性化に用いた砂と同様の砂、その他のセメント分野の砂を用いることが可能である。
また、炭酸カルシウムは、大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を原料として含んで製造された環境配慮型の炭酸カルシウムを用いてもよい。この場合、上述の二酸化炭素吸収方法により、水酸化カルシウム溶液及び/又はコンクリートスラッジと二酸化炭素を反応させた炭酸カルシウムを用いることも可能である。
【0038】
本実施形態に係るコンクリートとして、活性化されたSSA及び/又は二酸化炭素を吸収させた産業廃棄物を、更に含ませて用いることも可能である。この場合、ポルトランドセメントを用いないコンクリートとして、ジオポリマー、ポゾラン反応や潜在水硬性を用いて硬化させるような構成のものを用いることも可能である。
【0039】
ここで、ポゾラン反応や潜在水硬性を用いてコンクリートを硬化させる場合、FA及び高炉スラグ微粉末に対するアルカリ刺激剤を混合することが好適である。FAは、主成分がシリカとアルミナなので、アルカリ刺激材によりカルシウムシリケート水和物等を生成するポゾラン反応により硬化させることが可能である。高炉スラグ微粉末も、アルカリ刺激剤により、カルシウムシリケート水和物及びカルシウムアルミネート水和物を生成して硬化する「潜在水硬性」により硬化させることが可能である。
【0040】
ここで、本実施形態に係るアルカリ刺激材としては、主に上述の二酸化炭素吸収方法で製造されたのと同様の炭酸カルシウム(消石灰)を含むことが好適である。このアルカリ刺激材により、従来のポルトランドセメントを全く使用しなくても、FA及び高炉スラグ微粉末を硬化させることが可能となる。また、アルカリ刺激材として、細骨材として砂を置換する炭酸カルシウムを用いることも可能である。
【0041】
さらに、本実施形態に係る細骨材として、更に、スラグ系骨材、例えば高炉の水砕スラグから製造した細骨材、電気炉酸化スラグ骨材、シリカフューム等も用いることが可能である。
【0042】
ここで、本実施形態に係るシリカフュームは、アーク式電気炉から排ガス中のダストとして集塵される大部分が非晶質で球形のシリカ(SiO2)等である。このシリカフュームは、JIS A 6207で規定された、密度2.30g/cm3程度のものを用いることが好適である。シリカフュームは、緻密化と強度向上のために用いることが好適である。
【0043】
また、本実施形態に係る粗骨材は、一般的な砂岩等の粗骨材を使用可能である。この粗骨材は、例えば、JIS A 5005 砕石2005(硬質砂岩)に該当するもので、密度が2.67g/cm3程度のものであることが好適である。
【0044】
これに加えて、本実施形態のモルタル組成物又はコンクリートの製造においては、繊維、減水剤、高性能減水剤、流動化剤、遅延剤、防水混和剤、防湿混和剤、発泡剤、増粘剤、防凍剤、着色剤、ワーカビリティー増進剤、防しょう剤、消泡剤、凝結調整剤、収縮低減剤、セメント急硬材、高分子エマルション等を適宜配合することが可能である。
【0045】
本実施形態に係るコンクリートは、遠心力成形で締め固める、振動成型する、又は、現場施工で打設されて製造されてもよい。
【0046】
〔プレキャストコンクリート〕
本実施形態に係るコンクリートは、プレキャストコンクリートの製造に用いることが可能である。このプレキャストコンクリートは、特に強度が必要な製品に用いることが好適である。
この場合、専用工場においてコンクリート製品を製造する際に、最適な組成と強度に設定することで、製造効率を高め、製造コストを最適化することができる。
【0047】
ここで、本実施形態に係るコンクリートは、遠心力成形で締め固めてもよい。この遠心力成形では、上述の割合で配合された水、上述のセメント組成物、膨張材、細骨材、粗骨材、及び減水剤の混合物(以下、単に「混合物」という。)を遠心成形用型枠に充填し、同型枠を成形機の上で高速回転させ、遠心力を利用して最終的に30~50G程度の加速度で締固め、余剰水をスラッジ水(コンクリートスラッジ)として排出する。この際、余剰水が適切に排水されて緻密に締固められるよう、数段階に加速度を大きくして締固めてもよい。この段階としては、例えば、5G、15G、35Gを、それぞれ、1分、1分、7分の割合で締固めする。このように遠心力成形の締固めで製造することで、本実施形態に係るコンクリートにより、強度を高めて、更に、蒸気養生の時間を短くし、高性能な円筒状構造物等を製造することが可能となる。
なお、このコンクリートスラッジに二酸化炭素を付加して、上述の炭酸カルシウムの製造に用いることも可能である。
【0048】
さらに、本実施形態のコンクリートは、上述の遠心成形の他に、振動形成されたプレキャストコンクリートとしても用いることが可能である。
振動成形製品の対象としては、ボックスカルバートやマンホールなどが挙げられる。何れの製品も、ヒューム管等のプレキャストコンクリートの製造工程と同様の製造方法で製造可能である。すなわち、遠心成形を振動成形に変更するだけで製造することが可能である。したがって、本実施形態の混合物は、振動形成のプレキャストコンクリート製品の製造にも適用することが可能である。
【0049】
適切な養生方法と温度管理を十分に行えば、本実施形態の混合物を用いて、現場で打設することも可能である。
【0050】
ここで、本実施形態のコンクリートは、適用する製品によっては、要求性能が異なる場合があり得る。
この場合、コンクリートにおける水(W)とセメント(C)の割合(W/C)に相当する様に、混合物の水(W)と総粉体量(P)との割合(W/P)を微調整するだけで対応可能である。または、このW/Pの代わりに、水(W)結合材(B)比(以下、「W/B」という。)を用いて調整することも可能である。ここで、本実施形態に係るW/Bは、強度と流動性の要求性能を満足する範囲で、減少させたり増加させたりすることが可能である。
【0051】
また、必要に応じて細骨材率(s/a)や混和剤(Ad)添加量等も適宜調整して、混合物のフレッシュ性状(スランプ:SLや、空気量:Air)を、適用する製品の要求性能に合わせることが可能である。
さらに、本実施形態に係るコンクリートは、成形後に高圧高温養生されてもよい。
【0052】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、SSAをモルタル組成物やコンクリート製造に用いると、(1)リン成分がセメントの構成化合物であるエーライト及びビーライトと反応することでセメン卜の硬化を遅らせる凝結遅延現象を引き起こす、(2)多孔質性であるため吸水性が高く、コンクリー卜のワーカビリティーに悪影響を与えることがある、という問題があった。このため、SSAをモルタル組成物やコンクリート製造に大量使用することはできなかった。
【0053】
これに対して、このジルコニアボールを用いてSSAをボールミル混合することで、本実施形態においては、SSAが微粒子化され、(1)SSAに含まれるリンと水酸化カルシウムが反応することでリン酸カルシウムとして不活性化し、(2)SSAの表面積が増大することで反応性が向上して、吸水性を低減しつつ、(3)機械強度を増強させることが可能となる。
これにより、モルタル組成物及びコンクリートの製造時における凝結遅延現象を抑え、ワーカビリティーに影響を与えることを防ぎ、圧縮強度を高められ、早期の強度増進が期待できる等の効果が得られる。結果として、SSAをコンクリート混和材として、大量使用可能となる。
【0054】
具体的には、後述する実施例に示したように、SSAにおいて、FAに含まれないリン成分を不溶性リン酸カルシウム化して、40分程度の凝結遅延改善効果を確認した。
さらに、セメントの20質量%とした、活性化されたSSAを含む混合セメントモルタルの圧縮強度は、材料年齢7日の水中硬化で、未処理のSSAを含む混合セメントモルタルと比較して19.1%高くなった。
加えて、SSAを活性化後、日数経過した後に圧縮強度を高められるかについても実験したところ、28日でも、圧縮強度の低下は見られず、標準のJISモルタルよりも高くなった。さらに加えて、ボールミル混合後のSSAを含むスラリーの活性化効力の持続時間を調査したところ、28日間の静的期間内では、JISモルタルよりも高い圧縮強度を示した。
なお、本発明者らの予備的な実験により分散剤を投入する等にて活性化処理後の時間的制約が少なく、数か月間、活性化が保つようになってきている。このため、作り置きしておいても、長期間、活性化されたSSAは、混和剤としての品質を保つことができる。
【0055】
本実施形態に係るコンクリートでは、水酸化カルシウムによるCaが追加されたために、硬化の活性度を高めることが期待できる。
さらに、適切に大気中及び/又は排気ガス中から抽出された二酸化炭素を原料として含んで製造された炭酸カルシウムを加えると、結果的にコンクリート製造時の二酸化炭素を削減することが可能となる。
【0056】
なお、本実施形態に係るコンクリートは、プレキャストコンクリート以外の用途に用いることが可能である。
たとえば、本実施形態に係るコンクリートは、通常の建築、各種生産製造施設等においても用いることが可能である。
【0057】
次に図面に基づき本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【実施例0058】
〔SSAの活性化可能性〕
SSAでボールミル混合法による高活性化処理が有効か無効かを判断するため、最適混合条件において、活性化SSA添加モルタルの圧縮強度増進率を比較した。これにより、SSAの活性化について調べた。
また、セラミックス球の材質及び直径による影響を検討するために、セラミックス球(以下、「ボール」ともいう。)の配合を変化させた活性化SSA及びFA添加モルタルの圧縮強度増進率の比較を行った。
【0059】
(使用材料)
使用材料は、普通ボルトランドセメント(C:密度3.16g・cm-3)、下水汚泥焼却灰(SSA:密度 2.60g・cm-3、BET比表面積3.78m2・g-1)、フライアッシュII種(FA:密度2.23g・cm-3、ブレーン比表面積4650cm2・g-1)、上水道水(W)、標準砂(S:セメン卜協会強さ試験用)、飽和水酸化カルシウム溶液(SSAt.Ca(OH)2)、関東化学製、特級を溶解)である。
本実施例で使用したSSA及びFAの化学組成を下記の表1に示す。単位は、質量%である。
【0060】
【0061】
(実験手順)
図1により、実験手順の流れについて説明する。まず、SSA若しくはFAを加えた粉末を500ml広口試薬瓶に投入し、ボールミル混合した。その後、モルタルミキサーで練り混ぜ、4・4・16型枠で成型し、前置き養生した。その後、脱型し水中養生(水温20℃)し、圧縮試験を行った。
以下、それらの工程の詳細について説明する。
【0062】
まず、ボールミル混合のため、JIS A 6201に準拠し普通ポルトランドセメントの25質量%をSSA又はFA(SSA及びFAのいずれかについて、下記では単に「混和材」と称する。)に置換し、比較のためSSAも同様に置換した。
ボールミル混合の手順は、広口試薬瓶(外径73mm、長さ168mm、内容量500ml、低密度ポリエチレン製)にSSA若しくはFA、飽和水酸化カルシウム溶液、水、標準砂、及びセラミックス球を加え、2段式ボールミル回転架台を使用し混合を行った。
セラミックス球の材質は、耐摩耗性が高く、試薬瓶内で十分運動可能なものとして、アルミナボール(密度3.61g・cm-3)、及びジルコニアボール(密度6.00g・cm-3)を使用した。
このセラミックス球の配合を、下記の表2に示す。
【0063】
【0064】
ボール配合以外のボールミル混合条件は、従来のFAの最適混合方法に基づき、以下の条件とした。(1)回転架台の回転数は30rpm、(2)混合時間は1時間、混和材の質量に対して(3)飽和水酸化カルシウム溶液量50%、(4)水量62%、(5)砂量44%である。
ボールミル混合(Admixture)の配合及びボールミル混合条件を、下記の表3に示す。
【0065】
【0066】
供試体の作成はJIS R 5201を参考にして行った。練り混ぜはJISモルタルミキサー、型枠は40×40×160mmの角柱型とし、供試体の成型後、20℃の恒温室で24時間の前置き養生を行った。その後、脱型を行い、28日間20℃で水中養生した。活性化された混和材を添加したモルタル(以下、「活性化混和材添加モルタル」という。)は、上述のボールミル混合後の混和材を含むスラリーにセメント、残りの水及び標準砂を加え、混練し作成した。
混和材添加モルタルの配合を、下記の表4に示す。
【0067】
【0068】
圧縮試験はJIS R 5201に準拠して行った。供試体は、6本ずつ測定を行い、その平均を測定値とした。
【0069】
(結果及び考察)
図2にFA添加モルタルの圧縮強度、
図3にSSA添加モルタルの圧縮強度を示した。
供試体番号はセメントのみのJISモルタルを「JIS」、未処理のFAまたはSSA添加モルタルを(0)、ボールミル混合を行った活性化混和材添加モルタルを表2のボール配合の通りにしたものを(1)~(8)とした。上述の通り、材齢は28日で、養生は水中養生の結果である。
図2及び
図3の結果によれば、活性化FA添加モルタルは未処理のFA添加モルタルに比して圧縮強度は増加し、最も圧縮強度が増進したものは(4)のアルミナボール15mm 10個と13mm 5個のボール配合で、圧縮強度増進率は18.3%となった。
また、活性化SSA添加モルタルは未処理のSSA添加モルタルに比して一部のボール配合で圧縮強度は増加し、最も圧縮強度増進したものは(6)のジルコニアボール15mm 10個と10mm 5個のボール配合であり、圧縮強度増進率は4.6%であった。
【0070】
図2及び
図3より、活性化SSA添加モルタルの圧縮強度増進率の向上が確認できたことから、SSAにもFAと同様、ボールミル混合法による高活性化処理が有効であることが分かった。
また、FAと比して、SSAは圧縮強度増進の程度が小さく、圧縮強度が低下するものもあった。この原因として、各混和材のポゾラン反応性の違いに加えて、ボールミル混合をFAの最適混合条件で行ったことが考えられ、SSAに適した混合条件の探索が必要と考えられた。
【0071】
さらに、FAはすべてのボール配合で圧縮強度増進率が向上したが、SSAは一部のボール配合でのみ向上した。このことから、ボールミル混合法による混和材の活性化において、FAではボール配合による影響は少ないと考えられ、さまざまなボール配合で活性化可能と考えられる。
これに対して、SSAではボール配合、すなわちボール材質、ボール直径、及び組み合わせの影響が大きいと考えられた。SSAのボールミル混合では、ボール材質はジルコニア、ボール径が15mm以上のボールが複数個の配合、圧縮強度増進率の上昇が確認できた。このことから、SSAの高活性化には、FAより大きいボール重量、すなわちエネルギーが必要であると考えられる。
【0072】
また、ボールミル混合法における最適なボールの組み合わせとして、SSAもFAも同様に、ボール径が単一のボール配合より、複数のボール配合且つ同径のボールを複数個組み合わせたボール配合で、より活性化している傾向にあった。すなわち、ボール径が複数、且つ同径のボール複数個の配合であることが、好適であった。これは、ボール径が複数の配合は、単一の配合に比して混和材粒子が微粉砕され、細分化することで添加した飽和水酸化カルシウム溶液との反応性が向上し、活性化すると考えられるためである。加えて、同径のボールを複数個組み合わせると、粉砕の効率が上昇する。これにより、混合のむらが少なくなるため、より高活性化していると考えられる。
圧縮強度が低下した(1)(3)(4)(5)(7)は、15mm以上のジルコニアボールが3個以下であるのが共通点であった。このため、十分な粉砕が得られず、凝集したことで表面積が減少し、未処理のSSA添加モルタルより圧縮強度が低くなったと考えられる。
このように、ボールミル混合法による高活性化はSSAにも有効であり、SSAの高活性化における最適ボール配合は、ボール材質はジルコニア、15mm以上のボールが複数個の配合が適しており、本実施例における最適配合は、ジルコニアボールで、直径15mmが10個及び10mmが5個の配合であった。
なお、この実施例では、上述のように複数のジルコニアボールにてボールミル混合を行った。しかしながら、SSAでは、特定密度(比重)以上の材質のボールにてボールミル混合を行うことが好適であるものの、ボールの密度や大きさや粉砕時間や振動数等の条件によっては、単数(一つ)のボールでも可能であるものと考えられる。
【0073】
〔最適混合条件の探索〕
上述の実験結果を踏まえ、さらなる圧縮強度増進率の向上を目的とし、SSAのボールミル混合条件の最適化を行った。ボールミル混合法の実験パラメーターのうち、固液比率、水量、砂量、回転数の4つの観点について最適混合条件の検討を行った。また、本実験からは、SSAの添加によるJISモルタルとの圧縮強度比較を行うため、標準砂と外割置換した。
【0074】
(使用材料)
使用材料は普通ボルトランドセメント(C:密度3.16g・cm-3)、SSA(密度 2.60g・cm-3、BET比表面積3.78m2・g-1)、上水道水(W)、標準砂cs:セメント協会強さ試験用)、飽和水酸化カルシウム溶液(関東化学製、特級を溶解)である。なお、使用したSSAは上述のものと同じものを使用した。
【0075】
(実験手順)
SSAはセメン卜の質量比10%の割合で標準砂と外割置換した。ボールミル混合条件のうち、以下の範囲で検討を行った。(1)回転架台の回転数は30rpm~40rpm、SSAの質量に対して(2)飽和水酸化カルシウム溶液量20~100%、(3)水量25~200%、(4)砂量0~100%である。その他の条件とし、ボール配合はジルコニアボール15mmが10個と10mmが5個、混合時間は1時間で統一し、容量500mlの広口試薬瓶を使用し混合した。供試体の作成は上述のものと同様の手順で行い、脱型後は7日間水中養生した。圧縮強度試験も、上述のものと同様の手順で行い、試験結果をもとにSSAの混合条件の最適化を行った。
【0076】
(結果)
図4(a)~(f)に、この最適化条件の探索の結果を示す。
図4(a)は砂量の強度ピーク、
図4(b)は回転数の強度ピーク、
図4(c)はボール個数の強度ピーク、
図4(d)は水量の強度ピーク、
図4(e)は混合時間の強度ピーク、
図4(f)は水酸化カルシウム量の強度ピークをそれぞれ示す。FA及びSSAの系列について、いずれも、最適条件の箇所に丸印を付している。また、
図4(f)の水酸化カルシウム量は、「0.03g~0.83g」として示しているものの、これは、SSAの質量に対して、概ね20%~500%であることを示す。
【0077】
このように、SSA添加モルタルの圧縮強度増進率を比較し、砂量、回転数、水量、固液比率を試行錯誤的に組み合わせ最適化した結果は、以下の通りである:
(a)砂量は60%、(b)回転架台の回転数は40rpmが最適であった。また、(c)ボール配合はジルコニアボール15mmが10個と10mmが5個、(d)水量は180%、(e)混合時間は1時間、広口試薬瓶の容量500mlが好適であった。また、SSAの質量に対して、(f)飽和水酸化カルシウム溶液量は40%(
図4(f)では、0.06g)が最適であった。
これらをSSAの最適ボールミル混合条件とし、以下の実験を行った。
【0078】
〔ポールミル混合後のSSAの形態観察〕
ボールミル混合により、SSA粒子に生じる変化を確認するため、走査型電子顕微鏡観察によるSSAの形態観察を行った。
【0079】
(実験方法)
ボールミル混合後のSSAスラリーを採取し、20℃の室内で自然乾燥後、D-dryを行ったものを試料とし、ボールミル混合後の活性化されたSSAの形態観察を行った。また、未処理のSSAも形態観察を行い、ボールミル混合によるSSAの粒子の変化を比較した。観察には走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、走査電子顕徴鏡SU5000。以下、「SEM」と略記する。)を使用した。観察する際はPt+Pd蒸着を行った。なお、ボールミル混合は、上述の最適混合条件で行った。
【0080】
(結果及び考察)
図5に、SEMにより観察した写真を示す。
図5(a)は未処理のSSA、
図5(b)は最適混合条件でボールミル混合した活性化SSAである。
ボールミル混合により、SSA粒子が粉砕され粒径が10~15μm程度から5μm程度以下に小さく変化したことが確認できた。
また、
図5(b)では、
図5(a)では観察されなかった層状の結品が粒子の表面に付着している様子も観察できた。これは、SSAのリン成分が水酸化カルシウムと反応し、リン酸カルシウムに変化したものであると推察された。
【0081】
以上より、ボールミル混合法によるSSAの高活性化は、(1)SSA粒子が粉砕されることで表面積が増加すること、(2)SSAのリン成分が水酸化カルシウムと反応しリン酸カルシウムとなり、凝結遅延効果が低減すること。さらに、(3)スラリー化することによりSSAの吸水性については考慮しなくてもよい、すなわち吸水性の低減が可能であることの三点の効果が得られると考えられた。
このうち(1)乃至(3)は、上述のように、SSAの短所として当業者に知られている性質であり、本実施例の処理により、その改善が期待できることが示された。
【0082】
〔圧縮強度比較〕
ボールミル混合による活性化SSA添加モルタル、未処理のSSA添加モルタル、セメン卜のみのJISモルタルの材齢ごとの圧縮強度増進率の変化を比較するため、材齢を3日、7日、14日、28日と設定した。加えて、SSA添加率を変化させた場合についても同様に比較し、圧縮強度変化の特性について検討を行った。
【0083】
(実験方法)
使用材料は、上述と同様の材料で行った。SSAの添加率はセメン卜の質量比で5%、10%、20%とし、それぞれ標準砂と外割置換した。ボールミル混合は上述の最適混合条件で行った。供試体の作成も、上述と同様の手順で行い、脱型後は材齢期間すなわち3日、7日、14日、28日水中養生した。
ボールミル混合条件を下記の表5、SSA添加モルタルの配合を下記の表6に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
圧縮強度試験は、上述の各試験と同様の手順で行った。
【0087】
(結果及び考察)
図6に、添加率別の活性化SSA添加モルタルの圧縮強度試験結果を示す。
また、下記の表7に材齢3日のJISモルタルの圧縮強度を基準とし、各配合の圧縮強度増進率を示す。
【0088】
【0089】
図6及び表7より、活性化の有無にかかわらず、SSAの添加により無添加のJISモルタルより高い圧縮強度となることが認められ、SSAの添加率が増加するほど未処理と活性化SSAの圧縮強度増進率の差異が大きくなるという傾向が得られた。
また、活性化SSA添加率20%の圧縮強度は、未処理と比して材齢7日で19.1%高くなり、材齢28日では6.4%高い値となった。その他の添加率でも、同様の結果となり、長期材齢になるほど未処理との圧縮強度増進率の差異が減少する傾向にあった。
これらの結果から、ボールミル混合によりSSAの圧縮強度増進率が向上した要因として、ボールミル混合時に、SSAのリン成分が飽和水酸化カルシウム溶液と反応し不溶性リン酸カルシウム化することにより凝結遅延効果が低減するため、未処理と比して早期の水和反応による圧縮強度増進率が増加していること、粉砕により表面積が増加し水和反応性が促進されたことにより、早期材齢の圧縮強度増進率が増加していることが考えられる。
なお、ここでの水和反応性は、SSAの組成から非品質シリカが含まれているため、ポゾラン反応であると考えられる。さらに、活性化処理時に加えた水酸化カルシウムがセメン卜の水和反応率を高めている可能性もあり得る。
【0090】
〔活性化能の時間依存性〕
今後のSSAスラリーの用途展開を目的とし、ボールミル混合法によるSSAの活性化能の持続期間について検討を行い、SSAスラリーの使用期限を推定した。本実験では、活性化SSAスラリーの静置期間を7日、14日、21日、28日と設定し、SSA添加モルタルの圧縮強度の比較により、活性化能の時間依存性について検討を行った。
【0091】
(実験方法)
使用材料は上述と同様の材料で行った。SSAの添加率はセメントの質量比で10%とし、標準砂と外割置換した。ボールミル混合は上述の最適混合条件で行った。混合後の広口試薬瓶を20℃の恒温室内に静置し、所定の期間静置したSSAスラリーをセメン卜、水及び標準砂と混練した。供試体の作成も上述の各試験と同様の手順で行い、脱型後は7日間水中養生した。SSA添加モルタルの配合は、上述の表6と同様である。圧縮強度試験も、上述と同様の手順で行った。
【0092】
(結果及び考察)
図7に、圧縮試験結果を示す。活性化の程度は、静置日数が経過するほど、やや減少傾向にあった。また、活性化SSA添加モルタルはすべての静置日数で、JISモルタルより高い圧縮強度となった。
また、本実施例では、静置期間で28日以降、圧縮強度の低下が減少傾向であった。これは、粉砕により細分化されたSSA粒子が、静置期間が長くなるほど擬集し、表面積が減少したため反応性が低下したこと等が考えられる。このため、予備的な実験により、分散剤を入れる等により、時間的制約を延ばし、数か月間、品質が保つことが確認された。
【0093】
〔まとめ〕
本実施例により得られた知見を以下に示す。
(a)ボールミル混合法による高活性化はSSAでも有効である。
(b)SEM写真よりボールミル混合によってSSA粒子が粉砕され、約5μmまで細分化されていた。
(c)SSAの添加率が上昇するほど圧縮強度増進率が増加し、SSAの最適混合条件においては、添加率20%でも圧縮強度低下は確認されなかった。
(d)ボールミル混合によるSSA添加モルタルの早期材齢での圧縮強度増進率の向上を確認した。
(e)ボールミル混合法により生成したSSAスラリーの活性化能は時間経過によりやや減少傾向にあった。そして、28日以降急激に減少する恐れがあるため、混合後14日程度までに使用することが好適であった。
(f)ボールミル混合法は、SSAの短所である凝結遅延現象と高い吸水性とを改善できた。
【0094】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。