(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032316
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】移植デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240305BHJP
A61F 2/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61M37/00
A61F2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135907
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 佳菜
【テーマコード(参考)】
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4C097AA22
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC17
4C097DD01
4C097DD09
4C097MM09
4C267BB01
4C267CC02
(57)【要約】
【課題】細胞の円滑な移植を可能とする移植デバイスを提供する。
【解決手段】
針状部内を移動する内筒部の位置を規定することができる内筒支持部であり、少なくとも1点において内筒部と接し、針状部の軸線と内筒部の軸線を略合致させ、針状部内の中心かつ垂直にとらえることを可能とする移植デバイス。内筒支持部で内筒部を捉えることにより、針状部の側面と内筒部の側面が平行に移動することを可能とし、針状部内部と内筒部との接触を防ぎ、スムーズな駆動と円滑な移植を可能とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に対象物を配置するための移植デバイスであって、
一端に穿刺用の開口を備え、他端に基盤部を備える中空の針状部と、
前記針状部の内側に位置し、前記針状部の内側から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された内筒部とを備え、
前記針状部は、前記針状部内を移動する内筒部の位置を規定することができる内筒支持部を有する移植デバイス。
【請求項2】
前記内筒支持部は前記内筒部の軸線と前記針状部の軸線を略合致させ、前記針状部の内径の側面と前記内筒部の外径の側面が平行に移動可能に構成されている請求項1に記載の移植デバイス。
【請求項3】
前記内筒支持部は少なくとも1点において前記内筒部と接することを特徴とする請求項1又は2に記載の移植デバイス。
【請求項4】
前記内筒支持部は前記針状部の前記基盤部から前記針状部の中心部に向かって突出する突出部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の移植デバイス。
【請求項5】
前記突出部は前記基盤部から柱状の形状で前記針状部の中心部に向けて突出し、前記基盤部に向けて凹状の円弧面によって内筒部と接する請求項4に記載の移植デバイス。
【請求項6】
前記突出部は前記基盤部の少なくとも3箇所から、前記針状部の中心部に向けて円弧状に突出し、前記円弧状の凸部において内筒部と接する請求項4に記載の移植デバイス。
【請求項7】
前記突出部は前記基盤部から柱状の形状で前記針状部の中心部に向けて突出し、前記基盤部に向けて凸状の先端部において内筒部と接する請求項4に記載の移植デバイス。
【請求項8】
前記突出部は前記基盤部から、前記針状部の中心部に向けて円環状にせり出し、せり出した円環部において内筒部と接する請求項4に記載の移植デバイス。
【請求項9】
請求項1又は2に記載した移植デバイス同士が針状部の基盤部において接続され、複数の移植デバイスが結合したことを特徴とする移植デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内への対象物の移植に用いられる移植デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した細胞を培養して細胞群を精製し、この細胞群を、生体の皮内や皮下へ移植する技術が開発されている。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞を培養して細胞群を精製し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。
【0003】
毛包は、上皮系細胞と間葉系細胞との相互作用により形成される。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群が、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包となることが望ましい。この正常な組織構造を有するためには、正常な組織構造を維持しつつ、細胞群の損傷を起こさないよう、慎重に皮内に移植する必要がある。
【0004】
そこで、培養された細胞群を、慎重に生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発が進められている。その中で、例えば先行技術の特許文献1には、「生体内に対象物を配置するための生体用移送装置であって、
1つの方向に沿って延びる筒状の針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記対象物である細胞群を内部に取り込む前記針状部と、
前記針状部の内側に位置し、前記針状部の内部から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された押出部と、を備え、
前記押出部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状の内筒部であって、前記対象物の全体が前記内筒部の内側に入り込まない大きさの内径を有する前記内筒部を備え、
前記内筒部は、前記内筒部内を吸引する機構に接続され、前記吸引によって前記内筒部の先端部に前記対象物を保持可能に構成されている生体用移送装置。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移植物の円滑な移植のためには、培養容器等の容器に入れられている移植物を、生体内へ円滑に移動できることが望ましい。ただし、生体の皮膚や臓器等の組織内では細胞が密に詰まっているため、移植物を生体に配置すると、移植物が組織から受ける圧力が大きい場合がある。この点については、特許文献1に開示された針状部と押出部となる内筒部を使用することによって解決され、円滑に移植物を生体内へ移植することが可能となった。
しかし、特許文献1に開示された針状部と内筒部の構成の場合には、操作中に針状部内部の側面と押出部となる内筒部の外側の側面が接触し、移植デバイス内でスムーズに駆動しないといった課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、移植操作中に、針状部内部の側面と内筒部外部の側面との接触を回避して、押出部となる内筒部が、スムーズに駆動可能な移植デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する移植デバイスは、
一端に穿刺用の開口を備え、他端に基盤部を備える中空の針状部と、
前記中空の針状部の内側に位置し、前記針状部の内側から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された内筒部とを備え、
前記針状部は、前記針状部内を移動する内筒部の位置を規定することができる内筒支持部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、移植操作中に、針状部内部の側面と内筒部外部の側面との接触を回避して、押出部となる内筒部が、スムーズに駆動可能な移植デバイスを提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】特許文献1における生体用移送装置としての細胞移植装置の第1実施形態について細胞移植装置の全体構成の例を示す図。
【
図2】特許文献1における細胞移植装置の針状部と押出部の断面構造を示す図。
【
図3】移植デバイスの第一実施態様について、針状部と内筒部及び内筒支持部の断面構造を示す図。
【
図4】第一実施態様の移植デバイスについて、内筒部が針状部内に挿入された後の移植デバイスの断面構造を示す図。
【
図5】第1実施形態における移植デバイスの内筒支持部の上面視の概略図。
【
図6】第2実施形態における移植デバイスの内筒支持部の上面視の概略図。
【
図7】第3実施形態における移植デバイスの内筒支持部の上面視の概略図。
【
図8】第4実施形態における移植デバイスの内筒支持部の上面視の概略図。
【
図9】第5実施形態における移植デバイスの内筒支持部の側面視の概略図。
【
図10】第二実施態様の移植デバイスの断面構造を示す図。
【
図11】移植デバイスの第三実施態様について、針状部と内筒部及び複数の内筒支持部の断面構造を示す図。
【
図12】第三実施態様の移植デバイスについて、複数の針状部と内筒部、内筒支持部を備える移植デバイスの断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[移植対象]
本実施形態の移植デバイスは、生体における皮内および皮下の少なくとも一方へ細胞群を移植するために用いられる。まず、移植対象の細胞群について説明する。
【0012】
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0013】
細胞群は、皮内または皮下に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。本実施形態では、移植対象が、発毛または育毛に寄与する細胞群である例について説明する。こうした細胞群は、例えば、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0014】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0015】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基盤部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
なお、移植物は、細胞群とともに細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。
【0016】
以下、図面を参照して、背景技術および本発明の実施形態について説明する。なお、本開示における実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
なお、本開示においては、「上方」とは、図面におけるZ方向のプラス方向を意味する。また、「上面視」とは、Z軸のプラス方向から視認した形状を意味する。
また、本開示において「円弧面」、「円環」とは、正確な円形に沿った面や形状に限定されるものではなく、概略円形に沿った形状を備える形状を含むものである。
さらに「柱状」とは、上面視において柱状に視認できる形状を意味し、その断面形状は問わないものとする。
[従来技術の説明]
図1および
図2を参照して従来技術を簡略的に説明する。
【0017】
図1は、従来技術における細胞移植装置の全体構成を示す図である。
図1において、細胞移植装置100は、1つの方向に沿って延びる針状部10と、針状部10の内側に位置する押出部20と、針状部10と押出部20とを相対的に動かすための構造を含む位置変更部30とを備えている。
【0018】
そして、位置変更部30は、第1注射筒31、第2注射筒32、押子33を備えている。そして、第2注射筒32は、第1注射筒31の内側に備えられており、押子33は第2注射筒32の内側に備えられている。
つまり、細胞移植装置100は、2つの注射器が重ねられた構造を有しており、外側の注射筒である第1注射筒31の先端部に針状部10の基端部が接続され、第1注射筒31の内側に挿入されている注射筒である第2注射筒32の先端部に内筒部21の基端部が接続されている。内筒部21は、第1注射筒31の内部から、針状部10の内部へ延びている。
【0019】
第2注射筒32は、第1注射筒31に対する押子として機能する。第1注射筒31内で第2注射筒32が針状部10の延びる方向に動かされることによって、針状部10に対する内筒部21の位置が変更される。
【0020】
また、第2注射筒32の内側には、第2注射筒32に対する押子として機能する押子33が挿入されている。第2注射筒32内で、針状部10の延びる方向に押子33が引かれることによって、内筒部21内が吸引され、上記押子33が押されることによって、内筒部21内が加圧される。
【0021】
上記構成においては、第1注射筒31、第2注射筒32、および、押子33が、位置変更部30を構成する。当該位置変更部30は、内筒部21に対する吸引および加圧を行う機能も有している。
【0022】
なお、針状部10に対する内筒部21の移動が可能であれば、位置変更部30の構成は上記形態に限られない。針状部10に対する内筒部21の移動は手動で行われてもよいし、モーター等を利用した電動により行われてもよい。また、内筒部21に対する吸引や加圧は、内筒部21に接続されたコンプレッサー等の機器の駆動によって行われてもよい。
【0023】
次に
図2を参照して、背景技術の細部について説明する。
図2は、特許文献1の生体用移送装置の針状部と押出部の断面構造を示す図である。
【0024】
まず、針状部10および押出部20の詳細な構成を説明する。
図2において、針状部10は、筒状の形状を備えており、その外径はdo1、内径はdi1となっている。針状部10の一端には円筒を斜めに切断した形状で穿刺用の開口が形成されている。また内筒部21においても筒状の形状を備えており、その外径はdo2、内径はdi2となっている。
【0025】
しかしながら、背景技術における構成の場合には、内筒部21が針状部10内の側面と接触し、スムーズに駆動しないといった課題がみられた。
(第一実施態様)
次に、
図3及び
図4を参照して、移植デバイスの第一実施態様を説明する。
【0026】
[移植デバイス]
[第一実施態様の構成]
図3は、移植デバイスの第一実施態様の、針状部10と内筒部21及び内筒支持部40の断面構造を示す図である。
図3は、第一実施態様の移植デバイスについて、内筒部21が針状部10内に挿入される前の移植デバイスの断面構造を示す図であり、
図4は、内筒部21が針状部10内に挿入された後の移植デバイスの断面構造を示す図である。
図3及び
図4において、第一実施態様の移植デバイス101は針状部10を備え、針状部の内側には内筒部21を備えている。針状部10の根本部には基盤部12を有しており、基盤部12上に内筒支持部40を備えている。
なお、針状部10は、その先端が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な形状を有していれば、その形状は特に限定されない。
【0027】
針状部10の内側には、押出部20となる筒状の内筒部21が備えられている。
内筒部21は、針状部10の内側で、それぞれの長手方向の軸線13と内筒部軸線22は略合致していることが望ましい。内筒部21は、筒状であれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部10が円筒状に延びる場合、内筒部21も円筒状に延びていればよい。内筒部21の先端部の端面は、内筒部21の延びる方向と直交する平面であることが好ましい。針状部10および内筒部21は、金属や樹脂から構成される。
【0028】
内筒部21は、針状部10に対して相対的に、これらの筒の長手方向、すなわち軸線方向に沿って移動可能に構成されている。詳細には、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出さずに針状部10の内部に位置する状態と、内筒部21の先端部が、開口11から突き出して外部に出ている状態との間で、針状部10に対する内筒部21の位置が変更可能に構成されている。
【0029】
また、内筒部21に接続された機構の作動によって、内筒部21内が減圧状態となり、内筒部21の先端に移植物等を保持可能とされている。なお、位置変更部30が、内筒部21内を吸引する機能を兼ね備えていてもよい。また、内筒部21内の吸引に加えて、空気圧による内筒部21内への加圧が可能であってもよい。
【0030】
内筒部21は、内筒部21内の吸引に基づき移植物を引き寄せ、内筒部21の先端に移植物を保持する。内筒部21の内径は、移植物の全体が内筒部21の内側に入り込まない程度の大きさを有する。一方で、内筒部21の内径は、移植物を引き寄せるために十分な吸引力を発揮できる程度に大きいことが好ましい。針状部10の内周面と内筒部21の外周面との間には、針状部10に沿って内筒部21が動くことが可能な程度の隙間が空いていればよい。
【0031】
例えば、移植物が発毛または育毛に寄与する細胞群であって、細胞凝集体等の細胞の集合体である場合、この細胞群を球体に近似したときの当該球体の直径、すなわち、細胞群に外接する最小の直径は0.1mm以上1mm以下の程度である。
【0032】
この場合、内筒部21の内径di2は、例えば0.05mm以上1.1mm以下の範囲から選択され、針状部10の内径di1は、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲から選択される。
【0033】
針状部10および内筒部21の構成は、従来技術と概ね同様の構成であるため、以下の説明において、上述の従来技術と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0034】
図3及び
図4において、内筒支持部40は、基盤部12のZ方向上方に配置されており、基盤部12の上方のXY平面において、針状部10の基盤部12から針状部10の中心部に向かって突出する突出部41を有している(突出部41については、
図5以降を参照)。突出部41は針状部10の中空部から突出した部分であり、内筒支持部40の一部である。
また、突出部41は内筒部21を針状部10内に設置する際に、内筒部21が針状部10の筒状の中心かつ垂直に配置されるように作用する。
【0035】
内筒支持部40と突出部41は同様の材料で構成されており、特に生体適合性材料で構成されていることがより好ましい。またこれらは金属部品で構成されてもよい。内筒部21は針状部10内を相対的に移動するため、基盤部12に侵入した際に中心かつ垂直に内筒部21を保持し、内筒部21が相対的に移動可能となる材料であれば特に限定されない。
【0036】
次に、
図5~8を参照して、第一実施態様の一種である第1実施形態から第5実施形態について説明する。
図5~
図8において、内筒支持部40は内筒部21が針状部10へ挿入される際に、内筒部21の外周が少なくとも1点の支点で支えることが可能な形状を有していれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、内筒支持部40は内筒部21が挿入可能な隙間を有し、針状部10の筒状の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22が略合致するように内筒部21を保持することができればよい。
【0037】
[第1実施形態]
まず、
図5を参照して、第1実施形態について説明する。
図5(a)は、第1実施形態における移植デバイスの基盤部12および内筒支持部40を、Z軸のプラス方向から視認した上面視の概略図である。
図5(b)は
図5(a)の内筒支持部40の1つの拡大図をZ軸のプラス方向から視認した上面視の概略図である。
【0038】
図5(a)において、突出部41は基盤部12から上面視で柱状の形状で前記針状部10の中心部に向けて突出しており、その先端は、基盤部12に向けて凹状の円弧面となっている。このため、突出部41は、その先端で内筒部21の外径の側面と安定的に接することができ、仮に、針状部10の筒状の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22がずれている場合であっても、両者の軸線を整合させるように内筒部21を保持することが可能となる。
このように第1実施形態においては、内筒支持部40は少なくとも2つの突出部41で内筒部21と接することにより、内筒部21を保持している。
【0039】
図5(b)において、突出部41の先端の形状は、内筒部21の外径を保持するような円弧であることが好ましい。針状部10の基盤部12から上面視で見た場合、基盤部12の上方のXY平面において内筒支持部40が配置されており、内筒部21の外径と突出部41が略接触するように、突出部41の先端は円弧としている。また、針状部10の軸線13での断面図とした場合、針状部10の軸線13と内筒支持部40の一端を円弧とする中心線は略合致されていることがより好ましい。
突出部41は内筒部21と接する一端を円弧として内筒部21を合致させる形状に限定されず、例えば突出部41の内筒部21と接する一端の形状は内筒部21と直線で接してもよく、V字型で接してもよい。
【0040】
また、基盤部12の上方のXY平面上にて内筒支持部40は複数に分割されて配置されていてもよいし、基盤部12の上方にて一体化されて配置されていてもよい。一体化されている場合、針状部10の中空部には内筒部21と接する部分が中心部に向けて迫り出す突出部41を構成し、その他の部分は針状部10の外側で、基盤部12の上方に配置されていてもよい。
【0041】
また
図5の変形例として、
図5(b)において内筒支持部40が2つ以上の突出部41を持ち、その先端が、内筒部21の外径を保持する円弧の形状を有しているとき、内筒部21に接する突出部41の内側の面が内筒部21の移動する方向に凹凸形状を有していてもよい。内筒部21は突出部41の先端が滑らかな曲面で構成されている場合には、突出部41の内側の面と内筒部21の接触面積が大きくなり、摩擦の抵抗が大きい場合がある。摩擦の抵抗を小さくし、円滑に駆動させるためには、例えば、突出部41の内筒部21と接する内側の面において、凹凸形状のXY軸方向長さは0.01mm以上0.05mm以下であることがより好ましい。Z軸方向の長さは内筒支持部40のZ軸方向の長さ(厚み)と同等とし、内筒支持部40の厚みは1.0mm以上5.0mm以下がより好ましい。
【0042】
[第2実施形態]
次に、
図6を参照して、第2実施形態について説明する。
図6は、第2実施形態における移植デバイスの基盤部12および内筒支持部40を、Z軸のプラス方向から視認した上面視の概略図である。
図6において、突出部41は基盤部12の少なくとも3箇所から、針状部10の中心部に向けて円弧状に突出し、円弧状の凸部において内筒部21と接している。このように内筒支持部40は3点以上の支点で内筒部21と接することにより、内筒部21を保持している。
【0043】
[第3実施形態]
次に、
図7を参照して、第3実施形態について説明する。
図7は、第3実施形態における移植デバイスの基盤部12および内筒支持部40を、Z軸のプラス方向から視認した上面視の概略図である。
図7において、突出部41は基盤部12から柱状の形状で針状部10の中心部に向けて突出し、基盤部12に向けて凸状の先端部において内筒部21と接している。このように内筒支持部40は4点以上の突出部41で内筒部21と接することにより、内筒部21を保持している。この柱状の形状を有する内筒支持部40は、針状部10の内径を均等に4分割された点で備えており、内筒部21の外径を捉える隙間を有していることが好ましい。また内筒支持部40は1つずつ独立して針状部10の基盤部12に構成されていてもよく、基盤部12の上方で針状部10の中空部に迫り出さず、環状に一体化されていてもよい。
【0044】
突出部41の先端部の形状は、内筒部21に対して、直行する面であってもよいし、内筒部21の外径と同様の円弧を有していてもよい。4点で内筒部21を支える構造の内筒支持部40の場合、先端の1点で接する面の長さは0.01mm以上0.05mm以下であることが好ましい。内筒支持部40は針状部10の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22が略合致するように備えていれば、特にその形状や位置は限定されない。
【0045】
[第4実施形態]
次に、
図8を参照して、第4実施形態について説明する。
図8は、第4実施形態における移植デバイスの基盤部12および内筒支持部40を、Z軸のプラス方向から視認した上面視の概略図である。
図8において、内筒支持部40は円環状の突出部41と基盤部12に接続されている棒状体42から構成されている。突出部41は、基盤部12から針状部10の中心部に向けて円環状に迫り出し、迫り出した円環部において内筒部21と接している。このように内筒支持部40は円環状の突出部41で内筒部21と接することにより、内筒部21を保持している。棒状体42は針状部10の中心部に迫り出した突出部41と基盤部12を接続している。
棒状体42と突出部41を接続した内筒支持部40の場合、棒状体42は
図8のように環状部に対して均等に4点で配置されていてもよく、その数や形状は特に限定されない。
また
図8に示したものの変形例として、内筒支持部40において棒状体42に代えて円環状の突出部41をXY軸方向に幅広く形成し、基盤部12から針状部10の中空部に迫り出してもよい。
【0046】
また内筒支持部40が環状を有する場合、内筒部21と接する内側の面に、内筒部21が移動する方向に凹凸形状を有しても良い。その際、凹凸形状の形状は特に限定しないが、摩擦の抵抗を抑え、接触面積を小さくするため、内筒部21に接する凹凸形状はよりXY軸方向において幅が狭いことが好ましい。例えば接する面のXY軸方向の凹凸形状の長さとして、0.01mm以上0.05mm以下であってもよい。
【0047】
[第5実施形態]
次に、
図9を参照して、第5実施形態について説明する。
図9は、第5実施形態における移植デバイスの基盤部12および内筒支持部の変形例である内筒追随支持部43を、側面から視認した概略図である。
図9に示すように、内筒追随支持部43は針状部10の基盤部12上から針状部10内の中空部にZ軸下方に向かって垂れ下がるようなL字型の形状を有していてもよい。針状部10内の中空部にZ軸下方に向かって垂れ下がる形状の場合、内筒部21の外径と同等の径を有していることが好ましい。
図9のような形状の場合、針状部10の中空部の両端に内筒追随支持部43があってもよいし、針状部10の中空部全体を環状に覆うような形状であってもよく、その形状は内筒部21と合致させることが可能な形状であれば特に限定されない。
また
図9の変形例として、内筒追随支持部43は内筒部21が挿入される際に内筒部21に沿って追随して湾曲するものであってもよい。例えば内筒部21が挿入される外径より内筒支持部40が構成されている隙間が小さくてもよく、その際の内筒支持部40は内筒部21の外壁に沿って追随してもよい。
【0048】
内筒追随支持部43はZ軸下方に向かって内筒部21に追随する。このとき内筒支持部40は柔らかく撓るような材質が好ましく、生体適合性のシリコーン樹脂材料であるとより好ましい。
[第一実施態様の作用]
【0049】
内筒部21は、針状部10へ挿入する際に必ず内筒支持部40に接して下方(Z軸マイナス方向)に移動することとなる。このため、内筒部21は、内筒支持部40によって、針状部10の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22を略合致させた後、針状部10内へ挿入されることとなる。
【0050】
内筒部21は針状部10に対して相対的に、内筒部21及び針状部10の延びる方向に沿って移動可能に構成されている。詳細には、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出ずに針状部10の内部に位置する状態と、内筒部21の先端部が開口から突き出て針状部の外部に出ている状態との間で、針状部10に対する内筒部21の位置が変更可能に構成されている。
【0051】
内筒部21は、内筒部21内の吸引に基づき移植物を引き寄せ、内筒部21の先端に移植物を保持する。内筒部21に接続された機構の作動によって、内筒部21内が吸引可能とされている。内筒部21内の吸引に加えて、空気圧による内筒部21内への加圧が可能であっても良い。
【0052】
内筒支持部40は内筒部21が針状部10内へ挿入する際に作用する。針状部10内で内筒部21の位置を規定することで、内筒部21がどの方向に力が加わったとしても、内筒支持部40にて支持されるため、針状部10内部の側面と内筒部21外部の側面は接触することなく、円滑に駆動する。内筒部21を上下に駆動させる際に、駆動させる力や方向で針状部10の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22が合致しなくなったとしても、内筒支持部40があることによって、内筒部21の起点は保持され、針状部10の側面と内筒部21の側面が接触することなく、円滑な移植が可能となる。
【0053】
内筒支持部40は針状部10の基盤部12で密着し、針状部10の軸線13を内筒部21の内筒部軸線22が通るように構成されているため、確実に針状部10の中心かつ垂直で保持可能となる。
【0054】
内筒支持部40を有することにより、針状部10と内筒部21の側面同士の接触面積と接触によりかかる荷重を低減させ、従来技術と比較して針状部10の内壁と接することによる摩擦力により、内筒支持部40の突出部41と接することによる摩擦力の方が低減することが可能となる。突出部41の接する面積は内筒部21の外径を保持する点であるため、接触面積も内筒支持部40にかかる荷重も小さく抑えられることにより、摩擦の抵抗を小さくさせ、スムーズに駆動することを可能とする。
[第一実施態様の効果]
【0055】
[第1実施形態の効果]
内筒支持部40は2点以上の突出部41で内筒部21の外径を保持させることの可能な円弧形状により、針状部10の中心かつ垂直に合致することが可能となり、内筒部21との接触面積が大きいため安定して内筒部21を保持させることが可能となる。例えば
図5が示すように、内筒支持部40の2点の突出部41は内筒部21の外径を合致させる凹状の円弧面であり、突出部41が点であるよりも大きく存在するため、安定した保持が可能となる。
【0056】
内筒支持部40が独立して針状部10の基盤部12上に構成されている場合、製造方法が簡便かつ、内筒支持部40の設置場所が自由に設置可能となる。内筒支持部40が一体化して針状部10の基盤部12上に構成されている場合、一体化部分は針状部10の中空部に迫り出さず構成されるため、内筒部21との接触には干渉しない。また一体化されているため独立して構成されるより、針状部10の基盤部12上に設置することが簡便である。
【0057】
[第2実施形態の効果]
内筒支持部40は少なくとも3点以上の突出部41で内筒部21を針状部10の中空部に突出した凸部の円弧形状であることから、内筒部21と接する面は凸部の円弧形状の最も突出してある点であり、内筒部21を点で保持することが可能となる。これにより、内筒部21との接触面積と内筒支持部40にかかる荷重も小さいため、よりスムーズに内筒部21の駆動が可能となる。
【0058】
[第3実施形態の効果]
内筒支持部40は凸状の先端部を有する突出部41であり、その突出部41と内筒部21の接する面のXY軸方向の長さが0.01mm以上0.05mm以下であることから、小さい支点で内筒部21を保持することが可能である。これは凹凸形状の構成と同様に1点以上5点以下の突出部41とすることから、接触面積とかかる荷重を小さくさせ、摩擦の抵抗を小さくし、スムーズに駆動することが可能である。
【0059】
[第4実施形態の効果]
内筒支持部40は内筒部21の外径以上、針状部10の内径未満の環状を設けることにより、針状部10の内部側面には接触させずに、針状部10と内筒部21が駆動する隙間を有して合致させることで安定して針状部の中心に保持することが可能となる。
【0060】
内筒支持部40の円環部を有する突出部41が内筒部21との接触面に凹凸形状を有する場合、内筒部21との接触面積が小さくなり荷重がかかる場所が小さく、摩擦の抵抗が小さい。そのため、内筒支持部40と内筒部21がスムーズに駆動することが可能となり、円滑に移植を行うことが可能となる。
【0061】
また、凹凸形状のXY軸方向長さは0.01mm以上0.05mm以下、Z軸方向の長さは内筒支持部40のZ軸方向の長さ(厚み)と同等とし、内筒支持部40の厚みは1.0mm以上5.0mm以下とすることから、XY軸方向は摩擦の抵抗を小さくするため、より長さを短く、Z軸方向に縦に長い凹凸形状となり、安定して内筒部21を保持することが可能となる。
実施例に示した例では、内筒部21の外径を0.36mmのSUS303製精密パイプとし、内筒支持部40の環状は内径0.37mmとした場合、内筒支持部の半径は0.185mmとなり円周が0.107mmである。この時、凹凸形状のXY軸方向長さは0.01mm以上であると5点以上の凸部で内筒部21を保持可能であり、0.05mm以下であると1点以下の凸部で内筒部21を保持することが可能となる。内筒支持部40が環状の形状で内筒部21と接する場合と比べ、環状の形状を有したまま凹凸形状が1点以上5点以下の凸部で保持することが、接触面積とかかる荷重を小さくさせ、摩擦の抵抗を小さくし、スムーズに駆動することが可能である。
【0062】
[第5実施形態の効果]
内筒追随支持部43は内筒部21が挿入される際に内筒部21に追随し、針状部10の軸線13と内筒部21の内筒部軸線22に略合致させ保持されることを可能とする。内筒追随支持部43は内筒部21を追随するため、より針状部10の中心かつ垂直に保持されることが可能となる。また針状部10の基盤部12上から針状部10の中空部内に構成されるような、Z軸下方に垂れ下がるL字型形状の場合、針状部10の基盤部12上で固定され、かつ針状部10の中空部内でも固定されているため、安定して内筒部21を保持可能となる。またこのL字型形状の場合、針状部10内の中空部で段差が構成されているような形状となるため、その他の形態の内筒支持部40に比べ、より内筒部21の外径と針状部10の内径が接触することなく、スムーズな駆動が可能となる。
【0063】
また、内筒追随支持部43は生体適合性のシリコーン樹脂であることで、内筒部21と内筒追随支持部43が強く接触したとしてもシリコーン樹脂の硬度(硬さ)がJIS K 6253に基づきデュロメータータイプAを用いた場合、25度以上60度以下であれば、内筒部21を包み込むように保持することが可能であり、スムーズに駆動することが可能である。
【0064】
(第二実施態様)
図10を参照して、移植デバイスの第2実施形態を説明する。第2実施態様の移植デバイスも、第1実施態様と同様の移植物の移植に用いられる移植デバイスに具体化される。第2実施態様は、第1実施態様と比較して、針状部10が複数備えている点が異なる。以下では、第2実施態様と第1実施態様との相違点を中心に説明し、第1実施態様と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図10は、第二実施態様の移植デバイスの断面構造を示す概略図である。移植デバイス101が備える針状部10の数は特に限定されず、
図3のように単一の針状部10を備えていても良いし、
図10のように複数の針状部10を備えていても良い。移植デバイス101が複数の針状部10を備える場合、複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は規則的に並んでいても良いし、不規則に並んでいても良い。
【0066】
移植デバイス101が複数の針状部10を備える場合、針状部10ごとに独立して針状部10に対する内筒部21の移動が可能であってもよいし、複数の針状部10において、針状部10に対する内筒部21の移動が一括して行われても良い、また、内筒部21に対する吸引は内筒部21ごとに独立して行われてもよいし、複数の内筒部21に対して一括して行われてもよい。
【0067】
移植デバイス101が複数の針状部10を備える場合、針状部10ごとに独立して基盤部12の上部に内筒支持部40があってもよいし、基盤部12全体に内筒支持部40の材料を有して、針状部10と同様の配置で備えていてもよい。
【0068】
移植デバイス101が複数の針状部10を備える場合、針状部10ごとに内筒支持部40の構成は異なっていてもよい。例えば、複数の針状部10が1列に5本並んでいる場合、中心の針状部10の3本の内筒支持部40は
図8のように4点の突出部41を有する構成でもよく、列の端である針状部10の2本は
図5のように2点の突出部41を有する内筒支持部40であってもよい。また内筒追随支持部43であってもよい。
【0069】
内筒支持部40の構成が針状部10ごとに異なる場合、内筒部21は一括で同時に上下に駆動するため、例えば複数の針状部10が1列に5本並んでいる場合、列の中心と端でかかる力も異なる。そのため、列の中心の3本には内筒部21の荷重が最もかかるため、
図8のように4点の突出部41を持つ内筒支持部40を配置し、摩擦の抵抗を小さくさせ、円滑に駆動することを特徴とする。列の端2本の針状部10は内筒部21にかかる荷重が小さく、かつ正確に内筒部21と安定した保持が必要なため、
図5のような2点の突出部41を有する内筒支持部40を備えてもよい。
【0070】
複数の針状部10を備えた効果として、移植物を移植対象部位へ大量に移植することを可能とする。単一で針状部10を備えた移植デバイス101と比較して、複数の針状部10と内筒部21を備える移植デバイス101は大量かつ簡便に移植することを可能とする。
【0071】
内筒支持部40の構成が針状部10ごとに異なる場合、荷重の大きさによって、得意とする内筒支持部40を有すことが可能となり、より内筒部21を安定して針状部10の中心に合致させることが可能となる。
【0072】
(第三実施態様)
図11~
図12を参照して、移植デバイスの第三実施態様を説明する。第三実施態様の移植デバイスも、第一実施態様と同様の移植物の移植に用いられる移植デバイスである。第三実施態様は、第一実施態様、第二実施態様と比較して、内筒支持部40と針状部内に針状部内内筒支持部44が備わっている。以下では、第三実施態様と第一実施態様、第二実施態様との相違点を中心に説明し、第一実施態様、第二実施態様と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0073】
[移植デバイス]
図11は、移植デバイス101の第三実施態様について、針状部10と内筒部21及び複数の内筒支持部40の断面構造を示す概略図である。
図11において、内筒支持部40は、針状部10の基盤部12上に位置するものに加えて、針状部10の中空部内の任意の位置に針状部内内筒支持部44として備えていてもよい。
【0074】
図12は、第三実施態様の移植デバイス101について、複数の針状部10と内筒部21、内筒支持部40、針状部内内筒支持部44を備える移植デバイスの断面構造を示す概略図である。
【0075】
針状部内内筒支持部44は針状部10の中空部に構成される。針状部内内筒支持部44は針状部10を製造する際に同時に樹脂で構成されてもよい。例えば、針状部10の製造方法は樹脂材料を凹版上に置いて熱溶融条件にて溶融し、自然冷却した後凹版から剥離させ、針状部10を得る。凹版の設計で針状部内内筒支持部44を任意の位置に構成させることで、針状部10の製造時に同時に針状部内内筒支持部44を同様の樹脂材料で構成することが可能となる。
【0076】
針状部内内筒支持部44は任意の位置に構成されるが、移植物には接触しない任意の位置とする。具体的には針状部10は先端部から基盤部12までの長さを0.1mm以上2.5mm以下とする場合、移植物は例えば細胞群を球体に近似したときの当該球体の直径、すなわち、細胞群に外接する最小の直径は0.1mm以上1mm以下のため、針先端部14から1.1mm以上1.5mm以下の位置に針状部内内筒支持部44は構成されることがより好ましい。針状部内内筒支持部44の厚みについて、内筒部21の内径が例えば0.05mm以上1.1mm以下の範囲から選択され、針状部10の内径は、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲から選択されることから、針状部10をXY軸方向で断面図とした場合、XY軸方向の長さ(厚み)は、0.01mm以上0.15mm以下の範囲から選択される。Z軸方向の長さは特に限定されない。
【0077】
また針状部内の内筒支持部40は
図7のように環状のような構造体を針状部10の製造後に後から配置してもよく、針状部内内筒支持部44は例えば生体適合性を有する材料から形成されていてもよいし、金属で針状部10内に設置されていてもよい。
【0078】
内筒部21は、針状部10に挿入される際に基盤部12にて内筒支持部40で針状部10の中心に保持されるとともに、針状部10に挿入された後にも、針状部10内部に備えられた針状部内内筒支持部44により、針状部10の中心に保持される。
【0079】
針状部内内筒支持部44を備える効果として、針状部10内部でもZ軸方向に2点以上の支点で支えることが可能なため、針状部10側面と内筒部21外部側面が平行に駆動することにより、針状部10と内筒部21が接触することなく、よりスムーズな駆動が可能となる。
【0080】
針状部内内筒支持部44は、針先端部14から1.1mm以上1.5mm以下の位置に構成される。移植物は例えば細胞群を球体に近似したときの当該球体の直径、すなわち、細胞群に外接する最小の直径は0.1mm以上1mm以下のため、移植物に接触しない範囲としては針先端部14から1.1mm以上1.5mm以下の位置が適切である。移植物と針状部内内筒支持部44が接触してしまうと、例えば移植物が細胞群の場合、細胞群の破壊が生じたり、死細胞数が増えたりし、移植効率の低下となる恐れがある。そのため、移植物には接しない任意の1.1mm以上1.5mm以下に針状部内内筒支持部44が構成されることで、移植物の接触有無にかかわらず、内筒部21と針状部10が円滑に駆動することが可能となる。
【0081】
(実施例)
上述した移植デバイス101について、具体的な実施例を用いて説明する。実施例の移植デバイス101は第1実施形態の移植デバイス101に相当する。
【0082】
(移植デバイスの形成)
図3に示したように樹脂製の針状部10を形成した。針状部10としては外径が0.50mmで内径は0.40mmである。内筒部21としては、外径が0.36mm、内径が0.17mmのSUS303製精密パイプを用いた。内筒支持部40は外径が0.70mm、内径が0.37mmの
図7のようなシリコーン製リングを用い、基盤部12上に針状部10の中空部に迫り出すように設置した。
【0083】
(評価)
実施例の移植デバイス101を用いて、針状部10への干渉試験と対象領域への移植物の配置性能を評価した。
【0084】
(試験)
実施例の針状部10の基盤部12に設置した内筒支持部40に内筒部21を挿入し、針状部10に中心かつ垂直に内筒部21が挿入されているか、顕微鏡にて確認した。また、針状部10内部に接触しないことを確認するため、内筒部21の先端部外径に移植物に影響しない程度の粘着物を貼り、針状部10内部と接触した際に確認できるようにした。相対的に内筒部21を針状部10内で移動したところ、針状部10内部と内筒部21が粘着物によって付着することなく、接触せずに、移動可能に構成されていることが確認された。
【0085】
移植物の配置性能の評価として、移植物のモデルは平均粒子径が210μmのプラスチックビーズを用意した。移植デバイス101の内筒部21に1つのプラスチックビーズを吸引によって保持させ、ヌードマウス摘出皮膚の内部にプラスチックビーズを移送する試験を10回行った。
【0086】
試験後、上記摘出皮膚と裏面とを顕微鏡で観察し、プラスチックビーズが摘出皮膚の内部に配置されているかを確認した。その結果、10回の試験のすべてにおいてプラスチックビーズが針状部10内に残留することなく、また針状部10の内部を内筒部21が接触することなく、摘出皮膚の内部に固定されていることが確認された。したがって、実施例の移植デバイスを用いて、針状部10内部に接することなく皮膚内に対象物を配置することができることが確認された。
【0087】
本開示においては、上記の実施形態の他に、発明の対象となりえる以下の項目を含んでいる。
【0088】
(項目1)生体内に対象物を配置するための移植デバイスであって、
一端に穿刺用の開口を備え、他端に基盤部を備える中空の針状部と、
前記針状部の内側に位置し、前記針状部の内側から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された内筒部とを備え、
前記針状部は、前記針状部内を移動する内筒部の位置を規定することができる内筒支持部を有する移植デバイス。
【0089】
(項目2)前記内筒支持部は前記内筒部の軸線と前記針状部の軸線を略合致させ、前記針状部内径の側面と前記内筒部外径の側面が平行に移動可能に構成されている項目1に記載の移植デバイス。
【0090】
(項目3)前記内筒支持部は少なくとも1点において前記内筒部と接することを特徴とする項目1~2に記載の移植デバイス。
【0091】
(項目4)前記内筒支持部は前記針状部の前記基盤部から前記針状部の中心部に向かって突出する突出部を有することを特徴とする項目1~3のいずれか一つに記載の移植デバイス。
【0092】
(項目5)前記突出部は前記基盤部から柱状の形状で前記針状部の中心部に向けて突出し、前記基盤部に向けて凹状の円弧面によって内筒部と接する項目1~4のいずれか一つに記載の移植デバイス。
【0093】
(項目6)前記突出部は前記基盤部の少なくとも3箇所から、前記針状部の中心部に向けて円弧状に突出し、前記円弧状の凸部において内筒部と接する項目1~4のいずれか一つに記載の移植デバイス。
【0094】
(項目7)前記突出部は前記基盤部から、前記針状部の中心部に向けて円環状にせり出し、せり出した円環部において内筒部と接する項目1~4のいずれか一つに記載の移植デバイス。
【0095】
(項目8)前記突出部は前記基盤部から柱状の形状で前記針状部の中心部に向けて突出し、前記基盤部に向けて凸状の先端部において内筒部と接する項目1~4のいずれか一つに記載の移植デバイス。
【0096】
(項目9)項目1又は2に記載した移植デバイス同士が針状部の基盤部において接続され、複数の移植デバイスが結合したことを特徴とする移植デバイス。
【符号の説明】
【0097】
10…針状部
11…開口
12…基盤部
13…軸線
14…針先端部
20…押出部
21…内筒部
22…内筒部軸線
30…位置変更部
31…第1注射筒
32…第2注射筒
33…押子
40…内筒支持部
41…突出部
42…棒状体
43…内筒追随支持部
44…針状部内内筒支持部
100…細胞移植装置
101…移植デバイス