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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032248
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】不妊の予防、改善又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20240305BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240305BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240305BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61K31/455
A61P15/08
A23L33/105
A23L2/52
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135809
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 均
(72)【発明者】
【氏名】川添 大
(72)【発明者】
【氏名】中原 優一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LE03
4B018MD07
4B018MD57
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG17
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC19
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不妊又は生殖機能障害を予防、改善又は治療できる技術、又は、精巣機能障害、精子機能低下又は排卵障害を予防、改善又は治療抑制できる技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、トリゴネリンを含む、不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物を提供する。本発明は、トリゴネリンを含む、精巣機能障害、精子機能低下又は排卵障害の予防、改善又は治療用の組成物を提供する。男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因する不妊又は生殖機能障害であってもよい。全身性熱ストレス又は局所的熱ストレスに起因することであってもよい。男女又は雌雄に用いるものであってもよい。暑熱ストレスに起因するものであってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリゴネリンを含む、不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物。
【請求項2】
トリゴネリンを含む、精巣機能障害、精子機能低下又は排卵障害の予防、改善又は治療用の組成物。
【請求項3】
男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因する不妊又は生殖機能障害である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
全身性熱ストレス又は局所的熱ストレスに起因するものに用いる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
男女又は雌雄に用いる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
暑熱ストレスに起因するものに用いる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の形態が、飲食品、医薬品、飼料、又は添加剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、経口用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
トリゴネリンを含む、繁殖能力低下の予防、改善若しくは治療用の組成物。
【請求項10】
トリゴネリン、又は、トリゴネリンを含む組成物を給餌する、繁殖能力低下の予防、改善若しくは治療の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不妊の予防、改善又は治療用組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、出産計画の高齢化、精子数の減少、ストレス等により、日本において5~6組に1組のカップルが不妊症であるといわれている。不妊症は「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないこと」を言うが、日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」としている。妊娠を望む人のため、生殖補助医療などの不妊治療が行われ、不妊治療の件数も年々増加している。不妊治療として、人工授精、体外受精・胚移植、顕微授精(卵細胞質内精子注入法、ICSI)、凍結胚・融解移植などが行われている。
【0003】
不妊症の原因は男女半々に由来するものである。不妊治療は、1回で成功することが少なく家計への経済的負担が大きく、特に女性への身体的・精神的負担も大きい。
【0004】
女性側の主な要因としては、(1)排卵障害又は内分泌異常、(2)卵管障害や子宮内膜症などの器質的異常、(3)染色体異常がある。このうち、排卵誘発剤による治療は、(1)排卵障害又は内分泌異常を対象としている。近年では、過度のダイエットや、職場や家庭での心労といった身体的・精神的ストレスにより、無月経や稀発月経、月経不順に陥る女性が増加しており、排卵障害を原因とする不妊症は増加傾向にある。
【0005】
一方、男性側の主な要因としては、(1)無精子症などの精子形成能障害(造精機能障害)、(2)精巣上体の先天的な異常などの精路通過障害、(3)抗精子抗体の免疫異常などの精子機能障害がある。男性不妊症は造精機能障害によるものが約90%を占める。その原因は、精索静脈瘤や長時間に渡る着座状態などによる精巣温度の上昇、精巣炎の発症、血流障害等であるといわれ、熱ストレスや炎症に関わるものが多い。熱ストレスとしては、全身性熱ストレス及び局所的熱ストレスが考えられている。
【0006】
このように男女ともに、不妊症対策として、ストレス性生殖機能障害を予防、改善又は治療できる技術を提供することが重要である。
【0007】
また、不妊症は人間だけの問題ではなく、家畜やペット等の動物にも生じている。家畜やペットなどの動物の不妊は、夏の気温上昇(地球温暖化)、給餌による富栄養化、ストレスなどに起因する。
特に、夏季の暑熱ストレスは、家畜やペットなどの生殖能力を低下させ、これは、夏季不妊とも呼ばれ、雌雄とも起こる問題とされている。夏季不妊は、雌においては、発情期の遅延、種付け後の受胎率低下などを引き起こし、また、雄においては(主に豚と肉養鶏)、精子の量的・質的低下をもたらすことで、繁殖力が低下する。この夏季不妊は、進行する地球温暖化と相まって、畜産業界においては、食肉・鶏卵・乳などの畜産物の安定的供給や計画的供給を困難にする深刻な問題とされている。また、暑熱ストレスによるストレス性繁殖能力の低下は、ペットなどが子孫を増やすなどに影響を与えるので問題とされている。
雄側のストレス又は暑熱ストレスによって、精巣の温度上昇(熱ストレス)、精子数や運動能力低下などの精巣機能障害又は精子機能低下が起こる。一方、雌側のストレス又は暑熱ストレスによって、発情周期の遅延や無発情による交尾や種付け機会の減少、排卵卵子数の減少、交配・種付け後の受胎率の低下が起こる。このため、熱ストレスなどのストレスにより家畜やペットなどの動物で、繁殖能力の低下が問題とされている。
【0008】
このように雌雄ともに、不妊症対策として、ストレス性繁殖能力の低下又はストレス性繁殖障害を予防、改善又は治療できる技術を提供することが重要である。
【0009】
また、本発明者らは、オレウロペイン、オレウロペイン誘導体又はヒドロキシチロソールから選択される一以上を有効成分として含有する、不妊治療剤及び精巣機能障害予防及び/又は改善剤を提案している(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-191012号公報
【特許文献2】特開2018-193313号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】阪谷美樹著、「暑熱ストレスが産業動物の生産性に与える影響」産業動物臨床医学雑誌 2015 年 5 巻 Supple 号 p. 238-246.
【非特許文献2】Samina Salim著、「Oxidative stress: a potential link between emotional wellbeing and immune response」(2016) Current Opinion in Pharmacology, Vol. 29, 70-76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、さらなる、不妊等の予防、改善又は治療のための技術が求められている。
そこで、本発明は、不妊又は生殖機能障害を予防、改善又は治療できる技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討した結果、トリゴネリンが、男女又は雌雄ともに不妊又は生殖機能障害などの予防、改善又は治療に、有効であることを見出した。このようなことから、本発明者らは、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、トリゴネリンを含む、不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物を提供することができる。
本発明は、トリゴネリンを含む、精巣機能障害、精子機能低下又は排卵障害の予防、改善又は治療用の組成物を提供することができる。
本発明は、トリゴネリンを含む、繁殖能力低下の予防、改善若しくは治療用の組成物を提供することができる。
本発明は、トリゴネリン、又は、トリゴネリンを含む組成物を給餌する、繁殖能力低下の予防、改善若しくは治療の方法を提供することができる。
【0015】
前記不妊又は生殖機能障害、前記症状又は疾患は、男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因するものであってもよい。
前記不妊又は生殖機能障害、前記症状又は疾患は、全身性熱ストレス又は局所的熱ストレスに起因するものであってもよい。
男女又は雌雄に用いてもよい。
前記不妊又は生殖機能障害、前記症状又は疾患は、暑熱ストレスに起因するものであってもよい。
前記組成物の形態が、飲食品、医薬品、飼料、又は添加剤であってもよい。
前記組成物は、経口用組成物であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、不妊又は生殖機能障害を予防、改善又は治療できる技術を提供することができる。なお、本発明は、ここに記載された効果に、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例1における、ICRマウス(雄)を用いて暑熱ストレス依存的な熟成精子機能障害に対するトリゴネリンの作用をみるための雄マウスモデル試験の概要を示す図である。
図2】試験例1における、各試験群における、精子運動率(%)及びプログレッシブ比率(%)の結果を示す図である。※プログレッシブ比率:直線速度25 μm/s 以上かつ直進性0.7 以上の精子の割合。
図3】試験例2における、ICRマウス(雄)を用いて暑熱ストレス依存的な精子形成障害に対するトリゴネリンの作用をみるための雄マウスモデル試験の概要を示す図である。
図4】試験例3における、ICRマウス(雄)を用いて暑熱ストレス依存的な精子機能障害に対するトリゴネリンの作用をみるための雄マウスモデル試験の概要を示す図である。
図5】試験例3における、各試験群における、精子運動率(%)及びプログレッシブ比率(%)の結果を示す図である。
図6】試験例4における、各試験群における、暑熱ストレス依存的な精巣重量低下に対するリゴネリンの抑制作用の結果を示す図である。
図7】試験例4における、各試験群における、暑熱ストレス依存的な精巣内生殖細胞のアポトーシスに対するリゴネリンの抑制作用の結果を示す図である。
図8】試験例5における、各試験群における、暑熱ストレスによる排卵卵子数低下に対するトリゴネリンの作用をみるための雌マウスモデル試験の概要を示す図である。
図9】試験例5における、各試験群における、暑熱ストレスによる排卵卵子数低下に対するトリゴネリンの抑制作用の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である(質量/質量%)。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0019】
1.本実施形態の概要
近年、不妊症とその対策が問題とされているが、この不妊症の原因は性別に関係なく、男性(雄)側及び女性(雌)側で半々に由来するものである。遺伝的原因ではない、いわゆるストレス性生殖障害は、少子化に拍車をかけるだけでなく、体外受精による女性への身体的・精神的・時間的負担を通して、女性の社会進出を妨げる一因でもある。更に、種々のストレスによる無月経などの生殖機能障害は、閉経後の女性同様に、若い女性の骨粗鬆症のリスクにも繋がる。
【0020】
不妊又は生殖機能障害を引き起こす原因としては、ストレスが深く関与することが知られており、このストレスとして、例えば、精神的ストレス、過度な運動、過度なダイエット(食事制限など)、肥満、熱ストレス(全身性、局所的、暑熱など)、炎症性ストレス(肥満、慢性炎症、乳牛の乳房炎など)などを挙げられ、これらから1種又は2種以上が挙げられる。本実施形態では、各ストレスを軽減するために用いることができ、好適には熱ストレス軽減用である。
【0021】
本実施形態は、トリゴネリン又はトリゴネリンを含む組成物を用いることで、生殖機能障害及び/又は不妊の予防、改善又は治療を可能にする技術を提供することができ、より好適な態様として、熱ストレス(好適には暑熱ストレス)による生殖機能障害及び/又は不妊の予防、改善又は治療である。なお、トリゴネリンを含む組成物として、トリゴネリンを含む素材又は当該素材処理物(残渣、抽出物、分離物、精製物及び高濃縮物など)をそのまま使用してもよく、また、トリゴネリンを含む素材又は当該素材処理物を、組成物の原料として使用し又は原料として組成物に含有させ、トリゴネリンを含む組成物を得てもよい。
【0022】
男性(雄)の場合、勃起障害などを除けば、生殖機能障害は、主に精巣機能障害と言い換えることができ、精巣に何らかの異常、即ち精巣機能障害(生殖細胞や実質細胞の障害)が生じる。精巣機能障害として、例えば、精子機能低下及び/又は精子形成能低下などが挙げられる。例えば、造精能が何らかの理由により低下することで、形成される精子の数及び/又は質が落ちる障害;成熟精子において何らかの理由により、成熟精子数が減少したり、精子運動機能等が低下する障害等が挙げられる。この精巣機能障害は、結果的に最終的な精子の数や運動率に現れ、より具体的な例として、頭部振幅、頭部振動数、直線速度、曲線速度等の精子機能などにも現れる。その生殖機能障害の延長上に不妊がある。
【0023】
精子は、通常、マウスでは5週間、人では2ヶ月半かけて、精原(精祖)細胞から精原細胞→精母細胞→精子細胞→成熟精子の順で形成される。この形成過程及び成熟精子は熱に弱く、このため哺乳類では精巣温度は体温より2℃~5℃低く保たれている。本発明者らは、暑熱ストレスによる精子形成障害と成熟精子障害の2つの障害のモデル系を構築し、このモデル系を用いて、ストレス性生殖機能障害などの予防、改善又は治療に用いるための物質を検討した。
【0024】
本実施形態では、熱ストレスによる又は熱ストレスに依存的な生殖機能障害に対して用いることがより好適であり、当該熱ストレスとして、全身性熱ストレス及び/又は局所的熱ストレスが好適であり、局所的熱ストレスは陰嚢局所的熱ストレスがより好適であり、また、熱ストレスは、暑熱ストレスがより好適である。
【0025】
本実施形態では、生殖機能障害による男性不妊患者に対し適用することが好適であり、例えば受胎率向上を図るために用いてもよい。また、本実施形態では、産業動物及びペットの雄に対し適用することが好適であり、例えば、生殖機能障害による、受胎率の低下や産仔数及び産卵数の低下を改善し、受胎率や生産効率の向上を図るために用いてもよい。さらに、本実施形態では、健常者及び健常動物にも適用することが好適であり、これにより不妊又は生殖機能障害を予防又は改善するために用いることができる。なお、健常の場合には、例えば、生殖機能障害(例えば、精巣機能障害)までには至っていないが、障害と判断する基準を考慮したときに、生殖機能(例えば、精子機能や精子形成能などの精巣機能など)が低下しているなどを対象とすることができる。
本実施形態において、男性(雄)を適用対象とする場合、生殖機能障害のうち、精巣機能障害であることが好適であり、より好適には、成熟精子又は精子の運動性低下、精子形成能低下、精巣重量低下、精巣内生殖細胞のアポトーシスなどから選択される1種又は2種以上の各種症状又は疾患の抑制、又は、予防、改善若しくは治療などのために用いることが好適である。
【0026】
精巣機能障害として、例えば、精子機能低下及び/又は精子形成能低下などが挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、成熟精子において何らかの理由により、成熟精子数が減少したり、精子運動機能等が低下する障害等が挙げられる。
【0027】
なお、精子機能及び/又は精子形成能は、精子運動解析システム(SMAS: Sperm Motility Analysis System)(ディテクト, Tokyo, Japan)を使用して、例えば、精子濃度、精子運動率、運動精子濃度、直線速度、曲線速度、平均速度、頭部振幅、プログレッシブ精子比率(プログレッシブ精子:直線速度≧50μm/sかつ直進性≧70%)、プログレッシブ精子濃度(プログレッシブ精子:直線速度≧50μm/sかつ直進性≧70%)などから選択される1種又は2種以上の評価項目(パラメータ)を用いて、評価することができる。なお、直進性とは直線速度/曲線速度を意味する。この精子運動解析システムを用いることで、各評価項目、精子機能及び/又は精子形成能に対して、試料物質が有する作用効果(機能低下の抑制作用など)を評価することができる。
【0028】
女性(雌)の場合、生殖機能障害は、無月経を含む性周期異常(家畜・ペットでは発情周期の遅延、無発情、排卵卵子数減少等)、妊娠しない・流産(家畜・ペットでは交配・種付けしても受胎しない)として現れる。男性同様、その生殖機能障害の延長上に不妊がある。さらに、女性特有であるが、生殖機能障害の一つ無月経は低エストロゲンとなり、エストロゲンの低下は骨粗鬆症に繋がる。例えば、エストロゲンを産生する卵巣を摘出することにより、骨粗鬆症モデルマウスを作製している。
【0029】
(1)男性に起因する不妊及び男性の生殖機能障害などの予防及び改善などの技術
現在5~6組のうち1組の夫婦が不妊であり、その半数に男性側が関与する。不妊症夫婦の多くは体外受精(顕微授精を含む)を行い、2019年は出生児の14人に1人が体外授精により誕生している。昨今、男性の精子数の低下が問題視されている。以前は内分泌撹乱物質がその原因と考えられていたが、現在は生活習慣病による精巣温度の上昇や種々のストレスが原因との考えが主流となりつつある。例えば、長時間の着座状態や精巣静脈瘤などは、精巣の温度上昇(熱ストレス、具体的には局所的熱ストレス)に繋がり、暑熱ストレス又は精巣機能障害の原因となる。
【0030】
男性の生殖機能障害(好適にはストレス性生殖機能障害)として、特に限定されないが、例えば、熱ストレス(好適には暑熱ストレス)、肥満、精神的ストレス等から1種又は2種以上を選択することができる。
熱ストレス(好適には暑熱ストレス):例えば、生活習慣としての暑熱ストレス(長時間(例えば1時間以上など)の着座による暑熱ストレス等)及び形態学的異常による暑熱ストレス、高温環境(例えば30℃以上)での精巣温度上昇による暑熱ストレス等が挙げられる。生活習慣としての暑熱ストレス:デスクワーク、長時間にわたる着座しての車や電車等による移動、タイトなブリーフ着用(陰嚢を圧迫する又は締め付けるような下着等)で精巣温度上昇等。形態学的異常による暑熱ストレス:精巣静脈瘤により血液の流れが悪くなり、結果として温度上昇に繋がること等。
肥満:BMIが高い人は、精子の数や運動率が低い。肥満は、慢性炎症と位置付けられ、炎症は酸化ストレスと連動している。暑熱ストレスを含め、種々のストレスの少なくとも一部は酸化ストレスに変換される。
精神的ストレス:精神的ストレスも体内で少なくも一部酸化ストレスに変換されることから、生殖障害が予想される。
【0031】
本実施形態では、上述のように、ストレスに起因する生殖機能障害(男性の精子の数や運動能力低下等)及び生殖機能障害による不妊などの予防、改善又は治療などを可能にする。
【0032】
(2)雄の家畜・ペットなど非ヒト動物のストレス性繁殖障害の予防及び改善などの技術
夏季の高温環境下で雌雄の家畜の繁殖能力が低下する。通常、成熟精子や精子形成能は高温に弱いため、精巣温度は体温よりも低い温度に保たれている。しかし、外部温度の上昇は、精液量、精子数の減少や精子の運動性の低下などを引き起こす。また、雄等のストレス性生殖機能障害のストレスは、上記男性のストレス性生殖機能障害で説明の各種ストレスを採用することができる。
本実施形態では、家畜やペットなどの非ヒト動物に対して、夏季不妊又は熱ストレスによる雄側のストレス性繁殖障害、ストレス性繁殖能力低下、及び不妊などを予防、改善又は治療することを可能にする。
【0033】
(3)雌の家畜、ペットなどの非ヒト動物のストレス性繁殖障害の予防及び改善などの技術
夏季不妊又は暑熱ストレスによる不妊の問題は、雌雄の両方に起こる。雌では、夏季に、暑熱ストレスによって、発情周期の遅延や無発情による交尾や種付け機会の減少、排卵卵子数の減少、交配・種付け後の受胎率の低下が起こる。
雌の生殖機能障害(好適にはストレス性生殖機能障害)として、特に限定されないが、例えば、暑熱ストレス、炎症性ストレス等から1種又は2種以上を選択することができる。
夏季の気温上昇等による熱ストレス(好適には暑熱ストレス):熱ストレスにより発情周期の遅延(発情が起きにくい)、排卵卵子数の減少(多排卵の家畜・ペットで起きるが、ヒトやウシなど排卵数が一つの動物は無排卵=無月経を意味する)、交配あるいは種付けしても受胎しない等の理由で繁殖障害が起きる。本実施例では、夏季の気温上昇等による暑熱ストレスの指標として、排卵卵子数の減少を見ている。
炎症:乳牛の乳房炎等:乳牛は毎日搾乳されることから乳房炎になりやすい。乳房炎に感染した乳牛は卵巣にも影響が出ることがある。リポ多糖を投与して炎症を起こさせた雌マウスは、排卵卵子数が減少する。
本実施形態では、家畜やペットなどの非ヒト動物に対して、夏季不妊又は熱ストレスによる雌側のストレス性繁殖障害、ストレス性繁殖能力低下、及び不妊などを予防、改善又は治療することを可能にする。
【0034】
(4)女性に起因する不妊及び女性のストレス性生殖機能障害などの予防、改善などの技術
不妊症増加の女性側の問題として、出産計画の高齢化、種々のストレスが主要な原因と考えられる。昨今、働く女性のストレスによる生理不順や無月経、過度な食事制限(ダイエット)又は過度の運動による生理不順や無月経などの生殖機能障害の問題が、取り上げられるようになっている。無月経は単に不妊に繋がるだけでなく、骨形成に重要な女性ホルモンであるエストロゲンの低下をもたらし、このエストロゲンの低下は骨粗鬆症を誘発する。
女性のストレス性生殖障害として、特に限定されないが、例えば、出産の高齢化、過度な運動、過度なダイエット、熱ストレス等の原因から選択される1種又は2種以上によるストレス性生殖障害が挙げられる。
出産の高齢化:晩婚化等や女性の社会進出による出産計画の高齢化が進んでいる。出産計画の高齢化は老化と繋がり、少なくとも体内で酸化ストレスなどを生み出し、卵子の劣化など生殖機能の低下が起こる。
過度な運動:アスリート(より具体的には審美系アスリート)などの過度な運動による無月経などの生殖機能障害が問題となっており、無月経などの生殖機能障害によるエストロゲンの低下は女性の骨粗鬆症を誘発することも問題となっている。実際、審美系アスリートの無月経は一般女性の6~9倍であり、そのうち疲労骨折の経験者は4人に一人という現状である。
過度なダイエット(食事制限):女性の過度なダイエットは栄養不足や種々ストレスに対応する能力低下に繋がり無月経などの生殖機能障害を起こす。
精神的ストレス:精神的ストレスの少なくとも一部は酸化ストレスに変換され、無月経などの卵巣機能を低下させる。
肥満:肥満は、慢性炎症と位置付けられ、炎症の少なくとも一部は卵巣障害に繋がる酸化ストレスと連動する。
骨粗鬆症:過度な運動又は過度なダイエットを実施する女性(アスリート、ダイエッター、痩身系女性モデルなど)では、無月経又は月経異常などの生殖機能障害により、低エストロゲン状態となることで骨粗鬆症に繋がる。
本実施形態では、ストレスに起因する女性の生殖機能障害、それに伴う骨粗鬆症、及び不妊などの予防、改善又は治療することを可能にする。
【0035】
また、本実施形態は、暑熱ストレス軽減用、生殖機能障害(例えば、精巣機能障害、女性(雌)の性周期異常など)の予防・改善・治療用、精子形成能又は精子機能の低下の予防・改善・治療用、受胎率低下の予防・改善・治療用などの生体機能低下の予防・改善・治療用などの目的に使用したり、当該目的に供される組成物として提供することが好適である。
【0036】
ここで、「暑熱ストレス軽減用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、日本の夏の季節など、ヒト又は動物が高温多湿の環境に曝されると、食欲不振や不眠のような夏バテのような症状の原因となったり、畜産動物の繁殖能力の低下の原因となったり、場合によってはヒト又は動物の健康を害する原因となったりするので、そのような状態の生体機能を改善して、暑熱ストレスを軽減する目的を含む意味である。
【0037】
また、「生殖機能障害予防・改善・治療用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、現在は種々のストレスが原因となり、ヒト又は動物の生殖機能の低下が起こるので、その生殖機能にかかわる生体機能を予防や改善等する目的を含む意味である。
【0038】
また、「精子形成能又は精子機能の低下の予防・改善・治療用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、昨今、男子の精子数の低下が世界的に問題視され、精子数の減少、受精能の低下等の精子機能の低下による不妊の割合も増えているが、その精子機能にかかわる生体機能を改善し、不妊を解消する目的を含む意味である。この場合、体内における受精にかかわる精子機能のみならず、体外における受精にかかわる精子機能低下の予防や改善等をも含む意味である。
【0039】
また、「受胎率改善用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、ヒト又は非ヒト動物の性交もしくは交配後の受胎率を向上させることを含む意味である。特に、豚、牛、鶏等の家畜動物及びペットなどの非ヒト動物の繁殖能力を向上し、生産個体数や生産個体あたり重量を向上させる目的をも含む意味である。
【0040】
また、本実施形態は、女性(雌)側に起因する不妊又は生殖機能障害の予防・改善・治療用、女性の月経異常の予防・改善・治療用、雌の発情周期の異常の予防・改善・治療用などの生体機能低下の予防・改善・治療用などの目的に使用したり、当該目的に供される組成物として提供することが好適である。
【0041】
ここで、「女性側に起因する不妊又は生殖機能障害の予防・改善・治療用」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、例えば、現代人には種々のストレスに起因する不妊の解消が課題であり、女性側の卵胞発育阻害や過度な卵胞閉鎖、卵子そのものの劣化による受精能力や発生能力の低下等を改善し、精神的・肉体的ストレスや高齢化等による不妊を解消する目的を含む意味である。
【0042】
また、「女性の月経異常」とは、通常の25日~38日の周期ではなく、25日以内の頻発月経、39日以上を要する稀発月経、3ヶ月以上月経のない無月経等など周期の異常に加え、月経の持続期間の異常等も含めた月経の乱れた状態等を含む意味である。
【0043】
また、「雌の不妊又は生殖機能障害の予防・改善・治療用」とは、通常当業者に理解される意義と同義である。一般に、畜産業界では、過密飼育、高温刺激などのストレスによる不妊が大きな課題であり、例えば、ストレスによる典型的な不妊として「夏季不妊」が知られている。日本の夏の季節など、高温多湿の環境下で雌雄の家畜の繁殖能力が低下することにより、食肉・鶏卵・乳の安定的供給を困難にする、深刻な課題である。通常、雌家畜の発情周期は、牛、豚、山羊で20~21日、羊で16~17日、馬で20~24日など種により一定であるが、外部温度の上昇は、雌の発情周期遅延や無発情等を引き起こす。精神的・肉体的ストレスによるヒトの不妊や月経異常、過密飼育や高温刺激による家畜の不妊のいずれも、外部からのストレスが体内で酸化ストレスに変換されることにより発現するものと考えられる。(非特許文献1:阪谷美樹著、「暑熱ストレスが産業動物の生産性に与える影響」産業動物臨床医学雑誌 2015 年 5 巻 Supple 号 p. 238-246.;非特許文献2:Samina Salim著、「Oxidative stress: a potential link between emotional wellbeing and immune response」 (2016) Current Opinion in Pharmacology, Vol. 29, 70-76.参照)
【0044】
2.本実施形態に係わる不妊の予防などに関する組成物
本実施形態は、トリゴネリンを含む、不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物を提供することが好適である。
また、本実施形態は、トリゴネリンを含む、精巣機能障害、精子機能低下又は排卵障害の予防、改善又は治療用の組成物を提供することが好適である。
【0045】
2-1.トリゴネリン
本実施形態に用いるトリゴネリン(trigonelline)は、多くの植物に含まれるピリジン環を有するアルカロイドの一種で、1-メチルピリジン-1-イウム-3-カルボキシラートであり、別名としてN-メチルニコチン酸又はカフェアリン(caffearine)とも呼ばれている。トリゴネリンは、一分子内に両荷電基を持つベタイン型分子である。トリゴネリンは、熱により分解し、ニコチン酸に変化することが知られている。
【0046】
本実施形態に用いるトリゴネリン又はトリゴネリンを含む組成物(以下、「トリゴネリン組成物」ともいう)は、例えば、トリゴネリンを含む素材から処理(抽出、分離精製など)により得ることができ、当該素材として、特に限定されず、例えば、植物由来、動物由来、微生物由来などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。また、本実施形態に用いるトリゴネリン又はトリゴネリンを含む組成物は、公知の製造方法(例えば、有機合成方法、微生物産生方法など)を用いて得ることができ、トリゴネリンに合成可能なトリゴネリンの前駆体又は中間体などを使用してもよい。
【0047】
本実施形態では、素材そのまま、或いは乾燥、冷凍、加熱、粉砕、圧搾、抽出等により得られる、抽出物、加工物、残渣若しくは分離精製物、又はこれら由来物等から選択される1種又は2種以上を、本実施形態に関するトリゴネリン又はトリゴネリン組成物の原料として又はそのまま用いることができる。
【0048】
また、本実施形態では、前記素材から、トリゴネリン及び/又はこれ以外の成分や目的物を得るために処理する処理工程により得られたトリゴネリンを含む処理物(以下、「トリゴネリン処理物」ともいう)を、そのまま又はトリゴネリンを含む組成物として、用いることができる。トリゴネリン処理物として、特に限定されず、例えば、残渣、抽出物、分離物、精製物及び高濃縮物などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。本実施形態では、トリゴネリン処理物(例えば、トリゴネリン抽出物、トリゴネリンを含む残渣など)、飲食品などのトリゴネリン組成物などに一般的に含まれるトリゴネリン濃度と比較して、トリゴネリン濃度をより高くしたトリゴネリン高濃度化組成物(例えば、トリゴネリンの高濃縮物、トリゴネリンの分離精製物など)がより好適である。例えば、素材、素材抽出物、素材残渣、飲食品、及び飲食品用組成物などから選択される1種又は2種以上を原料とし、これら原料中のトリゴネリン含有量を高濃度化するための分離・精製を行うこと、又は、トリゴネリンを含む添加剤を、これら原料に添加することなどの方法にて、トリゴネリンの高濃度化組成物を得ることができる。
【0049】
本実施形態では、トリゴネリンを含む素材(好適には植物、より好適にはコーヒーや桜島大根など)などから、有機溶剤(例えば、水、アルコールなど)及び油などから選択される1種又は2種以上の溶媒を用いることにより、上述した所望の化合物を含む抽出物を得ることができる。
【0050】
前記素材、好適には植物の部位として、特に限定されないが、果実、葉、花、茎、根などのいずれかの部分、又はこれらから選択される1種又は2種以上を用いることができ、これらは生の状態で用いてもよく、或いは乾燥物、粉砕物等を用いてもよい。
【0051】
本実施形態に用いる、処理(例えば、抽出、分離、精製など)の方法は、特に限定されない。処理(例えば、抽出、分離又は精製)は、素材を一定温度(低温、常温又は加温)下にて、所定期間、浸漬などにて溶媒を用いて行うことができる。
【0052】
処理方法(好適には抽出方法)の例としては、例えば、コーヒーなどの素材を、溶媒(例えば、水、アルコール類及び水-アルコール類混合液の何れか)にて、室温(例えば5~40℃程度)で又は加温(40~100℃程度)して5分間~1ヶ月間処理を行う方法などが挙げられる。本実施形態では、このうち、水を含む溶媒を用いた処理(好適には熱水処理)が好ましく、抽出の場合には、熱水抽出がより好適である。
前記処理温度(好適には抽出温度)は、好ましくは60℃以上、より好ましくは60~100℃、さらに好ましくは70~100℃、より好ましくは80~100℃である。また、処理期間(好適には抽出期間)は、例えば5分間~1週間程度で行ってもよく、加温処理の場合には10分~3時間程度(好適には2~3時間)で行ってもよい。
【0053】
前記処理(好適には抽出)に使用する溶媒としては、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができ、このうち、水、アルコール類、グリコール類が好適である。アルコール類(好適には炭素数1~3)としては、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル等が挙げられる。ハロゲン化炭素類としては、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。また、それら有機溶媒と水との混合による含水有機溶媒等であってもよい。これらから選択される1種又は2種以上を用いることできる。
【0054】
このうち、ヒト又は動物に経口させる観点及びトリゴネリン抽出効率向上の観点などからは、水を含む溶媒がより好適であり、例えば水及び/又はアルコール類がより好適であり、水及び/又は含水アルコールがさらに好適であり、さらに水が好適である。水を含む溶媒における水濃度は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80又は90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。また、トリゴネリンは親水性が高いため、素材からトリゴネリンを抽出したり、又は、トリゴネリン粗抽出物などを含むトリゴネリン処理物などからさらにトリゴネリンを分離精製したり高濃度化するためなどの抽出効率向上などの観点から、熱水抽出(例えば、好適には70~100℃、より好適には80~100℃)を用いることが好適であり、水を抽出溶媒として用いることでトリゴネリンをより良好に回収することができる。なお、微生物製造や分離精製などのときにも、これら溶媒及びその抽出方法を、トリゴネリンの抽出、分離若しくは精製のために、又は、トリゴネリンの高濃度化処理のために、用いてもよい。
【0055】
トリゴネリンを含む素材として、コーヒー及び桜島大根などから選択される1種又は2種以上を用いることができ、コーヒー及び/又は桜島大根が、回収効率の観点から好適であり、これらの残渣を用いることがコストなどの観点から好適である。
【0056】
トリゴネリンを、天然物、素材、植物又はその抽出物から得る場合、好適な素材は、コーヒー素材であり、当該コーヒーは、コーヒーノキ属(Coffea属)に属する植物(以下、「コーヒーノキ」ともいう。)がより好適であり、一般にコーヒー豆の品種として知られているアラビカ種、カネフォラ種、コンジェンシス種、リベリカ種等に属する植物であってよく、あるいはその他の属種に属する植物であってよい。
【0057】
前記コーヒー素材の基原又は抽出に用いる植物部位として、コーヒー果実が好適であり、より好適には未成熟又は成熟したコーヒー果実であり、さらに好適には成熟したコーヒー果実が好適である。用いるコーヒー果実のより好適な部位は、果実の全体であってもよく、あるいはコーヒー豆に利用される種子の部分でもよく、又は種子を除く果実全体のうちの部分的な構成部位の1種又はその2種以上の混合であってもよい。種子は、未焙煎のものが好ましい。さらに好適な部位として、果実全体のうちの果皮、果肉、ペクチン層、パーチメント、シルバースキン、センターカット、茎等の部分的部位の1種又は2種以上の混合であってもよい。例えば、典型的な焙煎コーヒー豆の製造では、未焙煎の果実から種子を除く工程があるが、果実から種子の部分が除かれた部分(果肉、果皮など)が副産物として生じる。これをコーヒー残渣(好適にはコーヒーチェリー残渣)として、通常は、廃棄処分されているため、比較的安価に入手可能であり、廃棄量の低減にもなる。本実施形態に用いるコーヒー素材(好適には、コーヒーチェリー素材)は、残渣を基原として又は抽出元として用いてもよい。
【0058】
本実施形態に用いるトリゴネリンを含む素材又は抽出物などは、そのまま有効成分として用いてもよいし、効能を損なわない範囲で夾雑物等不純物を除去するため又は効能を高めるために、適宜、公知の分離精製方法にて処理してもよい。例えば、必要に応じて、さらに、処理溶媒の留去、濾過やイオン交換樹脂等による脱臭、脱色等の精製処理を施した後に用いることもできる。又、液体クロマトグラフィー等の分離手段を用いて、活性の高い画分のみを用いることもできる。また、本実施形態では、トリゴネリンを含む素材又は処理物、抽出物などは、処理液単独で、又は異なる処理方法にて得られた処理液を混合して、そのまま用いるか、又は当該処理物を希釈、濃縮又は乾燥させて、液状、粉末状又はペースト状に調製して用いてもよい。
【0059】
本実施形態に用いるトリゴネリンを含む素材若しくは抽出物などのトリゴネリン処理物は、固体状、液状(ジュース)、ペースト状、ゲル状、油状、エマルジョン等いずれの形態であってもよい。
また、本実施形態の限定されない態様として、トリゴネリン組成物の調製の際、もしくはそれとともに、デキストリン等の乾燥助剤やショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を添加してもよい。また、本実施形態の限定されない他の態様としては、トリゴネリン組成物中のトリゴネリン濃度が所望濃度になるように、ロースト等の加熱処理が施されていてもよい。
【0060】
また、本実施形態は、治療目的の使用であっても、非治療目的の使用であってもよい。本実施形態において、「使用」は、ヒトへの投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。非治療目的として、例えば、ペット、家畜、家禽などのヒト以外の非ヒト動物への処置、飲食品又は飼料での経口摂取などが挙げられる。
【0061】
また、本実施形態において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本実施形態において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。また、「治療」には、疾患の完全治癒に加えて、症状を改善させることが包含される。
【0062】
2-2.本実施形態に係わる用途、使用方法等
【0063】
本実施形態に用いるトリゴネリン又はトリゴネリンを含む組成物は、後記〔実施例〕に示すように、不妊の予防・改善・治療、生殖機能障害の予防・改善・治療、精巣機能障害の予防・改善・治療、精子機能低下の予防・改善・治療若しくは抑制、精子形成能低下の予防・改善・治療若しくは抑制、排卵障害の予防・改善・治療、月経異常の予防・改善・治療、繁殖能力低下の予防・改善・治療、及び骨粗鬆症若しくは女性(雌)の生殖機能障害による骨粗鬆症の予防・改善・治療若しくは抑制などの作用効果を有し、これらからなる群から選択される1種又は2種以上を目的として使用することもできる。
本実施形態では、上述した症状及び疾患などは、男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因するものであることが好適である。また、本実施形態では、上述した症状及び疾患などは、ストレス(好適には熱ストレス)に起因することが好適であり、さらに好適には、暑熱ストレスに起因するものであり、又は、さらに好適には、全身性熱ストレス又は局所(好適には陰嚢局所)熱ストレスに起因するものである。
【0064】
そして、本実施形態に用いるトリゴネリン又はトリゴネリン組成物は、上述した生殖機能障害及び不妊などを予防、改善又は治療するために用いることができ、前記トリゴネリン又はトリゴネリン組成物を、上述した生殖機能障害及び不妊などの予防用、改善用又は治療用、機能低下若しくは能力低下の抑制用などの特定用途の組成物に有効成分として含有させることができる。また、本実施形態では、トリゴネリン又はトリゴネリン組成物を、上述した生殖機能障害及び不妊などの各種症状又は疾患の予防方法、改善方法又は治療方法などの方法又は使用方法に用いることができる。これにより、本実施形態では、上述した、不妊、生殖機能障害、精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、排卵障害、月経異常及び繁殖能力低下などからなる群から選択される1種又は2種以上の症状又は疾患などを有する又は可能性のある対象動物に対して、予防、改善又は治療などを行うことも可能である。また、不妊又は生殖機能障害の症状として、例えば、精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、排卵障害、月経異常、繁殖能力低下、及び骨粗鬆症(好適には女性(雌)の生殖機能障害による骨粗鬆症)などから選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0065】
また、本実施形態は、上述した作用効果、又は上述した予防等の効果を期待して、トリゴネリン又はトリゴネリン組成物を、そのまま適用対象に使用することもできる。また、トリゴネリン又はトリゴネリンを含む組成物を、上述した作用効果、又は、上述した予防等の効果を期待する各種製剤又は各種組成物若しくは特定用途の組成物に含有させること、及びトリゴネリン又はトリゴネリン組成物などを含有させた特定用途の組成物及び当該組成物への使用ができる。
【0066】
また、トリゴネリン又はトリゴネリン組成物などは、上述した予防等の効果を期待して、上述した、不妊、生殖機能障害、精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、排卵障害、月経異常、繁殖能力低下、及び骨粗鬆症(好適には女性(雌)の生殖機能障害による骨粗鬆症)などから選択される1種又は2種以上を予防、改善又は治療するための又はために使用するための、物質又は有効成分として、使用することも可能である。
【0067】
なお、本実施形態に関する組成物は、飲食品、医薬品、飼料及び添加剤などから選択される1種又は2種以上として提供することが好適であり、飲食用組成物、医薬用組成物又は飼料用組成物などとして提供してもよい。
また、本実施形態に用いるトリゴネリン組成物は、トリゴネリンを含む素材から得られたトリゴネリン処理物(例えば、抽出物、残渣、高濃度化物など)、及びトリゴネリンを含む添加剤、任意成分などから選択される1種又は2種以上を、医薬品、飲食品又は飼料などに対して、配合した組成物又は通常含まれるトリゴネリン濃度以上になるように配合した組成物などであってもよく、特に限定されない。
【0068】
本実施形態の適用対象として、特に限定されないが、動物が好適であり、より好適には脊椎動物である。脊椎動物として、例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。また、本実施形態のより具体的な適用対象として、例えば、ヒト、ペット(例えば、鳥、犬、猫、うさぎ、げっ歯類(齧歯目;例えば、リス類(リス形亜目)、ネズミ類(ネズミ形亜目;例えば、ラット、マウス、ハムスター等)など)、観賞魚又は飼育魚(例えばメダカ、コイ、キンギョなど淡水魚、海水魚)、家畜(例えば、牛、豚、鶏、鴨など)などが挙げられ、これらから1種又は2種以上選択することができる。
【0069】
また、本実施形態は、適用対象として、健常動物であってもよく、ストレス耐性、生殖機能又は繁殖能力などが低下している健常動物であってもよい。また、本実施形態は、適用対象として、不妊治療中の動物、繁殖時の動物などから選択される1種又は2種以上に用いることが好適である。
【0070】
本実施形態に関する特定用途の組成物は、特に限定されないが、例えば、医薬品(医薬部外品、指定医薬部外品、動物用医薬品などを含む)、飲食品(サプリメント、トクホ、機能性食品などを含む)、及び飼料(サプリメントなどを含む)などから選択される1種又は2種以上であることが好適である。本実施形態に関する組成物を、所望の投与量又は摂取量で、適用対象に、投与又は摂取させてもよい。また、本実施形態の添加剤を、医薬品、飲食品又は飼料などの製造工程において、医薬品用、飲食品用又は飼料用などの組成物又は添加剤として、配合してもよい。本実施形態の添加剤を、飲食品又は飼料などに添加後に、添加後の飲食品又は飼料を適用対象に投与又は摂取させてもよい。本実施形態に関する組成物は、経口用が好適である。
【0071】
医薬品(医薬部外品、動物用医薬品なども含む)の投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口投与形態、又は、注射剤、坐剤、吸入薬、皮吸収剤、外用剤などによる非経口投与形態などが挙げられるが、好ましくは経口投与形態である。
【0072】
また、飲食品又は飼料には、上述した不妊又は生殖機能障害など、これらに関連する症状又は疾患などに関する予防、改善又は治療等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品又は飲料、サプリメントなどを包含してもよく、経口用又は経口摂取用が好適である。
【0073】
投与対象、症状の状態、病気のステージ等にもよるが、投与期間は、例えば1週間~数年程、あるいはそれ以上投与することが、不妊などの予防、改善などの観点から望ましく、さらに安全性の観点からも、継続的に投与することが好ましい。また、本実施形態では夏季のような暑熱ストレスに対して良好な作用効果を発揮し得るため、夏季又は暑熱環境になるときに、投与又は経口摂取などを行うことが好ましい。なお、トリゴネリン又はトリゴネリン組成物を投与しつつ又は摂取させつつ、他の成分(例えば抗酸化剤)の投与又は摂取や、食生活の見直し、喫煙や運動等の生活習慣の見直し等を行うのもよい。
【0074】
本実施形態におけるトリゴネリン又はトリゴネリン組成物を使用する場合のトリゴネリンの使用量は、対象動物の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得る。例えば、成人一人当たり、好適な下限値として、好ましくは0.1mg/体重60kg以上、より好ましくは0.5mg/体重60kg以上、また、好適な上限値として、好ましくは500mg/体重60kg以下、より好ましくは、100mg/体重60kg以下である。
また、犬、猫などのペットの場合には、前記トリゴネリンの使用量は、一匹当たり、好適な下限値として、好ましくは0.1mg/体重3kg以上、より好ましくは0.5mg/体重3kg以上、また、好適な上限値として、好ましくは500mg/体重3kg以下、より好ましくは、100mg/体重3kg以下である。
【0075】
また、本実施形態におけるトリゴネリン又はトリゴネリン組成物は、任意の使用計画に従って使用することができるが、1日1回~複数回(2~3又は5回程度)に分け、2~3程度の数週間~2~3程度の数ヶ月間継続して使用することができるが、上述のように、飲食品での経験則から、使用期間は特に限定されず、数年又は数十年などの長期間にわたり使用することができるであろう。
【0076】
本実施形態に関する組成物は、必要に応じて又は本技術の効果を損なわない範囲内で、飲食品、医薬品(医薬部外品含む)、飼料、添加剤等の種々組成物に通常使用されている成分を、含有させる又は配合することができる。当該成分として、例えば、防腐剤、細胞賦活剤、抗酸化剤、溶剤(水、アルコール類等)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料などが挙げられる。これらから適宜1種又は2種以上選択して使用することができる。また、本実施形態の組成物若しくは組成物の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状などのいずれの形態でもよい。
【0077】
2-2-1.医薬用組成物
本実施形態の医薬品は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤等として経口的に、或いは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。本発明の医薬品の剤形は特に限定されないが、投与容易性の点から経口剤であることが好ましい。
【0078】
本実施形態の医薬品は、本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等とともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤等に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアガムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等が用いられる。
【0079】
本実施形態の医薬品は、本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物に加えて、更なる、動物(ヒトを含む)にとって何らかに有効なその他の成分、例えば、ポリフェノール類、タンパク質、アミノ酸、ステロイド剤、ビタミン類、糖質、脂質、ミネラル、ホルモン剤、抗生物質、色素等を配合してもよい。具体的には、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、塩化カリウム、グルコン酸カルシウム、サッカリンナトリウム等が挙げられる。
【0080】
本実施形態の医薬品への本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物の配合量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。また、剤形によっても配合量は変化し得る。
医薬品への配合量は、例えば、本実施形態に用いる前記化合物で、組成物中、通常1~95質量%、さらに5~90質量%、特に10~50質量%とするのが好ましい。
【0081】
また、本実施形態の医薬品の投与量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、剤形の種類、投与方法、投与対象(ヒト、非ヒト動物、ペット)の年齢や体重、症状等を考慮して適宜変更することができる。
投与対象が目的の効果を得る1日あたりの投与量は、例えば、本実施形態に用いる前記化合物として、一日あたり1~3000mg/60kg体重とするのが好ましく、さらに2~1000mg/60kg体重、特に3~500mg/60kg体重とするのが好ましく、4~200mg/60kg体重とするのが最も好ましい。
【0082】
2-2-2.飲食品
本実施形態の飲食品は、例えば、飲料、粉末、粉末飲料、錠剤、サプリメント、ゼリー、ハードカプセル又はソフトカプセル等の形状にすることができ、その形状は、経口又は経口摂取に適したものが好適である。
【0083】
本実施形態の飲食品は、本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L-アスコルビン酸、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類等のミネラル、その他の種々の栄養素、色素、香料、保存剤等の、通常飲食品原料として使用されているものを適宜配合することにより製造することができる。また、一般に飲食品材料として使用される米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサ等と混合してもよい。
【0084】
本実施形態の飲食品への本実施形態に用いるトリゴネリンの配合量は、特に限定されないが、組成物中、通常0.001~10質量%、さらに0.01~5質量%、特に0.1~1質量%とするのが好ましい。
例えば飲料の場合では、飲料中に本実施形態に用いるトリゴネリンは、0.001~0.5質量%、さらに0.005~0.25質量%、特に0.02~0.15質量%とするのが好ましい。
組成物がカプセル、タブレット等のサプリメントの場合では、本実施形態に用いるトリゴネリンを、組成物中、1~95質量%、さらに5~90質量%、特に10~50質量%含有しているものが好ましい。
【0085】
飲食品の形態としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができ、さらに必要に応じて、上述した特定用途に使用する若しくは特定用途を付した旨、又は、例えば、ストレス、生殖機能低下などが気になる方へなどの旨やコンセプトを表示した飲食品であってもよい。さらに、このような機能性やコンセプトなどを表示した飲食品は、非ヒト動物(例えば、ペット、家畜など)に給餌することも可能である。飲食品の形態としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができ非ヒト動物(例えば、ペット、家畜など)の飼料などに適用することも可能である。
【0086】
2-2-3.飼料
本実施形態の飼料は、本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類等と混合することにより得ることができる。飼料の形態として、上述した特定用途に使用する若しくは特定用途を付した旨やコンセプトを表示した飼料であってもよい。
【0087】
一般に、家畜の飼料は、粗飼料、濃厚飼料、及び特殊飼料の3種類に大別される。このうち、粗飼料は相対的に粗繊維含量が多く、容積が多い割には可消化栄養分が少ない飼料を指す。粗飼料には、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、根菜類、わら類等が用いられている。また、濃厚飼料は比較的養分含量が高く、水分や粗繊維含量の低い飼料を指す。濃厚飼料には、トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャン等の穀類や、米糠、ふすま類等の穀物副産物(糠類)、落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕等の油粕類等が用いられている。
また、ペット、鑑賞魚等の飼料(いわゆるペットフード、餌など)も、家畜飼料と同様のコンセプトにて製造することができ、また、通常用いられているペットフード原料などに本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物を混合することでも製造することができる。
【0088】
本実施形態の飼料は、これらの飼料に、コーヒーチェリーの果実や花、茎、根、好ましくは葉を、生の状態で或いは乾燥物として添加することにより製造することもできる。コーヒーチェリー果実、種子、又は、種子を除いた果肉及び果皮等は、そのまま或いは粉砕して粉状としたものを添加し得る。また、コーヒー生豆の採取の際に発生したコーヒーチェリー残渣を添加することもできる。なお、本実施形態の飲食品でも、このような手法を用いて、製造することが可能である。
【0089】
本実施形態の飼料への本実施形態に用いるトリゴネリン又はこれを含む組成物の配合量及び投与量等は、上述の医薬品、飲食品に準じて決定することができる。
【0090】
3.本技術は、以下の構成を採用することができる。
・〔1〕 トリゴネリンを含む、(a)不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物、又は、(b)精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、月経異常又は排卵障害の予防、改善又は治療用の組成物、又は、(c)繁殖能力低下の予防、改善若しくは治療用の組成物、又は(d)骨粗鬆症の予防、改善若しくは治療用の組成物。
【0091】
・〔2〕 不妊又は生殖機能障害の予防、改善若しくは治療用の組成物の製造のための又は製造に使用するための、又は、前記〔1〕記載の組成物の製造のための又は製造に使用するための、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用であり、当該成分がトリゴネリンである。当該組成物は、製剤であってもよい。
【0092】
・〔3〕 不妊又は生殖機能障害、精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、月経異常又は排卵障害、骨粗鬆症、女性(雌)における生殖機能障害による骨粗鬆症などの予防、改善若しくは治療、又は抑制に使用するため、又は、これらから選択される1種又は2種以上の症状などの予防、改善若しくは治療又は抑制のための、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用であり、当該成分がトリゴネリンである。
【0093】
・〔4〕 トリゴネリン又はトリゴネリン組成物を用いる、不妊、生殖機能障害、精巣機能障害、精子機能低下、精子形成能低下、排卵障害、月経異常、繁殖能力低下、骨粗鬆症、女性(雌)における生殖機能障害による骨粗鬆症などから選択される1種又は2種以上の予防、改善若しくは治療、或いは抑制の方法。
【0094】
・〔5〕 前記症状又は疾患などは、男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因するものである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔6〕 前記症状又は疾患などが、男性側若しくは女性側に又は雄側若しくは雌側に起因するものである、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔7〕 前記症状又は疾患などが、全身性熱ストレス又は局所的熱ストレスに起因するものである、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔8〕 男女又は雌雄に用いる、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔9〕 前記組成物を用いる対象動物は、脊椎動物であり、好適には、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類から選択される1種又は2種以上の脊椎動物である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。このうち、ペット(犬、猫、鳥、うさぎ、げっ歯類など)、魚類(観賞魚など)、ヒト、家畜などをから選択される1種又は2種以上が好適である。
・〔10〕 前記症状又は疾患が、暑熱ストレスに起因するものである、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔11〕 暑熱ストレスに対して用いる、又は、夏季に用いる、前記〔1〕~〔10〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
【0095】
・〔12〕 前記組成物の形態が、飲食品(タブレット等)、医薬品(非ヒト動物用、医薬部外品、指定医薬部外品など)、飼料(タブレット等)、添加剤(飲食品用、医薬用、飼料用等)から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔11〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔13〕 前記トリゴネリンとして、トリゴネリンを含む組成物を使用する、前記〔1〕~〔12〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。当該トリゴネリンを含む組成物は、コーヒー処理物、コーヒー果実若しくはこの残渣、桜島大根若しくはこの残渣、及びこれらの抽出物、トリゴネリン高濃度化組成物から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
・〔14〕 前記トリゴネリンは、コーヒー果実若しくはこの残渣、桜島大根若しくはこの残渣、及びこれらの抽出物、トリゴネリン高濃度化組成物から選択される1種又は2種以上に含まれる物質である、前記〔1〕~〔13〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。前記コーヒー果実は、種子、果皮及び/又は果肉であることが好適である。前記コーヒー果実は、成熟した果実であることが好適であり、より好適にはコーヒーチェリー素材である。
・〔15〕 前記トリゴネリンは、コーヒー果実由来、及び/又は、桜島大根由来である、前記〔1〕~〔14〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
・〔16〕 前記組成物が、経口用、経口摂取用、経口投与用、又は給餌用である、前記〔1〕~〔15〕のいずれか一つに記載の、組成物、又は、成分若しくは当該成分を含む組成物、又はその使用、又は方法。
【0096】
・〔17〕 前記トリゴネリン又はこれを含む組成物が、経口用である、又は、経口摂取或いは経口投与或いは給餌で使用する、又は、前記方法が、経口摂取方法或いは経口投与方法或いは給餌方法である、前記〔1〕~〔16〕のいずれか1つに記載のトリゴネリン等又はその使用、又は方法。
・〔18〕 前記〔1〕~〔17〕のいずれか1つ記載の組成物又はトリゴネリン若しくはトリゴネリン組成物を配合して得られた飲食品又は飼料を、ヒト又は非ヒト動物に、経口摂取、経口投与又は給餌させる方法。
【0097】
・〔19〕 トリゴネリン素材(より好適にはコーヒー果実若しくはこの残渣、桜島大根若しくはこの残渣から選択される素材)から、トリゴネリン組成物(例えば、抽出物、トリゴネリン高濃度化物など)を得る、トリゴネリン抽出方法、トリゴネリンの分離精製方法、又は、トリゴネリン組成物の製造方法、又は、前記〔1〕~〔18〕のいずれか1つ記載の組成物又はトリゴネリンの製造方法。
・〔20〕 トリゴネリン、又は前記〔19〕の方法にて得られたトリゴネリン又はトリゴネリン組成物を原料として配合する、前記〔1〕~〔19〕の何れか1つ記載のトリゴネリン含有組成物又は特定用途の組成物の製造方法。当該トリゴネリン含有組成物が、医薬品、飲食品、飼料及び添加剤から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【実施例0098】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0099】
<1.材料>
<動物>
日本チャールズリバー株式会社から購入したICRマウスを標準飼料「MF粉末」(日本チャールズリバー株式会社)で自家繁殖し、各種の試験に用いた。
<被験物質>
トリゴネリン(東京化成工業株式会社)
【0100】
なお、コーヒー豆焙煎工程の前処理としてコーヒーチェリーから種子を除去するが、この種子を除去されたコーヒーチェリー残渣にトリゴネリンは1%程度含まれており、これをトリゴネリン処理物として用いることもできる。さらに、コーヒーチェリー残渣をさらに粉砕し、粉砕物を2~3時間程度で、80~100℃の熱水抽出することで、トリゴネリンがより高濃度化された抽出物を、トリゴネリン処理物として、得ることもできる。また、トリゴネリンがエタノールに溶けにくいことを利用して、トリゴネリン熱水抽出物の乾燥物を、エタノールにて10℃程度の室温で撹拌し、その後ろ過し、ろ過物を回収することで、トリゴネリン処理物からさらにエタノール可溶の不純物を除去することができ、トリゴネリンの純度をさらに高めたトリゴネリン高濃度化物を得ることも可能である。また、HPLCを用いて、トリゴネリン処理物からトリゴネリンを回収し、トリゴネリン高濃度化物を得ることができる。
【0101】
<2.動物実験>
<飼育条件>
8週齢の雄ICRマウスを使用し、被験物質を投与する投与群と、被験物質を投与しないコントロール群とに分けた。投与群では、トリゴネリン(5mg/kg又は15mg/kg)を標準飼料粉末中に混合し、粉末給餌器を用いて投与した。各群マウスは、室温23-25℃、光周期12L:12D(午前7時に点灯)で飼育した。
<暑熱ストレス負荷>
被験物質の投与開始から7日目に、マウスに暑熱ストレス負荷を与えた。具体的には、麻酔後に体下半分を41℃もしくは42℃のお湯に15-20分間暴露した。暑熱ストレス負荷を与えない非処理群では、麻酔後、室温で静置した。
【0102】
なお、図及び表中、暑熱ストレス負荷のトリゴネリン投与群を「TRG Heat」「HEAT TRG」「Trigonelline Heat」、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群を「Control RT」「CONT -」「- Control」、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群を「Control Heat」「HEAT -」「- Heat」で表す。
【0103】
<精子の機能評価>
各試験群のマウスについて、精子の機能評価を行う場合、以下のように行う。
具体的には、解剖の際に、マウスを頸椎脱臼させて精巣上体尾部を摘出し、精子培養バッファー[2.2 mM HEPES(pH 7.4), 1.2 mM MgCl2, 100 mM NaCl, 4.7 mM KCl, 4.8 mM Lactic acid Ca, 5.5 mM D-Glucose, 20 mM Sodium bicarbonate and 88 mM Pyruvic acid]に静置する。18Gの針で精巣上体尾部の1ヵ所に切り込みを入れ、貯蓄された精子を掻き出す。37℃で15分間培養後、500rpmで1分間遠心洗浄し、上清の精子液を回収する。
【0104】
精子の評価について、精子運動解析システム(SMAS: Sperm Motility Analysis System)(ディテクト, Tokyo, Japan)を使用する。このシステムでは、精子濃度(Sperm concentration)、精子運動率(Sperm motility)、運動精子濃度 (Motile sperm concentration)、直線速度(Straight-line velocity)、曲線速度(Curvilinear velocity)、平均速度(Average path velocity)、頭部振幅(Amplitude of lateral head displacement)、プログレッシブ精子比率(プログレッシブ精子:直線速度≧50μm/sかつ直進性≧70%)、プログレッシブ精子濃度(プログレッシブ精子:直線速度≧50μm/sかつ直進性≧70%)の各パラメータを評価することができる。なお、直進性とは直線速度/曲線速度を意味する。
【0105】
<3.統計処理>
実験結果は、平均値±SE(Standard error)で示した。2群間のデータはT検定を用いて有意差検定を行った。また、3群間以上のデータはHolm検定を用いて有意差検定を行い、P<0.05のときに有意な差があると判断した。
【0106】
<試験例1>
8週齢の雄ICRマウスを用いた動物実験において、被験物質としてトリゴネリン粉末を経口投与して暑熱ストレスを負荷した投与群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群とを試験群として設けて、マウスを各試験群(n=10~11)に振り分けた。この動物試験の概要を、図1に示す。
トリゴネリン投与群には、トリゴネリンを、一日当たりおよそ5mg/kg体重の摂取量になるように、標準飼料粉末中に混合して7日間投与し、暑熱ストレスの負荷を実施した後、更に24時間投与を継続した。このときの暑熱ストレスは、マウスの下半身を湯浴(42℃、20分)に入れた精巣への局所的なストレスを用いた。ヒトの場合の着座状態での精巣温度上昇をイメージしたものである。この実験系では、成熟精子の障害に対する効果に焦点を当てた。
【0107】
各試験群のマウスについて、精子運動パラメータの測定を行った。具体的には、暑熱暴露から24時間後にマウスを頸椎脱臼させて精巣上体尾部を摘出した後、上記<精子の機能評価>に従って、貯蓄された成熟精子を掻き出し、これから上清の精子液を回収し、精子運動解析システムを用いて、精子運動パラメータの測定を行った。精子運動率(%)及びプログレッシブ比率(%)の結果について、図2に示す。なお、※プログレッシブ比率:直線速度25 μm/s以上かつ直進性0.7以上の精子の割合である。
以上の結果より、トリゴネリンは、暑熱ストレスによる成熟精子の運動性低下を抑制することができた。
【0108】
<試験例2>
8週齢の雄ICRマウスを用いた動物実験において、被験物質としてトリゴネリン粉末を経口投与して暑熱ストレスを負荷した投与群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群とを試験群として設けて、マウスを各試験群(n=5~6)に振り分けた。この動物試験の概要を、図3に示す。
トリゴネリン投与群には、トリゴネリンを、一日当たりおよそ15mg/kg体重の摂取量になるように、標準飼料粉末中に混合して7日間投与し、暑熱ストレスの負荷を実施した後、更に28日間投与を継続した。このときの暑熱ストレスは、マウスの下半身を湯浴(41℃、15分)に入れた精巣への局所的なストレスを用いた。ヒトの場合の着座状態での精巣温度上昇をイメージしたものである。この実験系では、精子形成障害に対する効果に焦点を当てた。
【0109】
各試験群のマウスについて、上記<試験例1>と同様に、上清の精子液を回収し、精子運動解析システムを用いて、精子運動パラメータの測定を行った。各結果について、表1に示す。
以上の結果より、トリゴネリンは、暑熱ストレス依存的な精子形成能低下のうち精子濃度低下には効果がなかったものの、運動率、速度及び頭部振動幅等と幅広く精子形成能の低下を改善することができた。
【0110】
【表1】
【0111】
<試験例3>
8週齢の雄ICRマウスを用いた動物実験において、被験物質としてトリゴネリン粉末を経口投与して暑熱ストレスを負荷した投与群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群とを試験群として設けて、マウスを各試験群(n=3)に振り分けた。この動物試験の概要を、図4に示す。
トリゴネリン投与群には、トリゴネリンを、一日当たりおよそ5mg/kg体重の摂取量になるように、標準飼料粉末中に混合して7日間投与し、暑熱ストレスの負荷を実施した後、更に4日間投与を継続した。このときの暑熱ストレス(全身性暑熱ストレス)は、マウスを暑熱チャンバー(35℃)に入れることで、暑熱ストレスに暴露した。これは、家畜の夏季の高温による繁殖障害、あるいは暑熱ストレスは体内で酸化ストレスに変換されることから、ヒトの種々の慢性的ストレスをイメージしたものである。
【0112】
各試験群のマウスについて、上記<試験例1>と同様に、上清の精子液を回収し、精子運動解析システムを用いて、精子運動パラメータの測定を行った。精子運動率(%)及びプログレッシブ比率(%)の結果について、図5に示す。
以上の結果より、トリゴネリンは、暑熱ストレスによる精子の運動性低下を改善することができた。
【0113】
<試験例4>
8週齢の雄ICRマウスを用いた動物実験において、被験物質としてトリゴネリン粉末を経口投与して暑熱ストレスを負荷した投与群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群とを試験群として設けて、マウスを各試験群(n=3)に振り分けた。
これら各試験群の暑熱ストレス負荷の条件は、前記<試験例3>と暑熱ストレス負荷の条件は同じであるが、トリゴネリン投与群に対して、トリゴネリンを15 mg/kg(試験例3のときは5 mg/kg)投与した。
【0114】
各試験群のマウスについて、精巣DNAの断片化を調べた。具体的には、暑熱暴露から4日後にマウスを頸椎脱臼させて精巣を摘出し、精巣重量を測定し、暑熱ストレス依存的な精巣重量低下に対するトリゴネリンの作用を確認した(図6)。その後、精巣から、常法により全DNAを抽出して、2μg相当のDNAをOrange Gと混合調整した後、2%アガロースゲル[2 g Agarose, 100 ml TBE buffer(89 mM Tris,89 mM Boric acid, 2 mM EDTA-2Na)]に供し、50Vで電気泳動した。電気泳動後にゲルを Gelred (TM) nucleic acid gel stain(Biotium社)で染色し、ゲル撮影・イメージング装置(「Printgraph」、アトー株式会社)でDNAの検出を行った(図7)。これにより、暑熱ストレス依存的な精巣内生殖細胞のアポトーシスに対するトリゴネリンの作用を確認した。
【0115】
以上の結果より、トリゴネリンは暑熱ストレスによる精巣重量の低下を抑制することができる。精巣は多数の精細菅を内臓し、その精細菅内には多数の生殖細胞が存在する。精巣重量の減少は生殖細胞がアポトーシスを起こした結果と考えられる。さらに、トリゴネリンは暑熱ストレス依存的な精巣DNA断片化を抑制することができる。
【0116】
<試験例5>
8週齢の雌ICRマウスを用いた動物実験において、被験物質としてトリゴネリン粉末を経口投与して暑熱ストレスを負荷した投与群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷しないコントロール群と、被験物質を投与せず暑熱ストレスを負荷した暑熱ストレス群とを試験群として設けて、マウスを各試験群(n=4,3,4)に振り分けた。
雌マウスにトリゴネリンの経口投与(食餌に混合)を開始して1日後にから11日(9days+48h)16時間にわたり、35℃の高温飼育を行った(図8)。高温飼育開始から9日後に、雌マウスに対して、妊馬血清由性性腺刺激ホルモン(PMSG)、その2日後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を皮下注射し排卵を誘発させた。その結果、暑熱ストレス負荷のコントロール群では排卵卵子数は大きく減少したが、暑熱ストレス負荷のトリゴネリン投与群ではその減少は大きく抑制する(図9)。以上の結果から、トリゴネリンは、暑熱ストレスによる排卵卵子数低下を改善することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9