(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032327
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】DNA増幅システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135924
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】504128518
【氏名又は名称】岸本 通雅
(72)【発明者】
【氏名】岸本 通雅
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB20
4B029DA10
4B029DB01
4B029DC04
4B029DD04
4B029DF01
4B029DG10
4B029GA02
4B029GB01
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】DNAを大量迅速に増幅できるシステムを提案する。
【解決手段】PCR法に基づいたDNA増幅反応をスケールアップし、mRNAワクチンやDNAワクチン等のバイオ医薬品生産システムなどで用いるDNA遺伝子を大量かつ速やかに取得するための、多数の管型反応器とそれらを包含するケーシングを備えたDNA増幅反応装置およびそれに所定の温度の熱媒を供給するシステムを備えたDNA増幅システムを提案する。さらにこのDNA増幅システムにおいては、必要に応じ管型反応器内部の反応液温度が正確に制御できるよう、反応液に往復振動や循環流を与えるためのポンプや配管が付設されており、DNA増幅反応に関わる酵素、プライマー、反応基質などを追加するための反応液調整槽も備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCR法に基づいたDNA増幅システムにおいて、熱伝達を促進するため管型の形状を持つ管型反応器と、熱媒体が充てんされる前記管型反応器の外部空間を包含するケーシングを有するDNA増幅反応装置と、前記管型反応器内の反応液に往復振動を与える機構と、管型反応器外部に熱媒体を供給する機構とを備えるDNA増幅システム。
【請求項2】
直径1mm~10cmを有する管型反応器を備える請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項3】
管型反応器外部に所定の温度を持つ熱媒体を供給するための機構として、温度別の熱媒体貯蔵タンク群と、前記管型反応器に熱媒体を供給するための配管、バルブ及びポンプを備える請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項4】
ケーシング内で管型反応器の外部空間に充てんされる熱媒体として、液体ないしは気体を有する請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項5】
管型反応器の内面が、DNAに相溶性で相互作用の少ない材質のプラスチックでコーディングされている請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項6】
反応液に往復振動や循環流を与えるための、反応液往復振動発生装置または反応液循環用ポンプを備えた請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項7】
反応液往復振動発生装置からの往復振動を、管型反応器内にある反応液に伝達するための、撥水性で反応液より高比重の液体を、前記管型反応器内の反応液下端から配置する請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項8】
管型反応器内の反応液を循環できるよう、反応液循環用ポンプの入口に枝分かれしてつながっている管型反応器と出口で枝分かれしてつながっている管型反応器が末端で連結されていることにより、反応液が循環できる請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項9】
管型反応管内の熱伝導を促進させるため、スタティックミキサーで反応液の乱流状態を促進する機構を管型反応器内に備えた請求項1に記載のDNA増幅システム。
【請求項10】
DNA増幅反応に関わる酵素、またはプライマー、または反応基質を追加するための原料追加調整システムを備えた請求項1に記載のDNA増幅システム
【請求項11】
反応液往復振動発生装置のピストンにかかるトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、コンピューターに入力する手段と、前記増幅反応への影響に関するデータ及び経験からピストンのストロークを制御するコンピューターシステムを備えた請求項6に記載のDNA増幅システム。
【請求項12】
前期反応液循環用ポンプのトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、コンピューターに入力する手段と、その入力データから前期反応液循環用ポンプの流速を制御するコンピューターシステムを備えた請求項6に記載のDNA増幅システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA増幅システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
mRNAワクチン等を生産するためには鋳型となるDNAを大量に取得する必要がある。DNA を効率よく増幅する方法としてはPCR法がよく知られている(非特許文献1) 。しかし従来のPCR法を実施する反応容器は小さく、反応液量は数10μL程度である。反応液量を少なくする理由は、温度変化に要する熱量を少なくし、迅速かつ正確に温度制御を行わせるためである。反応液の入った容器は熱伝導度の高いアルミブロックで覆われており、繰り返し行われる温度変化にも迅速に対応できるような構造になっている。もし、そのままの形でスケールアップすると伝熱速度が伝熱面積に比例することに対して、必要熱量は液量即ち体積に比例することから伝熱が関わる温度調節が困難となってくる。従ってPCR法に基づいて大量にDNAを取得するためには、伝熱がスムーズに行えるように装置を改変し、繰り返される温度変化を迅速・正確に行え、容易にスケールアップできる反応システムの構築が必要である。
【0003】
非特許文献2等によると、現在mRNAワクチン生産において鋳型となるDNAを大量に取得する方法は、プラスミドベクターを用いて、大腸菌など微生物の培養により行われているが、プラスミドベクターの選定や菌体内で得られた鋳型DNAを分離精製するためには、専門的技術と経験が必要でコストもかかる。従ってmRNAワクチンを製造しているファイザー社などでは鋳型DNA取得は外注に依存している(非特許文献2)。それに対し、PCR法をスケールアップして使用できれば、反応で生じる不純物は前述の微生物培養に比べ少なく、分離精製コストが軽減できるうえ、微生物を取り扱うための技術的困難も軽減できる。
【0004】
管型反応器をDNA増幅にもちいた例としては特許文献1,非特許文献3がある。しかしこれらの場合はマイクロリアクターで容量が非常に小さい。また反応液は管内を移動し、温度の異なるゾーンを通過することによってDNA熱変成、プライマーのアニーリング、DNAポリメラーゼによるDNAの伸張反応がそれぞれに適した温度で進行していく。また反応液は疎水性溶液からなるキャリアー媒体を介して細かく区切られており、チューブ軸方向の混合が起こらないように工夫されている。原料鋳型DNA、 プライマー、反応基質であるdNTP等は連続的に供給され、反応後反応液は連続的に排出される連続反応システムである。この場合、マイクロリアクターレベルの規模で分析などには向いているが大量生産には向かない。また軸方向のしきいに用いているキャリアー媒体の存在もスケールアップを不可能にしている。さらに特許文献1では各段階の反応時間の割合は装置の形状で定められるので、各段階の反応時間を自在に制御することは不可能である。
【0005】
さらに特許文献2では毛管反応室においてPCR反応を行わせている。この場合もただ反応液を反応室に入れたり、別の場所へ移動したりするためのポンプ等が記述されているのみである。従って特許文献2では、PCRの体積として約10μlないし1.5mlの範囲に制限されていることが想定されており、これらの体積を増大することは困難であると記述されている。
【0006】
DNA増幅反応装置として固定された核酸合成酵素を用いる方法として特許文献3がある。この場合連続反応システムで、数十回繰り返す反応ごとに固定化された核酸合成酵素にDNAや反応基質が接触する必要があり、装置をスケールアップすることは物質移動の面から容易ではないと推定される。
【0007】
管型反応器タイプのバイオリアクターとしては非特許文献4、5等で紹介されており、最近では特許文献1に記載されている。これらのタイプのバイオリアクターはいずれも連続反応操作で用いられるが、急激な温度変化を与えることは想定されていない。たとえ管外の温度変化がスムーズに行えたとしても、前述の非特許文献3にあるようなキャリアー媒体を用いていないので、半径方向に滞留時間分布が生じ、温度の異なるゾーンを反応液が通過した場合、温度変化が半径方向で異なり、反応進行度合いに不均一性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-74018号公報
【特許文献2】特開2005-296017号公報
【特許文献3】国際公開番号 WO2005/005594号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】佐々木博己、青柳一彦、川村和義 PCR実験プロトコール、羊土社、2011, p10-32, 2011年1月1日
【非特許文献2】L. Lrene, H. Sarabeth, S. Alison, ‘Manufacturing Strategy for the Production of 200 Million Sterile Doses of an MRNA Vaccine for COVID-19’ (2021), Senior Design Reports(CBE).132,2020年4月20日
【非特許文献3】R. Hartung, A. Brosing, G. Sczcepenkie-wicz, et al., Biomed. Microdevices 2009, Vol. 11, p685-692, published on line: 24 January 2009, Springer Science + Business Media
【非特許文献4】山根恒夫、中野秀雄、加藤雅士、岩崎雄吾、河原崎泰昌、志水元亨著、新版生物反応工学、産業図書、2016, p132~133, 2016年9月1日
【非特許文献5】小林猛、田谷正仁編、生物化学工学バイオプロセスの基礎と応用 第2版、東京化学同人、2019, p42, 2019年12月3日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
mRNA ワクチンや遺伝子に関係する医薬の開発が盛んとなり、急速に実用化されつつある。特にDNAを大量に増幅する技術はmRNAワクチンの鋳型DNA生産等で重要な役割を担っている。かかる状況を鑑みて、DNAを大量迅速に取得するDNA増幅システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明によるDNA増幅システムは、下記の特徴を有する。
【0012】
本発明はPCR法に基づいたDNA増幅システムにおいて、熱伝達を促進するため管型の形状を持つ管型反応器と、熱媒体が充てんされる前記管型反応器の外部空間を包含するケーシングを有するDNA増幅反応装置と、前記管型反応器内の反応液に往復振動を与える機構と、管型反応器外部に熱媒体を供給する機構とを備える。
【0013】
DNA増幅システムは直径1mm~10cmを有する管型反応器を備える。
【0014】
DNA増幅システムは、管型反応器外部に所定の温度を持つ熱媒体を供給するための機構として、温度別の熱媒体貯蔵タンク群と、前記管型反応器に熱媒体を供給するための配管、バルブ及びポンプを備える。
【0015】
DNA増幅システムは、ケーシング内で管型反応器の外部空間に充てんされる熱媒体として、液体ないしは気体を有する。
【0016】
管型反応器は、直感ないしはらせん状の形状を有する。
【0017】
管型反応器の内面は、DNAに相溶性で相互作用の少ない材質のプラスチックでコーディングされることが望ましい。
【0018】
DNA増幅システムは、反応液に往復振動や循環流を与えるための、反応液往復振動発生装置または反応液循環用ポンプを備えている。
【0019】
前記反応液往復振動発生装置からの往復振動を、管型反応器内にある反応液に伝達するための、撥水性で反応液より高比重の液体を、前記管型反応器内の反応液下端から必要に応じて配置する。
【0020】
DNA増幅システムで管型反応器内の反応液を循環できるタイプでは、反応液循環用ポンプの入口に枝分かれしてつながっている管型反応器と出口で枝分かれしてつながっている管型反応器が末端で連結されている
【0021】
DNA増幅システムでは管型反応管内の熱伝導を促進させるため、スタティックミキサー等で反応液の乱流状態を促進する機構を管型反応器内に備える場合もある。
【0022】
DNA増幅システムは必要に応じてDNA増幅反応に関わる酵素、またはプライマー、または反応基質を追加するための原料追加調整システムを備えている。
【0023】
DNA増幅システムは必要に応じて反応液往復振動発生装置のピストンにかかるトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、コンピューターに入力する手段と、前記増幅反応への影響に関するデータ及び経験からピストンのストロークを制御するコンピューターシステムを備えている。
【0024】
DNA増幅システムは前期反応液循環用ポンプのトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、コンピューターに入力する手段と、その入力データから前期反応液循環用ポンプの流速を制御するコンピューターシステムを必要に応じて備えられる。
【0025】
DNA増幅システムにおいて、
基礎実験からえられた各反応に要する時間と各種操作条件の関係を入力する手段と、反応原料液の供給、反応終了後の反応液の排出操作、及び各種反応に適した温度を保持するための熱媒体切り替え操作、請求項11に記載の酵素、プライマー、反応基質追加操作、並びに反応液排出後の洗浄及び殺菌操作に関するバルブ操作等を自動的に行うためのコンピューター制御システムを備えられる。
【0026】
管型反応器、ないしは管型反応器に原料追加調整システムまで含めた構造物が容易に着脱できるか、またはディスポーザブルな態様をなすものとして備えられた請求項1に記載のDNA増幅システム。
【発明の効果】
【0027】
本発明のmRNAワクチン製造方法は、現在のワクチン生産で行われている、プラスミドをもちいた微生物培養に比べて、取り除くべき不純物の種類・量ともに少なく、培養条件やプラスミドの選別など専門的技術の必要性も低減され、コストが大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】管型反応器における体積(液量)と伝熱面積の関係を示した図である。
【
図2】PCR法で用いられている温度プロファイルを示した図を左に示し、右にPCR法のフローチャートを示す。
【
図3】熱媒体として液体(例えば温水)を用いたときのDNA増幅システムの概略図である。 (実施例1)
【
図4】熱媒体として気体(例えば空気)を用いたときのDNA増幅システムの概略図である。 (実施例2)
【
図5】
図5は
図3の破線で囲んだ部分に相当し、流動伝達用流体を配した場合の説明図である。
【
図6】
図6は、反応液をDNA増幅反応装置内で循環させて反応液の熱伝達を促進する場合の概念図である。 (実施例3)
【
図7】
図7は簡単に着脱可能なあるいはディスポーザブルな管型反応器及びその付属品の例を示したものである。 (実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施例におけるDNA増幅システムは、下記1)~10)の構成を備える。以下ケーシング及び管型反応器等からなる部分は装置として一体化しており、DNA増幅反応装置と呼ぶ。
1)多数の管型反応器及びケーシング等からなるDNA 増幅反応装置を備え、管型反応器の内径はDNA増幅システムの規模によるが、1mmから10cmの範囲内とする。
2)、DNA熱変成温度、プライマーのアニーリング温度、DNAポリメラーゼによるDNAの伸張反応温度に調整された熱媒体の貯蔵装置は、DNA増幅反応装置と連結され、ケーシング内の温度を制御するために用いられる。
3)DNA増幅反応装置のケーシング内で管型反応器の外側に熱媒体を円滑に供給するための配管とポンプを備える。
4)熱媒体がDNA増幅反応装置に入る手前で、管型反応器内の温度を迅速に設定温度の変化に追随させるため、必要に応じて熱媒体を加熱ないしは冷却させる装置を備える。
5)反応液を反応期間中管型反応器内で流動ないしは振動させるためのポンプを備え、そのポンプからの動きを反応液に伝えるため、撥水性を有し水より比重の高い液体。例えばシリコーンなどが用いられる。以下この液体を移動伝播用流体と称する。
6)反応液及び移動伝播用流体を反応前スムーズに供給し、反応後は所定の位置へ排出させるポンプ並びに配管システムを備える。
7)DNA増幅反応に関わる酵素、プライマー、反応基質などを追加するための原料追加調整システムを備える。
8)管型反応器内及びそれに接続された配管内・槽内圧力を調節するための無菌空気の供給、DNA増幅反応終了後管型反応器及びそれに接続された配管内・槽内を洗浄し、殺菌処理を施すための蒸気及び洗浄水供給システムを備える。
9)容易に着脱できる管型反応器、ないしは管型反応器と原料追加調整システムを一体化したもの。それらはディスポーザブルな態様をなしていてもよい。
【0030】
多数の細管状の管型反応器を備えたDNA増幅反応装置は伝熱速度が大きく、容易に温度変更が可能である。
図1は管型反応器における体積(液量)と伝熱面積との関係を示したものであるが、管の内壁外壁の流動状態が同じで総括伝熱係数Uが一定であると仮定すると、管の外部から内部の反応液に伝わる伝熱速度は伝熱面積Aに比例し、液の温度変化に要する熱量は反応液量に比例するのである。図により伝熱速度Qと下式で示される。
【0031】
【0032】
上記の数式において、D、L、Tout、Tinは管の直径及び長さ、管の外部温度及び管の内部温度を示す。従って温度上昇速度ΔTと管の直径Dとの関係が以下の式のように導かれる。
【0033】
【0034】
上記の式においてC,Cpは管内部の反応液の熱容量、反応液の比熱を示す。この関係式から管の内径が大きくなると外部温度を調整しても、管型反応器内部の温度は追随しづらくなることが分かる。
図2で示したPCR法においては、DNAの増幅反応を円滑に行わせるためにはDNA熱変成段階、プライマーのアニーリング段階、DNAポリメラーゼによるDNA伸張反応段階、それぞれの段階への移行時に急激な温度変化が必要である。そのため前述のように細管構造にして、反応液量当たりの伝熱面積を上げる必要があるが、其れとともに管型反応器外にある熱媒温度が急速に変化し、反応段階の変化に対応する必要がある。しかしその都度ヒーター等で熱媒温度を上げていたのではこのような温度変化を成し遂げることは不可能である。したがって
図3のDNA増幅システムに示すごとく、予めないしは常時、DNA熱変成温度、プライマーのアニーリング温度、DNAポリメラーゼによるDNA伸張反応温度それぞれに保った熱媒体流体をタンクに貯蔵しておき、反応を切り替える時点で素早く異なった温度の熱媒体に取り替えることにより、その操作を遂行するのである。なお上述の熱媒体流体貯蔵用タンクの容量はDNA増幅反応装置の容量よりはかなり大きめであることが望ましく、DNA増幅装置と熱媒体流体貯蔵用タンクの間を熱媒体が移動しても、貯蔵タンク内の熱媒体温度変化は小さく抑制されることが望ましい。
【0035】
水の熱伝導度は管の材質たとえばステンレスなどに比べ二桁ほど低い。このことは反応液がたとえ細管の中にあっても、水が動かなければ細管の径が大きくなるにつれ著しく中心部へ熱が伝わりにくくなることを示している。従って細管内の反応液は所定期間、ないしは連続的に流動状態が維持される必要がある。そのため
図5に示すごとく流動状態を維持するための反応液往復振動発生装置(例えばピストンポンプ)を配備し、管型反応器内の液が往復運動させられるようになっている。反応液往復振動発生装置がDNA増幅反応装置外部にある場合、管型反応器から反応液往復振動発生装置までの配管内の温度コントロールが難しい。従ってその空間でDNA増幅反応がおこると増幅反応進行度合いの異なる生成物ができてしまうと予想される。そのため
図5に示すごとく、反応液との下の部分から反応液往復振動発生装置までの配管内の空間に撥水性を有し水より比重の高い液体、例えばシリコーンなどの移動伝播用流体42を配置することとした。
【0036】
反応液往復振動発生装置で往復振動をかける以外に、
図6に示すごとく反応液をDNA増幅反応装置内で循環させて反応液の熱伝達を促進する方法も提案する。即ちこの場合は循環ポンプの少なくとも反応液が接する部分はDNA増幅反応装置のケーシング内にあり、ケーシング外部からの熱伝達による影響は極力少なくすることが望ましい。さらにより熱伝達を促進するため管路内にスタティックミキサー等を付設することもある。
【0037】
DNA増幅反応が進行してくると、反応液内部の鋳型DNA濃度が上がってきて往復振動や循環流などの反応液の流動状態の影響、即ちDNAの損傷や管内の閉塞などの弊害が生じる可能性がある。それらの影響を阻止するため、その時点でのポンプにかかるトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、そのデータからポンプを調節するコンピューターシステムを備えることが望まれる。
【0038】
伝熱速度を高め、反応速度を高く維持する前述のような操作をおこなっても、反応時間が長くなり、DNA増幅装置内にある反応液中のDNAポリメラーゼの活性が低下したり、プライマー、反応基質濃度が著しく低下したりする場合も想定される。それに対処するため反応操作を中断し、反応液を別に設けた反応液調整槽に反応液を移送し、DNAポリメラーゼ、プライマー、反応基質濃度等を反応液に追加し、適度に攪拌混合した後、速やかにDNA増幅装置内に返送する原料追加調整システムを備える場合もある。
【0039】
管型反応器の内径が小さく、DNA増幅反応装置が小規模な場合、または管型反応器内部の洗浄、殺菌が難しい場合、管型反応器の部分のみ簡単に取り外して別途洗浄、オートクレーブによる殺菌処理ができるようにする場合もある。簡単に取りはずされる部分として反応液調整槽まで含まれていてもよく、またそれらはディスポーザブルな構造物として供給されていてもよい。
【0040】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0041】
図3には反応器内部の温度調節に使われる熱媒として液体(例えば温水)を用いたときのDNA増福システムの例が示されている。温度変化は迅速に行わなければならないから、DNA増幅反応装置1のケーシング12内において管型反応器11の外部にある温水の温度をその都度ヒーターなどで変化させるのでは遅すぎる。従って予めタンク2、3、4を配して、それぞれ各反応段階に適した温度、即ちDNA変性に適した温度、プライマーのアニーリングに適した温度、伸張反応に適した温度に調整した温水をタンク2、3、4に充てんし、反応段階が次のステップに変わるとき、管型反応器11に接する外部空間の温水を次の段階の温度の温水に交換する。その際、次の段階がDNA変成ならタンク2の液体が管型反応器11外部空間の熱媒用温水と置き換わるためバルブ22が開かれ、温水供給用ポンプ10が起動する。さらに次の段階がプライマーのアニーリングならバルブ23が開かれ、ポンプ10が起動するわけである。次の段階が伸張反応の時も同様の操作が行われるのである。なおタンク2、3、4には各反応段階に適した温度、即ちDNA変性に適した温度、プライマーのアニーリングに適した温度、伸張反応に適した温度に保たれるよう、ヒーター、冷却装置、攪拌装置等が設置されている。DNA増幅反応装置にも必要に応じて温度制御用の装置が設置されている。なおポンプ10は温水の置き換わる時間帯は少なくとも作動しているが、常に作動させる場合もあり、前述のバルブ22、23、24の開閉と連携して必要な時間帯に適切な温水が管形反応器外部にあるように操作される。さらに管型反応器内部の温度が設定温度の変化に迅速に追随できるように、必要に応じ温水がDNA増幅反応装置に入る手前に備えられた予備加熱&冷却装置13で温水の温度調節を行う。
【0042】
ところで水の熱伝導率は0.582 [w/m・k]と鉄83.5[w/m・k]と比べてもかなり低い。従って管型反応器内部で反応液41が静止していると、たとえ管型反応器の直径がかなり小さくても伝熱速度が低く、反応に適した温度に迅速に達することが困難となる。そのためある管型反応管内の反応液41を対流させ、液の移動で対流伝熱をおこす必要がある。そのため
図5に示したように、必要に応じ反応液往復振動発生装置43を管型反応器下部につながっている幹管に接続し、反応溶液下端から下の管内部に高分子シリコンオイルのような撥水性、高比重の液体(流動伝達用流体)42を配して、ピストンの動きを反応溶液に加えて、反応溶液に適当な対流を付与できるシステムを配備する。さらにDNA増幅反応中、管型反応器11内の圧力を調節するため、無菌空気がバルブ25を通じて管型反応器に出入りできるようになっている。
【0043】
図5は
図3の破線で囲んだ部分に相当し、流動伝達用流体を配した場合の詳細図である。流動伝達用流体42を配した理由は、ポンプ周辺でDNA増幅反応装置外部に露出した配管内では、そこにある反応液41の温度コントロールが難しいため、良好なDNA複製が得られない状況となると想定され、そのためその部分では反応液の代わりに反応液と混じり合わない溶液(流動伝達用流体42)を配置するのである。従って、その部分の空間が非常に小さい場合や、ピストン運動によって反応液と流動伝達用流体が混じり合う弊害が生じる場合には、流動伝達用流体は使う必要はない。なおこの図では省略されているが、流動伝達用流体を反応開始前に供給し、反応終了後排出する配管並びにポンプ類も適宜配置されており、反応開始前及び反応終了後それらの操作も必要に応じてなされる。
【0044】
DNA増幅反応を繰り返すうちに、酵素活性が低下したり、反応基質が枯渇したりする場合には、増幅反応に関わる操作を一時中断し、バルブ28を開け、管型反応器内にある反応液を原料追加調整システム5内の反応液調整槽6に送り出し、DNAポリメラーゼ、プライマー、反応基質等の補充を行う。即ち、バルブ32を開けることにより反応液調整槽6に所定量のDNAポリメラーゼ、プライマー、反応基質が投入され、反応液調整槽で攪拌混合された後、反応混合液は管型反応器に返送される。
【0045】
DNA増幅反応の準備操作として、図中のバルブ20および無菌空気出入り用バルブ25を開け、バルブ21を閉めることにより、増幅される基となる鋳型DNA、プライマー、反応基質である4種類の塩基を持つdNTP とDNA ポリメラーゼ等DNA増幅反応に必要な原料反応液を管型反応器内に挿入する。次に破線で示した管18から流動伝達用流体を加えるのである。
【0046】
さらにDNA増幅反応後の終了操作として、まず
図5で示した流動伝達用流体42を排出し、その後バルブ21を開けることにより、反応液を排出させる。反応液排出後、管型反応器11や反応液調整槽6及び関連配管システムの洗浄および上記殺菌を行う。また原料追加調整システム5においても、反応液調整槽内圧力を調節する必要があり、無菌空気がバルブ29を通じて反応液調整槽に出入りできるようになっている。またDNA増幅反応終了後管型反応器及びそれに接続された配管・反応液調整槽内を洗浄し、殺菌処理を施すための蒸気及び洗浄水もバルブ26、27、30、31を通じて供給される。
【0047】
DNA増幅反応が進行してくると、反応液内部の鋳型DNA濃度が上がってきて往復振動など反応液の流動状態による影響、即ちDNAの損傷や管内閉塞などの弊害が生じる可能性がある。それらの影響を軽減するため、その時点での反応液往復振動発生装置にかかるトルクやDNA増幅反応の繰り返し回数をモニターし、そのデータから反応液往復振動発生装置のストロークを調節できるコンピューターシステムが備えられる。
【0048】
基礎実験からえられた各反応に要する時間と各種操作条件、例えば温度等の関係を入力する手段を有し,最適な各反応段階の反応時間を推定し,各ケーシング内に所定の温度を有する熱媒を最適な時間に供給するためのバルブ22、23、24の開閉操作とポンプ10の運転操作はコンピューター制御システムで自動的に行われる。さらに反応開始前の反応原料液の供給、反応終了後の反応液の排出操作、及び各種反応に適した温度を保持するための熱媒体タンク2,3,4内の温度制御を自動的に行うため、コンピューター制御システムが備えられている。
タンク18、19、20には所定の温度に保たれるよう、ヒーターや冷却装置が設置されている。反応器1にも温度制御用の装置が設置されている。さらに管型反応器内部の温度が設定温度の変化に迅速に追随できるように、必要に応じ熱媒がDNA増幅反応装置に入る手前に備えられた予備加熱&冷却装置63で温水の温度調節を行う。またDNA増幅反応装置の温風の入れ換え操作で、排出される温風は圧力調整用バルブ83を通して排出される。