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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032385
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】空調システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/81 20180101AFI20240305BHJP
   F24F 11/83 20180101ALI20240305BHJP
   F24F 3/044 20060101ALI20240305BHJP
   F24F 13/068 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F24F11/81
F24F11/83
F24F3/044
F24F13/068 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136004
(22)【出願日】2022-08-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕
【テーマコード(参考)】
3L053
3L080
3L260
【Fターム(参考)】
3L053BB05
3L053BB07
3L080BA09
3L080BA12
3L080BB04
3L260BA02
3L260BA24
3L260EA07
3L260FA03
3L260FA10
3L260FC06
(57)【要約】
【課題】システム全体且つ全負荷領域で省エネルギー効果を得る。
【解決手段】
本発明は、室内からの還気を冷水コイル13a,13bの入口側に導く還気経路25a,25bと、室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路30a,30bと、該バイパス経路に設けられるバイパスダンパ31a,31bと、を備え、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成され、前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気ダクトを経由する空気と前記バイパスダクトを経由する空気との風量比を制御することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷水コイルに室内からの還気を通過させた後に室内に供給することで室内を冷房する空調システムにおいて、
室内からの還気を前記冷水コイルの入口側に導く還気経路と、
室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路と、
該バイパス経路に設けられるバイパスダンパと、
を備え、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成され、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御することを特徴とする空調システム。
【請求項2】
前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度と入口側の空気の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する請求項1に記載の空調システム。
【請求項4】
前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合に、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御する請求項2又は3に記載の空調システム。
【請求項5】
前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合された後の空気を室内に供給する給気ダクトに可変風量装置を備えた床吹出し空調システムに適用される請求項1~4のいずれかの請求項に記載の空調システム。
【請求項6】
室内からの還気を冷水コイルの入口側に導く還気経路を経由することで該冷水コイルを通過して冷却された空気と室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成された空調システムの制御方法において、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパス経路に設けられるバイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御することを特徴とする空調システムの制御方法。
【請求項7】
前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する請求項6に記載の空調システムの制御方法。
【請求項8】
前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度と入口側の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する請求項6に記載の空調システムの制御方法。
【請求項9】
前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御する請求項7又は8に記載の空調システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷水コイルに室内からの還気を通過させた後に室内に供給することで室内を冷房する空調システム及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、床吹出し空調システムでは、吹出し口と執務者との物理的距離が近くなり、ドラフトや冷気による不快感を執務者に与えることが懸念されるため、一般的には天井吹出し方式の空調システムより高めの給気温度で設計する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―322356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の床吹出し空調システムでは、天井吹出し方式の空調システムと比較すると、同じ熱量を処理するためには、多くの給気量が必要になるため、搬送動力が大きくなり、省エネルギー効果を十分に期待することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、省エネルギー効果を十分に期待することのできる空調システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するため、本発明は、冷水コイルに室内からの還気を通過させた後に室内に供給することで室内を冷房する空調システムにおいて、室内からの還気を前記冷水コイルの入口側に導く還気経路と、室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路と、該バイパス経路に設けられるバイパスダンパと、を備え、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成され、前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る空調システムは、前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御しても良い。
【0008】
本発明に係る空調システムは、前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度と入口側の空気の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御しても良い。
【0009】
本発明に係る空調システムは、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合に、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御しても良い。
【0010】
本発明に係る空調システムは、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合された後の空気を室内に供給する給気ダクトに可変風量装置を備えた床吹出し空調システムに適用されても良い。
【0011】
本発明は、室内からの還気を冷水コイルの入口側に導く還気経路を経由することで該冷水コイルを通過して冷却された空気と室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成された空調システムの制御方法において、前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパス経路に設けられるバイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る空調システムの制御方法は、前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御しても良い。
【0013】
本発明に係る空調システムの制御方法は、前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度と入口側の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御しても良い。
【0014】
本発明に係る空調システムの制御方法は、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御しても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、システム全体且つ全負荷領域で省エネルギー効果を得ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る空調システムの基本的な構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る空調システムにおいて、(a)はバイパスダンパの制御例を示す図、(b)はバイパスダンパの他の制御例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る空調システムの制御方法を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る空調システムの制御方法を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る空調システムの制御方法を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る空調システムと比較例の空調システムの各消費エネルギー量を比較して示す図である。
図7】比較例の空調システムの基本的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調システム及びその制御方法について説明する。
【0018】
[空調システムの基本的な構成]
まず、図1を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調システム10の基本的な構成について説明する。なお、以下の説明では、本発明を床吹出し空調システムに適用した場合について説明する。
【0019】
図1は本発明の実施の形態に係る空調システム10の基本的な構成を示す図である。空調システム10は、複数(図示では2台)の空調機12a,12bを備えている。各空調機12a,12bは、それぞれ、冷水コイル13a,13bと、送風機14a,14bと、を備えている。
【0020】
各空調機12a,12bの各冷水コイル13a,13bには、冷水配管15を介して、熱源である冷凍機11が接続されている。冷水配管15は、冷凍機11の入口側及び出口側に接続される主配管16と、主配管16から分岐して各冷水コイル13a,13bの入口側に接続される分岐往き配管17a,17bと、各冷水コイル13a,3bの出口側から主配管16に接続される分岐還り配管18a,18bと、を備えている。
【0021】
主配管16には、冷水循環ポンプ19と冷水往き温度センサー20とが設けられており、冷凍機11は、冷水往き温度センサー20により検出された冷水温度が予め設定された設定温度値となるように制御される。各分岐往き配管17a,17bには、それぞれ、冷水往き温度センサー21a,21bが設けられ、各分岐還り配管18a,18bには、それぞれ、二方弁22a,22b、及び冷水還り温度センサー23a,23bが設けられている。
【0022】
各空調機12a,12bには、送風機14a,14bから制御対象となる各執務ゾーンa,bの床下空間に接続される給気ダクト24a,24bと、各執務ゾーンa,bの天井から各空調機12a,12bに接続される還気ダクト25a,25bと、が設けられている。また、各空調機12a,12bには、外気導入用ダクト26a,26bが接続されている。
【0023】
給気ダクト24a,24bには、可変風量装置(VAV)27a,27bが設けられていると共に、各空調機12a,12bの出口側に給気乾球温度センサー28a,28b及び給気露点温度センサー29a,29bが設けられている。この給気乾球温度センサー28a,28bにより検出された給気温度に基づき、二方弁22a,22bの開度が制御され、冷水コイル13a,13bを流通する冷水量が制御される。
【0024】
還気ダクト25a,25bは、各空調機12a,12bの冷水コイル13a,13bの入口側に接続されている。また、還気ダクト25a,25bには、還気ダクト25a,25bから分岐して冷水コイル13a,13bの出口側に接続されるバイパスダクト30a,30bが設けられている。バイパスダクト30a,30bには、それぞれ、バイパスダンパ31a,31bが設けられている。
【0025】
また、制御対象となる各執務ゾーンa,bの室内には、室温を計測するための温度センサー32a,32bが設けられており、上記した各機器やセンサー等の制御機器は、制御装置(図示省略)によって制御される。
【0026】
[空調システムの制御方法]
次に、図1を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調システム10の基本的な制御方法について説明する。
【0027】
上記した構成を備えた空調システム10において、各執務ゾーンa,bの温度センサー32a,32bが検出し温度に基づき、可変風量装置(VAV)27a,27bが制御され、各執務ゾーンa,bに供給される風量が可変に制御される。
【0028】
この時、バイパスダクト30a,30bのバイパスダンパ31a,31bの開度は、冷水往き温度センサー21a,21bが検出した冷水の往き温度と冷水還り温度センサー23a,23bが検出した冷水の還り温度との差が一定となるように制御され、還気ダクト25a,25bを経由する空気とバイパスダクト30a,30bを経由する空気との風量比が制御される。すなわち、各空調機12a,12bへの還気の一部をバイパスダクト30a,30bを介して冷水コイル13a,13bの出口側に導くようにバイパスダンパ31a,31bの開度が制御される。
【0029】
そして、冷水コイル13a,13bを通過する風量がある程度少なくなると、冷水コイル13a,13bの過冷却により除湿量が大きくなるため、空調機出口の露点温度が低下し過ぎないように給気露点温度センサー29a,29bが検出した給気の露点温度に基づき、バイパスダンパ31a,31bの開度が抑制されるように制御される。
【0030】
ここで水など熱媒として空気を冷却・加熱する放熱器の特性として、設計条件で定めた送水温度と還水温度の差(往還温度差)は負荷が定格値より少なくなると(風量が減少したり、コイル入り口空気温度が設計値より低下したりした場合)、往還温度差が大きくなる特性を有している。
そこで、上記したようにバイパスダンパ31a,31bの開度が抑制されるように制御されることによって、冷水還り温度センサー23a,23bが検出した冷水の還り温度が所定温度より上昇した場合には、冷水往き温度センサー21a,21bが検出した冷水の往き温度と冷水還り温度センサー23a,23bが検出した冷水の還り温度との差が一定となるように、冷水往き温度センサー20の設定値を、還水温度に追従させて上昇させるように制御される。なお、空調機12a,12bが複数台設置される場合は、還水温度の
「平均」や「流量による加重平均」を求めることによって、或いは主配管16の還水管の温度によって、送水温度を可変させても良い。
【0031】
[実施例]
次に、図1図7を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調システム10の具体的な実施例について説明する。
【0032】
ここで、本実施例における空調システム10の主な機器の仕様及び試算条件を次のように想定した。
【0033】
・空調機12a,12b:定格風量時の機内静圧が500Pa、機外静圧が300Pa、同仕様の空調機が2台並列で同負荷処理時を想定し、機内静圧は空調機の通過抵抗が空調機の通過風量の2乗に比例し、機外静圧は、可変風量装置(VAV)の開度可変による抵抗曲線変化を加味した経験則から送風量に比例すると想定した。
・冷水コイル13a,13b:送水温度が12℃、往還温度差が6℃でコイル設計した場合を想定した。
・冷凍機11:汎用空冷ヒートポンプ(HP)チラーを想定し、送水温度可変によるCOPの変化を考慮した。
・冷水循環ポンプ19:二次ポンプ方式を想定し、定格揚程を20mAqとし、配管・機器抵抗は、制御弁(二方弁22a,22b)の開度可変による抵抗曲線変化を加味した経験則から水量に比例すると想定した。
【0034】
なお、本実施例の試算では、潜熱処理は別の空調機で行うことを想定し、冷水温度は 12℃として計算しているが、一般的な冷水温度である 7℃で送水する場合にも適応可能である。
【0035】
本実施例における空調システム10において、空調機12a,12bからの送風量が比較的多く、通過空気抵抗が大きい領域では、冷水コイル13a,13bの余剰能力を利用した過冷却空気とバイパス空気とを混合させることで、一定の省エネルギー効果を得ることができる。ただ、バイパス空気の風量を闇雲に増やして冷水コイル13a,13bの出口空気温度を極端に下げ過ぎると、冷水コイル13a,13bで不必要な除湿をしてしまい、一定の空気温度まで冷却するには冷水量と冷熱量が増大して却って熱源の消費エネルギーが増加することも考えられる。
【0036】
そこで、本実施例における空調システム10では、冷水コイル13a,13bで無駄に過冷却をしないようにするため、空調機出口の露点温度の設定値を定め、給気空気が設定した露点温度値以下にならないように(すなわち、無駄な除湿をしないように)バイパスダンパ31a,31bの開度を抑制するように過除湿抑制制御を行っている。
【0037】
具体的には、バイパスダンパ31a,31bを開く程、冷水コイル13a,13bによる冷却が必要になり除湿する側に作用するので、図2(a)に示すように、空調機出口の露点温度が所定温度(例えば、15DP℃)以下の場合には、還気のバイパス量を抑制するためにバイパスダンパ31a,31bを閉じる方向に制御する。なお、この時、図2(b)に示すように、冷水コイル13a,13bの出口側の空気の露点温度と入口側の空気の露点温度との差が所定温度(例えば、0℃)以下の場合に、バイパスダンパ31a,31bを閉じる方向に抑制してもよい。
【0038】
図3は、本実施例における空調システム10において、送水温度を12℃の一定とし、上記した過除湿抑制制御を行いつつ、空気搬送動力と水搬送動力の合計エネルギー消費量が最小となる最適バイパス風量比を求めた結果を示している。また、図3には、その時の冷水コイル13a,13bに対する送水温度及び還水温度を併記しており、左側縦軸にそれらの水温度(℃)、右側縦軸に最適バイパス風量比(%)、横軸に送風量比(%)を示している。ここで、横軸の送風量比は空調機給気送風量を空調機設計給気送風量で除した値である。
【0039】
図3に示されているように、本実施例における空調システム10の制御状態は、制御状態1と制御状態2の二つの状態に類別することができる。
【0040】
制御状態1は、上記した過除湿抑制制御が行われない状態(図3の送風量比が60%~100%の範囲)であり、空気搬送動力と水搬送動力の合計エネルギー消費量が最小となる最適バイパス風量比に制御すると、冷水コイル13a,13bに対する冷水の往還温度差は一定の最適値(図3では、18℃-12℃=6℃)になる。この値は、概ね冷水コイル設計条件である往還温度差と一致することから、逆に往還温度差がこの最適値になるようにバイパス風量比(すなわち、バイパスダンパ31a,31bの開度)を常に制御すれば、自ずと合計エネルギー消費量が最小となるように制御されることになる(以降、この時の制御を「VBV制御」と呼ぶ)。
【0041】
また、制御状態2は、上記した過除湿抑制制御が行われる状態(図3の送風量比が0%~60%の範囲)であり、バイパスダンパ31a,31bを往還温度差の最適値まで開放することができず、冷水コイル13a,13bに余剰能力が生じるため、還水温度が上昇(すなわち、往還温度差が拡大)する状態である。
【0042】
そこで、部分負荷時に冷水コイル13a,13bの往還温度差が最適値(設計温度差)になるように、冷凍機11の送水温度を上昇した還水温度に追従させて可変制御させており、これにより、冷凍機11と冷水循環ポンプ19の合計エネルギー消費量が最小となるように制御される(以降、この時の制御を「VWT制御」と呼ぶ)。
【0043】
次に、図4は、空気搬送動力を抑制するVBV制御と熱源効率を向上させるVWT制御のそれぞれについて試算した消費エネルギー量(消費エネルギー比)を送風量比毎に比較して示している。図4によれば、送風量比が大きい範囲ではVBV制御の方がVWT制御より省エネルギー効果が大きく、送風量が小さい範囲ではVWT制御の方がVBV制御より省エネルギー効果が大きくなることが分かる。
【0044】
そこで、図3に示されている制御状態2の範囲において、VBV制御時に過除湿抑制制御によりバイパスダンパ31a,31bの開度が抑制されて還水温度が上昇した場合には、還水温度から一定の温度差で送水温度を追従させて上昇させるVWT制御を行うことで、全送風量比域で省エネルギー効果を得ることができる(図4の破線参照)。この結果、図5に示すように、常に一定の往還温度差(=コイル設計条件の往還温度差)を維持しながら往還温度帯が高温側に移行する。
【0045】
なお、この場合、VBV制御とVWT制御は予め設定された送風量比(例えば、50%)によって切り替えるように制御しても良いし、或いは、VBV制御とVWT制御の分岐点をその時の外気条件や冷水の送還温度差、送風量比などのデータに基づきリアルタイムで効果が大きくなる制御方法を探りながら制御しても良い。
【0046】
図6は、本実施例に係る空調システム10と比較例である従来の空調システム1のそれぞれの場合について、合計エネルギー消費量を試算した結果を比較して示している。
【0047】
ここで、図7を参照しつつ、比較例である従来の空調システム1の基本的な構成について簡単に説明すると、比較例の空調システム1には、冷凍機(図示省略)から冷水が供給される冷水コイル2と、冷水コイル2の下流側に配置される送風機3と、を備える空調機4が設けられている。この空調機4からは、冷水コイル2で冷却された空気が給気ダクト5を介して執務ゾーンの床下空間に供給された後、還気ダクト6を介して空調機4の冷水コイル2の入口側に還気されるように構成されている。そして、給気ダクト5には、執務ゾーンの温度センサー(図示省略)により検出された温度に基づいて開度が制御される可変風量装置(VAV)7が設けられている。また、給気ダクト5に設置された給気乾球温度センサー8が検出した温度に基づき、冷水配管に設置された二方弁9の開度が制御され、冷水コイル2を流通する冷水量が制御されるようになっている。
【0048】
図7に示す比較例の空調システム1のように可変風量装置(VAV)7による変風量制御を想定した場合、部分負荷時に空調機4からの送風量が小さくなると、冷水コイル2からの還水温度は、送風量の減少に伴い徐々に高くなる。このような冷水コイル2の余剰能力によって生じる往還温度差の拡大は、水搬送ポンプの動力削減に充てられる。
【0049】
これに対して、図1に示す本実施例の空調システム10の場合、比較例の場合と同様に部分負荷時に冷水コイル13a,13bに余剰能力が生じるが、その余剰能力を利用して冷水コイル13a,13bを通過する空気を過冷却することで、バイパスダクト30a,30bを通って冷水コイル13a,13bの出口側に導かれた還気と混合しても所定の給気温度に調整することができる。例えば、空調機への全還気風量に対する冷水コイルを通過する風量の割合が70%の場合、冷水コイルを通過した15℃の空気と冷水コイルをバイパスした25℃の空気を7対3の割合で混合すると、給気温度が18℃になる。
【0050】
そこで、比較例の空調システム1と本実施例の空調システム10とを水搬送によるエネルギー消費量と空気搬送によるエネルギー消費量の合計エネルギー消費量で比較すると、図7に示すように、本実施例の空調システム10の方が 25%以上も省エネルギーになることが分かる。これは、本実施例の空調システム10の場合、冷水コイル13a,13bを通過する空気を過冷却にするために冷水コイル13a,13bへの通水量が多く必要となるため、比較例と比べて水搬送動力が大きくなるが、還気の一部をバイパスすることで空気抵抗が低減するため、空気搬送動力の低減効果の方が大きくなるからである。
【0051】
[本発明の実施の形態に係る空調システム及びその制御方法の効果]
上記したように本発明に係る空調システム10及びその制御方法によれば、空調還気の一部をバイパスし、冷水コイル13a,13bの出口空気とミキシングすることで、空気抵抗を削減して搬送動力を低減することができるため、システム全体で省エネルギー化を図ることができる。
【0052】
また、冷水の往還温度差を常に一定値(=コイルの設計条件)に保つという極めてシンプルな方法で、大風量時はバイパス風量で空気抵抗を低減し、バイパス風量が抑制される小風量領域では送水温度を上昇させることにより、熱源の省エネルギー効果を得ることができ、システム全体且つ全負荷領域で省エネルギー効果を得ることができる。
【0053】
なお、上記した本発明の実施の形態に係る空調システム10では、ダクトワーク(還気ダクト25a,25bとバイパスダクト30a,30b)によって、冷水コイル13a,13bを通過して冷却された空気と冷水コイル13a,13bを通過せずに冷却されなかった空気とが混合するように構成しているが、このようなダクトワークによらずに、空調機12a,12bの内部に冷水コイル13a,13bをバイパスする還気の経路を設けて該バイパス経路にバイパスダンパ31a,31bを組み込むことで、冷水コイル13a,13bを通過して冷却された空気と冷水コイル13a,13bを通過せずに冷却されなかった空気とが混合するように構成しても良い。
【0054】
また、上記した本発明の実施の形態では、本発明を床吹出し空調システムに適用した場合について説明したが、本発明に係る空調システム及びその制御方法は、クリーンルームやサーバールーム等においてドライコイルを使用した空調システム等、他の空調システムにも適用可能である。
【0055】
また、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係る空調システム及びその制御方法における好適な実施の形態について説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
10 空調システム
13a,13b 冷水コイル
25a,25b 還気ダクト(還気経路)
30a,30b バイパスダクト(バイパス経路)
31a,31b バイパスダンパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷水コイルに室内からの還気を通過させた後に室内に供給することで室内を冷房する空調システムにおいて、
室内からの還気を前記冷水コイルの入口側に導く還気経路と、
室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路と、
該バイパス経路に設けられるバイパスダンパと、
を備え、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成され、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御し、
前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する空調システム。
【請求項2】
冷水コイルに室内からの還気を通過させた後に室内に供給することで室内を冷房する空調システムにおいて、
室内からの還気を前記冷水コイルの入口側に導く還気経路と、
室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路と、
該バイパス経路に設けられるバイパスダンパと、
を備え、前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成され、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御し、
前記冷水コイルの出口側の空気の露点温度と入口側の空気の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する空調システム。
【請求項3】
前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合に、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御する請求項又はに記載の空調システム。
【請求項4】
前記還気経路を経由することで前記冷水コイルを通過して冷却された空気と前記バイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合された後の空気を室内に供給する給気ダクトに可変風量装置を備えた床吹出し空調システムに適用される請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項5】
室内からの還気を冷水コイルの入口側に導く還気経路を経由することで該冷水コイルを通過して冷却された空気と室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成された空調システムの制御方法において、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパス経路に設けられるバイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御し、
前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する空調システムの制御方法。
【請求項6】
室内からの還気を冷水コイルの入口側に導く還気経路を経由することで該冷水コイルを通過して冷却された空気と室内からの還気の一部を前記冷水コイルの出口側に導くバイパス経路を経由することで前記冷水コイルを通過せずに冷却されなかった空気とが混合されるように形成された空調システムの制御方法において、
前記冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように前記バイパス経路に設けられるバイパスダンパの開度を制御することにより、前記還気経路を経由する空気と前記バイパス経路を経由する空気との風量比を制御し、
前記冷水コイルに対する空気の出口側の露点温度と入口側の露点温度との差が所定温度以下の場合に、前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御する空調システムの制御方法。
【請求項7】
前記バイパスダンパの開度を抑制するように制御することにより前記冷水コイルからの還水温度が所定温度より上昇した場合、該冷水コイルに対する冷水の往還温度差が一定となるように該冷水コイルへの送水温度の設定値を該還水温度に追従させて上昇させるように制御する請求項5又は6に記載の空調システムの制御方法。