(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032320
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】抗ウイルス性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135913
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村井 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 広美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠也
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA04B
4F100AB24B
4F100AC04B
4F100AH03B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA30B
4F100EH46
4F100JB12B
4F100JC00B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】従来の抗ウイルス性フィルムでは、抗ウイルス剤の添加量や塗布膜厚といった間接的な方法でしか抗ウイルス性能を担保できなかった。
【解決手段】基材と、前記基材上に配置された少なくとも1つの抗ウイルス層とを有する抗ウイルス性フィルムであって、前記抗ウイルス層は、バインダー及び抗ウイルス剤粒子を含有し、抗ウイルス性フィルムの所定の波長範囲での赤外スペクトル強度が、抗ウイルス剤粒子がリン酸化合物を担体とするときは所定の条件1、抗ウイルス剤粒子がゼオライトを担体とするときは所定の条件2、のいずれかを満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された少なくとも1つの抗ウイルス層とを有する抗ウイルス性フィルムであって、前記抗ウイルス層は、バインダー及び抗ウイルス剤粒子を含有し、下記条件1または条件2のいずれかを満たす抗ウイルス性フィルム。
条件1:
抗ウイルス剤粒子がリン酸化合物を担体として含有し、
前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ia、前記抗ウイルス性フィルムの800~700cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ibが、下記式(1)を満たす。
0.5≦Ia/Ib ・・(1)
条件2:
抗ウイルス剤粒子がゼオライトを担体として含有し、
前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ic、前記抗ウイルス性フィルムの1800~1400cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Idが、下記式(2)を満たす。
0.02≦Ic/Id ・・(2)
【請求項2】
前記抗ウイルス剤粒子が、銀を含有する、請求項1に記載の抗ウイルス性フィルム。
【請求項3】
前記抗ウイルス剤粒子が、リン酸化合物およびゼオライトを担体として含有する、請求項1に記載の抗ウイルス性フィルム。
【請求項4】
前記バインダーが、アクリル系である、請求項1に記載の抗ウイルス性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
先の新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で抗ウイルス性機能付与材料のニーズが急増しており、様々な抗ウイルス性フィルムの開発が急ピッチで進められている。
【0003】
これまでは、抗ウイルス性を有する物質を製品に添加した量や、フィルム表面に塗布する場合は塗布したコーティング膜の厚さで、抗ウイルス性フィルムの抗ウイルス性能を担保した抗ウイルス性フィルムが開発されてきた(特許文献1)。
【0004】
抗ウイルス性フィルムの抗ウイルス性能評価法としては、ISO 21702で定める「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」が最も一般的な方法として知られている(非特許文献1)。
このほか、繊維についてはISO18184(JIS L1922)「繊維製品の抗ウイルス性試験」として定められている方法もある(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ISO 21702「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」
【非特許文献2】JIS L1922「繊維製品の抗ウイルス性試験」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これまでの抗ウイルス性フィルムでは、抗ウイルス剤の添加量や塗布膜厚といった間接的な方法でしか抗ウイルス性能を担保できないという課題があった。
【0008】
そこで本発明では、膜厚に関わらず抗ウイルス性能を保持したフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明の一側面は、基材と、前記基材上に配置された少なくとも1つの抗ウイルス層とを有する抗ウイルス性フィルムであって、前記抗ウイルス層は、バインダー及び抗ウイルス剤粒子を含有し、下記条件1または条件2のいずれかを満たす抗ウイルス性フィルムである。
【0010】
条件1:
抗ウイルス剤粒子がリン酸化合物を担体として含有し、
前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ia、前記抗ウイルス性フィルムの800~700cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ibが、下記式(1)を満たす。
0.5≦Ia/Ib ・・(1)
【0011】
条件2:
抗ウイルス剤粒子がゼオライトを担体として含有し、
前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ic、前記抗ウイルス性フィルムの1800~1400cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Idが、下記式(2)を満たす。
0.02≦Ic/Id ・・(2)
【0012】
上記抗ウイルス性フィルムにおいて、前記抗ウイルス剤粒子が銀を含有するものであって良い。
【0013】
上記抗ウイルス性フィルムにおいて、前記抗ウイルス剤粒子がリン酸化合物およびゼオライトを担体として含有するものであって良い。
【0014】
上記抗ウイルス性フィルムにおいて、前記バインダーが、アクリル系であって良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜厚に関わらず抗ウイルス性能を保持したフィルムを提供することができる。一回反射ATR法で、フィルム表面近傍の最も浅い範囲のみの抗ウイルス成分が検出可能になり、抗ウイルス剤の添加量や塗布膜厚に関わらず、抗ウイルス性能を担保できる。
【0016】
さらに本発明によれば、大幅な省力化および作業性を向上させた簡便な抗ウイルス性評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】抗ウイルス剤がリン酸ガラス系で、バインダーがアクリル系の抗ウイルス性フィルムのスペクトル。
【
図4】Ia/Ibとリン酸ガラス系抗ウイルス剤濃度の関係。
【
図5】抗ウイルス剤がリン酸ガラス系で、バインダーがPVA系の抗ウイルス性フィルムのスペクトル。
【
図7】Ic/Idとゼオライト系抗ウイルス剤濃度の関係。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお以下に記載する実施形態の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることであるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0019】
本発明において我々は、一回反射ATR法を用いて、赤外線スペクトルのピーク強度が前述の式(1)または式(2)を満たす抗ウイルス性フィルムを発明した。一回反射ATR法の光学部材(プリズム)にはゲルマニウム(Ge)を使用した。
【0020】
[抗ウイルス性フィルム]
本発明に係る抗ウイルス性フィルムは、基材と、前記基材上に配置された少なくとも1つの抗ウイルス層とを有する、抗ウイルス性フィルムであって、前記抗ウイルス層は、バインダー及び抗ウイルス剤粒子を含有する。
【0021】
本発明の抗ウイルス性フィルムでは、対象となる抗ウイルス剤が赤外吸収をもつ物質であれば、フィルム中に他の物質、例えば耐候剤や耐傷添加剤、防汚剤、フィラー剤などの各種添加剤、色材などが存在していても問題ない。
【0022】
厚みに関しては特に限定されることはないが、好ましくは1mm~20μm、より好ましくは200~50μmである。
【0023】
[基材]
紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体から構成されている。基材としては、プラスチックフィルム、紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体等を用いることができる。基材には、必要に応じて、例えば、静電防止剤、スリップ剤、防曇剤、紫外線吸収剤等の添加剤が含まれてもよい。また、基材には、必要に応じて、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、フレーム処理等の表面処理が施されてもよい。さらに、基材には、必要に応じて、イソシアネート系化合物、ポリエチレンイミン、変性ポリブタジエン等のアンカーコート剤があらかじめ塗工されていてもよい。
【0024】
基材の厚さは特に制限されないが、経済性と使用しやすさとを両立できる点では、10~50μmであることが好ましい。前述の範囲内の膜厚を有することにより、良好な加工性および取り扱い性を得ることができる。
【0025】
[抗ウイルス層]
バインダーを構成する材料としては、アクリル系樹脂が好ましい。抗ウイルス剤粒子の吸収ピークと重なる1150~950(出来れば1200~800)cmー1の範囲に大きな吸収がなく、抗ウイルス剤粒子のピークの近辺、高波数側なら1800~1200cmー1、低波数側なら900~700cmー1の範囲に標準ピークとなる中~高強度の吸収があることが好ましい。
【0026】
抗ウイルス剤粒子としては、リン酸化合物系及びゼオライト系の銀担持担体が好ましい。バインダーの吸収ピークと重なる、高波数側なら1800~1200cmー1、低波数側なら900~700cmー1の範囲に大きな吸収がなく、1150~950(より好ましくは1200~800)cmー1の範囲に最大吸収があることが好ましい。
【0027】
ATR(Attenuated Total Reflection:全反射測定法)とは赤外分光分析における基本的な測定法の1つで、赤外光を透過する屈折率の高い光学結晶(プリズム)を測定対象に密着させ、プリズムに接触しているその表面近傍のみを検出する方法である。その概要を
図1に示す。
【0028】
プリズムを測定対象の表面に密着させた後、高屈折率のプリズム内部を通して低屈折率側の対象物表面に赤外光を照射すると、ある角度(臨界角)以上では対象物とプリズムの界面で光が全反射する。その際、プリズム外側の極近傍にエバネッセンス場(光が一部滲み出した状態)が形成され、式(3)を満たす距離だけ対象物の表面側に潜り込む。
そのため全反射した光は対象物のごく表面の影響を受けた光となり、これを検出することで、その潜り込んだ深さ範囲のスペクトル(ATRスペクトル)を取得することが出来る。
【0029】
この潜り込む深さは式(3)で示される通り赤外光の入射角やプリズムの材質(=屈折率)などによって変わるため、それらを調節することである程度、任意の深さでの測定が可能になる。表1に、赤外光入射角やプリズム材質を変えた場合のおおまかな測定深さの目安を示す。
【0030】
また現在最も一般的な、直径数mmほどのプリズムを使用して反射回数一回で測定を行う方法(一回反射ATR法)だけでなく、長径数cmほどの大きいプリズムの内部で複数回反射させる方法(多重反射ATR法)で、比較的広い面積の平均的な結果を得るといったことも可能である。
【0031】
【0032】
【0033】
抗ウイルス層は、下記条件1または条件2のいずれかを満たす。
・条件1:
抗ウイルス剤粒子がリン酸化合物を担体として含有し、前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cm-1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ia、前記抗ウイルス性フィルムの800~700cmー1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ibが、下記式(1)を満たす。
0.5≦Ia/Ib ・・(1)
【0034】
・条件2:
抗ウイルス剤粒子がゼオライトを担体として含有し、前記抗ウイルス性フィルムの1200~800cmー1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Ic、前記抗ウイルス性フィルムの1800~1400cmー1の波数範囲における赤外スペクトルのピーク強度Idが、下記式(2)を満たす。
0.02≦Ic/Id ・・(2)
【0035】
式(1)及び式(2)は、抗ウイルス層がプリズムに接触しているその表面近傍のみを検出した値である。また、抗ウイルス剤粒子は上記の各材料をそれぞれ担体として含有するが、その両方を含有しても良く、またそれ以外の材料を付加的に含有することもできる。
【0036】
例えば、抗ウイルス剤の添加量や塗布膜厚といった従来の方法で抗ウイルス性能を担保しようとした場合、抗ウイルス性フィルムの表面近傍に抗ウイルス剤が存在せず基材側に偏在したとしても、気付くことができない。
【0037】
しかし、式(1)または式(2)を満たす抗ウイルス性フィルムでは、表面近傍のみの抗ウイルス剤を検出するので、抗ウイルス性能を担保できる。
【0038】
式(1)または式(2)を満たす抗ウイルス性フィルムには、抗ウイルス剤の添加量や塗布膜厚が同じであっても、抗ウイルス剤が表面近傍のみに存在するか、基材側に偏在するかを判別することができる。
【0039】
抗ウイルス性の評価方法として、公知の手段を用いることができる。例えばISO21702に示される方法を用いる。抗ウイルス活性値は2.0以上であることが好ましい。
【実施例0040】
<実施例1~5及び比較例1>
抗ウイルス剤粒子としてリン酸亜鉛ガラス系の担体に銀系の抗ウイルス成分を担持させたものを用いた。抗ウイルス剤粒子を、塗液全体の固形分に対し3~20wt%の固形分比となるようにそれぞれ調液したものを実施例1~5の試料とし、抗ウイルス剤粒子を加えないものを比較例1の試料とし、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材にワイヤーバーを用いて厚さ約1μm前後となるように塗工した。抗ウイルス性フィルムのバインダ
ーにはメタクリル系樹脂を用い、これをイソシアネート系硬化剤で硬化させた。
【0041】
赤外分光測定には、日本分光(株)製の赤外分光分析装置「FT/IR-6800」を用いた。ATR測定には日本分光(株)純正の一回反射ATRアクセサリ、光学部材(プリズム)にはゲルマニウム(Ge)を使用した。
【0042】
リン酸亜鉛ガラス系における各成分の指標ピークは、Ia=抗ウイルス剤粒子…1050cm
ー1付近(
図2参照)、Ib=バインダー…750cm
ー1付近を選択した(
図3参照)。2000~700cm
-1でベースラインを引き、各々の強度を測る形とした。
【0043】
横軸に抗ウイルス剤濃度、縦軸にIa/Ibをプロットすると比例関係になった(
図4参照)。
【0044】
<比較例2>
実施例3の抗ウイルス性フィルムのバインダーにポリビニルアルコール(PVA)を用いた。バインダーがPVAのとき、バインダーの指標となるIb=750cm
ー1のピークが存在せず(
図5参照)、Ia/Ibが算出できなかった。
【0045】
<実施例6~9及び比較例3>
抗ウイルス剤粒子としてゼオライト系の担体に銀系の抗ウイルス成分を担持させたものを用いた。抗ウイルス剤粒子を、塗液全体の固形分に対し5~20wt%の固形分比となるようにそれぞれ調液したものを実施例6~9の試料とし、抗ウイルス剤粒子を加えないものを比較例3の試料として調液したものを、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材にワイヤーバーを用いて厚さ約1μm前後となるように塗工した。抗ウイルス性フィルムのバインダーにはメタクリル系樹脂を用い、これをイソシアネート系硬化剤で硬化させた。
【0046】
ゼオライト系における各成分の指標ピークは、Ic=抗ウイルス剤粒子…888cm
ー1付近(
図6参照)、Id=バインダー…1730cm
ー1付近を選択した。2000~700cm
-1でベースラインを引き、各々の強度を測る形とした。
【0047】
横軸に抗ウイルス剤濃度、縦軸にIc/Idをプロットすると比例関係になった(
図7参照)。
【0048】
ISO 21702「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」に定められた内容に準じた方法で抗ウイルス活性値の評価を実施した。
抗ウイルス活性値が2.0以上のものを抗ウイルス性〇、ブランクと同等なものを抗ウイルス性×とした。表2にまとめたものを示す。
【0049】
【0050】
以上の結果から、本発明により、膜厚を考慮することなく、良好な抗ウイルス性能を保持した抗ウイルス性フィルムを提供することができた。