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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032393
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240305BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20240305BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136017
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】張 飛
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA29
5H770BA11
5H770DA11
5H770DA23
5H770GA03
5H770GA04
5H770LB05
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】通信路に異常を生じた場合に、安全に運転を停止することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る電力変換装置は、直列接続の複数の単位変換器を含む電力変換器と、前記複数の単位変換器のそれぞれの状態である状態データにもとづいて前記複数の単位変換器のそれぞれのための制御データを含むシリアルデータを生成する制御装置と、を備える。前記シリアルデータは、前記制御装置が直前に送信したシリアルデータから区別する第1データを含む。前記複数の単位変換器は、前記直前に送信したシリアルデータの第1データの直前値を記憶し、前記現在送信したシリアルデータを受信して、前記現在送信した前記シリアルデータの第1データの現在値と前記直前値とにもとづいて、前記シリアルデータが異常か否かを判定する第1通信異常検出手段をそれぞれ有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の単位変換器を含む電力変換器と、
前記複数の単位変換器のそれぞれの状態にもとづいて更新された状態データを受信して前記複数の単位変換器のそれぞれの動作を制御するための制御データを含むシリアルデータを生成して送信する制御装置と、
を備え、
前記複数の単位変換器および前記制御装置は、デイジーチェーン接続された通信路を介して前記シリアルデータを転送し、
前記シリアルデータは、前記制御装置が現在送信した前記シリアルデータを、前記制御装置が直前に送信した前記シリアルデータから区別するための値を有する第1データを含み、
前記複数の単位変換器は、
前記直前に送信したシリアルデータの前記第1データの値である直前値を記憶し、
前記現在送信した前記シリアルデータを受信して、前記現在送信した前記シリアルデータの前記第1データの値である現在値と前記直前値とにもとづいて、現在送信した前記シリアルデータの転送が異常か否かを判定する第1通信異常検出手段をそれぞれ有し、
前記制御装置は、前記直前値を記憶し、前記現在値と前記直前値とにもとづいて、現在送信した前記シリアルデータの転送が異常か否かを判定する第2通信異常検出手段を有し、
前記第1通信異常検出手段および前記第2通信異常検出手段は、自己が受信した前記現在送信した前記シリアルデータの転送が異常であると判定した場合には、前記シリアルデータの転送が異常であると判定した回数をそれぞれ記憶し、
前記第1通信異常検出手段は、前記シリアルデータの転送が異常であると判定した前記回数が2以上の所定値に達した場合に、自己の変換器の動作を停止させる電力変換装置。
【請求項2】
前記第1通信異常検出手段は、
前記シリアルデータを一時的に格納し、前記シリアルデータが格納された場合にフラグビットを有するデータバッファと、
前記フラグビットが反転した場合に、前記シリアルデータの前記第1データの値を検査する通信異常検出回路と、
を含む請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記通信異常検出回路は、前記シリアルデータが異常であると判定された前記回数が所定値に達した場合に、ゲートブロック信号を生成して、自己の変換器の動作を停止させる請求項2記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流に変換し、あるいは直流を交流に変換する電力変換装置がある。自己消弧形の半導体スイッチング素子を用いることによって小型化をはかりつつ、大容量化を実現することができる電力変換方式として、モジュラーマルチレベルコンバータ(Modular Multilevel Converter、MMC)の実用化が進められている。
【0003】
MMCでは、電力変換器に多数の単位変換器が実装されており、それぞれが高電圧を取り扱うため、制御装置とのデータの伝送に光ファイバケーブルを用いる。制御装置と単位変換器との通信を1対多で行うと、単位変換器の台数分だけ光ファイバケーブルを必要となり、高コストとなる。これを回避するために、制御装置と各単位変換器とをループ状にデイジーチェーン接続とすることがある。
【0004】
デイジーチェーン接続された通信路では、通信路に異常が生じた場合には、データの転送が遮断されるため、電力変換装置の運転を継続することができない。
【0005】
データの転送が遮断されたシステムを放置すると、電力変換器の故障に至る場合もある。そのため、通信路の異常によりデータの転送が遮断された場合には、電力変換器の運転を強制的に停止する必要がある。
【0006】
一方で、電力変換器を停止させるための信号を異常が生じた通信路を介して送信しても、すべての単位変換器に停止のための信号を送信することが困難である。異常時用の通信路を別途用意したのでは、装置のコストの増大、装置の設置期間の長期化、さらにはメンテナンスの工数も増大するとの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-100398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態は、通信路に異常を生じた場合に、安全に運転を停止することができる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る電力変換装置は、直列に接続された複数の単位変換器を含む電力変換器と、前記複数の単位変換器のそれぞれの状態にもとづいて更新された状態データを受信して前記複数の単位変換器のそれぞれの動作を制御するための制御データを含むシリアルデータを生成して送信する制御装置と、を備える。前記複数の単位変換器および前記制御装置は、デイジーチェーン接続された通信路を介して前記シリアルデータを転送する。前記シリアルデータは、前記制御装置が現在送信した前記シリアルデータを、前記制御装置が直前に送信した前記シリアルデータから区別するための値を有する第1データを含む。前記複数の単位変換器は、前記直前に送信したシリアルデータの前記第1データの値である直前値を記憶し、前記現在送信した前記シリアルデータを受信して、前記現在送信した前記シリアルデータの前記第1データの値である現在値と前記直前値とにもとづいて、現在送信した前記シリアルデータの転送が異常か否かを判定する第1通信異常検出手段をそれぞれ有する。前記制御装置は、前記直前値を記憶し、前記現在値と前記直前値とにもとづいて、現在送信した前記シリアルデータの転送が異常か否かを判定する第2通信異常検出手段を有する。前記第1通信異常検出手段および前記第2通信異常検出手段は、自己が受信した前記現在送信した前記シリアルデータの転送が異常であると判定した場合には、前記シリアルデータの転送が異常であると判定した回数をそれぞれ記憶する。前記第1通信異常検出手段は、前記シリアルデータの転送が異常であると判定した前記回数が2以上の所定値に達した場合に、自己の変換器の動作を停止させる。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態では、通信路に異常を生じた場合に、安全に運転を停止することができる電力変換装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図2】実施形態に係る電力変換装置の一部である単位変換器を例示するブロック図である。
図3】実施形態に係る電力変換装置の通信路を転送されるシリアルデータを例示する模式図である。
図4】実施形態に係る電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
図5】比較例の電力変換装置の動作を説明するための模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図1に示すように、実施形態の電力変換装置10は、電力変換器20と、制御装置50と、を備える。電力変換装置10は、交流端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。この例のように、電力変換装置10は、変圧器2を介して、交流回路1に接続されてもよい。たとえば、交流回路1は、三相または単相の50Hzもしくは60Hzの交流電源、交流負荷および交流の送電線を備える電力系統とすることができる。
【0014】
電力変換装置10は、直流端子21d、21eを介して、直流回路に接続される。直流回路は、たとえば直流送電線等を含む直流の電力系統である。
【0015】
電力変換装置10は、交流回路1と直流回路との間に接続され、交流電圧を直流電圧に変換する。また、電力変換装置10は、直流電圧を交流電圧に変換する。電力変換装置10は、一方向の電力変換を行ってもよいし、双方向の電力変換を行うようにしてもよい。
【0016】
電力変換器20は、交流の各相に対応したアーム22を含む。この例のように、交流回路1が三相交流の場合には、電力変換器20は、6つのアーム22を含む。相ごとに設けられた2つのアーム22は、直流端子21d、21e間で直列に接続されている。
【0017】
直流端子21d、21e間で直列に接続されるアーム22には、バッファリアクトル24がそれぞれ直列に接続されている。
【0018】
各相に対応した高電位側および低電位側のアーム22に接続されたバッファリアクトル24の接続ノードは、交流端子21a~21cに接続されている。
【0019】
アーム22は、直列の接続された複数の単位変換器30を含む。単位変換器30は、アーム22当たりn台直列接続されているものとする。nは2以上の整数である。
【0020】
この例では、U相の高電位側のアーム22には、高電位側から低電位側に向かって、UP1、UP2、…UPnのように、n台の単位変換器30が直列に接続されている。U相の低電位側のアーム22にも高電位側から低電位側に向かって、UN1、UN2、…UNnのように、n台の単位変換器30が直列に接続されている。V相およびW相についても同様に、それぞれの高電位側のアームおよび低電位側のアーム22には、n台の単位変換器30が直列に接続されている。
【0021】
各単位変換器30は、通信異常検出部32を含む。制御装置50は、通信異常検出部52を含む。各単位変換器30および制御装置は、通信異常検出部32、52を介して、ループ状にデイジーチェーン接続されている。
【0022】
この例では、U相~W相に光ファイバケーブル60u~60wがそれぞれ設けられている。たとえば、U相では、光ファイバケーブル60uは、制御装置50、単位変換器UP1、UP2、…UPn、UN1、UN2、…UNnおよび制御装置50の順にデイジーチェーン接続のループを形成し、この順にデータが転送される。V相およびW相についても同様に、光ファイバケーブル60v,60wによって、制御装置50と各単位変換器30とがデイジーチェーン接続され、データが転送される。
【0023】
デイジーチェーンのループは、上述に限らず、すべての相を1つのデイジーチェーンのループで接続してもよいし、アーム22ごとにデイジーチェーンのループを形成するようにしてもよい。また、アーム22をいくつかに分割して、分割された部分ごとにデイジーチェーンのループを形成するようにしてもよい。このように、デイジーチェーンの構成は、アーム22内の単位変換器30の台数等に応じて、適切かつ任意に設定することができる。
【0024】
制御装置50は、光ファイバケーブルを介して、単位変換器30からシリアルデータDSを受信する。シリアルデータDSは、後述するように、単位変換器30ごとに、単位変換器30の状態を表す状態データを格納している。制御装置50は、各単位変換器30の状態データにもとづいて、各単位変換器30のための制御データを生成し、生成した単位変換器ごとの制御データを格納する新たなシリアルデータDSを生成して、単位変換器30に送信する。
【0025】
制御装置50から送信されたシリアルデータDSは、デイジーチェーン接続のループを介して、各単位変換器30を転送される。
【0026】
単位変換器(以下、セルともいう)30の構成について説明する。
図2は、電力変換装置の一部である単位変換器を例示するブロック図である。
図2に示すように、単位変換器30は、端子31a、31bを含む。単位変換器30は、端子31a,31bによって、他の単位変換器30等と電気的に接続される。
【0027】
セル30は、通信異常検出部32と、ゲート駆動回路34a、34bと、スイッチング素子36a、36bと、コンデンサ38と、を含む。セル30は、上述のほか、受信した光信号のシリアルデータを電気信号のシリアルデータDSに変換し、セル30において処理され更新されたシリアルデータDSを光信号に変換する光電変換回路を含んでいる。以下では、煩雑さを避けるため、電気信号のシリアルデータDSを受信し、処理し、転送するものとして説明する。
【0028】
また、セル30は、制御回路を含んでいる。制御回路は、セル30が受信したシリアルデータDSから自己のための制御データを抽出し、処理し、自己の状態を表す状態データを書き込んでシリアルデータDSを更新する。制御データは、たとえば、スイッチング素子36a、36bを駆動するためのゲート信号データ等を含んでいる。状態データは、たとえば、コンデンサ38の両端の直流電圧データ等を含んでいる。さらに、セル30は、通信異常検出部32、ゲート駆動回路34a,34b、光電変換回路および制御回路を含む各種回路機能に電力を供給する電源回路も含んでいる。ただし、光電変換回路、制御回路および電源回路等は、図2には示されていない。
【0029】
通信異常検出部32は、他のセル30または制御装置50から転送されてきたシリアルデータDSを入力し、転送されたシリアルデータDSに異常があると判断した場合には、ゲートブロック(GB)信号を生成して出力する。通信異常検出部32は、シリアルデータDSの転送に異常がないと判断した場合には、シリアルデータDSをそのまま制御回路に出力する。制御回路は、シリアルデータDS中の各種データにもとづいて、所定の処理を実行し、処理の終了により更新されたシリアルデータDSを他のセルまたは制御装置50に転送する。
【0030】
ゲート駆動回路34a、34bは、スイッチング素子36a、36bにそれぞれ接続されている。スイッチング素子36a、36bは、直列に接続されている。ゲート駆動回路34aは、高電位側のスイッチング素子36aを駆動するように設けられている。ゲート駆動回路34bは、低電位側のスイッチング素子36bを駆動するように設けられている。
【0031】
コンデンサ38は、スイッチング素子36a、36bの直列回路に並列に接続されている。高電位側の端子31aは、スイッチング素子36a、36bの直列回路の接続ノードに接続されている。低電位側の端子31bは、スイッチング素子36bの低電位側の主端子に接続されている。スイッチング素子36a、36bは、自己消弧型の半導体スイッチング素子であり、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等である。したがって、端子31aは、スイッチング素子36aのエミッタ端子およびスイッチング素子36bのコレクタ端子に接続され、端子31bは、スイッチング素子36bのエミッタ端子に接続されている。
【0032】
通信異常検出部32の構成について説明する。
通信異常検出部32は、データバッファ322および通信異常検出回路326を含んでいる。データバッファ322は、転送されてきたシリアルデータDSを一時的に格納する。データバッファ322は、フラグビット324を含んでおり、データバッファ322に新たなシリアルデータDSが格納されると、フラグビット324はアクティブとなる。
【0033】
通信異常検出回路326は、データバッファ322に接続されている。通信異常検出回路326は、フラグビット324の状態を監視する。通信異常検出回路326は、フラグビット324がアクティブとなったことを検出すると、データバッファ322に格納されたシリアルデータDSの特定の領域のデータを確認する。通信異常検出回路326は、直前にデータバッファに格納されていたシリアルデータDSの特定の領域のデータの値と、フラグビット324の反転によりデータバッファ322に格納されたシリアルデータDSの特定の領域のデータの値とを比較する。
【0034】
通信異常検出回路326は、シリアルデータDSの特定の領域のデータについて、直前のデータの値と現在のデータの値とが同一または所定の条件を満たしていない場合には、シリアルデータDSの通信異常と判定し、GB信号を生成して、ゲート駆動回路34a、34bに出力する。
【0035】
通信異常検出回路326は、直前のデータと現在のデータが所定の条件を満たしている場合には、制御回路にデータ処理許可指令を出力する。制御回路は、データ処理許可指令にもとづいて、現在、データバッファ322に格納されているシリアルデータDSの処理を開始する。制御回路は、シリアルデータDSの所定の処理の終了後、シリアルデータDSを他のセル30または制御装置50に送信する。
【0036】
制御装置50は、セル30と同様に、通信異常検出部52を有している。通信異常検出部52は、セル30の通信異常検出部32と同様に構成されており、同様に動作する。すなわち、シリアルデータDSの特定の領域について、現在のデータの値と直前のデータの値とを比較して、所定の条件を満たしている場合には、現在のデータを有するシリアルデータDSの処理を実行する。通信異常検出部52は、シリアルデータDSの特定の領域について、現在のデータの値と直前のデータの値との比較の結果、所定の条件を満たしていない場合には、シリアルデータDSの処理を中止して、次のシリアルデータDSを送信しない。
【0037】
シリアルデータDSの構成について説明する。
図3は、実施形態に係る電力変換装置の通信路を転送されるシリアルデータを例示する模式図である。
図3に示すように、シリアルデータDSは、複数の領域に所定のデータが格納されている。シリアルデータDSは、ハートビートデータ(HBデータ)D0および複数のデータセットD1、D2、…を含んでいる。HBデータD0は、HBデータ領域に格納され、各データセットD1、D2、…は、所定のデータ領域にそれぞれ格納される。
【0038】
HBデータD0は、たとえば1ビットのデータである。HBデータD0は、制御装置50がシリアルデータDSを生成するたびに異なる値が設定される。たとえば、最初のシリアルデータDS(1)には、HBデータD0に“1”が設定され、2番目に生成されたシリアルデータDS(2)には、HBデータD0に“0”が設定される。以降、HBデータD0には、“1”および“0”が交互に設定される。制御装置50は、HBデータ領域に“1”および“0”が交互に設定されたシリアルデータDSを順次最初のセル30に送信する。
【0039】
HBデータD0は、現在の値と直前の値との間で所定の条件を満たすことをシリアルデータDSの転送の正常であることの条件とすることにより、上述に限らず、任意に適切なデータとすることができる。たとえば、HBデータD0には、上述のような1ビットのデータのほか、複数ビットによるデータを適用し、HBデータD0を、セル30を識別するためのセル番号のデータとしてもよい。いずれの場合の所定の条件は、現在のデータの値と直前のデータの値との差分が“1”である。現在のデータの値と直前のデータの値との差分を“10”(2進数の“2”)となるようにしてもよい。制御装置50は、セル番号の順に生成されたHBデータD0を有するシリアルデータDSを、セル番号の順に最初のセルに順次送信する。
【0040】
複数のデータセットD1、D2、…は、デイジーチェーン接続された通信路を介して接続されたセル30の台数分だけ設定される。図1に示したように、2×n台のセル30が光ファイバケーブル60でデイジーチェーン接続されている場合には、シリアルデータDSは、2×n組のデータセットを含んでおり、たとえば、データセットD1は、セルUP1のためのデータを含み、データセットD2は、セルUP2のためのデータを含んでいる等である。
【0041】
各データセットは、セル番号データ、ゲート信号データおよび直流電圧データ等を含むむことができる。この例のように、最初のデータセットD1は、最初のセル番号D11、最初のセルのためのゲート信号データD12および最初のセルで検出される直流電圧データD13を含んでいる。2番目のデータセットD2は、2番目のセル番号D21、2番目のセル番号のためのゲート信号データD22および2番目のセルで検出される直流電圧データD23を含んでいる。なお、ゲート信号データは、制御装置50によりあらかじめ設定され、直流電圧データは、対応するセルにおいて検出されたデータで更新される。
【0042】
実施形態に係る電力変換装置10の動作について説明する。
図4は、実施形態に係る電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
以下では、制御装置50がi番目に生成したシリアルデータDS(i)を送信し、j番目のセル(j)が受信し、また、セル(j)が受信できない場合について説明する。シリアルデータDS(i)は、1ビットのHBデータD0(i)を含むものとする。図1の示した例では、i=1~2×n、j=1~2×nである。
【0043】
図4に示すように、ステップS1において、セル(j)の通信異常検出回路326は、フラグビット324の反転の有無を監視する。セル(j)の通信異常検出回路326がフラグビット324の反転を検出した場合には、シリアルデータDS(i)を適正に受信したものとして、通信異常検出回路326は、処理を次のステップS2に移行させる。あらかじめ設定された所定時間が経過してもフラグビット324の反転が検出されない場合には、通信異常検出回路326は、処理をステップS3に遷移させる。
【0044】
ステップS2において、通信異常検出回路326は、データバッファ322中のシリアルデータDS(i)のHBデータD0(i)をチェックする。
【0045】
ステップS3において、通信異常検出回路326は、フラグビット324の反転を検出できなかった回数を記憶する。通信異常検出回路326は、記憶した回数があらかじめ設定された回数Nに達していない場合には、処理をステップS2に遷移させる。通信異常検出回路326は、記憶した回数があらかじめ設定された回数Nに達した場合には、処理をステップS8に遷移させる。回数Nは、シリアルデータ不達の誤検出等により、電力変換器20が頻繁に停止することを防止するため、2以上に設定され、たとえばN=10である。
【0046】
ステップS4において、通信異常検出回路326は、HBデータD0(i)の値と、制御装置50がシリアルデータDS(i)の1つ前に送信されたシリアルデータDS(i-1)のHBデータD0(i-1)の値とを比較する。通信異常検出回路326は、現在のHBデータD0(i)の値と1つ前のHBデータD0(i-1)の値との差分が“1”の場合には、セル(j)は、適正なシリアルデータDS(i)を受信したものとして、処理を次のステップS5に遷移させる。通信異常検出回路326は、現在のHBデータD0(i)の値と1つ前のHBデータD0(i-1)の値との差分が“0”の場合には、受信したシリアルデータは適正ではない可能性があるとして、処理をステップS6に遷移させる。
【0047】
ステップS5において、通信異常検出回路326は、シリアルデータDS(i)を制御回路に出力する。制御回路は、シリアルデータDS(i)からセル番号データが“j”に一致するデータセットDjを抽出し、データセットDjからゲート信号データを抽出して設定する。通信異常検出回路326は、データセットDjの直流電圧データの領域に自己で検出した直流電圧データを書き込む。
【0048】
ステップS6において、通信異常検出回路326は、HBデータの値の差分が“0”の回数を記憶する。通信異常検出回路326は、記憶した回数があらかじめ設定された回数Nに達していない場合には、処理をステップS5に遷移させる。通信異常検出回路326は、記憶した回数が回数Nに達した場合には、処理をステップS8に遷移させる。
【0049】
ステップS5を処理した制御回路は、ステップS7において、更新されたシリアルデータDS(i)を次のセル(j+1)に転送する。
【0050】
ステップS3またはステップS6において記憶した回数が回数Nに達した通信異常検出回路326はステップS8において、GB信号を生成し、ゲート駆動回路34a、34bに出力する。これによって、セル(j)のスイッチング素子36a、36bは、オフされ、セル(j)はGB状態となり、停止する。
【0051】
セル(j)に後続するセル(j+1)、…には、シリアルデータDS(i)は転送されない。そのため、セル(j+1)以降のセルは、上述した各ステップを経由して順次GB状態となり、停止する。
【0052】
最後のセル(2×n)は、シリアルデータDS(i)を制御装置50に転送しないので、制御装置50の通信異常検出部52は、通信異常と判定し、最初のセル(1)に次のシリアルデータDS(i+1)を送信しない。そのためセル(1)以降のセルでは、シリアルデータDS(i+1)の転送がされず、電力変換器20は、順次GB状態となり、停止する。
【0053】
このようにして、実施形態に係る電力変換装置10は、各セルと制御装置50との間で通信路を構成する光ファイバケーブルに切断等の異常が生じた場合に、すべてのセルをGB状態とし、電力変換器20を安全に停止させることができる。
【0054】
実施形態に係る電力変換装置10の効果について、比較例の電力変換装置と比較しつつ説明する。
図5は、比較例の電力変換装置の動作を説明するための模式的なブロック図である。
まず、比較例の電力変換装置の構成について説明する。
図5に示すように、比較例の電力変換装置は、電力変換器1020と、制御装置1050とを備えている。電力変換器1020は、直列に接続されたセル1030を有する。図5では、1つのアームの構成が記載されており、他のアームの記載は省略されている。比較例の電力変換装置は、図1に示した実施形態に係る電力変換装置10と同様に、接続される交流回路の相数に応じたアームが設けられる。
【0055】
セル1030は、実施形態の場合のセル30の通信異常検出部32を有していないほかは、実施形態の場合のセル30と同様の構成である。各セル1030および制御装置1050は、光ファイバケーブル60で、デイジーチェーン接続されている。制御装置1050が生成したシリアルデータは、光ファイバケーブル60を介して、セル1030間を転送される。
【0056】
制御装置1050は、通信異常検出部1052を有している。通信異常検出部1052は、最後のセル1030からのシリアルデータを受信できない場合に、GB信号を生成する。通信異常検出部1052が最後のセル1030からシリアルデータを受信できない場合とは、たとえば、k番目のセル1030とk+1番目のセル1030との間を接続する光ファイバケーブル60が切断等されている場合である。そのため、k+1番目以降のセル1030は、シリアルデータを受信できず、転送することもできない。そのため、制御装置1050は、シリアルデータを受信することがない。
【0057】
一方、途中の光ファイバケーブル60の不具合により、データの送受信ができないため、そのままの状態に放置すると、セル1030間の直流電圧バランスが崩れて、電力変換器1020全体の不具合となるおそれがある。そのため、比較例の電力変換装置では、電力変換器1020を構成するすべてのセル1030とGB信号送信用の光ファイバケーブル1062を別途備える必要がある。
【0058】
セル1030は、接続する交流回路および直流回路の電圧値により直列接続される個数が決定される。セル1030の台数が増大すれば、GB信号送信用の光ファイバケーブル1062の本数も増大する。そのため、光ファイバケーブル1062のための費用や、これらの設置のための工数、費用がかさむおそれがある。
【0059】
実施形態に係る電力変換装置10では、電力変換器20を構成するすべてのセル30に通信異常検出部32を有している。そのため、光ファイバケーブル60の不具合に起因する通信異常によりシリアルデータDSの転送ができない場合であっても、GB信号送信用の光ファイバケーブルを別途設けることなく、安全かつ確実に電力変換器20を停止させることができる。
【0060】
実施形態に係る電力変換装置10では、複数回の通信異常を検出した場合に、GB信号を生成して、電力変換器20を停止させるので、誤検出等による不必要な停止を回避することができる。
【0061】
上述の具体例では、交流電圧と直流電圧との電力変換を行う電力変換装置について説明したが、これに限らず、交流系統等に接続されて交流系統の無効電力を調整する無効電力補償装置に適用することができる。
【0062】
以上説明した実施形態によれば、通信経路に異常を生じた場合に、安全に運転を停止することができる電力変換装置を実現することが可能となる。
【0063】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…交流回路、2…変圧器、10…電力変換装置、20…電力変換器、30…単位変換器(セル)、32…通信異常検出部、34a、34b…ゲート駆動回路、36a、36b…スイッチング素子、38…コンデンサ、322…データバッファ、324…フラグビット、326…通信異常検出回路
図1
図2
図3
図4
図5