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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032214
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】栽培施設および栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/63 20180101AFI20240305BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A01G22/63
A01G7/00 601C
A01G7/00 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135757
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塙 千尋
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB17
2B022DA08
2B022DA17
(57)【要約】
【課題】胡蝶蘭の生長時期に最適な温度条件および照射条件とすることで、胡蝶蘭の生育を促進することが可能な栽培施設および栽培方法を提供する。
【解決手段】幼苗生長期間(S1)、花茎生長期間(S2)、開花期間(S3)、順化期間(S4)を経て生長する胡蝶蘭を栽培する栽培施設(1)であって、花茎生長期間(S2)に先立って、葉の生長を促進する高温室(5)を備え、高温室(5)は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する照射手段(51)と、花茎生長期間(S2)および開花期間(S3)よりも相対的に高い栽培温度となるように温度調節する温度調節手段(52)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭を栽培する栽培施設であって、
花茎生長期間に先立って、葉の生長を促進する高温室を備え、
前記高温室は、
明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する照射手段と、
花茎生長期間および開花期間よりも相対的に高い栽培温度となるように温度調節する温度調節手段とを備える、栽培施設。
【請求項2】
前記高温室の温度調節手段は、明期の栽培温度を27~31℃、暗期の栽培温度を22~26℃に調節する、請求項1に記載の栽培施設。
【請求項3】
前記高温室の温度調節手段は、明期の栽培温度を30~31℃、暗期の栽培温度を25~26℃に調節する、請求項1に記載の栽培施設。
【請求項4】
前記高温室で生長させる葉は、前記順化期間を経た胡蝶蘭を切り戻した株である、請求項1に記載の栽培施設。
【請求項5】
前記照射手段は、一定光量の人工光を照射する、請求項4に記載の栽培施設。
【請求項6】
前記高温室で生長させる葉は、胡蝶蘭のメリクロン苗である、請求項1に記載の栽培施設。
【請求項7】
前記照射手段は、相対的に低光量の人工光を照射する低光量照射手段と、相対的に高光量の人工光を照射する高光量照射手段とを備える、請求項6に記載の栽培施設。
【請求項8】
幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭を栽培するための栽培方法であって、
前記花茎生長期間の胡蝶蘭を低温室で栽培する工程と、
前記開花期間の胡蝶蘭を栽培室で栽培する工程と、
前記順化期間の胡蝶蘭を順化室で栽培する工程と、
前記順化期間の胡蝶蘭のうち出荷に適さない個体の花茎を切除する切り戻し工程と、
前記切り戻した胡蝶蘭の株を前記栽培室よりも高温となるように温度調節された高温室で栽培し、前記胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程と、
前記高温室で栽培した胡蝶蘭を前記低温室で再栽培する工程と、
前記低温室で再栽培した胡蝶蘭を前記栽培室で再栽培する工程と、
前記栽培室で再栽培した胡蝶蘭を前記順化室で再栽培する工程とを備える、栽培方法。
【請求項9】
前記切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程は、
明期に30~31℃の温度に調節する工程と、
暗期に25~26℃の温度に調節する工程とを含む、請求項8に記載の栽培方法。
【請求項10】
前記切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程は、
明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する工程を含む、請求項9に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に、胡蝶蘭の栽培施設および栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の胡蝶蘭の栽培方法として、たとえば特許文献1(特開2016-202108号公報)などが知られている。特許文献1は、ファレノプシス(胡蝶蘭)の生長時期に合わせた栽培方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-202108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、入手した胡蝶蘭の苗を、開花抑制期、開花誘導期、および出荷調整期を経て出荷することについて開示している。しかしながら、出荷調整期において開花のしすぎや葉付きが悪い等の理由で出荷に適さない個体は、廃棄せざるを得ない(フラワーロス)という問題が生じていた。
【0005】
この課題を解決するため、本発明は、胡蝶蘭の生長に最適な栽培条件とすることで、草姿のよい胡蝶蘭を提供することが可能な栽培施設および栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る栽培施設は、幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭の栽培施設である。栽培施設は、花茎生長期間に先立って、葉の生長を促進する高温室を備える。高温室は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する照射手段と、花茎生長期間および開花期間よりも相対的に高い栽培温度となるように温度調節する温度調節手段とを備える。
【0007】
好ましくは、高温室の温度調節手段は、明期の栽培温度を27~31℃、暗期の栽培温度を22~26℃に調節する。
【0008】
好ましくは、高温室の温度調節手段は、明期の栽培温度を30~31℃、暗期の栽培温度を25~26℃に調節する。
【0009】
好ましくは、高温室で生長させる葉は、順化期間を経た胡蝶蘭を切り戻した株である。
【0010】
好ましくは、照射手段は、一定光量の人工光を照射する。
【0011】
好ましくは、高温室で生長させる葉は、胡蝶蘭のメリクロン苗である。
【0012】
好ましくは、照射手段は、相対的に低光量の人工光を照射する低光量照射手段と、相対的に高光量の人工光を照射する高光量照射手段とを備える。
【0013】
本発明に係る栽培方法は、幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭を栽培するための栽培方法である。栽培方法は、花茎生長期間の胡蝶蘭を低温室で栽培する工程と、開花期間の胡蝶蘭を栽培室で栽培する工程と、順化期間の胡蝶蘭を順化室で栽培する工程と、順化期間の胡蝶蘭のうち出荷に適さない個体の花茎を切除する切り戻し工程と、切り戻した胡蝶蘭の株を栽培室よりも高温となるように温度調節された高温室で栽培し、胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程と、高温室で栽培した胡蝶蘭を低温室で再栽培する工程と、低温室で再栽培した胡蝶蘭を栽培室で再栽培する工程と、栽培室で再栽培した胡蝶蘭を順化室で再栽培する工程とを備える。
【0014】
好ましくは、切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程は、明期に30~31℃の温度に調節する工程と、暗期に25~26℃の温度に調節する工程とを含む。
【0015】
好ましくは、切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する工程を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の栽培施設および栽培方法によれば、胡蝶蘭の生長に最適な栽培条件とすることで、草姿のよい胡蝶蘭を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態1に係る栽培方法及び栽培施設を示すブロック図である。
図2】本実施の形態2に係る栽培方法及び栽培施設を示すブロック図である。
図3】本実施の形態1に係る栽培方法を示すフローチャートである。
図4】切り戻した胡蝶蘭の株に適した温度条件を調べた実験例1の結果を示すグラフであり、(a)は各温度条件で栽培後、花茎生長期間に生じた花茎数を示し、(b)は各温度条件で栽培した際の出荷可能割合を示す。
図5】切り戻した胡蝶蘭の株を温度条件Cで栽培した際の栽培期間について調べた実験例2の結果を示すグラフであり、花茎生長期間に生じた花茎数を示す。
図6】切り戻した胡蝶蘭の株を温度条件B,Cで栽培した際の草姿について調べた実験例3の結果を示すグラフであり、増加した葉数を示す。
図7】幼苗生長期間(後期)の胡蝶蘭の苗に適した温度条件を調べた実験例4の結果を示すグラフであり、(a)は各温度条件で栽培後、花茎生長期間に生じた花茎数を示し、(b)は各温度条件で栽培後、順化期間における総輪数を示す。
図8】幼苗生長期間(後期)の胡蝶蘭の苗に適した温度条件を調べた実験例4の結果を示すグラフであり、各栽培条件で栽培後の葉幅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
(胡蝶蘭の栽培方法について)
〈実施の形態1〉
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る栽培方法について説明する。本実施の形態に係る栽培方法は、幼苗生長期間S1、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4を経て生長する胡蝶蘭の栽培方法である。胡蝶蘭は、その苗サイズまたは花弁の大きさで4種類に大別でき、ナノ(1寸苗で花弁の直径が3~5cm)、ミニ(1.7寸苗で花弁の直径が3~5cm)、ミディ(花弁の直径が5~9cm)および大輪(花弁の直径が10cm以上)と区別できる。本実施の形態では、ミニ胡蝶蘭の栽培方法を例として説明する。
【0020】
胡蝶蘭は、自然受粉の確率が極めて低く、1株が開花するまでに2年以上の栽培期間を要する。そのため時間的・費用的な効率の観点から、工業的にはメリクロン苗を用いる栽培方法が一般的である。幼苗生長期間S1は、栽培方法の違いから、前期、後期と区別できる。
【0021】
幼苗生長期間(前期)S1では、胡蝶蘭は高温高湿環境下で栽培され、たとえば25~30℃の温度条件下で栽培される。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、メリクロン苗を約1年8ヶ月程度フラスコ内で栽培する。
【0022】
幼苗生長期間(後期)S1では、フラスコ内で生長したメリクロン苗を水苔などの培地が収容されたポットに植え替え、高温高湿環境下で栽培する。胡蝶蘭は着生植物であるため、根が培地に着生し、茎および葉が生長する。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、約6ヶ月程度ポットで栽培する。これにより、胡蝶蘭の幼苗が形成される。
【0023】
花茎生長期間S2では、低温室2において、幼苗の花茎を伸長するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培する。花茎とは、蕾をつける茎のことを指し、茎頂に蕾が形成される前の茎、および茎頂に蕾が形成された後の茎を含む。花茎生長期間S2において、明期に21~24℃の温度に調節し、暗期に15~18℃の温度に調節するよう栽培する。花茎生長期間S2中は、蕾は形成されない。すなわち、当該期間は、純粋な花茎のみが伸長する期間である。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、約8週間程度栽培する。工業的に生産される胡蝶蘭の花茎は、伸長に伴い茎頂部が垂れ下がるように生長するものの、その長さは胡蝶蘭の丈や後に形成できる蕾の数に大きな影響を与える要素である。花茎の長さは花茎生長期間S2中にある程度決定されるため、この期間の長さを調節することで、出荷時の胡蝶蘭の見た目を調節することができる。
【0024】
本実施の形態の花茎生長期間S2は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射して栽培する。人工光の光量は、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定される。[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率は、15.0以上の場合に花茎の伸長促進効果が見られなかったことから、上限値は15.0としたが、より確実に胡蝶蘭に遠赤色光を照射する観点から、12.0以下であることが好ましい。また、より花茎の伸長を促進する観点から、7.5以下であることがより好ましい。しかしながら、遠赤色光の光量が多すぎてもたとえば生長阻害のおそれなどがあることから、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率の下限値は4.5とした。本実施の形態では、花茎生長期間S2に遠赤色光を照射するため、遠赤色光を照射しない場合に比して同期間における花茎の伸長量を促進することができる。なお、本発明者は、花茎生長期間S2に遠赤色光を照射しても、蕾の形成に対して(たとえば蕾の形成を早める等)ほとんど影響を及ぼさないことを見出している。
【0025】
本実施の形態の栽培方法では、人工光としてたとえばLED、蛍光灯、電球などを光源とする光が挙げられるが、葉表面の温度上昇を防止する観点から、LEDを光源として用いることが好ましい。これにより、胡蝶蘭の葉焼け防止効果が期待でき、葉表面への水やり作業が不要となる。すなわち本実施の形態の光源は、赤色(R)、青色(B)、緑色(G)、および遠赤色光(Fr)LEDである。なお、各LEDは、典型的にはR=660nm、B=460nm、G=530nm、Fr=730nmをピーク波長として含むものである。
【0026】
本実施の形態の光源は、光質がたとえばR:G:B=20:3:2の比率であり、かつ、R/Fr=3~11の比率であるものを使用した。しかしながら、光質は胡蝶蘭の品種や生育状況に好適な比率のものが使用されるべきであり、上記比率は例示的なものである。
【0027】
本実施の形態の花茎生長期間S2は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0028】
本実施の形態の花茎生長期間S2における人工光は、光量を表す指標である光量子束密度(PFD)が170~210μmolm-2-1である。生長に十分な光合成量を確保する観点から、PFDは180μmolm-2-1以上であることが好ましい。また、PFDの中で光合成に寄与する光の光量を表す指標である光合成光量子束密度(PPFD)は、少なくとも160μmolm-2-1以上であることが好ましい。PPFDに含まれる光量は赤色(R)、青色(B)、緑色(G)光の光量であり、遠赤色光(Fr)の光量は含まれない。すなわち、人工光のPFDは、下記式のように切り分けてみることもできる。これにより、生長に十分な光量を確保できるため、完全人工光で栽培をすることができる。
式:PFD(μmolm-2-1)=160(RBGの光量)+10~50(Frの光量)
開花期間S3では、栽培室3において、蕾が形成され、開花するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培する。胡蝶蘭は低温条件下で栽培した後、栽培温度を上昇させることで開花スピードが速くなるという特性を有している。そのため、開花期間S3は、花茎生長期間S2の栽培温度よりも相対的に高温条件下で栽培する。本実施の形態の栽培方法では、明期に24~27℃の温度に調節し、暗期に19~22℃の温度に調節するよう栽培する。開花期間S3は、蕾を形成しながら花茎が伸長し(開花期間前期)、一定期間後に蕾が開花する(開花期間後期)。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、開花期間S3として約6~8週間程度栽培する。
【0029】
本実施の形態の栽培方法は、開花期間S3の明期には遠赤色光を含まない人工光を照射する。これは、開花期間S3中に遠赤色光を照射しても、蕾の数、花茎の伸長量、および開花速度について有意な差が見い出されなかったためである。換言すれば、遠赤色光は、胡蝶蘭の開花期間S3に影響を与えるものではないと言うことができる。開花期間S3の明期に用いる人工光は、具体的には赤色(R)、緑色(G)、青色(B)LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。胡蝶蘭が十分に生長するため、人工光の光量子束密度(PFD)は、160μmolm-2-1以上であることが好ましい。
【0030】
本実施の形態の開花期間S3は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0031】
順化期間S4では、順化室4において、管理環境下で栽培された胡蝶蘭が外環境に慣れるように栽培する。本実施の形態の栽培方法では、順化期間の明期には、赤色、緑色、青色LEDを含む人工光を照射して栽培する。人工光の光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるよう設定される。また、人工光の光量子束密度(PFD)は、たとえば40μmolm-2-1以上である。なお、順化期間S4に用いる光源は、人工光のみでもよいが、太陽光と併用してもよいし、後述するように太陽光のみでもよい。人工光のみで栽培する場合、栽培の効率化の観点から、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培することが好ましい。
【0032】
また、順化期間S4は屋外と同じ照射条件で栽培してもよい。すなわち、胡蝶蘭を太陽光で、かつ外環境と同じ明暗周期で栽培してもよい。温度条件は、開花期間S3の栽培温度から出荷時の外環境の温度帯に近づけていくように調節することが好ましい。すなわち、順化期間S4では、明期に20~30℃、暗期に15~20℃の範囲で栽培する。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、順化期間S4では約2週間程度栽培する。これにより、胡蝶蘭を順化期間S4を経ないで出荷する場合と比較して長持ち(開花状態を長く維持)させることができる。
【0033】
本実施の形態に係る胡蝶蘭の栽培方法は、順化期間S4の胡蝶蘭のうち、出荷基準を満たす株については出荷され、出荷基準を満たさない株については再栽培する。すなわち本実施の形態に係る栽培方法は、図3をさらに参照して、出荷に適さない株の花茎を切除する切り戻し工程S6と、切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程S5と、生長させた葉について花茎生長期間S2’、開花期間S3’、順化期間S4’の順に再栽培する工程S2’~S4’とを備える。
【0034】
切戻し工程S6では、胡蝶蘭の生長を調整する観点から、花茎を切り戻す。切り戻す位置は花茎の根元付近であり、切除した花茎は開花済の花を含んでいる。この花は、たとえばプリザーブドフラワーや切花として利用することができる。
【0035】
切り戻した胡蝶蘭の株の葉の生長を促進する工程S5では、開花期間の栽培温度よりも高温条件下で栽培する。これにより、花茎の発生を抑制しつつ葉の生長を促進するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培することができる。したがって、切り戻した胡蝶蘭を栽培する工程S5は、胡蝶蘭の「葉生長期間S5」と見做すこともできる。また、当該期間は、切り戻した胡蝶蘭の株が、次の開花のための養分を蓄える期間でもあるため、「生長準備期間S5」と見做すこともできる。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、約8週間程度栽培する。
【0036】
葉生長期間S5は、開花期間S3よりも高温条件で栽培される。本実施の形態における葉生長期間S5は、明期に30~31℃の温度に調節し、暗期に25~26℃の温度に調節するよう栽培する。また、本発明者は、明期に30~31℃で栽培すると蕾が1つも形成されないことを見出しており、生長促進の観点から明期/暗期の栽培温度差は5℃以上あることが望ましい。
【0037】
本実施の形態における葉生長期間S5は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を、一定光量で照射する。人工光は、具体的には赤色(R)、緑色(G)、青色(B)LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。赤色光を多く含む方が、光合成効率がよく、葉色が濃くなるためである。葉の生長を促進する観点から、人工光の光量子束密度(PFD)は160μmolm-1以上であることが好ましい。
【0038】
本実施の形態の葉生長期間S5は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0039】
葉生長期間S5を経た胡蝶蘭の株は再栽培される。再栽培工程S2’~S4’は、高温室5で栽培した胡蝶蘭を低温室2で再栽培する工程S2’と、低温室2で栽培した胡蝶蘭を栽培室3で再栽培する工程S3’と、栽培室3で栽培した胡蝶蘭を順化室4で再栽培する工程S4’とを備える。
【0040】
低温室再栽培工程S2’、栽培室再栽培工程S3’および順化室再栽培工程S4’は、基本的には花茎生長期間S2、開花期間S3および順化期間S4の栽培方法と同様である。
【0041】
順化室再栽培工程S4’の後、出荷基準を満たす株は出荷されるが、基準を満たさない株については再度切り戻され、再栽培を行うことができる。
【0042】
なお、本実施の形態の栽培方法は、胡蝶蘭の栽培方法として記載したが、同様の栽培方法を採用するラン科の植物に対しても好適に採用することができる。
【0043】
本実施の形態に係る胡蝶蘭の栽培方法は、出荷に適さない個体を再栽培する前に、再栽培準備期間を設けたことに特徴を有している。これにより、再栽培時の蕾数が減少することなく2回目の開花へスムーズに繋げることができ、フラワーロスを削減することができる。
【0044】
〈実施の形態2〉
次に、図2を参照して、本実施の形態2に係る胡蝶蘭の栽培方法について説明する。本実施の形態の栽培方法は、特にナノ胡蝶蘭を栽培するのに好適な方法であり、幼苗生長期間(後期)S1’の苗を高温室5で栽培する点について異なる。
【0045】
本実施の形態の幼苗生長期間(後期)S1’では、他の期間の栽培温度よりも高温条件下で栽培する。これにより、花茎の発生を抑制しつつ葉の生長を促進するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培することができる。したがって、幼苗生長期間(後期)S1’は、胡蝶蘭の「葉生長期間S1’」と見做すこともできる。また、当該期間は、メリクロン苗が生長するための養分を蓄える期間でもあるため、「生長準備期間S1’」と見做すこともできる。たとえばナノ胡蝶蘭の場合、約12~22週間程度栽培され、出荷時の胡蝶蘭のサイズに応じて調節することができる。これにより、従来よりも小さな苗でありながら十分な花茎をつけることのできる、ナノ胡蝶蘭の幼苗が形成される。
【0046】
本実施の形態の幼苗生長期間(後期)S1’は、高温室5Aにおいて、幼苗生長期間(前期)S1中フラスコ内で栽培されていた胡蝶蘭のメリクロン苗を、水苔や木質培地などが収容されたポットに植え替えて栽培する。幼苗生長期間(後期)S1’の苗について、明期に27~31℃の温度に調節し、暗期に22~26℃の温度に調節するよう栽培する。生長促進の観点から明期/暗期の栽培温度差は5℃以上あることが望ましい。
【0047】
本実施の形態の幼苗生長期間(後期)S1’は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する。幼苗生長期間(後期)S1’の明期に用いる人工光は、具体的には赤色(R)、緑色(G)、青色(B)LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。赤色光を多く含む方が、光合成効率がよく、葉色が濃くなるためである。また、光量は光阻害を防止する観点から徐々に大きくすることが好ましい。本実施の形態の人工光の光量子束密度(PFD)は、1週目は非照射、2週目は40μmolm-1、3週目以降は160μmolm-1の条件で照射した。
【0048】
本実施の形態の幼苗生長期間(後期)S1’は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0049】
本実施の形態に係る栽培方法は、幼苗生長期間(前期)S1、幼苗生長期間(後期)S1’、花茎生長期間S2、開花期間S3、および順化期間S4の順に栽培し、出荷される。これにより、実施の形態1と比較して最初の栽培段階から草姿のよい胡蝶蘭を栽培できるため、結果的にフラワーロスを削減することができる。なお、本実施の形態2の栽培方法でも、実施の形態1の再栽培工程を行うことは可能である。この場合、高温室5Aにおいて、胡蝶蘭のメリクロン苗および切り戻した胡蝶蘭の株の両方を栽培することができる。
【0050】
(栽培施設について)
〈実施の形態1〉
次に、幼苗生長期間S1、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4を経て生長する胡蝶蘭の栽培施設1について説明する。本実施の形態の栽培施設1は、花茎生長期間S2の胡蝶蘭を栽培する低温室2と、開花期間S3の胡蝶蘭を栽培する栽培室3と、順化期間S4の胡蝶蘭を栽培する順化室4と、花茎生長期間S2に先立って葉の生長を促進する高温室5とを備える。
【0051】
低温室2は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射する第1照射手段21と、明期および暗期の栽培温度を調節する第1温度調節手段22とを含む。低温室2は、人工光で胡蝶蘭を栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0052】
低温室2において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。多段状とは、胡蝶蘭が収容された栽培棚が、垂直方向に複数設けられた形態や、階段状にずれて配置された形態などを指す。本実施の形態の低温室2は、2~6段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、低温室2内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0053】
第1照射手段21は、胡蝶蘭の花茎生長期間S2に適した光源を提供する手段であり、遠赤色光を含むことを特徴とする。第1照射手段21は、好ましくは胡蝶蘭の上方に設置される。
【0054】
第1温度調節手段22は、低温室2内を花茎生長期間S2に適した栽培温度に調節する手段である。第1温度調節手段22は、作業者が手動で温度調節を行ってもよいし、温度計および照度センサなどの外部部材からの情報に基づいて自動で温度調節を行ってもよい。
【0055】
栽培室3は、明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第2照射手段31と、低温室2よりも相対的に高温な栽培温度となるよう調節する第2温度調節手段32とを含む。栽培室3は、人工光で栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0056】
栽培室3において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。本実施の形態の栽培室3は、2~4段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、栽培室3内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0057】
第2照射手段31は、胡蝶蘭の開花期間S3に適した光源を提供する手段であり、遠赤色光を含まないことを特徴とする。第2照射手段31は、好ましくは胡蝶蘭の上方に設置される。
【0058】
第2温度調節手段32は、栽培室3内を開花期間S3に適した栽培温度に調節する手段である。第2温度調節手段32は、作業者が手動で温度調節を行ってもよいし、温度計および照度センサなどの外部部材からの情報に基づいて自動で温度調節を行ってもよい。
【0059】
順化室4は、人工光を照射する第3照射手段41と、外環境と近い栽培温度となるよう調節する第3温度調節手段42とを含む。順化室4は、人工光または太陽光の少なくともいずれか一方で栽培することができる。人工光で栽培する場合、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0060】
太陽光で栽培する場合、順化室4は、壁面に太陽光取入れ手段43を含む。太陽光取入れ手段43は、少なくとも順化室4の天井壁または側壁のいずれかに設けられ、室内に太陽光を入光できる構成であればよい。太陽光取入れ手段43は、たとえばアクリル板、ガラス板、ビニールシートなどの透光性を有する部材である。
【0061】
順化室4において、胡蝶蘭は1段または多段状に配置されている。本実施の形態の順化室4は、1~4段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、太陽光で栽培する場合、全ての胡蝶蘭に太陽光を行き渡らせる観点から、上下の棚が垂直方向に重ならない位置にずれて配置されることが好ましい。順化室4で栽培された胡蝶蘭のうち、出荷基準を満たす株は出荷され、満たさない株は切り戻され、高温室5へ移される。
【0062】
高温室5は、順化期間S4の胡蝶蘭のうち出荷に適さない胡蝶蘭の株を栽培するための部屋であり、切り戻した株の葉の生長を促進する部屋である。
【0063】
高温室5は、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する第4照射手段51と、花茎生長期間S2および開花期間S3よりも相対的に高い栽培温度となるように温度調節する第4温度調節手段52とを備える。高温室5は、人工光で栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0064】
高温室5において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。本実施の形態の高温室5は、2~6段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、高温室5内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0065】
第4照射手段51は、胡蝶蘭の葉生長に適した光源を提供する手段であり、赤色光を最も多く含む人工光を、一定光量で照射することを特徴とする。第4照射手段51は、好ましくは胡蝶蘭の上方に設置される。
【0066】
〈実施の形態2〉
次に、本実施の形態2に係る胡蝶蘭の栽培施設1Aについて説明する。栽培施設1Aは、高温室5Aにおいて、胡蝶蘭のメリクロン苗、すなわち幼苗生長期間(後期)S1’の苗を栽培するのに好適な施設である。
【0067】
本実施の形態の高温室5Aは、幼苗生長期間(後期)S1’の胡蝶蘭を栽培するための部屋であり、胡蝶蘭のメリクロン苗の葉の生長を促進する部屋である。
【0068】
高温室5Aは、明期に赤色光を最も多く含む人工光を照射する第4照射手段51Aと、花茎生長期間S2および開花期間S3よりも相対的に高い栽培温度となるように温度調節する第4温度調節手段52Aとを備える。高温室5Aは、人工光で栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0069】
高温室5Aにおいて、胡蝶蘭は多段状に配置されている。本実施の形態の高温室5Aは、2~6段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、高温室5A内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0070】
第4照射手段51Aは、徐々に光量が大きくなるよう調節しながら光を照射する。したがって、第4照射手段51Aは、後述する高光量照射手段54Aと比較して相対的に低光量の人工光を照射する低光量照射手段53Aと、低光量照射手段53Aと比較して相対的に高光量の人工光を照射する高光量照射手段54Aとを備える。
【0071】
低光量照射手段53Aは、高温室5Aにおける栽培開始から2週目の光量が、2週目以降の光量よりも低光量となるよう調節する。低光量照射手段53Aは、たとえば1週目の光量子束密度(PFD)を0μmolm-2-1(光照射なし)、2週目を40μmolm-2-1に調節する。
【0072】
高光量照射手段54Aは、高温室5Aにおける2週目以降の光量が、栽培開始から2週目までの光量よりも高光量となるよう調節する。高光量照射手段54Aは、たとえば160μmolm-2-1に調節する。このように、徐々に光量を増やすことで、幼苗に光阻害や葉焼けが生じてしまうことを防止できる。
【0073】
第4温度調節手段52Aは、高温室5A内を幼苗生長期間(後期)S1’に適した栽培温度に調節する手段である。第4温度調節手段52Aは、作業者が手動で温度調節を行ってもよいし、温度計および照明センサなどの他部材からの情報に基づいて自動で温度調節を行ってもよい。
【0074】
なお、各室には、上記の構成の他、湿度センサ、照度センサなどを設けてもよい。室内の湿度、照度などを計測することで、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4、葉生長期間S5の胡蝶蘭を栽培するのに適した環境となるよう室内を管理することができる。
【0075】
また、本実施の形態で説明した幼苗生長期間(後期)S1’のメリクロン苗および実施の形態1で説明した葉生長期間S5の切り戻した胡蝶蘭の株は、栽培温度条件が同じである。したがって、高温室5A内を区画分けして、双方の胡蝶蘭を同じ高温室5A内で栽培してもよい。
【0076】
(切り戻し株に好適な栽培条件について)
次に、切り戻し株に最適な栽培条件を調べた実験例1~3について説明する。
【0077】
実験例1~3は、全て表1に記載の照射条件および表2に記載の温度条件で栽培した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
(実験例1)
実験例1では、ミニ胡蝶蘭を切り戻した直後の株について、表2に記載の温度条件A~Cで栽培した後、低温室に移行して再栽培を行った。なお、温度条件Aの処置なしとは、切り戻した株を直ぐに低温室に移行して再栽培を行ったことを意味する。結果を図4に示す。
【0081】
図4(a)は、各温度条件における花茎数を比較したグラフである。温度条件Cで栽培した場合、低温室(花茎生長期間S2)において伸長してくる花茎の本数が最も多かった。この結果より、切り戻した胡蝶蘭の株は、直ぐに低温室に移行させるのではなく、一旦温度条件Cで栽培した方が生育が良好となることがわかった。
【0082】
図4(b)は、各温度条件で栽培した胡蝶蘭を低温室から栽培室、順化室の順に再栽培した際の、出荷可能割合を示すグラフである。出荷可能割合は、(切り戻した株の総数のうち、出荷基準を満たした株)/(切り戻した株の総数)で算出した。なお、実験例1では、出荷基準を「花茎が2本以上のもの」と定めた場合について説明する。温度条件Cで栽培した場合、出荷可能割合は90%であったのに対し、温度条件Aは50%に満たず、温度条件Bは25%と特に出荷基準を満たさなかった。なお、温度条件Bの結果が悪いのは、意図しないタイミングで開花してしまうなど、胡蝶蘭の生育を制御できなかったことに因る。図4(a),(b)の結果より、切り戻した胡蝶蘭の株は、温度条件Cで栽培することで胡蝶蘭の生育を制御でき、出荷可能割合が顕著に良好となることがわかった。
【0083】
(実験例2)
実験例2では、切り戻した胡蝶蘭の株について、温度条件Cにおける最適な栽培期間を調べた。結果を図5に示す。
【0084】
図5は、胡蝶蘭を温度条件Cの栽培条件下で4週間または8週間栽培した後、低温室(花茎生長期間)で形成された花茎の本数を比較したグラフである。図5のうち、F4482,F4487、F2510はミニ胡蝶蘭であり、F1881はミディ胡蝶蘭である。実験例2では、出荷基準を「ミニ胡蝶蘭は花茎数が2本以上」、「ミディ胡蝶蘭は花茎数が1本以上」と定めた。
【0085】
いずれの品種も、温度条件Cで4週間栽培するだけでは出荷基準を満たす花茎数を得ることができなかったが、8週間栽培することで出荷基準を満たすことができた。この結果より、「温度条件Cで8週間」栽培することで、再栽培化が可能となることがわかった。この期間中、切り戻した胡蝶蘭の株は、再度花茎を生長させるのに必要な養分を蓄えていると考えられる。
【0086】
(実験例3)
実験例3では、ミニ胡蝶蘭(F4488,F2095,F4482,F2510)について、切り戻し直後と比較して、温度条件B,Cで栽培した際に葉数がどれだけ増加したかについて調べた。結果を図6に示す。図6より、温度条件Cで栽培した場合の方が、温度条件Bで栽培した場合よりも増加葉数が多いことがわかった。また、下記の表3に示すように、F4488、F4482の品種では、温度条件Bにおける栽培中に花茎が発生してしまった。
【0087】
【表3】
【0088】
これらの結果より、温度条件Cで栽培することで、意図しないタイミングで花茎が発生してしまうことを防止できる、換言すれば、一度低温処理した株の再栽培時であっても花茎伸長や開花のタイミングを統一できることがわかった。また、葉数も温度条件Bより増えやすく、草姿のよい胡蝶蘭となることがわかった。
【0089】
実験例1~3より、切り戻した胡蝶蘭の株は、温度条件Cで8週間程度栽培することで、再栽培時の花茎の形成時期を制御でき、花茎の本数および葉数も良好となることがわかった。すなわち、温度条件Cで栽培することで、出荷基準を満たす株(草姿のよい株)を高水準で生産することができ、フラワーロスを削減することができた。
【0090】
(ナノ胡蝶蘭に最適な栽培条件について)
実験例4では、後期幼苗生長期間の苗、すなわちナノ胡蝶蘭の苗の栽培に最適な栽培条件を調べた。
【0091】
実験例4は、表4に記載の照射条件および表5に記載の温度条件で栽培した。
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
(実験例4)
実験例4では、ナノ胡蝶蘭について、温度条件D,E,Fで12週間栽培した後、低温室、栽培室、順化室の順に栽培した。結果を図7、8に示す。
【0095】
図7(a)より、温度条件E,Fで栽培した場合、花茎数が1.3本以上であり、温度条件Dで栽培した場合よりも花茎の発生本数が多くなることがわかった。また、図7(b)より、温度条件E,Fで栽培した場合、総輪数が5輪以上であり、温度条件Dで栽培した場合よりも総輪数が2輪以上多くなることがわかった。したがって、ナノ胡蝶蘭の出荷基準を「花茎数1本以上」かつ「総輪数5輪以上」とした場合、温度条件E,Fの条件下において高水準で生産・出荷できることがわかった。
【0096】
さらに、図8より、温度条件E,Fで16週間あるいは20週間栽培した場合の葉幅は、温度条件Dで栽培した場合の葉幅よりも2~3mm以上大きくなることがわかった。なお、ナノ胡蝶蘭は1寸苗と非常に小さいため、品種にもよるが、2mm異なるだけで草姿は大きく異なることに留意されたい。また、温度条件Dで栽培した場合、葉が赤色化してしまい、草姿がよくないだけでなく、光合成効率が劣ってしまうことがわかった。
【0097】
実験例4より、ナノ胡蝶蘭の株は、温度条件E,Fで栽培することで、花茎の本数、葉幅、総輪数が良好となることがわかった。すなわち、出荷基準を満たす株(草姿のよい株)を高水準で生産することができ、フラワーロスを削減することができた。
【0098】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 栽培施設、2 低温室、3 栽培室、4 順化室、5,5A 高温室、21 第1照射手段、22 第1温度調節手段、31 第2照射手段、32 第2温度調節手段、41 第3照射手段、42 第3温度調節手段、43 太陽光取入れ手段、51,51A 第4照射手段、52,52A 第4温度調節手段、53A 低光量照射手段、54A 高光量照射手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8