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特開2024-32391FRP積層配管部材の剥離推定方法及び剥離推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032391
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】FRP積層配管部材の剥離推定方法及び剥離推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/09 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01N29/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136014
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147599
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 匡孝
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】貴島 純次
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA08
2G047AB01
2G047AB05
2G047BA04
2G047BC01
2G047BC09
2G047CA01
2G047CA03
2G047GG20
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】簡便且つ安価にFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定できる非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】FRP積層配管部材の剥離推定方法では、打撃ハンマ13と、打撃ハンマ13に取り付けられた加速度センサ17とを備える測定装置を用いて、打撃ハンマ13によってFRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材Pの表面を叩打し、加速度センサ17によって打撃ハンマ13の加速度を経時的に測定し、測定された打撃ハンマ13の加速度に基づいて、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサとを備える測定装置を用いて、FRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定するFRP積層配管部材の剥離推定方法であって、
前記打撃ハンマによってFRP積層配管部材の表面を叩打して、前記加速度センサによって前記打撃ハンマの加速度を経時的に測定し、
測定された前記打撃ハンマの加速度に基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定することを特徴とするFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項2】
測定された前記打撃ハンマの加速度から、前記打撃ハンマの質量と前記打撃ハンマの加速度との積である打撃力の経時変化波形と、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZRと、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとの比である指標Iと、のうちの少なくとも一つを求め、増加開始してから再び初期値以下になるまでの間の前記打撃力の経時変化波形のピークの数、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一つに基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定し、
前記衝突速度Vaが、測定された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
反発速度Vrが、測定された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をFmaxとしたときに、前記打撃ハンマの質量と前記加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度とからFmaxが算出され、
前記機械インピーダンスZRが式ZR=Fmax/Vrによって求められると共に、前記指標Iが衝突速度Vaと反発速度Vrとの比として求められる、請求項1に記載のFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項3】
式I=Va/Vrによって前記指標Iを算出し、
前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iについて、それぞれ、閾値を予め定め、
前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であるとき、または、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在すると推定する、請求項2に記載のFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項4】
前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在する確率がより高いと推定する、請求項3に記載のFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項5】
前記FRP積層配管部材が、積層構造を有するFRP積層体を含んでおり、前記剥離欠陥が前記FRP積層体内の層間剥離である、請求項1から請求項4の何れか一項に記載のFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項6】
前記FRP積層配管部材が、母材層と、該母材層を被覆するFRPライナ層とを含んでおり、前記剥離欠陥が前記母材層と前記FRPライナ層との剥離である、請求項1から請求項4の何れか一項に記載のFRP積層配管部材の剥離推定方法。
【請求項7】
FRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材の剥離欠陥を推定するFRP積層配管部材の剥離推定装置であって、
FRP積層配管部材の表面を叩打するための打撃ハンマと、
該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサと、
該加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度を経時的に記憶する測定値記憶部と、
前記測定値記憶部に記憶された前記加速度に基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定する剥離推定部と、
を備えることを特徴とするFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【請求項8】
前記剥離推定部は、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度から、前記打撃ハンマの質量と前記打撃ハンマの加速度との積である打撃力の経時変化波形と、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZRと、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとの比である指標Iと、のうちの少なくとも一方とを求め、増加開始してから再び初期値以下になるまでの間の前記打撃力の経時変化波形のピークの数、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一つに基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定し、
前記衝突速度Vaが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記反発速度Vrが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をFmaxとしたときに、前記打撃ハンマの質量と前記測定値記憶部に記憶された前記打撃ハンマの加速度とからFmaxが算出され、
前記機械インピーダンスZRが、式ZR=Fmax/Vrによって求められる、請求項7に記載のFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【請求項9】
前記機械インピーダンスZRと前記指標Iについて、それぞれ、前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせごとに、予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部をさらに備え、
前記剥離推定部は、式I=Va/Vrによって前記指標Iを算出し、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であるとき、または、測定対象の前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在すると推定する、請求項8に記載のFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【請求項10】
前記剥離推定部は、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、測定対象の前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在する確率がより高いと推定する、請求項9に記載のFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【請求項11】
前記FRP積層配管部材が、積層構造を有するFRP積層体を含んでおり、前記剥離欠陥が前記FRP積層体内の層間剥離である、請求項7から請求項10の何れか一項に記載のFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【請求項12】
前記FRP積層配管部材が、母材層と、該母材層を被覆するFRPライナ層とを含んでおり、前記剥離欠陥が、前記母材層と前記FRPライナ層との剥離である、請求項7から請求項10の何れか一項に記載のFRP積層配管部材の剥離推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打撃ハンマによる打撃に基づいて、FRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定する、FRP積層配管部材の剥離推定方法及び剥離推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは、Fiber Reinforced Plastics(繊維強化プラスチック)の略語であり、ガラス繊維やカーボン繊維などの強化繊維材料と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂材料とを組み合わせて作製した素材であり、合成樹脂材料と比較して強度が高い。このため、例えば、配管部材、自動車や鉄道車両の内外装部材、農業資材、バスルームのような住宅設備など、様々な工業製品に用いられている。
【0003】
工業製品では、繊維に合成樹脂を染み込ませて作製した複数の層を積層させた積層構造を有したFRPが用いられることが多い。このような積層構造を有したFRPに生じやすい欠陥の一つとして、層間剥離が挙げられる。また、FRP単体として使用されるだけではなく、例えば配管部材では、管の母材をFRPライニング層で被覆した積層配管部材なども多く見られる。このような構造の配管部材では、母材層とFRPライニング層との間の剥離も生じることがある。このように、積層構造を有したFRPから作製した配管部材や母材層にFRPライニング層を被覆した配管部材(以下では、PFR積層配管部材と記載する、)では、FRPの使用に起因する上述のような剥離欠陥が生じることがあり、強度の劣化などにつながるため、FRPの使用に起因する剥離欠陥の検査方法が求められている。
【0004】
FRP積層配管部材の剥離欠陥の発見のための非破壊検査方法としては、超音波探傷試験や放射線透過試験などが知られている。これらは、FRP積層配管部材における剥離欠陥の存在、位置、概略の大きさを知るために用いられる。しかしながら、超音波探傷試験では、FPR等の表面が平滑でない場合、検査機器と検査対象であるFRP積層配管部材との間に空間が生じないようにするためにジェルなどを塗布する必要があり、ジェル等の塗布やふき取りなどの手間がかかる。また、配管システム全体を検査対象とする場合など、検査対象によっては、検査時間が長くなるだけでなく、多くの検査費用が必要になる。さらに、放射線透過試験には、検査装置が高価であることに加えて、放射線の危険性もあり、長時間の検査が困難であるという問題もある。
【0005】
上述の問題を解決するために、特許文献1に記載されているように、FRP構造物の欠陥を定量的、非属人的に把握することを可能とするFRP構造物の非破壊検査方法も提案されている。特許文献1に開示されているFRP構造物の非破壊検査方法では、欠陥のない箇所とある箇所が把握されているFRPサンプルを用意し、欠陥のない箇所のFRPサンプルの表面をインパルスハンマで加振したときの、打音の周波数スペクトルに欠陥がある箇所よりも大きな値が現れる周波数帯をF1とし、欠陥のある箇所のFRPサンプルの欠陥箇所表面をインパルスハンマで加振したときの、打音の周波数スペクトルに欠陥がない箇所よりも大きな値が現れる周波数帯域をF2としたときに、検査対象となるFRP構造物の表面をインパルスハンマで加振したときの、F1における打音のデシベル合成値をdB1とし、F2における打音のデシベル合成値をdB2としたときのΔ=dB2-dB1を指標としている。また、特許文献1では、上記非破壊検査方法と、FRP表面をインパルスハンマで加振し、加振力の時間波形の幅を指標とするFRP構造物の非破壊検査方法とを併用することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-275742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に開示されているFRP構造物の非破壊検査方法では、指標を得るために打音周波数スペクトルの二つの特徴的な周波数帯域、すなわち、欠陥がある箇所よりも大きな値が現れる周波数帯域F1と、欠陥がない箇所よりも大きな値が現れる周波数帯域F2とを決定する必要がある。しかしながら、特許文献1に開示の方法では、周波数帯域F1及びF2の決定基準が明確ではなく、また、打音周波数のスペクトル波形は単純な形状とは限らないので、インパルスハンマによる加振に応答する打音周波数のスペクトル波形によっては、これらを正確に特定することができないだけでなく、応答する打音周波数のスペクトルそのものを確認できず、剥離欠陥の診断を正確にできない場合があり得る。
【0008】
よって、本発明の目的は、従来技術に存する問題を解決するために、簡便且つ安価にFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定できる非破壊検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み、本発明は、第1の態様として、打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサとを備える測定装置を用いて、FRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定するFRP積層配管部材の剥離推定方法であって、前記打撃ハンマによって積層配管部材の表面を叩打して、前記加速度センサによって前記打撃ハンマの加速度を経時的に測定し、測定された前記打撃ハンマの加速度に基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定するFRP積層配管部材の剥離推定方法を提供する。
【0010】
上記FRP積層配管部材の剥離推定方法では、加速度センサが取り付けられた打撃ハンマでFRP積層配管部材の表面を叩打することによって、FRP配管部材の剥離欠陥の有無を推定している。打撃ハンマによるFRP積層配管部材の表面への叩打は、打撃ハンマがFRP積層配管部材の表面に衝突してFRP積層配管部材が打撃ハンマからの力により変形していく貫入過程と、FRP積層配管部材の変形が最大となって変形からの復元に伴うFRP積層配管部材からの反発力により打撃ハンマが打撃方向とは反対方向に押し出されてFRP積層配管部材の表面から離脱する反発過程とに大別される。本発明者は、打撃ハンマによる叩打後のFRP積層配管部材の変形からの復元の際、すなわち反発過程において、FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無が打撃ハンマの加速度に影響を与えることを見出した。この知見を利用して、上記FRP積層配管部材の剥離推定方法では、打撃ハンマの加速度に基づいて、FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定している。ここで、FRP積層配管部材とは、複数のFRP層を積層した積層構造を有するFRP積層体から構成される配管部材と、母材層とこれを被覆する単層のFRPライニング層とによって構成される複合配管部材と、母材層とこれを被覆するFRP積層体(すなわち積層構造を有したFRP)からなるFRPライニング層とによって構成される複合配管部材とを含むものとする。また、FRP積層配管部材の剥離欠陥は、FRP積層体における層間剥離と、母材層とFRPライニング層との剥離とを含むものとする。
【0011】
上記FRP積層配管部材の剥離推定方法では、測定された前記打撃ハンマの加速度から、前記打撃ハンマの質量と前記打撃ハンマの加速度との積である打撃力の経時変化波形と、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZRと、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとの比である指標Iと、のうちの少なくとも一つを求め、増加開始してから再び初期値以下になるまでの間の前記打撃力の経時変化波形のピークの数、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一つに基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定し、前記衝突速度Vaが、測定された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、反発速度Vrが、測定された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をFmaxとしたときに、前記打撃ハンマの質量と前記加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度とからFmaxが算出され、前記機械インピーダンスZRが式ZR=Fmax/Vrによって求められると共に、前記指標Iが衝突速度Vaと反発速度Vrとの比として求められることが好ましい。
【0012】
打撃ハンマによる打撃力は、打撃ハンマの質量と打撃ハンマの加速度との積として算出される。本発明者は、FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在すると、打撃ハンマによる打撃力の経時変化波形において増加開始から再び初期値以下になるまでの間に複数のピークを生じ、ピークの数がFRP積層配管部材における剥離欠陥の有無の推定材料となり得ることを見出した。また、衝突速度Vaは貫入過程において打撃ハンマの加速度を0から最大値に増加するまで積分することによって算出され、反発速度Vrは反発過程において打撃ハンマの加速度を最大値から0に減少するまで積分することによって算出され、打撃ハンマがFRP積層配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値Fmaxは、打撃ハンマの質力mと最大加速度amaxとの積として算出される。式ZR=Fmax/Vrによって求められる値を反発過程における機械インピーダンスZRとし、衝突速度Vaと反発速度Vrとの比を指標Iとすると、機械インピーダンスZRと指標Iには、いずれも反発速度Vrが含まれ、FRP積層配管部材に剥離欠陥があれば、機械インピーダンスZRと指標Iに反映されるはずである。この予測から、本発明者は、反発過程の機械インピーダンスZRと指標IとがFRP積層配管部材の剥離欠陥の有無の推定材料になり得ることをさらに見出した。これらの知見から、本発明者は、打撃力の経時変化波形のピークの数、反発過程の機械インピーダンスZRと指標Iの少なくとも一つに基づいて、FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定できることを見出し、上記FRP積層配管部材の剥離推定方法において、加速度センサが取り付けられた打撃ハンマでFRP積層配管部材の表面を叩打することによって、FRP配管部材の剥離欠陥の有無を推定している。
【0013】
一つの実施形態として、式I=Va/Vrによって前記指標Iを算出し、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iについて、それぞれ、閾値を予め定め、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であるとき、または、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在すると推定するようにしてもよい。
【0014】
この場合、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在する確率がより高いと推定するようにすることができる。
【0015】
上記FRP積層配管部材の剥離推定方法には、前記FRP積層配管部材が、積層構造を有するFRP積層体を含んでおり、前記剥離欠陥が前記FRP積層体内の層間剥離である場合も含まれ、前記FRP積層配管部材が、母材層と、該母材層を被覆するFRPライナ層とを含んでおり、前記剥離欠陥が前記母材層と前記FRPライナ層との剥離である場合も含まれる。
【0016】
また、本発明は、第2の態様として、FRP層を含んだ積層構造を有するFRP積層配管部材の剥離欠陥を推定するFRP積層配管部材の剥離推定装置であって、FRP積層配管部材の表面を叩打するための打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサと、 該加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度を経時的に記憶する測定値記憶部と、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度に基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定する剥離推定部とを備えるFRP積層配管部材の剥離推定装置を提供する。
【0017】
上記FRP積層配管部材の剥離推定装置でも、上記FRP積層配管部材の剥離推定方法と同様に、FRP積層配管部材の表面を叩打したときの打撃ハンマの加速度に基づいて、FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定することができる。
【0018】
上記FRP積層配管部材の剥離推定装置では、前記剥離推定部は、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度から、前記打撃ハンマの質量と前記打撃ハンマの加速度との積である打撃力の経時変化波形と、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZRと、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとの比である指標Iと、のうちの少なくとも一つを求め、増加開始してから再び初期値以下になるまでの間の前記打撃力の経時変化波形のピークの数、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一つに基づいて、前記FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定し、前記衝突速度Vaが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記反発速度Vrが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記打撃ハンマが前記FRP積層配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をFmaxとしたときに、前記打撃ハンマの質量と前記測定値記憶部に記憶された前記打撃ハンマの加速度とからFmaxが算出され、前記機械インピーダンスZRが、式ZR=Fmax/Vrによって求められることが好ましい。
【0019】
一つの実施形態として、上記FRP積層配管部材の剥離推定装置は、前記機械インピーダンスZRと前記指標Iについて、それぞれ、前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせごとに、予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部をさらに備え、前記剥離推定部は、式I=Va/Vrによって前記指標Iを算出し、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、測定対象の前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在すると推定することができる。
【0020】
この場合、前記剥離推定部は、前記打撃ハンマによる前記打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、測定対象の前記FRP積層配管部材の管種及び呼び径の組み合わせに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記FRP積層配管部材に剥離欠陥が存在する確率がより高いと推定するようにしてもよい。
【0021】
上記FRP積層配管部材の剥離推定装置における剥離欠陥の推定には、前記FRP積層配管部材が、積層構造を有するFRP積層体を含んでおり、前記剥離欠陥が前記FRP積層体内の層間剥離である場合も含まれ、前記FRP積層配管部材が、母材層と、該母材層を被覆するFRPライナ層とを含んでおり、前記剥離欠陥が前記母材層と前記FRPライナ層との剥離である場合も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、打撃ハンマでFRP積層配管部材の表面を叩打して、打撃ハンマの加速度を測定するだけで、測定された打撃ハンマの加速度に基づいて、FRP積層配管部材の剥離欠陥の有無を推定することができる。したがって、簡便且つ安価な非破壊検査によって剥離欠陥の有無を推定できる。また、推定基準が明確であるので、推定できないケースがなく、自動化も容易である。さらに、診断対象となるFRP積層配管部材のみに非破壊検査を行って剥離欠陥の有無を診断することができるので、正確な診断のためのコストを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるFRP積層配管部材の剥離推定装置の全体構成図である。
図2図1に示されているFRP積層配管部材の剥離推定装置の機能ブロック図である。
図3図1に示されているFRP積層配管部材の剥離推定装置の打撃ハンマによってFRP積層配管部材を叩打したときの加速度波形図である。
図4】健全品のFRP積層直管に対して打撃ハンマで打撃を加えた実験で得られた打撃力の経時変化波形を示すグラフである。
図5図4の実験で使用されたものと同じ管種(材料構成及び構造)の剥離欠陥品のFRP積層直管に対して打撃ハンマで打撃を加えた実験で得られた打撃力の経時変化波形を示すグラフである。
図6】第1の管種の第1の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の機械インピーダンスZRを比較して示したグラフである。
図7】第1の管種の第1の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の剥離指標INDEXを比較して示したグラフである。
図8】第1の管種の第2の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の機械インピーダンスZRを比較して示したグラフである。
図9】第1の管種の第2の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の剥離指標INDEXを比較して示したグラフである。
図10】第1の管種の第3の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の機械インピーダンスZRを比較して示したグラフである。
図11】第1の管種の第3の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の剥離指標INDEXを比較して示したグラフである。
図12】第2の管種の第2の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の機械インピーダンスZRを比較して示したグラフである。
図13】第2の管種の第2の呼び径のFRP積層直管について、剥離欠陥品と健全品の剥離指標INDEXを比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明によるFRP積層配管部材の剥離推定方法及び剥離推定装置の実施の形態を説明する。
【0025】
最初に、図1及び図2を参照して、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定方法を実施することができるFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11の全体構成を説明する。なお、FRPとは、Fiber Reinforced Plasticsの略語であり、繊維強化プラスチックを意味する。FRPとして、例えばガラスマット、ロービングクロス、ガラスクロスなどにポリエステル樹脂を含侵させたものを使用することができる。FRPの製造方法は、一般的に、ガラス繊維やカーボン繊維などの繊維に合成樹脂を含侵させる方法と、細断した繊維と合成樹脂とを均一に混ぜ込んで成形する方法とがあり、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定方法及び剥離推定装置11の診断対象となるFRP積層配管部材Pに使用されるFRPは何れの方法で製造されたものも含み、診断対象となるFRP積層配管部材Pに使用されるFRPの製造方法は特に限定されるものではない。
【0026】
FRP積層配管部材Pの剥離推定装置(以下、単に「剥離推定装置」と記載する。)11は、FRP層を含んだ積層構造を有するパイプ、継手、エルボ、クロス、ソケット、ユニオン、バルブ、タンクなどのFRP積層配管部材Pの表面に打撃を与えて、内部に剥離欠陥が存在するか否かを推定する。剥離推定装置11は、FRP積層配管部材Pの表面を叩打して衝撃を与えるための打撃ハンマ13と、打撃ハンマ13の加速度の測定値の解析を行う測定解析装置15とを備える。ここで、本明細書中において、FRP積層配管部材Pには、複数種類のFRPを積層した積層構造を有するFRP積層体から構成される配管部材と、母材層とこれを被覆する単層のFRPライニング層とによって構成される複合配管部材と、母材層とこれを被覆するFRP積層体(すなわち積層構造を有したFRP)からなるFRPライニング層とによって構成される複合配管部材とを含むものとする。また、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥は、FRP積層体における層間剥離と、母材層とFRPライニング層との剥離とを含むものとする。母材層は、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(PVC-C)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの合成樹脂や、鋼、鋳鉄、非鉄金属などとすることができる。
【0027】
打撃ハンマ13は、FRP積層配管部材Pの表面を叩打するための打撃部13aと、作業者が把持するために打撃部13aに接続された把持部13bと、打撃部13aの打撃面とは反対側の面に取り付けられた加速度センサ17とを含んでおり、作業者が把持部13bを把持して打撃部13aによりFRP積層配管部材Pの表面を叩打して、叩打の際の打撃部13aの加速度を測定できるようになっている。また、加速度センサ17は、把持部13b内を通って外部まで延びるケーブル19を介して測定解析装置15に接続されており、加速度センサ17によって測定された測定信号(すなわち、打撃部13aの加速度)を測定解析装置15に伝達可能となっている。
【0028】
打撃部13aは、ある程度の質量mを有しており、FRP積層配管部材Pの表面を叩打できるものであれば、適宜の形状を採用することができる。また、加速度センサ17としては、圧電素子タイプ、半導体ゲージタイプ、抵抗線ひずみタイプなど適宜のタイプの加速度センサを用いることができる。
【0029】
測定解析装置15は、図2に詳細に示されているように、加速度センサ17からケーブル19を介して伝達された測定信号(打撃部13aの加速度)を記憶する測定値記憶部15aと、後述する機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXとについてそれぞれ予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部15bと、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの温度補正を行うためのデータを記憶する補正データ記憶部15cと、加速度センサ17による打撃ハンマ13の加速度の測定値に基づいてFRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定する剥離推定部15dと、剥離推定部15dによって推定された結果を表示するための表示部15eと、測定環境の温度を測定するための温度測定部15fとを含んでいる。
【0030】
打撃ハンマ13によってFRP積層配管部材Pの表面を叩打すると、FRP積層配管部材Pの表面は、打撃ハンマ13の打撃によって弾性変形又はこれに加えて僅かな塑性変形を生じ、同時に打撃ハンマ13はFRP積層配管部材Pの表面から変形による反力を受ける。この結果、打撃ハンマ13は、時刻t=T1に打撃ハンマ13の打撃部13aと衝突した後、FRP積層配管部材Pの表面からの反力によって、打撃部13aがFRP積層配管部材Pの表面に衝突した瞬間の衝突初速度(以下、単に「衝突速度」とも記載する。)Vaから加速度a(t)で減速されて時刻t=T2に速度0になり、さらに、衝突時の速度方向とは反対方向へ加速度a(t)で加速され、時刻t=T3にFRP積層配管部材Pの表面から打撃部13aが離れ、その瞬間に加速度a(t)が0になると共に反発速度が最大反発速度(以下、単に「反発速度」とも記載する。)Vrとなる。ここで、tは時間を意味し、加速度a(t)は時刻tにおける打撃ハンマ13の加速度を意味している。したがって、時刻t=T1から時刻t=T2まで加速度a(t)を積分することによって衝突速度Vaが算出され、時刻t=T2から時刻t=T3まで加速度a(t)を積分することによって反発速度Vrが算出される。また、打撃ハンマ13による打撃によって配管部材Pの表面に発生した打撃力F(t)は、打撃ハンマ13の質量をmとすると、式F(t)=m・a(t)によって求められる。
【0031】
FRP積層配管部材Pの変形はほとんどが弾性変形であると仮定すると、FRP積層配管部材Pの表面からの反発力は、打撃ハンマ13の速度Vが0になったときに最大になり、打撃ハンマ13の速度Vが0になったときに加速度a(t)が最大になる。したがって、時刻tにおける加速度a(t)は、図3に示されているように、打撃ハンマ13の打撃部13aがFRP積層配管部材Pの表面に衝突するときの時刻t=T1と、打撃ハンマ13の打撃部13aがFRP積層配管部材Pの表面から離れるときの時刻t=T3とに、0となり、打撃ハンマ13の速度Vが0となる時刻t=T2に最大値amaxになる。また、打撃力Fは、時刻t=T2に最大値Fmaxになり、Fmaxは式Fmax=m・amaxによって求められる。以下の説明では、時刻t=T1から時刻t=T2までを貫入過程、時刻t=T2から時刻t=T3までを反発過程と記載する。
【0032】
FRP積層配管部材P内に剥離欠陥が存在すると、FRP積層配管部材Pに打撃を与えたときの反発力も低下し、加速度の最大値amaxすなわち打撃力の最大値Fmax、並びに、最大反発速度Vrに影響があると考えられる。このことから、本発明者は、打撃ハンマ13による叩打後のFRP積層配管部材Pの変形からの復元の際、すなわち反発過程において、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無が打撃ハンマ13の加速度に影響を与え、最大打撃力Fmaxを最大反発速度Vrで除した値である反発過程の機械インピーダンスZR=Fmax/Vrと、衝突速度Vaと反発速度Vrとの比である剥離指標INDEX=Va/Vrとに基づいて、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定できることを見出した。剥離指標INDEXはVr/Vaとしてもよいことは言うまでもない。
【0033】
なお、反発過程の機械インピーダンスZRは衝突速度Vaに依存するFmaxを衝突速度Vaに依存するVrで除して得られるので、打撃速度に影響されない値となっており、剥離指標INDEXも衝突速度Vaと反発速度Vrとの比であるので、打撃速度に影響されない値となっている。したがって、打撃の強さには影響されない。また、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無の影響は、反発過程において現れるので、貫入過程の機械インピーダンスZA=Fmax/Vaではなく、反発過程の機械インピーダンスZR=Fmax/Vrを剥離欠陥の有無の推定の指標として採用している。
【0034】
さらに、本発明者は、FRP積層配管部材Pの反発過程の機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXとは、温度に依存することを見出した。この知見を利用して、後述する閾値を定めるための測定時の温度を基準にして、剥離欠陥の有無の推定のための測定時の温度を温度測定部15fによって測定し、測定された温度に基づいて、加速度の測定値から求めた反発過程の機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを温度補正することによって、より正確にFRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定することができるようになる。
【0035】
加えて、本発明者は、打撃ハンマ13の質量と打撃ハンマ13の加速度との積を打撃ハンマ13によりFRP積層配管部材Pに付与する打撃力としたときに、FRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する場合と剥離欠陥が存在しない場合との比較から、FRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在すると、加速度センサ17によって測定した打撃ハンマ13の加速度から求めた打撃力の経時変化波形のピークが二つ以上観測され、打撃力の経時変化波形のピークの数に基づいて剥離欠陥の有無を推定できることを見出した。ここで、打撃力の経時変化波形のピークの数は、打撃ハンマ13によるFRP積層配管部材Pへ打撃を与えて打撃力が増加を開始してから打撃力が再び初期値(打撃前の値)に戻るまでの経時変化波形のピークの数として算出されるものとする(打撃力が0又はそれ以下になって以降のピークの数は含まない)。
【0036】
本発明者による上記知見を利用して、剥離推定部15dは、加速度センサ17によって測定された打撃ハンマ13の加速度に基づいて、詳細には、加速度センサ17による打撃ハンマ13の加速度の測定値から求めた打撃ハンマ13による打撃力の経時変化波形のピークの数、加速度センサ17による打撃ハンマ13の加速度の測定値から求めた反発過程の機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXの少なくとも一つに基づいて、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定する。以下に、図示されている剥離推定装置11を用いて、加速度センサ17による打撃ハンマ13の加速度の測定値に基づいて、FRP配管部材Pの剥離欠陥の有無を推定する手順を詳細に説明する。
【0037】
最初に、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径の組み合わせごとに、剥離欠陥のない健全品と剥離欠陥のある剥離欠陥品とに複数のFRP積層配管部材Pを分け、それぞれについて、打撃ハンマ13による叩打を行って得た加速度a(t)の測定値から、反発過程の機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを算出して、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径の組み合わせごとに、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXについて健全品と剥離欠陥品とを区別するための閾値を予め定め、閾値記憶部15bに記憶しておく。閾値を定めるための打撃ハンマ13の加速度a(t)の測定は、特定の温度条件下で行うことが好ましい。なお、管種が特定されると、FRP積層配管部材で使用されるFRPや母材の材質(種類)、形状、積層構造などが特定される。また、配管部材の呼び径は規格に従って定められていることが一般的であることから、呼び径が特定されると、規格に基づいて外径及び厚さ(すなわち内径)が特定される。したがって、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径ごとに、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXについての健全品と剥離欠陥品との閾値を定めるとは、FRP積層配管部材PのFRPや母材の材質(種類)、形状、積層構造、外径及び厚さ(すなわち内径)ごとに、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXについての健全品と剥離欠陥品との閾値を定めることと等価である。
【0038】
また、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径ごとに、温度条件を変えながら打撃ハンマ13による叩打を行って加速度a(t)の測定を行い、加速度a(t)の測定値から、反発過程の機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを算出して、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径の組み合わせごとに、温度と機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXとの相関を予め求めておき、補正データ記憶部15cに予め記憶しておくことが好ましい。FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径の組み合わせごとに、温度と機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXとの相関を近似する近似関数を求め、求められた近似関数を補正データ記憶部15cに記憶しておいてもよい。また、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径の組み合わせごとに、閾値を定めるための測定時の温度条件を基準にして、それぞれの温度に対する温度補正係数を定め、温度補正係数を補正データ記憶部15cに記憶しておいてもよい。
【0039】
次に、打撃ハンマ13によって、診断の対象となるFRP積層配管部材Pの表面を叩打し、加速度センサ17によって測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)を経時的に測定して、測定値記憶部15aに記憶する。後述する最大打撃力Fmaxの上限及び下限を定めておき、最大打撃力がその間の範囲に属する場合の測定値のみを使用するようにすることが好ましい。加速度a(t)の経時的な測定値から加速度の最大値amaxとその値が観測された時刻T2が分かる。
【0040】
剥離推定部15dでは、予め知られている打撃ハンマ13の質量mと測定値記憶部15aに記憶された加速度a(t)の経時的な測定値とから、式F=m・a(t)によって、すなわち打撃ハンマ13の測定された加速度a(t)と打撃ハンマ13の質量mとの積として、打撃ハンマ13によってFRP積層配管部材Pに与えられる打撃力Fの経時変化波形が算出される。剥離推定部15dは、さらに、算出された打撃力Fの経時変化波形に基づき、打撃ハンマ13による打撃が開始されて打撃力Fが増加開始してから再び初期値に戻る(すなわち0又はそれ以下になる)までの間の打撃力Fの経時変化波形のピークの数を求め、これを第1の推定指標とし、打撃力の経時変化波形のピークが二つ以上である場合に、FRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する可能性があると推定する。
【0041】
また、剥離推定部15dでは、測定値記憶部15aに記憶された加速度a(t)の経時的な測定値から、加速度a(t)を0から最大値に増加するまでの時間(すなわち時刻T1から時刻T2まで)にわたって時間積分することによって衝突速度Vaが算出されると共に、加速度a(t)を最大値から再び0に減少するまでの時間(すなわち時刻T2から時刻T3まで)にわたって時間積分することによって反発速度Vrが算出される。測定値記憶部15aに記憶された経時的な加速度a(t)の測定値から最大加速度amaxが分かるので、予め知られている打撃ハンマ13の質量mと測定値記憶部15aに記憶された経時的な加速度a(t)の測定値とから、式Fmax=m・amaxによって、打撃ハンマ13の打撃部13aがFRP積層配管部材Pの表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値Fmaxが算出される。このようにして算出された衝突速度Va、反発速度Vr及び打撃力の最大値Fmaxから、剥離推定部15dは、式ZR=Fmax/Vr及び式INDEX=Va/Vrに基づいて、反発過程における機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを求める。
【0042】
また、剥離推定部15dは、温度測定部15fによって剥離欠陥の有無の推定のための測定時の温度を測定し、反発過程における機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを求めた後に、補正データ記憶部15cに記憶されている温度補正データに基づいて、測定時の温度条件に応じて、上述のようにして求められた機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを温度補正することが好ましい。温度補正は、上述したように、例えば、温度に対する機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの近似関数を補正データ記憶部15cに記憶しておき、補正データ記憶部15cに記憶された近似関数を用い行ってもよく、閾値を定めるための測定時の温度条件を基準にした各温度における機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXに対する補正係数を補正データ記憶部15cに記憶しておき、補正データ記憶部15cに記憶された補正係数を用いて行ってもよく、補正の方法は限定されるものではない。このように温度補正を行うことによって、より正確に剥離欠陥の有無を推定することが可能となる。
【0043】
剥離推定部15dは、温度補正を行う場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pの叩打による加速度の測定値から求められた機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXを上述した方法で温度補正した機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値を用いて、温度補正を行わない場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pの叩打による加速度の測定値から求められた機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値を用いて、それぞれ、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXのそれぞれの閾値の中において診断対象のFRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値と比較する。剥離推定部15dは、さらに、診断対象のFRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の少なくとも一方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の少なくとも一方を第2の推定指標とし、それらが、診断対象のFRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する可能性があると推定する。また、特に診断対象のFRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の両方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の両方が、診断対象のFRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合には、剥離推定部15dは、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する可能性がより高いと推定する。
【0044】
剥離推定部15dは、このように、打撃力の経時変化波形のピークの数、FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXの値の少なくとも一つを推定指標として用いて、(1)打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上である場合、または、(2)FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の少なくとも一方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の少なくとも一方が、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合に、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する、すなわち剥離欠陥品と推定し、推定結果を表示部15eに表示する。一方、剥離推定部15dは、打撃力の経時変化波形のピークの数が一つである場合、並びに、FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の両方又はそれらの温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の両方が、それぞれ、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値以上である場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在しない、すなわち健全品と推定し、推定結果を表示部15eに表示する。
【0045】
なお、上記(1)及び(2)の二つの要件を充足するときに、剥離推定部15dは、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する確率がより高い、すなわち剥離欠陥品である確率がより高いと推定し、その旨を表示部15eに表示するようにしてもよい。また、診断対象のFRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の両方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の両方が、診断対象のFRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合には、剥離推定部15dは、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する確率がより高い、すなわち剥離欠陥品である確率がより高いと推定し、その旨を表示部15eに表示するようにしてもよい。
【0046】
このように、剥離推定装置11を用いれば、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定方法を実施することができ、診断対象のFRP積層配管部材Pを叩打したときの打撃ハンマ13の加速度を測定することによって、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥の有無を簡単に推定することができる。特に、(1)打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、(2)FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の一方若しくは両方、または、その温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の一方若しくは両方が、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する可能性がより高いと推定することができる。もちろん、FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の両方、または、その温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の両方が、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合には、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する可能性がより高いと推定することもできる。
【0047】
したがって、剥離推定装置11を用いれば、配管システム全体の検査を行う場合でも、短い時間で且つ安価な費用で剥離欠陥が存在する箇所を推定することが可能となる。また、より正確な診断を要望する場合には、剥離欠陥品と推定されたFRP積層配管部材Pに対して、改めて、非破壊検査方法として従来から実施されている超音波探傷試験、放射線透過試験などや、破壊検査を行ってもよい。本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11やFRP積層配管部材Pの剥離推定方法により剥離欠陥が存在する剥離欠陥品と推定されたFRP積層配管部材Pのみに、従来から行われている非破壊検査を行えば、配管システム全体に従来の非破壊検査を行う場合よりも、検査時間を大幅に短縮できると共に、費用を大きく削減することが可能となる。また、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11やFRP積層配管部材Pの剥離推定方法を用いれば、FRP積層配管部材Pの剥離欠陥が存在する可能性が高い箇所を絞ることができるので、放射線透過試験の適用もしやすくなる。さらに、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11やFRP積層配管部材Pの剥離推定方法により剥離欠陥品と推定されたFRP積層配管部材Pのみに、破壊検査を行えば、必要最小限の部品交換で済むので、運転停止時間を短縮することも可能となる。
【実施例0048】
図4及び図5は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径300mmの硬質塩化ビニル製の直管の外周面にFRPライナ層を被覆して補強した同じ管種のFRP積層配管部材(旭有機材製:AV-GU)を試験体とし、健全品と剥離欠陥品のそれぞれについて複数の試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときの打撃ハンマ13の加速度a(t)を測定する実験を行って、測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)の実験結果から求めた、打撃ハンマ13から試験体に付与された打撃力(すなわち打撃ハンマ13の質量mと測定された加速度a(t))の時間変化波形を示したものである。図4は健全品の試験体に関する結果を示すグラフ、図5は剥離欠陥品の試験体に関する試験結果を示すグラフである。
【0049】
図4から分かるように、健全品では、打撃力の時間変化波形に関し、増加開始して再び初期値に戻った後に試験体からの反発力を受けて揺らぎが観測され、複数のピークが観測されるものの、打撃力が増加開始してから再び初期値に戻るまでには一つのピークしか観測されていない。一方、図5から分かるように、剥離欠陥品では、打撃力の時間変化波形に関し、打撃力が増加開始してから再び初期値に戻るまで二つ以上のピークが観測されている。したがって、打撃ハンマ13による叩打を行った際に測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)から求めた打撃力の時間変化波形に関し、一つのピークしか観測されていなければ健全品と推定できる一方、二つ以上のピークが観測されれば、剥離欠陥品の可能性があると推定できることが分かる。
【0050】
図6及び図7は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径25mmの硬質塩化ビニル製の直管の外周面にFRPライナ層を被覆して補強した同じ管種のFRP積層配管部材(旭有機材製:AV-GU)を試験体とし、健全品と剥離欠陥品のそれぞれの複数の試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを求める実験を行い、求められた機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを健全品と剥離欠陥品とで対比してプロットしたグラフである。図6は呼び径25mmの試験体に関する機械インピーダンスZRの試験結果を表すグラフ、図7は呼び径25mmの試験体に関する剥離指標INDEXの試験結果を表すグラフである。また、図6では、健全品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「×」でプロットされている。同様に、図7では、健全品の試験体から求められた剥離指標IDEXが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められ剥離指標INDEXが「×」でプロットされている。
【0051】
図8及び図9は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径100mmの硬質塩化ビニル製の直管の外周面にFRPライナ層を被覆して補強した図6及び図7に関する実験と同じ管種のFRP積層配管部材(旭有機材製:AV-GU)を試験体とし、健全品と剥離欠陥品のそれぞれの複数の試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを求める実験を行い、求められた機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを健全品と剥離欠陥品とで対比してプロットしたグラフである。図8は呼び径100mmの試験体に関する機械インピーダンスZRの試験結果を表すグラフ、図9は呼び径100mmの試験体に関する剥離指標INDEXの試験結果を表すグラフである。また、図8では、健全品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「×」でプロットされている。同様に、図9では、健全品の試験体から求められた剥離指標IDEXが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められ剥離指標INDEXが「×」でプロットされている。
【0052】
図10及び図11は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径300mmの硬質塩化ビニル製の直管の外周面にFRPライナ層を被覆して補強した図6及び図7に関する実験と同じ管種のFRP積層配管部材(旭有機材製:AV-GU)を試験体とし、健全品と剥離欠陥品のそれぞれの複数の試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを求める実験を行い、求められた機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを健全品と剥離欠陥品とで対比してプロットしたグラフである。図10は呼び径300mmの試験体に関する機械インピーダンスZRの試験結果を表すグラフ、図11は呼び径300mmの試験体に関する剥離指標INDEXの試験結果を表すグラフである。また、図6では、健全品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「×」でプロットされている。同様に、図7では、健全品の試験体から求められた剥離指標IDEXが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められ剥離指標INDEXが「×」でプロットされている。
【0053】
図6図8及び図10から、各呼び径について、健全品と剥離欠陥品とを区分する機械インピーダンスZRの閾値を定めることができ、呼び径に関わらず、診断対象のFRP積層配管部材で測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)から求められた機械インピーダンスZRが閾値を下回ると剥離欠陥品、閾値以上になれば健全品となることが分かり、機械インピーダンスZRが閾値を下回るか否かによって、診断対象における剥離欠陥の有無を推定できることが確認された。また、図7図9及び図11から、各呼び径について、健全品と剥離欠陥品とを区分する剥離指標INDEXの閾値を定めることができ、呼び径に関わらず、診断対象のFRP積層配管部材で測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)から求められた剥離指標INDEXが閾値を下回ると剥離欠陥品、閾値以上になれば健全品となることが分かり、剥離指標INDEXが閾値を下回るか否かによって、剥離欠陥の有無を推定できることが確認された。当然に、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの両方を推定指標として用い、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの両方がそれぞれに対して予め定められた閾値を下回ると、診断対象において剥離欠陥が存在する可能性がより高いと推定できることも分かる。さらに、図4に示されている実験結果と図10及び図11に示されている実験結果とから、打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上であり、かつ、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの両方がそれぞれに対して予め定められた閾値を下回ると、診断対象において剥離欠陥が存在する可能性がさらに高いと推定できることも分かる。
【0054】
図12及び図13は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径100mmの硬質塩化ビニル製の直管の外周面に、図8及び図9に関する実験と異なる材質で強度を落としたFRPライナ層を被覆して補強したFRP積層配管部材(旭有機材製:AV-SU)を試験体とし、健全品と剥離欠陥品のそれぞれの複数の試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを求める実験を行い、求められた機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXを健全品と剥離欠陥品とで対比してプロットしたグラフである。図12は呼び径100mmの試験体に関する機械インピーダンスZRの試験結果を表すグラフ、図12は呼び径100mmの試験体に関する剥離指標INDEXの試験結果を表すグラフである。また、図12では、健全品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められた機械インピーダンスZRが「×」でプロットされている。同様に、図13では、健全品の試験体から求められた剥離指標IDEXが「○」で、剥離欠陥品の試験体から求められ剥離指標INDEXが「×」でプロットされている。
【0055】
図8及び図9図12及び図13とから、異なる管種でも、健全品と剥離欠陥品とを区分する機械インピーダンスZRの閾値を定めることができ、管種に関わらず、診断対象のFRP積層配管部材で測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)から求められた機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXの少なくとも一方が予め定められた閾値を下回ると剥離欠陥品、閾値以上になれば健全品となることが分かり、機械インピーダンスZR及び剥離指標INDEXの少なくとも一方が閾値を下回るか否かによって、管種に関わらず、診断対象における剥離欠陥の有無を推定できることが確認された。機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの両方を推定指標として用い、機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの両方がそれぞれに対して予め定められた閾値を下回ると、診断対象において剥離欠陥が存在する可能性がより高いと推定できることも同様である。
【0056】
このように、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定方法及び剥離推定装置11によれば、打撃ハンマ13によってFRP積層配管部材Pの表面に打撃を与えて、打撃ハンマ13の加速度を測定し、測定された打撃ハンマ13の加速度に基づいて求められた打撃力の経時変化波形のピークの数と、FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の少なくとも一方とを推定指標として用いて、(1)打撃力の経時変化波形のピークの数が二つ以上である場合、または、(2)FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の少なくとも一方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の少なくとも一方が、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値を下回った場合に、診断対象のFRP積層配管部材Pに剥離欠陥が存在する剥離欠陥品と推定することができる。打撃力の経時変化波形のピークの数が一つである場合、並びに、FRP積層配管部材Pの機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの値の両方又はそれらの温度補正後の機械インピーダンスZR´と剥離指標INDEX´の値の両方が、それぞれ、FRP積層配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと剥離指標INDEXの閾値以上である場合には、診断対象の配管部材Pに剥離欠陥が存在しない健全品と推定することができる。したがって、簡便且つ安価な非破壊検査によって剥離欠陥の有無を推定できる。また、推定基準が明確であるので、推定できないケースがなく、自動化も容易である。さらに、診断対象となるFRP積層配管部材のみに非破壊検査を行って剥離欠陥の有無を診断することができるので、正確な診断のためのコストを低減させることが可能となる。
【0057】
以上、図示されている実施形態を参照して、本発明によるFRP積層配管部材Pの剥離推定方法及び剥離推定装置を説明したが、本発明は図示されている実施形態に限定されるものではない。例えば、図示されている実施形態のFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11では、測定解析装置15に表示部15eが備えられており、剥離欠陥の有無に関する推定結果が表示部15eに表示されるようになっているが、測定解析装置15が警報部を備え、剥離欠陥が存在すると推定されたときに警報部から警報音を発するようにすることも可能である。また、図示されるFRP積層配管部材Pの剥離推定装置11では、打撃ハンマ13と測定解析装置15が別体として構成されているが、測定解析装置15を打撃ハンマ13と一体的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
11 剥離推定装置
13 打撃ハンマ
13a 打撃部
13b 把持部
15 測定解析装置
15a 測定値記憶部
15b 閾値記憶部
15d 剥離推定部
15e 表示部
17 加速度センサ
図1
図2
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図5
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図13