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特開2024-32235電柱耐震補強工事の施工治具及び施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032235
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】電柱耐震補強工事の施工治具及び施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/28 20060101AFI20240305BHJP
   E02D 37/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D37/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135792
(22)【出願日】2022-08-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】591075641
【氏名又は名称】東鉄工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】草野 英明
(72)【発明者】
【氏名】小林 昂樹
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041CB06
2D041DB02
(57)【要約】
【課題】重量物である鋼管ユニットを電化柱と壁高欄との狭隘な隙間に安全に容易、且つ、列車が運行しない夜間の限られた時間内の短時間に設置可能な電柱耐震補強工事の施工治具及び施工方法を提供する。
【解決手段】既設の電化柱EPの外側に補強鋼管(耐震補強鋼管ユニット10)を設置して補強する電柱耐震補強工事の施工治具1において、電化柱EPに固定するための電化柱固定バンド2と、この電化柱固定バンド2に接合された平面視円形状又は円弧状のリングレール3と、このリングレール3上を走行するガイドローラー41を有して補強鋼管ユニット10を吊下げるハンガー部材4と、を備え、耐震補強鋼管ユニット10をハンガー部材4で吊下げた状態でガイドローラー41を用いてリングレール3上を走行させることで耐震補強鋼管ユニット10を人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の電化柱の外側に補強鋼管ユニットを設置して補強する電柱耐震補強工事の施工治具であって、
前記電化柱に固定するための電化柱固定バンドと、この電化柱固定バンドに接合された平面視円形状又は円弧状のリングレールと、このリングレール上を走行するガイドローラーを有して前記補強鋼管ユニットを吊下げるハンガー部材と、を備え、
前記補強鋼管ユニットをハンガー部材で吊下げた状態で前記ガイドローラーを用いて前記リングレール上を走行させることで前記補強鋼管ユニットを人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置可能に構成されていること
を特徴とする電柱耐震補強工事の施工治具。
【請求項2】
前記電化柱固定バンドは、半割円筒状に曲げ加工された左右一対の鋼製バンドの一端同士が蝶番で開閉自在に接合されていること
を特徴とする請求項1に記載の電柱耐震補強工事の施工治具。
【請求項3】
前記リングレールは、円形状を構成する一部が脱着自在に構成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の電柱耐震補強工事の施工治具。
【請求項4】
前記鋼製バンドには、前記既設の電化柱にモルタル注入用の孔を削孔する削孔機又はそのガイド機構を固定するためのナットが設けられていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の電柱耐震補強工事の施工治具。
【請求項5】
ハンガー部材は、ねじ部とフック部が形成されたフックボルトと、このフックボルトのねじ部と螺合するナットと、を有し、長さ調整自在となっていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の電柱耐震補強工事の施工治具。
【請求項6】
請求項1に記載の電柱耐震補強工事の施工治具を用いて、前記既設の電化柱の外側に前記補強鋼管ユニットを設置して補強する電柱耐震補強工事の施工方法であって、
前記補強鋼管ユニットをハンガー部材で吊下げた状態で前記ガイドローラーを用いて前記リングレール上を走行させることで前記補強鋼管ユニットを人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置すること
を特徴とする電柱耐震補強工事の施工方法。
【請求項7】
前記補強鋼管ユニットの下端と前記既設の電化柱の基礎との間に、前記補強鋼管ユニットを挿し込む凹溝が形成された断面凹字状のゴム材を介装して前記補強鋼管ユニットと前記既設の電化柱との隙間にモルタルを充填すること
を特徴とする請求項6に記載の電柱耐震補強工事の施工方法。
【請求項8】
前記補強鋼管ユニットの上端に、ボルトが突没自在で長さ調整可能なスペーサー治具を装着し、前記補強鋼管ユニットと前記既設の電化柱との間隔を保持してモルタルを充填すること
を特徴とする請求項6又は7に記載の電柱耐震補強工事の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電化柱の電柱耐震補強工事の施工治具及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年に発生した東日本大震災では、鉄道構造物も大きな被害を受け、特に鉄道高架橋に建植されたPC電化柱に想定外の水平荷重が入力されることによりコンクリートが圧壊し、PC電化柱が脆性的な破壊形態を示して、走行中の列車に接触するおそれがあるなど安全上の問題となった。また、PC電化柱の倒壊が、鉄道の運転再開までに時間を要する要因となってしまうという問題もあった。
【0003】
そこで、PC電化柱の外側に鉄筋を溶接した鋼管ユニットを設置し、鋼管ユニットとPC電化柱との隙間に無収縮モルタルを充填し、鋼管ユニットの中段部でPC電化柱のPC鋼線を切断することでPC電化柱に変形性能を付与する耐震補強方法が提案されるに至った。このように、PC電化柱に耐震補強工事を施すことにより、PC電化柱が鉄筋の変形により地震エネルギー吸収することが可能となった。
【0004】
例えば、特許文献1には、上下方向にわたって柱体補強線材7が内部に配置され、下部が基礎部4に埋設された柱体5と、前記基礎部4とを固定する柱体の固定構造1であって、前記柱体5の外周部5Xの下部に設けられた下側補強部20と、前記下側補強部20の上方において前記外周部5Xに設けられた上側補強部40と、前記柱体5の前記下側補強部20と前記上側補強部40との間における前記外周部5Xに設けられた中間補強部30と、下端部が前記基礎部4よりも上方に位置して前記下側補強部20に接続され、上端部が前記上側補強部40に接続された複数の改修用補強線材Lと、を備え、前記柱体補強線材7が前記中間補強部30の上下方向位置Pで分断されている柱体の固定構造1が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0020]~[0047]、図面の図1図8等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の柱体の固定構造1を構築するPC電化柱の耐震補強工事では、円周全周を半割りにした半割の鋼管ユニットをPC電化柱の外側に設置する必要があった。このとき、PC電化柱と壁高欄との隙間が65mm程度の狭隘な隙間であるため、半割でも約100kgとなる鋼管ユニットをバール等でこじりながら移動して所定の位置に設置することは困難であるという問題があった。
【0006】
特に、狭隘な隙間に鋼管ユニットを設置する際に、手を挟むなどの危険があるとともに、列車が運行しない夜間の限られた時間の中で、想定以上の時間がかかり、所定の時間中に耐震補強工事が完了できないという問題があった。
【0007】
また、半割の鋼管ユニットを円形状に組合わせた後、無収縮モルタルを打設する際に、下部鋼管ユニットと地際に隙間ができるため、事前に隙間を埋める作業を行う必要がある。しかし、前述のように隙間が狭隘であるため、十分な作業ができず、充填した無収縮モルタルが漏出するという問題が発生する。下部鋼管ユニットと地際の隙間を発泡ウレタンで塞ぐことも考えられるが、発泡ウレタンが硬化するまで時間を要し、結果的に無収縮モルタルの充填が完了するまで時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-83745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、重量物である鋼管ユニットを電化柱と壁高欄との狭隘な隙間に安全に容易、且つ、列車が運行しない夜間の限られた時間内の短時間に設置可能な電柱耐震補強工事の施工治具及び施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、既設の電化柱の外側に補強鋼管ユニットを設置して補強する電柱耐震補強工事の施工治具であって、前記電化柱に固定するための電化柱固定バンドと、この電化柱固定バンドに接合された平面視円形状又は円弧状のリングレールと、このリングレール上を走行するガイドローラーを有して前記補強鋼管ユニットを吊下げるハンガー部材と、を備え、前記補強鋼管ユニットをハンガー部材で吊下げた状態で前記ガイドローラーを用いて前記リングレール上を走行させることで前記補強鋼管ユニットを人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、請求項1に係る電柱耐震補強工事の施工治具において、前記電化柱固定バンドは、半割円筒状に曲げ加工された左右一対の鋼製バンドの一端同士が蝶番で開閉自在に接合されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、請求項1又は2に係る電柱耐震補強工事の施工治具において、前記リングレールは、円形状を構成する一部が脱着自在に構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、請求項1又は2に係る電柱耐震補強工事の施工治具において、前記鋼製バンドには、前記既設の電化柱にモルタル注入用の孔を削孔する削孔機又はそのガイド機構を固定するためのナットが設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、請求項1又は2に係る電柱耐震補強工事の施工治具において、ハンガー部材は、ねじ部とフック部が形成されたフックボルトと、このフックボルトのねじ部と螺合するナットと、を有し、長さ調整自在となっていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る電柱耐震補強工事の施工方法は、請求項1に記載の電柱耐震補強工事の施工治具を用いて、前記既設の電化柱の外側に前記補強鋼管ユニットを設置して補強する電柱耐震補強工事の施工方法であって、前記補強鋼管ユニットをハンガー部材で吊下げた状態で前記ガイドローラーを用いて前記リングレール上を走行させることで前記補強鋼管ユニットを人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置することを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る電柱耐震補強工事の施工方法は、請求項6に係る電柱耐震補強工事の施工方法において、前記補強鋼管ユニットの下端と前記既設の電化柱の基礎との間に、前記補強鋼管ユニットを挿し込む凹溝が形成された断面凹字状のゴム材を介装して前記補強鋼管ユニットと前記既設の電化柱との隙間にモルタルを充填することを特徴とする。
【0017】
請求項8に係る電柱耐震補強工事の施工方法は、請求項6又は7に係る電柱耐震補強工事の施工方法において、前記補強鋼管ユニットの上端に、ボルトが突没自在で長さ調整可能なスペーサー治具を装着し、前記補強鋼管ユニットと前記既設の電化柱との間隔を保持してモルタルを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1~8に係る発明によれば、補強鋼管ユニットをハンガー部材で吊下げた状態でガイドローラーを用いてリングレール上を走行さて前記補強鋼管ユニットを人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置可能に構成されているので、重量物である補強鋼管ユニットを電化柱と壁高欄との狭隘な隙間に安全に容易、且つ、列車が運行しない夜間の限られた時間内の短時間で設置することができる。
【0019】
特に、請求項2に係る発明によれば、電化柱固定バンドは、半割円筒状に曲げ加工された左右一対の鋼製バンドの一端同士が蝶番で開閉自在に接合されているので、電化柱の任意の高さに容易に固定することができる。
【0020】
特に、請求項3に係る発明によれば、リングレールは、円形状を構成する一部が脱着自在に構成されているので、電化柱固定バンドの開閉が自在であるとともに、リングレールを完全な円形にすることができ、補強鋼管ユニットの可動範囲が大きくなり、作業効率が向上する。
【0021】
特に、請求項4に係る発明によれば、前記鋼製バンドには、前記既設の電化柱にモルタル注入用の孔を削孔する削孔機又はそのガイド機構を固定するためのナットが設けられているので、削孔機等を固定するためのアンカー等を設置しなくても、電化柱に固定することができ、モルタル注入用の孔を正確に且つ容易に短時間で削孔することができる。
【0022】
特に、請求項5に係る発明によれば、ハンガー部材が長さ調整自在となっているので、補強鋼管ユニットを吊り上げて水平にする際の作業効率が向上する。
【0023】
特に、請求項7に係る発明によれば、補強鋼管ユニットの下端と既設の電化柱の基礎との間に、補強鋼管ユニットを挿し込む凹溝が形成された断面凹字状のゴム材を介装して補強鋼管ユニットと既設の電化柱との隙間にモルタルを充填するので、下部鋼管ユニットの下端から充填したモルタルが漏出するという問題を解決することができる。
【0024】
特に、請求項8に係る発明によれば、ボルトが突没自在で長さ調整可能なスペーサー治具を装着し、補強鋼管ユニットと既設の電化柱との間隔を保持してモルタルを充填するので、モルタル充填後に補強鋼管ユニットがずれることにより、未硬化のモルタルが漏出するという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、既設PC電化柱の電柱耐震補強工事の概要及び耐震鋼管ユニットにより補強された耐震補強構造を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、上段及び下段の耐震補強構造を示す図1のA-A線断面図である。
図3図3は、中段の耐震補強構造を示す図1のB-B線断面図である。
図4図4は、上段鋼管ユニット(下段鋼管ユニット)の背面パーツを示す図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。
図5図5は、上段鋼管ユニット(下段鋼管ユニット)の正面パーツを示す図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具を接合片に向かった状態で示す正面図である。
図7図7は、同上の施工治具を示す右側面図である。
図8図8は、同上の施工治具を示す平面図である。
図9図9は、同上の施工治具の電化柱固定バンドの開いた状態を示す平面図である。
図10図10は、同上の施工治具のフックボルトを除いたハンガー部材を示す図であり、(a)がガイドローラー側から見た正面図、(b)が左側面図、(c)が挿通部を示す底面図である。
図11図11は、同上のハンガー部材の変形例を示す図であり、(a)がガイドローラー側から見た正面図、(b)が左側面図、(c)が挿通部を示す底面図、(d)がリングレール上に載置した状態で示す平面図である。
図12図12は、同上の施工治具を既設のPC電化柱に装着した状態を示す平面図である。
図13図13は、同上の施工治具の電化柱固定バンドを用いて、削孔機のガイド機構を固定して削孔している電化柱削孔工程を示す施工写真である。
図14図14は、同上の施工治具のハンガー部材で補強鋼管ユニットを吊り上げている状態を示す施工写真である。
図15図15は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法に用いる凹溝が形成された断面凹字状のゴム材を示す断面図である。
図16図16は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法に用いるスペーサー治具を示す図であり、(a)がスペーサー治具のプレート本体のみ外側から見た正面図、(b)がその左側面図である。また、図16(c)は、プレート本体に調整ボルトを装着した状態を示す縮小左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る電柱耐震補強工事の施工治具の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1図5を用いて、電柱耐震補強工事で既設のPC電化柱EPを耐震補強する耐震補強鋼管ユニット10について説明する。図1は、既設のPC電化柱EPの電柱耐震補強工事の概要及び耐震補強鋼管ユニット10により補強された耐震補強構造100を模式的に示す斜視図である。また、図2は、上段及び下段の耐震補強構造100を示す図1のA-A線断面図であり、図3は、中段の耐震補強構造を示す図1のB-B線断面図である。
【0028】
図1に示すように、本発明に係る電柱耐震補強工事は、鉄道高架橋を基礎F1として建植された既設のPC電化柱EPの外周に耐震補強鋼管ユニット10を設置してその隙間S1に無収縮モルタルM1を充填して一体化することで補強して耐震補強構造100を構築するものである。なお、図1の一点鎖線は、壁高欄WBの位置を示している。
【0029】
PC電化柱EPは、直径400mmのPC電化柱を想定しており、背景技術で述べたように、内部のPC鋼線PC1で補強されているものの、大地震等により想定外の水平荷重が入力されることによりPC鋼線PC1が断裂し、PC電化柱EPが脆性的な破壊形態を呈するおそれがある。このため、本発明に係る電柱耐震補強工事では、後で詳述するように、PC電化柱EPを鉄筋が外周面に溶接された耐震補強鋼管ユニット10で補強した後、PC鋼線PC1をワイヤソーで切断する。これにより、耐震補強構造100は、耐震補強鋼管ユニット10の鉄筋が塑性変形することで大地震時の入力エネルギーを吸収して脆性破壊を防ぐ構成となっている。
【0030】
また、鉄道高架橋に建植されるPC電化柱EPは、背景技術で述べたように、高架橋の壁高欄WBとの隙間が最小で65mm以下となる狭隘な隙間となっている場合が多く、重量物である耐震補強鋼管ユニット10を所定の位置に設置することが困難であった。
【0031】
この耐震補強鋼管ユニット10は、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材からなり、図1に示すように、上段鋼管ユニット11,中段鋼管ユニット12,下段鋼管ユニット13を備えている。また、これらの上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13の外周面には、複数本の鉄筋14が溶接されて取り付けられているとともに、鉄筋14が地震エネルギー吸収時に各鋼管プレートから剥離することを防止するための保護鋼材15も取り付けられている。
【0032】
なお、本発明に係る電柱耐震補強工事では、PC電化柱EPの内部空洞EPaに連通するモルタル注入孔INとモルタル吐出確認孔OUTを穿設し、内部空洞EPaにも無収縮モルタルM2を注入充填して補強する。
【0033】
この上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とは、複数本(図示形態では8本)の鉄筋14で連結された上下一対且つ上下対称の部材である。よって、以下は、下段鋼管ユニット13は、符号のみを記載して上段鋼管ユニット11で代替して説明し、詳細な説明は省略する。
【0034】
(上段鋼管ユニット、下段鋼管ユニット)
また、図4図5に示すように、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)は、壁高欄WBとの狭隘な隙間に設置可能とするために、壁高欄WB側となる背面パーツ11a(13a)と、軌道側となる正面パーツ11b(13b)の2つのパーツに分割されている。図4は、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)の背面パーツ11a(13a)を示す図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。また、図5は、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)の正面パーツ11b(13b)を示す図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。
【0035】
図4(a)に示すように、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)の背面パーツ11a(13a)は、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が245mmの半割円筒状に曲げ加工された筒状体110(130)を基体とする部材である。
【0036】
また、図4(a)、図4(b)に示すように、この筒状体110(130)の上端の縁沿いには、ハンガー部材4で吊り上げるためのシャックルを挿通する5カ所の吊上げ孔h1が穿設されている。本実施形態に係る吊上げ孔h1は、直径10mmの孔となっている。
【0037】
その上、図4(a)、図4(b)に示すように、筒状体110(130)には、正面パーツ11b(13b)の筒状体111(131)とボルト接合するための複数(図示形態では8つ)のボルト孔112が穿設されている。また、このボルト孔112の内側となる筒状体110の内周面には、M20のボルトと螺合するナット113が溶接されている。このため、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)は、後述の正面パーツ11b(13b)の筒状体111の外側からボルト孔115にM20のボルトをねじ回すだけで正面パーツ11b(13b)と背面パーツ11a(13a)の接合が短時間で容易にできるようになっている。
【0038】
さらに、図4(a)、図4(b)に示すように、筒状体110の内周面の中心線の上部(筒状体130の内周面の中心線の下部)には、無収縮モルタルがM1を充填するための隙間S1を確保する高さ10mmのスペーサー114(134)が突設されている。このスペーサー114(134)は、厚さ16mmの鋼材のフラットバーからなる。
【0039】
また、図4(a)、図4(b)に示すように、筒状体110の外周面には、D25(SD390)の異形鋼棒からなる鉄筋14が溶接されている。この鉄筋14は、全長900mmで、その上端及び下端から200mmの範囲の長手方向の両端部分が溶接されている。但し、鉄筋14の中間部分は、固定されずフリーとなっており、フリー区間が地震時に塑性変形して入力されたエネルギーを吸収する仕組みとなっている。
【0040】
その上、図4(a)に示すように、鉄筋14は、厚さ4.5mmの長さ200mmのフラットバー14aをスペーサーとして筒状体110の外周面から少し浮かせた状態で端部から200mmの範囲だけフラットバー14aごとK形フレア溶接で強固に固定されている。溶接部分で補強鋼板である筒状体110と一体化するとともに、フラットバー14aの厚みだけ筒状体110から離間させることで、フリーの非溶接部分が、鉄筋14の塑性変形時に筒状体110と接触してエネルギー吸収性能を阻害することを防止するためである。
【0041】
一方、図5(a)に示すように、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)の正面パーツ11b(13b)は、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が254mmの半割円筒状に曲げ加工された筒状体111(131)を基体とする部材である。
【0042】
また、図5(a)、図5(b)に示すように、この筒状体111(130)の上端の縁沿いにも、筒状体110と同様に、直径10mmの孔である3カ所の吊上げ孔h1が穿設されている。
【0043】
[電柱耐震補強工事の施工治具]
次に、図6図11を用いて、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具1(以下単に施工治具1ともいう)について説明する。図6は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具1を接合片に向かった状態で示す正面図であり、図7は、施工治具1を示す右側面図である。また、図8は、施工治具1を示す平面図である。
【0044】
図6図8に示すように、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具1は、PC電化柱EPに固定するための電化柱固定バンド2と、このPC電化柱固定バンド2に接合された平面視円形状のリングレール3と、このリングレール上を走行するガイドローラーを有して耐震補強鋼管ユニット10を吊下げるハンガー部材4と、を備えている。
【0045】
このの施工治具1は、主に、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材からなり、電柱耐震補強工事中に前述の耐震補強鋼管ユニット10をPC電化柱EPに吊下げ支持して狭隘な隙間でも所定の位置に回転移動して設置する施工治具である。
【0046】
(電化柱固定バンド)
電化柱固定バンド2は、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材からなる鋼製バンドである。この電化柱固定バンド2は、バンド本体20と、このバンド本体20の外周面に突設されて放射状に延びる一般構造用圧延鋼板からなる複数のブラケットプレート21など、から構成されている。これらの複数のブラケットプレート21の先端上部にリングレール3が溶接接合されて取り付けられている。
【0047】
バンド本体20は、厚さ6mmの幅75mmの鋼板からPC電化柱EPの外径に応じた半割円筒状に曲げ加工された一対の鋼製の右バンド20a,左バンド20bからなり、これらの右バンド20a及び左バンド20bが、蝶番22で開閉自在に接合されている。前述のように、直径400mmのPC電化柱EPに装着することを想定しているので、図示形態では、右バンド20a及び左バンド20bは、内径が402mm、外径が414mmとなる曲率で円筒状に曲げ加工されている。
【0048】
また、右バンド20a及び左バンド20bの蝶番22の反対側となる開放端には、右バンド20aと左バンド20bの両者を接合するための接合片23a、23bが折曲げ形成されている。これらの接合片23a、23bには、上下2段の図示しないボルト孔が形成されており、両者をM16のボルトでボルト接合することで右バンド20a及び左バンド20bを締め付けて、PC電化柱EPの所定の高さにバンド本体20を固定できる構成となっている。
【0049】
その上、図7図8に示すように、右バンド20aには、ナット24が溶接されて固定されている。このため、PC電化柱固定バンド2は、バンド本体20の締付け力だけで、後述のように、既設のPC電化柱EPに重量物である削孔機Dやそのガイド機構Gを容易に固定することが可能となる。
【0050】
(リングレール)
リングレール3は、円弧状に曲げ加工された3本の円弧状鋼棒30,31,32からなり、これらの3本の鋼棒30,31,32が接合されることで平面視円形状のレールを形成している。
【0051】
また、図9に示すように、円弧状鋼棒32を取り外すことで、蝶番22を介して右バンド20aと左バンド20bとが開放可能となり、鉄道構造物に立設されている既設のPC電化柱EPへの電化柱固定バンド2の装着が可能となる。図9は、施工治具1の電化柱固定バンド2の開いた状態を示す平面図である。
【0052】
勿論、円弧状鋼棒32は、必ずしも設ける必要はなく、リングレール3を円形の一部が欠損した円弧状としても構わない。壁高欄側にリングレール3があれば、耐震補強鋼管ユニット10を吊り下げた状態で隙間に回転して挿入することができるからである。但し、リングレール3の円形の一部を構成する円弧状鋼棒32を脱着自在とすることにより、電化柱固定バンド2の開閉を可能とするとともに、リングレール3の円形を確保することができる。このため、耐震補強鋼管ユニット10の吊上げた状態での可動範囲が大きくなり、作業効率が向上する。
【0053】
なお、追加ブラケットプレート25は、円弧状鋼棒32にのみ溶接接合され、バンド本体20には接合されていない。円弧状鋼棒32の取付は、電化柱固定バンド2を既設のPC電化柱EPへ装着した後、追加ブラケットプレート25を隣接するブラケットプレート21へM8ボルトからなるブラケット固定ボルト26でねじ止め固定することにより行われる(図8等参照)。
【0054】
(ハンガー部材)
ハンガー部材4は、図10に示すように、一般構造用圧延鋼板(SS400)等の帯状の鋼材をL字状に折曲げ加工した本体プレート40と、この本体プレート40の上端付近に軸支されリングレール3上を走行するガイドローラー41と、フック部43aが形成されたフックボルト43と、を備えている(図6図8も参照)。図10は、同上の施工治具のフックボルトを除いたハンガー部材を示す図であり、(a)がガイドローラー側から見た正面図、(b)が左側面図、(c)が挿通部を示す底面図である。
【0055】
また、本体プレート40の下端は、水平に折り曲げられてフックボルト43を挿通するフック挿通部40aが形成されている。このフック挿通部40aには、長孔からなるボルト孔40bが穿設されているとともに、フックボルト43のねじ部43bと螺合するナット42が溶接固定されている(図6図8参照)。
【0056】
このため、ハンガー部材4は、フックボルト43をねじるだけで、長さ調整自在、即ち、フック部43aの高さ調整が自在となっている。よって、耐震補強鋼管ユニット10を吊り上げて水平にする際の作業効率が向上する。
【0057】
なお、図11に示すように、ハンガー部材は、一般構造用圧延鋼板(SS400)等の平面視T字状の鋼材を断面L字状に折曲げ加工した本体プレート40’と、この本体プレート40’の上端付近に軸支されリングレール3上を走行する左右一対のガイドローラー41,41と、フック部43aが形成された前述のフックボルト43と、を備えたハンガー部材4’としても構わない。図11(d)に示すように、右一対のガイドローラー41,41を設けることでリングレール3から脱落しにくくなり、走行安定性が高まるからである。図11は、変形例に係るハンガー部材4’を示す図であり、(a)がガイドローラー41側から見た正面図、(b)が左側面図、(c)がフック挿通部40aを示す底面図、(d)がリングレール3上にハンガー部材4’を載置した状態で示す平面図である。
【0058】
[電柱耐震補強工事の施工方法]
次に、図1図5図12~16図を用いて、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法について説明する。前述の施工治具1を用いて、既設のPC電化柱EPを前述の耐震補強鋼管ユニット10により補強する場合を例示して説明する。図12は、施工治具1を既設のPC電化柱EPに装着した状態を示す平面図である。
【0059】
<事前準備>
本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法を実施する準備工として、予め耐震補強工事の対象である既設のPC電化柱EPが建植されている基礎F1の形式、障害物の有無、特に、壁高欄の有無や壁高欄WBとPC電化柱EPとの間隔を確認する。勿論、施工に支障がある添接物等があれば、施工前に撤去できるものは撤去しておく。
【0060】
(施工治具設置)
先ず、図12に示すように、施工治具1を既設のPC電化柱EPの所定の高さに固定して設置する。このとき、図12に示すように、鉄道の軌道に沿ったY方向に向かって電化柱固定バンド2をPC電化柱EPの外周に巻き付けて装着する。
【0061】
(電化柱削孔工程)
次に、後述の電化柱内部充填モルタル打設工程で内部空洞EPaに無収縮モルタルM2を注入充填するための孔を削孔する電化柱削孔工程を行う(図1図2参照)。具体的には、図12図13に示すように、PC電化柱EPの所定の高さに装着した電化柱固定バンド2のナット24(図12参照)を利用して削孔機Dのガイド機構Gを固定し、ガイド機構Gで電化柱固定バンド2の外周表面に対して垂直且つ水平に案内してPC電化柱EPの外周面から内部空洞EPaに連通するモルタル注入孔INとモルタル吐出確認孔OUTを削孔する(図1も参照)。このように、削孔機やそのガイド機構を固定するためのアンカー等を設置しなくても、電化柱に削孔機等を固定することができ、モルタル注入用の孔を正確に且つ容易に短時間で削孔することができる。図13は、電化柱固定バンド2を用いて、削孔機のガイド機構を固定して削孔している電化柱削孔工程を示す施工写真である。
【0062】
<電化柱内部充填モルタル打設工程>
図1図3に示すように、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法では、前工程でPC電化柱EPに削孔(穿設)したモルタル注入孔INとモルタル吐出確認孔OUTを利用し、内部空洞EPaに無収縮モルタルM2を注入充填する電化柱内部充填モルタル打設工程を行う。
【0063】
具体的には、耐震補強鋼管ユニット10の上端から1D(PC電化柱EPの直径)分上方まで無収縮モルタルを充填する。
【0064】
<耐震補強鋼管ユニット設置工程>
次に、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法では、前述の耐震補強鋼管ユニット10を、補強対象であるPC電化柱EPとの位置関係が所定の位置となるように設置する耐震補強鋼管ユニット設置工程を行う。
【0065】
(耐震補強鋼管ユニット吊上げ)
図14に示すように、PC電化柱EPの所定の高さに装着された施工治具1を用いて、前述の耐震補強鋼管ユニット10の壁高欄WB側となる背面パーツ11a(13a)を吊り上げる。具体的には、前述の吊上げ孔h1にシャックルS等を挿通して、施工治具1のハンガー部材4のフックボルト43と吊上げ孔h1とを連結して吊り上げる。このとき、ハンガー部材4がフックボルト43を回すだけで長さ調整自在となっているので、補強鋼管ユニット10を吊り上げて水平にする際の作業効率が極めて良好である。勿論、フックボルト43で長さを調整することなく、チェーンブロックなどの他の長さ調整治具を用いてハンガー部材4と補強鋼管ユニット10との間隔を調整してもよいことは云うまでもない。図14は、施工治具1のハンガー部材4で補強鋼管ユニット10を吊り上げている状態を示す施工写真である。
【0066】
(耐震補強鋼管ユニット回転移動)
その後、耐震補強鋼管ユニット10の背面パーツ11a(13a)をハンガー部材4で吊下げた状態でガイドローラー41を用いてリングレール3上を走行させることで背面パーツ11a(13a)を人力で持ち上げることなく、65mm以上となる壁高欄WBとPC電化柱EPとの狭隘な隙間に回転して設置する。
【0067】
(正面パーツと背面パーツの接合)
同様に、耐震補強鋼管ユニット10の正面パーツ11b(13b)も設置し、正面パーツ11b(13b)と背面パーツ11a(13a)をボルト接合して、上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13を構築する。その後、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間に前述の中段鋼管ユニット12も構築し、耐震補強鋼管ユニット10の設置を完了させる。
【0068】
(ゴム材設置)
また、図1に示すように、耐震補強鋼管ユニット10の下端と既設のPC電化柱EPの基礎F1との間に、図15に示す耐震補強鋼管ユニット10の補強鋼管(筒状体130,131)を挿し込む凹溝5aが形成された断面凹字状のゴム材5を介装すると好ましい。狭隘な空間での隙間塞ぎなどの従来必要だった事前工程が不要となるだけでなく、耐震補強鋼管ユニット10の下端から充填したモルタルが漏出することを防ぐことができるからである。なお、ゴム材とは、加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の形状に戻る特性(弾性変形)を有したゴム弾性体を指している。図15は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法に用いる凹溝5aが形成された断面凹字状のゴム材5を示す断面図である。
【0069】
<鋼管ユニットモルタル充填工程>
次に、図1図3に示すように、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法では、既設のPC電化柱EPの外周に設置した耐震補強鋼管ユニット10と、PC電化柱EPとの隙間S1に無収縮モルタルM1を充填する鋼管ユニットモルタル充填工程を行う。このとき、耐震補強鋼管ユニット10の上端に、ボルトが突没自在で長さ調整可能なスペーサー治具6を装着し、耐震補強鋼管ユニット10とPC電化柱EPとの間隔を保持して無収縮モルタルM1を充填すると好ましい。図16は、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法に用いるスペーサー治具6を示す図であり、(a)がスペーサー治具のプレート本体のみ外側から見た正面図、(b)がその左側面図である。また、図16(c)は、プレート本体に調整ボルトを装着した状態を示す縮小左側面図である。
【0070】
図16に示すように、スペーサー治具6は、スペーサー治具6の基体となるプレート本体60と、このプレート本体60に装着された長さ調整ボルト61など、から構成されている。プレート本体60は、金属板からなる厚さ9mmの幅50mm×高さ60mmの矩形状の内側プレート62と、金属板からなる厚さ9mmの幅50mm×高さ100mmの矩形状の外側プレート63と、その間に介装されて溝部60aを形成するための金属板からなる厚さ12mmの幅50mm×高さ50mmの介装プレート64と、を有している。また、外側プレート63の外表面には、長さ調整ボルト61と螺合するM12のナット65が溶接され、プレート本体60には、長さ調整ボルト61を挿通するためのボルト孔60bが形成されている。
【0071】
長さ調整ボルト61は、M12のナット65と螺合するねじ部61aが形成されたボルトであり、外側端部に直径12mmの丸鋼からなる回すためのハンドル66が溶接されて取り付けられている。また、長さ調整ボルト61の内側端部には、首振り式の当接部67が取り付けられている。
【0072】
本工程では、耐震補強鋼管ユニット10の上段鋼管ユニット11の筒状体110,111の上端にスペーサー治具6の溝部60aを挿し込んで、ハンドル66を回して長さ調整ボルト61を回転させて、長さを調整し、耐震補強鋼管ユニット10とPC電化柱EPとの間隔を適切な長さに保持して無収縮モルタルM1を充填する。このため、モルタル充填後に補強鋼管ユニット10がずれることにより、未硬化のモルタルが漏出するという問題を解決することができる。
【0073】
<塑性ヒンジ部切断工程>
次に、鋼管ユニットモルタル充填工程で打設した無収縮モルタルM1の圧縮強度が24N/mm2以上の強度に達していることを確認する。その後、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法では、耐震補強鋼管ユニット10の中段鋼管ユニット12のフルコンビニール螺旋管にワイヤソーを挿通し、図1の二点鎖線で示す切断位置で無収縮モルタルM1,M2及びPC鋼線PC1を切断して塑性ヒンジ部を形成する塑性ヒンジ部切断工程を行う。
【0074】
<切断部無収縮モルタル充填工程>
次に、塑性ヒンジ部切断工程で切断した塑性ヒンジ部の隙間に無収縮モルタルを充填する無収縮モルタル充填工程を行う。具体的には、注入パイプ及びエア抜きパイプ等を設置し、無収縮セメントミルクを注入して充填する。
【0075】
以上説明した本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具1及び本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法によれば、耐震補強鋼管ユニット10をハンガー部材4で吊下げた状態でガイドローラー41を用いてリングレール3上を走行させて重量物である耐震補強鋼管ユニット10を人力で持ち上げることなく狭隘な隙間に回転して設置する。このため、重量物である耐震補強鋼管ユニット10をPC電化柱EPと壁高欄WBとの狭隘な隙間に安全に容易、且つ、列車が運行しない夜間の限られた時間内の短時間で設置することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る施工治具1によれば、電化柱固定バンド2は、半割円筒状に曲げ加工された左右一対の鋼製バンド(右バンド20a,左バンド20b)の一端同士が蝶番22で開閉自在に接合されているので、PC電化柱EPの任意の高さに容易に固定することができる。
【0077】
そして、施工治具1によれば、リングレール3は、円形状を構成する一部である円弧状鋼棒32が脱着自在に構成されているので、PC電化柱固定バンド2の開閉が自在であるとともに、リングレール3を完全な円形にすることができ、施工治具1による耐震補強鋼管ユニット10の可動範囲が大きくなり、作業効率が向上する。
【0078】
また、施工治具1によれば、PC電化柱固定バンド2にナット24が設けられているので、削孔機やそのガイド機構を固定するためのアンカー等を設置しなくても、電化柱に削孔機等を固定することができ、モルタル注入用の孔を正確に且つ容易に短時間で削孔することができる。
【0079】
さらに、施工治具1によれば、ハンガー部材4のフックボルト43の長さが調整自在となっているので、耐震補強鋼管ユニット10を吊り上げて水平にする際の作業効率が向上する。
【0080】
また、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法によれば、耐震補強鋼管ユニット10の下端と既設のPC電化柱EPの基礎F1との間にゴム材5を介装して耐震補強鋼管ユニット10と既設のPC電化柱EPとの隙間S1に無収縮モルタルM1を充填するので、下段鋼管ユニット13の下端から充填した無収縮モルタルが漏出することを防ぐことができる。
【0081】
さらに、本実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法によれば、スペーサー治具6を装着し、耐震補強鋼管ユニット10と既設のPC電化柱EPとの隙間S1の間隔を保持して無収縮モルタルM1を充填するので、モルタル充填後に耐震補強鋼管ユニット10がずれることにより、未硬化のモルタルが漏出するという問題を解決することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工治具1及び施工方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0083】
100:耐震補強構造
10:耐震補強鋼管ユニット
11:上段鋼管ユニット
h1:吊上げ孔
11a,13a:背面パーツ
11b,13b:正面パーツ
110,111、130,131:筒状体
112,132:ボルト孔
113:ナット
114,134:スペーサー
115,135:ボルト孔
12:中段鋼管ユニット
13:下段鋼管ユニット
14:鉄筋
14a:フラットバー
15:保護鋼材
1:施工治具
2:PC電化柱固定バンド
20:バンド本体
20a:右バンド
20b:左バンド
21:ブラケットプレート
22:蝶番
23a,23b:接合片
24:ナット
25:追加ブラケットプレート
26:ブラケット固定ボルト
3:リングレール
30,31,32:円弧状鋼棒(鋼棒)
4,4’:ハンガー部材
40,40’:本体プレート
40a:フック挿通部
40b:ボルト孔
41:ガイドローラー
42:ナット
43:フックボルト
43a:フック部
43b:ねじ部
5:ゴム材
5a:凹溝
6:スペーサー治具
60:プレート本体
60a:溝部
60b:ボルト孔
61:調整ボルト
61a:ねじ部
62:内側プレート
63:外側プレート
64:介装プレート
65:ナット
66:ハンドル
67:当接部
EP:PC電化柱
EPa:内部空洞
PC1:PC鋼線
S1:隙間
WB:壁高欄
F1:基礎
IN:モルタル注入孔
OUT:モルタル吐出確認孔
M1,M2:無収縮モルタル
D:削孔機
G:ガイド機構
S:シャックル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
前記電化柱固定バンドには、前記既設の電化柱にモルタル注入用の孔を削孔する削孔機又はそのガイド機構を固定するためのナットが設けられていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の電柱耐震補強工事の施工治具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
請求項4に係る電柱耐震補強工事の施工治具は、請求項1又は2に係る電柱耐震補強工事の施工治具において、前記電化柱固定バンドには、前記既設の電化柱にモルタル注入用の孔を削孔する削孔機又はそのガイド機構を固定するためのナットが設けられていることを特徴とする。