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特開2024-32292レール破断検知装置及びレール破断検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032292
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】レール破断検知装置及びレール破断検知方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135873
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 友普
(72)【発明者】
【氏名】中原 尚知
(72)【発明者】
【氏名】白井 俊輔
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM01
5H161MM12
5H161NN02
(57)【要約】
【課題】単純な構成でレールの破断検知を精度よく行う。
【解決手段】レール破断検知装置10は、レール70、72の延在方向に沿った所定間隔L毎に、一対のレール70、72間を短絡するように設けられた複数の短絡部20と、複数の短絡部20の隣接する短絡部20間の各々における、一対のレール70、72間の電位差を測定する電位差測定部30と、電位差測定部30による測定結果に基づいて、一対のレール70、72の破断を検知する破断検知部40とを含む。これにより、所定間隔Lを大きく設定し、更に短絡部20から、帰線電流が流れる方向に位置する電位差測定部30の測定点までの距離を大きく設定することで、一対のレール70、72間の電位差を大きくすることができるため、上記のような単純な構成にも関わらず、電位差のS/N比を向上させることができ、レール70、72の破断を精度よく検知することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の帰線電流を利用して一対のレールの破断を検知する装置であって、
レールの延在方向に沿った所定間隔毎に、前記一対のレール間を短絡するように設けられた複数の短絡部と、
該複数の短絡部の隣接する短絡部間の各々における、前記一対のレール間の電位差を測定する電位差測定部と、
該電位差測定部による測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断を検知する破断検知部と、を含むことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項2】
前記電位差測定部は、前記一対のレール間の電位差を、前記隣接する短絡部間の中央近傍において測定することを特徴とする請求項1記載のレール破断検知装置。
【請求項3】
前記破断検知部は、前記測定結果が予め設定された閾値を超えた場合に、前記一対のレールの何れか一方が破断したと判定することを特徴とする請求項1又は2記載のレール破断検知装置。
【請求項4】
前記破断検知部は、前記閾値として、レールの破断が発生していない場合に想定される、前記一対のレール間の帰線電流の不平衡率が加味された値が設定されていることを特徴とする請求項3記載のレール破断検知装置。
【請求項5】
前記破断検知部は、前記閾値として、鉄道の営業運転中に使用される第1閾値と、鉄道の終電後から初電前までの間に使用される第2閾値とが設定されていることを特徴とする請求項4記載のレール破断検知装置。
【請求項6】
鉄道の帰線電流を利用して一対のレールの破断を検知する方法であって、
レールの延在方向に沿った所定間隔毎に、前記一対のレール間を短絡するように複数の短絡部を設け、
該複数の短絡部の隣接する短絡部間の各々における、前記一対のレール間の電位差を測定し、
該電位差の測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断を検知することを特徴とするレール破断検知方法。
【請求項7】
前記一対のレール間の電位差を、前記隣接する短絡部間の中央近傍において測定することを特徴とする請求項6記載のレール破断検知方法。
【請求項8】
前記測定結果が予め設定する閾値を超えた場合に、前記一対のレールの何れか一方が破断したと判定することを特徴とする請求項6又は7記載のレール破断検知方法。
【請求項9】
前記閾値として、レールの破断が発生していない場合に想定される、前記一対のレール間の帰線電流の不平衡率を加味した値を設定することを特徴とする請求項8記載のレール破断検知方法。
【請求項10】
前記閾値として、鉄道の営業運転中に使用する第1閾値と、鉄道の終電後から初電前までの間に使用する第2閾値とを設定することを特徴とする請求項9記載のレール破断検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の帰線電流を利用して一対のレールの破断を検知するレール破断検知装置及びレール破断検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の運用において、大きなトラブルの発生を未然に防止するために、レールの破断を事前に検知することは必須である。従来、一対のレールの破断検知は、列車の在線検知のために設置された軌道回路を利用したものが主流であったが、近年では、列車の在線検知方法の変更に伴い、軌道回路を利用せずにレールの破断を検知する方法が発案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06-321110号公報
【特許文献2】特開2012-091671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、軌道回路を利用したレールの破断検知方法は、軌間電圧の有無でレール破断検知(列車検知)を行うため、一対のレール間を短絡できないという制約があり、また、無絶縁軌道回路で行った場合には、レール電位上昇による感電防止のために平衡用インピーダンスボンドを設置する必要があった。一方、特許文献1、2の方法は、一対のレールの各々の数メートルあたりの電気抵抗による電位差を測定することで帰線電流を測定するため、一対のレールのために測定回路が2つ必要となる。更に、レールの数メートルあたりの電気抵抗はかなり小さいため、レール間の電位差が低くなってしまい、S/N比が悪く測定結果に影響を及ぼす虞があった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単純な構成でレールの破断検知を精度よく行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)鉄道の帰線電流を利用して一対のレールの破断を検知する装置であって、レールの延在方向に沿った所定間隔毎に、前記一対のレール間を短絡するように設けられた複数の短絡部と、該複数の短絡部の隣接する短絡部間の各々における、前記一対のレール間の電位差を測定する電位差測定部と、該電位差測定部による測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断を検知する破断検知部と、を含むレール破断検知装置。
【0008】
本項に記載のレール破断検知装置は、無線式列車制御システムを採用した鉄道路線に対応するものであって、複数の短絡部、電位差測定部、及び破断検知部を含んでいる。複数の短絡部は、レールの延在方向に沿った所定間隔毎に、一対のレール間を短絡するように設けられる。ここで、無線式列車制御システムでは軌道回路に信号を流さないため、軌間を短絡しても特に問題はない。電位差測定部は、複数の短絡部の隣接する短絡部間の各々における、一対のレール間の電位差を測定するものである。すなわち、一対のレールには、変電所から架線を介して列車へ供給され、列車のモータなどで使用された後に変電所へ戻る帰線電流が流れているため、そのような帰線電流による一対のレール間の電位差を測定する。このとき、電位差測定部は、レールの延在方向に所定間隔を空けて隣接する位置関係にある2つの短絡部の間で、上記のような一対のレール間の電位差を測定し、それを隣接する位置関係にある全ての短絡部間について実施する。
【0009】
破断検知部は、電位差測定部による上記のような電位差の測定結果に基づいて、一対のレールの破断を検知するものである。すなわち、一対のレールの破断が発生していない状態では、短絡部において一対のレールの双方に帰線電流が分配され、同程度の大きさの帰線電流が流れるため、一対のレール間には電位差がほとんど発生しない。これに対し、一対のレールの何れか一方が破断した場合は、破断していないレール側に略全ての帰線電流が流れ込み、破断したレール側では帰線電流が略流れないため、一対のレール間に電位差が発生する。このときに発生する電位差の大きさは、短絡部から電位差測定部による測定点までのレールの電気抵抗の大きさ、換言すれば短絡部から電位差測定部による測定点までのレールの長さに依存することになる。このような特性を利用して、一対のレールの破断を検知するものである。
【0010】
上記のような構成により、複数の短絡部の設置間隔である所定間隔が大きく設定され、更に短絡部から電位差測定部による測定点までの距離が大きく設定されることで、電位差測定部により測定される一対のレール間の電位差も大きくなるため、S/N比が向上し、レールの破断が精度よく検知されるものとなる。しかも、複数の短絡部、一対のレール間の電位差を測定する電位差測定部、及び破断を検知する破断検知部という単純な構成にも関わらず、レールの破断が精度よく検知されるものである。更に、複数の短絡部により一対のレール間が短絡されるため、レールの破断が発生した際の軌間の電位上昇を防止するための平衡用インピーダンスボンドが不要となる。
【0011】
なお、本項に記載のレール破断検知装置では、帰線電流が流れていないとレールの破断が検知されないが、列車の起動時にパンタグラフが架線に接続されることでも微小な帰線電流が流れるため、それが利用されることで、初電が走行する前でもレールの破断が検知されるものとなる。しかも、微小な帰線電流であっても、上述したように複数の短絡部の設置間隔である所定間隔が大きく設定されることにより、一対のレール間の電位差も大きくなるため、問題なくレールの破断が検知されるものである。
【0012】
(2)上記(1)項において、前記電位差測定部は、前記一対のレール間の電位差を、前記隣接する短絡部間の中央近傍において測定するレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、電位差測定部が一対のレール間の電位差を測定する際に、隣接する位置関係にある2つの短絡部間の中央近傍において電位差を測定し、これを隣接する位置関係にある全ての短絡部間について実施するものである。すなわち、電位差測定部は、隣接する位置関係にある2つの短絡部の双方から、略等しい距離にある測定点において、一対のレール間の電位差を測定する。これにより、複数の短絡部の設置間隔である所定間隔が大きく設定されることで、2つの短絡部の双方から電位差測定部による測定点までの距離が必然的に大きくなるため、測定される電位差のS/N比が向上し、レールの破断が精度よく検知されるものとなる。更に、隣接する短絡部の何れの短絡部の方向から帰線電流が流れる場合でも、電位差測定部による測定点までの距離は変わらないため、問題なくレールの破断が検知されるものである。
【0013】
(3)上記(1)(2)項において、前記破断検知部は、前記測定結果が予め設定された閾値を超えた場合に、前記一対のレールの何れか一方が破断したと判定するレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、電位差測定部により測定される一対のレール間の電位差の測定結果が、予め設定された閾値を超えた場合に、一対のレールの何れか一方が破断したと破断検知部が判定するものである。このような閾値には、机上計算、試験結果、或いはシミュレーション結果などに基づいて導出された値が設定されればよい。これにより、電位差測定部による測定結果が閾値を超えているか否かの判定のみで、レールの破断の有無が検知されるため、破断検知部などの構成が簡略化されるものとなる。
【0014】
(4)上記(3)項において、前記破断検知部は、前記閾値として、レールの破断が発生していない場合に想定される、前記一対のレール間の帰線電流の不平衡率が加味された値が設定されているレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、破断検知部においてレールの破断検知に用いられる閾値として、レールの破断が発生していない場合に想定される、一対のレール間の帰線電流の不平衡率が加味された値が設定されているものである。すなわち、一対のレール間には、レールの破断が発生していなくても、帰線電流によるある程度の大きさの電位差が発生するものと想定されるため、それを一対のレール間の帰線電流の不平衡率として把握する。そして、そのような不平衡率が加味されて、レールの破断検知に用いられる閾値が設定されることで、レールの破断が発生していないにも関わらず、上記のような不平衡に起因して測定値が閾値を超えてしまい、レールが破断したと誤検知されることが防止されるものとなる。これにより、一対のレールの破断検知の精度が、より一層向上するものである。
【0015】
(5)上記(4)項において、前記破断検知部は、前記閾値として、鉄道の営業運転中に使用される第1閾値と、鉄道の終電後から初電前までの間に使用される第2閾値とが設定されているレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、破断検知部に設定される閾値として、第1閾値と第2閾値とが設定されているものである。第1閾値は、鉄道の営業運転中に使用されるものであって、営業運転中に流れる帰線電流の大きさが考慮されて設定される。これに対し、第2閾値は、鉄道の終電後から初電前までの間に使用されるものであって、終電後から初電前までの間に流れる帰線電流の大きさが考慮されて設定され、例えば上記(1)項で言及したような、列車の起動時に流れる微小な帰線電流の大きさが考慮されて設定される。これにより、鉄道の営業運転の時間帯と、終電後から初電前までの時間帯との双方において、各時間帯に流れる帰線電流が考慮された適切な閾値が用いられるため、レールの破断が精度よく検知されるものとなる。
【0016】
(6)鉄道の帰線電流を利用して一対のレールの破断を検知する方法であって、レールの延在方向に沿った所定間隔毎に、前記一対のレール間を短絡するように複数の短絡部を設け、該複数の短絡部の隣接する短絡部間の各々における、前記一対のレール間の電位差を測定し、該電位差の測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断を検知するレール破断検知方法。
【0017】
(7)上記(6)項において、前記一対のレール間の電位差を、前記隣接する短絡部間の中央近傍において測定するレール破断検知方法
(8)上記(6)(7)項において、前記測定結果が予め設定する閾値を超えた場合に、前記一対のレールの何れか一方が破断したと判定するレール破断検知方法。
(9)上記(8)項において、前記閾値として、レールの破断が発生していない場合に想定される、前記一対のレール間の帰線電流の不平衡率を加味した値を設定するレール破断検知方法。
【0018】
(10)上記(9)項において、前記閾値として、鉄道の営業運転中に使用する第1閾値と、鉄道の終電後から初電前までの間に使用する第2閾値とを設定するレール破断検知方法。
そして、(6)~(10)項に記載のレール破断検知方法は、各々、上記(1)~(5)項のレール破断検知装置により実行されることで、上記(1)~(5)項のレール破断検知装置と同様の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記のような構成であるため、単純な構成でレールの破断検知を精度よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置の構成を概略的に示す配置イメージ図である。
図2】電位差測定部により測定する電位差を説明するための回路イメージ図である。
図3】本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の手順の一例を示すフロー図である。
図4】営業運転中にレール破断が発生した場合の測定電位差の経時変化を示すグラフである。
図5】終電後から初電前にレール破断が発生した場合の測定電位差の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10の構成の一例を概略的に示しており、このレール破断検知装置10は、近年の無線を使用した列車制御システムに対応したものであり、帰線電流を利用して一対のレール70、72の破断を検知する。すなわち、変電所から架線を介して列車へ供給される電力は、列車でモータなどの様々な用途に使用された後、列車の車軸を介して一対のレール70、72へと流れる。それが変電所へ戻るために一対のレール70、72を流れている状態のものが帰線電流であり、そのような帰線電流を利用するものである。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、複数の短絡部20、電位差測定部30、及び破断検知部40を含んでいる。複数の短絡部20の各々は、一対のレール70、72間を接続して短絡するものである。これら複数の短絡部20は、レール70、72の延在方向に沿った所定間隔L毎に設置されており、その所定間隔Lには数km~十数km程度が想定され、これに限定されるものではないが、例えば2kmである。また、1つの鉄道路線に、異なる長さの所定間隔Lが混在していてもよい。なお、図1には5つの短絡部20が図示されているが、一対のレール70、72に設置される短絡部20の数量は、鉄道路線の長さや所定間隔Lの長さなどに応じて任意に設定される。また、短絡部20の各々は、想定し得る帰線電流の大きさに耐え得る任意の線材により構成される。
【0023】
電位差測定部30は、隣接する短絡部20間の各々における、一対のレール70、72間の電位差を測定するものであって、本実施形態では、隣接する短絡部20間の中央近傍における電位差を測定するように、隣接する2つの短絡部20毎に設置されている。すなわち、電位差測定部30の各々は、図2にも示すように、対応する2つの短絡部20間の中央近傍、換言すれば2つの短絡部20の双方から所定間隔Lの半分の長さ(L/2)の位置において、ケーブル32により一方のレール70に接続され、ケーブル34により他方のレール72に接続されている。そして、帰線電流の影響により発生する一対のレール70、72間の電位差を、ケーブル32、34を介して測定する。
【0024】
ここで、図2を参照すると、帰線電流が一対のレール70、72を図中の右側から左側へ向かって流れる場合のイメージ回路が示されており、帰線電流の仮想的な電流源60が図示されている。すなわち、仮想的な電流源60から流れる帰線電流は、図中右側の短絡部20において、一方のレール70へ流れ込む電流値I1の帰線電流(以下、「帰線電流I1」とも言う。)と、他方のレール72へ流れ込む電流値I2の帰線電流(以下、「帰線電流I2」とも言う。)とに分岐する。そして、一方のレール70を流れる帰線電流I1は、ケーブル32が接続された箇所まで流れ、このとき、帰線電流I1が流れた「L/2」の長さを有するレール70の抵抗値を仮想的にR3とすると、「I1×R3」の大きさの電圧V3が発生する。更に、一方のレール70を流れる帰線電流I1は、ケーブル32の接続箇所から図中左側の短絡部20まで流れ、このとき、帰線電流I1が流れた「L/2」の長さを有するレール70の抵抗値を仮想的にR1とすると、「I1×R1」の大きさの電圧V1が発生する。
【0025】
また、他方のレール72を流れる帰線電流I2は、ケーブル34が接続された箇所まで流れ、このとき、帰線電流I2が流れた「L/2」の長さを有するレール72の抵抗値を仮想的にR4とすると、「I2×R4」の大きさの電圧V4が発生する。更に、他方のレール72を流れる帰線電流I2は、ケーブル34の接続箇所から図中左側の短絡部20まで流れ、このとき、帰線電流I2が流れた「L/2」の長さを有するレール72の抵抗値を仮想的にR2とすると、「I2×R2」の大きさの電圧V2が発生する。その後、帰線電流I1と帰線電流I2とが図中左側の短絡部20で合流し、仮想的な電流源60へと戻る。このような回路では、電圧V1と電圧V2との間の電位差が、電位差測定部30によって一対のレール70、72間の電位差V5として測定される。これに対し、帰線電流が一対のレール70、72を図2の左側から右側へ向かって流れる回路では、電圧V3と電圧V4との間の電位差が、電位差測定部30によって一対のレール70、72間の電位差V5として測定される。
【0026】
なお、電圧V1~V4の大きさは、電流値I1、I2の大きさとレール70、72の抵抗値R1~R4の大きさとに依存し、抵抗値R1~R4の大きさは、レール70、72の長さ「L/2」と、レール70、72の種別毎に異なる単位長さあたりの電気抵抗とに依存する。ここでは、仮想的な電流源60からの帰線電流(営業運転中の列車1編成の帰線電流)の大きさを2000Aとし、レール70、72のレール種別を、1mあたりの電気抵抗が31.6μΩである50kgレールとし、複数の短絡部20の設置間隔である所定間隔Lを2kmとした場合の、具体的な値を例示する。以降では、具体的な数値を例示する場合に、特に断り書きのない限り、上記の数値を用いて算出するものとする。しかしながら、レール破断検知装置10の実際の運用では、実際に設定した所定間隔Lの大きさや、レール70、72に実際に使用されているレール種別の電気抵抗などを利用することになる。
【0027】
図2の回路において、2000Aの帰線電流が右側の短絡部20で等しい大きさに分岐する理想的な条件下では、帰線電流I1が1000A、帰線電流I2も1000Aとなる。また、抵抗値R1~R4の各々は、レール70、72の長さ「L/2」が1km、レール70、72の1mあたりの電気抵抗が31.6μΩであるため、「31.6μΩ/m×1000m」で31.6mΩとなる。このため、電圧V1~V4は、何れも「1000A×31.6mΩ」で31.6Vとなり、電位差測定部30によって一対のレール70、72間の電位差V5として測定される電圧V1と電圧V2との間の電位差は、「31.6V-31.6V」で0Vとなる。このとき、電圧V1と電圧V2との間の電位差は、その絶対値を測定するものとする。
【0028】
また、電位差測定部30は、測定した電位差V5に対して、後述する破断検知部40において取り扱い易いデータにするために、フィルタ処理やA/D変換などの信号処理を行ってもよい。更に、電位差測定部30は、破断検知部40と通信を行うための通信手段を備える。すなわち、電位差測定部30は、本実施形態のように隣接する2つの短絡部20毎に設置される場合は、レール70、72の近傍に設置されることになる。そして、そこから破断検知部40と通信を行うために、メタル回線や光回線といった有線での通信や、公衆回線や専用回線を用いた無線での通信を行うことが想定され、これらに対応した通信手段を具備する。このような電位差測定部30は、上述した機能を実現可能な任意の部材、機器、及びソフトウェアを利用して構成される。
【0029】
図1に戻り、破断検知部40は、電位差測定部30により測定された一対のレール70、72間の電位差V5に基づいて、一対のレール70、72における破断の有無の検知を行うものである。そのために、破断検知部40は、電位差測定部30から測定結果を取得するための通信手段を備え、この通信手段は、電位差測定部30の通信手段の通信方式に対応したものとなる。また、破断検知部40は、一対のレール70、72の破断検知を実質的に行う構成要素を備えるが、その詳しい破断検知の方法については後述する。更に、破断検知部40は、破断検知の結果などを表示するための表示手段や、様々なデータを蓄積するための蓄積手段などを備えていてもよい。このような構成の破断検知部40は、上述した機能を実現可能な任意のハードウェアやソフトウェアを利用して構成される。また、破断検知部40は、機器室や指令所といった、レール70、72の破断検知の結果をいち早く知る必要がある人員の配置場所に設置されることが望ましい。
【0030】
ここで、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、図1及び図2に示された構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、電位差測定部30は、一対のレール70、72間の電位差V5を、隣接する2つの短絡部20間の中央近傍ではなく、隣接する2つの短絡部20間の他の位置で測定してもよい。この場合は、帰線電流が流れる方向が考慮されて、例えば図2のような方向に帰線電流が流れるケースでは、抵抗値R1、R2の方が抵抗値R3、R4よりも大きくなるように、図2における右側に偏った位置に電位差測定部30による測定点が設定されることが好ましい。
【0031】
更に、電位差測定部30は、隣接する2つの短絡部20毎に設置されるのではなく、機器室などに集約して設置されてもよい。この場合は、図1でケーブル32、34が接続されたレール70、72の複数の測定点の各々から、電位差測定部30の設置場所まで回線がひかれ、電位差測定部30により複数の測定点での電位差V5がまとめて測定されることになる。また、この場合は、電位差測定部30と破断検知部40とを1つの機器でまとめて構成してもよい。一方、破断検知部40は、機器室などに設置されるのではなく、図1のように設置された電位差測定部30の各々の近傍に或いはそれらと統合されて、分散して設置されてもよい。すなわち、レール70、72の近傍でそれらの電位差V5の測定及びこれを利用した破断の検知を行い、その検知結果を機器室や指令所などに送信する構成であってもよい。
【0032】
続いて、図3に示すフロー図を参照しながら、上述したレール破断検知装置10を用いて実行される、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の具体的な手順について説明する。レール破断検知装置10の構成については、適宜、図1及び図2を参照のこと。なお、図3に示すフロー図は、具体的な手順を説明するための一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の手順は、図3のフロー図に限定されるものではなく、例えばレール破断検知装置10の構成や状況などに応じて、図3に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0033】
S10(電位差測定):電位差測定部30により、ケーブル32を介して接続されたレール70と、ケーブル34を介して接続されたレール72との間の電位差V5(絶対値)を測定する。そして、測定結果を破断検知部40に対して送信する。図1の実施形態のように、複数の電位差測定部30が設置されている場合は、測定結果と共に電位差測定部30の識別情報も送信する。
S20(時間判定):破断検知部40により、現在時刻が鉄道の営業運転中か否かを判定する。その結果、鉄道の営業運転中であると判定した場合(YES)はS30へ移行し、鉄道の営業運転中ではなく、終電後から初電前であると判定した場合(NO)はS60へ移行する。
【0034】
S30(第1閾値判定):破断検知部40により、電位差測定部30から送信された一対のレール70、72間の電位差V5が、予め設定された第1閾値を超えているか否かを判定する。
ここで、破断検知部40に対して予め設定されている閾値について説明すると、破断検知部40には、レール70、72の破断の有無の判定に用いる閾値が設定されており、本実施形態では第1閾値及び第2閾値の2つが設定されている。第1閾値は、鉄道の営業運転中の時間帯に使用される閾値であり、第2閾値は、鉄道の終電後から初電前までの時間帯に使用される閾値である。
【0035】
まずは第1閾値の設定方法の例を説明すると、図2の回路において、例えば破線で図示された×印の位置で破断が発生したこと想定して、仮想的な電流源60(列車)から流れる2000Aの帰線電流は、その全てが帰線電流I2としてレール72を流れる。すなわち、レール70で破断が発生しているため、図中右側の短絡部20において、帰線電流はその略全てが、破断が発生していないレール72側へ流れ込み、帰線電流I2が2000A、帰線電流I1が0Aとなる。すると、電圧V1は「0A×31.6mΩ」で0Vとなり、電圧V2は「2000A×31.6mΩ」で63.2Vとなるため、電位差V5は「|0V-63.2V|」で63.2Vとなる。この63.2Vの電位差が、レール70が破断した場合の電位差であり、図2の回路では、レール72が破断した場合も同じ大きさの電位差となる。このため、63.2Vの電位差をレール70又は72が破断した場合の電位差として考慮する。
【0036】
続いて、レール70、72の破断が発生していない場合に想定されるレール70、72間の不平衡率について検討する。すなわち、レール70、72の破断が発生していない状態であっても、レール70、72間にはある程度の電位差が発生することが想定されるため、それをレール70、72間の不平衡率から算出する。例えば、レール70、72間の不平衡率が10%とすると、仮想的な電流源60(列車)から流れる2000Aの帰線電流は、図中右側の短絡部20において、「2000A×10%」で200Aの差分で分岐する。このため、例えば、レール70へ流れ込む帰線電流I1が1100A、レール72へ流れ込む帰線電流I2が900Aになると仮定する。
【0037】
すると、電圧V1は「1100A×31.6mΩ」で34.8V(小数点第二位四捨五入)となり、電圧V2は「900A×31.6mΩ」で28.4V(小数点第二位四捨五入)となるため、電位差V5は「|34.8V-28.4V|」で6.4Vとなる。この6.4Vの電位差が、不平衡率が10%の場合の電位差であるため、これをレール70、72が破断していない状態でも発生し得る電位差として考慮する。そして、本実施形態では、上述したレール70又は72が破断した場合の電位差である63.2Vと、レール70、72が破断していない状態で発生し得る電位差である6.4Vとを考慮して、鉄道の営業運転中の時間帯に使用する第1閾値を10Vに設定する。しかしながら、この10Vという値は一例であって、種々の条件に応じて任意の値に設定してよい。
【0038】
次に、第2閾値の設定方法の例を説明すると、初電前には、列車の起動時にパンタグラフが架線に接続されることで微小な帰線電流が流れるため、それを20Aと想定する。すると、図2の回路において、例えば破線で図示された×印の位置で破断が発生した場合は、仮想的な電流源60(列車)から流れる20Aの帰線電流は、その全てが帰線電流I2としてレール72を流れ、帰線電流I2が20A、帰線電流I1が0Aとなる。すると、電圧V1は「0A×31.6mΩ」で0Vとなり、電圧V2は「20A×31.6mΩ」で0.632Vとなるため、電位差V5は「|0V-0.632V|」で0.632Vとなる。
【0039】
この0.632Vの電位差が、初電前にレール70が破断した場合の電位差であり、図2の回路では、レール72が破断した場合も同じ大きさの電位差となる。このため、0.632Vの電位差を初電前にレール70又は72が破断した場合の電位差として考慮する。そして、本実施形態では、初電前にレール70又は72が破断した場合の電位差である0.632Vを考慮して、終電後から初電前の時間帯に使用する第2閾値を0.5Vに設定する。しかしながら、この0.5Vという値は一例であって、種々の条件に応じて任意の値に設定してよい。なお、初電前の帰線電流が微小であるため、第2閾値には、レール70、72が破断していない状態で発生し得る電位差(不平衡率)を特に加味していない。
【0040】
図3のS30の説明に戻ると、破断検知部40により、電位差測定部30から送信された一対のレール70、72間の電位差V5が、上記のように設定された第1閾値(10V)を超えているか否かを判定する。そして、電位差V5が第1閾値を超えていると判定した場合(YES)はS40へ移行し、電位差V5が第1閾値を超えていないと判定した場合(NO)はS50へ移行する。
S40(レール破断発生と判定):破断検知部40により、現在の営業運転中の時間帯において、上記S10で測定した一対のレール70、72間の電位差V5が、第1閾値を超えているため、レール70、72の何れかで破断が発生していると判定する。また、第1閾値を超える電位差V5を測定した電位差測定部30の識別情報などから、隣接する位置関係にあるどの2つの短絡部20の間でレール70、72の破断が発生したかを把握することで、破断が発生したエリアを絞り込む。
【0041】
S50(レール破断なしと判定):破断検知部40により、現在の営業運転中の時間帯において、上記S10で測定した一対のレール70、72間の電位差V5が、第1閾値を超えていないため、レール70、72の破断は発生していないと判定する。
ここで、図4には、営業運転の時間帯にレール70又は72の破断が発生した場合の、電位差V5(測定電圧)の経時変化の例を示している。図示のように、電位差V5は、初電前に列車のパンタグラフが上げられると僅かに発生し、営業時間に入ると第2閾値よりも大きくなり、レール70又は72の破断が発生すると第1閾値よりも大きくなっている。このため、第1閾値を使用すれば、営業運転中のレール70、72の破断を検知できることが確認できる。
【0042】
S60(第2閾値判定):破断検知部40により、電位差測定部30から送信された一対のレール70、72間の電位差V5が、上記のように予め設定された第2閾値(0.5V)を超えているか否かを判定する。そして、電位差V5が第2閾値を超えていると判定した場合(YES)はS70へ移行し、電位差V5が第2閾値を超えていないと判定した場合(NO)はS80へ移行する。
S70(レール破断発生と判定):破断検知部40により、現在の終電後から初電前の時間帯において、上記S10で測定した一対のレール70、72間の電位差V5が、第2閾値を超えているため、レール70、72の何れかで破断が発生していると判定する。また、第2閾値を超える電位差V5を測定した電位差測定部30の識別情報などから、隣接する位置関係にあるどの2つの短絡部20の間でレール70、72の破断が発生したかを把握することで、破断が発生したエリアを絞り込む。
【0043】
S80(レール破断なしと判定):破断検知部40により、現在の終電後から初電前の時間帯において、上記S10で測定した一対のレール70、72間の電位差V5が、第2閾値を超えていないため、レール70、72の破断は発生していないと判定する。
ここで、図5には、終電後から初電前の時間帯にレール70又は72の破断が発生した場合の、電位差V5(測定電圧)の経時変化の例を示している。図示のように、電位差V5は、初電前に列車のパンタグラフが上げられると僅かに発生し、レール70又は72の破断が発生すると第2閾値よりも大きくなり、営業時間に入ると第1閾値よりも大きくなっている。このため、第2閾値を使用すれば、終電後から初電前のレール70、72の破断を検知できることが確認できる。
図3のフロー図では、開始と終了の間にS10~S80の処理手順が記載されているが、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法は、S10~S80の処理手順を継続して繰り返し行うものである。
【0044】
なお、上記の説明では、直流電化区間で直流の帰線電流を利用して、レール70、72の破断を検知する場合を例に記載しているが、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10及びレール破断検知方法は、これに限定されるものではない。すなわち、例えば交流電化区間では、50Hz/60Hzの周波数の帰線電流を測定して利用することで、レール70、72の破断を検知すればよい。また、直流電化区間の場合は、帰線電流に含まれる300Hz/360Hz成分(リップル成分)やその高調波を利用して、レール70、72の破断を検知してもよい。更に、交流電化区間の場合でも、50Hz/60Hzの高調波の帰線電流を利用して、レール70、72の破断を検知してもよい。
【0045】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、無線式列車制御システムを採用した鉄道路線に対応するものであって、図1及び図2に示すように、複数の短絡部20、電位差測定部30、及び破断検知部40を含んでいる。複数の短絡部20は、レール70、72の延在方向に沿った所定間隔L毎に、一対のレール70、72間を短絡するように設けられる。電位差測定部30は、複数の短絡部20の隣接する短絡部20間の各々における、一対のレール70、72間の電位差V5を測定するものである。すなわち、一対のレール70、72には、変電所から架線を介して列車へ供給され、列車のモータなどで使用された後に変電所へ戻る帰線電流が流れているため、そのような帰線電流による一対のレール70、72間の電位差V5を測定する。このとき、電位差測定部30は、レール70、72の延在方向に所定間隔Lを空けて隣接する位置関係にある2つの短絡部20の間で、上記のような一対のレール70、72間の電位差V5を測定し、それを隣接する位置関係にある全ての短絡部20間について実施する。
【0046】
破断検知部40は、電位差測定部30による上記のような電位差V5の測定結果に基づいて、一対のレール70、72の破断を検知するものである。すなわち、一対のレール70、72の破断が発生していない状態では、短絡部20において一対のレール70、72の双方に帰線電流が分配され(図2の帰線電流I1、I2)、同程度の大きさの帰線電流が流れるため、一対のレール70、72間には電位差がほとんど発生しない。これに対し、一対のレール70、72の何れか一方が破断した場合は、破断していないレール側に略全ての帰線電流が流れ込み、破断したレール側では帰線電流が略流れないため、一対のレール70、72間に電位差が発生する。このときに発生する電位差の大きさは、短絡部20から電位差測定部30による測定点までのレール70、72の電気抵抗の大きさ、換言すれば短絡部20から電位差測定部30による測定点までのレール70、72の長さに依存することになる。このような特性を利用して、一対のレール70、72の破断を検知するものである。
【0047】
上記のような構成により、複数の短絡部20の設置間隔である所定間隔Lを大きく設定し、更に短絡部20から電位差測定部30による測定点までの距離を大きく設定することで、電位差測定部30により測定される一対のレール70、72間の電位差V5を大きくすることができる。このため、電位差V5のS/N比を向上させることができ、レール70、72の破断を精度よく検知することが可能となる。しかも、複数の短絡部20、一対のレール70、72間の電位差V5を測定する電位差測定部30、及び破断を検知する破断検知部40という単純な構成にも関わらず、レール70、72の破断を精度よく検知することができる。更に、複数の短絡部20により一対のレール70、72間を短絡するため、レール70、72の破断が発生した際の軌間の電位上昇を防止するための平衡用インピーダンスボンドを不要にすることができる。
【0048】
なお、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10では、帰線電流が流れていないとレール70、72の破断を検知することができないが、列車の起動時にパンタグラフが架線に接続されることでも微小な帰線電流が流れるため、それを利用することで、初電が走行する前でもレール70、72の破断を検知することができる。しかも、そのような微小な帰線電流であっても、上述したように所定間隔Lと、短絡部20から電位差測定部30による測定点までの距離とを大きく設定することにより、一対のレール70、72間の電位差V5を大きくすることができるため、問題なくレール70、72の破断を検知することができる。
【0049】
また、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、電位差測定部30が一対のレール70、72間の電位差V5を測定する際に、隣接する位置関係にある2つの短絡部20間の中央近傍において電位差V5を測定し、これを隣接する位置関係にある全ての短絡部20間について実施するものである。すなわち、電位差測定部30は、隣接する位置関係にある2つの短絡部20の双方から、略等しい距離(L/2)にある測定点において、一対のレール70、72間の電位差V5を測定する。これにより、複数の短絡部20の設置間隔である所定間隔Lを大きく設定することで、2つの短絡部20の双方から電位差測定部30による測定点までの距離を必然的に大きくできるため、測定する電位差V5のS/N比を向上することができ、レール70、72の破断を精度よく検知することが可能となる。更に、隣接する短絡部20の何れの短絡部20の方向から帰線電流が流れる場合でも、電位差測定部30による測定点までの距離は変わらないため、問題なくレール70、72の破断を検知することができる。
【0050】
更に、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、電位差測定部30により測定される一対のレール70、72間の電位差V5の測定結果が、予め設定された閾値を超えた場合に、一対のレール70、72の何れか一方が破断したと破断検知部40が判定するものである(図3のS30~S80参照)。このような閾値には、机上計算、試験結果、或いはシミュレーション結果などに基づいて導出した値を設定すればよい。これにより、電位差測定部30による測定結果が閾値を超えているか否かの判定のみで、レール70、72の破断の有無を検知することができるため、破断検知部40などの構成を簡略化することができる。
【0051】
また、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、破断検知部40においてレール70、72の破断検知に用いられる閾値として、レール70、72の破断が発生していない場合に想定される、一対のレール70、72間の帰線電流の不平衡率が加味された値が設定されているものである。すなわち、一対のレール70、72間には、レール70、72の破断が発生していなくても、帰線電流によるある程度の大きさの電位差が発生するものと想定されるため、それを一対のレール70、72間の帰線電流の不平衡率として把握する。そして、そのような不平衡率を加味して、レール70、72の破断検知に用いる閾値を設定することで、レール70、72の破断が発生していないにも関わらず、上記のような不平衡に起因して測定値が閾値を超えてしまい、レール70、72が破断したと誤検知することを防止することが可能となる。これにより、一対のレール70、72の破断検知の精度を、より一層向上させることができる。
【0052】
更に、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、破断検知部40に設定される閾値として、第1閾値と第2閾値とが設定されているものである(図3のS30、S60参照)。第1閾値は、鉄道の営業運転中に使用されるものであって、営業運転中に流れる帰線電流の大きさが考慮されて設定される。これに対し、第2閾値は、鉄道の終電後から初電前までの間に使用されるものであって、終電後から初電前までの間に流れる帰線電流の大きさが考慮されて設定され、例えば列車の起動時に流れる微小な帰線電流の大きさが考慮されて設定される。これにより、鉄道の営業運転の時間帯と、終電後から初電前までの時間帯との双方において、各時間帯に流れる帰線電流を考慮した適切な閾値を用いることができるため、レール70、72の破断を精度よく検知することが可能となる(図4及び図5参照)。
【0053】
なお、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法は、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10により実行されることで、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0054】
10:レール破断検知装置、20:短絡部、30:電位差測定部、40:破断検知部、70、72:一対のレール、I1、I2:帰線電流、L:所定間隔、V5:電位差
図1
図2
図3
図4
図5