(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032238
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】持ち上げ装置、及び搬送システム
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B25J15/06 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135795
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 忠大
(72)【発明者】
【氏名】中島 丈裕
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS09
3C707DS01
3C707FS10
3C707FT07
3C707FU01
3C707FU02
3C707GU01
3C707HS13
3C707HT22
3C707MT05
3C707NS06
3C707NS19
(57)【要約】
【課題】対象物を吸着した状態で、対象物を、より確実に持ち上げることが可能な持ち上げ装置、及び搬送システムを提供すること。
【解決手段】持ち上げ装置2は、四角箱状の対象物100の一側面100fを吸着する吸着機構20と、吸着機構20を対象物100の底部稜線100bを中心として円弧状に移動させることで対象物100を持ち上げる移動機構30と、を備える。吸着機構20は、ブラケット21と、吸着パッド23と、ブラケット21の上部21tが一側面100fに近づくのを規制する規制部材26と、を含む。移動機構30は、ブラケット21を、吸着パッド23の吸着方向及び鉛直方向の双方に直交するチルト軸35の軸まわりに揺動可能に支持するベース部材32と、ブラケット21のチルト軸35よりも上部21tが一側面100fから離れる方向の復元力を付与する弾性部材34と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角箱状の対象物の一側面を吸着する吸着機構と、前記一側面を吸着した前記吸着機構を前記対象物の前記一側面とは反対側の側面における底部稜線を中心として円弧状に移動させることで前記対象物を持ち上げる移動機構と、を備える持ち上げ装置であって、
前記吸着機構は、
ブラケットと、
前記ブラケットに保持され、前記対象物の前記一側面の表面性状に倣って変形可能な吸着面を有する吸着パッドと、
前記吸着パッドによる前記一側面の吸着位置よりも上方の位置で前記一側面に接触することで、前記ブラケットの上部が前記一側面に近づくのを規制する規制部材と、を含み、
前記移動機構は、
前記ブラケットを、前記吸着パッドの吸着方向及び鉛直方向の双方に直交するチルト軸の軸まわりに揺動可能に支持するベース部材と、
前記ブラケットの前記チルト軸よりも上部が前記一側面から離れる方向の復元力を付与する弾性部材と、を備える、持ち上げ装置。
【請求項2】
前記ベース部材に対する前記ブラケットの揺動を、前記ブラケットの前記上部が前記ベース部材に近い第1位置と、前記上部が前記ベース部材から遠い第2位置との範囲に制限する制限部、をさらに備える、請求項1に記載の持ち上げ装置。
【請求項3】
前記ブラケットが前記第1位置である場合、前記吸着パッドの前記吸着面は、持ち上げ前の前記対象物の前記一側面と平行である、請求項2に記載の持ち上げ装置。
【請求項4】
前記復元力によるモーメントは、前記吸着機構の自重により前記チルト軸まわりに前記第2位置に向かう方向に生じるモーメントよりも大きい、請求項3に記載の持ち上げ装置。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記対象物を吸着していない場合に、前記ブラケットを前記第1位置に戻すように前記復元力を付与する、請求項4に記載の持ち上げ装置。
【請求項6】
前記吸着機構の重心が、前記チルト軸に一致、又は前記チルト軸の近傍である、請求項5に記載の持ち上げ装置。
【請求項7】
前記規制部材は、
前記吸着パッドよりも上方に延びるアームと、
前記アームから前記対象物側に延び、前記対象物に接触可能な接触部材と、を備える、請求項1に記載の持ち上げ装置。
【請求項8】
前記接触部材は、前記吸着パッドで前記一側面を吸着した状態で、前記一側面に接触する、請求項7に記載の持ち上げ装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の持ち上げ装置と、
前記持ち上げ装置により前記一側面が持ち上げられた前記対象物の下方に挿入され、前記対象物が載置される支持部材と、を備える、搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持ち上げ装置、及び搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象物の表面に倣って変形可能な誘電体からなる接触部材と、接触部材に電圧を印加可能な一対の電極と、を備えた静電吸着装置の構成が開示されている。これらの構成において、一対の電極で接触部材に電圧を印加することによって、接触部材が静電力を発生し、対象物を吸着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の構成では、接触部材が、ダンボール容器等の四角箱状の対象物の一側面を吸着した状態で、対象物を持ち上げようとすると、接触部材が一側面から剥がれてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、対象物を吸着した状態で、対象物を、より確実に持ち上げることが可能な持ち上げ装置、及び搬送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る持ち上げ装置は、四角箱状の対象物の一側面を吸着する吸着機構と、一側面を吸着した吸着機構を対象物の一側面とは反対側の側面における底部稜線を中心として円弧状に移動させることで対象物を持ち上げる移動機構と、を備える持ち上げ装置であって、吸着機構は、ブラケットと、ブラケットに保持され、対象物の一側面の表面性状に倣って変形可能な吸着面を有する吸着パッドと、吸着パッドによる一側面の吸着位置よりも上方の位置で一側面に接触することで、ブラケットの上部が一側面に近づくのを規制する規制部材と、を含み、移動機構は、ブラケットを、吸着パッドの吸着方向及び鉛直方向の双方に直交するチルト軸の軸まわりに揺動可能に支持するベース部材と、ブラケットのチルト軸よりも上部が一側面から離れる方向の復元力を付与する弾性部材と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る搬送システムは、上記したような持ち上げ装置と、持ち上げ装置により一側面が持ち上げられた四角箱状の対象物の下方に挿入され、対象物が載置される支持部材と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムによれば、対象物を持ち上げる際に、吸着パッドによる対象物の吸着位置よりも上方の位置で、規制部材が対象物に接触する。これらの構成により、回転モーメントによる吸着パッドの変形が抑制される。また、移動機構は、対象物を持ち上げる際、対象物を吸着した吸着機構を、底部稜線を中心として対象物を円弧状に移動させる。これらの構成により、吸着パッドに対して、対象物から剥がれる方向の力が発生することが抑制される。その結果、対象物を吸着した状態で、対象物を、より確実に持ち上げることが可能である。
【0009】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、ベース部材に対するブラケットの揺動を、ブラケットの上部がベース部材に近い第1位置と、上部がベース部材から遠い第2位置との範囲に制限する制限部、をさらに備えてもよい。これらの構成により、対象物を持ち上げる場合において、吸着パッドを保持するブラケットの上部が対象物の一側面に近づく方向に、ブラケットが過度に変位することが抑えられる。
【0010】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、ブラケットが第1位置である場合、吸着パッドの吸着面は、持ち上げ前の対象物の一側面と平行であってもよい。これらの構成により、対象物の一側面を吸着パッドで吸着する際、吸着パッドの全面を対象物の一側面に容易に沿わせることができる。従って、吸着パッドによる対象物の一側面の吸着を、容易かつ確実に行うことができる。
【0011】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、復元力によるモーメントは、吸着機構の自重によりチルト軸まわりに第2位置に向かう方向に生じるモーメントよりも大きくてもよい。これらの構成により、対象物を吸着していない場合に、弾性部材が、ブラケットを第1位置に維持させることができる。従って、対象物の一側面を吸着パッドで吸着する際、吸着パッドの吸着面が、対象物の一側面と平行となる。従って、吸着パッドの全面を対象物の一側面に容易に沿わせ、吸着パッドによる対象物の一側面の吸着を、容易かつ確実に行うことができる。
【0012】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、弾性部材は、対象物を吸着していない場合に、ブラケットを第1位置に戻すように復元力を付与してもよい。これらの構成により、対象物の一側面を吸着パッドで吸着する際、吸着パッドの全面を対象物の一側面に容易に沿わせることができる。従って、吸着パッドによる対象物の一側面の吸着を、容易かつ確実に行うことができる。
【0013】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、吸着機構の重心が、チルト軸に一致、又はチルト軸の近傍であってもよい。これらの構成により、対象物を持ち上げる際、弾性部材によって付与する復元力をより小さい値に設定することができ、より確実に対象物を持ち上げることができる。
【0014】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、規制部材は、吸着パッドよりも上方に延びるアームと、アームから対象物側に延び、対象物に接触可能な接触部材と、を備えてもよい。このような構成により、ブラケットの上部が対象物の一側面に近づくことが規制され、吸着パッドの下部が、対象物から剥がれる方向に変位することが抑えられる。
【0015】
また、上記態様に係る持ち上げ装置及び搬送システムにおいて、接触部材は、吸着パッドで対象物の一側面を吸着した状態で、その一側面に接触してもよい。このような構成により、吸着パッドの変形が抑制され、対象物を吸着した状態で、対象物を、より確実に持ち上げることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る搬送システムの一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る持ち上げ装置の構成を示す側面図である。
【
図4】
図2の持ち上げ装置の吸着機構をチルト軸まわりに回動させた状態を示す図である。
【
図6】実施形態に係る持ち上げ装置の吸着パッドの電極部の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る持ち上げ装置の動作の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る持ち上げ装置の動作の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る持ち上げ装置の動作の一例を示す図である。
【
図10】実施形態に係る持ち上げ装置の動作の一例を示す図である。
【
図11】実施形態に係る持ち上げ装置の動作の一例を示す図である。
【
図12】実施形態に係る対象物を持ち上げた状態における、対象物に作用する力及びモーメントの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこの形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。
【0018】
以下の説明では、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する場合がある。XYZ座標系は、持ち上げ装置2で対象物100の一側面100fを吸着する際、一側面100fに平行な平面をXY平面とする。このXY平面において、水平方向に沿う方向をX方向と表記し、X方向に直交する方向をY方向と表記する。また、XY平面に垂直な方向はZ方向と表記する。換言すると、Z方向は、一側面100fに直交する方向(法線方向)である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の方向が+方向であり、矢印と反対の方向が-方向であるとして説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る搬送システム1の一例を示す図である。
図1に示すように、搬送システム1は、持ち上げ装置2と、支持部材7とを備える。搬送システム1は、例えば四角箱状の対象物100を搬送する。四角箱状の対象物100は、例えばダンボール容器である。ただし、対象物100は、ダンボール容器に限定されない。対象物100の形状は、樹脂系材料、木質系材料、金属系材料などの様々な材料から形成された四角箱状の形態であってもよい。
【0020】
持ち上げ装置2及び支持部材7は、搬送ユニット5に備えられる。搬送ユニット5は、例えば、搬送システム1に備えられた軌条又は軌道(図示無し)に沿って移動可能に構成される。搬送ユニット5は、軌条又は軌道に沿って移動可能なユニット本体(図示無し)と、ユニット本体に設けられたホイスト5aとを備える。ホイスト5aは、例えば、多軸のロボットアームである。持ち上げ装置2及び支持部材7は、搬送ユニット5のホイスト5aの先端部に備えられる。なお、搬送ユニット5は、軌条に沿って移動可能な構成に限定されない。
【0021】
持ち上げ装置2は、載置面200に載置された四角箱状の対象物100を、載置面200から持ち上げる。持ち上げ装置2は、対象物100の一側面100fを吸着した状態で、対象物100を持ち上げる。持ち上げ装置2は、持ち上げた対象物100を、支持部材7に載せる。搬送システム1は、対象物100が支持部材7に載置した状態で、対象物100を搬送する。
【0022】
図2は、持ち上げ装置2の構成を示す側面図である。
図3は、
図2の持ち上げ装置2の平面図である。
図4は、
図2の持ち上げ装置2の吸着機構20をチルト軸35まわりに回動させた状態を示す図である。
図5は、
図3のI-I矢視断面図である。
図2~
図5に示すように、持ち上げ装置2は、吸着機構20と、移動機構30とを備える。
【0023】
吸着機構20は、対象物100の一側面100fを吸着する。吸着機構20は、ブラケット21と、吸着部材22と、規制部材26とを含む。ブラケット21は、移動機構30のベース部材32に支持される。ブラケット21は、例えば、上方から見てコ字状に形成される。ブラケット21は、板状のプレート部21aと、一対の端壁部21bとを一体に備える。プレート部21aは、XY平面に沿った板状に形成される。一対の端壁部21bは、プレート部21aのX方向両端部から、Z方向に立ち上がる。
【0024】
吸着部材22は、吸着パッド23と、パッド保持部材24とを備える。吸着パッド23は、誘電体により形成される。吸着パッド23は、対象物100の一側面100fに対向する側に、一側面100fに接触する吸着面23fを有する。吸着パッド23は、Z方向から見て、例えば、一辺が10mm~500mmの矩形状に設定される。吸着パッド23は、Z方向から見て、円形状であってもよい。この場合、吸着パッド23は、例えば外径が10mm~500mm程度に設定されてもよい。吸着パッド23の厚みは、特に限定されないが、例えば、厚さ0.05mm~10mm程度に設定される。
【0025】
吸着パッド23は、少なくとも吸着面23fが対象物100の一側面100fの表面性状に倣って変形可能である。本実施形態では、吸着パッド23は、その全体が、対象物100の一側面100fに倣って変形可能であるが、この形態に限定されない。例えば、吸着パッド23の吸着面23f側の一部のみが、対象物100の一側面100fに倣って変形可能とされていてもよい。
【0026】
吸着パッド23は、誘電体材料により形成され、誘電体としての性質と絶縁体としての性質とを兼ね備える。本実施形態における絶縁体は、例えば、約1012Ω・cmより大きな抵抗率を有する材料として定義されてもよい。本実施形態における導電体は、例えば、約1012Ω・cmより小さな抵抗率として定義されてもよい。吸着パッド23は、例えば、対象物100の一側面100fに倣って変形可能となる弾性及び柔軟性を有する誘電体材料で形成される。
【0027】
なお、上記の誘電体材料は、形成された吸着パッド23を弾性的に変形可能とする材料に限定されない。例えば、吸着パッド23を形成する上記の誘電体材料は、屈曲可能であるが実質的に弾性的に伸縮しない薄膜、層状体を形成するための材料が用いられてもよい。また、吸着パッド23を形成する上記の誘電体材料は、例えば、10MPa未満の弾性率、特に1MPa未満の弾性率を有する柔軟性を有するのが好ましい。
【0028】
このような誘電体材料としては、例えば、ゴム系材料、樹脂系材料等が挙げられる。より具体的には、吸着パッド23を形成する誘電体材料としては、架橋性のゴム、非架橋性の熱可塑性エラストマ、軟質樹脂等が挙げられる。吸着パッド23を形成する誘電体材料として用いられる架橋性のゴムには、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホルン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(T)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等がある。
【0029】
また、吸着パッド23を形成する誘電体材料として用いられる非架橋性の熱可塑性エラストマには、例えば、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、塩ビ系、フッ素系、アクリル系等の各種の熱可塑性エラストマ等が挙げられる。また、吸着パッド23を形成する誘電体材料として用いられる軟質樹脂には、例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)、軟質ポリエステル樹脂、低密度ポリエチレン、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂等の、それ自体が軟質である樹脂が挙げられ、さらに、各種の樹脂に可塑剤を添加して軟質化したもの等、種々の軟質樹脂等が適用可能である。また、吸着パッド23を形成する誘電体材料には、ガラス繊維又は炭素繊維等を用いた繊維強化プラスチック(FRP)をはじめとする各種の複合材料、ガラス、セラミック等を含ませてもよい。
【0030】
吸着パッド23の吸着面23fには、複数の凸部(図示無し)を形成してもよい。当該凸部は、吸着面23fの面方向に対して垂直方向に突出する。上記凸部は、吸着面23fの全面にわたって、吸着面23fの面方向に適宜の間隔をあけて複数形成されてもよい。吸着面23fに直交する方向から見たときの上記の凸部形状、吸着面23fからの上記凸部の突出寸法は、何ら限定されず、対象物100の一側面100fの粗面状態又は一側面100fの材質に応じて適宜設定されてもよい。上記の凸部は、吸着面23fの面方向に沿って規則的に連続して形成されていてもよいし、不規則(ランダム)に形成されてもよい。
【0031】
上記において、吸着面23fに上記の凸部(図示無し)を備えるようにしたが、これに限らない。吸着面23fに、凸部に代えて凹部を備えるようにしてもよい。当該凹部は、吸着面23fの面方向に対して垂直方向に窪んでいる。さらに、吸着面23fに、上記の凸部と上記の凹部とを備えるようにしてもよい。
【0032】
吸着パッド23は、電極部40を備える。
図6は、本実施形態に係る電極部40の一例を示す平面図である。電極部40は、吸着パッド23に電圧を印加可能である。電極部40は、第1電極42と、第2電極43とを備える。第1電極42及び第2電極43は、吸着面23fと平行な面に沿って設けられる。
【0033】
第1電極42及び第2電極43のそれぞれは、例えば櫛形の電極である。第1電極42は、電極幅方向Daに延びる電極基部42aと、電極基部42aから電極幅方向Daに直交する電極長方向Dbに延びる複数の電極延伸部42bとを有する。複数の電極延伸部42bは、電極幅方向Daに間隔をあけて配置される。第2電極43は、電極幅方向Daに延びる電極基部43aと、電極基部43aから電極幅方向Daに直交する電極長方向Dbに延びる複数の電極延伸部43bとを有する。複数の電極延伸部43bは、電極幅方向Daに間隔をあけて配置される。
【0034】
第1電極42及び第2電極43は、平面視において互いに間隔をあけて対向するように配置されている。第1電極42の各部と、第2電極43の各部とは、絶縁部材44を介して配置されている。電極延伸部42bは、電極基部42aから、第2電極43の電極基部43aに向かって電極長方向Dbに延びる。電極延伸部42bは、第2電極43において電極幅方向Daで互いに隣り合う2つの電極延伸部43bの間に配置される。電極延伸部43bは、電極基部43aから、第1電極42の電極基部42aに向かって電極長方向Dbに延びる。電極延伸部43bは、第1電極42において電極幅方向Daで互いに隣り合う2つの電極延伸部42bの間に配置される。電極延伸部42bと電極延伸部43bとは、電極幅方向Daに間隔をあけて交互に配置される。
【0035】
第1電極42及び第2電極43において、電極幅方向Daで隣り合う電極延伸部42bと電極延伸部43bとが複数組設けられることが好ましい。また、第1電極42及び第2電極43において、電極幅方向Daにおいて互いに隣り合う電極延伸部42bと電極延伸部43bとを3組以上備えることが好ましい。また、第1電極42及び第2電極43において、電極幅方向Daにおいて互いに隣り合う電極延伸部42bと電極延伸部43bとを6組以上備えることが特に好ましい。なお、第1電極42及び第2電極43において、電極幅方向Daで隣り合う電極延伸部42bと電極延伸部43bとの数(組数)は、吸着パッド23の外形寸法、対象物である対象物100の重量、一側面100fの粗さ等に応じて適宜に選択される。
【0036】
第1電極42及び第2電極43は、吸着面23fに直交する方向に、間隔をあけて複数層に積層して備えるようにしてもよい。その場合、複数層の第1電極42及び第2電極43は、積層方向から見て、それぞれ重なる。積層方向から見て、複数層の第1電極42及び第2電極43は、それぞれ同極のものが積層される。各層における第1電極42及び各層における第2電極43は、同一又はほぼ同一形状であり、積層方向から見て、複数の第1電極42及び複数の第2電極43の外周縁は、それぞれ合致する。
【0037】
電極部40は、吸着パッド23において、吸着面23fとは反対側に、吸着パッド23に接触して設けてもよい。電極部40は、少なくとも一部を吸着パッド23中に埋没されていてもよい。電極部40は、吸着パッド23とともに変形可能とされる。このため、電極部40は、例えば、カーボンブラック、各種の金属材料を含む導電性材料が膜厚200μm以下に形成された薄膜状であることが好ましい。電極部40をカーボンブラックにより形成する場合、その膜厚は、例えば20μm程度とされる。
【0038】
図5に示すように、電極部40は、配線47を介して、外部の電圧印加部45に接続される。電圧印加部45は、配線47を介して所定の電圧を電極部40の第1電極42及び第2電極43に印加する。電圧印加部45は、コントローラ50により、その動作が制御される。電極部40は、電圧印加部45により印加される電圧により、吸着パッド23の吸着面23fに静電吸着力を発生させる。
【0039】
吸着面23fは、電極部40に電圧を印加することで発生する静電吸着力によって、対象物100の一側面100fを吸着する。なお、吸着面23fが対象物100の一側面100fを吸着した状態において、対象物100と吸着面23fとの間に生じるせん断摩擦力が、予め設定した基準値以上となるように、吸着パッド23の材料、凸部の数、大きさ、突出寸法、材質等が設定されることが好ましい。
【0040】
吸着パッド23において、吸着面23fとの反対側には、取付ボス23bが形成される。取付ボス23bは、吸着パッド23をZ方向から見た際に、吸着パッド23の中央部に配置される。取付ボス23bは、-Z方向(一側面100fから離間する方向)に突出する。取付ボス23bは、パッド保持部材24に支持される。パッド保持部材24によって保持される取付ボス23bの部分においては、取付ボス23bに対して外周側の部分に比較すると、吸着パッド23の変形量が少ない。
【0041】
パッド保持部材24は、吸着パッド23に対し、Z方向において、一側面100fとは反対側に配置される。パッド保持部材24は、Z方向から見て、例えば矩形の板状に形成される。パッド保持部材24は、樹脂等の絶縁性材料又は非導電性の金属材料により形成される。パッド保持部材24が導電性の金属材料で形成された場合、パッド保持部材24と吸着パッド23との間に絶縁性材料を介在させることが好ましい。
【0042】
図3に示すように、パッド保持部材24は、取付部材25を介してブラケット21に取り付けられる。パッド保持部材24は、取付部材25に対し、Z方向に沿って相対移動が可能に支持される。パッド保持部材24は、一対のガイドシャフト242を有する。一対のガイドシャフト242のそれぞれは、パッド保持部材24から-Z方向に突出する。取付部材25は、一対のガイドシャフト242が挿通される挿通孔25hを有する。一対のガイドシャフト242は、挿通孔25hを通して、取付部材25に対して-Z方向に突出して延びる。一対のガイドシャフト242は、挿通孔25hの内側でZ方向に移動可能とされる。一対のガイドシャフト242における-Z方向の先端部と、取付部材25との間には、コイルスプリング241が挟み込まれる。コイルスプリング241は、一対のガイドシャフト242を、-Z方向に押圧するように(パッド保持部材24を+Z方向に押圧するように)弾性力を付与する。この構成により、吸着パッド23及びパッド保持部材24は、対象物100の一側面100fに接触する際に、-Z方向に変位可能に構成される。
【0043】
図3及び
図5に示すように、パッド保持部材24には、配線スリーブ24wが設けられる。配線スリーブ24wは、パッド保持部材24において、吸着パッド23とは反対側に配置される。配線スリーブ24wは、-Z方向に筒状に延びる。配線スリーブ24wは、取付部材25及びブラケット21を貫通し、-Z方向に突出する。一端が電極部40に接続された配線47は、配線スリーブ24w内を通して、-Z方向に導出される。
【0044】
図5に示すように、規制部材26は、パッド保持部材24の上部に設けられる。本実施形態において、規制部材26は、X方向に間隔をあけて2個設けられる。ただし、規制部材26の数は、2つに限定されず、1つのみでもよいし、3つ以上であってもよい。各規制部材26は、アーム27と、接触部材28とを備える。アーム27の下端部は、パッド保持部材24に固定される。アーム27は、パッド保持部材24から上方に突出する。アーム27は、吸着パッド23よりも上方に延びる。
【0045】
接触部材28は、アーム27の上端部に設けられる。接触部材28は、アーム27からZ方向に沿って対象物100側に延びる。接触部材28の先端は、吸着パッド23で対象物100の一側面100fを吸着した際に、対象物100の一側面100fに接触可能である。本実施形態において、接触部材28の先端は、Z方向において、吸着パッド23の吸着面23fと同一位置に配置される。これにより、接触部材28の先端は、吸着パッド23で対象物100の一側面100fを吸着した際に、対象物100の一側面100fに接触する。
【0046】
なお、接触部材28の先端は、吸着パッド23で対象物100の一側面100fを吸着した際に、対象物100の一側面100fに対し、僅かな隙間を隔ててもよい。この場合、一側面100fに対し、吸着機構20の上部が一側面100fに接近する方向に変位した場合に、接触部材28の先端と一側面100fとの隙間が狭まり、接触部材28の先端が一側面100fに接触する。このような規制部材26は、吸着パッド23による一側面100fの吸着位置よりも上方の位置で一側面100fに接触することで、ブラケット21の上部21tが一側面100fに近づくのを規制する。
【0047】
移動機構30は、一側面100fを吸着した吸着機構20を移動させることで、対象物100を持ち上げる。移動機構30は、一側面100fを吸着した吸着機構20を移動させることで、対象物100の一側面100fとは反対側の側面100gにおける底部稜線100b(
図1参照)を中心として、対象物100を円弧状に移動させる。
図2及び
図4に示すように、移動機構30は、ベース部材32と、制限部36と、弾性部材34とを備える。
【0048】
ベース部材32は、ホイスト5aの先端部に取り付けられる。ベース部材32は、例えば、上方から見てコ字状に形成される。ベース部材32は、板状のプレート部32aと、一対の端壁部32bとを一体に備える。プレート部32aは、XY平面に沿った板状に形成される。一対の端壁部32bは、プレート部32aのX方向両端部から、Z方向に立ち上がる。ブラケット21は、一対の端壁部32bの内側に配置される。
【0049】
ベース部材32は、ブラケット21を、Z方向に沿った吸着パッド23の吸着方向とY方向(鉛直方向)との双方に直交するチルト軸35の軸まわりに揺動可能に支持する。このため、ベース部材32とブラケット21は、チルト軸35を介して連結される。チルト軸35は、X方向の両側で、ベース部材32の端壁部32bと、ブラケット21の端壁部21bとを、X方向に延びる軸まわりに回動自在に連結する。この構成により、吸着機構20は、チルト軸35の軸まわりに回動自在に支持される。このとき、吸着機構20の重心の位置(重心位置)cdは、チルト軸35に一致、又はチルト軸35の近傍に配置されるのが好ましい。ここで、チルト軸35の近傍とは、チルト軸35の中心から、半径10mm程度の範囲を指す。
【0050】
制限部36は、ベース部材32に対するブラケット21の揺動範囲を制限する。制限部36は、ガイドスリット36aと、ガイドピン36bとを有する。ガイドスリット36aは、ベース部材32の端壁部32bに形成される。ガイドスリット36aは、チルト軸35を中心とした円弧状に延びる。ガイドピン36bは、ブラケット21の端壁部21bに設けられる。ガイドピン36bは、ガイドスリット36a内に挿入される。ブラケット21がチルト軸35の軸まわりに回動すると、ガイドピン36bが、ガイドスリット36aに沿って移動する。ガイドピン36bが、ガイドスリット36aの両端部に突き当たることで、ブラケット21のチルト軸35の軸まわりの揺動範囲が制限される。
【0051】
制限部36は、ベース部材32に対するブラケット21の揺動を、ブラケット21の上部21tがベース部材32に近い第1位置P1(
図2参照)と、上部21tがベース部材32から遠い第2位置P2(
図4参照)との間の範囲に制限する。
図2に示すように、第1位置P1は、ガイドピン36bが、ガイドスリット36aの一方の端部に突き当たった状態であり、ブラケット21の上部21tがベース部材32に近い状態とされる。本実施形態において、第1位置P1では、ブラケット21は、吸着パッド23の吸着面23fが、XY平面に沿い、持ち上げ前の対象物100の一側面100fと平行となる。
図4に示すように、第2位置P2は、ガイドピン36bが、ガイドスリット36aの他方の端部に突き当たった状態であり、ブラケット21の上部21tが、ベース部材32から遠い状態とされる。本実施形態において、ブラケット21は、吸着パッド23の吸着面23fが、最大限に持ち上げた状態の対象物100の一側面100fと平行となる。
【0052】
図2及び
図4に示すように、弾性部材34は、ブラケット21においてチルト軸35よりも上部21tに対して、一側面100fから離れる方向の復元力(弾性力)を付与する。弾性部材34は、対象物100を吸着していない場合に、ブラケット21を第1位置P1に戻すように復元力を付与する。このような構成により、吸着機構20が対象物100に接触していない状態、すなわちブラケット21が第1位置P1である場合に、吸着パッド23の吸着面23fは、持上げ前の対象物100の一側面100fと平行に維持することが可能となる。なお、一例として、弾性部材34は、ベース部材32の端壁部32bに設けられたピン32pと、ブラケット21の端壁部21bに設けられたピン21pとに係止される。
【0053】
本実施形態において、弾性部材34は、チルト軸35に対して上方に配置され、ブラケット21のチルト軸35よりも上部21tを、一側面100fから離れる方向に引き寄せる。なお、弾性部材34は、チルト軸35よりも下側に配置し、ブラケット21のチルト軸35よりも下部21dを、一側面100fに接近する方向に押し付けるようにしてもよい。
【0054】
ここで、ブラケット21に作用する弾性部材34の復元力によるモーメントは、吸着機構20の自重によりチルト軸35の軸まわりに第2位置P2に向かう方向に生じるモーメント(以下、「自重によるモーメント」という。)よりも大きい。なお、上記の復元力によるモーメントは、自重によるモーメントよりも大きいことを条件としてなるべく小さい方が好ましい。例えば、上記の復元力によるモーメントは、自重によるモーメントに対し、20%以下であるのが好ましい。
【0055】
図1に示すように、支持部材7は、搬送ユニット5において、持ち上げ装置2の下方に配置される。支持部材7は、トレー71と、進退機構(図示無し)とを備える。トレー71は、例えば平面視矩形の板状である。トレー71は、対象物100を下方から支持する。トレー71は、持ち上げ装置2により持ち上げられた対象物100の下方に挿入される。トレー71には、持ち上げ装置2により持ち上げられた対象物100が載置される。
【0056】
進退機構(図示無し)は、トレー71をZ方向に沿って進退させる。進退機構は、例えば、ガイドレールに沿ってトレー71を進退させる機構、エアシリンダ、及び油圧シリンダによってトレー71を進退させる機構と、ラック・アンド・ピニオン機構とによってトレー71を進退させる機構が適宜採用されてもよい。上記の進退機構の動作は、コントローラ50により制御される。
【0057】
図7は、持ち上げ装置2の動作の一例を示す図である。
図8は、
図7に続いて、持ち上げ装置2の動作の一例を示す図である。
図9は、
図8に続いて、持ち上げ装置2の動作の一例を示す図である。
図10は、
図9に続いて、持ち上げ装置2の動作の一例を示す図である。
図11は、
図10に続いて、持ち上げ装置2の動作の一例を示す図である。
【0058】
搬送システム1で、対象物100を持ち上げるには、まず、
図7に示すように、搬送ユニット5を、対象物100の一側面100fに対し、Z方向で対向する位置に配置する。次に、
図8に示すように、ホイスト5aにより、持ち上げ装置2をZ方向に移動させ、吸着パッド23の吸着面23fを、対象物100の一側面100fに接触させる。この際、
図8に例示する場合には、規制部材26の接触部材28は、吸着パッド23の上側で、一側面100fに接触する。
【0059】
持ち上げ装置2は、初期状態において、ブラケット21が、制限部36の第1位置P1に位置する。第1位置P1では、吸着パッド23の吸着面23fが、持ち上げ前の対象物100の一側面100fと平行となる。従って、持ち上げ装置2をZ方向に移動させれば、吸着パッド23の吸着面23fの全体が一側面100fに容易に接触する。
【0060】
図8に示すように、吸着パッド23の吸着面23fと、接触部材28とが一側面100fに接触している状態で、電圧印加部45は、第1電極42及び第2電極43にそれぞれ逆位相の電圧を印加する。すると、第1電極42及び第2電極43からの電界により、吸着パッド23が接触している対象物100の内部に誘電分極が発生して帯電する。このため、吸着パッド23と対象物100との間にクーロン力が発生し、吸着面23fに、対象物100の一側面100fが静電吸着される。
【0061】
次に、持ち上げ装置2は、
図9に示すように、静電吸着した対象物100を持ち上げる。このとき、移動機構30は、ホイスト5aを動作させ、一側面100fを吸着した吸着機構20を移動させることで、対象物100を持ち上げる。この際、本実施形態に係る移動機構30は、一側面100fを吸着した吸着機構20を、底部稜線100bを中心として円弧状に移動させることで対象物100を持ち上げる。換言すれば、移動機構30は、一側面100fを吸着した吸着機構20を、真上、すなわち+Y方向に移動させるのではなく、+Y方向から対象物100側に傾いた斜め方向に吸着機構20を移動させる。これにより、吸着機構20は、
図9に例示されるように、円弧状の軌跡MLを描くように移動する。
【0062】
ここで、対象物100を持ち上げる際に吸着機構20を+Y方向に移動させると、対象物100を-Z方向に引き出す力が発生し、結果として吸着パッド23に対して、対象物100から剥がれる方向の力が発生してしまう。そのため、対象物100を持ち上げようとすると、吸着パッド23が一側面100fから剥がれてしまう場合が起こり得る。一方、本実施形態に係る持ち上げ装置2は、対象物100を持ち上げる際には、底部稜線100bを中心として円弧状に吸着機構20を移動させることで、対象物100を-Z方向に引き出す力を抑制し、吸着パッド23に対して対象物100から剥がれる方向に力が発生することを抑制することができる。その結果、持ち上げ装置2は、吸着パッド23が一側面100fから剥がれることを抑制することができる。
【0063】
持ち上げ装置2によって対象物100が持ち上げられると、搬送システム1は、
図10に示すように、持ち上げ装置2で対象物100の一側面100f側を持ち上げた状態で、トレー71を進退機構(図示無し)により前進させ、対象物100の下方に差し込む。
【0064】
対象物100を下方に差し込んだ後、
図11に示すように、移動機構30により、吸着機構20を下降させる。このときも、移動機構30は、一側面100fを吸着した吸着機構20を下方に移動させることで、対象物100を、底部稜線100bを中心として円弧状に下向きに移動させる。これにより、対象物100がトレー71によって下方から支持される。その後、搬送ユニット5を、軌条又は軌道上で移動させることにより、対象物100を搬送する。
【0065】
図12は、対象物100を持ち上げた状態における、対象物100に作用する力とモーメントとの関係を示す図である。
図12に示すように、持ち上げ装置2は、吸着パッド23で対象物100の一側面100fを吸着した状態で、移動機構30により対象物100を持ち上げる。ここで、持ち上げ装置2によって対象物100が持ち上げられている状態において、吸着パッド23で一側面100fが吸着された部分に作用するY方向の力をF1、対象物100の底部稜線100bの部分に作用するY方向の力をF2とした場合、下式(1)の関係が成り立つ。なお、mが対象物100の質量であり、gが重力加速度である。
【0066】
F1+F2y=mg …(1)
【0067】
対象物100の重心位置110に作用する重力mgの分力をF3、底部稜線100bから重心位置cdまでの寸法をL1、吸着パッド23で一側面100fが吸着された部分に作用する力F1の分力をF1y、底部稜線100bから吸着パッド23で一側面100fが吸着された部分までの寸法をL2とした場合、対象物100に作用するモーメントのつり合いは、下式(2)で表される。
【0068】
F3×L1=F1y×L2 …(2)
【0069】
ここで、式(2)は、吸着パッド23が剛体である場合には成立する。ただし、吸着パッド23が剛体ではなく柔軟性を有する場合には、式(2)は、成立しない場合が起こり得る。吸着パッド23は、吸着パッド23で一側面100fを吸着した状態で、対象物100の一側面100f側を持ち上げると、吸着パッド23に対して、吸着パッド23を対象物100から引き剥がす方向にモーメント(以下、「回転モーメント」という。)が発生する場合がある。従来において、上記の回転モーメントが発生すると、柔軟性のある吸着パッドが変形し、対象物100に吸着する吸着パッドの接触面が減少する場合がある。その結果、吸着パッドが対象物100から剥がれてしまう場合が起こり得る。そこで、本実施形態の持ち上げ装置2は、規制部材26を備えることで、上記の回転モーメントによる吸着パッド23の変形を抑制する。
【0070】
より具体的には、上記の回転モーメントによって、吸着パッド23を保持するブラケット21の上部21tが対象物100の一側面100fに近づく方向にブラケット21が変位しようとした場合、吸着パッド23による一側面100fの吸着位置よりも上方の位置で、規制部材26が一側面100fに接触する。この構成により、ブラケット21の上部21tが対象物100の一側面100fに近づくことが規制される。結果として、吸着パッド23の下部が、対象物100から剥がれる方向に変位することが抑えられる。従って、吸着パッド23が対象物100から剥がれることが抑制される。
【0071】
また、移動機構30の弾性部材34により、ブラケット21のチルト軸35よりも上部21tが一側面100fから離れる方向の復元力を付与される。この構成により、吸着パッド23が対象物100に接触していない場合でも、吸着パッド23を一側面100fに対して平行、又は平行に近い状態に維持することができる。ここで、吸着機構20の重心位置cdと、チルト軸35とが大きく離れていると、吸着パッド23を一側面100fに対して平行、又は平行に近い状態に維持するために必要な復元力も大きくなる。そのため、吸着機構20の重心位置cdとチルト軸35とが大きく離れていると、上記の復元力によって、吸着パッドが対象物100から剥がれてしまうことが起こり得る。そこで、本実施形態の持ち上げ装置2では、吸着機構20の重心位置cdをチルト軸35に一致させる、又は吸着機構20の重心位置cdをチルト軸35の近傍に配置させることで、吸着機構20の重心位置cdをチルト軸35に可能な限り近づける。この構成により、上記復元力を可能な限り小さくすることができ、吸着パッドが対象物100から剥がれることを抑制することができる。
【0072】
なお、持ち上げ装置2によって静電吸着した対象物100を持ち上げる際に、接触部材28は、吸着パッド23の上側で、一側面100fに接触する。ここで、一例として、吸着パッド23の吸着面23fが一側面100fに接触した場合に、接触部材28が一側面100fに接触する場合について説明した。ただし、これに限定されず、吸着面23fに一側面100fが静電吸着した場合に、接触部材28が一側面100fに接触してもよい。すなわち、持ち上げ装置2によって対象物100が持ち上げられる場合に接触部材28が一側面100fに接触していればよく、接触部材28が一側面100fに接触するタイミングには特に限定されない。
【0073】
なお、本実施形態は、以下の構成を開示する。
(構成1)
四角箱状の対象物100の一側面100fを吸着する吸着機構20と、一側面100fを吸着した吸着機構20を対象物100の一側面100fとは反対側の側面における底部稜線100bを中心として円弧状に移動させることで対象物100を持ち上げる移動機構30と、を備える持ち上げ装置2であって、
吸着機構20は、
ブラケット21と、
ブラケット21に保持され、対象物100の一側面100fの表面性状に倣って変形可能な吸着面23fを有する吸着パッド23と、
吸着パッド23による一側面100fの吸着位置よりも上方の位置で一側面100fに接触することで、ブラケット21の上部21tが一側面100fに近づくのを規制する規制部材26と、を含み、
移動機構30は、
ブラケット21を、吸着パッド23の吸着方向及び鉛直方向の双方に直交するチルト軸35の軸まわりに揺動可能に支持するベース部材32と、
ブラケット21のチルト軸35よりも上部が一側面100fから離れる方向の復元力を付与する弾性部材34と、を備える、持ち上げ装置。
(構成2)
ベース部材32に対するブラケット21の揺動を、ブラケット21の上部21tがベース部材32に近い第1位置P1と、上部21tがベース部材32から遠い第2位置P2との範囲に制限する制限部、をさらに備える、構成1に記載の持ち上げ装置。
(構成3)
ブラケット21が第1位置P1である場合、吸着パッド23の吸着面23fは、持ち上げ前の対象物100の一側面100fと平行である、構成2に記載の持ち上げ装置。
(構成4)
上記復元力によるモーメントは、吸着機構20の自重によりチルト軸35まわりに第2位置P2に向かう方向に生じるモーメントよりも大きい、構成2又は構成3に記載の持ち上げ装置。
(構成5)
弾性部材34は、対象物100を吸着していない場合に、ブラケット21を第1位置P1に戻すように上記復元力を付与する、構成2から構成4のいずれかの構成に記載の持ち上げ装置。
(構成6)
吸着機構20の重心が、チルト軸35に一致、又はチルト軸35の近傍である、構成1から構成5のいずれかの構成に記載の持ち上げ装置。
(構成7)
規制部材26は、
吸着パッド23よりも上方に延びるアーム27と、
アーム27から対象物100側に延び、対象物100に接触可能な接触部材28と、を備える、構成1から構成6のいずれかの構成に記載の持ち上げ装置。
(構成8)
接触部材28は、吸着パッド23で一側面100fを吸着した状態で、一側面100fに接触する、構成1から構成7のいずれかの構成に記載の持ち上げ装置。
(構成9)
構成1から構成8のいずれかの構成に記載の持ち上げ装置と、
持ち上げ装置2により一側面100fが持ち上げられた対象物100の下方に挿入され、対象物100が載置される支持部材7と、を備える、搬送システム1。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態に限定されない。上記した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることは当業者において明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記した実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上記した実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。また、本実施形態において示した各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるものでない限り、任意の順序で実現可能である。また、上記した実施形態における動作に関して、便宜上「まず」、「次に」、「続いて」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須ではない。
【符号の説明】
【0075】
1・・・搬送システム
2・・・持ち上げ装置
7・・・支持部材
20・・・吸着機構
21・・・ブラケット
21t・・・上部
23・・・吸着パッド
23f・・・吸着面
26・・・規制部材
27・・・アーム
28・・・接触部材
30・・・移動機構
32・・・ベース部材
34・・・弾性部材
35・・・チルト軸
36・・・制限部
100・・・対象物
100b・・・底部稜線
100f・・・一側面
100g・・・側面
P1・・・第1位置
P2・・・第2位置