(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032364
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】メンテナンス液及びメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20240305BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240305BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240305BHJP
C11D 7/04 20060101ALI20240305BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20240305BHJP
C11D 7/08 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C11D17/08
B41J2/165 401
C11D7/32
C11D7/04
C11D7/26
C11D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135975
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】菱田 優子
(72)【発明者】
【氏名】内田 美紀
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 博道
(72)【発明者】
【氏名】川崎 智弘
【テーマコード(参考)】
2C056
4H003
【Fターム(参考)】
2C056JB15
4H003BA12
4H003DA05
4H003DB03
4H003EA21
4H003EB04
4H003EB05
4H003EB07
4H003EB14
4H003EB16
4H003ED02
4H003FA16
4H003FA28
(57)【要約】
【課題】センサ検出性、目詰まり回復性に優れ、アタック性や組成変化を起こしにくいもメンテナンス液を提供すること。
【解決手段】 インクジェットヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置の前記インクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、導電率式のセンサにより検出されて用いられるものであり、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の何れか1種以上と、有機酸、有機アルカリの何れか1種以上と、を含有し、導電率が、100μS/cm以上であり、pHが、6.0~11である、メンテナンス液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置の前記インクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、
導電率式のセンサーにより検出されて用いられるものであり、
無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の何れか1種以上と、
有機酸、有機アルカリの何れか1種以上と、を含有し、
導電率が、100μS/cm以上であり、
pHが、6.0~11である、
メンテナンス液。
【請求項2】
水溶性有機化合物をさらに含む、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項3】
前記水溶性有機化合物が、ポリオール類である有機溶剤を含む、
請求項2に記載のメンテナンス液。
【請求項4】
前記水溶性有機化合物の含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、1.0~30質量%である、
請求項2に記載のメンテナンス液。
【請求項5】
前記有機酸、有機アルカリの何れか1種以上が、25℃において固体である。
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項6】
前記インクは、色材を含有する水系インクである、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項7】
前記インクは、無機酸化物粒子を含有する、
請求項6に記載のメンテナンス液。
【請求項8】
前記導電率が、250μS/cm以上である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項9】
前記無機アルカリ及び前記エチレンジアミン四酢酸化合物の総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、0.01~0.1質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項10】
前記有機酸及び前記有機アルカリの総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、0.01~0.5質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項11】
防腐剤をさらに含有する、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項12】
前記インクジェットヘッドのノズル面を覆うキャップに供給されることにより、ノズル面を保湿するメンテナンスに用いられる、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項13】
前記ノズル面と前記キャップは閉鎖空間を構成し、
前記メンテナンス液は前記ノズル面と非接触な状態で、前記閉鎖空間を保湿する、
請求項12に記載のメンテナンス液。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のメンテナンス液を用いて、前記インクジェットヘッドのメンテナンスを行う工程と、
導電率式のセンサーにより、前記メンテナンス液の導電率を検出する工程と、を有する、
メンテナンス方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載のメンテナンス液と、
前記メンテナンス液によりメンテナンスが行なわれるインクジェットヘッドと、
前記メンテナンス液の導電率の検出に用いられる導電率式のセンサーと、を備える、
記録装置。
【請求項16】
前記メンテナンス液の供給を行う供給機構を備え、
前記供給機構は、前記メンテナンス液に水を供給する給水機構を備える、
請求項15に記載の記録装置。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載のメンテナンス液及びインクを備える、
インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス液及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、ヘッドのメンテナンスについて種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、防腐力に優れ、キャップ装置を構成する部材に対する腐食を抑制することが可能なメンテナンス液を提供することを目的として、インクを吐出するヘッドと、前記ヘッドを覆って保湿するキャップ装置と、前記キャップ装置にメンテナンス液を供給するメンテナンス液供給装置と、を備えた記録装置に使用するためのメンテナンス液であって、少なくとも水と、水溶性着色剤と、pH調整剤と、アルカンジオールおよびアルキレングリコールモノエーテル誘導体から選択される1種の水溶性有機溶剤と、を含有することを特徴とする、記録装置用メンテナンス液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メンテナンス液を備える記録装置は、メンテナンス液を貯留するタンクを備える。メンテナンス液は使用や蒸発等により徐々に減少する。そこで、メンテナンス液の残存の状態を検出するセンサーとして、メンテナンス液の導電率を測定しメンテナンス液の有無を判断する導電率式センサーを用いる場合に、メンテナンス液が導電率式センサーに検出されにくいことや、メンテナンス液としての性能が得られないといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置の前記インクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、導電率式のセンサーにより検出されて用いられるものであり、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の何れか1種以上と、有機酸、有機アルカリの何れか1種以上と、を含有し、導電率が、100μS/cm以上であり、pHが、6.0~11である、メンテナンス液である。
【0006】
本発明は、上記メンテナンス液を用いて、前記インクジェットヘッドのメンテナンスを行う工程と、導電率式のセンサーにより、前記メンテナンス液の導電率を検出する工程と、を有する、メンテナンス方法である。
【0007】
本発明は、上記メンテナンス液と、メンテナンス液によりメンテナンスが行なわれるインクジェットヘッドと、前記メンテナンス液の導電率の検出に用いられる導電率式のセンサーと、を備える記録装置である。
【0008】
本発明は、上記メンテナンス液及びインクを備えるインクセットである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】記録装置におけるメンテナンス液の周辺構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
1.メンテナンス液
本実施形態のメンテナンス液は、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置のインクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、導電率式のセンサーにより検出されて用いられるものであり、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の何れか1種以上と、有機酸、有機アルカリの何れか1種以上と、を含有し、導電率が、100μS/cm以上であり、pHが、6.0~11である。
【0012】
インクジェットヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置のインクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であり、導電率式のセンサーにより検出されて用いられるものである。
【0013】
メンテナンス液を備える記録装置は、メンテナンス液を貯留するタンクを備える。メンテナンス液は使用や蒸発等により徐々に減少する。そこで、メンテナンス液の残存の状態を検出するセンサーを用いることが望まれる。センサーとしては、メンテナンス液の導電率を測定しメンテナンス液の有無を判断する導電率式センサーや、光学式センサーが挙げられる。しかし、光学式センサーはメンテナンス液に着色しないとメンテナンス液を検出しにくいことや、センサーが高コストなことがある。そこで、導電率式センサーの使用が望まれる。そのため、導電率式センサーに検出されやすく、メンテナンス液としての性能も優れるメンテナンス液が必要となる。
【0014】
図1に、記録装置におけるメンテナンス液を用いるための周辺構造の1例の概略図を示す。
図1に示すように、記録装置は、インク流路13を介して、インクジェットヘッド11からインクを吐出する。インクジェットヘッド11は、インクを吐出するノズルが形成されたノズル面12を有する。インク流路13へは、例えば上流にあるインク収容体(図示しない)からインクが供給されてくる。
【0015】
タンク24には、メンテナンス液21が貯留されている。メンテナンス液21は、記録装置を設置して使用を始める際に、新しいメンテナンス液として、メンテナンス液収容体(図示しない)などから、タンク24に入れられて貯留され、以降、記録装置において、メンテナンスに使用される。メンテナンス液収容体は、使用前の新しいメンテナンス液が収容され、記録装置のタンク24にメンテナンス液を供給するものであり、例えばメンテナンス液パックなどでもよい。
【0016】
インクジェットヘッド11のノズル面12は、メンテナンス時において、キャップ22により覆われてもよい。メンテナンス液21は、インクジェットヘッド11のノズル面12を覆うキャップ22に、タンク24から供給されることにより、ノズル面12の保湿に用いられる。このキャップ22にはメンテナンス液21が、方向Fに沿って、流路23を介して供給される。
【0017】
また、ノズル面12とキャップ22は閉鎖空間14を構成し、メンテナンス液21はノズル面12と非接触な状態で、閉鎖空間14を保湿してもよい。この時、閉鎖空間14は、密閉された空間であってもよいし、非密閉空間であってもよい。密閉された空間が好ましい。これにより、メンテナンス液21とインクとが接触することなく、閉鎖空間14を保湿することができる。
【0018】
閉鎖空間14の保湿された空気により、インクジェットヘッド11のノズル面のノズルが保湿され、ノズル内のインクが乾燥することを防止でき、ノズル内のインクが増粘や固化することが防止できる。こうしてインクジェットヘッド11のメンテナンスを行うことができる。
【0019】
ノズル面12の保湿において、仮にこのような閉鎖空間14においてメンテナンス液21がはねたり、溢れたりして、不意にノズル面12に付着しインクと接触してしまう場合があるとしても、本実施形態のメンテナンス液であればインクの成分を凝集させることを抑制でき好ましい。なお、キャップ22のメンテナンス液の上部に反透過膜を設けて、メンテナンス液がノズル面に接触しない(蒸発成分は透過可能)様にしてもよい。
【0020】
メンテナンス後において、キャップ22に供給されたメンテナンス液21は、流路23を介してメンテナンス液が貯留されるタンク24に戻されてもよい。これにより、メンテナンスごとにメンテナンス液21を繰り返し利用することができる。またメンテナンスを行わない時には、メンテナンス液がタンク24以外の場所に存在しない様にしておくことができる。
【0021】
メンテナンス液21は、キャップ22からメンテナンス液がこぼれたり、使用した分を廃棄したり、また繰り返し使用されることで保湿中にメンテナンス液21から水が蒸発したりして、徐々に減少しうる。このような場合には、タンク24のメンテナンス液21の量は導電率センサ25により測定することができる。
【0022】
また、メンテナンス液21が蒸発して減少する時、後述するように成分Aや成分Bは蒸発しにくいものを用いることで、減ってしまうことが抑制でき、pHの変動を抑制できるが、水だけが蒸発して成分が濃縮されてしまう場合がある。そこで、本実施形態においては、メンテナンス液に水を供給して混合、希釈することで、メンテナンス液の濃縮を防止(回復)する機構を設けてもよい。例えば、メンテナンス液21がある程度少なくなった場合には、水27を貯留するタンク26から、タンク24へ水が供給されてもよい。
【0023】
なお、メンテナンス液は、上記に限らず、例えば、インクジェットヘッド、インク供給経路などに流通させたり、ノズル面などに付着させ、これらを洗浄する洗浄液、ノズル面に付着させワイパーでワイピングに用いる洗浄液(ワイピング液)などとして用いても良い。
【0024】
つまり記録装置において、メンテナンス液を用いて行うメンテナンスは、上述のノズル面の保湿に限らず、例えば、メンテナンス液をノズル面に付着させてノズル面を洗浄するメンテナンス、メンテナンス液をインクジェットヘッドやインク流路の中に流通させてそれらの中を洗浄するメンテナンス、などがあげられる。このようなメンテナンスにおいても、本実施形態のメンテナンス液は、メンテナンス液とインクが接触した場合でも、インクの成分が凝集する等による異物の発生が抑制できる点で優れ、好ましい。
【0025】
また、センサ25は、例えば、メンテナンス液が収容されメンテナンス液を供給するメンテナンス液タンク24に設ける他、キャップ、メンテナンス液供給管経路、メンテナンス液収容体などに設けてもよい。
【0026】
以下メンテナンス液の組成について説明する。メンテナンス液の組成を言う場合のメンテナンス液は、特にこだわらない限り、新しいメンテナンス液として、メンテナンス液収容体などから、記録装置のタンクに入れられるメンテナンス液である。
【0027】
1.1.無機アルカリ及びエチレンジアミン四酢酸化合物(成分A)
本実施形態のメンテナンス液は、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の何れか1種以上を含み、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物の両方を含んでいてもよい。以下、無機アルカリ及びエチレンジアミン四酢酸化合物をまとめて「成分A」ということもある。
【0028】
成分Aを含むことにより、メンテナンス液の導電率を高くすることができ、また、成分Aは常温で固体であるため、メンテナンス液の経時的な使用で蒸発することがなく、導電率を高く保ちやすい。また、エチレンジアミン四酢酸化合物は、pH調整作用も示し好ましい。
【0029】
無機アルカリとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0030】
エチレンジアミン四酢酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸2水素・2ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸2水素・2ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸4ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、あるいはナトリウムがカリウムに置換された化合物などが挙げられる。
【0031】
成分Aの総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.01質量%以上であってもよく、0.03質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよく、0.07質量%以上であってもよい。また、成分Aの総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.2質量%以下であってもよく、さらに0.1質量%以下であってもよく、0.09質量%以下であってもよく、0.08質量%以下であってもよい。
【0032】
成分Aの総含有量が0.01質量%以上であることにより、センサの検出性が向上し、経時的な組成変化が抑制される傾向にある。成分Aの総含有量が上記以下であることにより、記録装置へのアタック性が低減する傾向にある。
【0033】
1.2.有機酸及び有機アルカリ(成分B)
本実施形態のメンテナンス液は、有機酸、有機アルカリの何れか1種以上を含み、有機酸、有機アルカリの両方を含んでいてもよい。以下、有機酸及び有機アルカリをまとめて「成分B」ということもある。
【0034】
成分Aを含むことにより、メンテナンス液のpHが高すぎたり低すぎたりすることがあり、それによって、部材アタック性が問題となる場合がある。また、pHが高すぎたり低すぎたりするメンテナンス液がインクと接触すると、インクの成分が異物化して、インク流路(ヘッド含む)、廃液路において、異物の発生が起こり、流路の詰まりや吐出不良の原因となる恐れもある。また、廃液タンクでインクと混合する場合もあり、タンク詰まりの原因となる。
【0035】
そのため、本実施形態においては、成分Bを用いる。成分Bを用いることによりメンテナンス液のpHを所定の範囲に調整しやすく、特に、成分Aのわずかな含有量の違いでpHが変動することなどを抑制することができる。また経時によるpH変動を抑制しpHを所定範囲に保ちやすい。
また、特にpH調製剤が固体の場合、経時で蒸発することがなく、pHを特に所定範囲に保ちやすい。
【0036】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、2-ニトロフェニル酢酸、2-エチルヘキサン酸、ドデカン酸、2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボン酸、アジピン酸などのカルボン酸;アスコルビン酸、酒石酸、グルクロン酸等の糖酸;ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。
なかでもカルボン酸が好ましく、2価のカルボン酸であるジカルボン酸がより好ましい。
【0037】
有機アルカリとしては、特に限定されないが、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、グアニジン等の有機アミン類が挙げられる。
有機アルカリの中でも、アルカン骨格にヒドロキシ基とアミノ基を持つ化合物であるアルカノールアミンが好ましい。特に3級アミンであるアルカノールアミンが好ましい。
【0038】
有機酸、有機アルカリの何れか1種以上が、25℃において固体であることが好ましい。このような有機酸又は有機アルカリとしては、アジピン酸などが挙げられる。このような有機酸又は有機アルカリを用いることにより、経時的な組成変化が抑制される傾向にある。
【0039】
成分Bの総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.01質量%以上であってもよく、0.02質量%以上であってもよい。また、成分Bの総含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.5質量%以下であってもよく、0.45質量%以下であってもよく、0.4質量%以下であってもよく、0.35質量%以下であってもよく、0.3質量%以下であってもよい。
【0040】
成分Bの総含有量が0.01質量%以上であることにより、センサの検出性が向上し、経時的な組成変化が抑制される傾向にある。成分Bの総含有量が0.5質量%以下であることにより、記録装置へのアタック性が低減する傾向にある。
【0041】
1.3.水溶性有機化合物
本実施形態のメンテナンス液は、水溶性有機化合物をさらに含んでもよい。なお、水溶性有機化合物には成分A及びBは含まれない。
【0042】
水溶性有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、有機溶剤、有機溶剤以外の保湿剤、界面活性剤などが挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、ポリオール類、モノオール類である有機溶剤などがあげられる。
【0043】
モノオール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0044】
ポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオールのグリコールが挙げられる。
有機有機溶剤以外の保湿剤としては、常温単体で固体であるが、保湿性を有する有機化合物があげられ、例えば水酸基を分子中に2個以上有する化合物などがあげられる。
【0045】
このなかでも、ポリオール類である有機溶剤が好ましい。これにより、メンテナンス液の経時による組成変化がより抑制され、廃液経路の耐目詰まり性がより向上する傾向にある。
【0046】
水溶性有機化合物の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、1.0質量%以上であってもよく、3.0質量%以上であってもよく、5.0質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。また、水溶性有機化合物の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、30質量%以下であってもよい。
【0047】
水溶性有機化合物の含有量が上記範囲内であることにより、メンテナンス液の経時による組成変化がより抑制され、廃液経路の耐目詰まり性がより向上する傾向にある。
【0048】
1.4.防腐剤
本実施形態のメンテナンス液は、防腐剤をさらに含んでもよい。これにより、廃液経路の耐目詰まり性がより向上する傾向にある。
【0049】
防腐剤としては、特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類(メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、エチルパラベン、ベンジルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、プロピルパラベン及びイソプロピルパラベン等)、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、1,2-ベンゾチアゾリン-3オンが挙げられる。防腐剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0050】
防腐剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよい。また、水溶性有機化合物の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、1.0質量%以下であってもよく、0.75質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。
【0051】
1.5.水
本実施形態のメンテナンス液は、水を含む水系メンテナンス液である。水系とは、組成物に含む溶媒成分が少なくとも水を主要な成分とするものである。
水の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、55質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、65質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。また、水の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、99質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0052】
1.6.導電率
導電率は、100μS/cm以上であり、好ましくは、150μS/cm以上であってもよく、200μS/cm以上であってもよく、250μS/cm以上であってもよく、300μS/cm以上であってもよく、350μS/cm以上であってもよく、400μS/cm以上であってもよい。また、導電率は、好ましくは、1000μS/cm以下であってもよく、900μS/cm以下であってもよく、800μS/cm以下であってもよく、700μS/cm以下であってもよく、600μS/cm以下であってもよい。
【0053】
導電率が100μS/cm以上であることにより、センサの検出性が向上する傾向にある。また、導電率が1000μS/cm以下であることにより、記録装置へのアタック性が低減し、廃液経路の耐目詰まり性がより向上する傾向にある。
【0054】
導電率の測定方法は、特に制限されず、例えば、HORIBA製の導電率計ES-51を用いて測定することができる。導電率の測定温度は、25℃である。また、メンテナンス液の導電率は、メンテナンス液に含まれるイオン量により調整することができる。イオンは、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物、有機酸、有機アルカリなどによりメンテナンス液に混入され得る。
【0055】
1.7.pH
pHは、6.0以上であり、好ましくは、6.3以上であってもよく、6.6以上であってもよく、6.9以上であってもよく、7.0以上であってもよく、7.2以上であってもよい。また、pHは、11以下であり、好ましくは、10.5以下であってもよく、10以下であってもよく、9.5以下であってもよく、9.0以下であってもよく、8.5以下であってもよい。
【0056】
pHが6.0以上であることにより、記録装置へのアタック性が低減し、また、目詰まり回復性、異物発生の抑制もより向上する傾向にある。また、pHが11以下であることにより、記録装置へのアタック性が低減し、経時的な組成変化も抑制される傾向にある。
【0057】
pHは、無機アルカリ、エチレンジアミン四酢酸化合物、有機酸、有機アルカリなどの含有量によって調整してもよい。
【0058】
2.インク
本実施形態のメンテナンス液の対象となるインクは、特に限定されないが、例えば、色材を含有する水系インクが挙げられる。
【0059】
2.1.色材
色材としては、特に制限されないが、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料;カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等)、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等の無機顔料;炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料等を用いることができる。
【0060】
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加されることが好ましい。
【0061】
上記顔料分散液を構成する顔料及び分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
色材の含有量は、インクの総量に対して、固形分として、好ましくは0.5~15質量%であり、さらに好ましくは1.0~12質量%であり、より好ましくは2.0~10質量%であり、さらに好ましくは3.0~7.5質量%である。
【0063】
2.2.無機酸化物粒子
本実施形態の水系インクは、無機酸化物粒子を含有してもよい。これにより、記録物の発色性やスタック性がより向上する傾向にある。また、一方で、インクが、顔料や樹脂などpH変化によりインク中で不安定になる成分を含む場合、pHが所定範囲ではないメンテナンス液と接触した場合に、インク中で異物が発生し、目詰まりや廃液タンク詰りの原因となる。特に、インクが無機酸化物粒子を含むインクの場合、インクがメンテナンス液と接触した場合に、無機酸化物粒子が凝集し、異物の発生が顕著となる傾向にある。そのため、本実施形態のメンテナンス液を使用することが好ましい。
【0064】
無機酸化物粒子としては、特に限定されないが、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、酸化アンチモン粒子、酸化錫粒子、酸化タンタル粒子、酸化亜鉛粒子、酸化セリウム粒子、酸化鉛粒子、及び酸化インジウム粒子が挙げられる。このなかでも、シリカ粒子が好ましい。このような無機酸化物粒子を用いることにより、得られる記録物のカールがより抑制される。なお、無機酸化物粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
無機酸化物粒子の含有量は、固形分として、インクの総量に対して、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1.0~12質量%であり、さらに好ましくは3.0~10質量%である。無機酸化物粒子の含有量が0.5質量%以上であることにより、得られる記録物の発色性がより向上し、またカールやコックリングがより抑制され、スタック性がより向上する傾向にある。また、無機酸化物粒子の含有量が15質量%以下であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。無機酸化物粒子の体積平均粒子径(D50)は、70nm以下が好ましく、10~50nmがより好ましく、20~40nmがさらに好ましい。体積平均粒子径(D50)は、レーザー回析・散乱法によるものである。無機酸化物粒子の体積平均粒子径(D50)は、上記範囲以下の場合、目詰まり回復性がより優れ、上記範囲以上の場合、スタック性や発色性がより優れ、好ましい。
【0066】
2.3.水
本実施形態のインクは、水を含む水系インクであることが好ましい。水の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは50質量%以上であってもよく、さらには、好ましくは、55質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、65質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。また、水の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、99質量%以下であっても良く、さらには、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0067】
2.4.水溶性有機溶剤
本実施形態のインクは、好ましくは、水溶性有機溶剤を含む。インクが水溶性有機溶剤を含むことにより、保存性が一層向上する傾向にある。
【0068】
水溶性有機溶剤としては、例えば、上述のメンテナンス液に含有しても良い水溶性有機溶剤があげられ、ポリオール類、モノオール類である有機溶剤などがあげられる。
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオールのグリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、1.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよく、5.0質量%以上であってもよく、7.5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。また、水溶性有機溶剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
【0070】
2.5.ラクタム系化合物
ラクタム系化合物としては、特に限定されないが、例えば、ε-カプロラクタム、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0071】
ラクタム系化合物の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、1.0質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよい。また、ラクタム系化合物の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、7.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよい。ラクタム系化合物で常温単体で液体のものは有機溶剤でもある。
【0072】
2.6.樹脂エマルション
本実施形態のインクジェットインクは、樹脂エマルションをさらに含んでもよい。樹脂エマルションとしては、特に制限されないが、例えば、ウレタン樹脂エマルション、(メタ)アクリル樹脂エマルションが挙げられる。このような樹脂エマルションを用いることにより、得られる画像のにじみがより抑制され、発色性や耐擦性もより向上する傾向にある。樹脂エマルションは一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0073】
ウレタン樹脂エマルションとしては、分子中にウレタン結合を有する樹脂エマルションであれば特に限定されず、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。このなかでも、アニオン性のウレタン樹脂微粒子が好ましい。
【0074】
アクリル樹脂エマルションとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体を重合させたものや、スチレンアクリル樹脂など、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させたものが挙げられる。このなかでも、アニオン性のアクリル樹脂微粒子が好ましい。
【0075】
樹脂エマルションの含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.1~7.5質量%であり、より好ましくは0.2~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.3~3.0質量%である。樹脂エマルションの含有量が0.1質量%以上であることにより、得られる画像のにじみが抑制され、耐擦性もより向上する傾向にある。また、樹脂エマルションの含有量が7.5質量%以下であることにより、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0076】
2.7.界面活性剤
本実施形態のインクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。このなかでも、目詰まり回復性の観点からアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0077】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010、EXP4300等のEシリーズ(エアープロダクツ社製商品名)、サーフィノール61、104、465(日信化学工業社製商品名)などが挙げられる。なお、アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0079】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0080】
界面活性剤の含有量は、インクの総質量に対し、好ましくは0.1~5.0質量%であり、より好ましくは0.2~3.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0081】
2.8.pH調整剤
pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸が挙げられる。
【0082】
pH調整剤の含有量は、インクの総質量に対し、好ましくは0.1~3.0質量%であり、より好ましくは0.2~2.0質量%である。
【0083】
2.インクセット
本実施形態のインクセットは、上記メンテナンス液及び上記インクを備える。また、本実施形態のインクセットは、上記のメンテナンス液と、上記メンテナンス液によりメンテナンスが行なわれるインクジェットヘッドで記録に用いられるインクと、備えることが好ましい。
【0084】
3.メンテナンス方法
本実施形態のメンテナンス方法は、上記メンテナンス液を用いて、インクジェットヘッドのメンテナンスを行う工程と、導電率式のセンサーにより、メンテナンス液の導電率を検出する工程と、を有する。
【0085】
また、本実施形態のメンテナンス方法は、メンテナンスに先立ち、所定のインクジェットヘッドを用いて、上記インクジェットインクを、吐出して記録媒体に付着させる吐出工程をさらに有してもよい。
【0086】
3.1.吐出工程
吐出工程では、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0087】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0088】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0089】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0090】
3.2.メンテナンス工程
メンテナンス工程は、上記メンテナンス液を用いて、インクジェットヘッドのメンテナンスを行う工程である。インクジェットヘッドのメンテナンス方法は特に限定されず、ノズル面の保湿や、記録装置の洗浄などがあげられる。記録装置の洗浄は、例えば、メンテナンス液をノズル面に付着させて、必要に応じ、ノズル面をワイパなどで払拭して、ノズル面を洗浄するメンテナンスや、メンテナンス液をインクジェットヘッドやインク流路の中に流通させて、それらの中を洗浄するメンテナンス、などがあげられる。
【0091】
ノズル面の保湿は、ノズル面にメンテナンス液を間接的に付与する方法があげられる。これは、例えば前述の様に、インクジェットヘッドのノズル面を覆うキャップにメンテナンス液を供給し、そのノズル面とキャップによって閉鎖空間を構成し、メンテナンス液はノズル面と非接触な状態で、閉鎖空間を保湿する方法が挙げられる。
【0092】
ノズル面の保湿は、ノズル面にメンテナンス液を直接的に付与する方法もあげられる。これは、例えば、ノズル面にメンテナンス液を直接的に付着させ、保湿する方法である。
【0093】
3.3.導電率の検出工程
導電率の検出工程は、導電率式のセンサーにより、メンテナンス液の導電率を検出する工程である。導電率式のセンサーは、メンテナンス液を貯留するタンクに設けられており、その水位を導電率にて測定してもよい。例えば、タンクの所定の水位ごとに導電率式のセンサを設け、それぞれのセンサーによって導電率を検出することで、導電率の検出ができた水位までメンテナンス液が貯留されていることを確認できる。
【0094】
メンテナンス液の導電率を検出できないとき、あるいは、メンテナンス液の導電率を検出した結果としてメンテナンス液の量が少ない場合には、水を貯留するタンクから、メンテナンス液に水を供給してもよい。
またはメンテナンス液収容体からメンテナンス液を、メンテナンス液を貯留するタンクに補充してもよい。
【0095】
4.記録装置
記録装置は、例えば、インクジェットインクを記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える。インクジェットヘッドは、インクが供給される圧力室と、インクを吐出するノズルと、を備える。インクジェットヘッドは、メンテナンス液によりメンテナンスが行なわれるものである。また、搬送手段は、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトから構成される。
【0096】
さらに、本実施形態の記録装置は、メンテナンス液とメンテナンス液の導電率の検出に用いられる導電率式のセンサーと、を備える。また、本実施形態の記録装置は、メンテナンス液の供給を行う供給機構を備えてもよい。また、供給機構は、メンテナンス液に水を供給する給水機構を備えてもよい。
【0097】
4.1.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、及び非吸収性記録媒体が挙げられる。
【0098】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)があげられる。
【0099】
低吸収性記録媒体は、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0100】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0102】
1.インク組成物の調製例
表1に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各例のインクジェットインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、無機酸化物粒子、顔料分散液、樹脂の数値は、固形分の質量%を表す。
【0103】
【0104】
[顔料分散液]
イエロー顔料(CAB-O-JET470Y、キャボット株式会社製)
[無機酸化物粒子]
カタロイドSI-30(カタロイドシリーズの商品名、日揮触媒化成株式会社製、平均粒子径30nm)
[水溶性有機溶剤]
グリセリン
トリエチレングリコール
トリエチレングリコールモノブチルエーテル
トリエチレングリコールモノメチルエーテル
1,2-ヘキサンジオール
[ラクタム系化合物]
2-ピロリドン
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン
ε-カプロラクタム
[樹脂]
X-436(スチレンアクリレート系樹脂エマルション、星光PMC社製)
[界面活性剤]
オルフィンE1010(商品名、アセチレングリコール系界面活性剤、エアープロダクツ社製)
サーフィノール104(商品名、アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
オルフィンEXP4300(商品名、アセチレングリコール系界面活性剤、エアープロダクツ社製)
[pH調整剤]
トリエタノールアミン
【0105】
2.メンテナンス液の調製例
表2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各例のメンテナンス液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0106】
【0107】
[水溶性有機化合物]
グリセリン
トリエチレングリコール
プロピレングリコール
[成分A]
エチレンジアミン四酢酸2水素2ナトリウム・2水和物
水酸化カリウム
水酸化ナトリウム
[成分B]
トリエタノールアミン(常温液体)
アジピン酸(常温個体)
[防腐剤]
Proxel XL2(Arxada社製)
【0108】
2.1.pHの測定方法
インクのpHは、卓上型pHメータ(型番:F-72、メーカー:HORIBA製)を用いて測定した。なお、測定の温度は25℃とした。
【0109】
2.2.導電率の測定方法
導電率は、導電率計ES-51(HORIBA製)を用いて測定した。なお、測定の温度は25℃とした。
【0110】
3.評価方法
3.1.メンテナンス液の液面レベルセンサ検出性
メンテナンス液の導電率に基づき、下記評価基準に従って、液面レベルセンサ検出性を評価した。
(評価基準)
A:250μS/cm以上
B:100μS/cm以上
C:100μS/cm未満
【0111】
3.2.メンテナンス液の部材アタック性
メンテナンス液に記録装置の接液部材(アルミニウム製)を浸漬し、70℃6日で放置した。放置後、接液部材の外観を目視にて確認し、浸漬前後の変化を確認した。そして、下記評価基準に従って、アタック性を評価した。
(評価基準)
A:外観変化なし
B:外観異常あり(腐食あり)
【0112】
3.3.メンテナンス液の経時による組成変化(pH変動)
メンテナンス液を容器にはかりとり、その容器を開放状態で7日間常温で放置した。放置後蒸発分の水分を容器に補充した上で放置後のpHを測定した。放置前のpHと放置後のpHの変化率に基づいて、下記評価基準により組成変化を評価した。
(評価基準)
A:pH変化量が±0.7未満
B:pH変化量が±0.7以上1.3未満
C:pH変化量が±1.3以上
【0113】
3.4.目詰まり回復性
インクジェットプリンターPX-S7050のインクカートリッジにインクを充填し、全ノズルよりインクが吐出できることを確認した。その後、キャップに各メンテナンス液を供給し、ノズル面をキャップでキャップして、キャップのメンテナンス液がノズル面に非接触で、ノズル面とキャップによる密閉された閉鎖空間を形成させた。この状態で、温度40℃、湿度20%の環境下で7日間放置した。
【0114】
放置後、インクジェットヘッドを吸引クリーニングして、ノズル内のインクの吸引動作を1回行うごとに、インクが吐出できないノズルの本数をカウントし、すべてのノズルが回復するまでクリーニング動作を繰り返した。そして、すべてのノズルが回復した時のクリーニング回数に基づいて、下記の評価基準により目詰まり回復性を評価した。
(評価基準)
AA:クリーニング1回で全回復
A:クリーニング2~3回で全回復
B:クリーニング4~5回で全回復
C:クリーニング6回で全回復
D:クリーニング6回で回復しない
【0115】
3.5.廃液経路の目詰まり性
メンテナンス液を容器にはかりとり、その容器を開放状態で7日間常温で放置した。放置後蒸発分の水分を容器に補充した上で、インクとを質量比1:1で混合して、混合液を調製した。この混合液を10mlフィルタに流しフィルタ上に凝集物が発生するか否かを目視にて確認し、下記評価基準により廃液経路の目詰まり性を評価した。
(評価基準)
A:異物発生しない
B:異物がごく微量発生する
C:異物発生する
【0116】
3.6.印刷物発色性
製造した各インク組成物を、インクジェットプリンター「PX-S7050」(製品名、セイコーエプソン株式会社製)のインクカートリッジに充填した。記録媒体として、A4サイズ(210mm×297mm)のコピー用紙「Xerox P紙」(製品名、富士ゼロックス株式会社製、坪量64g/m2、紙厚88μm)を準備した。その記録媒体に、印刷Duty:100%の条件で、ベタパターンを印刷した。印刷後、測色機「Xrite i1」(製品名、Xrite社製)を用いて光学濃度(以下、「OD値」ともいう)を測定し、下記評価基準により発色性を評価した。
(評価基準)
A:最大のOD値が1.00以上
B:最大のOD値が0.95以上1.00未満
C:最大のOD値が0.90以上0.95未満
D:最大のOD値が0.90未満
【0117】
3.7.印刷物スタック性
印刷物発色性の評価で用いたインクジェット記録装置を用いて、印刷物発色性の評価用のベタパターンを、記録媒体の記録可能な範囲に全て記録し、20枚連続印刷し、排紙トレイに重ねて排紙した場合のスタック性を下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:ホッチキスが打てるほど揃っている(収まっており紙の端部がきれいに揃っている)
B:20枚スタックできるが揃わない(収まってはいるが紙の端部が揃っていない)
C:20枚スタックできない(トレイから飛び出てしまう)
【0118】
【0119】
4.評価結果
比較例1,5は、メンテナンス液が成分Aを含まないものを用い、センサーの検出性に劣った。
比較例2,3,6は、メンテナンス液が成分Bを含まないものを用い、メンテナンス液の組成変化が生じやすく、廃液経路の目詰まり性が劣った。さらには、目詰まり回復性などにも優れなかった。
【0120】
これに対して、実施例1~11のように所定のメンテナンス液を用いることで、センサー検出性、廃液経路の目詰まり防止に優れ、さらには、目詰まり回復性、アタック性や組成変化を起こしにくいものとなった。
なお、参考例は、メンテナンス液を用いず、ノズル面の保湿を行う場合には、目詰まり回復性が悪い。
11…インクジェットヘッド、12…ノズル面、13…インク流路、14…閉鎖空間、21…メンテナンス液、22…キャップ、23…流路、24…タンク、25…導電率センサ、26…タンク、27…水