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特開2024-32392真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032392
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/232 20060101AFI20240305BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240305BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20240305BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240305BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61L2/232
C11D7/26
C11D7/22
A01P3/00
A01N61/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136015
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 貴大
【テーマコード(参考)】
4C058
4H003
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA01
4C058BB07
4C058JJ04
4C058JJ27
4H003DA05
4H003DA12
4H003EB30
4H003EB33
4H003EB42
4H003FA34
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB19
4H011DH02
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を簡便に得ることができる、真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法を提供する。
【解決手段】〔1〕成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、真菌の付着抑制剤、及び、〔2〕成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、真菌の付着抑制方法である。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、真菌の付着抑制剤。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項2】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、構成菌に真菌を含むバイオフィルムの形成抑制剤。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項3】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、抗真菌剤。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項4】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、真菌の付着抑制方法。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項5】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、構成菌として真菌を含むバイオフィルムの形成抑制方法。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項6】
成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、抗真菌方法。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【請求項7】
前記処理工程は、前記固体の表面を、前記成分(A)を含む水溶液に浸漬させることにより行われる、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記処理工程後に、処理された固体の表面を水で濯ぐ工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記固体が、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である、請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性材料は、医療分野や衛生分野のみならず、日常の生活用品においても、需要が高まっている。抗菌性材料には、固体表面に付着した菌の増殖を抑制する抗菌剤や、殺菌剤、また、固体表面への菌の付着を抑制する菌付着抑制剤等がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸又はその誘導体やカルボキシメチルセルロースのエステルを、プラズマ処理した物体表面に、ポリエチレンイミンを用いて安定的な状態で結合させて被覆する方法により、物体表面への菌の付着を減少させることができると記載されている。
また、特許文献2には、微生物の表面への付着を阻害するための組成物として、種々の半合成ポリマー及び合成ポリマーから選ばれる1種以上を含む組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-80153号公報
【特許文献2】国際公開2016/018473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体表面へ菌が一度付着すると、固体表面に付着した菌が増殖し、バイオフィルムを形成する。固体表面に付着した菌や固体表面に形成されたバイオフィルムを取り除く作業には手間やコストもかかるため、固体表面への菌の付着を抑制することができる菌付着抑制剤や菌付着抑制方法への要望が高まっている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、物体表面を被覆するヒアルロン酸又はその誘導体やカルボキシメチルセルロースのエステルは、化学結合により安定的な状態で物体表面に結合されることによって、菌の付着を抑制できるとされており、安定的な結合のために、物体表面を、予め、プラズマ処理したり、他の化合物を用いて処理したりする必要があった。
また、特許文献2に記載の組成物では、グラム陽性黄色ブドウ球菌及びグラム陰性大腸菌に対して抗付着性があると記載されている。
しかしながら、微生物の中でも、かびや酵母等の真菌は、核膜を有する真核生物であり、大腸菌等の原核生物に属する細菌とは全く異なる細胞構造、増殖様式、生活環境、大きさ等を有する。そのため、真菌は固体表面へ付着し易く、種々の材質の固体の表面において、真菌の付着を効果的に抑制することができる技術が求められている。
【0006】
本発明は、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を簡便に得ることができる、真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定のセルロース誘導体及び/又は合成高分子を用いることにより、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を発揮することができることに着目し、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の[1]及び[2]に関する。
[1]成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、真菌の付着抑制剤。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
[2]成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、真菌の付着抑制方法。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を簡便に得ることができる、真菌の付着抑制剤及び真菌の付着抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[真菌の付着抑制剤]
本発明の真菌の付着抑制剤(以下、「真菌付着抑制剤」ともいう)は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0011】
本発明によれば、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を簡便に得ることができる。その理由は定かではないが、本発明においては、所定のセルロース誘導体及び/又は合成高分子の親水性(イオン性を含む)部分及び疎水性部分の寄与により、処理された固体表面の真菌に対する親和的な相互作用が抑制されて、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を発揮すると考えられる。
【0012】
<成分(A)>
〔(A1):セルロース誘導体〕
本発明の真菌付着抑制剤に用いられるセルロース誘導体(A1)は、ヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」と略記する場合もある)、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と略記する場合もある)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」と略記する場合もある)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と略記する場合もある)、及びメチルセルロース(以下、「MC」と略記する場合もある)からなる群から選ばれる。
【0013】
HECのアンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)エチレンオキシ基の平均モル数(エチレンオキシ基の置換度)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.5以上、より更に好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは3.5以下である。
HPCのアンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)プロピレンオキシ基の平均モル数(プロピレンオキシ基の置換度)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上、更に好ましくは3.0以上であり、そして、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.5以下である。
HPMCのアンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)プロピレンオキシ基の平均モル数(プロピレンオキシ基の置換度)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上、より更に好ましくは0.15以上、より更に好ましくは0.20以上であり、そして、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.30以下である。
HPMCのアンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)メチル基の平均モル数(メチル基の置換度)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.3以上、より更に好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
MCのアンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)メチル基の平均モル数(メチル基の置換度)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
セルロース誘導体(A1)のアルキレンオキシ基又はアルキル基の置換度は、Zeisel法〔Analytical Chemistry, Vol.51, No.13, 2172 (1979)、「日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」参照〕により求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。また、セルロース誘導体(A1)として、製品を入手して用いる場合には、セルロース誘導体(A1)のアルキレンオキシ基又はアルキル基の置換度は、製造社のヒドロキシアルコキシ基又はアルコキシ基の公表値を換算することで求めることもできる。
【0014】
CMCに含まれるカルボキシメチル基は塩を形成していてもよい。かかる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。入手容易性等の観点から、カルボキシメチルセルロースの塩としてはカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(カルボキシメチルセルロースナトリウム)がより好ましい。
CMCのカルボキシメチル基の置換度は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上、更に好ましくは0.60以上であり、そして、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.6以下である。
なお、カルボキシメチル基の置換度は、エーテル化度を意味する。
エーテル化度は、カルボキシメチルセルロースナトリウムである場合、例えばCMC工業会分析法(灰化法)に従い、以下の方法により測定できる。
〔カルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度の測定〕
カルボキシメチルセルロースナトリウム1gを精秤し、磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10硫酸でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、カルボキシメチルセルロースナトリウム1gあたりの滴定量YmLを次式に入れて計算し、求めたエーテル化度を示すことができる。
エーテル化度=(162×Y)/(10,000-80×Y)
【0015】
CMCの1質量%水溶液としたときの25℃における粘度は、B型粘度計における測定において、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは5,000mPa・s以下、より好ましくは3,000mPa・s以下、更に好ましくは1,000mPa・s以下、より更に好ましくは500mPa・s以下、より更に好ましくは100mPa・s以下、より更に好ましくは50mPa・s以下である。
【0016】
本発明にかかるHEC、HPC、HPMC、CMC、及びMCは、市販されており、市場からの入手も容易である。例えば、HECとしては、「Natrosol」シリーズ(アシュランド社製)が例示される。また、HPCは、信越化学工業株式会社、日本曹達株式会社等からも入手可能である。HPMC及びMCは信越化学工業株式会社から入手可能である。CMCとしては、「サンローズ」シリーズ(日本製紙株式会社製)が例示される。
【0017】
これらの中でも、セルロース誘導体(A1)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、HEC、HPC、HPMC、及びCMCからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、HEC、HPC、及びHPMCからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはHEC及びHPCからなる群から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはHECである。
【0018】
セルロース誘導体(A1)の重量平均分子量は、真菌付着抑制剤の取り扱い容易性や良好な真菌付着抑制効果を発揮させること等の観点から、好ましくは30,000以上、より好ましくは50,000以上、更に好ましくは80,000以上であり、そして、好ましくは5,000,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,000,000以下、より更に好ましくは1,000,000以下、より更に好ましくは500,000以下である。セルロース誘導体(A1)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
〔(A2):合成高分子〕
本発明の真菌付着抑制剤に用いられる合成高分子(A2)は、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる。
【0020】
本発明に係るポリビニルアルコールは、原料モノマーであるビニルエステル化合物由来の構成単位をケン化してなる構成単位(ビニルアルコール構成単位)を含む重合体である。ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール構成単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、ビニルエステル化合物由来の構成単位を更に含む共重合体であってもよい。
かかるビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビバリン酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、合成時の反応性及び入手容易性の観点から、酢酸ビニルが好ましい。これらのビニルエステル化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ポリビニルアルコールのケン化度は特に制限はなく、完全ケン化ポリビニルアルコール及び部分ケン化ポリビニルアルコールのいずれも用いることできるが、部分ケン化ポリビニルアルコールが好ましい。
完全ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましくは96mol%以上、より好ましくは97mol%以上、更に好ましくは98mol%以上であり、そして、好ましくは99.9mol%以下、より好ましくは99.5mol%以下、更に好ましくは99mol%以下である。
部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましくは70mol%以上、より好ましくは75mol%以上、更に好ましくは80mol%以上、より更に好ましく85mol%以上であり、そして、好ましくは93mol%以下、より好ましくは90mol%以下、更に好ましくは89mol%以下である。
ポリビニルアルコールのケン化度は、JIS K6726:1994に準じて測定される。
【0022】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは800以上、更に好ましくは1,000以上であり、そして、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下である。
ポリビニルアルコールの分子量は、重合度から計算により求めることができる。
重合度は、完全ケン化したポリビニルアルコール水溶液と水との相対粘度から算出することができる(JIS K6726:1994参照)。
ポリビニルアルコールは、重合度又はケン化度の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
ポリビニルアルコールの市販品としては、株式会社クラレ製の「クラレポバール」シリーズ等が挙げられる。
【0024】
本発明に係るアニオン変性ポリビニルアルコールは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基を有するポリビニルアルコールである。これらの中でも、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくはカルボキシ基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン性基が導入されたアニオン変性ポリビニルアルコールであり、より好ましくカルボン酸基が導入されたカルボン酸変性ポリビニルアルコール(以下、「カルボン酸変性ポリビニルアルコール」ともいう)である。
【0025】
カルボン酸変性ポリビニルアルコールとしては、(1)ポリビニルアルコールとカルボキシ基を有する不飽和単量体とのグラフト重合又はブロック重合により得られるもの、(2)ビニルエステル化合物と、カルボキシ基及びカルボン酸エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する不飽和単量体とを共重合した後、ケン化することにより得られるもの、(3)カルボキシ基を有する連鎖移動剤を用いてビニルエステル化合物を重合した後に、ケン化することにより得られるもの、及び(4)ポリビニルアルコールにカルボキシ化剤を反応させて得られるもの等が挙げられる。
【0026】
上記(1)及び(2)の方法で使用されるカルボキシ基を有する不飽和単量体、(2)の方法で使用されるカルボン酸エステル基を有する不飽和単量体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル;マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等のエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル等が例示される。また、カルボキシ基及びカルボン酸エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する不飽和単量体として、上記の化合物の塩を用いてもよい。これらの中でも、反応性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸モノエステルが好ましく、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルがより好ましく、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルが更に好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがより更に好ましい。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸又はアクリル酸を意味する。
【0027】
上記(2)及び(3)の方法で使用されるビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビバリン酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、合成時の反応性及び入手容易性の観点から、酢酸ビニルが好ましい。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記(4)の方法で使用されるカルボキシ化剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水グルタル酸、水添フタル酸無水物、ナフタレンジカルボン酸無水物等のカルボン酸無水物が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
アニオン変性ポリビニルアルコールのケン化度は、好ましくは70mol%以上、より好ましくは80mol%以上、更に好ましくは90mol%以上であり、そして、好ましくは99.9mol%以下、より好ましくは99.5mol%以下、更に好ましくは99mol%以下である。
アニオン変性ポリビニルアルコールのケン化度は、JIS K6726:1994に準じて測定される。
【0030】
アニオン変性ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは800以上、更に好ましくは1,000以上であり、そして、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下である。
アニオン変性ポリビニルアルコールの分子量は、重合度から計算により求めることができる。重合度は、完全ケン化したアニオン変性ポリビニルアルコール水溶液と水との相対粘度から算出することができる(JIS K6726:1994参照)。
アニオン変性ポリビニルアルコールは、重合度又はケン化度の異なるものを混合して用いてもよい。
【0031】
アニオン変性ポリビニルアルコールの市販品としては、株式会社クラレ製のKL-118、KL-318、KL-506、KM-118、及びKM-618;三菱ケミカル株式会社製のゴーセネックスT-330H、ゴーセネックスT-330、ゴーセネックスT-350、及びゴーセネックスCKS-50;日本酢ビ・ポバール株式会社のAP-17、AT-17、及びAF-17等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るポリビニルピロリドンは、N-ビニルピロリドン由来の構成単位を含む重合体である。ポリビニルピロリドンは、N-ビニルピロリドン由来の構成単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、N-ビニルピロリドン以外の他の不飽和単量体由来の構成単位を更に含む共重合体であってもよい。N-ビニルピロリドン以外の他の不飽和単量体としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビバリン酸ビニル等のビニルエステル化合物が挙げられる。
N-ビニルピロリドンと他の不飽和単量体との共重合体としては、N-ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、N-ビニルピロリドン/酢酸ビニル/プロピオン酸ビニル共重合体等が挙げられる。
ポリビニルピロリドンの全構成単位中のN-ビニルピロリドン以外の他の不飽和単量体由来の構成単位の含有量は、0mol%以上であり、そして、好ましくは5mol%以下、より好ましくは3mol%以下、更に好ましくは1mol%以下である。
ポリビニルピロリドンの市販品としては、日本触媒株式会社製のポリビニルピロリドンK-30、ポリビニルピロリドンK-85、及びポリビニルピロリドンK-90;大阪有機化学工業株式会社製のPVA-6450、及びアコーンM(N-ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体);BASFジャパン株式会社製のコリドン VA64(N-ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体)等が挙げられる。
【0033】
ポリアクリル酸又はその塩としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム等が挙げられ、好ましくはポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが挙げられる。
ポリアクリル酸又はその塩は、アクリル酸由来の構成単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、アクリル酸以外の他の不飽和単量体由来の構成単位を更に含む共重合体であってもよい。
アクリル酸以外の他の不飽和単量体としては、アクリル酸以外のカルボキシ基を有する不飽和単量体、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系化合物等が挙げられる。具体的には、他の不飽和単量体としては、マレイン酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、スチレン等が挙げられる。
ポリアクリル酸又はその塩の全構成単位中のアクリル酸以外の他の不飽和単量体由来の構成単位の含有量は、0mol%以上であり、そして、好ましくは5mol%以下、より好ましくは3mol%以下、更に好ましくは1mol%以下である。
【0034】
ポリスチレンスルホン酸又はその塩としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム等が挙げられ、好ましくはポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウムが挙げられる。
ポリスチレンスルホン酸又はその塩は、スチレンスルホン酸由来の構成単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、スチレンスルホン酸以外の他の不飽和単量体を更に含む共重合体であってもよい。
スチレンスルホン酸以外の他の不飽和単量体としては、カルボキシ基を有する不飽和単量体、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系化合物等が挙げられる。具体的には、他の不飽和単量体としては、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、スチレン等が挙げられる。
ポリスチレンスルホン酸又はその塩の全構成単位中のスチレンスルホン酸以外の他の不飽和単量体由来の構成単位の含有量は、0mol%以上であり、そして、好ましくは5mol%以下、より好ましくは3mol%以下、更に好ましくは1mol%以下である。
【0035】
これらの中でも、合成高分子(A2)は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びポリスチレンスルホン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、ポリビニルアルコール、及びアニオン変性ポリビニルアルコールからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアニオン変性ポリビニルアルコールである。
【0036】
合成高分子(A2)の重量平均分子量は、真菌付着抑制剤の取り扱い容易性や良好な真菌付着抑制効果を発揮させること等の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、そして、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、更に好ましくは100,000以下である。合成高分子(A2)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
本発明の真菌付着抑制剤に用いられる成分(A)は、良好な真菌付着抑制効果及び取り扱い容易性等の観点から、好ましくは水溶性である。
本明細書において「水溶性」とは、水に対する25℃における溶解度が0.1g/100g以上であることを意味する。
真菌付着抑制剤の安定性や適用する際の取り扱い容易性等の観点から、真菌付着抑制剤には、前記成分(A)以外の他の成分が含まれていてもよく、かかる他の成分としては、例えば、水、界面活性剤、有機溶剤、香料、pH調整剤等が挙げられる。有機溶剤は、好ましくは水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶剤である。
【0038】
<対象の真菌種>
本発明の真菌付着抑制剤は、種々の真菌に対して、良好な付着抑制効果を奏する。
本発明において、付着抑制の対象となる真菌種としては、例えば、ロドトルラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)等のロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロミケス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)等のカンジダ(Candida)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アルテルナリア(Alternaria)属、フォーマ(Phoma)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属などが挙げられる。これらの中でも、付着抑制の対象となる真菌種は、良好な真菌付着抑制効果の観点から、好ましくはロドトルラ・ムシラギノーサ及びカンジダ・パラプシローシスからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0039】
[構成菌に真菌を含むバイオフィルムの形成抑制剤]
本発明のバイオフィルムの形成抑制剤(以下、「バイオフィルム形成抑制剤」ともいう)は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む、構成菌に真菌を含むバイオフィルムの形成抑制剤である。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0040】
バイオフィルムは、固体表面に付着した菌及び菌が生成した菌体外多糖により形成される膜構造体である。構成菌に真菌を含むバイオフィルムの形成は、固体表面への真菌を含む菌の付着が前提となるため、固体表面への真菌を含む菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の真菌数が低減され、バイオフィルム形成が抑制される。
本発明のバイオフィルム形成抑制剤の構成は、前記真菌付着抑制剤と同様である。したがって、成分(A)及び対象の真菌種についての説明は、上述した真菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0041】
[抗真菌剤]
本発明の抗真菌剤は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0042】
抗真菌は、真菌の増殖を抑制することを意味し、固体表面における真菌の増殖は、固体表面への真菌の付着が前提となるため、固体表面への真菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の真菌数が低減され、真菌の増殖が抑制される。
本発明の抗真菌剤の構成は、前記真菌付着抑制剤と同様である。したがって、成分(A)及び対象の真菌種についての説明は、上述した真菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0043】
[真菌の付着抑制方法]
本発明の真菌の付着抑制方法(以下、「真菌付着抑制方法」ともいう)は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に前記成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む方法である。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0044】
本発明の真菌付着抑制方法は、所定のセルロース誘導体及び/又は合成高分子を含む溶液で、固体の表面に所定のセルロース誘導体及び/又は合成高分子を物理吸着させる処理を行うことにより、所定のセルロース誘導体及び/又は合成高分子の親水性(イオン性を含む)部分及び疎水性部分の寄与により、処理された固体表面の真菌に対する親和的な相互作用が抑制されて、種々の材質の固体の表面において、良好な真菌付着抑制効果を発揮すると考えられる。固体表面が大気中又は水中のいずれにある場合でも、良好な真菌付着抑制効果が得られ、好ましくは、固体表面が水中にある場合に、より良好な真菌付着抑制効果が得られる。
【0045】
成分(A)は、前記真菌付着抑制剤と同様である。したがって、成分(A)及びに対象の真菌種についての説明は、上述した真菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0046】
<固体>
本発明の真菌付着抑制方法は、固体の表面に対して処理をするものであり、処理対象の固体は、有機物及び無機物のいずれでもよく、また、複合材料であってもよい。前記固体としては、例えば、樹脂、金属、セラミックス、ガラス、繊維製品、紙、皮膚、毛髪等が挙げられる。
前記固体は、良好な真菌付着抑制効果が得られる材質として、好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは、ポリエステル、ポリスチレン、及びポリエチレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくはポリエステル、及びポリスチレンからなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくはポリエステル、又はポリスチレン、より更に好ましくはポリスチレンである。
上記の好適態様において、固体の好ましい材質として挙げたポリエステルとしては、良好な真菌付着抑制効果が得られる観点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0047】
<成分(A)を含む溶液>
本発明の真菌付着抑制方法においては、成分(A)を含む溶液で、処理対象の固体の表面に成分(A)を物理吸着させる。本発明で言う「物理吸着」とは、固体表面に化学反応を伴って吸着する化学吸着とは区別される。
固体表面に成分(A)を物理吸着させる処理は、バインダー等を用いる必要はなく、より簡便に、成分(A)を含む溶液を用いる処理のみで、良好な真菌付着抑制効果を得ることができる。
【0048】
成分(A)を含む溶液の溶媒としては、水又は有機溶媒を用いることができるが、簡便性及び安全性の観点から、水を主成分とするものが好ましい。また、成分(A)を含む溶液の溶媒は、本発明の効果を阻害しない範囲で、水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶媒を含んでもよい。成分(A)を含む溶液の溶媒中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%、すなわち、成分(A)を含む溶液は、水溶液であることが好ましい。
成分(A)を含む溶液の成分(A)の濃度は、処理の方法や、真菌の付着抑制の所望の程度等にもよるが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
成分(A)を含む溶液には、処理の際の取り扱い容易性等の観点から、成分(A)以外の他の成分が含まれていてもよく、かかる他の成分としては、例えば、界面活性剤、香料、pH調整剤等が挙げられる。
【0049】
本発明の真菌付着抑制方法において、成分(A)を含む溶液による固体の表面の処理は、例えば、浸漬、塗布、噴霧、流延等の方法により行うことができる。これらの方法のうち、前記処理は、固体の表面を均一に処理しやすい等の観点から、好ましくは、前記固体の表面を、成分(A)を含む水溶液に浸漬させることにより行われる。
本発明の真菌付着抑制方法は、前記固体の表面に未吸着の成分(A)を除去する観点から、前記処理工程後においては、処理された固体の表面を水で濯ぐ工程を更に含んでもよい。本発明の真菌付着抑制方法においては、処理された固体の表面を水で濯ぐ場合であっても、良好な真菌付着抑制効果を発揮することができる。なお、前記処理工程後、又は前記処理工程後に処理された固体の表面を水で濯いだ後においては、乾燥させる工程を更に含むことが好ましい。乾燥させる工程を更に含むことにより、処理対象の固体の表面への成分(A)の物理吸着が促進され、良好な真菌付着抑制効果を発現させることができると考えられる。
処理された固体の表面を濯ぐ際に用いる水は、特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、硬水、軟水等を用いることができる。
処理された固体の表面を濯ぐ際の水の量は、前記処理工程で用いる成分(A)1質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは200質量部以上、更に好ましくは400質量部以上であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは800質量部以下、更に好ましくは600質量部以下である。
例えば、成分(A)を含む溶液による固体の表面の処理として、成分(A)を含む水溶液に固体を浸漬させて固体の表面を処理する場合、好ましくは、洗浄等により表面を清浄にした固体を、成分(A)の濃度が0.01質量%以上5質量%以下の水溶液に、0.1時間以上24時間以下浸漬させた後、処理された固体の表面を水で濯ぎ、自然乾燥又はブロー乾燥する。
【0050】
[構成菌に真菌を含むバイオフィルム形成抑制方法]
本発明のバイオフィルム形成抑制方法は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む、構成菌として真菌を含むバイオフィルムの形成抑制方法である。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0051】
構成菌に真菌を含むバイオフィルムの形成は、固体表面への真菌を含む菌の付着が前提となるため、固体表面への真菌を含む菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の真菌数が低減され、バイオフィルム形成が抑制される。このため、本発明のバイオフィルム形成抑制方法の態様は、前記真菌付着抑制方法と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
[抗真菌方法]
本発明の抗真菌方法は、成分(A)として、下記の(A1)及び(A2)からなる群から選ばれる1種以上を含む溶液で、固体の表面に成分(A)を物理吸着させる処理工程を含む。
(A1)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A2)ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、及びポリスチレンスルホン酸又はその塩からなる群から選ばれる合成高分子
【0053】
抗真菌は、固体表面への真菌の付着が前提となるため、固体表面への真菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の真菌数が低減され、真菌の増殖が抑制される。このため、前記抗真菌方法の態様は、前記真菌付着抑制方法と同様であるため、説明を省略する。
【実施例0054】
本発明で用いるセルロース誘導体及び合成高分子の重量平均分子量は以下の方法により測定した。
【0055】
〔セルロース誘導体の重量平均分子量の測定〕
セルロース誘導体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の測定条件で求めた。
(測定条件)
・カラム:「TSKgel(登録商標) α-M」(東ソー株式会社製)
・カラム温度:40℃
・溶離液:エタノール/水(体積比3/7)、50mmol/L臭化リチウム、1質量%酢酸
・流速:0.6mL/min
・試料濃度:1mg/mL
・試料注入量:10μL
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・標準試料:ポリエチレングリコール
【0056】
〔合成高分子の重量平均分子量の測定〕
合成高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の測定条件で求めた。
(測定条件)
・カラム:「TSKgel(登録商標) α-M」(東ソー株式会社製)、2本
・カラム温度:40℃
・溶離液:ジメチルホルムアミド、50mmol/L臭化リチウム、60mmol/Lリン酸
・流速:0.6mL/min
・試料濃度:5mg/L
・試料注入量:100μL
・検出器:RI検出器
・標準試料:ポリスチレン
【0057】
本発明で用いるセルロース誘導体のZeisel法を用いたアルキレンオキシ基又はアルキル基の置換度の以下の方法により算出した。
【0058】
〔セルロース誘導体のZeisel法を用いたアルキレンオキシ基又はアルキル基の置換度の算出〕
以下の方法により測定されるヒドロキシアルキル基又はアルキル基の質量及び全サンプル質量からセルロース誘導体骨格の質量を計算し、それぞれ物質量(mol)に変換することで、アルキレンオキシ基又はアルキル基の置換度を算出した。
(ヒドロキシアルキル基又はアルキル基の質量の測定)
以下に、実施例1(HECを使用)のヒドロキシエチル基の場合を例に、ヒドロキシアルキル基又はアルキル基の質量の算出方法を説明する。他のヒドロキシアルキル基又はアルキル基の場合も、検量線用の試料(ヨードアルカン)を適宜選択することによって測定可能である。
粉末状のセルロース誘導体1gを100gの水に溶かした後、水溶液を透析膜(スペクトラ/ポア7(分画分子量1,000)、フナコシ株式会社製)に入れ、2日間透析を行った。得られた水溶液を、凍結乾燥機(FDU1100、東京理化器械株式会社製)を用いて凍結乾燥することで精製したセルロース誘導体を得た。
精製したセルロース誘導体65mg、アジピン酸(東京化成工業株式会社製)65mgを10mLバイアル(マイティーバイアルNo.3、株式会社マルエム製)に精秤し、内標溶液(n-オクタン(富士フイルム和光純薬株式会社製)/o-キシレン(東京化成工業株式会社製)=1/100(v/v)) 2mL及びヨウ化水素酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)2mLを加えて密栓した。また、セルロース誘導体の代わりにヨードエタン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を83、96、又は107mg加えた検量線用の試料を調製した。各試料をスターラーチップにより撹拌しながら、ブロックヒーター(Reacti-ThermIII Heating/Stirring Module、PIERCE社製)を用いて170℃、2時間の条件で加熱した。試料を放冷した後、上層(o-キシレン層)を回収し、ガスクロマトグラフィー(GC-2014、株式会社島津製作所製)にて、ヨードエタン量を分析した。
(GC分析条件)
・カラム:パックドカラム(液相:Silicone SE-30(30%)、担体:Chromosorb W 60/80 AW-DMCS、ガラス製(長さ:3.1m、内径:2.6mm))、信和化工株式会社製
・カラム温度:60℃(5分間保持)→昇温10℃/分→230℃(5分間保持)
・インジェクター温度:210℃
・検出器:FID
・検出器温度:230℃
・打ち込み量:1μL
GCにより得られたヨードエタンの検出量から、サンプル中のヒドロキシエチル基の質量を求めた。
【0059】
参考例1
固体の表面に対する真菌及び大腸菌の付着性を、以下の方法により確認した。
〔試料基板の作製〕
ポリエチレンテレフタレートの基板(25mm×75mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製)を用いて、洗浄操作(エタノールに30分間浸漬後、イオン交換水で片面30秒ずつすすぎ、窒素ガスブローにより乾燥させる)を行い、洗浄した基板を得た。この洗浄した基板から、12.5mm×25mm、厚さ1mmの試料基板を切り出した。
〔試験菌液の調製〕
・ロドトルラを用いた試験菌液の調製
グリセロールを添加して凍結保存した下記の菌体100μLを、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地;Difco Laboratories社製)で、30℃で48時間培養した。形成されたコロニーの一部を採取し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;カルシウム及びマグネシウム非含有、pH7.0~7.3)で、OD600が0.1となるように希釈して、試験菌液を調製した。
・大腸菌を用いた試験菌液の調製
グリセロールを添加して凍結保存した下記の菌体100μLを、LB寒天培地(LB培地20g;Difco Laboratories社製と、寒天15g;富士フイルム和光純薬株式会社製とを、蒸留水1000gに混合し、120℃で20分間オートクレーブ処理することで調製)で、37℃で24時間培養した。形成されたコロニーの一部を採取し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;カルシウム及びマグネシウム非含有、pH7.0~7.3)で、OD600が0.1となるように希釈して、試験菌液を調製した。
(菌体の種類)
・ロドトルラ:ロドトルラ・ムシラギノーサ;真菌
・大腸菌:エシェリヒア コリ(Escherichia coli NBRC3301);細菌
【0060】
〔菌付着試験〕
滅菌シャーレ(「アズノールシャーレ」、アズワン株式会社製;ポリスチレン製、直径40mm、高さ13.5mm)に、試料基板、及び試験菌液3mLを入れて、室温(25℃)下、110rpmで1時間振とうした。次いで、試料基板を取り出し、ビーカー内にてDPBS30mLで濯ぎ、試料基板を別のシャーレに移し替えた。その後、菌蛍光染色用色素(「-Bacstain-CFDA solution」、株式会社同仁化学研究所;二酢酸5(6)-カルボキシフルオレセインのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液)のDPBS1000倍(体積)希釈液3mLを滴下し、試料基板を浸漬させた。37℃で30分間静置後、試料基板を滅菌水で濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥した。
共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス株式会社製)にて、試料基板上の染色された菌の画像観察を行い、画像処理ソフト(「ImageJ」)により、菌付着面積を算出し、菌付着量とした。表1には、菌付着量の平均値と、大腸菌の菌付着量を100.0としたときの真菌(ロドトルラ)の菌付着量の相対値を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、ロドトルラ(真菌・酵母)は、大腸菌と比較して1400倍程度付着性が高いことが分かる。
【0063】
実施例1~17及び比較例1~3
成分(A)として下記の各試料0.1gにイオン交換水を加えて100.0gとして、0.1質量%試料水溶液(真菌付着抑制剤)を調製した。
下記の各種材質の基板を用いて、洗浄操作(エタノールに30分間浸漬後、イオン交換水で片面30秒ずつ濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥させる)を行った。次いで、この洗浄した基板を試料水溶液(真菌付着抑制剤)100gに12時間浸漬した後、50mLのイオン交換水で片面30秒ずつ濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥し、処理基板を得た。処理基板から、12.5mm×25mm、厚さ1mmの試料基板を切り出し、下記に示す真菌付着試験を行い、真菌付着抑制効果の評価を行った。
表2に、各試料基板の真菌付着抑制効果の評価結果を示す。
【0064】
真菌付着抑制剤に用いるセルロース誘導体及び合成高分子は、以下のとおりである。
<試料1:HEC>
ヒドロキシエチルセルロース(HEC):「Natrosol 250 GR」、アシュランド社製、重量平均分子量300,000、エチレンオキシ基の置換度2.5
<試料2:HPC>
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC):「NISSO HPC-L」、日本曹達株式会社製、重量平均分子量140,000、プロピレンオキシ基の置換度3.3
<試料3:HPMC>
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC):「メトローズ 60SH-10000」、信越化学工業株式会社製、重量平均分子量370,000(公表値)、プロピレンオキシ基の置換度0.25、メチル基の置換度1.90
<試料4:CMC>
カルボキシメチルセルロース(CMC):「サンローズ F01MC」、日本製紙株式会社製、1質量%水溶液としたときの25℃における粘度7~13mPa・s(公表値)、エーテル化度0.65~0.75(公表値)
<試料5:MC>
メチルセルロース(MC):「メチルセルロース50」、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量50,000、メチル基の置換度約1.83(富士フイルム和光純薬株式会社のホームページの製品情報(規格含量:メトキシ基(calculated on the dried basis):26~33%)の中央値29.5%から換算した値である)
<試料6:PVA>
ポリビニルアルコール(PVA):「クラレポバール22-88」、株式会社クラレ製、平均重合度1,700
<試料7:アニオン変性PVA>
アニオン変性ポリビニルアルコール(アニオン変性PVA):「KL-118」、株式会社クラレ製、平均重合度1,800
<試料8:PVP>
ポリビニルピロリドン(PVP):「ポリビニルピロリドンK30」、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量40,000
<試料9:PAA>
ポリアクリル酸(PAA):「ポリアクリル酸25,000」、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量25,000
<試料10:PSS>
ポリスチレンスルホン酸(PSS):「I10Y009」、Alfa Aesar社製、重量平均分子量70,000
<試料11:EO/POトリブロック共重合体>
ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン縮合物:「プルロニックP-85」、株式会社ADEKA
<試料12:ヒアルロン酸ナトリウム(1)>
「浸透型ヒアルロン酸(FCH-SU)」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製;重量平均分子量100,000(公表値)
<試料13:ヒアルロン酸ナトリウム(2)>
「FCH-60」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製;重量平均分子量600,000(公表値)
【0065】
真菌付着抑制剤を用いた処理に用いる各種材質の基板は、以下のとおりである。
・PET:ポリエチレンテレフタレート、25mm×75mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PC:ポリカーボネート、26mm×76mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・ABS:アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PE:ポリエチレン、25mm×75mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PS:ポリスチレン、10mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PP:ポリプロピレン、25mm×75mm、厚さ1mm、日本テストパネル株式会社製
・SUS:ステンレス鋼SUS304、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PVC:ポリ塩化ビニル、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
【0066】
<真菌付着抑制効果の評価>
〔試験菌液の調製〕
グリセロールを添加して凍結保存したロドトルラ(ロドトルラ・ムシラギノーサ;真菌)100μLを、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地;Difco Laboratories社製)で、30℃で48時間培養した。形成されたコロニーの一部を採取し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;カルシウム及びマグネシウム非含有、pH7.0~7.3)で、OD600が0.1となるように希釈して、試験菌液を調製した。
【0067】
〔真菌付着試験〕
滅菌シャーレ(「アズノールシャーレ」、アズワン株式会社製;ポリスチレン製、直径40mm、高さ13.5mm)に、試料基板、及び試験菌液3mLを入れて、室温(25℃)下、110rpmで1時間振とうした。次いで、試料基板を取り出し、ビーカー内にてDPBS30mLで濯ぎ、試料基板を別のシャーレに移し替えた。その後、菌蛍光染色用色素(「-Bacstain-CFDA solution」、株式会社同仁化学研究所;二酢酸5(6)-カルボキシフルオレセインのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液)のDPBS1000倍(体積)希釈液3mLを滴下し、試料基板を浸漬させた。37℃で30分間静置後、試料基板を滅菌水で濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥した。
共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス株式会社製)にて、試料基板上の染色された真菌の画像観察を行い、画像処理ソフト(「ImageJ」)により、真菌付着面積を算出した。表2に、試料水溶液(真菌付着抑制剤)未処理(ブランク)基板の真菌付着面積をS、試料基板の真菌付着面積をSとしたとき、100(1-S/S)で算出される値を、真菌付着抑制率[%]として示した。
真菌付着抑制率は、値が大きく、100%に近いほど、真菌付着抑制効果に優れていることを示している。真菌付着抑制率が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上であれば、真菌付着抑制効果が良好であるといえる。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から、真菌付着抑制剤として、EO/POトリブロック共重合体又はヒアルロン酸ナトリウムを用いた場合(比較例1~3)は、十分な真菌付着抑制効果が得られなかった。一方、本発明の所定のセルロース誘導体又は合成高分子を用いた場合(実施例1~17)には、良好な真菌付着抑制効果が得られることが認められた。
また、表2から、試料1による真菌付着抑制剤は、各種材質の基板においても(実施例1,11~17)、高い真菌付着抑制効果を示すことが認められた。本発明によれば、試料1により示された効果は試料1以外の他の試料においても同様の効果を期待できる。