(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032287
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】液状ガスケット接着部の分解用工具及びこれを用いた液状ガスケット接着部の分解方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20240305BHJP
F16J 15/14 20060101ALI20240305BHJP
B26D 1/14 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16J15/00 D
F16J15/14 D
B26D1/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135865
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】谷村 真也
(72)【発明者】
【氏名】木田 将寛
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 早紀
【テーマコード(参考)】
3C027
【Fターム(参考)】
3C027QQ00
(57)【要約】
【課題】2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケット接着部を作業性良く短時間で切断して2つの部材を簡単且つ確実に分解すること。
【解決手段】2つの部材(フランジ30,40)の合わせ面に係合して該合わせ面を押し広げる楔部材10と、該楔部材10の内部に回転可能に収容された鋸カッター13と、これらの楔部材10と鋸カッター13をそれぞれ独立して液状ガスケット接着部20側に押圧する押圧手段(ネジ軸部材)9,12を含んで分解用工具1を構成する。また、分解用工具1を2つの部材30,40に取り付け、該分解用工具1の楔部材10を2つの部材30,40の合わせ面の外端部に形成された逃げ溝50に係合させた状態で、該楔部材10を押圧手段9によって押圧して2つの部材30,40の合わせ面を押し広げ、この状態を維持したまま鋸カッター13を押圧手段12によって液状ガスケット接着部20に押圧しながら回転させることによって液状ガスケット接着部20を切断する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状ガスケットが介在して接着された2つの部材の前記ガスケット部分を切り離して前記2つの部材を分解するための分解用工具であって、
前記2つの部材の端面の前記ガスケットが介在する隙間に押し込み手段によって押し込まれる楔部材と、
該楔部材の内部に収容設置され、前記楔部材が押し込まれて広げられた2つの部材のガスケット部分の方向に前記楔部材とは別個に移動可能に設置された回転式鋸カッターと、
を備えることを特徴とする液状ガスケット接着部の分解用工具。
【請求項2】
前記押し込み手段は、
前記接着された2つの部材の両外側に各々に取り付けられる各一対の支持ブラケットと、該各一対の支持ブラケット間に架設されたガイドレールと、
該ガイドレール間に掛け渡されて該ガイドレールに沿って摺動移動可能なスライダと、
該スライダに螺合挿通され回転動作により前記2つの部材の端面に対して進退する第1のネジ軸部材部材と、を備え、
前記楔部材は、前記ネジ軸部材部材の進み動作によって押されて前記押し込み動作が行われることを特徴とする請求項1に記載の液状ガスケット接着部の分解用工具。
【請求項3】
前記スライダに螺合挿通され回転動作によって前記2つの部材の端面に対して進退する第2のネジ軸部材と、
前記楔部材に設けられ前記第2のネジ軸部材を非螺合状態で貫通させる貫通孔と、
を備え、
前記回転式鋸カッターの前記ガスケット部分の方向への移動は、前記第2のネジ軸部材の進み動作によって前記回転式鋸カッターの回転軸部が押されて行われることを特徴とする請求項2に記載の液状ガスケット接着部の分解用工具。
【請求項4】
請求項3に記載の分解用工具を用いて2つの部材の液状ガスケット接着部を分解する方法であって、
前記分解用工具の前記各一対のブラケットを前記2つの部材の両外側に取り付ける取付け工程と、
前記楔部材を前記2つの部材の端面のガスケットが介在する隙間に前記押し込み手段の第1のネジ軸部材の進み動作によって押し込み、前記2つの部材を押し広げる押し広げ工程と、
この状態を維持したまま前記回転式鋸カッターを前記第2のネジ軸部材の進み動作によって押し下げて回転させ前記ガスケットを切断する切断工程と、
を備えることを特徴とする液状ガスケット接着部の分解方法。
【請求項5】
前記液状ガスケットの切断工程は、
前記楔部材と前記回転式鋸カッターと前記スライダとを前記ガイドレールに沿って摺動移動させることで一体に移動させて前記ガスケットの切断位置を変更することを特徴とする請求項4に記載の液状ガスケット接着部の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケット接着部を切り離して2つの部材を分解するための分解用工具とこれを用いた液状ガスケット接着部の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの合わせ面には、シール材である液状ガスケット(FIPG(Foamed In Place Gasket))が塗布され、この液状ガスケットが硬化することによってシリンダブロックとシリンダヘッドとの合わせ面のシール性が高められる。
【0003】
ところで、上記例について説明すると、車両用エンジンのメンテナンスにおける部品交換などに際しては、組み付けられているシリンダブロックとシリンダヘッドを分解する必要があるが、これらのシリンダブロックとシリンダヘッドの合わせ面は、液状ガスケットによって接着されているため、両者の分解作業が容易ではないという問題がある。
【0004】
従来、合わせ面が液状ガスケットによって接着されている2つの部品を分解する方法としては、両部品の合わせ面の間にマイナスドライバーやバールなどの工具を差し込み、その合わせ面を工具によってこじ開けるようにして両部品を分解する方法が用いられている。
【0005】
しかしながら、上記方法によって両部品を分解すると、両部品の合わせ面(シール面)が工具によって傷つき易く、この傷が両部品の合わせ面(シール面)のシール性の低下を招く原因となる。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1には、合わせ面を持つ機器ケーシングの締結ボルト貫通孔に内ネジを付加加工し、この内ネジに押しボルトをねじ込んでジャッキアップする合わせ面分離装置が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、第1フランジ部を有する第1ケース体と第2フランジ部を有する第2ケース体とを組み合わせて構成されるケースの第2フランジ部に雌ネジ部を貫設し、第1フランジ部には、ボルト当接面を有する凹部を形成し、第2フランジ部の雌ネジ部に分解用ボルトをねじ込んでその端面を第1フランジ部の凹部に形成されたボルト当接面に当ててジャッキアップすることによって、第1ケース体と第2ケース体とを分解するようにした電力変換装置が提案されている。
【0008】
また、特許文献3には、機器類の組立接合部を解体する際に、機器の接合面に固化状態で付着して残存する液状ガスケットパッキンの塗膜を軟化させる剥離剤を塗布し、この剥離剤を塗膜に浸透させることによって該塗膜を軟化させて可塑化し、接合面から塗膜を剥離させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭64-016380号公報
【特許文献2】特開2013-126297号公報
【特許文献3】特開2011-121035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1において提案された合わせ面分離装置を用いて機器ケーシングの分離に際しては、機器ケーシングの締結ボルト貫通孔に内ネジを付加加工する必要があるため、加工工数が増えて加工コストが高くなるとともに、内ネジにねじ込むための専用の押しボルトが必要になり、作業が繁雑であるという問題がある。
【0011】
また、特許文献2において提案された電力変換装置の第1ケース体と第2ケース体の分解に際しては、第2フランジ部に雌ネジ部を貫設するとともに、第1フランジ部に凹部を形成する必要があるため、加工工数が増えて加工コストが高くなるとともに、雌ネジ部にねじ込むための専用の分解用ボルトが必要になるという特許文献1と同様の作業の煩雑化という問題がある。
【0012】
また、特許文献3に記載された方法では、軟化させる剥離剤を液状ガスケットに塗布し、この剥離剤が塗膜に浸透して該塗膜が軟化して可塑化するまでに長時間を要するため、分解の作業効率が悪いという問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、分解のための加工を要することなく、2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケットを作業性良く短時間で切断して2つの部材を簡単且つ確実に分解することができる液状ガスケット接着部の分解用工具及びこれを用いた液状ガスケット接着部の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に係る液状ガスケット接着部の分解用工具は、
2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケット接着部を切り離して前記2つの部材を分解するための工具であって、前記2つの部材の合わせ面に係合して該合わせ面を押し広げる楔部材と、該楔部材の内部に回転可能に収容された鋸カッターと、これらの楔部材と鋸カッターをそれぞれ独立して前記液状ガスケット接着部側に押圧する押圧手段を含んで構成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る液状ガスケット接着部の分解方法は、上記分解用工具を用いて2つの部材の液状ガスケット接着部を分解する方法であって、前記分解用工具を前記2つの部材に取り付け、該分解用工具の前記楔部材を前記2つの部材の合わせ面の外端部に形成された逃げ溝に係合させた状態で、該楔部材を前記押圧手段によって押圧して前記2つの部材の合わせ面を押し広げ、この状態を維持したまま前記鋸カッターを前記押圧手段によって液状ガスケット接着部に押圧しながら回転させることによって、液状ガスケットを切断することを特徴とする。
【0016】
上記のように構成された分解用工具を用いて実施される液状ガスケットの分解方法によれば、2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケットを、2つの部材を楔部材によって押し広げた状態で、鋸カッターを回転させて作業性良く短時間で切断することができるため、2つの部材を簡単且つ確実に分解することができる。そして、2つの部材の分解に際しては、2つの部材に分解のための新たな加工を追加する必要がないため、2つの部材の加工コストが低く抑えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分解のための加工を要することなく、2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケットを作業性良く短時間で切断して2つの部材を簡単且つ確実に分解することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明に係る分解用工具の楔部材の正面図である。
【
図4】本発明に係る液状ガスケット接着部の分解方法(分解用工具の取付状態)を示す部分正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
[分解用工具の構成]
まず、本発明に係る分解用工具1の構成を
図1~
図3に基づいて以下に説明する。
【0021】
図1は本発明に係る分解用工具の斜視図、
図2は同分解用工具の楔部材の正面図、
図3は
図2のA-A線断面図であり、本発明に係る分解用工具1は、2つの部材の合わせ面に介在する液状ガスケット接着部の一部を切断して2つの部材を分解するための工具であって、以下のように構成されている。なお、以下の説明においては、
図1に示す矢印方向をそれぞれ「前後」、「左右」及び「上下」方向とする。
【0022】
本発明に係る分解用工具1は、
図1に示すように、左側に垂直に配置された矩形プレート状の前後一対の支持ブラケット2と、右側に垂直に配置された矩形プレート状の前後一対の支持ブラケット3を備えている。ここで、これらの左側に配置された前後一対の支持ブラケット2の各下端部と、右側に配置された前後一対の支持ブラケット3の各下端部には、前後一対の各ボルト4が挿通するための円孔2a,3aがそれぞれ左右方向に貫設されている。なお、後述のように、各ボルト4の端部にはナット5がそれぞれ螺着される。
【0023】
また、左側に配置された前後一対の支持ブラケット2の各上端部間には、前後方向に沿う横断面矩形のガイドバー6が水平に架設されている。同様に、右側に配置された前後一対の支持ブラケット3の各上端部間には、前後方向に沿う横断面矩形のガイドバー7が水平に架設されており、両ガイドバー6,7は、互いに平行に前後方向に沿って水平に配置されている。そして、これらのガイドバー6,7には、左右方向に長い矩形ブロック状のスライダ8の左右両端が篏合しており、このスライダ8は、左右のガイドバー6,7に沿って前後方向に摺動することができる。
【0024】
上記スライダ8の長手方向(左右方向)中央部には、ネジ軸部材9が垂直に螺合挿通しており、このネジ軸部材9の下端は、楔部材10の上面に当接している。このネジ軸部材9は、楔部材10を下方に押圧する押圧手段を構成しており、その上端部には、当該ネジ軸部材9をその軸中心回りに手動で回転させるハンドル11が取り付けられている。ここで、ハンドル11は、ネジ軸部材9の上端に結着された固定部材11Aと、該固定部材11Aに長手方向一端が差し込まれて当該固定部材11Aから水平に延びる丸棒状のハンドルバー11Bによって構成されている。
【0025】
また、スライダ8のネジ軸部材9が螺合挿通する部分に近い部分(ネジ軸部材9の右寄り部分)には、ネジ軸部材12が垂直に螺合挿通しており、このネジ軸部材12は、楔部材10に上下方向に貫設された円孔10a(
図2及び
図3参照)を貫通して楔部材10の下方へと垂直に延びている。そして、このネジ軸部材12の下端は、
図3に鎖線にて示す円形の鋸カッター13の中心部に結着された回転軸14に当接している。
【0026】
上記ネジ軸部材12は、回転軸14を介して鋸カッター13を下方に押圧する押圧手段を構成しており、その上端部には、当該ネジ軸部材12をその軸中心回りに手動で回転させるハンドル15が取り付けられている。ここで、ハンドル15は、ネジ軸部材12の上端に結着された固定部材15Aと、該固定部材15Aに長手方向一端が差し込まれて当該固定部材15Aから水平に延びる丸棒状のハンドルバー15Bによって構成されている。なお、固定部材15Aには円孔15a(
図4参照)が水平方向に貫設されており、ハンドルバー15Bは、円孔15aに対して自由に出し入れすることができる。つまり、ハンドルバー15Bは、固定部材15Aに対して自由に取り付け/取り外し可能である。
【0027】
次に、楔部材10の構成を
図2及び
図3に基づいて説明する。
【0028】
楔部材10は、下方に向かって幅が狭くなる横断面逆三角形(
図3参照)の三角柱状部材であって、その一方(右側)の側面には、矩形の開口部10Aが形成されている。また、この楔部材10の内部には、
図3に鎖線にて示すように、円形の鋸カッター13が収容されるが、楔部材10には、鋸カッターを位置決め保持するためのスリット溝状のカッター収容部10Bが形成されている。ここで、
図3に鎖線にて示すように、鋸カッター13の中心部に結着された回転軸14は、楔部材10の開口部10Aを貫通して水平に延びており、その端部にはクランク状に屈曲するハンドル16が取り付けられている。
【0029】
[液状ガスケット接着部の分解方法]
次に、以上のように構成された分解用工具1を用いた液状ガスケット接着部20の分解方法を
図4~
図6に基づいて説明する。
【0030】
図4は本発明に係る液状ガスケット接着部の分解方法を示す部分正断面図、
図5は
図4のB-B線断面図、
図6は
図5のC-C線断面図である。
【0031】
ここでは、互いに締結された2つの部材として、内燃エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドを例として説明する。が、本発明は、シリンダブロックとシリンダヘッド以外の部品、或いは内燃エンジン以外の他の任意の機器の互いに締結される2部品の分解に対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【0032】
図4に示すように、不図示の複数のボルトによって互いに締結されるシリンダブロックとシリンダヘッドの締結部には、フランジ30,40がそれぞれ一体に形成されており、これらのフランジ30,40同士の合わせ面間には、液状ガスケット接着部20が介在しており、この液状ガスケット接着部20によってシリンダヘッドとシリンダブロックの各フランジ30,40の接合面に高いシール性が確保されている。
【0033】
そして、例えば、部品交換などのためにシリンダブロックとシリンダヘッドとを分解する必要が生じた場合には、
図4に示すように、本発明に係る前記分解用工具1を両フランジ30,40に取り付ける。具体的には、左側の前後一対の支持ブラケット2と右側の前後一対の支持ブラケット3を両フランジ30,40の外端部に、これらのフランジ30,40を左右両側から挟み込むように嵌め込む。ここで、分解用工具1の左右の支持ブラケット2,3の間の幅B1は、両フランジ30,40の幅B2よりも若干大きく設定されており(B1>B2)、両支持ブラケット2,3と両フランジ30,40との間には微小な隙間δ(=B1-B2)が形成されている。
【0034】
上記状態において、両フランジ30,40に形成されている隣接する既設の2つの不図示のボルト孔を利用して分解用工具1を両フランジ30,40に取り付ける。具体的には、
図4に示すように、2本のボルト4(
図4には1本のみ図示)を前後一対の支持ブラケット3の下端部にそれぞれ形成された円孔3aと、フランジ30,40に形成された不図示のボルト孔と、前後一対の支持ブラケット2の下端部にそれぞれ形成された円孔3aに通し、各ボルト4に螺合するナット5を締め付けることによって、分解用工具を
図4~
図6に示すように両フランジ30,40の外端部に取り付ける。なお、分解用工具1の左右の支持ブラケット2,3の円孔2a,3aの中心間距離Lは、両フランジ30,40に形成されている不図示の隣接する2つのボルト孔のピッチに等しくなるように設定されている(L=P)。
【0035】
ところで、両フランジ30,40を締結する前の状態においては、両フランジ30,40の合わせ面の外端部には液状パッキンが塗布されず、外端部を除く部分にのみ液状パッキンが塗布されている。したがって、両フランジ30,40の外端部間には、
図4~
図6に示すように、凹状の逃げ溝50が長手方向(
図5の左右方向)に沿って形成されている。
【0036】
図4~
図6に示すように、分解用工具1が両フランジ30,40に取り付けられた状態では、楔部材10の先端と鋸カッター13の刃が両フランジ30,40間の液状ガスケット接着部20の端面に当接している。この状態からハンドル11を回してネジ軸部材9をその軸中心回りに回転させると、該ネジ軸部材9が下動して楔部材10を押し下げる。ずると、楔部材10の両側面が両フランジ30,40の外端部に形成された逃げ溝50の開口端縁に係合し、逃げ溝50の開口部が開くように両フランジ30,40の外端部を押し広げる。なお、この場合の、両フランジ30,40の外端部の押し広げ量の最大値は、前記隙間δ(
図4参照)に制限される。
【0037】
次に、上述のように両フランジ30,40の外端部を楔部材10によって押し広げた状態を維持したまま、ハンドル15を手動で回してネジ軸部材12をその軸中心回りに回転させながら、ハンドル16を手動で回して鋸カッター13を回転させる。すると、ネジ軸部材12が他方のネジ軸部材9とは独立して下動して鋸カッター13の回転軸14を下方へと押圧するため、鋸カッター13が液状ガスケット接着部20に食い込みながら回転して該液状ガスケット接着部20を切断してゆく。なお、ハンドル15を回す際に、該ハンドル15のハンドルバー15Bがネジ軸部材9と干渉して該ハンドルバー15Bを回すことができない場合には、このハンハンドルバー15Bを固定部材15Aから抜いて該固定部材15Aの円孔15a(
図4参照)に逆方向から差し込めば、該ハンドルバー15Bを引き続き操作してハンドル15を回すことができる。
【0038】
そして、上記作業が終了すると、ハンドル11,15をそれぞれ逆回転させて楔部材10と鋸カッター13を液状ガスケット接着部20から引き離す。そして、この状態からスライダ8を楔部材10と鋸カッター13と共にガイドレール6,7に沿って前後方向(
図5の左右方向)に移動させ、以上説明した一連の操作を行って液状ガスケット接着部20の次の箇所を鋸カッター13で切断する。
【0039】
上記作業がスライダの摺動可能範囲(
図5に示すストロークS)においてなされると、つまり、両フランジ30,40に形成された隣接する2つのボルト孔のピッチの範囲で液状ガスケット接着部20の切断が終了すると、分解用工具1を両フランジ30,40から取り外し、次の隣接する2つの不図示のボルト孔を利用して分解用工具1を両フランジ30,40の別の位置に取り付け、以上説明した作業を繰り返す。そして、このような作業によって両フランジ20,30の合わせ面間に介在する液状ガスケット接着部20の切断がその外端部の全周に亘って行われると、液状ガスケット接着部20の接着力が弱められるため、シリンダブロックとシリンダヘッドとを僅かな力で容易に分解することができる。
【0040】
以上の説明で明らかなように、本実施の形態に係る分解用工具1を用いた本実施の形態に係る液状ガスケット接着部20の分解方法によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの合わせ面に介在する液状ガスケット接着部20を、両フランジ30,40を楔部材10によって押し広げた状態で、鋸カッター13を回転させて作業性良く短時間で切断することができるため、シリンダブロックとシリンダヘッドとを簡単且つ確実に分解することができる。そして、シリンダヘッドとシリンダブロックの分解に際しては、これらのシリンダブロックとシリンダヘッドに分解のための新たな加工を追加する必要がないため、シリンダブロックとシリンダヘッドの加工コストが低く抑えられる。
【0041】
なお、以上は互いに締結された2つの部材として、内燃エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドを例として説明したが、本発明は、シリンダブロックとシリンダヘッド以外の部品、例えば、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバー、シリンダブロックのチェーンケースなどの任意の部品、或いは内燃エンジン以外の他の任意の機器の互いに締結される2部品の分解に対しても同様に適用可能である。
【0042】
また、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 分解用工具
2,3 支持ブラケット
4 ボルト
5 ナット
6,7 ガイドバー
8 スライダ
9 ネジ軸部材(押圧手段)
10 楔部材
10A 楔部材の開口部
10B 楔部材のカッター収容部
11 ハンドル
11A ハンドルの固定部材
11B ハンドルバー
12 ネジ軸部材(押圧手段)
13 鋸カッター
14 回転軸
15 ハンドル
15A ハンドルの固定部材
15B ハンドルバー
15a 固定部材の円孔
16 ハンドル
20 液状ガスケット接着部
30,40 フランジ
50 逃げ溝
B1 左右の支持ブラケット間の幅
B2 フランジの幅
L 支持ブラケットの円孔の中心間距離
δ 隙間