(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032218
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】パーキング機構
(51)【国際特許分類】
F16H 63/34 20060101AFI20240305BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240305BHJP
H02K 7/10 20060101ALI20240305BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16H63/34
B60T8/17 B
H02K7/10 Z
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135770
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】八木 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】西井 文哉
【テーマコード(参考)】
3D246
3J067
5H607
【Fターム(参考)】
3D246DA02
3D246EA05
3D246GB15
3D246GB37
3D246HA28A
3J067AA21
3J067AB23
3J067AC01
3J067CA02
3J067CA08
3J067CA09
3J067CA22
3J067CA29
3J067DB32
3J067FA57
3J067FB02
3J067GA01
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE06
5H607EE15
5H607EE31
(57)【要約】
【課題】パーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせる制御を簡略化でき、かつ確実な車両固定が可能となるパーキング機構を提供する。
【解決手段】電動機100を駆動源とする車両のパーキング機構は、電動機の回転軸101と連動して回転する軸に配置されたパーキングギヤ102と、パーキングギヤの歯溝に爪211を噛み合わせて車両を固定するパーキングポール210と、電動機およびパーキングポールの動作を制御する制御部と、を有し、パーキングギヤの歯数は電動機の極数と比例する数であり、パーキングギヤの歯位置は電動機のロータに配置された磁極の中心位置と位相が一致するように配置され、制御部はパーキング機構の作動前にロータのd軸がステータの磁界に一致するようにステータに線間電流を通電することで、パーキングポールの爪とパーキングギヤの歯溝とが噛み合う位置にパーキングギヤを停止させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータとステータとからなる電動機を駆動源とする車両のパーキング機構であって、
前記電動機の回転軸と連動して回転する軸に配置されたパーキングギヤと、
前記パーキングギヤの歯溝に爪を噛み合わせて前記車両を固定するパーキングポールと、
前記電動機を制御する電動機制御部および前記パーキングポールの動作を制御するパーキング機構制御部を含む制御部と、
を有し、
前記パーキングギヤの歯数は前記電動機の極数と比例する数であり、前記パーキングギヤの歯位置は前記電動機の前記ロータに配置された磁極の中心位置と位相が一致するように配置され、
前記制御部は、パーキング機構の作動前に、前記ロータのd軸が前記ステータの磁界に一致するように前記ステータに線間電流を通電することで、前記パーキングポールの爪と前記パーキングギヤの歯溝とが噛み合い可能な位置に前記パーキングギヤを停止させる、
ことを特徴とするパーキング機構。
【請求項2】
前記制御部は、前記電動機が回生状態であって前記車両が停止すると推定された時に、前記ロータのd軸が前記ステータの磁界に一致するように前記ステータに線間電流を通電することで、前記パーキングポールの爪と前記パーキングギヤの歯溝とが噛み合い可能な位置に前記パーキングギヤを停止させることを特徴とする請求項1に記載のパーキング機構。
【請求項3】
前記車両が停止すると推定する条件は、アクセルが踏まれていないこと、またはブレーキ力が措定値以上であることのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のパーキング機構。
【請求項4】
前記車両が停止すると推定する条件は、車速が所定値以下であること、または減速加速度が所定値以下であることのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のパーキング機構。
【請求項5】
前記パーキングギヤの歯数は前記電動機の極対数のn倍(nは2以上の整数)であることを特徴とする請求項1に記載のパーキング機構。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両に設けられた傾斜センサにより検出された傾斜状態に応じて、前記ステータに通電する線間電流の大きさを制御することを特徴とする請求項1-5のいずれか1項に記載のパーキング機構。
【請求項7】
前記制御部は、前記パーキングギヤとの噛み合い状態から前記パーキングポールを解除するとき、前記パーキング機構の作動前に通電された前記線間電流と同じ線間電流を通電することを特徴とする請求項6に記載のパーキング機構。
【請求項8】
前記パーキング機構は電動モータによって作動可能であることを特徴とする請求項1-5のいずれか1項に記載のパーキング機構。
【請求項9】
前記パーキング機構は電動モータによって作動可能であることを特徴とする請求項6に記載のパーキング機構。
【請求項10】
前記パーキング機構は電動モータによって作動可能であることを特徴とする請求項7に記載のパーキング機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動源として電動機を有する車両のパーキング機構に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキングロック機構を備えた車両には、駆動源から駆動輪に動力を伝達する駆動伝達装置にパーキングギヤが設けられている。車両を停車させパーキングレンジが選択されると、パーキングポールの爪がパーキングギヤと噛み合い駆動伝達軸がロックされる。パーキングポールの爪がパーキングギヤに噛み合っていれば(ロック状態)、坂道で停車した場合であっても車両は停止状態を維持できる。
【0003】
しかしながら、パーキングポールの爪がパーキングギヤと常に噛み合うとは限らない。坂道で停止してパーキングレンジが選択されたときに噛み合っていない状態であれば、運転者がブレーキを解除したときに車両が移動してパーキングギヤが回転し、パーキングポールの爪が噛み合った時に車両が停止する。この場合、噛み合ったときの衝撃が発生する。またパーキングギヤの回転が速ければ、パーキングポールの爪が噛み合わない状態が続き、ブレーキを踏むまで移動を続ける場合もある。
【0004】
このようなパーキングポールの爪がパーキングギヤに噛み合わない状態を回避する技術が提案されている。たとえば特許文献1に開示されたパーキングロック制御装置では、電動モータの回転が停止したときのパーキングギヤの歯溝の位置を推定し、その推定位置に基づいてパーキングポールの爪が歯溝に噛み合う位置でパーキングギヤが停止するように電動モータを駆動制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたパーキングロック制御装置は、パーキングギヤの停止位置を推定する必要があり、さらにパーキングギヤの停止位置がパーキングポールの爪と歯溝で噛み合うように電動モータを制御する必要がある。このためにモータ制御が非常に複雑となり制御部の負荷が増大する。
【0007】
そこで、本発明の目的は、パーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせる制御を簡略化でき、かつ確実な車両固定が可能となるパーキング機構を提供することにある。また、車両の制御の簡素化によってシステム全体の小型軽量化を図ることで、エネルギー効率の改善を図ることができる車両の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ロータとステータとからなる電動機を駆動源とする車両のパーキング機構であって、前記電動機の回転軸と連動して回転する軸に配置されたパーキングギヤと、前記パーキングギヤの歯溝に爪を噛み合わせて前記車両を固定するパーキングポールと、前記電動機を制御する電動機制御部および前記パーキングポールの動作を制御するパーキング機構制御部とを含む制御部と、を有し、前記パーキングギヤの歯数は前記電動機の極数と比例する数であり、前記パーキングギヤの歯位置は前記電動機の前記ロータに配置された磁極の中心位置と位相が一致するように配置され、前記制御部は、パーキング機構の作動前に、前記ロータのd軸が前記ステータの磁界に一致するように前記ステータに線間電流を通電することで、前記パーキングポールの爪と前記パーキングギヤの歯溝とが噛み合い可能な位置に前記パーキングギヤを停止させる、ことを特徴とする。
このようにパーキング機構の作動前に線間電流を通電することでパーキングギヤの歯溝がパーキングポールの爪と噛み合い可能な位置に停止するので、パーキングポールの爪がパーキングギヤに乗り上げる事態を確実に防止できる。したがって、従来のようなレゾルバを用いてパーキングギヤの位置を推定したり電動機の停止位置を繊細に制御したりする必要がなく、簡単な制御によりパーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせることができ、確実な車両固定が可能となる。また、車両の制御の簡素化によってシステム全体の小型軽量化を図ることで、車両のエネルギー効率の改善を図ることができる。
本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記電動機が回生状態であって前記車両が停止すると推定された時に、前記ロータのd軸が前記ステータの磁界に一致するように前記ステータに線間電流を通電することで、前記パーキングポールの爪と前記パーキングギヤの歯溝とが噛み合う位置に前記パーキングギヤを停止させることができる。したがって、電動機が回生状態であって車両が停止すると推定されたことをパーキング制御開始の条件にすることができる。
本発明の一態様によれば、前記車両が停止すると推定する条件は、アクセルが踏まれていないこと、またはブレーキ力が所定値以上であることのいずれかであり得る。また前記車両が停止すると推定する条件は、車速が所定値以下であること、または減速加速度が所定値以下であることのいずれかであり得る。これらにより車両が停止すると推定する条件を既存の検出値から設定できる。
本発明の一態様によれば、前記パーキングギヤの歯数は前記電動機の極対数のn倍(nは2以上の整数)であり得る。パーキングギヤの歯数と電動機の極対数との関係を整数倍に設定することで、パーキングギヤの歯位置と電動機のロータに配置された磁極の中心位置との位相の一致が容易になる。
本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記車両に設けられた傾斜センサにより検出された傾斜状態に応じて、前記ステータに通電する線間電流の大きさを制御することができる。これにより勾配状態に応じた安定したパーキングが可能となる。
本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記パーキングギヤとの噛み合い状態から前記パーキングポールを解除するとき、前記パーキング機構の作動前に通電された前記線間電流と同じ線間電流を通電することができる。これによりパーキングポールの解除時の荷重を低減できる。
本発明の一態様によれば、前記パーキング機構は電動モータによって作動可能である。これにより簡単な制御によりパーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせることができ、確実な車両固定が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせる制御を簡略化でき、かつ確実な車両固定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態によるパーキング機構の概略的構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は本実施形態によるパーキング機構における電動機の一例を示す模式的構成図である。
【
図3】
図3は本実施形態によるパーキング機構における電動機の他の例を示す模式的構成図である。
【
図4A】
図4Aは本実施形態における走行中のロックなし状態でのパーキングロック機構を示す模式的構成図である。
【
図4B】
図4Bは本実施形態におけるロック状態でのパーキングロック機構を示す模式的構成図である。
【
図5】
図5は本実施形態における電動機ステータの線間通電状態の一例を示す図である。
【
図6】
図6は本実施形態における電動機に供給される3相交流と線間通電時の印加電流の大きさを例示する電流波形図である。
【
図7】
図7は本実施形態における電動機ステータの界磁軸とロータd軸とが対向する状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は本実施形態における電動機ステータの界磁軸とロータd軸とが一致する状態を示す模式図である。
【
図9】
図9は本実施形態における電動機ステータに線間通電した時に斥力が働き収束しない磁界状態を例示する模式図である。
【
図10】
図10は本実施形態における電動機ステータに線間通電した時に引力が働き収束する磁界状態を例示する模式図である。
【
図11】
図11は電動機ロータの初期角度に対する発生トルクの変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は本実施形態によるパーキング機構の制御の第1例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は本実施形態によるパーキング機構の平地での制御例を示すタイムチャートである。
【
図14】
図14は電動機ロータの初期角度に対する発生トルクが印加電流の大きさに対してどのように変化するかを例示するグラフである。
【
図15】
図15は本実施形態によるパーキング機構の制御の第2例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は本実施形態によるパーキング機構の上り坂での制御例を示すタイムチャートである。
【
図17】
図17は本実施形態によるパーキング機構の下り坂での制御例を示すタイムチャートである。
【
図18】
図18は本実施形態によるパーキング解除制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態の概要>
本発明によれば、パーキングギヤは電動機の回転軸に連結され、電動機の極数に比例した歯数を有する。パーキングギヤの歯位置は電動機のロータの磁極中心位置と位相が実質的に一致するように配置される。制御部は、パーキング機構の作動前に、ロータのd軸がステータの磁界と一致するようにステータに線間電流を通電する。これによりパーキングギヤは、その歯溝がパーキングポールの爪と噛み合う位置に停止する。したがって、従来のようなレゾルバを用いてパーキングギヤの位置を推定したり電動機の停止位置を繊細に制御したりする必要がなく、簡単な制御によりパーキングギヤとパーキングポールの爪とを噛み合わせることができ、確実な車両固定が可能となる。なお、ロータのd軸がステータの磁界と一致するとは、d軸と磁界が完全に一致する場合だけでなく、完全一致しなくともパーキングギヤの溝とパーキングポールの爪とが噛み合い可能な程度にd軸と磁界との位置が合う場合を含む。以下、ロータのd軸とステータの磁界との一致は、この実質的一致を含むものとする。
【0012】
以下、本発明の実施形態および実施例について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
以下、車両の駆動源としての電動機(以下、MOTと記す。)、パーキングギヤおよびパーキングポールの構成および機能について説明する。MOTは3相交流により駆動される同期モータであり、ここでは埋込磁石構造の同期モータを例示する。
【0014】
1.構成
図1に例示するように、MOT100はロータ110とステータ111とを有し、ロータ110に回転軸であるモータシャフト101が固定されている。ここではモータシャフト101にパーキングギヤ102が直接固定される。ただし、モータシャフト101の回転位置とパーキングギヤ102の歯位置とが互いに一意に決定される歯車等の動力伝達系を通してモータシャフト101とパーキングギヤ102とが連結されてもよい。なおモータシャフト101の回転は、直接あるいは図示しない動力伝達装置を介して駆動輪へ伝達される。
【0015】
後述するようにパーキングギヤ102は、ロータ110の磁極の位置とギヤ歯の位置との位相が一致するようにモータシャフト101に固定される。パーキングギヤ102の近傍にはパーキングポール210の爪211が矢印Px方向に移動可能に配置され、パーキング機構が作動すると爪211がパーキングギヤ102と噛み合う。後述するようにパーキングポール210の爪211はアクチュエータ301により矢印Px方向に移行可能である。
【0016】
以下、説明を容易にするために、MOT100のモータシャフト101の回転軸方向をZ軸、モータシャフト101に直交しパーキングポール210の爪211が移動する矢印Px方向をX軸、Z軸およびX軸に直交する方向をY軸とする。したがって、MOT100のロータ110およびパーキングギヤ102はXY平面上で回転する。
【0017】
MOT100のステータ111はインバータ302から三相交流(U、V、W)が供給されることで回転磁界を発生させ、ロータ110を回転させる。ここでロータ110には所定極数の永久磁石が埋め込まれており、ロータ110の径外方向に向いたN極の磁界の向きがd軸である。インバータ302はコンバータ303を介してバッテリ304から直流電源を入力し、上述した3相交流あるいは所定の線間電流をMOT100のステータ111へ供給することができる。
【0018】
以下、線間電流を供給/通電することを線間通電という。線間通電とは、ステータ111の3相(U、V、W)巻線のうち任意の2相(U-V、V-WあるいはW-U)に直流電流を通電し、残りの1相には通電しない通電方式をいう。この通電される2相の巻線を流れる電流が線間電流である。後述するように、インバータ302がU-V、V-W、W-Uのいずれか1つに線間通電することでロータ110を所定の角度位置に固定することができる。
【0019】
制御部305はMOT制御部とパーキング機構制御部とを別個に含んでもよいし、パーキング機構制御およびMOT制御を含む車両制御を行うECU(Electronic Control Unit)であってもよい。以下、制御部305が主にアクチュエータ301およびインバータ302を制御するものとする。本実施形態では、制御部305は運転時にはインバータ302を制御してMOT100へ3相交流を通電してMOT100を回転させる。またパーキング時にはインバータ302を制御してMOT100へ所定の線間通電を行いMOT100を所定の角度位置に停止させ、続いてアクチュエータ301を制御してパーキングポール210の爪211をパーキングギヤ102の歯溝へ噛み合わせる。
【0020】
なお、MOT100のモータシャフト101には、通常、ロータ110の位置を検出するレゾルバRが設けられている。レゾルバRにより検出されたロータ110の角度位置と線間通電により得られるロータ110の理論的な角度位置とを比較することで、現在のロータ110の位置に最も近いステータ磁界を形成する線間通電を選択してもよい。これにより高速且つスムーズなパーキングロックが可能となる。
【0021】
またレゾルバRにより検出されたロータ110の角度位置と線間通電により得られる理論的な角度位置とを比較することでロータ110の位置を正確に補正することもできる。このような正確な角度位置の検出によりMOT100の実トルクを高精度に算出することも可能となる。
【0022】
1.1)パーキングギヤとロータ磁極
図2に例示するように、MOT100が8極(4極対)のMOT100aであれば、ロータ110aのロータコア内には8個の永久磁石PM1~PM8が極性を交互に等間隔で埋め込まれ、ロータ110a側の磁界を形成している。ロータコアにはモータシャフト101が固定され、さらにモータシャフト101にはパーキングギヤ102aが次に述べる位置関係で固設されている。
【0023】
MOT100aのXY平面に沿った断面は、
図2に示すようにロータ110aとステータ111aとがモータシャフト101を中心として同心円を形成すると見なすことができる。この図において、パーキングギヤ102aは、その各歯Tの中心がロータ110aの一磁極を形成する扇部分120の中心線と重なる位置関係でモータシャフト101に固設される。言い換えれば、パーキングギヤ102aの歯形の回転軸周りの周期がロータ110aの永久磁石PM1~PM8による磁界の周期と一致し、かつ位相も一致するように、パーキングギヤ102aとロータ110aとがモータシャフト101に固設される。
【0024】
本実施形態によれば、それぞれの位相を一致させてパーキングギヤ102aとロータ110aとを固定することで、パーキングポール210の爪211の位置をパーキングギヤ102aの歯溝の位置と一致させることが容易になる。このような位置関係を確定するために、パーキングギヤ102aのシャフト貫通部と、その取付位置に対応するモータシャフト101の周上に一定間隔で位置決め用の突起あるいは凹部を設けてもよい。
【0025】
ここで、ロータ110aのN極の磁界方向をd軸とすれば、後述するように、パーキング機構の作動前に、ステータ111aの扇部分120の中心線がS極となるようにステータ111aに線間電流を供給する。これによりロータ110aのd軸で示すN極とステータ111aのS極とが同じ扇部分120で引き合って停止する。このときロータ110aが一方に回転しようとすれば、それと釣り合うトルクが発生し、ロータ110aの回転が抑制される。この負荷トルクは線間電流の大きさに依存する。
【0026】
このようにステータ111aに線間電流を通電することでロータ110aを所定の角度位置で停止させることができ、そのときのパーキングギヤ102aの歯溝の位置をパーキングポール210の爪211の位置と常に一致させることができる。したがって、制御部305は、ステータ111aに線間電流を通電するだけでロータ110aを停止させ、アクチュエータ301によりパーキングポール210の爪211を矢印Px方向に移動させてパーキングギヤ102の歯溝と噛み合わせることができる。その際、ロータ位置の推定および繊細なモータ制御は不要となる。
【0027】
以上述べたパーキングギヤとロータ磁極との位置関係は、MOT100の磁極数には依存しない。
図3に例示する12極(6極対)のMOT100bであっても同様である。
【0028】
図3において、ロータ110bのロータコア内には12個の永久磁石PMが極性を交互に等間隔で埋め込まれ、ロータ110b側の磁界を形成している。ロータコアにはモータシャフト101が固定され、さらにモータシャフト101にはパーキングギヤ102bが上述した位置関係で固設されている。
【0029】
MOT100bのXY平面に沿った断面は、
図3に示すようにロータ110bとステータ111bとがモータシャフト101を中心として同心円を形成すると見なすことができる。この図において、パーキングギヤ102bは、その各歯Tの間(歯溝)の中心がロータ110bの一磁極を形成する扇部分121の中心線と重なる位置関係でモータシャフト101に固設される。言い換えれば、パーキングギヤ102bの歯形の回転軸周りの周期がロータ110bの12個の永久磁石(図示しないPM1~PM12)による磁界の周期と一致し、かつ位相も一致するように、パーキングギヤ102bとロータ110bとがモータシャフト101に固設される。
【0030】
本実施形態によれば、それぞれの位相を一致させてパーキングギヤ102bとロータ110bとを固定することで、パーキングポール210の爪211の位置をパーキングギヤ102bの歯溝の位置と一致させることが容易になる。このような位置関係を確定するために、パーキングギヤ102bのシャフト貫通部と、その取付位置に対応するモータシャフト101の周上に一定間隔で位置決め用の突起あるいは凹部を設けてもよい。
【0031】
後述するように、パーキング機構の作動前に、ステータ111bの扇部分121の中心線がS極となるようにステータ111bに線間電流を通電する。これによりロータ110bのd軸で示すN極とステータ111bのS極とが同じ扇部分121で引き合って停止する。このようにステータ111bに線間電流を通電することでロータ110bを所定の角度位置で停止させることができ、そのときのパーキングギヤ102bの歯溝の位置をパーキングポール210の爪211の位置と常に一致させることができる。したがって、制御部305は、ステータ111bに線間電流を通電するだけでロータ110bを停止させ、アクチュエータ301によりパーキングポール210の爪211を矢印Px方向に移動させてパーキングギヤ102の歯溝と噛み合わせることができる。
【0032】
以上述べたように、
図2に示す8極(4極対)のMOT100aでは、パーキングギヤ102aの各歯Tの中心がロータ110aの一磁極の中心線と重なる位置関係であり、その結果パーキングギヤ102aの歯数は8本となる。また
図3に示す12極(6極対)のMOT100bでは、パーキングギヤ102bの各歯溝の中心がロータ110bの一磁極の中心線と重なる位置関係であり、その結果パーキングギヤ102bの歯数は12本となる。したがってパーキングギヤ102はMOT100の極数と同じ数の歯数を有する。
【0033】
すなわちパーキングギヤ102の歯数はMOT100の極数あるいは極対数に比例する。さらにパーキングギヤ102の歯位置の位相はMOT100のロータ110における磁極の位相と実質的に同じである。ロータの固定に線間電流を利用する場合、一般に、nを2以上の整数とすれば、n極対のMOT100では2n本の歯数を有するパーキングギヤ102をロータ磁極と同じ位相でモータシャフト101に組み付ければよい。
【0034】
このようなパーキングギヤ102を用いることで、ステータ111に線間電流を通電するだけでロータ110を所定位置で停止させ、パーキングポール210の爪211をパーキングギヤ102の歯溝と噛み合わせることができる。その際、ロータ位置の推定および繊細なモータ制御は不要となる。
【0035】
なお、ロータの固定に3相コイルに直流を通電すれば、任意の角度でロータを固定することができる。
【0036】
また、パーキングポール210の爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合った状態でのパーキングギヤ102の回転可能範囲(がたつき)は許容範囲内であることが必要である。駆動輪の許容回転角は大略1/60回転であり、2~3cm程度の移動量に相当する。この許容タイヤ回転角の場合、4極対のMOT100aであればパーキングギヤから駆動輪までの経由レシオが約7.5以上に設定され、6極対のMOT100bであれば約5以上に設定される。経由レシオは大きいほどタイヤの移動量が小さくなる。
【0037】
1.2)パーキングロック機構
図4Aおよび
図4Bに例示するように、本実施形態におけるパーキングロック機構は、パーキングポール210、パーキングロッド220および係止部230を有する。パーキングポール210は爪211を一端に設けたアーム212を有し、爪211はパーキングギヤ102側に向いて設けられている。アーム212の他端は支軸213により回転自在に支持されている。またアーム212は図示しないバネ等の付勢手段により矢印214方向に付勢されている。
【0038】
パーキングロッド220は径の小さい先端部221と先端からY軸負方向に向けて径が所定の勾配で次第に大きくなるコーン222とからなる。パーキングロッド220はアクチュエータ301により矢印Pz方向に移動可能である。パーキングロッド220はパキングポール210と係止部230との間に配置される。
図4Aに示すように、パーキングロックされていない状態ではパーキングロッド220は矢印D方向に移動する。これにより先端部221が係止部230とアーム212との間に挟まれ、爪211がパーキングギヤ102から離れる。したがってパーキングギヤ102は自在に回転可能である。
【0039】
図4Bに示すように、パーキングロックが作動すると、パーキングロッド220は矢印P方向に移動する。これによりコーン222の傾斜部が係止部230とアーム212との間に挿入され、パーキングポール210は矢印215方向に回転して爪211がパーキングギヤ102と噛み合う。これによりパーキングギヤ102の回転が係止されMOT100のモータシャフト101が固定される。上述したようにMOT100のロータ110は所定の角度位置で停止するので、そのときのパーキングギヤ102の歯溝の位置とパーキングポール210の爪211の位置とは常に一致する。したがって、MOT100を微細に制御することなく爪211をパーキングギヤ102に噛み合わせることができる。
【0040】
1.3)ロータの停止位置と発生トルク
ロータ110を所定位置で停止させる方式として、U-V、V-WあるいはW-Uのいずれか一つの線間電流を通電する線間通電方式と、U、VおよびWの3相で通電する3相通電方式がある。線間通電方式では、どの線間でどの方向に通電するかにより決定される離散的な角度でロータ110を停止させることができる。3相通電方式では、各相に任意の電流を通電することで任意の角度でロータ110を停止させることができる。
【0041】
図5および
図6に示すように、インバータ302はステータ111の3相巻線にそれぞれ相電流を供給することができる。
図6には3相交流とそれにより形成される磁界の角度(電気角θ)との関係が示される。極対数p=6のMOT100bであれば、ロータ110bの回転角(機械角θm)はθm=θ/pとなる。ここでは、
図5に示すようにW相とV相の巻線に対して矢印で示す方向に相電流を供給し、それにより生成されるステータ111の磁界に応じてロータ110が停止するものとする。
【0042】
図6に示すように、V-W通電による電気角θ=0°とすれば、V-U通電、W-U通電・・・により離散的な電気角が得られ、それぞれの電気角に対応する機械角、すなわちロータ110の角度位置が決定される。以下、W-Vの線間通電によりロータ110の停止位置を決定するものとする。本実施形態では、パーキングギヤ102の任意の歯溝がパーキングポール210の爪211の位置と一致すればよい。したがってW-Vの線間通電時のロータ110の停止位置がパーキングギヤ102の歯溝と爪211の位置とを対応させるように設計すればよい。
【0043】
線間通電方式では、ステータ111に通電される電流位相は固定され、ロータ110が移動することで負荷に釣り合うトルクが発生する。これによりW-Vの線間通電によりロータ110の停止位置を安定させることができる。以下、
図7および
図8を参照しながらロータd軸およびステータ界磁軸の状態と発生トルクについて説明する。ここでは6極対のMOT100bを例示する。
【0044】
図7に示すようにd軸方向のロータ磁界MFrとステータ磁界MFsとが同じ向きの場合を電気角θ=0°とすれば、回生時はθ=180°(π)近傍の状態である。それに対してθ=±180°(π)位相を変えて線間通電すると、
図8に示すようにロータ110bの停止位置を安定させる事が出来る。
【0045】
すなわち、
図8の電気角-トルク特性に示すように、ロータ110bが電気角θ=360°より小さい状態で線間通電を行うと、ロータ磁界MFtとステータ磁界MFsが一致するように回生トルクが発生し、電気角θ=360°より大きい時状態で線間通電を行うと、ロータ磁界とステータ磁界が一致するように駆動トルクが発生する。したがって、ロータ110bはいずれの方向に回転しようとしても電気角θ=360°の位置へ引き戻すトルク(引力)が発生する。
【0046】
以下、
図9~
図11を参照しながら、8極のMOTの場合の斥力および引力について説明する。なお、
図9および
図10における状態a、b、c、dはそれぞれ
図11に示すグラフの点a、b、c、dに対応する。
【0047】
図9および
図11における状態aは、ロータd軸が電流位相角180°より位相が若干小さい状態で線間通電(V-W)を行う場合を示している。この場合、トルクが反時計回り(CCW)方向に働く斥力となり収束しない。
図9および
図11における状態bは、ロータd軸が電流位相角180°より位相が若干大きい状態で線間通電(V-W)を行う場合を示している。この場合はトルクが時計回り(CW)方向に働く斥力となり、同様に収束しない。
【0048】
これに対して、
図10および
図11における状態cは、ロータd軸が電流位相角360°より位相が若干小さい状態で線間通電(W-V)を行う場合を示している。この場合、トルクが時計回り(CW)方向に働く引力となるために収束する。
図10および
図11における状態dは、ロータd軸が電流位相角360°より位相が若干大きい状態で線間通電(W-V)を行う場合を示している。この場合はトルクが反時計回り(CCW)方向に働く引力となるために、同様に収束する。
【0049】
2.動作
以下、本実施形態によるパーキング機構における平地でのパーキング制御について
図1、
図12および
図13を参照して説明し、傾斜地でのパーキング制御について
図1、
図14~
図17を参照して説明する。なお、平地か傾斜地かの判断、および傾斜地に勾配状態の判断は、車両に設けられた勾配検出器により判定してもよいし、減速時の回生発電量により判断してもよい。
【0050】
2.1)平地でのパーキング制御
図12において、制御部305はブレーキ(BRK)操作によって車両が緩やかな減速状態であるか否かを判断する(ステップ401)。この判断については、ブレーキ踏力(ブレーキシリンダ圧、ポジションセンサ)、減速加速度などを指標とし、運転者の意図的な減速であるか否かを判断する。また急ブレーキなどの急激な減速は本実施形態による制御から除外される(ステップ401のNO)。
【0051】
ブレーキ操作による緩やかな減速であれば(ステップ401のYES)、制御部305はMOTが回生状態で停止に十分な車速まで減速したか否か、すなわちMOT100が回生状態から滑らかに車速がゼロ近傍に収束しているか否かを判断する(ステップ402)。この判断については、アクセル開度、ブレーキ踏力およびMOT回転数を指標とする。たとえばアクセル開度指令がなく、ブレーキ踏力指令があり、MOT回転数が停止しても乗り心地に影響しない回転数以下に低下しているという条件を満たしているか否かが判断される。MOTが回生状態で停止に十分な車速まで減速していなければ(ステップ402のNO)、ステップ401へ戻り、十分低速になるまでステップ401および402を繰り返す。
【0052】
MOTが回生状態で停止に十分な車速まで減速すると(ステップ402のYES)、制御部305はインバータ302を制御して所定の線間(ここではW-V相巻線)に線間通電を行う(ステップ403)。これによりロータ110が停止すると、上述したようにパーキングギヤ102は、その歯溝がパーキングポール210の爪211の位置と合致した状態で停止する。この状態で運転者がパーキングレンジ操作を行うと(ステップ404)制御部305はアクチュエータ301を駆動し、
図4Bに示すようにパーキングポール210が矢印215方向に回動し爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合う(ステップ405)。最後にブレーキを解除し(ステップ406)、パーキング制御を終了する。なお、パーキング機構はモータにより作動してもよい。
【0053】
図13において、ブレーキ操作が開始された時点t0で、MOT100は回生状態となり、それに伴い車速が徐々に減少し、MOT100の回生による3相電流およびステータ111の磁界のd軸からの進み位相角βも徐々に小さくなる。位相角βは指定値πへ向かって減少する。
【0054】
制御部305は、時点t1で車速がほぼ0になったと判断すると、時点t2までW-V間通電を行い、MOT100を所定のロータ位置で停止させる。その時に発生し得る負荷トルクはW-V線間を流れる線間電流の大きさに依存する。W-V線間通電によりロータ110が停止すると、既に述べたように、パーキングギヤ102の歯溝はパーキングポール210の爪211の位置と一致する。したがって時点t2でMOT100が停止しパーキングレンジが選択されることで、
図4Bに示すようにパーキングポール210が矢印215方向に回動して爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合い車両が固定される。
【0055】
本実施形態によれば、パーキングレンジの操作によりパーキングポール210の爪211が常にパーキングギヤ102の歯溝に噛み合う。したがって、従来のように爪211がパーキングギヤ102の歯に乗り上げることがなく、最後にブレーキを解除しても車両が移動する事態を確実回避することができる。
【0056】
2.2)坂道でのパーキング制御
車両が坂道を走行し傾斜地でパーキングする場合、制御部305は上述の平地と同様にパーキング制御を行うが、坂道の勾配状態に応じて線間電流の大きさを制御する点が異なっている。
【0057】
図14は、
図11に示す電気角-トルク特性が印加電流の大きさによりどのように変化するかを例示している。ロータ110を所定位置に停止させる強制トルクは、印加する線間電流の大きさによって異なる。線間電流が要求に対して大きすぎるとオーバーシュート量が大きくなり、ロータ位置の収束が遅くなる可能性がある。要求値は勾配状態に依存するので、傾斜度によって印加する線間電流を変化させるように制御する。これによりロータ位置の収束性が良好になり、理想的なパーキングギヤの噛み合いが実現できる。
【0058】
図15は、
図12に示す平地でのパーキング制御と基本的に同じであるが、坂道の勾配状態に応じて線間電流の大きさを制御する点が異なっている。したがって
図12と同様の処理は同じ参照番号を付して説明は簡略化する。
【0059】
図15において、MOTが回生状態で停止に十分な車速まで減速すると(ステップ402のYES)、制御部305は図示しない傾斜センサから勾配状態を入力する(ステップ501)。なお、傾斜センサではなく、MOT100の回生量から勾配状態を反転することもできる。
【0060】
続いて、制御部305は、インバータ302を制御して所定の線間(ここではW-V相巻線)に勾配状態に応じた大きさの線間通電を行う(ステップ502)。これによりロータ110が停止すると、上述したようにパーキングギヤ102は、その歯溝がパーキングポール210の爪211の位置と合致した状態で停止する。この状態でパーキングレンジが選択されることで(ステップ404)、爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合う(ステップ405)。最後にブレーキを解除し(ステップ406)、パーキング制御を終了する。以下、上り坂の場合と下り坂の場合のMOT動作について
図16よび
図17を参照して説明する。
【0061】
<上り坂>
図16において、ブレーキ操作が開始された時点t0で、MOT100は回生状態となり、それに伴い車速が徐々に減少し、MOT100の回生による3相電流およびステータ111の磁界のd軸からの進み位相角βも徐々に小さくなる。位相角βは指定値πへ向かって減少する。
【0062】
制御部305は、時点t1で車速がほぼ0になったと判断すると、時点t2まで傾斜状態に応じた大きさの電流でW-V線間通電を行い、MOT100を所定のロータ位置に停止させる。ロータの移動を制止する強制トルクは
図14に示すように線間電流の大きさによって決定される。上り坂での停止遷移では、回生トルクは小さくなるが、停止直前では、傾斜による車両後ろ向き荷重に打ち勝つように要求されるロータ位置強制トルクは大きくなる。その為、印加する線間電流は大きくなるよう制御される。
【0063】
W-V線間通電によりロータ110が停止すると、既に述べたように、パーキングギヤ102の歯溝はパーキングポール210の爪211の位置と一致する。したがって時点t2でMOT100が停止したときに、EPBを作動させると、
図4Bに示すようにパーキングポール210が矢印215方向に回動して爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合い車両が固定される。
【0064】
<下り坂>
図17において、ブレーキ操作が開始された時点t0で、MOT100は回生状態となり、それに伴い車速が徐々に減少し、MOT100の回生による3相電流およびステータ111の磁界のd軸からの進み位相角βも徐々に小さくなる。位相角βは指定値πへ向かって減少する。
【0065】
制御部305は、時点t1で車速がほぼ0になったと判断すると、時点t2まで傾斜状態に応じた大きさの電流でW-V線間通電を行い、MOT100を所定のロータ位置に停止させる。ロータの移動を制止する強制トルクは
図14に示すように線間電流の大きさによって決定される。ただし、下り坂での停止遷移は、回生トルクは大きくなるが、停止直前では傾斜による車両前方荷重が作用するために要求されるロータ位置強制トルクは小さくなる。その為、印加する線間電流は小さくなるよう制御される。
【0066】
W-V線間通電によりロータ110が停止すると、既に述べたように、パーキングギヤ102の歯溝はパーキングポール210の爪211の位置と一致する。したがって時点t2でMOT100が停止したときに、EPBを作動させると、
図4Bに示すようにパーキングポール210が矢印215方向に回動して爪211がパーキングギヤ102の歯溝に噛み合い車両が固定される。
【0067】
2.3)パーキング解除制御
上述した傾斜環境においてパーキングポール210の爪211がパーキングギヤ102と噛み合っている場合、車両が坂道を下る方向に力が働く。この力が駆動輪を通してパーキングギヤ102に伝わりパーキングギヤ102に回転方向の力が作用する。これによりパーキングギヤ102と噛み合っているパーキングポール210の爪211に大きな力がかかり、爪211にX軸正方向に抜ける力が作用し、これにより
図4Bに示すパーキングロッド220が強く押圧される。このために
図4Aに示すように矢印D方向にパーキングロッド220を引き抜くための荷重が増大し、引き抜き装置が大型化する。特にパーキングギヤ102の径を小さくしてギヤの周速を低下させた場合に引き抜き荷重の増大という問題が顕著となる。
【0068】
そこで本実施形態によれば、パーキング解除時にパーキングロック時と同じ線間通電を行うことでパーキングロッド220の引き抜き荷重を低減する。以下、
図18を参照して説明する。
【0069】
図18において、制御部305は、パーキング解除条件(たとえばパーキング状態でパワースイッチがON、ブレーキ操作されている)を満たしているか否かを判断する(ステップ601)。パーキング解除条件を満たしていると(ステップ601のYES)、制御部305はパーキング解除指示があったかどうかを判断する(ステップ602)。パーキング解除指示がなければ(ステップ602のNO)ステップ601に戻る。
【0070】
パーキング解除指示があると(ステップ602のYES)、制御部305はパーキングロック時と同じ線間通電を行う(ステップ603)。このときパーキングポール210の爪211に抗してパーキングギヤ102が移動していると、
図14に示すように電気角θ=360°へ戻すトルクが発生するので、爪211とパーキングギヤ102との押圧力は減少する。したがって、アクチュエータ301によるパーキングポール210の爪211の引き抜き時の荷重は軽減され、パーキング解除が容易になる(ステップ604)。
【0071】
以上述べたように、傾斜環境でパーキングロッド220を引き抜く際に、パーキングロック時と同じ線間通電を行うことで、パーキングギヤ102の歯溝中央とパーキングポール210の爪211との位置ずれが軽減され、パーキングロッド220の引き抜き荷重の低減が可能となる。また大きな荷重でパーキングロッド220を引き抜いたときに発生する衝撃を防止できるという利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、電気自動車におけるパーキング機構に適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
100、100a、100b 電動機
101 モータシャフト(回転軸)
102、102a、102b パーキングギヤ
110、110a、110b ロータ
111、111a、111b ステータ
210 パーキングポール
211 爪
220 パーキングロッド
230 係止部
301 アクチュエータ
302 インバータ
305 制御部