(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032344
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】発光材料および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/65 20060101AFI20240305BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240305BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20240305BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C09K11/65
C09K11/08 B
C01B32/15
A01G7/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135951
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【テーマコード(参考)】
2B022
4G146
4H001
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022DA01
4G146AA07
4G146AA15
4G146AB04
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AD40
4G146BA11
4G146BC02
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC37B
4G146CB12
4G146CB19
4G146CB22
4G146CB35
4H001CF02
4H001XA06
4H001XA08
(57)【要約】
【課題】
簡便、安価、安全にカーボン量子ドットを提供する。
【解決手段】
XPS元素分析により得られるC/Oが2~5の発光材料であって、かつ、XRD分析において6~10°、19~21°、26~27°のいずれかの範囲に少なくとも1つ以上のピークを有し、かつ、該発光材料の水溶液または水分散液の波長350nmの波長の光で励起したときの発光スペクトルのピークが、450~550nmの範囲にあることを特徴とする発光材料。フロログルシノールの脱水縮合反応により得られる発光材料の製造方法であって、該反応に溶媒を使用しないことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
XPS元素分析により得られるC/Oが2~5の発光材料であって、
かつ、XRD分析において6~10°、19~21°、26~27°のいずれかの範囲に少なくとも1つ以上のピークを有し、
かつ、該発光材料の水溶液または水分散液を、波長350nmの光で励起したときの発光スペクトルのピークが、450~550nmの範囲にあることを特徴とする発光材料。
【請求項2】
請求項1に記載の発光材料を含むことを特徴とする発光材料溶液、または分散液。
【請求項3】
溶媒、または分散媒が水であることを特徴とする請求項2に記載の発光材料溶液、または分散液。
【請求項4】
請求項1に記載の発光材料を含むことを特徴とする発光材料組成物。
【請求項5】
樹脂を含むことを特徴とする請求項4に記載の発光材料組成物。
【請求項6】
フロログルシノールの脱水縮合反応による発光材料の製造方法であって、
該反応に溶媒を用いないことを特徴とする発光材料の製造方法。
【請求項7】
前記脱水縮合反応に触媒を使用しないことを特徴とする請求項6に記載の発光材料の製造方法。
【請求項8】
反応温度が200℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の発光材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の発光材料を用いることを特徴とする植物の光合成を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料および、その製造方法に関する。より詳しくは水に可溶であり、フォトルミネッセンス特性を有するカーボン量子ドットおよび、その製造方法であって、フロログルシノールを原料とし、溶媒を用いないことを特徴とする製造方法および、カーボン量子ドットの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン量子ドット(グラフェン量子ドット、ポリマー量子ドットなどの炭素骨格を有する量子ドット、ナノドットの総称)は発光特性(蛍光及び燐光)を有するナノ炭素材料であり、発光ダイオード、センサ、生体マーカーなどの幅広い分野での利用が期待されており、種々の原料や方法で合成されている。その主な合成方法としては有機化合物を炭素化させるボトムアップ型、ポリマーやバイオマスから微細化するトップダウン型の合成法が挙げられる(非特許文献1~4)。さらに近年、カーボン量子ドットを利用した植物の光合成促進用途が検討されている(非特許文献5)。
【0003】
フロログルシノールはカーボン量子ドットの原料として種々検討されている(非特許文献6~8、特許文献1)。フロログルシノールは、その反応性の高さを活かしてソルボサーマル法、水熱合成法、大気開放型の反応など種々の合成方法が使用されている。また、触媒(特に酸触媒)を利用することで、より発光波長の長いカーボン量子ドットも開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-195434
【特許文献2】特開2019-085297
【特許文献3】特開2019-085298
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Wang,A.Hu,J.Mater.Chem.C,2014,2,6921~6939
【非特許文献2】S.Y.Lim,W.Shen,Z.Gao,Chem.Soc.Rev.,2015,44,362~381
【非特許文献3】S.Iravani,R.S.Varma,Environ.Chem.Lett.,2020,18,703~727
【非特許文献4】T.J.Pillar,N.Wanninayake,L.Nease,D.K.Heidary,E.C.Glazer,D.Y.Kim,Carbon,2018,140,616~623
【非特許文献5】T.L.Tan,N.A.Zulkifli,A.S.K.Zaman,M.Jusoh,M.N.Yaapar,S.A.Rashid,PlantPhysiol.Biochem.,2021,162,737~751
【非特許文献6】F.Yuan,T.Yuan,L.Sui,Z.Wang,Z.Xi,Y.Li,X.Li,L.Fan,Z.Tan,A.Chen,M.Jin,S.Yang,Nat.Commun.,2018,9,2249
【非特許文献7】M.Moniruzzaman,B.A.Lakshmi,S.Kim,J.Kim,Nanoscale,2020,12,11947~11959
【非特許文献8】T.Yoshinaga,M.Shinoda,Y.Iso,T.Isobe,A.Ogura,K.Takao,ACS Omega,2021,6,1741~1750
【非特許文献9】K.T.Vijesh,T.Thomas,M.Vaishakh,V.P.N.Nampoori,S.Thomas,Optik,2021,248,168049
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、カーボン量子ドットの合成原料として、フロログルシノールが好ましい。しかしながらこれまでの合成法は溶媒が必須であり、また精製工程も複雑であることから、プロセスが複雑で、かつ高コストなカーボン量子ドットしか得ることができず、工業的利用を妨げていた。特に有機溶剤の使用は高コストにつながるだけでなく、人や環境への影響から使用量を減らす必要があった。また、有機溶剤ではなく、水を溶媒に使用したれもあったが(非特許文献9)、合成はマイクロ波を用いた反応が必要であり、依然高コストであった。また、フロログルシノールを原料に、炭素材料を得ることが開示されているが、カーボン量子ドットの言及はなく、良好な発光特性を示すカーボン量子ドットを得るための最適条件の開示もなかった(特許文献2、3)。
【0007】
本発明は上記状況に鑑み、カーボン量子ドットを簡便、安価、安全に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち、具体的にはXPS元素分析により得られるC/Oが2~5の発光材料であって、XRD分析において6~10°、19~21°、26~27°の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有し、かつ、該発光性材料を水溶液もしくは、水分散液とし、350nmの波長の光で励起したときの発光スペクトルのピークが450~550nmあることを特徴とする発光材料であり、その製造方法はフロログルシノールを原料に用いる発光材料の製造方法であって、溶媒を反応に用いないことを特徴とする発光材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカーボン量子ドットおよび、その製造方法を用いることで、簡便、安価、安全にカーボン量子ドットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1~5で得られたカーボン量子ドットのXRDパターンである。
【
図2】実施例1~5で得られたカーボン量子ドット水溶液・水分散液の励起波長350nmでの発光スペクトルである。
【
図3】実施例2で得られたカーボン量子ドット水溶液の励起波長350nmでの発光スペクトルと発光波長485nmでの励起スペクトルである。
【
図4】実施例1~5で得られたカーボン量子ドットの
13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
[カーボン量子ドット]
本発明のカーボン量子ドットは発光特性、特にフォトルミネッセンス特性を有するカーボン量子ドットである。また本発明で述べる発光材料は、断りがない場合はカーボン量子ドットを意味する。
【0013】
本発明のカーボン量子ドットはXPS元素分析により得られるC/Oが2~5であることが望ましい。この範囲に入ることで溶解性、分散性が向上する。溶解性、分散性の観点からは上記値が、2.1~4であることがより好ましく、2.2~3.5であることがさり好ましく、2.3~3.2であることが特に好ましく、2.6~3であることが最も好ましい。
【0014】
本発明のカーボン量子ドットはXRD分析において6~10°、19~21°、26~27°のいずれかの範囲に少なくとも1つ以上のピークを有することが望ましい。この範囲に1つ以上ピークを有することで。発光特性と溶解性・分散性を両立する。より好ましくは6~10°、19~21°、26~27°の3つの範囲それぞれに少なくとも1つ以上のピーク(すなわち上記範囲に3つ以上のピーク)を有することが望ましい。
【0015】
本発明のカーボン量子ドットは水溶液もしくは、水分散液とし、350nmの波長の光で励起したときの発光スペクトルのピークが450-550nmであることが好ましい。これにより青色、緑色の可視光を含んだ発光が利用できる。発光色の観点から、上記発光スペクトルのピークが460~530nmであることが好ましく、470~510nmであることがさらに好ましく、480~490nmであることが最も好ましい。
【0016】
本発明のカーボン量子ドットは水溶液もしくは、水分散液とし、485nmの波長の光での励起スペクトルのピークが300~400nmであることが好ましい。これにより紫外光を効率よく可視光に変換できる。上記励起スペクトルのピークが320~380nmであることが好ましく、330~370nmであることがさらに好ましく、340~360nmであることが最も好ましい。
【0017】
本発明のカーボン量子ドットは、重水素化したN,Nジメチルホルムアミドを溶媒とした13C-NMR分析において、100~105ppm、110~115ppm、135~145ppm、155~162ppmの4範囲にそれぞれに少なくとも1つ以上のピークを有することが望ましい。これにより発光特性と溶解性・分散性を両立する。
【0018】
本発明のカーボン量子ドットは、金属成分含有率を5%以下にすることが好ましい。金属成分を上記のような範囲にすることで、環境へ撒くような用途であっても負荷が小さい。該含有率は好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、最も好ましくは0.5%以下である。該金属成分としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ、アルカリ土類金属、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅のような遷移金属が含まれる。
【0019】
[カーボン量子ドットの製造方法]
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、フロログルシノールを原料に含み、溶媒を反応に用いないことが好ましい。これにより低コスト、高い安全性につながる。溶媒としては、水やアルコールなどの常温(25℃)で液体であるものが挙げられるが、常温で固体であっても後述する反応温度で融解するものが挙げられる。これら溶媒を用いないことが好ましい。この中でも常温(25℃)で液体であるものを用いないことがより好ましい。本願で言う溶媒は、フロログルシノールと意図して反応させないものである。フロログルシノールと意図して反応させないものとは、反応後に、反応に使用した物質が、反応前と比較して50%以上反応せずに残存するものを言う。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上残存するものを言う。反応系外に揮発したものは反応していない成分であるので残存として扱う。
【0020】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、反応に触媒を用いないことが好ましい。これにより低コスト、高い安全性につながる。特に酸、塩基触媒を用いないことが好ましい。酸触媒としては硫酸、塩酸、硝酸などが挙げられ、塩基触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。ここでいう触媒はフロログルシノールと意図して反応させないものであり、フロログルシノールの反応を促進するものである。触媒には溶媒として振る舞うものもあるが、その場合は上述の溶媒と同様に扱う。
【0021】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、反応温度が200℃以上300℃以下であることが好ましい。これにより発光特性と溶解性・分散性を両立する。反応温度が210℃以上280℃以下であることがより好ましく、215℃以上250℃以下であることがより好ましく、220℃以上240℃以下であることが最も好ましい。
【0022】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれの条件下でも反応を行うことができるが、低コストの観点から常圧下で行うことが好ましい。その際の雰囲気も大気、不活性雰囲気(窒素、アルゴン雰囲気など)のいずれで行うことも好ましい。低コストの観点から大気雰囲気であることが好ましい。
【0023】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、フロログルシノールを原料に含み、本発明のカーボン量子ドットを得る反応工程のあとに精製工程を経ないことが好ましい。これにより低コスト、高い安全性につながる。精製とはカラムクロマトグラフィー、ろ過、遠心分離、透析などが挙げられる。
【0024】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、原料であるフロログルシノールの他に、フロログルシノールと反応するものを添加することも好ましい。これにより、カーボン量子ドットの溶解性・分散性を調整することができる。具体的な添加化合物としては、フロログルシノールと同様にカーボン量子ドットの骨格となる、例えば置換基を有していてもよい1価および多価ヒドロキシベンゼンであるフェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ヘキサヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。これらも上記同様に常温(25℃)で液体でないことが好ましい。ここでいう添加化合物は、フロログルシノールと意図して反応するものである。
【0025】
本発明のカーボン量子ドットの製造方法は、カーボン量子ドットとして合成したのちに、修飾反応を行うことができる。修飾反応に用いる修飾化合物としては有機ハロゲン化合物、アルコール、有機酸、酸無水物を反応させてカーボン量子ドットを修飾することも好ましい。これによりカーボン量子ドットの溶解性・分散性を調整することや、カーボン量子ドット骨格構造同士が接触し、消光を起こさないことで発光効率を向上させることができる。修飾化合物は上記の通りだが、詳しくはカーボン量子ドットと反応する置換基が、ハロゲン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、酸無水物などが好ましく、修飾されたあとに残る置換基としてアルキル基や、ポリオキシエチレンや、ポリオキシプロピレンなどのオキシアルキレン基が好ましい。すなわち修飾化合物はこれら反応する置換基と修飾されたあとに残る置換基を共に有する化合物が好ましい。
【0026】
[カーボン量子ドット溶液および分散液]
本発明のカーボン量子ドットは溶液または分散液の状態であることが好ましい。これら状態であれば、発光材料として好適に使用できる。
本発明のカーボン量子ドットは溶液または分散液の溶媒・分散媒は特に限定されないが、水、メタノール、エタノールプロパノールなどの低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミドが好ましい。上記溶媒・分散媒2種以上の組み合わせでもよい。この中でも水、低級アルコール、ケトン、アミドが好ましく、水が最も好ましい。
【0027】
本発明での「溶解」は、該カーボン量子ドットが0.001質量%となるように溶媒に混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液にカーボン量子ドットが含まれることを言う。また、本発明での「分散」は上記濾紙を通過しないがカーボン量子ドットが溶媒に懸濁した状態を言う。
【0028】
[カーボン量子ドット組成物]
本発明のカーボン量子ドットは他の材料と組み合わせた組成物であることも好ましい。
これら状態であれば、発光材料として好適に使用できる。
本発明のカーボン量子ドット組成物は樹脂を含むことが好ましい。これにより取り扱い性に優れ、板状、繊維状、フィルム状など、様々な形態での使用が容易となる。樹脂としては特に限定されないが、水溶性、有機溶媒可溶性樹脂が好ましい。または水溶性、有機溶媒可溶なモノマーと本発明のカーボン量子ドットを含んだ状態で重合しうる樹脂が好ましい。すなわち、樹脂としては、樹脂前駆体(モノマー)も好ましい。樹脂および樹脂前駆体としては、親水性(水系)樹脂および樹脂前駆体であっても親油性(有機系)樹脂および樹脂前駆体であってもよく、従来公知の熱可塑性樹脂および樹脂の前駆体、熱硬化性樹脂および樹脂の前駆体、光硬化性樹脂および樹脂の前駆体等を適宜使用できる。
【0029】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-オレフィン共重合体(エチレン-プロピレン共重合体等)、ポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン-アクリロニトリル-スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン-スチレン樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル樹脂;脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド等のアミド樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等のその他のビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;PPE樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂)、変性PPE樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド等のフェニレン基含有樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリル等のポリエーテル樹脂;ポリカーボネート;シリコーン樹脂;ポリスルホン樹脂;液晶ポリマー;これら樹脂を得るために用いられるモノマーを適宜組み合わせて得られる共重合体等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。上記光硬化性樹脂としては、例えばウレタン(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ(メタ)アクリル系樹脂等の光硬化性(メタ)アクリル系樹脂;ポリビニルアセテート樹脂等のポリビニルカーボネート樹脂等が挙げられる。上記樹脂前駆体としては、上述した樹脂(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂)を得るために用いられるモノマーを使用でき、中でも、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(ビニルモノマー)、エポキシ化合物(エポキシモノマー)が好ましい。上記エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、単官能であってもよく、多官能であってもよく、例えば(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリル系モノマー:スチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルエーテル、ブタジエン、ビニルピロリドン等のその他のビニルモノマー等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。また上記エポキシ化合物としては、例えば脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0030】
[カーボン量子ドット濃度]
上記カーボン量子ドット溶液、分散液、組成物、樹脂組成物中のカーボン量子ドットの濃度は発光の観点から10質量ppm~5質量%の範囲が好ましい。この範囲であれば良好な発光特性が達成できる。発光特性の観点からは、50質量ppm~1質量%がより好ましく、100質量ppm~0.5質量%が最も好ましい。
【0031】
[カーボン量子ドットを用いた光合成の促進方法]
本発明のカーボン量子ドットは光合成の促進に使用できる。例えば上記カーボン量子ドット溶液、分散液および組成物を植物に接触させることが好ましい。具体的にはカーボン量子ドット溶液、分散液および組成物に植物自体や、植物の根を浸すことや、植物が植わっている土などの培地に撒いたり、散布したりすることができる。これにより、植物表面および近傍に存在させたり、植物に吸収させ、植物内部に存在させたりすることが可能となる。他の方法としては、カーボン量子ドット樹脂組成物をフィルム状にしたもので植物を覆う(ビニールハウスのように使用する)ことができる。上記のような方法であれば、本発明のカーボン量子ドットを用いることにより、植物が光合成に利用できない波長(紫外光)を光合成に利用できる波長(可視光)に変換することが可能であるので、光合成の促進につながる。
【実施例0032】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0033】
[X線光電子分光(XPS)測定]
XPS分析は以下の装置、条件により行い、O/Cを算出した。
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
【0034】
[発光・励起スペクトル測定]
発光・励起スペクトル測定は以下の装置、条件により行った。
日立ハイテクサイエンス社製 F-7000、蛍光スペクトルは励起波長350nm、励起スペクトルは蛍光波長485nm。サンプル濃度は0.1mg/ml
【0035】
[XRD測定]
XRD測定は以下の装置、条件により行った。
全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°~90°
X線出力設定:45kV~200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min-1~4°min-1
【0036】
[NMR測定]
NMR測定は以下の装置、条件により行った。
装置:Bruker社製 400DPX 4mm固体プローブ
条件:13C-NMR DD/MAS法(45度パルス) 繰り返し待ち時間60秒
試料管回転数12kHz 積算回数3000回
【0037】
[実施例1~5]
ガラスチューブオーブン(柴田科学製GTO-350RG)を用いて、フロログルシノール(常温で固体、東京化成工業製)を内温が(実施例1、PG210)210℃、(実施例2、PG220)220℃、(実施例3、PG230)230℃、(実施例4、PG240)240℃、(実施例5、PG250)250℃、で1時間加熱した。得られたサンプルは精製することなく評価した。得られたサンプルを水に溶解させて300ppmとし、365nmのUVランプに曝すと青色発光が観測された。
【0038】
実施例1~5で得られたカーボン量子ドットのXPS測定(表1)、XRD測定(
図1)、発光・励起スペクトル測定(
図2、3)、NMR測定(
図4)を行った。
本発明で得られたカーボン量子ドットは溶媒・触媒を用いなくとも溶解・分散に適したC/O、XRDパターン、NMRスペクトルを持ち、良好な発光特性を示した。
【0039】
【0040】
[実施例6]
実施例2で得られたカーボン量子ドット0.01gをポリビニルピロリドン(PVP、K-90、日本触媒製)を1g用いて、水中で溶解混合したのちに、アルミカップ上で乾燥させることでカーボン量子ドット樹脂組成物を得た。得られたフィルム状サンプルを365nmのUVランプに曝すと青色発光が観測された。なお、PVPのみのフィルムでは発光を示さなかった。
【0041】
[実施例7]
実施例2で得られたカーボン量子ドット0.01gをポリメタクリル酸メチル(PMMA、分子量80万、ナカライテスク製)を1g用いて、アセトン中で溶解混合したのちに、アルミカップ上で乾燥させることでカーボン量子ドット樹脂組成物を得た。得られたフィルム状サンプルを365nmのUVランプに曝すと青色発光が観測された。なお、PMMAのみのフィルムでは発光を示さなかった。
【0042】
[実施例8]
ガラスチューブオーブンを用いて、フロログルシノール1gとレゾルシノール(常温で固体)1gを220℃で1時間反応させた。得られたサンプルを水に溶解させて300ppmとし、365nmのUVランプに曝すと青色発光が観測された。原料としてレゾルシノールを用いることで疎水性をやや強めたカーボン量子ドットが達成できた。
【0043】
[実施例9]
ガラスチューブオーブンを用いて、フロログルシノール1gを220℃で1時間反応させた。その後、精製することなく1-ブロモオクタン0.2gを加え、200℃で1時間反応した。得られたサンプルをDMFに溶解させて300ppmとし、365nmのUVランプに曝すと青色発光が観測された。修飾により疎水性を強めたカーボン量子ドットが達成できた。
【0044】
[使用例1、比較例1]
実施例2で得られたカーボン量子ドット水溶液(濃度0.01%)を、植木鉢に植えたレタスに1日1回散布し、屋外にて1か月間育てたところ、カーボン量子ドット水溶液の代わりに水のみを同量散布したもの(比較例1)と比較し、葉(1か月後時点のサイズ)の成長が早いことが分かった。
【0045】
[使用例2、比較例2]
実施例6で得られたカーボン量子ドット樹脂組成物フィルムで、植木鉢に植えたレタスを覆い(フィルムは直接植物に触れない)、水を1日1回散布し、屋外にて1か月間育てたところ、カーボン量子ドット樹脂組成物フィルムの代わりにPVPのみの樹脂フィルムを用いたもの(比較例2)と比較し、葉(1か月後時点のサイズ)の成長が早いことが分かった。なお、樹脂フィルムは、雨水がかからないようにして3日ごとに取り換えた。
【0046】
本発明のカーボン量子ドットを用いることで、良好な発光特性、良好な溶解性・分散性、良好な樹脂組成物として利用でき、植物の光合成促進用途などで利用できる。