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特開2024-32195混練物の難固着構造及び混練物打設器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032195
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】混練物の難固着構造及び混練物打設器具
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/00 20060101AFI20240305BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240305BHJP
   B62B 5/00 20060101ALI20240305BHJP
   B62B 1/20 20060101ALI20240305BHJP
   B28C 7/16 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B28C7/00
E04G21/02 101
B62B5/00 F
B62B1/20
B28C7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135715
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 章子
(72)【発明者】
【氏名】川西 貴士
(72)【発明者】
【氏名】石関 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】北村 勇斗
【テーマコード(参考)】
2E172
3D050
4G056
【Fターム(参考)】
2E172HA01
3D050BB03
3D050EE04
3D050EE12
3D050KK19
4G056AA01
4G056AA06
4G056CD36
4G056CE01
(57)【要約】
【課題】混練物が接触する接触面に固着する混練物の固着量を低減することである。
【解決手段】セメント系固化材を含有する混練物が接触する接触面を被覆層で被覆する混練物の難固着構造であって、前記被覆層は、非粘着性、低摩擦性及び難接着性を有する合成樹脂材を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系固化材を含有する混練物が接触する接触面を被覆層で被覆する混練物の難固着構造であって、前記被覆層は、非粘着性、低摩擦性及び難接着性を有する合成樹脂材を含むことを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項2】
請求項1に記載の混練物の難固着構造において、
前記被覆層が、前記接触面に一体形成された一体形成層であり、
該一体形成層は、前記合成樹脂材を含む吹付け材を前記接触面に吹付けて硬化させたものであることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項3】
請求項1に記載の混練物の難固着構造において、
前記被覆層が、前記接触面に対して着脱自在なカバー材であり、
該カバー材は、前記合成樹脂材を含むことを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項4】
請求項3に記載の混練物の難固着構造において、
前記カバー材が、
前記接触面に対して着脱自在なカバー材本体と、
該カバー材本体に形成された前記合成樹脂材を含む樹脂層と、
を備えることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項5】
請求項3に記載の混練物の難固着構造において、
前記カバー材が、表面に複数の凸部を備えることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項6】
請求項3に記載の混練物の難固着構造において、
前記カバー材が、前記接触面に着脱自在に固定されることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項7】
請求項1に記載の混練物の難固着構造において、
前記混練物が、高強度コンクリートもしくは超高強度繊維補強コンクリートであることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項8】
請求項1に記載の混練物の難固着構造において、
前記合成樹脂材が、ポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂であることを特徴とする混練物の難固着構造。
【請求項9】
セメント系固化材を含有する混練物の、打設作業に使用する混練物打設器具であって、
請求項1から7のいずれか1項に記載の混練物の難固着構造を備えることを特徴とする混練物打設器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートやフレッシュモルタルが接触する接触面を被覆する混練物の難固着構造、及び難固着構造を備える混練物打設器具に関する。
【背景技術】
【0002】
現場でコンクリートを打設する際、レディミクスト車などで搬入したフレッシュコンクリートを、手押し一輪車の荷箱やベッセルに移し替え、打設予定位置まで運搬する場合がある。この場合には、コンクリートの打設作業が終了したのち、荷箱、ベッセル及びレディミクスト車のシューターなどに固着したフレッシュコンクリートを、硬化する前に水洗浄して除去する清掃作業を行う。
【0003】
フレッシュコンクリートを除去するための水洗浄は煩雑であるため、例えば特許文献1には、手押し一輪車の荷箱を合成樹脂材で形成する構成が開示されている。これにより、荷箱に固着したコンクリートや塗料、土砂などの剥離性を向上するとともに、荷箱の水洗浄を容易にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-104206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、合成樹脂材の種類について詳細が記載されておらず、荷箱に固着したコンクリートの除去容易性の程度も不明である。また仮に、除去容易性を有していたとしても、近年需要が高まっている高強度コンクリートや超高強度繊維補強コンクリートなど、高粘性のコンクリートを採用した場合には、同様の効果を得られない可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、混練物が接触する接触面に固着する混練物の固着量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため本発明の混練物の難固着構造は、セメント系固化材を含有する混練物が接触する接触面を被覆層で被覆する混練物の難固着構造であって、前記被覆層は、非粘着性、低摩擦性及び難接着性を有する合成樹脂材を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の混練物の難固着構造は、前記被覆層が、前記接触面に一体形成された一体形成層であり、該一体形成層は、前記合成樹脂材を含む吹付け材を前記接触面に吹付けて硬化させたものであることを特徴とする。
【0009】
本発明の混練物の難固着構造は、前記被覆層が、前記接触面に対して着脱自在なカバー材であり、該カバー材は、前記合成樹脂材を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の混練物の難固着構造は、前記カバー材が、前記接触面に対して着脱自在なカバー材本体と、該カバー材本体に形成された前記合成樹脂材を含む樹脂層と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の混練物の難固着構造は、前記カバー材が、表面に複数の凸部を備えることを特徴とする。また、前記カバー材が、前記接触面に着脱自在に固定されることを特徴とする。
【0012】
本発明の混練物の難固着構造は、前記混練物が、高強度コンクリートもしくは超高強度繊維補強コンクリートであることを特徴とする。
【0013】
本発明の混練物の難固着構造は、前記合成樹脂材が、ポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂であることを特徴とする。
【0014】
本発明の混練物打設器具は、セメント系固化材を含有する混練物の、打設作業に使用する混練物打設器具であって、本発明の混練物の難固着構造を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の混練物の難固着構造及び混練物打設器具によれば、混練物が接触する接触面を、非粘着性、低摩擦性及び難接着性を有する合成樹脂材を含む被覆層で被覆する。これにより、例えば、混練物打設器具にフレッシュコンクリートなどの混練物を積み込んで打設エリアまで運搬したのち、これらを傾けると、混練物の大部分は難固着構造を流動して打設エリアに向けてスムーズに落下する。したがって、混練物打設器具から混練物を掻き落とすなどの煩雑な作業を低減できる。
【0016】
その一方で、難固着構造に固着した混練物は、薄層状に固着し、また、固着面積も狭小となるから、難固着構造を設けない場合と比較して、固着量が十分少ない。このため、乾燥させることで容易に剥ぎ取ることができ、乾燥する前の状態であっても、容易に除去できる。これにより、混練物を打設したのちに実施していた、混練物打設器具の水洗浄などの清掃作業を大幅に簡略化できる。
【0017】
また、洗浄後に発生する汚染水の発生を抑制できるとともに、これに伴って、高アルカリ水であることに起因して必要となる汚染水の中和作業も低減できるなど、清掃作業の省力化に大きく寄与することが可能となる。このように、混練物の打設から打設後の清掃に至る一連の現場作業を効率化し、生産性を大幅に向上することが可能となる。
【0018】
さらに、被覆層としてカバー材を採用した場合には、混練物の打設終了後にカバー材を廃棄すれば、混練物打設器具を清掃する作業自体を省略できる。また、新たなカバー材に取り替えるなどの作業も容易に実施できる。これにより、現場打設の作業性が向上するだけでなく、混練物の固着残りも生じないため、混練物打設器具の使用期間を長期化することも可能となる。
【0019】
加えて、被覆層に細かな凸部を密に設けると、混練物と難固着構造との接触を最小限に抑制できる。したがって、混練物の固着量をより一層低減でき、乾燥したのちの剥ぎ取り作業がさらに容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、混練物が接触する接触面を、非粘着性、低摩擦性及び難接着性を有する合成樹脂材を含む被覆層で被覆することで、混練物打設器具に固着する混練物は薄層状となり、また面積も狭小となるため、固着量を低減でき、混練物の打設から打設後の清掃に至る現場打設に係る一連の作業について効率化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態における手押し一輪車及び難固着構造を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における難固着構造を構成する被覆層の他の事例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるコンクリートの固着実験の概要及び結果を示す図である(その1)。
図4】本発明の実施の形態におけるコンクリートの固着実験の概要及び結果を示す図である(その2)。
図5】本発明の実施の形態におけるコンクリートの固着実験の概要及び結果を示す図である(その3)。
図6】本発明の実施の形態における難固着構造を設けた混練物打設器具の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、混練物打設器具に設ける混練物の難固着構造であり、固着する混練物の面積を小さく、また薄層状にすることで固着量を低減させて、混練物の打設から打設後の清掃に至る一連の現場作業の効率化を図るものである。以下に、手押し一輪車の荷箱に難固着構造を設ける場合を事例に挙げ、その詳細を図1図6を参照しつつ説明する。
【0023】
≪≪混練物の難固着構造≫≫
図1(a)(b)で示すように、手押し一輪車10は、1台の車輪11と、この車輪11に支持されるとともにハンドルを備える架台12と、架台12に取り付けられた荷箱13とにより構成されている。荷箱13は、上面が解放された深さを有する略角錐台形状の容器であり、土砂やコンクリートなどの運搬に使用されている。
【0024】
例えば、セメント系固化材を含有する混練物であるフレッシュなコンクリートを、レディミクスト車などからこの荷箱13へ移替えて打設エリアまで運搬したのち、荷箱13を傾けてコンクリートを打設する場合がある。このとき、荷箱13の内面131は少なくとも、コンクリートが接触する接触面となるため、この接触面に難固着構造40を設けている。
【0025】
難固着構造40は、非粘着性、低摩擦性及び難接着性の3つの性状を有する合成樹脂材を含む被覆層を備え、荷箱13の内面131を覆うことにより構成される。非粘着性とは、表面に粘着や焼き付きを起こさない性質をいい、低摩擦性とは、静摩擦係数及び動摩擦係数ともに小さい性質をいう。また、難接着性とは、疎水性があり一般的な接着剤で接着できない性質をいう。
【0026】
このような性状を有する合成樹脂材として、ポリウレア樹脂、ふっ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂などを、事例として挙げることができる。なかでも、ポリウレア樹脂、もしくはポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂が難固着構造40の被覆層に好適である。
【0027】
ポリウレア樹脂は、イソシアネートとポリアミンの化学反応で生成されるウレア結合を基本とした樹脂化合物である。防水性や耐薬品性、耐摩耗性などに高い能力を発揮し、主にライニング材として使用されている。また、ふっ素樹脂は、ふっ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂材であり、耐熱性、耐薬品性、低摩擦性などに高い能力を発揮する。
【0028】
≪≪被覆層≫≫
上記の合成樹脂材を含む被覆層は、図1(b)で示すように、荷箱13の内面131に一体形成して一体形成層41としてもよいし、図2(a)(b)で示すように、積層型カバー材43もしくは成形型カバー材46として荷箱13の内面131に着脱自在に設けてもよい。これら一体形成層41、積層型カバー材43、及び成形型カバー材46の詳細について、合成樹脂材としてポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂を採用する場合を事例に挙げ、以下に説明する。
【0029】
≪被覆層を一体形成する場合≫
図1(b)は、荷箱13の内面131を被覆する被覆層として一体形成層41を採用し、難固着構造40を構成した場合を例示している。
【0030】
一体形成層41は、前述の複合樹脂を含む吹付け材を荷箱13の内面131に吹付けたのち、常温で乾燥させることにより硬化させたものである。吹付け材は、複合樹脂のみでもよいし、他の材料を含有させてもよい。また、一体形成層41の膜厚は、300μm以上、好ましくは500μm以上である。その一方で、経済性等を考慮するとその上限は3mm以下とするのが好ましい。膜厚は、上記のいずれの合成樹脂材を採用した場合も同様である。
【0031】
一体形成層41を設ける場合、複合樹脂を含む吹付け材を内面131に直接吹き付けてもよいし、あらかじめ内面131にライニング層42を形成しておいてもよい。ライニング層42は、荷箱13の内面131に溶融したふっ素樹脂を加熱炉でライニングすることにより形成されている。
【0032】
≪被覆層を着脱自在に形成する場合(その1)≫
図2(a)は、荷箱13の内面131を被覆する被覆層として積層型カバー材43を採用し、難固着構造40を構成した場合を例示している。
【0033】
積層型カバー材43は、カバー材本体45とその表面に積層した樹脂層44とにより構成されている。カバー材本体45は、荷箱13の内面131を覆うことの可能な形状に成形され、また、荷箱13に対して着脱自在な材料及び構造であれば、いずれを採用してもよい。
【0034】
樹脂層44は、図1(b)を参照して説明した一体形成層41と同様で、カバー材本体45の表面に前述の複合樹脂を含む吹付け材を吹付けたのち、常温で乾燥させることにより硬化させたものである。その膜厚も一体形成層41と同様で、300μm以上、好ましくは500μm以上である。また、経済性等を考慮するとその上限は3mm以下とするのが好ましい。
【0035】
≪被覆層を着脱自在に形成する場合(その2)≫
図2(b)は、荷箱13の内面131を被覆する被覆層として成形型カバー材46を採用し、難固着構造40を構成した場合を例示している。
【0036】
成形型カバー材46は、ポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂を含む材料を原料に成形した立体構造物である。原料は、複合樹脂のみでもよいし、他の材料を含有させてもよい。また、製作方法は例えば、型枠などに吹付けて硬化させてもよいし、反応射出成型により製作してもよく、なんら限定されるものではない。
【0037】
このような成形型カバー材46は、表面を平滑面に形成してもよいし、図2(c)で示すように、細かな凸部47を密に設けてもよい。密に設ける凸部47は、図2(b)を参照して説明した積層型カバー材43に設けてもよい。この場合には、カバー材本体45の表面に凸部47を密に設けたうえで、この凸部47を被覆するように樹脂層44を形成すると良い。
【0038】
また、上記の積層型カバー材43及び成形型カバー材46は、荷箱13の内面131にそのまま装着してもよいし、着脱自在に固定してもよい。固定する場合は、例えば、接着テープなどの接着具を設ける、もしくは接着剤を塗布するなどして、接着固定してもよいし、クリップなどの固定治具を利用して着脱自在に固定してもよい。
【0039】
上記の一体形成層41、積層型カバー材43もしくは成形型カバー材46を備えた難固着構造40を手押し一輪車10の荷箱13に設けると、コンクリートの現場打設に係る一連の作業を簡略化することが可能となる。
【0040】
つまり、手押し一輪車10の荷箱13にフレッシュなコンクリートを積み込んで打設エリアまで運搬したのち荷箱13を傾けると、コンクリートの大部分は難固着構造40の表面を流動して打設エリアに向けてスムーズに落下する。したがって、荷箱13からコンクリートを掻き落とすなどの煩雑な作業を低減できる。また、コンクリートが流れ落ちる速度(打設)も難固着構造40を設けない場合と比較して向上するため、打設作業の迅速化に寄与できる。
【0041】
難固着構造40には、荷箱13を傾けても流下しなかったコンクリートが多少固着する。しかし、コンクリートは薄層状に固着し、また、固着面積も小さいことから、その量は難固着構造40を設けない場合と比較して十分少ない。このため、薄層状に固着したコンクリートを乾燥させることで容易に剥ぎ取ることができ、乾燥する前の状態であっても、容易に除去できる。
【0042】
これにより、従来より実施していた荷箱13に固着したコンクリートの水洗浄などの清掃作業を大幅に簡略化できる。また、洗浄後に発生する汚染水の発生を抑制できるとともに、これに伴って、高アルカリ水であることに起因して必要となる汚染水の中和作業も低減できるなど、清掃作業の省力化に大きく寄与することが可能となる。
【0043】
さらに、積層型カバー材43もしくは成形型カバー材46を採用して難固着構造40を構成した場合には、これらを装着した手押し一輪車10でフレッシュなコンクリートの運搬や打設作業を実施したのち、取り外して廃棄できる。こうすると、荷箱13を清掃する作業自体を省略でき、現場打設の作業性が向上する。また、荷箱13に対するコンクリートの固着残りも抑制できるため、手押し一輪車10の使用期間を長期化することも可能となる。さらに、新たなカバー材に取り替えるなどの作業も容易に実施できる。
【0044】
加えて、図2(c)で示すように、細かな凸部47を密に設けてコンクリートと難固着構造40との接触を最小限に抑えると、より一層コンクリートの固着量を低減でき、乾燥したのちの剥ぎ取り作業がさらに容易となる。
【0045】
≪≪適用可能なコンクリート≫≫
上記の難固着構造40は、セメント系固化材を含有する混練物に普通コンクリートだけでなく、高粘性のコンクリートであっても落下しやすいために打設しやすく、薄層上に固着し、乾燥後に容易に剥ぎ取ることができる。
【0046】
したがって、例えば、近年需要の高まっている高強度コンクリートや超高強度繊維補強コンクリートなどの打設作業に好適である。超高強度繊維補強コンクリートは、超高強度モルタルと高強度鋼繊維で構成され、150N/mm2以上の圧縮強度と、5N/mm2以上の引張強度を持つ材料である。
【0047】
また、高強度コンクリートは、設計基準強度が36N/mm2以上を超え(「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事」より)、かつ水セメント比が40%以下のコンクリートである。なお、使用するセメントは、専用のプレミックス粉体でもよい。このとき、プレミックス粉体には、セメント、混和材、不活性粉体を含む。
【0048】
≪≪難固着構造40の固着実験≫≫
以下に、超高強度繊維補強コンクリートを採用して実施した、難固着構造40に固着するコンクリートの状態を確認する実験の結果を示す。
【0049】
実験に使用した超高強度繊維補強コンクリートには、「スリムクリート」(商標登録:株式会社大林組)を採用した。その配合は、図3(a)で示すとおりであり、水粉体比が12.6%で鋼繊維を157kg/m含んでいる。また、難固着構造40の試験体は、図3(b)及び図4で示すように、実施例1及び実施例2と比較例1及び比較例2の4種類を準備した。
【0050】
実施例1の試験体は、ポリウレア樹脂とふっ素樹脂よりなる複合樹脂を板状に成形した複合樹脂板を、鋼板の表面に張り付けたものである。複合樹脂板の表面には、図2(c)を参照して説明した細かな凸部47と同様の機能を有する凸部が、密に形成されている。また、実施例2の試験体は、実施例1の試験体と同様に、複合樹脂板を鋼板の表面に張り付けたものであるが、複合樹脂板の表面は、平滑な光沢面に形成されている。
【0051】
一方、比較例1の試験体は、落書き防止用塗料を、鋼板の表面に塗布したものである。落書き防止用塗料としては、特殊シリコーン変性ふっ素樹脂を含む塗料として知られている「マジックアート」(商標登録:大日本塗料株式会社)を採用した。そして、比較例2の試験体は、黒皮(ミルスケール)を、鋼板の表面に形成したものである。黒皮(ミルスケール)は、熱間圧延加工で作られた鉄鋼材料の酸化皮膜である。
【0052】
実験は、上記のとおり鋼板の表面を加工した4つの試験体を、図3(b)で示すように、やや傾斜する立設姿勢で固定配置し実施した。実験の具体的な手順は、次のとおりである。
【0053】
まず、図3(a)の配合で混練りしたフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを200mlのデスカップの上縁まで入れ、実施例1、2及び比較例1、2の試験体に対して、加工面の上方から流下させた(1回目)。図4に、各加工面を流下して落下した流出量を示す。
【0054】
次に、PTFE製へらで4種の試験体各々の加工面に固着した超高強度繊維補強コンクリートを除去し、再度、同量の超高強度繊維補強コンクリートを、加工面の上方から流下させた(2回目)。図5の写真は、2回目に超高強度繊維補強コンクリートを流下させたのちの状態を示している。
【0055】
図5を見ると、実施例1の細かな凸部を有する複合樹脂板では、超高強度繊維補強コンクリートが広がるように流下した様子が見て取れる。流れ落ちた量も、4つの試験体の中で最も多かった。実施例2の光沢面に形成された複合樹脂板では、実施例1に劣るものの、超高強度繊維補強コンクリートがスムーズに流下した。
【0056】
超高強度繊維補強コンクリートが流れ落ちた量は、これらに次いで、比較例2の黒皮(ミルスケール)が多く、比較例1の落書き防止用塗料が最も少なかった。比較例2の黒皮(ミルスケール)は、流れ落ちた量こそ多くはなかったが、流下速度は他の試験体より早かった。
【0057】
こののち、流れ落ちることなく4種の試験体各々の加工面に固着した超高強度繊維補強コンクリートを3週間乾燥させて硬化させ、加工面からの剥がしやすさを評価した。
【0058】
実施例1の細かな凸部を有する複合樹脂板では、乾燥した超高強度繊維補強コンクリートを容易に剥がし取ることができた。これは、密に設けた細かな凸部により、複合樹脂板と超高強度繊維補強コンクリートとの接触を、最小限に抑制できたことに起因する。
【0059】
また、実施例2の光沢面に形成された複合樹脂板では、実施例1に劣るものの、剥がし取ることができた。一方、比較例1の落書き防止用塗料では、乾燥した超高強度繊維補強コンクリートを剥がし取るのに、多大な手間を要した。また、比較例2の黒皮(ミルスケール)では、超高強度繊維補強コンクリートが強固に固着して、剥がし取ることができなかった。
【0060】
上記のとおり、荷箱13の内面131に、非粘着性、低摩擦性及び難接着性の合成樹脂材を含む被覆層を備えた難固着構造40を設けると、高粘性のコンクリートであっても薄層状に固着する。これにより、固着量を低減できるとともに、乾燥させることで容易に剥がし取ることができる。したがって、コンクリート打設から打設後の清掃に至る一連の現場作業の効率化を図ることが可能となる。
【0061】
また、実施例1及び実施例2で採用した複合樹脂板のL*a*b*色空間を図4に示すが、いずれも鮮やかな黄色を呈する。これは、ポリウレア樹脂が含まれることに起因した発色であり、荷箱13に被覆層40を設けた難固着構造が設けられていることの目印となる。
【0062】
本発明の混練物の難固着構造及び混練物打設器具は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0063】
本実施の形態では、混練物打設器具の事例として手押し一輪車10を挙げたが、これに限定するものではない。例えば、図6(a)に示すようなホッパ20であれば、投入されたコンクリートが接触する内面21を一体形成層41で被覆し、難固着構造40を構成してもよい。
【0064】
図6(b)に示すレディミクスト車30であれば、コンクリートが流下するシューター31の表面311を一体形成層41で被覆し、難固着構造40を構成すると良い。その他、コンクリート型枠やシャベル、ケレン棒やベッセルなど、打設作業で使用する混練物打設器具のコンクリート接触面いずれにも採用可能である。
【0065】
また、難固着構造40を構成する被覆層に用いる合成樹脂材も、ポリウレア樹脂とふっ素樹脂とを複合化した複合樹脂に限定するものではない。非粘着性、低摩擦性及び難接着性の合成樹脂材の事例として挙げた、前述のいずれの合成樹脂材も採用することが可能である。
【0066】
例えば、合成樹脂材としてふっ素樹脂を採用する場合には、被覆層を次のように形成すると良い。具体的には、ふっ素樹脂シートで図1(b)の一体形成層41を形成する場合、荷箱13の内面131を清掃や目粗しなどの下地処理を施したうえで、一体形成層(裏面に金属アルカリ処理による炭素化を施したふっ素樹脂シート)41の裏面へ接着剤42を塗布し、荷箱13の内面131へ固定する。また、ふっ素樹脂で図2(a)で示すような積層型カバー材43を形成する場合、樹脂層44にふっ素樹脂を採用し、カバー材本体45の部分に、接着剤あるいは粘着剤をあらかじめ付与しておく。こうして作成した粘着剤あるいは接着剤付きふっ素樹脂シートを、積層型カバー材43として採用する。
【0067】
なお、複合樹脂を用いると、例えば、衝撃等の外力が作用しやすい場所に被覆層を形成する場合には、耐摩耗性などに高い能力を発揮するポリウレア樹脂の割合を増大させるなど、使用環境に応じて耐久性を適宜調整し、難固着構造40を構成することが可能となる。
【0068】
さらに、本実施の形態では、セメント系固化材を含有する混練物としてコンクリートを事例に挙げたが、これに限定するものではなく、モルタルや地盤改良材などであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 手押し一輪車(混練物打設器具)
11 車輪
12 架台
13 荷箱
131 内面(接触面)
20 ホッパ(混練物打設器具)
21 内面(接触面)
30 レディミクスト車
31 シューター(混練物打設器具)
311 表面(接触面)
40 難固着構造
41 一体形成層(被覆層)
42 ライニング層
43 積層型カバー材(被覆層)
44 樹脂層
45 カバー材本体
46 成形型カバー材(被覆層)
47 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6