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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032201
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】液体吐出装置、及び、駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240305BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240305BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 305
B41J2/14 607
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135727
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片倉 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】村山 寿郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB01
2C056EB07
2C056EB08
2C056EB29
2C056EB34
2C056EC01
2C056EC07
2C056EC42
2C056FA04
2C057AF21
2C057AG44
2C057AL16
2C057AL40
2C057AM17
2C057AM21
2C057AM22
2C057DD09
(57)【要約】
【課題】残留振動の計測精度を維持する場合であっても、吐出異常が発生する可能性を小さくすること。
【解決手段】液体吐出装置は、液体を吐出するノズルと、ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、駆動信号を生成する駆動信号生成部と、圧電素子が圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、を備え、駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して圧力室を膨張させる膨張要素と、膨張要素に続いて第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、第1の電位から第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、吐出部の固有振動周期の長さ以上であり、検出部は、膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において圧力室内に生じる残留振動を検出する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、
前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記圧電素子が圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、
を備え、
前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、
前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記吐出部の固有振動周期の長さ以上であり、
前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記固有振動周期の長さの2倍以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記固有振動周期の長さの1.3倍から前記固有振動周期の長さの1.7倍までに含まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記駆動信号生成部は、第4の電位と第5の電位との間で電位変化し、前記ノズルから液体を吐出させる吐出用波形を有する駆動信号を生成し、
前記第1の電位と前記第2の電位との電位差は、前記第4の電位と前記第5の電位との電位差以上である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記検出期間の長さは、前記固有振動周期の長さの2倍以上である、
ことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記検出用波形は、前記膨張電位維持要素に続いて前記第2の電位から第3の電位に電位変化する復帰要素を更に含み、
前記復帰要素の前記第2の電位から前記第3の電位までの単位期間当たりの電位変化量は、前記膨張要素の前記第1の電位から前記第2の電位までの単位期間当たりの電位変化量より小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第2の電位から前記第3の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記圧力室に液体が供給される供給口の粘性抵抗に前記圧力室の復帰容量を乗じた値を、前記ノズルの液面の耐圧で除した値より大きい、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、
前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記圧電素子が前記圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、
を備える液体吐出装置の駆動方法であって、
前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、
前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出し、
前記圧電素子に前記膨張要素が供給された後、前記ノズル内の液面は、前記吐出部の固有振動周期に応じて振動し、
前記膨張要素の終了から前記固有振動周期の2倍の期間が経過するまで、前記ノズル内の液面が前記ノズル内で振動する、
ことを特徴とする駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子を有する吐出部を有し、ノズルから液体を媒体に吐出することにより、媒体に画像を形成する液体吐出装置が開示されている。液体吐出装置においては、例えば、液体に含まれる水分の蒸発等に起因した液体の増粘が問題となる。液体の粘度を推測するために、例えば、特許文献1には、圧電素子が圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に圧力室内に生じる残留振動に基づいて、吐出部における液体の吐出状態を判定することで、吐出異常による画像の質の低下を予防する液体吐出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-47529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、残留振動を精度良く計測するために、ノズルの液面を大きく振動させると、残留振動が生じた後に吐出異常が発生する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好適な態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子が圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、を備え、前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記吐出部の固有振動周期の長さ以上であり、前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出する、ことを特徴とする。
【0006】
本発明の好適な態様に係る駆動方法は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子が前記圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、を備える液体吐出装置の駆動方法であって、前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出し、前記圧電素子に前記膨張要素が供給された後、前記ノズル内の液面は、前記吐出部の固有振動周期に応じて振動し、前記膨張要素の終了から前記固有振動周期の2倍の期間が経過するまで、前記ノズル内の液面が前記ノズル内で振動する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示す機能ブロック図。
図2】インクジェットプリンター1を例示する模式図。
図3】吐出部Dを含むように記録ヘッドHDを切断した、記録ヘッドHDの概略的な一部断面図。
図4】吐出部Dにおけるインクの吐出動作の一例を説明するための説明図。
図5】吐出部Dにおけるインクの吐出動作の一例を説明するための説明図。
図6】吐出部Dにおけるインクの吐出動作の一例を説明するための説明図。
図7】液体吐出ヘッドHUの構成の一例を示すブロック図。
図8】インクジェットプリンター1の単位制御期間Tuにおける動作を説明するためのタイミングチャートを示す図。
図9】接続状態指定信号SLa[k]、SLb[k]、及び、SLs[k]の生成を説明するための説明図。
図10】圧力室320を急速に膨張させた場合のメニスカスMNの振動を説明するための図。
図11】時刻ts3におけるメニスカスMNの状態を示す図。
図12】時刻ts4におけるメニスカスMNの状態を示す図。
図13】第1実施形態におけるメニスカスMNの振動を説明するための図。
図14】時刻ts8におけるメニスカスMNの状態を示す図。
図15】残留振動の振幅の特性を説明するための図。
図16】メニスカスMNの突出量の特性を説明するための図。
図17】第1変形例における駆動信号ComA-Bを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
1.第1実施形態
本実施形態では、インクを吐出して記録用紙PPに画像を形成するインクジェットプリンター1を例示して、液体吐出装置を説明する。インクジェットプリンター1は、「液体吐出装置」の一例である。インクは、「液体」の一例である。記録用紙PPは、「媒体」の一例である。
【0010】
1-1.インクジェットプリンター1の概要
図1及び図2を参照しつつ、本実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示す機能ブロック図である。また、図2は、インクジェットプリンター1を例示する模式図である。
【0011】
インクジェットプリンター1には、パーソナルコンピューターやデジタルカメラ等のホストコンピューターから、インクジェットプリンター1が形成すべき画像を示す印刷データImgと、インクジェットプリンター1が形成すべき画像の印刷部数を示す情報と、が供給される。インクジェットプリンター1は、ホストコンピューターから供給される印刷データImgが示す画像を記録用紙PPに形成する印刷処理を実行する。
【0012】
図1に例示するように、インクジェットプリンター1は、インクを吐出する吐出部Dが設けられた液体吐出ヘッドHUと、インクジェットプリンター1の各部の動作を制御する制御部6と、吐出部Dを駆動するための駆動信号Comを生成する駆動信号生成回路2と、インクジェットプリンター1の制御プログラム及びその他の情報を記憶する記憶部5と、吐出部Dに生じる残留振動の検出結果を示す吐出情報Sttを生成する生成回路9と、記録用紙PPを搬送する搬送機構7と、液体吐出ヘッドHUを移動させる移動機構8と、を備える。なお、駆動信号生成回路2が、「駆動信号生成部」の一例である。
【0013】
本実施形態において、液体吐出ヘッドHUは、K個の吐出部Dを具備する記録ヘッドHDと、切替回路10と、検出回路20と、を備える。本実施形態において、Kは、2以上の整数である。但し、Kは1でもよい。なお、検出回路20は、「検出部」の一例である。
【0014】
以下では、記録ヘッドHDに設けられたK個の吐出部Dの各々を区別するために、順番に、1番目、2番目、…、K番目と称することがある。また、k番目の吐出部Dを、吐出部D[k]と称する場合がある。変数kは、1以上K以下を満たす整数である。また、インクジェットプリンター1の構成要素や信号等が、吐出部D[k]に対応するものである場合には、当該構成要素や信号等を表すための符号に、吐出部D[k]に対応していることを示す添え字[k]を付して表現することがある。
【0015】
切替回路10は、駆動信号生成回路2から出力される駆動信号Comを各吐出部Dに供給するか否かを切り替える。また、切替回路10は、各吐出部Dと検出回路20とを電気的に接続するか否かを切り替える。
【0016】
検出回路20は、1からKまでの任意のkについて、駆動信号Comにより駆動された吐出部D[k]から検出した検出信号Vout[k]に基づいて、吐出部D[k]が駆動された後に当該吐出部D[k]の後述する圧力室320内に生じる残留振動を示す残留振動信号NES[k]を生成する。
【0017】
生成回路9は、1からKまでの任意のkについて、残留振動信号NES[k]に基づいて残留振動の検出結果を示す吐出情報Stt[k]を生成する。例えば、吐出情報Stt[k]は、残留振動の振幅の大きさを示す値、残留振動の周期を示す値、及び、残留振動の減衰比のうち1つの値又は複数の値である。なお、以下では、生成回路9による残留振動の検出対象とされる吐出部Dを、検出対象吐出部D-Hと称する場合がある。また、生成回路9が実行する吐出情報Stt[k]の生成と、生成回路9が吐出情報Stt[k]を生成するための準備処理とを含む、インクジェットプリンター1において実行される一連の処理を、吐出情報生成処理と称する。
【0018】
本実施形態では、インクジェットプリンター1が、シリアルプリンターである場合を想定する。具体的には、インクジェットプリンター1は、図2に示すように、副走査方向に記録用紙PPを搬送し主走査方向に液体吐出ヘッドHUを移動させつつ、吐出部Dからインクを吐出することで、印刷処理を実行する。本実施形態では、図2に示すように、X1方向及びX1方向に反対方向のX2方向が主走査方向であり、Y1方向が副走査方向であることとする。更に、X軸方向及びY軸方向に垂直な方向であり、且つ、インクの吐出方向である方向を、Z1方向と称する。
【0019】
図3を参照しつつ、記録ヘッドHDと、記録ヘッドHDに設けられる吐出部Dについて説明する。
【0020】
図3は、吐出部Dを含むように記録ヘッドHDを切断した、記録ヘッドHDの概略的な一部断面図である。
図3に示すように、吐出部Dは、圧電素子PZと、内部にインクが収容される圧力室320と、圧力室320に連通するノズルNと、振動板310と、を備える。吐出部Dは、圧電素子PZに駆動信号Comが供給されて当該圧電素子PZが駆動信号Comにより駆動されることにより、圧力室320内のインクをノズルNから吐出させる。圧力室320は、圧力室基板340と、ノズルNが形成されたノズルプレート330と、振動板310と、により区画される空間である。ノズルNは、ノズルプレート330のZ1方向を向く面であるノズル面FNに設けられる。圧力室320は、インク供給口360を介してリザーバ350と連通している。リザーバ350は、インク取入口370を介して、当該吐出部Dに対応する液体容器14と連通している。
【0021】
本実施形態では、圧電素子PZとして、図3に示すようなユニモルフ型を採用する。なお、圧電素子PZは、ユニモルフ型に限らず、バイモルフ型や積層型等を採用してもよい。
【0022】
圧電素子PZは、共通電極Quと、個別電極Qdと、共通電極Qu及び個別電極Qdの間に設けられた圧電体Qmと、を有する。共通電極Quは、圧電体QmのZ2方向の面に設けられる。共通電極Quは、いわゆる上部電極である。個別電極Qdは、圧電体QmのZ1方向を向く面に設けられる。個別電極Qdは、いわゆる下部電極である。圧電素子PZは、駆動信号Comの電位変化に応じて変形する受動素子である。共通電極Quに定電位信号Vbsが供給され、個別電極Qdに駆動信号Comが供給されることで、共通電極Qu及び個別電極Qdの間に電圧が印加されると、当該印加された電圧に応じて圧電体QmがZ軸に沿う方向と直交する方向に変位する。
【0023】
圧電体Qmは、例えば、電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜、いわゆるペロブスカイト型結晶から形成される。具体的には、圧電体Qmの材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電性圧電材料、又は、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電性圧電材料に対して、酸化ニオブ、酸化ニッケル、若しくは、酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を採用することができる。上述した圧電材料をスパッタリング等の公知の成膜技術により形成し、フォトリソグラフィ等の公知の加工技術により当該圧電材料を高温焼成することにより、圧電体Qmを形成することが可能である。
【0024】
図4図5、及び、図6は、吐出部Dにおけるインクの吐出動作の一例を説明するための説明図である。図5に例示するように、制御部6は、吐出部Dが備える圧電素子PZに対して供給される駆動信号Comの電位を変化させることで、当該圧電素子PZがZ2方向に変位するような歪を発生させ、当該吐出部Dの振動板310をZ2方向に撓ませる。これにより、図5に例示する状態のように、図4に例示する状態と比較して、当該吐出部Dの圧力室320が膨張する。図5に示すように、圧力室320が膨張した結果、ノズルNの液面であるメニスカスMNがZ2方向に移動する。
【0025】
次に、制御部6は、駆動信号Comが示す電位を変化させることで、当該圧電素子PZがZ1方向に変位するような歪を発生させ、当該吐出部Dの振動板310をZ1方向に撓ませる。これにより、図6に例示する状態のように、圧力室320の容積が急激に収縮してメニスカスMNがZ1方向に移動し、圧力室320を満たすインクの一部が、この圧力室320に連通しているノズルNからインク滴として吐出される。圧電素子PZが駆動信号Comにより駆動された後、吐出部Dには残留振動が生じる。
【0026】
説明を図1及び図2に戻す。搬送機構7は、記録用紙PPをY1方向に搬送する。具体的には、搬送機構7は、回転軸がX軸に沿う方向に平行な不図示の搬送ローラーと、搬送ローラーを制御部6による制御のもとで回転させる不図示のモーターとを具備する。
【0027】
移動機構8は、制御部6による制御のもとで液体吐出ヘッドHUをX軸に沿って往復させる。図2に例示する通り、移動機構8は、液体吐出ヘッドHUを収容する略箱型の搬送体82と、搬送体82が固定された無端ベルト81とを備える。
【0028】
記憶部5は、RAM等の揮発性のメモリーと、ROM、EEPROM、又は、PROM等の不揮発性メモリーと、を含んで構成され、ホストコンピューターから供給される印刷データImg、及び、インクジェットプリンター1の制御プログラム等の各種情報を記憶する。RAMは、Random Access Memoryの略称である。ROMは、Read Only Memoryの略称である。EEPROMは、Electrically Erasable Programmable Read-Only Memoryの略称である。PROMは、Programmable ROMの略称である。
【0029】
制御部6は、CPUを含んで構成される。CPUは、Central Processing Unitの略である。但し、制御部6は、CPUの代わりに、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを備えていてもよい。FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略である。
【0030】
制御部6に設けられたCPUが記憶部5に記憶されている制御プログラムに従って動作することにより、インクジェットプリンター1が印刷処理を実行する。
【0031】
制御部6は、液体吐出ヘッドHUを制御するための印刷信号SIと、駆動信号生成回路2を制御するための波形指定信号dComと、搬送機構7を制御するための信号と、移動機構8を制御するための信号とを生成する。
ここで、波形指定信号dComは、駆動信号Comの波形を規定するデジタルの信号である。駆動信号Comとは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。駆動信号Comの波形は、期間の経過に応じて電位が変化する。駆動信号生成回路2は、DA変換回路を含み、波形指定信号dComが規定する波形を有する駆動信号Comを生成する。なお、本実施形態では、駆動信号Comが、駆動信号Com-Aと駆動信号Com-Bとを含む場合を想定する。
【0032】
また、印刷信号SIは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号Comを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する。ここで、吐出部Dの動作の種類の指定とは、例えば、吐出部Dを駆動するか否かを指定したり、吐出部Dを駆動した際に当該吐出部Dからインクが吐出されるか否かを指定したりすることである。
【0033】
印刷処理が実行される場合、制御部6は、まず、ホストコンピューターから供給される印刷データImgを、記憶部5に記憶させる。次に、制御部6は、記憶部5に記憶されている印刷データImg等の各種データに基づいて、印刷信号SI、波形指定信号dCom、搬送機構7を制御するための信号、及び、移動機構8を制御するための信号等の各種制御信号を生成する。そして、制御部6は、各種制御信号と、記憶部5に記憶されている各種データに基づいて、液体吐出ヘッドHUに対する記録用紙PPの相対位置を変化させるように搬送機構7及び移動機構8を制御しつつ、吐出部Dが駆動されるように液体吐出ヘッドHUを制御する。これにより、制御部6は、吐出部Dからのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整し、印刷データImgに対応する画像を記録用紙PPに形成する印刷処理の実行を制御する。
【0034】
吐出情報生成処理において、インクジェットプリンター1は、以下に示す、第1の処理、第2の処理、第3の処理、第4の処理、及び、第5の処理という一連の処理を実行する。第1の処理において、制御部6が、液体吐出ヘッドHUに設けられたK個の吐出部Dの中から検出対象吐出部D-Hを選択する。第2の処理において、制御部6は、検出対象吐出部D-Hを駆動させることにより、検出対象吐出部D-Hに残留振動を発生させる。第3の処理において、検出回路20が、検出対象吐出部D-Hから検出された検出信号Voutに基づいて残留振動信号NESを生成する。第4の処理において、生成回路9が、残留振動信号NESに基づいて吐出情報Sttを生成する。第5の処理において、制御部6は、吐出情報Sttを記憶部5に記憶させる。
【0035】
1-2.液体吐出ヘッドHUの構成
以下、図7を参照しつつ、液体吐出ヘッドHUの構成について説明する。
【0036】
図7は、液体吐出ヘッドHUの構成の一例を示すブロック図である。上述のように、液体吐出ヘッドHUは、記録ヘッドHDと、切替回路10と、検出回路20と、を備える。また、液体吐出ヘッドHUは、駆動信号生成回路2から駆動信号Com-Aが供給される内部配線LHaと、駆動信号生成回路2から駆動信号Com-Bが供給される内部配線LHbと、吐出部Dから検出される検出信号Voutを検出回路20に供給するための内部配線LHsと、定電位信号Vbsが供給される内部配線LHdと、を備える。内部配線LHdは、共通電極Quに電気的に接続される。
【0037】
図7に示すように、切替回路10は、K個のスイッチSWa[1]~SWa[K]と、K個のスイッチSWb[1]~SWb[K]と、K個のスイッチSWs[1]~SWs[K]と、各スイッチの接続状態を指定する接続状態指定回路11と、を備える。なお、各スイッチとしては、例えば、トランスミッションゲートを採用することができる。
接続状態指定回路11は、制御部6から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、及び、期間指定信号Tsigの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[1]~SWa[K]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLa[1]~SLa[K]と、スイッチSWb[1]~SWb[K]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLb[1]~SLb[K]と、スイッチSWs[1]~SWs[K]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLs[1]~SLs[K]と、を生成する。
1からKまでの任意のkについて、スイッチSWa[k]は、接続状態指定信号SLa[k]に応じて、内部配線LHaと、吐出部D[k]に設けられた圧電素子PZ[k]の個別電極Qd[k]と、の導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWa[k]は、接続状態指定信号SLa[k]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
1からKまでの任意のkについて、スイッチSWb[k]は、接続状態指定信号SLb[k]に応じて、内部配線LHbと、吐出部D[k]に設けられた圧電素子PZ[k]の個別電極Qd[k]との、導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWb[k]は、接続状態指定信号SLb[k]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
1からKまでの任意のkについて、スイッチSWs[k]は、接続状態指定信号SLs[k]に応じて、内部配線LHsと、吐出部D[k]に設けられた圧電素子PZ[k]の個別電極Qd[k]と、の導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWs[k]は、接続状態指定信号SLs[k]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
【0038】
検出回路20には、検出対象吐出部D-Hとして駆動された吐出部D[k]の圧電素子PZ[k]から出力される検出信号Vout[k]が、内部配線LHsを介して供給される。そして、検出回路20は、当該検出信号Vout[k]に基づいて残留振動信号NESを生成する。
【0039】
1-3.液体吐出ヘッドHUの動作
以下、図8及び図9を参照しつつ、液体吐出ヘッドHUの動作について説明する。
【0040】
本実施形態において、インクジェットプリンター1の動作期間は、1又は複数の単位制御期間Tuを含む。本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、各単位制御期間Tuにおいて、印刷処理における各吐出部Dの駆動と、吐出情報生成処理の準備処理における検出対象吐出部D-Hの駆動及び残留振動の検出と、の一方を実行する場合を想定する。但し、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、各単位制御期間Tuにおいて、印刷処理における各吐出部Dの駆動と、吐出情報生成処理の準備処理における検出対象吐出部D-Hの駆動及び残留振動の検出と、の両方を実行可能であってもよい。
なお、一般的に、インクジェットプリンター1は、連続的又は間欠的な複数の単位制御期間Tuに亘り印刷処理を繰り返し実行して各吐出部Dから1又は複数回ずつインクを吐出させることで、印刷データImgが示す画像を形成する。
【0041】
図8は、インクジェットプリンター1の単位制御期間Tuにおける動作を説明するためのタイミングチャートである。
図8に示すように、制御部6は、パルスPlsLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御部6は、パルスPlsLの立ち上がりから次のパルスPlsLの立ち上がりまでの期間として、単位制御期間Tuを規定する。
印刷信号SIは、各単位制御期間Tuにおける吐出部D[1]~D[K]の駆動の態様を指定する個別指定信号Sd[1]~Sd[K]を含む。そして、制御部6は、単位制御期間Tuにおいて印刷処理及び吐出情報生成処理の少なくとも一方が実行される場合、図8に示すように、当該単位制御期間Tuの開始に先立って、個別指定信号Sd[1]~Sd[K]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路11に供給する。この場合、接続状態指定回路11は、1からKまでの任意のkについて、当該単位制御期間Tuにおいて、個別指定信号Sd[k]に基づいて、接続状態指定信号SLa[k]、SLb[k]、SLs[k]を生成する。
【0042】
なお、本実施形態に係る個別指定信号Sd[k]は、各単位制御期間Tuにおいて、吐出部D[k]に対して、インクの吐出、インクの非吐出、及び、吐出情報生成処理における検出対象としての駆動、の3つの駆動態様のうち、いずれか一つの駆動態様を指定する信号である。
【0043】
図8に示すように、駆動信号生成回路2は、単位制御期間Tuに設けられた吐出用波形PXを有する駆動信号Com-Aを出力する。吐出用波形PXは、中間電位V0を維持する要素と、中間電位V0から最低電位VLXまで電位を降下させる要素と、最低電位VLXを維持する要素と、最低電位VLXから最高電位VHXまで電位を上昇させる要素と、最高電位VHXを維持する要素と、最高電位VHXから中間電位V0まで電位を降下させる要素とを有する。吐出用波形PXの電位の振幅は、最低電位VLXから最高電位VHXまでの電位差ΔVhである。電位差ΔVhは、最高電位VHXから最低電位VLXを減じた値の絶対値である。なお、駆動信号Com-Aが、「吐出用波形を有する駆動信号」の一例である。最高電位VHXが、「第4の電位」の一例である。最低電位VLXは、「第5の電位」の一例である。
【0044】
そして、1からKまでの任意のkについて、個別指定信号Sd[k]が吐出部D[k]に対して、インクの吐出を指定する場合、接続状態指定回路11は、接続状態指定信号SLa[k]を、単位制御期間Tuにおいてハイレベルに設定し、接続状態指定信号SLb[k]及びSLs[k]を、単位制御期間Tuにおいてローレベルに設定する。これにより、吐出部D[k]は、単位制御期間Tuにおいてインクを吐出し、記録用紙PPにはドットが形成される。
また、個別指定信号Sd[k]が吐出部D[k]に対して、インクの非吐出を指定する場合、接続状態指定回路11は、接続状態指定信号SLa[k]とSLb[k]とSLs[k]とを単位制御期間Tuにおいてローレベルに設定する。この場合、吐出部D[k]は、単位制御期間Tuにおいて、インクを吐出せず、記録用紙PPにドットを形成しない。
【0045】
図8に示すように、駆動信号生成回路2は、単位制御期間Tuに設けられた検出用波形PSを有する駆動信号Com-Bを出力する。検出用波形PSは、中間電位V0から膨張電位VLSまで電位変化して圧力室320を膨張させる膨張要素DC1と、膨張要素DC1に続いて膨張電位VLSを維持する膨張電位維持要素DC2と、膨張電位維持要素DC2に続いて膨張電位VLSから中間電位V0に電位変化する復帰要素DC3とを有する。図8に示すように、膨張電位VLSは、中間電位V0よりも低い。検出用波形PSの電位の振幅は、膨張電位VLSから中間電位V0までの電位差ΔVsである。電位差ΔVsは、中間電位V0から膨張電位VLSを減じた値の絶対値である。なお、駆動信号Com-Bは、「検出用波形を有する駆動信号」の一例である。中間電位V0が、「第1の電位」及び「第3の電位」の一例である。膨張電位VLSは、「第2の電位」の一例である。
【0046】
また、制御部6は、パルスPlsT1及びパルスPlsT2を有する期間指定信号Tsigを出力する。これにより、制御部6は、単位制御期間Tuを、パルスPlsLの開始からパルスPlsT1の開始までの制御期間TSS1と、パルスPlsT1の開始からパルスPlsT2の開始までの制御期間TSS2と、パルスPlsT2の開始から次のパルスPlsLの開始までの制御期間TSS3と、に区分する。図8に示すように、制御期間TSS1は膨張要素DC1の期間TD1を含み、制御期間TSS3は復帰要素DC3の期間TD3を含む。制御期間TSS2は、膨張電位維持要素DC2の期間TD2に含まれる。なお、制御期間TSS2が、「検出期間」の一例である。
【0047】
そして、個別指定信号Sd[k]が吐出部D[k]を、検出対象吐出部D-Hとして指定する場合、接続状態指定回路11は、接続状態指定信号SLa[k]を、単位制御期間Tuにおいてローレベルに設定し、接続状態指定信号SLb[k]を、制御期間TSS1及びTSS3においてハイレベルに、制御期間TSS2においてローレベルに、それぞれ設定し、接続状態指定信号SLs[k]を、制御期間TSS1及びTSS3においてローレベルに、制御期間TSS2においてハイレベルに、それぞれ設定する。
この場合、検出対象吐出部D-Hは、制御期間TSS1において検出用波形PSの駆動信号Com-Bにより駆動される。具体的には、検出対象吐出部D-Hが有する圧電素子PZは、制御期間TSS1において検出用波形PSの駆動信号Com-Bにより変位させられる。その結果、検出対象吐出部D-Hにおいて振動が生じ、この振動は、制御期間TSS2においても残留する。そして、制御期間TSS2において、検出対象吐出部D-Hの圧電素子PZが有する個別電極Qdは、検出対象吐出部D-Hにおいて生じている残留振動に応じて電位を変化させる。換言すれば、制御期間TSS2において、検出対象吐出部D-Hの圧電素子PZが有する個別電極Qdは、検出対象吐出部D-Hにおいて生じている残留振動に起因する圧電素子PZの起電力に応じた電位を示す。そして、当該個別電極Qdの電位は、制御期間TSS2において、検出信号Voutとして検出することができる。
【0048】
残留振動を発生させる検出用波形PSによって検出対象吐出部D-Hが駆動した場合、インクを吐出しない程度の波形であることとする。インクを吐出しないことにより、インクの消費量を低減できる。
【0049】
図9は、1からKまでの任意のkについて、接続状態指定信号SLa[k]、SLb[k]、及び、SLs[k]の生成を説明するための説明図である。接続状態指定回路11は、図9に従って、個別指定信号Sd[k]をデコードし、接続状態指定信号SLa[k]、SLb[k]、及び、SLs[k]を生成する。
図9に示すように、本実施形態に係る個別指定信号Sd[k]は、インクの吐出を指定する値(1,0)、インクの非吐出を指定する値(0,0)、又は、検出対象吐出部D-Hとしての駆動を指定する値(1,1)のいずれかの値を示す。そして、接続状態指定回路11は、個別指定信号Sd[k]が(1,0)を示す場合、単位制御期間Tuにおいて接続状態指定信号SLa[k]をハイレベルとし、個別指定信号Sd[k]が(1,1)を示す場合、制御期間TSS1及びTSS3において接続状態指定信号SLb[k]をハイレベルとするとともに、制御期間TSS2において接続状態指定信号SLs[k]をハイレベルとし、以上に該当しない場合において各信号をローレベルとする。
【0050】
検出回路20は、上述のとおり、検出信号Voutに基づいて残留振動信号NESを生成する。残留振動信号NESとは、検出信号Voutの振幅を増幅し、また、検出信号Voutからノイズ成分を除去する等することで、検出信号Voutを生成回路9における処理に適した波形に整形した信号である。検出回路20は、例えば、検出信号Voutを増幅させるための負帰還型のアンプと、検出信号Voutの高域周波数成分を減衰させるためのローパスフィルターと、インピーダンスを変換してローインピーダンスの残留振動信号NESを出力するボルテージフォロアと、を含む構成等であってもよい。
【0051】
1-4.残留振動について
残留振動の振幅を大きくすることにより、残留振動を示す個別電極Qdの電位に対してノイズを相対的に小さくできるため、残留振動の計測精度を向上できる。しかしながら、残留振動を検出する場合にインクの消費を低減するために、残留振動の振幅をある程度確保しつつ、インクが吐出しない程度に圧電素子PZを駆動させた場合、吐出異常が発生する場合があることが、発明者らの実験により得られた。吐出異常が発生する理由について、図10及び図11を用いて説明する。
【0052】
図10は、残留振動の振幅を確保させるため、圧力室320を急速に膨張させた場合のメニスカスMNの振動を説明するための図である。図10に示すグラフg1の横軸は、圧力室320を急速に膨張し始める時刻t0からの経過期間を示す。本実施形態において、圧力室320を急速に膨張させるとは、圧力室320を吐出部Dの固有振動周期Tcより短い期間で膨張させることを意味する。言い換えれば、検出用波形PSの膨張要素DC1の期間TD1の長さが、固有振動周期Tcより短い。時刻t0は、期間TD1の開始時刻である。グラフg1の縦軸は、Z軸に沿う方向におけるメニスカスMNの位置を示す。以下、説明の簡略化のため、Z軸に沿う方向におけるメニスカスMNの位置を、単に、メニスカスMNの位置と記載することがある。メニスカスMNの位置は、Z軸に沿う方向から見てノズルNの重心と重なるインクの液面の位置を意味する。グラフg1の縦軸、及び、後述の図13に示すグラフg2の縦軸では、Z軸に沿う方向におけるノズル面FNの位置を0とし、ノズル面FNに対してZ1方向の位置を正の値とし、ノズル面FNに対してZ2方向の位置を負の値として示してある。
【0053】
グラフg1内に示すメニスカス特性MCh1は、圧力室320を急速に膨張させる場合のメニスカスMNの振動の特性を示す。メニスカス特性MCh1が示すように、期間Ta1においてメニスカスMNがZ2方向に引き込まれる。期間Ta1は、時刻t0から時刻ts0までの期間である。時刻ts0は、約4.0マイクロ秒である。期間Ta1は、固有振動周期Tcの約半分の期間である。時刻ts0におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ2方向に約9.1[μm]離れた位置である。[μm]は、マイクロメートルを意味する。
【0054】
期間Ta1の経過後、Z2方向に引き込まれた反動により、メニスカスMNはZ1方向に突出する。メニスカス特性MCh1が示すように、メニスカスMNは、固有振動周期Tcに応じて振動しながら減衰する。例えば、時刻t0から1周期経過後の時刻ts1から、時刻t0から2周期経過後の時刻ts2までの期間Tc1の長さは、固有振動周期Tcの長さと略同一である。時刻ts1におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNと略同一の位置である。時刻ts2におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ1方向に約2.3[μm]離れた位置である。時刻t0から3周期経過後の時刻ts3におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ1方向に約3.1[μm]離れた位置である。メニスカス特性MCh1が示すように、時刻ts3が、メニスカスMNがノズル面FNに対してZ1方向に最も突出した時刻である。
【0055】
メニスカス特性MCh1が示すように、時刻t0から固有振動周期Tcの約2倍の期間が経過した時刻ts2において、メニスカスMNは、ノズル面FNからZ1方向に突出している。従って、図10の例では、膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間が経過するまで、メニスカスMNは、ノズルN内及び外で振動する。
【0056】
図11は、時刻ts3におけるメニスカスMNの状態を示す図である。図12は、時刻ts3の後の時刻ts4におけるメニスカスMNの状態を示す図である。メニスカスMNがノズル面FNからZ1方向に突出した状態からZ2方向に戻る場合に、ノズルNの縁に微量なインクが残る場合がある。図12の例では、ノズルNのX1方向の縁にインクMKが付着している。ノズルNの縁にインクが付着した状態でインクを吐出すると、ノズルNの縁に付着したインクによってインク滴が引っ張られてしまい、吐出方向がZ1方向から離れてしまうことがある。又は、ノズルNの縁に付着したインクによって気泡をノズルN内に取り込んでしまうことがある。図12の例では、ノズルNのX1方向の縁にインクMKが付着しているため、インク滴が、X1方向にずれて吐出されてしまう。図12では、吐出方向DIを示してある。吐出方向DIは、Y軸に沿う方向を中心軸として、Z1方向がX1方向に回転した方向である。インク滴がずれて吐出されると、記録用紙PP上の本来着弾すべき位置からずれてインク滴が着弾するという吐出異常を引き起こし、記録用紙PP上に形成される画像の質が低下する。また、気泡がノズルN内に取り込んでしまった場合、気泡によってインクが吐出されないといった吐出異常を引き起こす虞がある。
【0057】
そこで、第1実施形態では、残留振動を精度良く計測できる程度に残留振動の振幅を確保した上で、検出用波形PSの膨張要素DC1の期間TD1の長さが、固有振動周期Tc以上とする。これにより、メニスカスMNが、Z2方向に徐々に引き込まれて、ノズルN内で振動するため、メニスカスMNがノズル面FNからZ1方向に突出することを抑制できるので、ノズルNの縁にインクが付着することを低減できる。
【0058】
図13は、第1実施形態におけるメニスカスMNの振動を説明するための図である。図13に示すグラフg2の横軸は、膨張要素DC1の期間TD1の開始時刻t0からの経過期間を示す。グラフg2の縦軸は、メニスカスMNの位置を示す。
【0059】
グラフg2内に示すメニスカス特性MCh2は、第1実施形態におけるメニスカスMNの振動の特性を示す。メニスカス特性MCh2が示すように、期間Ta2においてメニスカスMNがZ2方向に引き込まれる。期間Ta2は、時刻t0から時刻ts5までの期間である。時刻ts5は、約6.8マイクロ秒である。時刻ts5におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ2方向に約20.0[μm]離れた位置である。メニスカス特性MCh2及びメニスカス特性MCh1から理解されるように、第1実施形態におけるメニスカスMNのZ2方向への引き込み量は、図10に示す引き込み量の約2倍である。これは、メニスカス特性MCh2を示す検出用波形PSの膨張要素DC1の電位変化幅である電位差ΔVsが、メニスカス特性MCh1を示す検査用波形の膨張要素の電位変化幅である電位差より大きいためである。しかし、メニスカス特性MCh1は、時刻t0から2周期経過後の時刻ts2においてメニスカスMNがノズル面FNからZ1方向に突出する一方で、メニスカス特性MCh2は、時刻t0から2周期経過後の時刻ts7におけるメニスカスMNの位置はノズル面FNからZ2方向に離れた位置にある。これは、図14を参照して後述するが、メニスカス特性MCh2を示す検出用波形PSの膨張要素DC1の期間TD1の長さを固有振動周期Tcより長くしたことによるものである。更に、図15を参照して後で詳細に説明するが、期間TD1の長さを固有振動周期TCの長さを調整することにより、残留振動の計測に必要な程度に残留振動の振幅の大きさを調整することができる。以上により、第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、期間TD1の長さが固有振動周期Tcより短い態様と比較して、残留振動の計測精度を劣化させることなく、残留振動が生じた後の吐出異常の発生を抑制することができる。
【0060】
期間Ta2の経過後、Z2方向に引き込まれた反動により、メニスカスMNはZ1方向に突出する。メニスカス特性MCh2が示すように、メニスカスMNは、固有振動周期Tcに応じて振動しながら減衰する。例えば、時刻t0よりから1周期経過後の時刻ts6から、時刻t0から2周期経過後の時刻ts7までの期間Tc2の長さは、固有振動周期Tcの長さと略同一である。時刻ts6におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ2方向に約8.5[μm]離れた位置である。時刻ts7におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ2方向に約2.9[μm]離れた位置である。時刻t0から3周期経過後の時刻ts8におけるメニスカスMNの位置は、ノズル面FNからZ1方向に約1.5[μm]離れた位置である。メニスカス特性MCh2が示すように、時刻ts8におけるメニスカスMNが、メニスカスMNがノズル面FNに対してZ1方向に最も突出した状態である。
【0061】
メニスカス特性MCh2が示すように、時刻t0から固有振動周期Tcの約2倍の期間が経過した時刻ts7まで、メニスカスMNは、ノズル面FNからZ1方向に突出していない。従って、第1実施形態では、膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間が経過するまで、メニスカスMNは、ノズルN内で振動しノズルNの外に突出しない。
【0062】
図14は、時刻ts8におけるメニスカスMNの状態を示す図である。図14に示すように、時刻ts8におけるメニスカスMNは、ノズル面FNからZ1方向に突出している。しかしながら、メニスカス特性MCh1及びメニスカス特性MCh2から理解されるように、時刻ts8におけるメニスカスMNがノズル面FNからZ1方向に突出する量は、時刻ts3におけるメニスカスMNがノズル面FNからZ1方向に突出する量と比較して小さい。従って、第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、期間TD1の長さが固有振動周期Tcより短い態様と比較して、ノズルNの縁にインクが付着することを低減できる。
【0063】
1-5.検出用波形PSについて
図15は、残留振動の振幅の特性を説明するための図である。図15に示すグラフg3の横軸は、期間TD1の長さを固有振動周期Tcの長さで除した値を示す。以下、期間TD1の長さを固有振動周期Tcの長さで除した値を、固有振動周期比率RTcと記載することがある。グラフg3の縦軸は、残留振動の振幅の大きさNvAを示す。
【0064】
グラフg3内の振幅特性Achが示すように、固有振動周期比率RTcが1未満である場合、固有振動周期比率RTcが1に近づくことに応じて残留振動の振幅の大きさNvAが小さくなる。固有振動周期比率RTcが1付近で残留振動の振幅の大きさNvAが極小となり、固有振動周期比率RTcが1.5に近づくことに応じて残留振動の振幅の大きさNvAが大きくなる。固有振動周期比率RTcが1.5付近で残留振動の振幅の大きさNvAが極大となり、固有振動周期比率RTcが2に近づくことに応じて残留振動の振幅の大きさNvAが小さくなる。なお、図示を省略しているが、固有振動周期比率RTcが2より大きい場合、固有振動周期比率RTcが2.5に近づくことに応じて残留振動の振幅の大きさNvAが大きくなる。
【0065】
図16は、メニスカスMNの突出量の特性を説明するための図である。図16に示すグラフg4の横軸は、固有振動周期比率RTcを示す。グラフg4の縦軸は、メニスカスMNが最もZ1方向に突出した場合のノズル面FNから突出したインクの体積を示す。以下、メニスカスMNが最もZ1方向に突出した場合のノズル面FNから突出したインクを、「突出インク」と記載することがある。突出インクの体積が小さくなることに応じて、ノズルNの縁にインクが付着する可能性が小さくなる。
【0066】
グラフg4内の体積特性Vchが示すように、固有振動周期比率RTcが1未満である場合、固有振動周期比率RTcが1に近づくことに応じて突出インクの体積は小さくなる。固有振動周期比率RTcが1付近で突出インクの体積が約1.0×10-15[m]となる。[m]は、立方メートルを意味する。体積特性Vchが示すように、固有振動周期比率RTcが1以上では、突出インクの体積が大きく変動しない。
【0067】
突出インクの体積が小さい程ノズルNの縁にインクが付着する可能性が小さくなるため、体積特性Vchから理解されるように、固有振動周期比率RTcが1以上、言い換えれば、期間TD1の長さは固有振動周期Tcの長さ以上である。但し、期間TD1の長さが必要以上に長いと、検出用波形PSの期間の長さも長くなり、吐出情報生成処理の実行に要する期間も長くなるため好ましくない。従って、固有振動周期比率RTcが2以下、言い換えれば、期間TD1の長さは固有振動周期Tcの長さ2倍以下であることが好ましい。
【0068】
更に、残留振動の振幅の大きさが大きい程残留振動の計測精度を向上できるため、振幅特性Achから理解されるように、固有振動周期比率RTcが1.5に近い程好ましい。例えば、固有振動周期比率RTcが1.3から1.7まで、言い換えれば、期間TD1の長さが固有振動周期Tcの長さの1.3倍から1.7倍までであることが好ましい。
【0069】
更に、残留振動の振幅の大きさを大きくするには、膨張要素DC1の初期電位である中間電位V0と膨張要素DC1の最終電位である膨張電位VLSとの電位差ΔVsが大きいことが好ましい。具体的には、電位差ΔVsは、電位差ΔVh以上であることが好ましい。電位差ΔVsは、「第1の電位と第2の電位との電位差」の一例である。電位差ΔVhは、「第4の電位と第5の電位との電位差」の一例である。
【0070】
また、検出回路20は、制御期間TSS2内の検出信号Voutを取得する。残留振動の振幅、残留振動の周期、残留振動の減衰比を計測するためには、残留振動を2周期以上計測することが好ましい。残留振動の周期は、固有振動周期Tcに同期するため、制御期間TSS2の長さは、固有振動周期Tcの2倍以上であることが好ましい。
【0071】
また、復帰要素DC3は、ノズルNからインクを吐出することなく、圧力室320の容積を元の容積まで収縮して復帰させることが目的である。従って、復帰要素DC3の期間TD3の長さを長くすることにより、メニスカスMNが破壊されることが抑制されるため、ノズルNからインクが漏れることを抑制できる。例えば、復帰要素DC3の膨張電位VLSから中間電位V0までの単位期間当たりの電位変化量は、膨張要素DC1の膨張電位VLSから中間電位V0までの単位期間当たりの電位変化量より小さい。言い換えれば、膨張要素DC1の電位の変化は、復帰要素DC3の電位の変化より急峻である。更に、第1実施形態では、膨張要素DC1で変位する電位差と、復帰要素DC3で変位する電位差とは同一の電位差であることから、復帰要素DC3の期間TD3の長さは、膨張要素DC1の期間TD1の長さよりも長いとも言い換えられる。単位期間は、例えば、膨張要素DC1の期間TD1、及び、復帰要素DC3の期間TD3よりも短い期間である。
【0072】
また、メニスカスMNの耐圧を考慮すると、期間TD3の長さは、下記(1)式を満たすことが好ましい。
期間TD3の長さ>インク供給口360の粘性抵抗×圧力室320の復帰容量/メニスカスMNの耐圧 (1)
【0073】
インク供給口360の粘性低抗の単位は、パスカル・秒/立方メートルである。圧力室320の復帰容量の単位は、立方メートルである。メニスカスMNの耐圧の単位は、パスカルである。メニスカスMNの耐圧P1は、例えば、下記(2)式により求められる。
P1=N1/(πD) (2)
【0074】
但し、N1は、インクの表面張力である。πは円周率である。Dは、ノズルNの直径である。インク供給口360の粘性抵抗、圧力室320の復帰容量、及び、メニスカスMNの耐圧は、インクジェットプリンター1の設計時に判明する値である。インクジェットプリンター1の製造者は、インク供給口360の粘性抵抗、圧力室320の復帰容量、及び、メニスカスMNの耐圧に基づいて、(1)式を満たすように期間TD3の長さを設定する。
【0075】
1-6.吐出情報Stt
生成回路9は、残留振動信号NESに基づいて吐出情報Sttを生成し、制御部6に吐出情報Sttを出力する。制御部6は、吐出情報Sttに基づいてインクの粘度を推定する。例えば、制御部6は、推定したインクの粘度が閾値以上である場合、インクの増粘が進行していると判断して、吐出部Dから、画像の形成に直接的には寄与しないインクを強制的に吐出させるフラッシング動作を実行する。画像の形成に直接的には寄与しないインクとは、印刷動作によって記録用紙PPに形成される画像そのものを構成するインクではないことを指す。フラッシング動作を実行することによって吐出異常を解消する場合がある。吐出異常が解消された結果、記録用紙PPに形成される画像の質の低下を抑制できる。
【0076】
1-7.第1実施形態のまとめ
以上説明したように、第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、インクを吐出するノズルNと、ノズルNに連通する圧力室320と、供給された駆動信号Comに応じて圧力室320内のインクに圧力変動を与える圧電素子PZと、を有する吐出部Dと、駆動信号Comを生成する駆動信号生成回路2と、圧電素子PZが圧力室320内のインクに圧力変動を与えた後に圧力室320内に生じる残留振動を検出可能な検出回路20と、を備え、駆動信号生成回路2は、中間電位V0から膨張電位VLSまで電位変化して圧力室320を膨張させる膨張要素DC1と、膨張要素DC1に続いて膨張電位VLSを維持する膨張電位維持要素DC2と、を含む検出用波形PSを有する駆動信号Com-Bを生成し、中間電位V0から膨張電位VLSまでの電位変化の開始から終了までの期間TD1の長さは、吐出部Dの固有振動周期Tcの長さ以上であり、検出回路20は、膨張電位維持要素DC2の期間TD2に含まれる制御期間TSS2において圧力室320内に生じる残留振動を検出する。
期間TD1の長さを固有振動周期Tcの長さ以上とすることにより、期間TD1の長さが固有振動周期Tcの長さ未満である態様と比較して、残留振動の計測精度を維持しつつ、残留振動が生じた後にノズルNの縁にインクが付着する可能性を小さくできる。第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、ノズルNの縁にインクが付着する可能性、及び、気泡がノズルN内に取り込まれる可能性が小さくなることにより、残留振動が生じた後に吐出異常が発生する可能性を小さくできる。
【0077】
また、中間電位V0から膨張電位VLSまでの電位変化の開始から終了までの期間TD1の長さは、固有振動周期Tcの長さの2倍以下である。
期間TD1の長さが固有振動周期Tcの2倍以下であることにより、期間TD1の長さが固有振動周期Tcの2倍より長い態様と比較して、吐出方向がずれることを抑制しつつ、検出用波形PSの期間が必要以上に長くなることを抑制できる。
【0078】
また、中間電位V0から膨張電位VLSまでの電位変化の開始から終了までの期間TD1の長さは、固有振動周期Tcの長さの1.3倍から固有振動周期Tcの長さの1.7倍までに含まれる。
第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、期間TD1の長さが固有振動周期Tcの長さの1.3倍未満である態様、及び、期間TD1の長さが固有振動周期Tcの長さの1.7倍より長い態様と比較して、残留振動の振幅を大きくできるため、残留振動を精度良く計測できる。
【0079】
駆動信号生成回路2は、最高電位VHXと最低電位VLXとの間で電位変化し、ノズルNからインクを吐出させる吐出用波形PXを有する駆動信号Com-Aを生成し、中間電位V0と膨張電位VLSとの電位差ΔVsは、最高電位VHXと最低電位VLXとの電位差ΔVh以上である。
第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、電位差ΔVsが電位差ΔVh未満である態様と比較して、残留振動の振幅を大きくできる。
【0080】
制御期間TSS2の長さは、固有振動周期Tcの長さの2倍以上である。
残留振動の周期は固有振動周期Tcに応じているため、制御期間TSS2の長さが、固有振動周期Tcの長さの2倍以上であることにより、検出回路20は、残留振動を示す個別電極Qdの電位を2周期分以上取得できる。残留振動を示す個別電極Qdの電位を2周期分以上取得することにより、個別電極Qdの電位を1周期分取得する態様と比較して、残留振動の振幅、残留振動の周期、及び、残留振動の減衰比を精度良く計測できる。
【0081】
また、検出用波形PSは、膨張電位維持要素DC2に続いて膨張電位VLSから中間電位V0に電位変化する復帰要素DC3を更に含み、復帰要素DC3の膨張電位VLSから中間電位V0までの単位期間当たりの電位変化量は、膨張要素DC1の中間電位V0から膨張電位VLSまでの単位期間当たりの電位変化量より小さい。
第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、復帰要素DC3の単位期間当たりの電位変化量が膨張要素DC1の単位期間当たりの電位変化量よりも大きい態様と比較して、メニスカスMNが破壊されることが抑制されるため、ノズルNからインクが漏れることを抑制できる。
【0082】
また、復帰要素DC3の膨張電位VLSから中間電位V0までの電位変化の開始から終了までの期間TD3の長さは、圧力室320にインクが供給されるインク供給口360の粘性抵抗に圧力室320の復帰容量を乗じた値を、ノズルNのメニスカス耐圧で除した値より大きい。言い換えれば、期間TD3の長さは(1)式を満たす。
第1実施形態に係るインクジェットプリンター1は、期間TD3の長さが(1)式を満たさない態様と比較して、メニスカスMNが破壊されることが抑制されるため、ノズルNからインクが漏れることを抑制できる。
【0083】
また、第1実施形態では、圧電素子PZに膨張要素DC1が供給された後、メニスカスMNは、吐出部Dの固有振動周期Tcに応じて振動し、膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間が経過するまで、メニスカスMNがノズルN内で振動する駆動方法としても特定できる。言い換えれば、メニスカスMNは、膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間が経過するまで、ノズル面FNから突出しない。
膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間が経過するまで、メニスカスMNがノズル面FNから突出しないことにより、膨張要素DC1の終了から固有振動周期Tcの2倍の期間においてメニスカスMNがノズル面FNから突出する態様と比較して、ノズルNの縁にインクが付着する可能性を低くできる。
【0084】
2.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0085】
2-1.第1変形例
第1実施形態では、膨張要素DC1の初期電位と復帰要素DC3の最終電位とが共に中間電位V0であったが、これに限らない。例えば、膨張要素DC1の初期電位と復帰要素DC3の最終電位とが、互いに異なる電位でもよい。
【0086】
図17は、第1変形例における駆動信号ComA-Bを説明するための図である。第1変形例に係る駆動信号生成回路2は、駆動信号Com-Bの替わりに駆動信号ComA-Bを生成する点で、第1実施形態に係る駆動信号生成回路2と相違する。駆動信号ComA-Bは、検出用波形PSの替わりに検出用波形PS-Aを有する点で、駆動信号Com-Bと相違する。
【0087】
検出用波形PS-Aは、膨張要素DC1の替わりに膨張要素DC1-Aを有し、縮小要素DC4と、縮小電位維持要素DC5とを有する点で、検出用波形PSと相違する。縮小要素DC4は、中間電位V0から縮小電位VHSまで電位変化して圧力室320を縮小させる要素である。縮小電位維持要素DC5は、縮小要素DC4に続いて縮小電位VHSを維持する要素である。膨張要素DC1-Aは、縮小電位維持要素DC5に続いて縮小電位VHSから膨張電位VLSまで電位変化して圧力室320を膨張させる要素である。なお、第1変形例において、縮小電位VHSが、「第1の電位」の一例であり、中間電位V0は、「第3の電位」の一例である。
【0088】
また、図17に示すように、制御期間TSS1には、縮小要素DC4の期間TD4と、縮小電位維持要素DC5の期間TD5と、膨張要素DC1-Aの期間TD1-Aとを含む。
【0089】
第1実施形態では、圧電素子PZが取り得る電位の範囲のうち、中間電位V0が下限の電位に近い場合、膨張要素DC1では圧力室320を十分に膨張させることができず、残留振動の振幅が十分に確保できないことがある。一方、第1実施形態では、中間電位V0が下限の電位に近い場合であっても、縮小要素DC4によって圧力室320を一旦縮小させてから膨張要素DC1-Aによって圧力室320を膨張させることにより、残留振動の振幅を十分に確保できる。
【0090】
2-2.第2変形例
第1実施形態では、膨張要素DC1の初期電位と復帰要素DC3の最終電位とが同一の電位であり、第1変形例では、膨張要素DC1の初期電位が復帰要素DC3の最終電位より高いが、膨張要素DC1の初期電位が復帰要素DC3の最終電位より低くてもよい。
【0091】
2-3.第3変形例
上述の各態様では、期間TD1の長さは、固有振動周期Tcの2倍以下であることが好ましく、固有振動周期Tcの1.3倍から1.7倍まであることがより好ましいが、期間TD1の長さは、固有振動周期Tcの2倍より長くてもよい。
【0092】
2-4.第4変形例
上述の各態様では、膨張電位VLSから中間電位V0までの電位差ΔVsが、最低電位VLXから最高電位VHXまでの電位差ΔVhより大きいが、電位差ΔVsが電位差ΔVhと同一でもよいし、電位差ΔVsが電位差ΔVhより小さくてよい。
【0093】
2-5.第5変形例
上述の各態様では、制御期間TSS2は、固有振動周期Tcの長さの2倍以上であることが好ましいが、固有振動周期Tcの長さの2倍未満でもよい。
【0094】
2-6.第6変形例
第1実施形態において、復帰要素DC3の膨張電位VLSから中間電位V0までの単位期間当たりの電位変化量は、膨張要素DC1の中間電位V0から膨張電位VLSまでの単位期間当たりの電位変化量より小さいが、これに限らない。復帰要素DC3の膨張電位VLSから中間電位V0までの単位期間当たりの電位変化量は、膨張要素DC1の中間電位V0から膨張電位VLSまでの単位期間当たりの電位変化量より大きくてもよい。
【0095】
2-7.第7変形例
上述の各態様において、復帰要素DC3の期間TD3の長さは、(1)式を満たすが、(1)式を満たさなくてもよい。
【0096】
2-8.第8変形例
上述の各態様において、検出用波形PSは、膨張電位維持要素DC2に続く復帰要素DC3を有するが、膨張電位維持要素DC2と復帰要素DC3との間に膨張要素が含まれてもよい。
【0097】
2-9.第9変形例
上述の各態様において、駆動信号Comが、駆動信号Com-Aと駆動信号Com-Bとを含む場合を想定したが、これに限らなく、駆動信号生成回路2は、1つの駆動信号Comを生成してもよい。第9変形例に係る駆動信号生成回路2は、1つの単位制御期間Tuに吐出用波形PXと検出用波形PSとの両方を含む駆動信号Comを生成する。制御部6は、1つの単位制御期間Tuを、吐出用波形PXを有する期間と検出用波形PSを有する期間とに区分するためのチェンジ信号CHを、切替回路10に出力する。更に、制御部6は、吐出部Dに対して、吐出用波形PXを供給するか検出用波形PSを供給するかを指定する印刷信号SIを、切替回路10に出力する。切替回路10は、チェンジ信号CH及び印刷信号SIに基づいて、吐出用波形PX又は検出用波形PSを吐出部Dに供給する。
【0098】
2-10.第10変形例
上述の各態様において、上述した各態様では、液体吐出ヘッドHUを、X軸に沿って往復同させるシリアル方式のインクジェットプリンター1を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。インクジェットプリンター1は、複数のノズルNが、記録用紙PPの全幅に亘り分布する、ライン方式の液体吐出装置であってもよい。
【0099】
2-11.その他の変形例
上述の液体吐出装置は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置及びコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線及び電極を形成する製造装置として利用される。
【0100】
3.付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0101】
好適な態様である第1態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子が圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、を備え、前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記吐出部の固有振動周期の長さ以上であり、前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出する。
第1の電位から第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さを固有振動周期の長さ以上とすることにより、前述の期間の長さが固有振動周期の長さ未満である態様と比較して、残留振動の計測精度を維持しつつ、残留振動が生じた後にノズルの縁に液体が付着する可能性を小さくできる。第1態様に係る液体吐出装置は、ノズルの縁に液体が付着する可能性、及び、気泡がノズル内に取り込まれる可能性が小さくなることにより、残留振動が生じた後に吐出異常が発生する可能性を小さくできる。
【0102】
第1態様の具体例である第2態様において、前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記固有振動周期の長さの2倍以下である。
第2態様に係る液体吐出装置は、第1の電位から第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さが固有振動周期の2倍以下であることにより、前述の期間の長さが固有振動周期の2倍より長い態様と比較して、吐出方向がずれることを抑制しつつ、検出用波形の期間が必要以上に長くなることを抑制できる。
【0103】
第1態様の具体例である第3態様において、前記第1の電位から前記第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記固有振動周期の長さの1.3倍から前記固有振動周期の長さの1.7倍までに含まれる。
第3態様に係る液体吐出装置は、第1の電位から第2の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さが固有振動周期の長さの1.3倍未満である態様、及び、期間の長さが固有振動周期の長さの1.7倍より長い態様と比較して、残留振動の振幅を大きくできるため、残留振動を精度良く計測できる。
【0104】
第1態様から第3態様のいずれか1つの態様の具体例である第4態様において、前記駆動信号生成部は、第4の電位と第5の電位との間で電位変化し、前記ノズルから液体を吐出させる吐出用波形を有する駆動信号を生成し、前記第1の電位と前記第2の電位との電位差は、前記第4の電位と前記第5の電位との電位差以上である。
第4態様に係る液体吐出装置は、第1の電位と第2の電位との電位差が第4の電位と前記第5の電位との電位差未満である態様と比較して、残留振動の振幅を大きくできる。
【0105】
第4態様の具体例である第5態様において、前記検出期間の長さは、前記固有振動周期の長さの2倍以上である。
残留振動の周期は固有振動周期に応じているため、検出期間の長さが、固有振動周期の長さの2倍以上であることにより、第5態様の液体吐出装置は、残留振動を示す個別電極の電位を2周期分以上取得できる。残留振動を2周期分以上取得することにより、残留振動の減衰比を計測できる上、残留振動を1周期分取得する態様と比較して残留振動の振幅及び残留振動の周期を精度良く計測できる。
【0106】
第1態様の具体例である第6態様において、前記検出用波形は、前記膨張電位維持要素に続いて前記第2の電位から第3の電位に電位変化する復帰要素を更に含み、前記復帰要素の前記第2の電位から前記第3の電位までの単位期間当たりの電位変化量は、前記膨張要素の前記第1の電位から前記第2の電位までの単位期間当たりの電位変化量より小さい。
第6態様に係る液体吐出装置は、復帰要素の単位期間当たりの電位変化量が膨張要素の単位期間当たりの電位変化量よりも大きい態様と比較して、メニスカスが破壊されることが抑制されるため、ノズルからインクが漏れることを抑制できる。
【0107】
第1態様の具体例である第7態様において、前記第2の電位から前記第3の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さは、前記圧力室に液体が供給される供給口の粘性抵抗に前記圧力室の復帰容量を乗じた値を、前記ノズルの液面の耐圧で除した値より大きい。
第7態様に係る液体吐出装置は、第2の電位から第3の電位までの電位変化の開始から終了までの期間の長さが、供給口の粘性抵抗に圧力室の復帰容量を乗じた値を、ノズルの液面の耐圧で除した値以下である態様と比較して、ノズルの液面が破壊されることが抑制されるため、ノズルから液体が漏れることを抑制できる。
【0108】
好適な態様である第8態様に係る駆動方法は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、供給された駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電素子と、を有する吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子が前記圧力室内の液体に圧力変動を与えた後に前記圧力室内に生じる残留振動を検出可能な検出部と、を備える液体吐出装置の駆動方法であって、前記駆動信号生成部は、第1の電位から第2の電位まで電位変化して前記圧力室を膨張させる膨張要素と、前記膨張要素に続いて前記第2の電位を維持する膨張電位維持要素と、を含む検出用波形を有する駆動信号を生成し、前記検出部は、前記膨張電位維持要素の期間に含まれる検出期間において前記圧力室内に生じる残留振動を検出し、前記圧電素子に前記膨張要素が供給された後、前記ノズル内の液面は、前記吐出部の固有振動周期に応じて振動し、前記膨張要素の終了から前記固有振動周期の2倍の期間が経過するまで、前記ノズル内の液面が前記ノズル内で振動する。
第8態様に係る駆動方法は、膨張要素の終了から固有振動周期の2倍の期間が経過するまで、ノズルの液面がノズルから突出しないことにより、膨張要素の終了から固有振動周期の2倍の期間においてノズルの液面がノズルから突出する態様と比較して、ノズルの縁に液体が付着する可能性を低くできる。
【符号の説明】
【0109】
1…インクジェットプリンター、2…駆動信号生成回路、5…記憶部、6…制御部、7…搬送機構、8…移動機構、9…生成回路、10…切替回路、11…接続状態指定回路、14…液体容器、20…検出回路、81…無端ベルト、82…搬送体、310…振動板、320…圧力室、330…ノズルプレート、340…圧力室基板、350…リザーバ、360…インク供給口、370…インク取入口、Ach…振幅特性、CL…クロック信号、Com,Com-A,Com-B,ComA-B…駆動信号、D…吐出部、D-H…検出対象吐出部、DC1,DC1-A…膨張要素、DC2…膨張電位維持要素、DC3…復帰要素、DC4…縮小要素、DC5…縮小電位維持要素、DI…吐出方向、FN…ノズル面、HD…記録ヘッド、HU…液体吐出ヘッド、Img…印刷データ、LAT…ラッチ信号、LHa,LHb,LHd,LHs…内部配線、MCh1,MCh2…メニスカス特性、MK…インク、MN…メニスカス、N…ノズル、NES…残留振動信号、P1…耐圧、PP…記録用紙、PS,PS-A…検出用波形、PX…吐出用波形、PZ…圧電素子、PlsL,PlsT1,PlsT2…パルス、Qd…個別電極、Qm…圧電体、Qu…共通電極、RTc…固有振動周期比率、SI…印刷信号、SLa,SLb,SLs…接続状態指定信号、SWa,SWb,SWs…スイッチ、Sd…個別指定信号、Stt…吐出情報、TD1,TD1-A,TD2,TD3,TD4,TD5…期間、TSS1,TSS2,TSS3…制御期間、Ta1,Ta2…期間、Tc…固有振動周期、Tc1,Tc2…期間、Tsig…期間指定信号、Tu…単位制御期間、V0…中間電位、VHS…縮小電位、VHX…最高電位、VLS…膨張電位、VLX…最低電位、Vbs…定電位信号、Vch…体積特性、Vout…検出信号、dCom…波形指定信号、g1,g2,g3,g4…グラフ、t0,ts0,ts1,ts2,ts3,ts4,ts5,ts6,ts7,ts8…時刻、ΔVh,ΔVs…電位差。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17