(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032369
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】筋肉量増加又は筋力増加用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240305BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135980
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】安井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 範之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿栄
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018MD10
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK08
(57)【要約】
【課題】筋肉量増加又は筋力増加用組成物を提供すること。
【解決手段】ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を有効成分として含む、筋肉量増加又は筋力増加用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を有効成分として含む、筋肉量増加又は筋力増加用組成物。
【請求項2】
前記代謝物がジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
筋肉においてタンパク質合成を促進するために使用される請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
mTOR経路の活性化によりタンパク質合成を促進するために使用される請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
経口用組成物である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
飲食品である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
「筋肉増加」、「筋肉改善」、「筋力増加」、「筋力改善」、「骨格筋肥大の促進」、「筋肉をつくる力をサポート」、からなる群より選択される1又は2以上の表示を付した請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
運動と組み合わせて使用される請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉量増加又は筋力増加用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本のような人口構成における高齢者比率が高い国では、健康寿命の延長や日常生活の質(QOL)の向上が課題となっている。健康寿命の短縮の要因の一つとして、加齢に伴う筋肉量(筋量)の減少や筋力の低下が挙げられる。運動不足や、手術後、病気の療養等において長期間安静が必要とされる場合等にも、筋肉量が減少する。筋肉量又は筋力の増加の手段として、運動(筋力トレーニングなど)は有効であるが、時間的及び物理的な理由などから継続的な実施が難しかったり、身体的に負担が大きかったりする場合がある。
【0003】
筋肉量又は筋力を増加するためには、タンパク質の合成を促進することが有効である。タンパク質合成において、mTOR(mechanistic target of rapamycin)経路が重要であることが報告されている。mTORシグナルの下流因子であるS6K(ribosomal protein S6 kinase)のT(threonine)389残基や4E-BP1(Eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1)のT(threonine)37/46残基がリン酸化されると、タンパク質合成が促進される。
【0004】
mTOR経路におけるリン酸化を促進する物質として、ロイシンの代謝物であるβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)が報告されている(非特許文献1)。HMBを摂取してレジスタンストレーニングを行うと、該トレーニングを行いHMBを摂取しなかった場合と比較して筋肉量が増加したことも報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kimura et al., NUTRITION RESEARCH 34(2014)368-374
【非特許文献2】Wilson et al., European Journal of Applied Physiology(2014)114:1217-1227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、筋肉量増加又は筋力増加用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みmTOR経路を活性化する成分について検討を重ねて、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物を見出した。ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、S6K(ribosomal protein S6 kinase)のリン酸化を促進する作用を有し、筋肉量増加等に有用である。
【0008】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の筋肉量増加又は筋力増加用組成物等に関する。
〔1〕ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を有効成分として含む、筋肉量増加又は筋力増加用組成物。
〔2〕上記代謝物がジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体である上記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕筋肉においてタンパク質合成を促進するために使用される上記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕mTOR経路の活性化によりタンパク質合成を促進するために使用される上記〔3〕に記載の組成物。
〔5〕経口用組成物である上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕飲食品である上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔7〕「筋肉増加」、「筋肉改善」、「筋力増加」、「筋力改善」、「骨格筋肥大の促進」、「筋肉をつくる力をサポート」、からなる群より選択される1又は2以上の表示を付した上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の組成物。
〔8〕運動と組み合わせて使用される上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筋肉量増加又は筋力増加用組成物が提供される。本発明の組成物を摂取することにより、タンパク質合成を促進することができ、筋肉量増加又は筋力増加効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ジヒドロフェルラ酸またはジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体を添加した細胞のタンパク質濃度あたりのS6KのT389残基のリン酸化量を示すグラフである。
図1のグラフの縦軸は、陰性対照(C)における上記のS6KのT389残基のリン酸化量を100としたときの、リン酸化量の相対値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の筋肉量増加又は筋力増加用組成物は、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を有効成分として含む。
本発明の筋肉量増加又は筋力増加用組成物を、以下では本発明の組成物ともいう。本発明において、筋肉としては、骨格筋が好ましい。
【0012】
本発明において、ジヒドロフェルラ酸(3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸。以下HMPAともいう。)の由来及び製造方法は特に制限されず、天然由来品でも、化学合成品でもよく、発酵法又は酵素法により製造されたものであってもよい。ジヒドロフェルラ酸は、例えば、フェルラ酸若しくはフェルラ酸エチル等のフェルラ酸誘導体、又は、これらを含有する植物由来原料(例えば、フェルラ酸を含有する植物の破砕物又は抽出物)から、発酵法により製造することができる。発酵法による製造においては、フェルラ酸若しくはフェルラ酸誘導体又はこれらを含有する植物由来原料を、フェノール酸還元酵素活性を有する微生物により発酵させ、フェルラ酸をジヒドロフェルラ酸に変換する。得られた発酵物から、ジヒドロフェルラ酸を抽出又は精製することができる。発酵物からジヒドロフェルラ酸を抽出又は精製する方法は特に限定されず。公知の方法を採用することができる。フェルラ酸を含有する植物としては、例えば、コーヒー、コメ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ等が挙げられる。フェノール酸還元酵素を有する微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri等の乳酸菌等が挙げられる。ジヒドロフェルラ酸は市販されており、市販品を使用することもできる。
【0013】
本発明において、ジヒドロフェルラ酸の代謝物としては、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体、硫酸抱合体等が挙げられる。中でも、高い効果が得られることから、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体を使用することが好ましい。
ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体は市販されており、市販品を使用することもできる。
【0014】
筋肉量増加又は筋力増加のためには、タンパク質の合成を促進することが有効である。
タンパク質の合成は、mTOR経路によって制御されており、mTOR経路を活性化(例えば、mTOR経路のシグナル因子をリン酸化)することで、タンパク質の合成が促進される。例えば、mTORの下流因子であるS6Kのリン酸化を促進すると、タンパク質の合成が促進される。従ってS6Kのリン酸化の促進は、筋肉においてタンパク質の合成を促進し、筋肉量の増加をもたらす。筋肉量の増加により、筋力の増加効果が得られる。
【0015】
後記の実施例に示されるように、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、筋細胞であるC2C12細胞において、S6KのT389残基のリン酸化を促進した。従ってジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、mTOR経路を活性化する作用を有し、筋肉においてタンパク質合成を促進する作用を有する。ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、筋肉量増加作用又は筋力増加作用を有し、筋肉量を増加させるため又は筋力を増加させるための有効成分として使用され得る。またジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、S6Kのリン酸化促進のため、タンパク質合成促進のためにも使用され得る。
【0016】
本発明の組成物は、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を含むことから、筋肉においてタンパク質合成を促進することができる。本発明の組成物は、mTOR経路の活性化によりタンパク質合成を促進することができ、このような目的のために使用することができる。一態様において、本発明の組成物は、筋肉におけるタンパク質合成を促進することによって、筋肉量を増加又は筋力を増加させるために使用され得る。
【0017】
本発明の組成物は、筋肉量増加効果又は筋力増加効果を奏する。また、このような効果により、例えば、運動による筋肉量増加効果や、筋力増加効果を増大させることができ、筋肉量減少の予防、筋力低下の予防等が可能となる。従って本発明の組成物は、例えば、筋肉量の減少予防のため、筋力低下予防のため等に使用され得る。本発明において、筋肉量増加とは、筋萎縮の抑制(筋萎縮による筋肉量減少の低減、緩和等)とは異なる。
ヒト等の動物の筋肉量は、例えば、マイクロPET/CT(陽電子(ポジトロン)放射断層撮影/コンピュータ断層撮影、INVEON、シーメンス、米国)により測定することができる。
【0018】
本発明の組成物は、筋肉量増加又は筋力増加により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防又は改善のために用いることができる。このような状態又は疾患として、例えば、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル、カヘキシア(がんや慢性疾患などの消耗性疾患が原因となり、食欲不振と代謝調節機構の障害による重度の骨格筋の萎縮と臓器の機能不全の病態を示す状態)等が挙げられる。フレイルは、筋肉量減少及び/又は筋力低下を含む身体的なフレイルを指す。一態様において、本発明の組成物は、このような状態又は疾患を予防又は改善するために使用され得る。一態様において、本発明の組成物を、このような状態又は疾患の予防又は改善が必要な対象に使用してもよい。
本明細書で状態又は疾患の予防は、状態又は疾患の発症を防止すること、状態又は疾患の発症を遅延させること、状態又は疾患の発症率を低下させること、状態又は疾患の発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の進行を遅延させること又は防止すること等を包含する。回復は、少なくとも部分的に回復させることを含む。
【0019】
本発明の組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
本発明の組成物は、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態で提供することができるが、これらに限定されるものではない。本発明の組成物は、それ自体が飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等であってもよく、これらに使用される添加剤等の製剤、素材であってもよい。本発明の組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。本発明の組成物は、筋肉量増加又は筋力増加のための剤ということもできる。
一態様において、本発明の組成物は、好ましくは経口用組成物である。本発明によれば、優れた筋肉量増加又は筋力増加作用を有する経口用組成物を提供することができる。経口用組成物として、飲食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品が挙げられ、好ましくは飲食品である。
【0020】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない限り、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物以外に、任意の添加剤、任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び成分は、組成物の形態等に応じて選択することができ、一般的に飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。
【0021】
本発明の組成物を飲食品とする場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物に、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、液剤、飲料、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
【0022】
本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物に、薬理学的に許容される賦形剤等を配合して、各種剤形の医薬品とすることができる。本発明の効果をより充分に得る観点から、医薬品又は医薬部外品の投与形態は、経口投与の形態が好ましい。剤形は、投与に適した剤形とすればよい。経口投与のための剤形として、例えば、錠剤、被覆錠剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸薬、カプセル剤、ドライシロップ剤、チュアブル剤等の経口用固形製剤;内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤が挙げられる。非経口投与のための剤型として、注射剤、点滴剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0023】
本発明の組成物を飼料とする場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物に、飼料に使用可能な成分を配合して飼料とすることができる。飼料としては、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ウマ等に用いる家畜用飼料;ウサギ、モルモット、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;イヌ、ネコ、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0024】
本発明の組成物を、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を用いて、一般的な方法により製造することができる。
【0025】
本発明の組成物中のジヒドロフェルラ酸及びその代謝物の含有量は、該組成物の形態等に応じて適宜設定することができる。例えば、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の含有量は、組成物中に0.0025~50重量%であってよい。一態様において、本発明の組成物を、飲食品、医薬品、医薬部外品等の経口用組成物とする場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の含有量は、組成物中に0.0025重量%以上であってよく、また、50重量%以下であってよく、10重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましい。一態様において、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の含有量は、本発明の組成物中に0.0025~10重量%が好ましく、0.0025~1重量%がより好ましい。ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の含有量は、公知の方法に従って測定することができ、例えば、HPLC法等を用いることができる。
【0026】
本発明の組成物は、その形態に応じた適当な方法で摂取又は投与することができる。本発明の組成物は、好ましくは、経口投与又は経口摂取される。
本発明の組成物の摂取量(投与量ということもできる)は特に限定されず、筋肉量増加効果又は筋力増加効果が得られるような量(有効量)であればよく、投与形態、投与方法等に応じて適宜設定すればよい。例えば、ヒト(成人)を対象に経口で投与する又は摂取させる場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の摂取量は、1日あたり、体重60kgあたり、ジヒドロフェルラ酸換算で1mg以上が好ましく、7.5mg以上がより好ましく、10mg以上がさらに好ましく、20mg以上がさらにより好ましく、22.5mg以上が特に好ましく、また、1000mg以下が好ましく、375mg以下がより好ましく、200mg以下がさらに好ましく、80mg以下がさらにより好ましく、75mg以下が特に好ましい。一態様として、ヒト(成人)を対象に経口で投与する又は摂取させる場合、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の摂取量は、1日あたり、体重60kgあたり、ジヒドロフェルラ酸換算で1~1000mgが好ましく、7.5~375mgがより好ましく、10~200mgがさらに好ましく、20~80mgがさらにより好ましく、22.5~75mgが特に好ましい。上記量を、例えば1日1回で又は2~3回に分けて経口投与又は摂取させることが好ましい。ヒト(成人)を対象に筋肉量増加効果又は筋力増加効果を得ることを目的として本発明の組成物を摂取させる場合は、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の摂取量が上記範囲となるように、本発明の組成物を対象に経口で摂取させる又は投与することが好ましい。
【0027】
一態様において、本発明の組成物は、その投与形態、投与方法等を考慮して、本発明の所望の効果が得られるような量、すなわち有効量のジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を含有することが好ましい。一態様として例えば、本発明の組成物が飲食品、経口用医薬品等の経口用組成物である場合、該組成物の成人1人1日あたり、体重60kgあたりの摂取量中に、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の含有量が、ジヒドロフェルラ酸換算で1~1000mgが好ましく、7.5~375mgがより好ましく、10~200mgがさらに好ましく、20~80mgがさらにより好ましく、22.5~75mgが特に好ましい。
【0028】
ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を、継続的に摂取(投与)することによって、筋肉量増加効果又は筋力増加効果が高まることが期待される。好ましい態様において、本発明の組成物は、継続して摂取されるものである。本発明の一実施態様において、本発明の組成物は、好ましくは4週間以上、より好ましくは8週間以上、さらに好ましくは12週間以上継続して摂取されることが好ましい。
【0029】
本発明の組成物を投与又は摂取させる対象(以下、単に投与対象ともいう)は、哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物)が好ましく、ヒトがより好ましい。また、本発明における投与対象として、筋肉量増加又は筋力増加を必要とする又は希望する対象が好ましい。例えば、上述した筋肉量が減少した又は筋力が低下した状態又は疾患の予防又は改善を希望する対象等が好適な対象として挙げられる。一態様において、本発明の組成物の投与対象は、中高年者が好ましく、高齢者がより好ましい。本発明において、中高年者は、例えば、40歳以上のヒトであってよい。高齢者は、例えば、60歳以上又は65歳以上のヒトであってよい。一態様において、本発明の組成物は、筋肉量増加又は筋力増加により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防又は改善等を目的として、健常な状態にある対象に対して用いることができる。一態様において、本発明の組成物は、運動効果を高めることを目的として、日常的に運動している対象に対して用いることができる。一態様において、本発明の組成物は、運動と組み合わせて使用されることが好ましい。例えば、運動前、運動中又は運動後の対象に本発明の組成物を投与することができる。運動と組み合わせて本発明の組成物を摂取することにより、筋肉量増加又は筋力増加効果をより多く得ることができる。
【0030】
本発明の組成物には、包装、容器又は説明書等に用途、有効成分の種類、上述した効果、使用方法(例えば、摂取方法、投与方法)等の1又は2以上を表示してもよい。本発明の組成物には、筋肉量増加作用若しくは筋力増加作用、又は、これらの作用に基づく作用を有する旨の表示が付されていてもよい。本発明の組成物には、例えば、「筋肉増加」、「筋肉改善」、「筋力増加」、「筋力改善」、「骨格筋肥大の促進」、「筋肉をつくる力をサポート」、等の1又は2以上の表示が付されていてもよい。
本発明の一態様において、本発明の組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。当該表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0031】
上述のように、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、筋肉量増加作用又は筋力増加作用を有するので、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を投与する、筋肉量増加又は筋力増加方法に使用することができる。ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を投与する、筋肉量増加又は筋力増加方法も本発明に包含される。
上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。
また、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、筋肉量増加又は筋力増加のために使用することができ、治療的に使用してもよく、非治療的に使用してもよい。
【0032】
ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を対象に投与することにより、mTOR経路を活性化して、筋肉においてタンパク質合成を促進することができる。一態様において、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物は、筋肉においてタンパク質合成を促進して筋肉量を増加又は筋力を増加させるために使用することができる。一態様において、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物は、筋肉量増加又は筋力増加によって、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル、カヘキシア等の状態又は疾患を予防又は改善するために使用することができる。
【0033】
上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を対象に投与する(摂取させる)ことが好ましい。上記方法及び使用においては、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を、経口投与(摂取)することが好ましい。上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。
【0034】
上記方法及び使用においては、所望の作用が得られる量(有効量)のジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を使用すればよい。ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の好ましい投与量、投与対象等は上述した本発明の組成物と同じである。ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物は、そのまま投与してもよいし、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物を含有する組成物として投与してもよい。例えば、上述した本発明の組成物を投与することができる。
【0035】
本発明は一態様において、筋肉量増加又は筋力増加用組成物を製造するための、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物の使用も包含する。筋肉量増加又は筋力増加用組成物及びその好ましい態様等は、上記の本発明の組成物及びその好ましい態様と同じである。本発明は、筋肉量増加又は筋力増加のために使用するジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物も包含する。本発明は、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイル又はカヘキシアの予防又は改善のために使用する、ジヒドロフェルラ酸及び/又はその代謝物も包含する。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
<実施例1>
マウス筋芽細胞株(C2C12細胞、ATCC社製)を用いた。C2C12細胞を96well plateに0.2×104cells/wellで播種し、10%FBS(ウシ胎児血清、Sigma-Aldrich社製)、1%抗生物質(ナカライテスク(株)製の抗生物質-抗真菌剤混合溶液)を含有するhigh glucose normal DMEM(Sigma-Aldrich社製)で、37℃で3日間培養した。C2C12細胞がコンフルエントになったことを確認し、以降の実験を行った。
【0038】
上記のFBS含有DMEM培地を、FBSを含有せず、1%抗生物質を含有するhigh glucose normal DMEM(SIGMA-Aldrich社製)(以下、FBS非添加培地という)に交換し、さらに20時間培養した。
【0039】
FBS非添加培地を、ジヒドロフェルラ酸(東京化成工業社製)、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体(Toronto Research Chemicals社製)又はIGF-1(Recombinant Analog human、Cell Sciences社製)を添加したFBS非添加培地に交換した。ジヒドロフェルラ酸の終濃度は、30μM、100μM、300μM又は1000μMとした。ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体の終濃度は、300μM又は1000μMとした。IGF-1は陽性対照として使用し、IGF-1の培地中の終濃度は100ng/mLとした。また、ジヒドロフェルラ酸、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体又はIGF-1を添加した培地とは別に、Dimethyl sulfoxide(DMSO)をFBS非添加培地に終濃度0.1%(v/v)で添加した培地(対照培地)を準備し、FBS非添加培地を、対照培地に交換した(陰性対照)。
【0040】
ジヒドロフェルラ酸を添加したFBS非添加培地、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体を添加したFBS非添加培地、IGF-1を添加したFBS非添加培地(陽性対照)又はDMSOを添加したFBS非添加培地(陰性対照)でC2C12細胞を1時間培養後、cell lysis buffer(Cell Signaling Technology社製)を添加して細胞を回収した。Cell lysis bufferには、Phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)を終濃度1mMとなるように添加して使用した。
【0041】
ELISA Kits(Cell Signaling Technology社製)を使用して、ELISA法にて添付のプロトコルに従い、S6K(ribosomal protein S6 kinase)のT(Thr)389残基のリン酸化量を測定し、試料中のタンパク質濃度あたりのリン酸化型S6K(T389)量を算出した。有意差検定は、Dunnettの検定により行った(有意水準:0.01、0.05又は0.1、陰性対照に対して)。
【0042】
結果を
図1に示す。
図1は、ジヒドロフェルラ酸またはジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体を添加した細胞のタンパク質濃度あたりのS6KのT389残基のリン酸化量を示すグラフである。
図1のグラフの縦軸は、陰性対照(C)における上記のリン酸化量を100としたときのリン酸化量の相対値を表す。
図1において、「C」は陰性対照を、「IGF」は陽性対照のIGF-1を、「HMPA」はジヒドロフェルラ酸を、「HMPA-GlcA」は、ジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体を、示す。
図1の結果は、いずれもn=4の平均値±標準誤差である(*:p<0.05、**:p<0.01、陰性対照に対して)。HMPAにおける30、100、300、1000は、それぞれ、培地中のジヒドロフェルラ酸濃度が30μM、100μM、300μM、1000μMであることを示す。HMPA-GlcAにおける300、1000は、それぞれ、培地中のジヒドロフェルラ酸のグルクロン酸抱合体濃度が300μM、1000μMであることを示す。
【0043】
図1から明らかなように、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物はS6Kのリン酸化を促進した。これらの結果から、ジヒドロフェルラ酸及びその代謝物は、タンパク質合成を促進する作用を有することが明らかとなった。