(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032187
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リクライニング装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/225 20060101AFI20240305BHJP
A47C 1/025 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60N2/225
A47C1/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135701
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(72)【発明者】
【氏名】平松 龍一
【テーマコード(参考)】
3B087
3B099
【Fターム(参考)】
3B087AA01
3B087BD03
3B099AA05
3B099BA04
3B099CA22
3B099CB01
3B099CB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リクライニング装置から発生するうなり音の発生を軽減することができるリクライニング装置を提供する。
【解決手段】シートクッションに対して、傾動可能に取り付けられるシートバックの傾動の中心位置に取り付けられ、傾動用の電動モーターによってタウメル機構が作動し、シートバックに傾動機能を与えるリクライニング装置100において、内歯ボス25が内歯と外歯11とが噛み合う位置を支点、シートバックにかかる負荷を受ける点を作用点、くさび状カム50が外歯ボス12と摺動する点を力点とした場合、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の内歯ボス25と外歯ボス12との間隔が、内歯ボス25の中心が内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に内歯ボス25の中心がずらしてあることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションを構成するシートクッションフレームに対してシートバックを構成するシートバックフレームを傾動可能に保持するシートのリクライニング装置であって、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの一方に対して直接又は間接的に取り付けられ、外周面に外歯が形成され、中心に軸方向と同軸の外歯ボスが形成された外歯歯車と、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの他方に対して直接又は間接的に取り付けられ、内周面に少なくとも前記外歯よりも1つ以上多く設けられた前記外歯と噛合可能な内歯を有し、かつ略中心に貫通孔が形成された内歯歯車と、
前記外歯歯車の前記外歯ボスに同軸に嵌挿されるとともに、前記外歯歯車又は前記内歯歯車のいずれか一方を他方の歯車軸を中心に回転させる回転シャフトと、
前記内歯歯車の前記貫通孔の内周面に配置され、前記内歯の中心に対してずれた位置に中心を形成する内歯ボスと、
前記外歯歯車の前記外歯ボスの外周面と前記内歯歯車の前記内歯ボスの内周との間に配置され、内周側にカム収容部を有し、かつ前記回転シャフトの回転に伴い回転するブッシュと、
前記カム収容部に収容され、前記外歯歯車の前記外歯ボスと前記ブッシュとを押圧して前記ブッシュを前記内歯歯車の前記内歯ボスの内周面に接触させることによって、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を規制するとともに、前記回転シャフトを回転させることによって、前記外歯歯車の前記外歯ボスの外周面と摺動し、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を許容する一対のくさび状カムと、
一対の前記くさび状カムを前記ブッシュ及び前記外歯ボスに同時に接触させる方に付勢するスプリングと、を備え、
前記内歯ボスは、前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置を支点、シートバックにかかる負荷を受ける点を作用点、前記くさび状カムが前記外歯ボスと摺動する点を力点とした場合、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の前記内歯ボスと前記外歯ボスとの間隔が、前記内歯ボスの中心が前記内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に前記内歯ボスの中心がずらしてあることを特徴とするリクライニング装置。
【請求項2】
前記内歯ボスの中心が、前記リクライニング装置が前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームに取り付けられた状態で、垂直下方向にずらしてあることを特徴とする請求項1に記載のリクライニング装置。
【請求項3】
前記内歯ボスの中心が、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点と外歯ボスの中心とを結んだ直線と平行に、外歯ボスの中心から力点方向にずらして形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリクライニング装置。
【請求項4】
シートクッションを構成するシートクッションフレームに対してシートバックを構成するシートバックフレームを傾動可能に保持するシートのリクライニング装置であって、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの一方に対して直接又は間接的に取り付けられ、外周面に外歯が形成され、中心に軸方向と同軸の外歯ボスが形成された外歯歯車と、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの他方に対して直接又は間接的に取り付けられ、内周面に少なくとも前記外歯よりも1つ以上多く設けられた前記外歯と噛合可能な内歯を有し、かつ内歯の中心に対してずれた位置に中心を有する
貫通孔が形成された内歯歯車と、
前記外歯歯車の前記外歯ボスに同軸に嵌挿されるとともに、前記外歯歯車又は前記内歯歯車のいずれか一方を他方の歯車軸を中心に回転させる回転シャフトと、
前記外歯歯車の前記外歯ボスの外周面と前記内歯歯車の前記貫通孔の内周との間に配置され、内周側にカム収容部を有し、かつ前記回転シャフトの回転に伴い回転するブッシュと、
前記カム収容部に収容され、前記外歯歯車の前記外歯ボスと前記ブッシュとを押圧して前記ブッシュを前記内歯歯車の前記貫通孔の内周面に接触させることによって、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を規制するとともに、前記回転シャフトを回転させることによって、前記外歯歯車の前記外歯ボスの外周面と摺動し、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を許容する一対のくさび状カムと、
一対の前記くさび状カムを前記ブッシュ及び前記外歯ボスに同時に接触させる方に付勢するスプリングと、を備え、
前記貫通孔は、前記内歯と前記外歯とが噛み合う位置を支点、シートバックにかかる負荷を受ける点を作用点、前記くさび状カムが前記外歯ボスと摺動する点を力点とした場合、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の前記貫通孔と前記外歯ボスとの間隔が、前記貫通孔の中心が前記内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に前記貫通孔の中心がずらしてあることを特徴とするリクライニング装置。
【請求項5】
前記貫通孔の中心が、前記リクライニング装置が前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームに取り付けられた状態で、垂直下方向にずらしてあることを特徴とする請求項4に記載のリクライニング装置。
【請求項6】
前記貫通孔の中心が、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点と外歯ボスの中心とを結んだ直線と平行に、外歯ボスの中心から力点方向にずらして形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のリクライニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リクライニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートクッションに対して、シートバックを傾動可能に保持するシートのリクライニング装置としては、タウメル機構からなるものがある。例えば、一般的に、外周面に外歯が形成され、内周面に軸方向と同軸の貫通孔が形成された外歯歯車と、内周面に少なくとも外歯よりも1つ以上多く設けられた前記外歯と噛合可能な内歯を有し、かつ軸方向と同軸の内歯ボスが形成された内歯歯車と、内歯歯車のボスに同軸かつ回転自在に嵌挿されるとともに、前記外歯歯車又は前記内歯歯車のいずれか一方を他方の歯車軸を中心に回転させる回転シャフトと、前記外歯歯車の貫通孔の内周と前記内歯歯車の前記内歯ボスの外周との間に配置され、外周面の中心と内周面の中心とが偏心している円環状に形成され、内周側にカム収容部を有し、かつ前記回転シャフトの回転に伴い回転するブッシュと、前記カム収容部に収容され、前記内歯歯車の内歯ボスと前記ブッシュとを押圧して前記ブッシュを前記外歯歯車の前記貫通孔の前記内周面に接触させることによって、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を規制するとともに、前記回転シャフトを回転させることによって、前記ブッシュと前記内歯歯車の前記内歯ボス又は前記ブッシュと前記外歯歯車の前記貫通孔の前記内周面を摺動させて前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を許容する一対のくさび状カムと、一対の前記くさび状カムを前記ブッシュ及び前記内歯ボスに同時に接触させる方に付勢するスプリングと、を備えたものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
かかるタウメル機構を有するリクライニング装置は、
図4及び
図5に示すように、噛合位置が変動し、作用点(シートバック負荷点)と支点(ギア噛合歯)との距離の変化によって、
図6に示すグラフのように、トルクが変動する。このトルク変動がモーターに加わるため、うねり音が発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、こうした課題を鑑みてなされたものであり、リクライニング装置から発生するうなり音の発生を軽減することができるリクライニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために、以下の手段を採った。
【0007】
本発明のリクライニング装置は、
シートクッションを構成するシートクッションフレームに対してシートバックを構成するシートバックフレームを傾動可能に保持するシートのリクライニング装置であって、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの一方に対して直接又は間接的に取り付けられ、外周面に外歯が形成され、中心に軸方向と同軸の外歯ボスが形成された外歯歯車と、
前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームの他方に対して直接又は間接的に取り付けられ、内周面に少なくとも外歯よりも1つ以上多く設けられた前記外歯と噛合可能な内歯を有し、かつ略中心に貫通孔が形成された内歯歯車と、
前記外歯歯車のボスに同軸に嵌挿されるとともに、前記外歯歯車又は前記内歯歯車のいずれか一方を他方の歯車軸を中心に回転させる回転シャフトと、
前記内歯歯車の貫通孔の内周面に配置され、内歯の中心に対してずれた位置に中心を形成する内歯ボスと、
前記外歯歯車の外歯ボスの外周面と前記内歯歯車の前記内歯ボスの内周との間に配置され、内周側にカム収容部を有し、かつ前記回転シャフトの回転に伴い回転するブッシュと、
前記カム収容部に収容され、前記外歯歯車の前記外歯ボスと前記ブッシュとを押圧して前記ブッシュを前記内歯歯車の内歯ボスの内周面に接触させることによって、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を規制するとともに、前記回転シャフトを回転させることによって、前記外歯歯車の外歯ボスの外周面と摺動することによって、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対回転を許容する一対のくさび状カムと、
一対の前記くさび状カムを前記ブッシュ及び前記外歯ボスに同時に接触させる方に付勢するスプリングと、を備え、
前記内歯ボスは、内歯と外歯とが噛み合う位置を支点、シートバックにかかる負荷を受ける点を作用点、くさび状カムが外歯ボスと摺動する点を力点とした場合、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の内歯ボスと外歯ボスとの間隔が内歯ボスの中心が内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に内歯ボスの中心がずらしてあることを特徴とする。
【0008】
かかる構成を採用することによって、回転シャフトを回転させるモーターのモータートルクが高くなるときには、内歯ボスと外歯ボスとの距離を広くなるようにし、ブッシュ及びくさびの摺動抵抗を低くことで全体的なトルクダウンを図り、モータートルクが低くなるときには、内歯ボスと外歯ボスとの距離を狭くなるようにし、ブッシュ及びくさびの摺動抵抗を高くすることで全体的なトルクアップを図ることによって、モータートルクとは逆位相の波となるような摺動抵抗によるトルク変動を加えることができる。そのため、モータートルクの波と摺動抵抗の逆位相の波で相殺することによってなめらかなトルク曲線とすることができる。これにより、うねり音の発生を低減することができる。
【0009】
また、本発明にかかるリクライニング装置において、前記内歯ボスの中心が、前記リクライニング装置が前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームに取り付けられた状態で、垂直下方向にずらしてあることを特徴とするものであってもよい。
【0010】
逆位相が多少ずれた状態とはなるが、うねり音の発生を低減できる程度に相殺できる摺動抵抗の逆位相の波を発生させることができる。
【0011】
さらに、本発明にかかるリクライニング装置において、前記内歯ボスは、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点と作用点と支点の距離が最も近い状態にあるときの力点とを結んだ線と平行に、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点方向に中心がずらして形成されていることを特徴とするものであってもよい。
【0012】
かかる場合に最も効果的な逆位相の波を作製することができる。
【0013】
さらに、内歯歯車の貫通孔の中心を内歯の中心からずらして作製されていれば、内歯ボスを省略することができる。すなわち、内歯歯車の貫通孔の中心を内歯の中心から、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の貫通孔と外歯ボスとの間隔が貫通孔の中心が内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に貫通孔の中心をずらしたり、前記リクライニング装置が前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームに取り付けられた状態で、垂直下方向にずらしたり、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点と作用点と支点の距離が最も近い状態にあるときの力点とを結んだ線と平行に、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点方向に中心をずらして作製することで、内歯ボスを省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100が取り付けられる車両用シート200の模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100の内部構造を示す正面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100の回転シャフトの回転角度と、支点、力点及び作用点の関係を表す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100の回転シャフトの回転角度と、支点、力点及び作用点の関係を表す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態にかかるリクライニング装置100のモータートルクの変動を表す図である。
【
図7】
図7は、内歯ボスの中心軸にズレがない場合のリクライニング装置200の動きを表す図である。
【
図8】
図8は、内歯ボスの中心軸にズレがある場合のリクライニング装置100の動きを表す図である。
【
図9】
図9は、内歯ボスの中心軸にズレがある場合に内歯ボス25の軸を内歯21の中心からずらすことによって摺動抵抗によるモータートルクと逆位相のトルク変動を発生させ、モータートルクのトルク変動を相殺することでなめらかなトルク曲線になることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態にかかるリクライニング装置100について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両用シート200の模式図であり、
図2は、リクライニング装置100の内部構造を示す正面図であり、
図3は、リクライニング装置100の分解斜視図である。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。なお、各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号が付されている。
【0016】
本発明にかかるリクライニング装置100は、
図1に示すように、車両用シート200のシートクッション210と、このシートクッション210に対して、傾動可能に取り付けられるシートバック220の傾動の中心位置に取り付けられ、傾動用の電動モーターによってタウメル機構が作動し、シートバック220に傾動機能を与える装置である。具体的には、リクライニング装置100は、シートクッション210の内部に配置されるシートクッションフレームと、シートバック220の内部に配置されるシートバックフレームとの間に直接又は他の取付用プレート230(以下「取付用プレート等」という。)を介して間接的に取り付けられて使用される。
【0017】
本発明にかかるリクライニング装置100は、主として、
図2又は
図3に示すように、外歯歯車10、内歯歯車20、回転シャフト30、ブッシュ40、内歯ボス25、一対のくさび状カム50a,50b(50)、スプリング60、スプリングカバー70及びプレートカバー80を備えている。なお、
図2では、内部構造を見やすくするため、スプリング60の一部、スプリングカバー70及びプレートカバー80は省略されている。
【0018】
外歯歯車10は、
図2又は
図3に示すように、円板状に形成されており、外周面には外歯11が形成されている。外歯歯車10の中心には、円筒形に形成された外歯ボス12が設けられている。
【0019】
内歯歯車20は、外歯歯車10よりも大きな直径を有する円板状に形成されており、外歯歯車10を内側に装着可能となるように円筒状の凹部が形成され、この凹部の内側面20aに内歯21が形成されている。内歯21は、外歯歯車10の外歯11の歯数よりも少なくとも1つ以上多く形成されており、外歯歯車10と内歯歯車20は、
図2に示すように、それぞれ外歯歯車10の中心と内歯歯車20の中心が偏心するように内歯21と外歯11とが噛合している。従って、外歯歯車10と内歯歯車20は、外歯歯車10が内歯21の周りを1周すると、内歯21と外歯11の歯の差分だけ回転が進むことになる。すなわち、例えば、歯が1つだけ異なる場合、外歯歯車10が内歯歯車20の周囲を1周すると歯1つ分回転することになる。内歯歯車20の中央には円筒状の貫通孔22が形成されている。
【0020】
内歯ボス25は、内歯歯車20の貫通孔22に配置されるリング状の部材である。この内歯ボス25を設けることで中心軸が内歯21の中心軸に対してずれて配置される。詳細は後述する。
【0021】
回転シャフト30は、外歯歯車10の外歯ボス12に対して同軸上に嵌挿されている。また、回転シャフト30は、シートバック220の傾動を調整する際に回転駆動されるものであり、モーター(図示しない。)からの回転力を受けるために内筒面には、セレーション31が設けられている。さらに、回転シャフト30は、後述するブッシュ40に設けられる突起部42と嵌合する嵌合凹部32を有している。嵌合凹部32は、突起部42を両側から挟み込むようにして取り付けられており、時計周り、反時計周りのいずれに回転シャフト30を回転させても、ブッシュ40は回転シャフト30と同様に回転する。
【0022】
ブッシュ40は、外歯歯車10の外歯ボス12の外周面12aと、内歯歯車20の貫通孔22に配置される内歯ボス25との間に配置される一部が切り欠かれた円環状又はリング状の部材である。ブッシュ40は、内周側に後述するくさび状カム50が収容されるカム収容部44を有している。カム収容部44は、くさび状カム50の形状に合わせて、向かい合った側から徐々に隙間が狭くなるように2箇所形成されており、くさび状カム50はこのカム収容部44に嵌挿される。ブッシュ40には、前述した嵌合凹部32と嵌合する突起部42が側面に設けられている。突起部42の数や位置は特に限定するものではない。これによって、回転シャフト30の回転と同期するようにブッシュ40は回転することになる。
【0023】
ブッシュ40のカム収容部44の内周面と、外歯歯車10の外歯ボス12の外周面12aとの間には、両者に接触するように一対のくさび状カム50a及びくさび状カム50b(50)が設けられている。くさび状カム50aとくさび状カム50bは、
図3に示すように、面対称に配置されており、くさび状カム50の凹面51(内側の面)は、外歯ボス12の外周面12aの曲面と一部同一の曲面を有し、凸面52(外側の面)は肉厚が向かい合った側から徐々に薄くなるように形成されている。
【0024】
スプリング60は、
図3に示すように、環状部61と、この環状部61から90°折れるように立ち上がった端部62a、62bとを有し、この端部62a、62bは、くさび状カム50a及びくさび状カム50bの厚肉部側の端面に配置され、それぞれのくさび状カム50a及びくさび状カム50bを互いに離間させる方向へ付勢する。これによって、内歯歯車20に対して外歯歯車10を押し付けて噛合させることができる。
【0025】
スプリングカバー70は、
図4に示すように、スプリング60が外れることがないように、保持するためのカバーであり、スプリング60を保持できる形態であれば、特に限定するものではない。
【0026】
プレートカバー80は、円環状に形成された金属板で形成されており、内歯歯車20の外周側の端部に溶接等で固定され、外歯歯車10の軸方向への移動を規制する機能を有する。
【0027】
こうして作製されたリクライニング装置100は、以下のようにして作動する。回転シャフト30に力を加えず、回転させていない状態では、一対のくさび状カム50a及びくさび状カム50bが離間する方向にスプリング60によって付勢され、ブッシュ40と外歯歯車10の外歯ボス12の外周面12aとに接触している。このため、内歯歯車20と外歯歯車10の相対運動はロックされており、シートバック220はロック状態にある。
【0028】
このロック状態から、回転シャフト30を例えば
図2において、時計方向に回転させると、回転シャフト30と係合しているブッシュ40も同様に回転する。またブッシュ40のカム収容部44の内壁にクサビ角が設定してあり、クサビ角内壁はくさび状カム50と接触している。ブッシュ40の回転により、クサビ角内壁はくさび状カム50の間にスキマが発生しクサビが外れる。回転シャフト30、ブッシュ40は、内歯歯車20に対して、時計方向に回転し、この結果、ブッシュ40と外歯ボス12及びブッシュ40と内歯歯車20の貫通孔22との間に隙間が発生し、外歯歯車10が内歯歯車20に対して回転可能になる。これに伴い、スプリング60の付勢力によってくさび状カム50aがこの隙間を埋めるように、時計周りに回転する。くさび状カム50は、回転シャフト30、ブッシュ40とともに摺動するように時計周りに回転することになる。こうして、外歯歯車10、内歯歯車20及び回転シャフト30は、差動歯車機構を構成することになる。なお、反時計方向の回転も同様にして回転させることができる。
【0029】
この際に、回転シャフト30を回転させ、外歯歯車10が移動していくと、
図4及び
図5に示すように、支点(ギアの噛み合い位置)、力点(くさび状カム50が外歯ボス12と摺動する点)及び作用点(シートバックにかかる負荷を受ける点)の位置が変化する。本実施形態にかかるリクライニング装置100では、
図4Aに示すように、作用点と支点の距離が最も遠い状態にある後傾ロック時を0°とした場合、回転するにつれ、
図4B~
図5Cに示すように、支点が移動し、作用点と支点の距離が近づき、支点位置が180°移動した状態のとき作用点と支点の距離が最も近づく。そして、また、作用点と支点の距離が遠くなり、近くなるという状態を繰り返すことになる。このとき、テコの原理により作用点と支点の距離が遠いときには、モータートルクが高くなり、作用点と支点の距離が近いときには、モータートルクが小さくなるため、作用点と支点との距離(負荷点と噛み合い歯距離)に対するモータートルクの変動を表すグラフである
図6に示すように、モータートルクは波を描くように変動する。これがモーターのうねり音の原因となる。このとき、内歯ボス及び外歯ボスともに、それぞれ内歯及び外歯の中心に配置されているリクライニング装置120の場合には、
図7に示すように、どの位置であってもブッシュ及びくさび状カムが配置されている空間(収容空間)の内歯ボスと外歯ボスとの間隔Dは、一定の幅になる。これに対し、本発明のように内歯ボス25が内歯21の中心からずれている場合、
図8に示すように、ブッシュ40及びくさび状カム50が配置されている空間の内歯ボス25と外歯ボス12との間隔Eに広狭変化が発生することになる。そこで、本発明は、この空間の広狭によるブッシュ40及びくさび状カム50の摺動抵抗を変化させてモータートルクの変動を相殺するという手段を採用したものである。具体的には、モータートルクが高くなるときには、内歯ボス25と外歯ボス12との距離を広くなるようにし、ブッシュ40及びくさび状カム50の摺動抵抗を低くことで全体的なトルクダウンを図り、モータートルクが低くなるときには、内歯ボス25と外歯ボス12との距離を狭くなるようにし、ブッシュ40及びくさび状カム50の摺動抵抗を高くすることで全体的なトルクアップを図ることによって、
図9に示すようなモータートルクとは逆位相の波となるような摺動抵抗によるトルク変動を加えることによって、互いの波を相殺してなめらかな曲線となるような理想トルクに近づけようとするものである。
【0030】
具体的には、
図8に示すように、最もモータートルクが高くなる配置のときには、くさび状カム50は力点F1で当接して摺動するので、この配置のときに内歯ボス25と外歯ボス12との距離が広くなるように、最もモータートルクが低くなる配置のときにはくさび状カム50は力点F2で当接して摺動するので、この配置のときに内歯ボス25と外歯ボス12との距離が狭くなるように、内歯ボス25の中心軸を内歯21の中心からずらすことによって摺動抵抗によるモータートルクと逆位相のトルク変動を達成する。
【0031】
そのため、理想的には、内歯ボス25の軸は、
図4Aに示すように力点F1と外歯ボス12の中心を結んだ線Hを中心から力点F1方向にずらすこと、又は
図5Cに示すように、力点F2と外歯ボス12の中心を結んだ線Iを力点F2から中心にずらすこと、で達成することができる。ずらす距離は、モータートルクのトルク変動の大きさに応じて決定される。なお、ずらす方向は、多少ずれていてもよく、垂直下方向にずらした場合でも多少の位相にずれは発生するものの、相殺可能な逆位相の摺動抵抗によるトルク変動を発生させることができる。すなわち、内歯ボス25の軸は、最もモータートルクが高くなる配置のときには、くさび状カム50は力点F1で当接して摺動するので、この配置のときに内歯ボス25と外歯ボス12との距離が広くなるように、最もモータートルクが低くなる配置のときにはくさび状カム50は力点F2で当接して摺動するので、この配置のときに内歯ボス25と外歯ボス12との距離が狭くなるような範囲であれば、逆位相の波を発生させることができる。
【0032】
例えば、外歯11の直径(刃先間距離)が6.35cmで歯数が32の外歯歯車10及び内歯21の直径(刃先間距離)が6.44cmで歯数が33の内歯歯車20を使用した場合に、リクライニング装置がシートクッションフレーム及びシートバックフレームに取り付けられた状態で、内歯ボス25の軸を垂直下方向に1mmずらした場合には、
図8に示すように内歯ボス25と外歯ボス12との距離が変化することになり、
図9に示すグラフのようなトルク変動を発生させることができる。
【0033】
このように、本発明によれば、内歯ボス25の軸を内歯21の中心からずらすことによって摺動抵抗によるモータートルクと逆位相のトルク変動を発生させ、モータートルクのトルク変動を相殺することでなめらかなトルク曲線となり、うねり音発生を低減することができる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうる。
【0035】
上述した実施形態においては、内歯ボス25によって軸を内歯21の中心からずらす構成を採用しているが、内歯歯車20の貫通孔22を内歯21の中心からずらして作製されていれば、内歯ボス25を省略することができる。すなわち、内歯歯車の貫通孔の中心を内歯の中心から、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときに、力点位置の貫通孔と外歯ボスとの間隔が貫通孔の中心が内歯の中心とずれがない場合と比較して、広くなる方向に貫通孔の中心をずらしたり、前記リクライニング装置が前記シートクッションフレーム及び前記シートバックフレームに取り付けられた状態で、垂直下方向にずらしたり、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点と作用点と支点の距離が最も近い状態にあるときの力点とを結んだ線と平行に、作用点と支点の距離が最も遠い状態にあるときの力点方向に中心をずらして作製する。この場合、ブッシュ40は、外歯歯車10の外歯ボス12の外周面12aと、内歯歯車20の貫通孔22との間に配置され、貫通孔22の内周面が内歯ボス25の内周面に相当することになる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述した実施の形態で示すように、主として、車両用シートのリクライニング装置として産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…外歯歯車、11…外歯、12…外歯ボス、12a…外周面、20…内歯歯車、20…内歯歯車、20a…内側面、21…内歯、22…貫通孔、25…内歯ボス、30…回転シャフト、31…セレーション、42…突起部、32…嵌合凹部、40…ブッシュ、44…カム収容部、50a,50b(50)…くさび状カム、51…凹面、52…凸面、60…スプリング、61…環状部、62a、62b…端部、70…スプリングカバー、80…プレートカバー、100…リクライニング装置、200…車両用シート、210…シートクッション、220…シートバック、230…取付用プレート