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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032437
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】チタン電析物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/28 20060101AFI20240305BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20240305BHJP
   C25C 7/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C7/06 302
C25C7/02 308Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136091
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA11
4K058AA15
4K058BA10
4K058BB06
4K058CB03
4K058CB05
4K058CB17
4K058CB19
4K058CB23
4K058DD09
4K058EC04
(57)【要約】
【課題】生産性が良好であるチタン電析物の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン電析物の製造方法であって、溶融塩浴としての塩化物浴にて、チタン、アルミニウム及び酸素を含有する導電性の粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用して、陰極上に精製チタン系材料を析出させて電析物を得る電析工程を含み、電析工程では、塩化物浴が、30mol%以上の塩化マグネシウムと1mol%以上の低級塩化チタンとを含み、電析工程における陽極の電流量が、塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解を用いた電解精製によりチタン電析物を製造する方法であって、
溶融塩浴としての塩化物浴にて、チタン、アルミニウム及び酸素を含有する導電性の粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用して、前記陰極上に精製チタン系材料を析出させて電析物を得る電析工程を含み、
前記電析工程では、前記塩化物浴が、30mol%以上の塩化マグネシウムと1mol%以上の低級塩化チタンとを含み、
前記電析工程における陽極の電流量が、前記塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上である、チタン電析物の製造方法。
【請求項2】
前記電析工程における前記塩化物浴の浴温が、750℃以上かつ950℃以下である、請求項1に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項3】
前記電析工程における前記陽極は、内部に前記粗チタン系材料が配置され、前記塩化物浴に対して不溶性を有し且つ貫通孔を有する導電性の容器を更に含む、請求項1に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項4】
製造されるチタン電析物は、アルミニウム含有量が5000質量ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のチタン電析物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン電析物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的に金属チタンの製造は、チタン鉱石と、炭素と、塩素ガスとを反応させることで四塩化チタンを生成させ、その四塩化チタンを金属マグネシウムで還元してスポンジチタン塊を得るクロール法により実施されている。しかしながら、この方法は、チタン鉱石を出発原料とし、塩化や還元の工程を行う他、スポンジチタン塊の破砕や還元で副生される塩化マグネシウムの電気分解の工程も行われ、多数の工程が必要になる。
【0003】
近年、クロール法以外による製錬方法として、溶融塩電解を用いた電解精錬でチタン合金を製造する技術が知られている。例えば、特許文献1には、原料としてのチタン鉱石とアルミニウムとフッ化カルシウムとを加熱処理し、それにより得られるチタン生産物(以下、粗チタン系材料と称する)を電解精錬してチタンアルミニウム母合金を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、原料である粗チタン系材料を電解精錬することにより、チタンアルミニウム母合金を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-507696号公報
【特許文献2】特表2020-507011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~2のいずれにおいても、粗チタン系材料を原料とし、陰極の表面上にチタンアルミニウム母合金を析出させるものである。ところで、溶融塩電解を用いた電解精錬で金属チタンを製造したいという要望がある。当該溶融塩電解を用いた電解精錬により金属チタンが製造できれば、当該製造はクロール法とは異なる金属チタンの製錬方法となりうる。かかる金属チタンの新しい製錬方法は生産性に優れることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は一実施形態において、生産性が良好であるチタン電析物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、電析工程では、塩化物浴が、所定量の塩化マグネシウムと所定量の低級塩化チタンとを含み、電析工程における陽極の電流量が、前記塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上であることにより、チタン電析物の生産性を良好にすることを見出し、以下によって例示される発明を創作した。
【0008】
[1]
溶融塩電解を用いた電解精製によりチタン電析物を製造する方法であって、
溶融塩浴としての塩化物浴にて、チタン、アルミニウム及び酸素を含有する導電性の粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用して、前記陰極上に精製チタン系材料を析出させて電析物を得る電析工程を含み、
前記電析工程では、前記塩化物浴が、30mol%以上の塩化マグネシウムと1mol%以上の低級塩化チタンとを含み、
前記電析工程における陽極の電流量が、前記塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上である、チタン電析物の製造方法。
[2]
前記電析工程における前記塩化物浴の浴温が、750℃以上かつ950℃以下である、[1]に記載のチタン電析物の製造方法。
[3]
前記電析工程における前記陽極は、内部に前記粗チタン系材料が配置され、前記塩化物浴に対して不溶性を有し且つ貫通孔を有する導電性の容器を更に含む、[1]又は[2]に記載のチタン電析物の製造方法。
[4]
製造されるチタン電析物は、アルミニウム含有量が5000質量ppm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のチタン電析物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、生産性が良好であるチタン電析物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明に係るチタン電析物の製造方法の電析工程を説明するための模式図である。
図1B】本発明に係るチタン電析物の製造方法の電析工程を説明するための模式図である。
図1C】本発明に係るチタン電析物の製造方法の電析工程を説明するための模式図である。
図1D】本発明に係るチタン電析物の製造方法の電析工程を説明するための模式図である。
図2図1AのX-X端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。なお、図面では、発明に含まれる実施形態等の理解を助けるため概略として示す部材もあり、図示された大きさや位置関係等については必ずしも正確でない場合がある。
【0012】
[チタン電析物の製造方法]
本発明に係るチタン電析物の製造方法の一実施形態は、溶融塩電解を用いた電解精製によりチタン電析物を製造する方法であって、電析工程を含む。そして、前記電析工程では、溶融塩浴としての塩化物浴が、30mol%以上の塩化マグネシウムと1mol%以上の低級塩化チタンとを含む。また、前記電析工程における陽極の電流量は、前記塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上である。当該チタン電析物の製造において、前記電析工程は主要な工程であり、その他に、任意で電析を実施する電析補助工程を更に含んでもよい。なお、電析工程及び電析補助工程前に、後述の抽出工程を更に含んでもよい。
なお、本明細書において、「塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件」とは、低級塩化チタンを除いた浴組成、浴温、電極間距離、電圧等が同一であることを意味する。よって、塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件で溶融塩電解試験を追加で行い、この試験で得た陽極の電流量と電析工程で測定した陽極の電流量とを対比し、電析工程における陽極の電流量が溶融塩電解試験で得た電流量の2倍以上であるか否かを判断する。
【0013】
まず、本発明者は鋭意検討し、塩化物浴に所定量の塩化マグネシウムを含有させることで、溶融塩電解を用いた電解精製において粗チタン系材料を陽極原料とした際、アルミニウム含有量が比較的低減された精製チタン系材料を陰極の表面上に析出させることに成功した。これにより、少ない回数の溶融塩電解で金属チタンを製造できることとなった。
【0014】
次に、本発明者は、チタン電析物の生産性について検討した。陽極原料である粗チタン系材料は電解精製で消耗されると、該粗チタン系材料よりチタン含有量が少なく且つアルミニウム及び酸素含有量が多い残渣(以下、「陽極残渣」とも称する。)となる。粗チタン系材料は消耗に伴ってアルミニウム及び酸素含有量が多くなることで、その比抵抗が高くなる。粗チタン系材料の比抵抗が高くなれば、消費電力当たりのチタン電析物の生産量が低下する傾向にある。そこで、電解精製における粗チタン系材料の挙動を鑑み、単位時間当たりの粗チタン系材料の消耗量を増やせば、結果としてチタン電析物の生産性が高まると本発明者は考えるに至った。さらに、陽極における電流量の増加は陽極からのチタン溶出の促進と関係性を有しているので、陽極の電流量が増加すれば単位時間あたりのチタン電析物の生産性が高まると本発明者は考えるに至った。
【0015】
このような考えに基づき本発明者はさらに検討し、前記電析工程における塩化物浴に、塩化マグネシウムの他、所定量の低級塩化チタンを更に含ませ、前記電析工程における陽極の電流量が、塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上であることで、結果としてチタン電析物の生産性が高まるという知見を得た。
【0016】
すなわち、所定量の塩化マグネシウムと所定量の低級塩化チタンとを含む塩化物浴を使用すると、電流が流れやすくなり、チタン電析物の生産性を向上できることが判明した。なお、チタン電析物の生産性が向上するメカニズムは以下のことが推察される。電解精製は、陽極から塩化物浴へのチタンイオン溶出、塩化物浴中のチタンイオンの移動及び陰極でのチタンイオンの還元によるチタンの電析等により進行する。塩化物浴中の電流はチタンイオンの移動によって作り出されるため、チタンイオンが存在しない又はチタンイオン濃度が低い塩化物浴では、ごく微量の電流しか流すことができない。かかる状況において、電流を流そうとして高い電圧をかけると、塩化物浴の成分の分解反応や陽極としての容器の成分の溶出が起きることがある。これらの現象が起きた場合、見かけ上の電流は大きくなるが、目的とする電解精製以外の反応が起きることで電流が流れているため、電析チタンの生成効率も低くなる。また、該電析チタンへの不純物の混入も起きることがある。そこで、本発明では、塩化物浴中に低級塩化チタンを所定量供給することで、仮に塩化物浴中に低級塩化チタンを含む場合と低級塩化チタンを含まない場合とで同じ電圧であってとしても、高い生成効率で大きな電流を流すことができる。
なお、四塩化チタンは低級塩化チタンと比べ揮発性が高いので、塩化物浴に含ませるには低級塩化チタンが適当である。また、チタンイオンの価数は、陰極でのチタン電析物への還元に必要な電子数を表すので、低級塩化チタンは生産性の観点において有利である。
以下、各工程について好適な態様を例示する。
【0017】
<抽出工程>
まず、抽出工程では粗チタン系材料を作製する。以下、後述の電析工程で用いる粗チタン系材料の作製の一例を説明する。抽出工程に該当する部分は特許文献1等に開示されている内容を適宜適用可能である。すなわち、粗チタン系材料は公知の方法に基づき製造可能であるし、該粗チタン系材料を適宜入手して使用することができる。以下では、抽出工程についても具体的に説明する。
【0018】
抽出工程は、酸化チタンを含むチタン鉱石と、アルミニウムと、分離剤とを含む化学ブレンドを例えば加熱装置で加熱処理して、粗チタン系材料を得る。このときの反応は複雑だが総じて、たとえば、3TiO2+4Al→3Ti+2Al23の反応が起きると考えられる。ここで、Tiは粗チタン系材料に相当する。TiにおいてAlおよびOは、不可避的不純物の含有量相当の水準から後述する含有量程度まで含まれる場合もあるが、導電性を有している。アルミニウムは後述の電析工程で得られる陽極残渣中に含まれている場合があり、これを抽出工程で使用することもできるが、通常は、別途準備したアルミニウムを化学ブレンドに混合することが多い。抽出工程で得られる粗チタン系材料は比較的高い導電性を有するので、後述する電析工程に用いることができる。上記加熱処理後、不純物除去の観点から、粗チタン系材料の表面に付着しているスラグ等を後処理(例えば、ブラスト処理)にて除去することが好ましい。
チタン鉱石中の酸化チタン含有量は限定されないが、例えば50質量%以上であり、例えば80質量%以上であり、例えば90質量%以上である。チタン鉱石は、アップグレード品を使用してもよい。
【0019】
(分離剤)
分離剤は、抽出工程において粗チタン系材料と副生物であるスラグとを分離する目的で化学ブレンドに含まれる。よって、抽出工程において粗チタン系材料とスラグとを分離できるものが分離剤に該当する。例えば、分離剤はフッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム及びフッ化ナトリウムから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、フッ化カルシウムを含有することがより好ましい。分離剤はフッ化カルシウム単独であってもよい。
【0020】
(化学ブレンドの各含有量)
上記化学ブレンドを作製するために、チタンとアルミニウムと分離剤との投入量のmol比は、例えば酸化チタン:アルミニウム:分離剤=3:4~7:2~6になるように調整する。
【0021】
(加熱装置)
加熱装置は、加熱処理して粗チタン系材料を製造するための装置である。加熱装置としては例えば高周波誘導加熱装置等が挙げられる。当該高周波誘導加熱装置は、例えば、カーボン製の坩堝と、該坩堝の外壁上にソレノイド状の誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに接続された高周波電源とを備えるものであればよい。坩堝内の化学ブレンドに導電性の金属が含まれるので、高速加熱が可能であると考えられる。
【0022】
(加熱処理条件)
加熱処理条件について、例えば、不活性ガス(例えばArガス)雰囲気下、容器内部の温度が例えば1500℃以上かつ1800℃以下である。また、容器の内壁の材質としては、耐熱性等の観点から、例えば、カーボンやセラミックス等が挙げられる。
【0023】
(抽出工程で得られる粗チタン系材料の組成)
抽出工程で得られた粗チタン系材料については、例えばチタン含有量が50質量%以上かつ80質量%以下であり、アルミニウム含有量が3質量%以上かつ40質量%以下であり、酸素含有量が0.2質量%以上かつ20質量%以下である。なお、当該抽出工程で得られる粗チタン系材料は、アルミニウム含有量及び酸素含有量が高いが、後述する電析工程で良好に精製されて、アルミニウム含有量及び酸素含有量が低減され、精製チタン系材料になる。
なお、上記チタン含有量は、下限側として例えば60質量%以上である。
また、上記アルミニウム含有量は下限側として例えば5質量%以上である。一方、上記アルミニウム含有量は上限側として例えば30質量%以下、また例えば20質量%以下である。
また、上記酸素含有量は下限側として例えば3質量%以上、また例えば5質量%以上、また例えば8質量%以上である。一方、上記酸素含有量は上限側として例えば15質量%以下、また例えば10質量%以下である。
本発明においてはアルミニウム含有量及び酸素含有量が高い粗チタン系材料であっても、そのような不純物含有量が少なく純度が高い金属チタンを得ることができる。
なお、当該粗チタン系材料の各成分の不純物含有量の測定方法については以下の通りである。まず、粗チタン系材料から一部採取して測定用試料を準備し、該測定用試料を、金属成分はICP発光分析法(例えばPS3520UVDDII、HITACHI社製を使用する)、酸素は不活性ガス融解-赤外線吸収法(例えばTC-436AR、LECO社製を使用する)により各成分の不純物含有量を測定可能である。
【0024】
(比抵抗)
抽出工程で製造される粗チタン系材料の比抵抗は、電解精製を適切に実施する観点から、上限側として例えば8×10-5Ω・m以下であってよい。また、当該粗チタン系材料は導電性を有するものであって、適度に通電可能であればよいので、比抵抗の下限側は特段限定されないが、敢えて例示すれば1×10-8Ω・m以上であってよく、例えば5×10-8Ω・m以上であってよく、例えば1×10-7Ω・m以上であってよい。測定方法の一例としては、粗チタン系材料から採取された測定用試料を10mm角のブロック形状に切断し、切断後の測定用試料を2端子測定法(例えば低抵抗計3566-RY(鶴賀電機株式会社製)を使用する)により室温にて比抵抗を測定する。
【0025】
<電析工程>
電析工程は、溶融塩浴としての塩化物浴にて、チタン、アルミニウム及び酸素を含有する導電性の粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用し、陰極の表面上に精製チタン系材料を析出させてチタン電析物を得る。これにより、粗チタン系材料が精製されて、粗チタン系材料よりもチタン含有量の多い精製チタン系材料が得られる。
なお通常は、電析工程で陽極と陰極との間に特定の範囲内の電圧を印加するように設定することが多い。溶融塩浴の成分に由来する不純物が精製チタン系材料へ混入することを避けるためである。
【0026】
また、電析工程では、塩化物浴は、30mol%以上の塩化マグネシウムと1mol%以上の低級塩化チタンとを含む。これにより、粗チタン系材料と比べ、不純物含有量(特に、アルミニウム含有量)が低減された精製チタン系材料を陰極の表面(電解面)上に析出させることができる。さらには、前記電析工程における陽極の電流量が、前記塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験にて求めた陽極の電流量に対して2倍以上であることで、チタン電析物の生産性を向上させることができる。ここで、一実施形態において、陽極の電流量の計測の開始時点は、陽極と陰極との間における電圧の印加を実施してから600秒経過した時点をいい、陽極の電流量の計測の終了時点は、陽極と陰極との間における電圧の印加を停止した時点をいう。
【0027】
(電解装置)
一実施形態においては、種々の電解装置を用いることができる。図1Aに示す電解装置100の一例はバッチ式であり、塩化物浴Bfを貯留する密閉容器状の電解槽110と、塩化物浴Bfに浸漬させて配置する陽極120及び陰極130を含む電極と、陽極120及び陰極130に導電線を介して接続されて、該陽極120及び該陰極130に通電する電源(不図示)とを備えるものが挙げられる。図示は省略するが、電解装置100は陽極および陰極を設置し、或いは、取り出すとき等のために通常は開閉可能の構造である。また、図示は省略するが、塩化物浴Bf上の空間を不活性ガス雰囲気とするために、電解装置100はガスの給排気を行う開口を備える。また、図示は省略するが、電解装置100は適宜の箇所にヒータを備え、加熱により塩化物浴Bfの溶融状態を維持できる。なお、電解槽110の材質は耐熱性及び耐腐食性を有していれば特に限定されるものではない。また、電極には、複極を更に含むこともある。
【0028】
(塩化物浴)
電析工程の電解精製では、酸素含有量のみならずアルミニウム含有量をも低減して金属チタンを製造するため、30mol%以上の塩化マグネシウムを含有する塩化物浴Bfを使用する。塩化マグネシウム含有量が多い塩化物浴を使用することでアルミニウム含有量の低減効果が高まる傾向がある。
上記の所定量の塩化マグネシウムを含有する塩化物浴Bfは、チタン電析物中のアルミニウム含有量および酸素含有量を低減できる点で有効である。当該塩化マグネシウム含有量は、好ましくは30mol%以上であり、より好ましくは50mol%以上であり、更に好ましくは80mol%以上であり、更に好ましくは85mol%以上であり、更に好ましくは90mol%以上である。なお、上記塩化物浴Bfには、塩化マグネシウムと共に、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化ベリリウム(BeCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化バリウム(BaCl2)から選択される1種以上の金属塩化物を更に含んでもよく、当該金属塩化物を例えば70mol%以下、また例えば50mol%以下、また例えば20mol%以下、また例えば15mol%以下、また例えば10mol%以下で更に含有してもよい。但し、上記塩化物浴Bfは、塩化マグネシウムと低級塩化チタンとからなる組成であっても構わない。なお、塩化物浴Bfの組成により、塩化物浴Bfを溶融状態に維持するための浴温が変化しうる。
さらに、低級塩化チタンの含有量は、陰極130の表面上に精製チタン系材料123の析出を促進する観点から、1mol%以上である。上記低級塩化チタンの含有量は、下限側で例えば2mol%以上であり、また例えば3mol%以上である。また、上記低級塩化チタンの含有量は、塩化物浴Bfに対する飽和量を踏まえ、上限側として例えば50mol%以下であり、また例えば30mol%以下であり、また例えば20mol%以下であり、また例えば15mol%以下であり、また例えば13mol%以下であり、また例えば10mol%以下である。該低級塩化チタンとしては二塩化チタン及び三塩化チタン等が挙げられる。なお、低級塩化チタンは、チタンスクラップやスポンジチタンに四塩化チタンを接触させて生成させることができる。
上記のような塩化物は、チタン電析物の組成や電解装置の操業における浴温等を考慮して、その具体的な塩の種類や含有量を適宜決定することができる。なお、上記モル基準の含有量は、ICP発光分析及び原子吸光分析により測定する。
ここで、上記のモル基準の含有量は以下のようにして計算する。塩化物浴Bfから採取した溶融塩のサンプルを固化させた後、そのサンプルの成分を、ICP発光分析及び原子吸光分析することにより、塩化物浴Bf中の各金属イオンのモル基準の含有量を算出する。仮に塩化物浴中にMgCl2、NaCl、KCl、CaCl2、LiCl、TiCl2及びTiCl3が含まれていた場合、Na、K及びLiは原子吸光分析、その他はICP発光分析により、金属イオンの含有量の合計(Mm)は、マグネシウムイオンの含有量、ナトリウムイオンの含有量、カリウムイオンの含有量、カルシウムイオンの含有量、リチウムイオンの含有量及び、チタンイオンの含有量を足し合わせて求める。塩化物浴Bf中に含まれる各成分のモル基準の含有量は、当該各成分の金属イオンの含有量を当該金属イオンの含有量の合計(Mm)で除して百分率で表すことにより算出することができる。以上、塩化物浴に含まれる金属イオンの含有量に基づき、塩化物の含有量を求める。
【0029】
(陽極)
粗チタン系材料121を陽極原料として使用するため、当該粗チタン系材料を導電性の容器122に格納して、陽極120を構成することが好ましい。容器122は、その外観視の形状を陽極120の形状として取り扱い可能である。
なお、陽極120の形状は特に限定されるものではないが、例えば、棒状、動かしながら使用する長尺の帯状、板状若しくは筒状、円柱その他の柱状又は、塊状等のものが挙げられる。また、粗チタン系材料121の形状は特に限定されるものではないが、例えば、粒状、塊状等のものが挙げられる。前記粒状である粗チタン系材料121を使用する場合は、当該粗チタン系材料121を容器122に格納して使用することが好ましい。また、陽極120の数は、陰極130の数にもよるが、1又は複数でもよい。
【0030】
なお、例えば容器122は塩化物浴Bf中に吊り下げて配置してもよいし、また例えば図面上に記載されていないが、電解槽110の底面には、容器122を下側から支持する台座(不図示)が立設されていてもよい。台座の形状は容器122の形状に鑑みて適宜決定可能である。容器122の底壁が円環状である有底筒状である場合は、容器122の形状に併せて、台座は円筒状でもよく、等間隔に複数の柱状の台座を配置してもよい。また、台座は、電解精製中、容器122と導通しないように絶縁性であれば良いので、例えばセラミックス製が好適であり、中でも塩化物浴に対する不溶性の観点から、耐火レンガ製がより好適である。
【0031】
(容器)
容器122は、粗チタン系材料121や電析後の陽極残渣124、127を格納するものであり、導電性を有する。容器122の形状は特段限定されず、前記陽極(粗チタン系材料121や電析後の陽極残渣124、127)の形状に対応するものとしてよい。容器122は、例えば、貫通孔が設けられたバスケット型のものを用いることができる。容器122は一例として、その外観が有底筒状であって、円環状の底壁122aと、該底壁122aから上方に延在した内側壁122bと、該底壁122aから上方に延在した外側壁122cとを備え、上方に開口部が形成されている。当該容器122は、陰極130と対向する内側壁122bに少なくとも貫通孔122dを有していればよく、外側壁122cに貫通孔122dを更に有していてもよい。内側壁122b及び外側壁122cは、複数の貫通孔122dを有していれば更によい。複数の貫通孔122dの配列は特に限定されるものではなく、格子状でもよく、千鳥状でもよい。また、粗チタン系材料121を容器122の内部に保持できることを前提とし、前記底壁122aが貫通孔122dを有してもよい。
当該容器122の比抵抗は、消費電力を低減しつつ電解精製を実施する観点から、上限側として例えば1×10-4Ω・m以下であればよい。また、当該容器122は導電性を有するものであって、適度に通電可能であればよいので、比抵抗の下限側は特段限定されないが、敢えて例示すると1×10-8Ω・m以上であればよい。なお、測定方法の一例としては、所定の大きさに切り出した測定用試料の抵抗を2端子測定法(低抵抗計3566-RY、鶴賀電機株式会社製)などで室温にて測定することにより比抵抗を測定する。
容器122の材質としては、塩化物浴に対して不溶性であればよく、例えばニッケル、Ni基合金(例えば、ハステロイ)、鉄及びカーボン等が挙げられる。これらの材質からなる容器122は電解精製中、塩化物浴Bf中にほとんど溶出されず、主に該容器122内の粗チタン系材料121が溶出される。当該容器122の材質は、中でも、耐衝撃性の観点から、ニッケル、Ni基合金(例えば、ハステロイ)及び鉄が好ましく、ニッケルがより好ましい。また、例えば容器122が鋼で構成されている場合、鋼の表面にメッキ処理を施すことでニッケルメッキを形成してもよい。
【0032】
(陰極)
また、陰極130は、例えば棒状であり、精製チタン系材料が析出するその陰極130の表面の少なくとも一部が、曲面形状であってもよい。陰極130の形状は特段限定されず、例えば、動かしながら使用する長尺の帯状、板状若しくは筒状、円柱その他の柱状又は、塊状等のものが挙げられる。また、陰極130の数は、陽極120の数にもよるが、1本又は複数本でもよい。陰極130の材質は特に限定されない。例えば、陰極130は少なくともその表面がチタン、モリブデン、ガラス状炭素及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一種を90質量%以上含有することがある。陰極130は、その表面がチタン製であってもよい。
【0033】
陽極120と陰極130の電極間距離は特に限定されるものではないが、例えば20mm以上かつ700mm以下である。また、例えば、筒状、棒状、又は柱状の陰極130を使用し、その外側に陽極120を配置する場合、陽極120も筒状としてよい。この場合、筒状の陽極120が陰極130を取り囲むので精製チタン系材料123が生成する面積を大きくできる。また、軸位置を固定して回転可能とした棒状又は柱状の陰極130を使用し、対向部位に断面弧状の板状陽極120を使用してもよい。この場合でも、陽極120と陰極130の対向部位はほぼ同じ電極間距離を維持できる。このような陰極130を使用すると該陰極130を回転等作動させながら陰極130の表面にチタン電析物を電析させることができ連続生産時の装置小型化に貢献する。
【0034】
<電析補助工程>
電析補助工程は、チタン純度をより一層高めることを目的として、先述の電析工程前及び/又は電析工程後に更に含むことが好ましい。溶融塩電解では電析物の精製がなされるので、この観点から当該電析補助工程で使用する溶融塩浴は特段限定されず、例えば前述した塩化物浴を使用してよいし、フッ化物、臭化物、ヨウ化物等をさらに含む溶融塩浴や、フッ化物浴、臭化物浴、ヨウ化物浴である溶融塩浴を使用してもよい。なお、電析補助工程では、一例として先述の電析工程に供される電解装置を使用可能である。電析補助工程における電極の各条件については、先述の電析工程と同様または適宜設定可能であるため、説明を割愛する。
【0035】
また、電析補助工程で使用する塩化物浴Bfは、低級塩化チタンを更に含んでもよい。当該低級塩化チタンの含有量は適宜調整可能である。
【0036】
電析補助工程を実施する場合、その回数は1回実施でもよいが、複数回実施することで、アルミニウム含有量及び/又は酸素含有量がより確実に低減される。そして、高純度の精製チタン系材料が得られる。製造コスト及び工数を考慮して、電析補助工程の回数を適宜決定することができる。電析補助工程は、例えば合計1回以上かつ5回以下であり、例えば合計2回以上かつ5回以下である。また例えば合計2回以上かつ3回以下である。
なお、電析補助工程を複数回実施する場合、各電析補助工程の溶融塩浴については同じでもよく、異なっていてもよい。
【0037】
次に、電析工程、電析補助工程の順に実施してチタン電析物を製造する一例について図1A図1D及び図2を用いて説明する。
図1A図1Dに示される各導電線は、電源(不図示)にそれぞれ接続可能であり、該電源の制御機構(不図示)は、各陽極及び各陰極に応じて電流を供給する導電線ELを適宜切り替えることができるものとする。
なお、図中の容器の形状については、一例に過ぎず、この形状に限定されるものはない。
【0038】
電析工程は、塩化物浴Bfで先述した所定の粗チタン系材料を含む電極を用いて電解精製することで精製チタン系材料を得る。
例えば、電析工程において、図1Aに示すように、ニッケル製の容器122と該容器122内に粗チタン系材料121とを含む陽極120と、チタン製陰極130とを塩化物浴Bfにそれぞれ配置する。次いで、容器122及び陰極130に接続された導電線ELを介して制御機構により電圧を印加して容器122に格納された粗チタン系材料121及び陰極130へ通電することで、電解精製を実施する。このとき、塩化物浴Bfの成分を鑑み、塩化物浴Bfの分解による精製チタン系材料123の生成効率の低下及び塩化物浴Bfに由来する不純物の精製チタン系材料への混入が起こらないように電圧を設定する。よって、多くの場合、一定の範囲内の電圧を印加することとなる。
なお、図面上、容器122に粗チタン系材料121を格納しているが、例えば複数の容器を使用し、別々の容器にそれぞれ陽極120の粗チタン系材料121を格納してもよい。
【0039】
(塩化物浴の浴温)
塩化物浴Bfの浴温は該塩化物浴Bf内の成分次第で適宜変更すればよい。すなわち、塩化物浴が溶融状態を維持できるようにする、過度の加熱によるエネルギーロスを省く、等の観点から塩化物浴Bfの浴温を適宜決定すればよい。この際、各金属塩化物の融点を参考として塩化物浴Bfの浴温を適宜決定することも可能である。塩化物浴Bfの浴温は、750℃以上かつ950℃以下であることが好ましく、また750℃以上かつ900℃以下が好ましく、また750℃以上かつ850℃以下が好ましい。当該浴温の範囲内であれば、塩化物浴Bf中に比較的多量の塩化マグネシウムを含ませることができる。また、低級塩化チタンを塩化物浴に良好に含ませることができ、且つ過度な加熱を要さず電解精製を実施できる。
【0040】
電解槽110内は、大気中の水分等が混入することでチタン電析物の不純物含有量が高くなることを抑制する観点から、例えばアルゴン等の不活性ガス雰囲気に制御される。
【0041】
次に、図1Bに示すように、ニッケルよりもイオン化傾向が大きいチタンや、アルミニウムを含む粗チタン系材料121が塩化物浴Bfに溶出されるにつれ粗チタン系材料121が消耗され、陰極130の表面上に不純物含有量が低減された精製チタン系材料123が析出される。このとき、電解精製により、容器122内の粗チタン系材料121が陽極残渣124となる。そして、電解精製を終了させるために、制御機構により陽極120と陰極130との間における電圧の印加を停止する。
【0042】
電解槽110から取り出した陰極130の表面上に析出された精製チタン系材料123を切削工具で剥がす等して回収できる。この場合、精製チタン系材料123に対して洗浄や乾燥を実施してもよいし、真空分離処理を実施してもよい。なお、この処理は、精製チタン系材料123に対し、陰極130と共にしてもよいし、陰極130から回収後に実施してもよい。
一例として、電解槽110から陰極130を取り出し、その陰極130及び精製チタン系材料123を酸洗浄及び/又は水洗浄でそれぞれに付着した溶融塩成分を溶解させて除去する。次いで、陰極130の表面から精製チタン系材料123を切削工具等で剥がす。そして、精製チタン系材料123を坩堝等の容器に入れて水分等を蒸発させるため真空乾燥する。
一例として、電解槽110から陰極130を取り出し、これを真空分離処理する。真空分離処理では溶融塩成分を蒸発により除去する。
精製チタン系材料123は、粗チタン系材料121と比べてアルミニウム含有量及び酸素含有量が低減している。当該精製チタン系材料123はアルミニウム含有量が適切に低減されているため、チタン電析物として取り扱い可能である。なお、さらに溶融塩電解を実施して不純物含有量を低減する場合は、前記精製チタン系材料123を次回の電解精製における粗チタン系材料121として使用すればよい。
【0043】
<電析補助工程>
電析補助工程は、例えば、前述の電析工程後、精製チタン系材料123を粗チタン系材料として含む電極を用いて塩化物浴Bfで電解精製する。これにより、電析工程で得られた精製チタン系材料123を更に精製することで、不純物含有量が更に低減されたチタン電析物126が得られる。すなわち、電析補助工程を繰り返す場合、それ以降の電析補助工程では、前回得られた精製チタン系材料123を電極として用いる。
例えば、図1Cに示すように、精製チタン系材料123と該精製チタン系材料123が格納されたニッケル製の容器122とを含む陽極125と、チタン製陰極130とを塩化物浴Bfにそれぞれ配置する。次いで、容器122及び陰極130に接続された導電線ELを介して容器122と陰極130との間に制御機構により電圧を印加して容器122に格納された精製チタン系材料123及び陰極130へ通電することで、電解精製を実施する。このとき、一定の範囲内の電圧を設定する。なお、当該陰極130は、電析工程で使用した陰極130と同じでもよく、新たな陰極に交換してもよい。
【0044】
この一実施形態では、電析補助工程においても塩化物浴Bfを使用している。また、電析補助工程では塩化物浴Bf以外の溶融塩浴を使用してもよく、例えば、フッ化物、臭化物やヨウ化物を含む溶融塩浴を使用することができる。なお、これらの組成は適宜調整可能である。また、溶融塩浴の浴温は、溶融塩浴の組成等を鑑みて適宜設定すればよい。
【0045】
次に、図1Dに示すように、チタンを含む陽極125が塩化物浴Bfに溶出されるにつれ精製チタン系材料123が消耗され、陰極130の表面上に不純物含有量が低減されたチタン電析物126が形成される。このとき、電解精製により、容器122内の精製チタン系材料123が陽極残渣127となる。そして、電解精製を終了させるために、制御機構により陽極125と陰極130との間における電圧の印加を停止する。
【0046】
電解槽110から取り出した陰極130の表面上に形成されたチタン電析物126を切削工具で剥がす等して回収する。なお、チタン電析物126に対し、上記電析工程で先述した洗浄や乾燥、また真空分離を実施してもよい。また、洗浄や乾燥等は陰極130と共にしてもよいし、陰極130から回収後に実施してもよい。
これにより、アルミニウム含有量及び酸素含有量がさらに低減されたチタン電析物126が得られる。
【0047】
(チタン電析物の組成等)
上記チタン電析物の製造方法を実施して、チタン電析物が製造される。チタン電析物は不純物を含まないことが好ましいが、一定程度不純物を含む場合がある。以下、不純物を例示する。
当該チタン電析物の製造方法で製造されるチタン電析物では、少なくともアルミニウム含有量が5000質量ppm以下であることが好ましい。チタン電析物は、例えば、アルミニウム含有量が5000質量ppm以下、酸素含有量が20000質量ppm以下、残部がチタン及び不可避的不純物からなることが好ましい。この不可避的不純物は、鉱石由来の不純物や、塩化物浴由来の成分であることが多い。
なお、上記アルミニウム含有量は上限側として例えば5000質量ppm以下であり、また例えば2500質量ppm以下であり、また例えば500質量ppm以下であり、また例えば300質量ppm以下であり、また例えば200質量ppm以下である。一方、上記アルミニウム含有量は下限側として例えば30質量ppm以上であり、また例えば50質量ppm以上であり、また例えば80質量ppm以上である。
上記酸素含有量は上限側として例えば20000質量ppm以下であり、例えば12000質量ppm以下であり、例えば1000質量ppm以下であり、例えば800質量ppm以下であり、例えば600質量ppm以下である。一方、上記酸素含有量は下限側として例えば80質量ppm以上であり、例えば110質量ppm以上であり、また例えば150質量ppm以上であり、また例えば300質量ppm以上である。
上述した不純物含有量について、電析工程のみを実施した場合と、電析工程および電析補助工程を実施した場合とを対比すると、電析工程および電析補助工程を実施した場合は不純物含有量が一段と低下する傾向にある。
なお、チタン電析物の各成分の不純物含有量の測定方法については、先述した粗チタン系材料の各成分の不純物含有量の測定方法と同様である。
【実施例0048】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための試験的な具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0049】
[粗チタン系材料の作製(抽出工程)]
酸化チタンを含むチタン鉱石と、アルミニウムと、分離剤としてのフッ化カルシウムとを含む化学ブレンドを公知の方法に基づき加熱処理した後、後処理をして粗チタン系材料を作製した。
【0050】
上記粗チタン系材料から採取された測定用試料の組成を、先述した方法により測定した。その結果、粗チタン系材料のチタン含有量は70質量%以上であり、アルミニウム含有量は9質量%であり、酸素含有量が13質量%であった。
また、当該粗チタン系材料から採取された測定用試料の比抵抗を、先述した方法により測定した。その結果、粗チタン系材料の比抵抗は、5×10-5Ω・mであった。
【0051】
上記粗チタン系材料については、陽極1個当たりの質量が200gになるように粒状として5セット採取した。
【0052】
[精製チタン系材料の製造(電析工程)]
[実施例1]
次に、図1A図1B及び図2に示した構成を備える電解装置100を準備した。当該電解装置100は、塩化物浴Bfを貯留する密閉容器状の電解槽110と、塩化物浴Bfに浸漬させて配置され、粗チタン系材料121と該粗チタン系材料121が格納されたニッケル製のバスケット型の容器122とを含む陽極120と、チタン製の陰極130と、陽極120とチタン製の陰極130に導電線ELを介して接続されて、該陽極120及び該陰極130に通電する電源(不図示)とを備えていた。当該容器122は外観が有底筒状であり、円環状の底壁122aと、該底壁122aから上方に延在した内側壁122bと、該底壁122aから上方に延在した外側壁122cとを備え、上方に開口部が形成されており、容器122の内側壁122bと外側壁122cとに複数の貫通孔122dが形成されていた。なお、電源は、制御機構(不図示)に接続されていた。また、図示による説明はしないが、電解槽110は上側を開閉可能とした。よって、電解槽110の上側を閉じることで、電析工程では外部からの大気混入を抑制できる。
電解装置100の電解槽110の浴部分の寸法形状は、100mmΦ×200mm深さとした。次に、電解装置100の電解槽110内に塩化マグネシウムを投入して、浴温を表1に示す通りに制御して溶解させて塩化物浴Bfとした。その後、クロール法で得られたスポンジチタンに四塩化チタンを接触させて塩化物浴Bfに低級塩化チタンを供給して表1に示す浴組成に調製した。なお、表1における「TiCl2」は低級塩化チタンを意味する。また、実施例1及び後述の実施例2は、後述の比較例1と対比すると、塩化マグネシウムに低級塩化チタンを添加して塩化物浴Bfを調製し、さらに塩化物浴Bfの浴温および電圧が一致している。よって、比較例1は実施例1~2に対して「塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験」を実施した場合に該当する。
【0053】
次に、陽極原料として粗チタン系材料121を容器122(比抵抗:5×10-5Ω・m)内に格納した。また、陰極130としては、10mmΦ×300mm長さのチタン円柱を準備した。すなわち、容器122及び陰極130は、1個ずつである。なお、陽極120の容器122及び陰極130の高さ方向が塩化物浴Bfの深さ方向とほぼ平行になるように、導電線ELが接続された状態で容器122及び陰極130を配置した。陰極130は塩化物浴Bfの深さより長いので、その一部が浴面より上に位置する状態で陰極130を使用した。
【0054】
陽極120と陰極130との間には、制御機構により電圧を印加して、塩化物浴Bf中にて溶融塩電解を実施した。電圧の印加の開始時から1時間経過後、制御機構により電圧の印加を停止した。なお、電流量については、陽極120の電流量の計測の開始時点及び陽極120の電流量の計測の終了時点を先述した方法に準じて計測した。
図1Bに示すように、その陰極130の表面全体に亘って析出された精製チタン系材料123が得られた。なお、その他の電解精製の条件を以下に示す。
<電解精製の条件>
電解槽内:Arガス雰囲気
電極間距離:50mm
【0055】
電圧の印加の停止後、電解槽110から容器122及び陰極130を引き上げて、容器122、該容器122内の陽極残渣124、該陰極130及び精製チタン系材料123を水洗し、それぞれ付着していた溶融塩成分を除去した。次いで、当該陰極130から精製チタン系材料123を切削工具で剥がし回収した。回収後、精製チタン系材料123に含まれる水分を、真空乾燥で蒸発させた。
【0056】
真空乾燥後、精製チタン系材料123の質量を測定した。精製チタン系材料123のアルミニウム含有量を先述した方法で測定した。その結果を表1に示す。なお、精製チタン系材料123の酸素含有量は、0.8質量%程度であった。
【0057】
[実施例2~3、比較例1~3]
実施例2~3では、表1に示す浴組成、浴温に変更したこと以外、実施例1と同様に溶融塩電解を実施した。その後、実施例1と同様、精製チタン系材料123の質量とアルミニウム含有量とを測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例2~3における精製チタン系材料123の酸素含有量は、0.8質量%程度であった。
また、後述の比較例1~3における精製チタン系材料123の酸素含有量は、7質量%程度であった。
また、比較例1では、表1に示す浴組成に変更したこと以外、実施例1と同様に溶融塩電解を実施した。但し、比較例1は実施例1に対して低い電流量であったため電圧の印加の開始時から5時間経過時に電圧の印加を停止した。実施例1との対比のため、表1に示した電流の値は電解精製の操業時間1時間までにおいて確認したものである。その後、実施例1と同様、精製チタン系材料123の質量とアルミニウム含有量とを測定した。その結果を表1に示す。なお、比較例1は、実施例1~2に対して「塩化物浴が低級塩化チタンを含まないことを除いて同一の条件の溶融塩電解試験」を実施した場合に該当する。
また、比較例2では、表1に示す浴組成に変更したこと以外、実施例1と同様に溶融塩電解を実施した。但し、比較例2は実施例1に対して低い電流量であったため電圧の印加の開始時から6時間経過時に電圧の印加を停止した。実施例1との対比のため、表1に示した電流の値は電解精製の操業時間1時間までにおいて確認したものである。その後、実施例1と同様、精製チタン系材料123の質量とアルミニウム含有量とを測定した。その結果を表1に示す。
また、比較例3では、表1に示す浴組成に変更したこと以外、実施例3と同様に溶融塩電解を実施した。但し、比較例3は実施例3に対して低い電流量であったため電圧の印加の開始時から6時間経過時に電圧の印加を停止した。実施例3との対比のため、表1に示した電流の値は電解精製の操業時間1時間までにおいて確認したものである。その後、実施例3と同様、精製チタン系材料123の質量とアルミニウム含有量とを測定した。その結果を表1に示す。
なお、比較例1~3について、表1に示す精製チタン系材料の重量は各比較例で5~6時間操業して得たものである。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例による考察)
実施例1~3は陽極の電流量が大きく、比較例1~3に対してチタン電析物の生産性が良好であった。実施例1~3は塩化物浴が低級塩化チタンを含んでおり、これにより生産性が高まったと推測される。また、比較例1は比較例2に対してアルミニウムの精製において優れた結果となった。チタン電析物中のアルミニウム含有量の低減には塩化マグネシウムの利用が効果的であると考えられた。
実施例1~2と比較例1を対比し、これらの溶融塩電解の条件の差異は溶融塩浴における低級塩化チタンの有無である。実施例1~2は塩化物浴が所定量の低級塩化チタンを含み陽極の電流量が2倍以上となりチタン電析物の生産性が向上したのみならず、チタン電析物におけるアルミニウム含有量の低減効果も良好であった。実施例1は実施例2に対して低級塩化チタンの含有量が多く、実施例3は実施例1に対して低級塩化チタンの含有量が多い。塩化物浴における低級塩化チタン含有量はチタン電析物の生産性に影響し、塩化物浴に低級塩化チタンが含まれていても塩化マグネシウムによるアルミニウム含有量低減効果は良好に維持されると考えられる。
実施例3と比較例3を対比し、これらの溶融塩電解の条件の差異は溶融塩浴における低級塩化チタンの有無である。実施例3は塩化物浴が所定量の低級塩化チタンを含み陽極の電流量が2倍以上となりチタン電析物の生産性が向上したのみならず、チタン電析物におけるアルミニウム含有量の低減効果も良好であった。
一方、実施例1~3と比較例1~3とを対比し、比較例1~3の精製チタン系材料のチタン含有量が低かった。かかる原因については、実施例1~3の精製チタン系材料の酸素含有量が0.8質量%程度であったことに対し比較例1~3の精製チタン系材料の酸素含有量が7質量%程度であったことから、比較例1~3の精製チタン系材料の酸素含有量が多いことと考えられる。さらに、比較例1~3は、実施例1~3と比べ、塩化物浴に所定量の低級塩化チタンを含んでいなかったこともあり、精製チタン系材料の回収で得られたチタン粒が微細である。すなわち、比較例1~3で回収された精製チタン系材料の比表面積は、実施例1~3と比べて大きいので、酸素含有量が多くなっていたといえる。
【符号の説明】
【0060】
100 電解装置
110 電解槽
120、125 陽極
121 粗チタン系材料
122 容器
122a 底壁
122b 内側壁
122c 外側壁
122d 貫通孔
123 精製チタン系材料
124、127 陽極残渣
126 チタン電析物
130 陰極
Bf 塩化物浴
EL 導電線
図1A
図1B
図1C
図1D
図2