(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032403
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】複合材の成形方法及び成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20240305BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240305BHJP
B29C 70/44 20060101ALI20240305BHJP
B29C 43/12 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C70/16
B29C70/44
B29C43/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136039
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】松山 大樹
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG06
4F204AG28
4F204AJ08
4F204AR04
4F204FA01
4F204FA13
4F204FB01
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG06
4F205AG28
4F205AR04
4F205HA09
4F205HA23
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK31
(57)【要約】
【課題】積層体の賦形による成形不良の発生を抑制する。
【解決手段】繊維シートを複数積層した積層体を、成形型を用いて賦形して硬化させることで、複合材を成形する複合材の成形方法において、複合材は、屈曲した形状となる屈曲部を含み、成形型は、複合材を成形する成形面と、成形面以外の部位に形成される窪みと、を有し、成形型の成形面に積層体を配置するステップと、賦形時において積層体に張力を発生させる張力発生部材を積層体に覆うと共に、張力発生部材の一部を窪みに対向させて配置するステップと、張力発生部材で覆われた積層体を、被覆部材により覆って、被覆部材と成形型との間を気密に封止するステップと、被覆部材と成形型との間の雰囲気を吸引し、窪みに張力発生部材の一部を引き込ませて、積層体を賦形するステップと、賦形後の積層体を硬化させることで、複合材を成形するステップと、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートを複数積層した積層体を、成形型を用いて屈曲した形状となる屈曲部を含む形状に賦形して、前記繊維シートに含侵させた樹脂を硬化させることで、複合材を成形する複合材の成形方法において、
前記複合材は、屈曲した形状となる前記屈曲部を含み、
前記成形型は、前記複合材を成形する成形面と、前記成形面以外の部位に形成される窪みと、を有し、
前記成形型の前記成形面に前記積層体を配置するステップと、
賦形時において前記積層体に張力を発生させる張力発生部材を前記積層体に覆うと共に、前記張力発生部材の一部を前記窪みに対向させて配置するステップと、
前記張力発生部材で覆われた前記積層体を、被覆部材により覆って、前記被覆部材と前記成形型との間を気密に封止するステップと、
前記被覆部材と前記成形型との間の雰囲気を吸引し、前記窪みに前記張力発生部材の一部を引き込ませて、前記積層体を賦形するステップと、
賦形後の前記積層体を硬化させることで、前記複合材を成形するステップと、を備える複合材の成形方法。
【請求項2】
前記被覆部材は、前記成形型と共に前記積層体を収容するバッグフィルムである請求項1に記載の複合材の成形方法。
【請求項3】
前記成形型は、長手方向に長いものとなっており、
前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップでは、前記長手方向を中心軸の軸方向として、前記成形型の周方向に前記張力発生部材を巻き付けて、前記張力発生部材を前記積層体に覆う請求項1に記載の複合材の成形方法。
【請求項4】
前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップでは、前記成形型の周方向に巻き付けられる前記張力発生部材の周方向の両端部を重ね合わせる請求項3に記載の複合材の成形方法。
【請求項5】
前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップでは、前記成形型の周方向に巻き付けられる前記張力発生部材の周方向の両端部を突き合わせて接合する請求項3に記載の複合材の成形方法。
【請求項6】
前記被覆部材と前記成形型との間を気密に封止するステップでは、前記積層体が前記成形型に倣うように押圧するための押圧部材を、前記積層体上に配置する請求項1に記載の複合材の成形方法。
【請求項7】
繊維シートを複数積層した積層体を、屈曲した形状となる屈曲部を含む形状に賦形して、前記繊維シートに含侵させた樹脂を硬化させることで、複合材を成形するための成形装置において、
前記複合材は、屈曲した形状となる前記屈曲部を含み、
前記複合材を屈曲した形状に成形するための屈曲した成形面を一部に備える成形面と、賦形時において前記積層体に張力を発生させる張力発生部材の一部を引き込むための窪みと、を有する成形型と、
前記積層体を覆う前記張力発生部材と、
前記張力発生部材で覆われた前記積層体を覆う被覆部材と、
前記被覆部材と前記成形型との間が気密に封止された状態で、前記被覆部材と前記成形型との間の雰囲気を吸引する吸引装置と、を備える成形装置。
【請求項8】
前記複合材は、長手方向に長く、前記長手方向に直交する直交面内において変形させた桁部材であり、前記長手方向の一方側から他方側へ向かって、前記直交面内における断面形状が変化しており、
前記窪みは、前記長手方向の一方側から他方側へ向かって、前記直交面内における断面形状が変化する請求項7に記載の成形装置。
【請求項9】
前記成形型は、成形型本体と、前記成形型本体に着脱される共に前記窪みが形成されたアタッチメント部と、を有する請求項7に記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材の成形方法及び成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レイアップ心棒の非平面の部分にプリプレグ材料を形成し、プリプレグ材料上にバッグフィルムを被覆して真空吸引し、プリプレグ材料を加熱硬化させることで、複合材を成形する複合材の成形方法及び成形装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複合材としては、例えば、長手方向に延在すると共に、長手方向に直交する断面において屈曲する屈曲部を有する断面凹形状の桁部材がある。屈曲部を有する複合材は、成形時において、厚みが変化する。樹脂の硬化収縮などにより厚みが変化すると、屈曲部における半径の長さが変化することにより成形前後において屈曲部に周長差が発生する。このため、周長差が発生することにより、屈曲部周りにリンクル(しわ)が発生し、成形不良となる可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、積層体の賦形による成形不良の発生を抑制することができる複合材の成形方法及び成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の複合材の成形方法は、繊維シートを複数積層した積層体を、成形型を用いて屈曲した形状となる屈曲部を含む形状に賦形して、前記繊維シートに含侵させた樹脂を硬化させることで、複合材を成形する複合材の成形方法において、前記複合材は、屈曲した形状となる前記屈曲部を含み、前記成形型は、前記複合材を成形する成形面と、前記成形面以外の部位に形成される窪みと、を有し、前記成形型の前記成形面に前記積層体を配置するステップと、賦形時において前記積層体に張力を発生させる張力発生部材を前記積層体に覆うと共に、前記張力発生部材の一部を前記窪みに対向させて配置するステップと、前記張力発生部材で覆われた前記積層体を、被覆部材により覆って、前記被覆部材と前記成形型との間を気密に封止するステップと、前記被覆部材と前記成形型との間の雰囲気を吸引し、前記窪みに前記張力発生部材の一部を引き込ませて、前記積層体を賦形するステップと、賦形後の前記積層体を硬化させることで、前記複合材を成形するステップと、を備える。
【0007】
本開示の成形装置は、繊維シートを複数積層した積層体を、屈曲した形状となる屈曲部を含む形状に賦形して、前記繊維シートに含侵させた樹脂を硬化させることで、複合材を成形するための成形装置において、前記複合材は、屈曲した形状となる前記屈曲部を含み、前記複合材を屈曲した形状に成形するための屈曲した成形面を一部に備える成形面と、賦形時において前記積層体に張力を発生させる張力発生部材の一部を引き込むための窪みと、を有する成形型と、前記積層体を覆う前記張力発生部材と、前記張力発生部材で覆われた前記積層体を覆う被覆部材と、前記被覆部材と前記成形型との間が気密に封止された状態で、前記被覆部材と前記成形型との間の雰囲気を吸引する吸引装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、積層体の賦形による成形不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る複合材の成形方法及び成形装置により成形される一例の複合材の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る成形装置を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、積層体の固定の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、積層体の固定の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る複合材の成形方法に関する説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る成形装置を模式的に示した図である。
【
図7】
図7は、実施形態3に係る成形装置の成形型を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る複合材の成形方法及び成形装置により成形される一例の複合材の外観斜視図である。
図2は、実施形態1に係る成形装置を模式的に示した図である。
図3及び
図4は、積層体の固定の一例を示す図である。
図5は、実施形態1に係る複合材の成形方法に関する説明図である。
【0012】
実施形態1に係る複合材の成形方法及び成形装置1は、屈曲した形状となる屈曲部Kを有する複合材Fを成形するための装置である。
図1に示すように、実施形態1において、成形される複合材Fは、所定方向を長手方向とする桁部材(スパー)であり、長手方向に直交する直交面内において、内側に屈曲する2つの屈曲部Kが形成されることで、断面凹形状となるように変形させたものとなっている。
【0013】
実施形態1では、繊維シートを成形型11に複数積層して、屈曲部Kを有する形状に積層体Sを形成している。そして、積層体Sを硬化させることで、
図1に示す複合材Fを成形している。なお、繊維シートを複数積層して平面形状に形成した積層体Sを、成形型11を用いて、屈曲部Kを有する形状に賦形してもよい。屈曲部Kでは、賦形時および硬化時の少なくとも一方において積層方向における厚さが変化しており、この変化に基づいて、リンクルの発生個所が事前に予測される。なお、実施形態1では、繊維シートとして、強化繊維に樹脂を含侵させたシートを適用しており、例えば、プリプレグを適用している。実施形態1では、繊維シートとしてプリプレグを適用したが、この構成に特に限定されず、樹脂を含まないドライ状態の強化繊維シートを適用してもよい。
【0014】
(成形装置)
図2を参照して、成形装置1について説明する。
図2に示すように、成形装置1は、成形型11と、張力発生フィルム(張力発生部材)12と、ブリーザー14と、バッグフィルム(被覆部材)15と、吸引装置16とを備えている。成形装置1は、後述する効果を得るため、さらに押圧プレート(押圧部材)13を備えてもよい。
【0015】
成形型11は、成形前の積層体Sを賦形させるための型材となっている。成形型11は、長手方向に長い成形型となっている。成形型11は、成形面と、成形面以外の部位に形成される窪み21と、を有する。具体的に、成形型11は、上面11aと、上面11aに対向する下面11bと、上面11a及び下面11bの幅方向両側に設けられる一対の側面11cと、を有している。成形面は、上面11aと、上面11aに連なる一対の側面11cの上面11a側の一部とからなっている。上面11aと側面11cとを接続する接続部は、複合材Fを屈曲した形状に成形するための屈曲した成形面として働いている。
【0016】
窪み21は、成形面以外の部位に設けられ、実施形態1では、下面11bに設けられている。窪み21は、例えば、屈曲する角部を有さない曲面により形成されている。窪み21は、後述する内部雰囲気を吸引する工程において、下面11bに対向して配置される張力発生フィルム12の一部を引き込むために、下面11bに没入して形成される穴もしくは凹部となっている。窪み21は、成形型11の長手方向に沿って延在して形成されている。
【0017】
このような成形型11に対して、積層体Sは、
図2に示すように、成形型11の成形面上に配置されると共に、窪み21と対向しないように(窪み21を開放させた状態で)配置される。
【0018】
ここで、成形型11に配置される積層体Sについて説明する。積層体Sに用いられる繊維シートは、繊維方向が所定の一方向に引き揃えられた一方向材となっている。積層体Sは、繊維シートの繊維方向を異ならせて積層したものとなっている。なお、実施形態1では、繊維シートとして、一方向材を適用したが、織布であってもよいし、不織布であってもよく、特に限定されない。
【0019】
張力発生フィルム12は、成形型11に配置された積層体Sの外側を覆って配置される。張力発生フィルム12は、賦形時において積層体Sに張力を発生させるフィルムとなっている。張力発生フィルム12は、可撓性と、後述する内部雰囲気を吸引する工程での引張荷重に耐える引張強度と、複合材成形工程での加熱に耐える耐熱性を備えていればよく、伸縮性を要しない。張力を効果的に印加するうえでは伸縮性が小さい方が好ましい。好適な材料として、例えば、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE、例えば、テフロン(登録商標))、ポリイミド(例えば、カプトン(登録商標))が挙げられる。張力発生フィルム12は、
図2に示すように、成形型11の長手方向を中心軸の軸方向として、成形型11の周方向に巻き付けられる。これにより、張力発生フィルム12は、その一部が窪み21に対向した状態で、成形型11および成形型11上に配置された積層体Sの外側を周方向に一体に覆うように配置される。
【0020】
また、張力発生フィルム12は、積層体Sに対する離型性を有していてもよい。例えば、張力発生フィルム12は、積層体S側の面に離型剤を塗布してもよいし、積層体S側の面が離型処理されたものであってもよい。なお、張力発生フィルム12は、積層体Sから引き剥がし可能なピールプライであってもよい。また、張力発生フィルム12と積層体Sの間に離型性をもつ離型フィルム12aを挿入してもよい。
【0021】
ここで、
図2から
図4を参照して、成形型11に巻き付けられる張力発生フィルム12の固定について説明する。成形型11の周方向に巻き付けられる張力発生フィルム12の周方向における両端部は、後述する内部雰囲気を吸引する工程において引張荷重に対する反力を確保するためにそれぞれ固定される。
図2に示す一例では、張力発生フィルム12は、成形型11にループ状に配置されることで固定されている。
【0022】
図3に示す一例では、張力発生フィルム12は、成形型11にループ状に巻き付けられ、張力発生フィルム12の周方向の両端部が重ね合わせられており、両端部が重複する重複部位が、テープ等の固定部材25で固定されている。このとき、張力発生フィルム12の両端部が重複する重複部位は、窪み21と対向しないように形成される。なお、重複部位は、窪み21と対向するように形成されていてもよい。
【0023】
図4に示す一例では、張力発生フィルム12は、成形型11にループ状に巻き付けられ、張力発生フィルム12の周方向の両端部が対向するように突き合わせられており、両端部を突き合わせた突き合わせ部位が、テープ等の固定部材25で固定されている。このとき、張力発生フィルム12の両端部を突き合わせた突き合わせ部位は、窪み21と対向しないように形成される。なお、突き合わせ部位は、窪み21と対向するように形成されていてもよい。
【0024】
実施形態1の成形装置1においては、さらに押圧プレート13を備えていてもよい。押圧プレート13を付加的に用いることで、積層体Sの押圧を行うこととしてもよい。押圧プレート13は、張力発生フィルム12の外側に配置され、積層体Sの押圧を要する所定の箇所に配置される。実施形態1において、押圧プレート13は、成形型11の上面11a及び一対の側面11cに対向して配置される。押圧プレート13は、板状に形成されており、積層体Sの外側における形状の変化を抑制する。
【0025】
ブリーザー14は、張力発生フィルム12及び押圧プレート13の外側を覆って配置される。ブリーザー14は、後述する真空吸引時において、バッグフィルム15の内部雰囲気が流通する流路となる脱気回路を形成している。
【0026】
バッグフィルム15は、成形型11と共に積層体Sを収容する袋状のフィルムである。バッグフィルム15は、その内部を気密に封止する。このため、バッグフィルム15の内部と成形型11とは、外部に対して気密に封止される。バッグフィルム15には、吸引装置16に接続される吸引穴15aが設けられている。バッグフィルム15は、内部雰囲気が真空吸引されることで、内外気圧差(例えば、大気圧)による押圧力を積層体Sに付与する。なお、バッグフィルム15は、大気圧に特に限定されず、オートクレーブ等で加圧することで、大気圧以上の押圧力を積層体Sに付与してもよい。
【0027】
吸引装置16は、バッグフィルム15の吸引穴15aに接続され、バッグフィルム15の内部を真空引きする。
【0028】
(複合材の成形方法)
次に、
図5を参照して、成形装置1を用いた複合材Fの成形方法について説明する。
図5に示すように、複合材Fの成形方法では、先ず、窪み21が形成された成形型11を用意する(ステップS1)。続いて、複合材Fの成形方法では、成形型11に積層体Sを配置する(ステップS2)。ステップS2では、繊維シートを成形型11の成形面に倣って複数積層することで、積層体Sを形成する。なお、ステップS2では、繊維シートの層間に残存する空気を抜くために(デバルクするために)、数層積層するごとに、バッグフィルム15を用いて真空引きしてもよい。
【0029】
次に、複合材Fの成形方法では、成形型11に配置した積層体Sの外側に、張力発生フィルム12、押圧プレート13及びブリーザー14を順に配置する(ステップS3)。ステップS3では、張力発生フィルム12を、成形型11の周方向に巻き付けて、その一部を窪み21に対向するように配置する。なお、ステップS3において、張力発生フィルム12の固定は、
図2から
図4に示す何れの固定であってもよい。
【0030】
そして、複合材Fの成形方法では、成形型11に配置した積層体Sを、張力発生フィルム12、押圧プレート13及びブリーザー14と共に、バッグフィルム15の内部に収容する(ステップS4)。これにより、ステップS4では、積層体Sをバッグフィルム15により覆って、成形型11が収容されたバッグフィルム15の内部を気密に封止する。続いて、複合材Fの成形方法では、吸引装置16によりバッグフィルム15の内部を真空引きすることで、ブリーザー14によって形成された脱気回路を介して、バッグフィルム15の内部雰囲気を吸引する(ステップS5)。ステップS5において、バッグフィルム15の内部が真空引きされると、内外圧力差によりバッグフィルム15を介して張力発生フィルム12への押圧力が加わり、これにより、成形型11の窪み21に張力発生フィルム12の一部が引き込まれることで、張力発生フィルム12を介して積層体Sに周方向の引張荷重が付与される。これにより、積層体Sに引張荷重が付与されることで、屈曲部Kに周長差が発生する場合であっても、周長差により生ずる繊維のたるみを解消するように積層体Sを引き延ばすことで、屈曲部K周りにおけるリンクルの発生が抑制される。そして、ステップS5では、成形型11の成形面に倣って、積層体Sが賦形される。なお、積層体Sの繊維シートが、ドライ状態の強化繊維シートである場合、ステップS5の後、またはステップS5と同時に、繊維シートに樹脂を含侵させる工程が実行される。
【0031】
この後、複合材Fの成形方法では、賦形後の積層体Sをバッグフィルム15と共に、加熱炉27内に入れて加熱することで、積層体Sに含侵される樹脂を硬化させる(ステップS6)。ステップS6では、賦形後の積層体Sを熱硬化させることで、屈曲部Kを含む複合材Fを成形する。なお、ステップS6においても、張力発生フィルム12を介して積層体Sに周方向の引張荷重を付与することで硬化に伴う周長差によるリンクルの発生が抑制される。また、積層体Sの繊維シートに含侵される樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、この場合、積層体Sに周方向の引張荷重を付与した状態で加熱したのちに冷却して樹脂を硬化させることで、屈曲部Kを含む複合材Fを成形する。なお、加熱炉27は、加圧を行わないオーブンであってもよいし、加圧を行うオートクレーブであってもよい。つまり、積層体Sの加熱硬化時において、積層体Sを加圧して加熱してもよいし、大気圧下において積層体Sを加熱してもよい。そして、複合材Fの成形方法では、成形型11から成形後の複合材Fを離型する(ステップS7)ことで、
図1に示す屈曲部Kが形成された複合材Fを取得する。ステップS7の実行後、複合材Fの成形方法が終了となる。
【0032】
[実施形態2]
次に、
図6を参照して、実施形態2について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図6は、実施形態2に係る成形装置を模式的に示した図である。
【0033】
実施形態2の成形装置31は、成形型11に形成される窪み33の位置が、実施形態1と異なっており、成形型11を敷板35上に配置した装置構成となっている。成形装置31は、実施形態1と同様に、成形型11と、張力発生フィルム12と、押圧プレート13と、ブリーザー14と、バッグフィルム15と、吸引装置(図示省略)とを備える。また、成形装置31は、成形型11を配置する敷板35を、さらに備える。なお、張力発生フィルム12及び押圧プレート13は、実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0034】
成形型11は、成形型11に形成される窪み33が、一方の側面11cの下面11b側に設けられている。なお、窪み33は、一方の側面11cの下面11b側だけでなく、他方の側面11cの下面11b側に設けてもよく、2個の窪み33が対向するように配置してもよい。つまり、窪み33は、1個であってもよいし、2個であってもよく、1個以上あればよい。
【0035】
このような成形型11に対して、張力発生フィルム12は、
図6に示すように、実施形態1と同様に、成形型11の周方向に巻き付けられる。つまり、張力発生フィルム12は、その一部が窪み33に対向した状態で、成形型11に配置される。
【0036】
敷板35は、平板形状の台となっており、吸引装置に接続される吸引穴15aが設けられている。ブリーザー14は、敷板35上に設置された成形型11、張力発生フィルム12及び押圧プレート13の外側を覆って配置され、その周縁が敷板35上に配置されると共に、吸引穴15aに対向して配置される。バッグフィルム15は、敷板35上に設置された成形型11、張力発生フィルム12、押圧プレート13及びブリーザー14の外側を覆って配置され、シール材36を介して、敷板35上に固定されている。このため、バッグフィルム15と敷板35との間は気密に封止される。
【0037】
このような成形型11を用いた複合材Fの成形方法では、成形型11に配置した積層体Sに対して、張力発生フィルム12及び押圧プレート13を配置して、敷板35上に設置する。この後、複合材Fの成形方法では、敷板35上に設置された成形型11を含む積層体Sに対して、ブリーザー14及びバッグフィルム15を覆い、バッグフィルム15と敷板35との間の内部雰囲気を吸引する。すると、成形型11の窪み33に張力発生フィルム12の一部が引き込まれることで、積層体Sに周方向の引張荷重が付与される。これにより、積層体Sに引張荷重が付与されることで、屈曲部K周りにおけるリンクルの発生が抑制される。
【0038】
[実施形態3]
次に、
図7を参照して、実施形態3について説明する。なお、実施形態3でも、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図7は、実施形態3に係る成形装置の成形型を模式的に示した図である。
【0039】
実施形態3の成形装置41の成形型11は、成形型本体45と、成形型本体45に着脱されるアタッチメント部46と、を有している。成形型本体45の下面11bには、アタッチメント部46を装着するために嵌め合わされる篏合溝が形成されている。窪み21は、アタッチメント部46に形成されている。窪み21は、例えば、成形型11の長手方向に亘って形成されており、アタッチメント部46は、成形型本体45の下面11bに形成された篏合溝に着脱自在に設けられ、窪み21に沿って、長手方向に亘って設けられている。アタッチメント部46は、窪み21の形状に応じて、複数用意してもよい。例えば、積層体Sの条件に応じて適正な成形条件を追い込む際には、窪み21の形状の異なるアタッチメント部46を順次付け替える成形を志向することができる。
【0040】
窪み21は、長手方向に直交する断面の形状が、成形される複合材Fの形状に応じて変化させてもよい。複合材Fは、例えば、長手方向の一方側から他方側へ向かって、断面内における大きさが小さくなっていく桁部材である場合、窪み21は、長手方向一方側から他方側へ向かって、断面内における断面形状が小さくなるように変化してもよい。実施形態3では、成形型本体45に対してアタッチメント部46を付け替えることで、窪み21の形状を変化させてもよい。なお、実施形態3では、成形型本体45の下面11bにアタッチメント部46及び篏合溝を設けたが、下面11bに代えて、側面11cに設けてもよい。
【0041】
以上のように、実施形態1から3に記載の複合材の成形方法及び成形装置1は、例えば、以下のように把握される。
【0042】
第1の態様に係る複合材の成形方法は、繊維シートを複数積層した積層体Sを、成形型11を用いて賦形して硬化させることで、複合材Fを成形する複合材Fの成形方法において、前記複合材Fは、屈曲した形状となる屈曲部Kを含み、前記成形型11は、前記複合材Fを成形する成形面と、前記成形面以外の部位に形成される窪み21と、を有し、前記成形型11の前記成形面に前記積層体Sを配置するステップS2と、賦形時において前記積層体Sに張力を発生させる張力発生部材(張力発生フィルム12)を前記積層体Sに覆うと共に、前記張力発生部材の一部を前記窪み21に対向させて配置するステップS3と、前記張力発生部材で覆われた前記積層体Sを、被覆部材(バッグフィルム15)により覆って、前記被覆部材と前記成形型11との間を気密に封止するステップS4と、前記被覆部材と前記成形型11との間の雰囲気を吸引し、前記窪み21に前記張力発生部材の一部を引き込ませて、前記積層体Sを賦形するステップS5と、賦形後の前記積層体Sを硬化させることで、前記複合材Fを成形するステップS6と、を備える。
【0043】
この構成によれば、窪み21に、張力発生部材の一部を引き込ませることで、積層体Sに引張荷重を付与した状態で、積層体Sを賦形することができる。このため、積層体Sの賦形による成形不良の発生を抑制することができる。これに対して、成形型全体をバッグフィルムのみで覆う従来の成形方法では、成形過程において付与される内外圧差による押圧力は、成形面の法線方向に働き、周長差の変化により生ずる繊維余りを解消できなかった。本開示の構成では、張力発生部材の一部を引き込ませることで、積層体Sに賦形過程あるいは成形過程において引張荷重を付与し、成形不良の発生を抑制することができる。
【0044】
第2の態様として、第1の態様に係る複合材Fの成形方法において、前記被覆部材は、前記成形型11と共に前記積層体Sを収容するバッグフィルムである。
【0045】
この構成によれば、バッグフィルム15に、積層体Sを成形型11と共に収容して、積層体Sを賦形することができるため、成形装置1の装置構成をコンパクトなものとすることができる。
【0046】
第3の態様として、第1または第2のいずれか1つの態様に係る複合材Fの成形方法において、前記成形型11は、長手方向に長いものとなっており、前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップS3では、前記長手方向を中心軸の軸方向として、前記成形型11の周方向に前記張力発生部材を巻き付けて、前記張力発生部材を前記積層体Sに覆う。
【0047】
この構成によれば、成形型11の周方向に巻き付けるだけで、成形型11の成形面に倣って張力発生部材を簡単に配置することができる。
【0048】
第4の態様として、第3の態様に係る複合材Fの成形方法において、前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップS3では、前記成形型11の周方向に巻き付けられる前記張力発生部材の周方向の両端部を重ね合わせる。
【0049】
この構成によれば、張力発生部材を成形型11の周方向に巻き付けるだけで、積層体Sを簡単に覆うことができる。
【0050】
第5の態様として、第3の態様に係る複合材Fの成形方法において、前記張力発生部材を前記積層体に覆うステップS3では、前記成形型11の周方向に巻き付けられる前記張力発生部材の周方向の両端部を突き合わせて接合する。
【0051】
この構成によれば、張力発生部材の両端部を突き合わせて接合することで、張力発生部材の両端部に相互に反力を付与することができるため、窪み21に張力発生部材の一部が引き込まれる場合であっても、積層体Sに対して引張荷重を好適に付与することができる。
【0052】
第6の態様として、第1から第5のいずれか1つの態様に係る複合材Fの成形方法において、前記被覆部材と前記成形型11との間を気密に封止するステップS4では、前記積層体Sが前記成形型11に倣うように押圧するための押圧部材(押圧プレート13)を、前記積層体S上に配置する。
【0053】
この構成によれば、積層体Sに引張荷重が付与されると、自由エネルギー最小の原理(最小ポテンシャルエネルギーの原理)により、積層体Sは円形になろうとする。このとき、押圧部材により積層体Sを成形型11へ向かって押圧することで、押圧部材は押圧方向の剛性により積層体Sが円形になることを抑止し、積層体Sを成形型11に倣った形状とすることができる。なお、押圧部材の端部は、積層体Sへの接地圧が局所的に高くなり、フットプリントが積層体Sに転写されるため、チャンファ加工することが望ましいが、チャンファ加工はなくてもよい。
【0054】
第7の態様に係る成形装置は、繊維シートを複数積層した積層体Sを賦形して硬化させることで、複合材を成形するための成形装置1において、前記複合材Fは、屈曲した形状となる屈曲部Kを含み、前記複合材Fを成形する成形面と、賦形時において前記積層体Sに張力を発生させる張力発生部材の一部を引き込むための窪み21と、を有する成形型11と、前記積層体Sを覆う前記張力発生部材(張力発生フィルム12)と、前記張力発生部材で覆われた前記積層体Sを覆う被覆部材(バッグフィルム15)と、前記被覆部材と前記成形型11との間が気密に封止された状態で、前記被覆部材と前記成形型11との間の雰囲気を吸引する吸引装置16と、を備える。
【0055】
この構成によれば、窪み21に、張力発生部材の一部を引き込ませることで、積層体Sに引張荷重を付与した状態で、積層体Sを賦形することができる。このため、積層体Sの賦形による成形不良の発生を抑制することができる。
【0056】
第8の態様として、第7の態様に係る成形装置において、前記複合材Fは、長手方向に長く、前記長手方向に直交する直交面内において変形させた桁部材であり、前記長手方向の一方側から他方側へ向かって、前記直交面内における断面形状が変化しており、前記窪みは、前記長手方向の一方側から他方側へ向かって、前記直交面内における断面形状が変化する。
【0057】
この構成によれば、複合材Fの直交面(断面)内における断面形状の変化に応じて、窪み21の断面形状を変化させることで、引張荷重の大きさを適切に変化させることができる。
【0058】
第9の態様として、第7または第8の態様に係る成形装置において、前記成形型11は、成形型本体45と、前記成形型本体45に着脱される共に前記窪み21が形成されたアタッチメント部46と、を有する。
【0059】
この構成によれば、アタッチメント部46を成形型本体45に付け替えることで、窪み21の形状を簡単に変化させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 成形装置
11 成形型
12 張力発生フィルム(張力発生部材)
12a 離型フィルム
13 押圧プレート(押圧部材)
14 ブリーザー
15 バッグフィルム(被覆部材)
16 吸引装置
21 窪み
31 成形装置(実施形態2)
33 窪み
41 成形装置(実施形態3)
45 成形型本体
46 アタッチメント部
K 屈曲部
F 複合材
S 積層体