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特開2024-32438長鎖脂肪族化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物
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  • 特開-長鎖脂肪族化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物 図1
  • 特開-長鎖脂肪族化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032438
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】長鎖脂肪族化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20240305BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240305BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08G59/40
H01L23/30 R
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136093
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田窪 由紀
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野 遼平
【テーマコード(参考)】
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J036AD07
4J036AD08
4J036AF06
4J036DB17
4J036DB23
4J036DC41
4J036FB07
4J036JA07
4J036JA08
4M109AA01
4M109BA01
4M109BA03
4M109CA01
4M109CA02
4M109CA04
4M109CA10
4M109EA02
4M109EA06
4M109EA07
4M109EA10
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB07
4M109EB12
4M109EB13
4M109EB18
4M109EC04
4M109EC05
4M109EC07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、柔軟性にも優れた硬化物を得ることができる化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される化合物、および、数平均分子量が1000以上である前記化合物、および、前記化合物からなる硬化剤、および、前記硬化剤と硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物、および、さらに、一般式(1)で示される化合物とは別の硬化剤と含む前記硬化性樹脂組成物、および、硬化性樹脂がエポキシ樹脂である前記硬化性樹脂組成物。

((1)式中、Rは、水素又はアリール基、Xは、炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価基、Yは、炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価基、nは、1以上の数を示す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物。
【化1】
((1)式中、Rは、水素又はアリール基、Xは、炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価基、Yは、炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価基、nは、1以上の数を示す。)
【請求項2】
数平均分子量が1000以上である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物からなる硬化剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の硬化剤と硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、一般式(1)で示される化合物とは別の硬化剤と含む請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、硬化促進剤を含む請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
硬化性樹脂と硬化剤の合計に対する一般式(1)で示される化合物の割合が20質量%以下である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化物を含む電気絶縁材料。
【請求項11】
請求項9に記載の硬化物を含む封止材。
【請求項12】
パワー半導体モジュールに用いる請求項11に記載の封止材。
【請求項13】
請求項9に記載の硬化物を含むプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、柔軟性にも優れた硬化物を得ることができる化合物およびそれを含む硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂等の硬化性樹脂は、耐熱性、機械的特性および電気的特性に優れており、プリント配線板用絶縁材料や半導体封止材料等の電気・電子材料を中心に工業的に広く利用されている。
【0003】
近年、車載用パワーモジュールに代表されるパワー半導体の分野では、更なる大電流化、小型化、高効率化が求められており、炭化ケイ素(SiC)半導体への移行が進みつつある。SiC半導体は、従来のシリコン(Si)半導体よりも高温条件下での動作が可能であることから、SiC半導体に用いる半導体封止材料にはこれまで以上に高い耐熱性が要求されている。
【0004】
一方、プリント配線板用絶縁材料の分野では、電子機器における信号の高速化・高周波化に向け、信号の伝送損失を低減するため、絶縁材料には、低誘電率や低誘電正接等、優れた誘電特性が求められている。また、高温領域で製造されたり用いたりする場合が増加していることから、割れや剥離等を低減するため、絶縁材料には、柔軟性が求められている。
【0005】
プリント配線板用絶縁材料や半導体封止材料等の電気・電子材料に用いる樹脂としては、例えば、特許文献1に、エポキシ樹脂にイミド構造を有する化合物を用いた硬化物が開示されている。しかしながら、特許文献1の硬化物は、耐熱性、機械的特性、誘電特性には優れているものの、柔軟性が不十分であった。一般に、耐熱性と柔軟性は相反する性質であることが知られており、これらの特性の両立は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2019/225166号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、柔軟性にも優れた硬化物を得ることができる化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討をおこなった結果、一般式(1)で示される化合物を硬化剤として用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)一般式(1)で示される化合物。
【化1】
((1)式中、Rは、水素又はアリール基、Xは、炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価基、Yは、炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価基、nは、1以上の数を示す。)
(2)数平均分子量が1000以上である請求項1に記載の化合物。
(3)(1)または(2)に記載の化合物からなる硬化剤。
(4)(1)または(2)に記載の硬化剤と硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物。
(5)さらに、一般式(1)で示される化合物とは別の硬化剤と含む(4)に記載の硬化性樹脂組成物。
(6)硬化性樹脂がエポキシ樹脂である(5)または(6)に記載の硬化性樹脂組成物。
(7)さらに、硬化促進剤を含む(4)~(6)いずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(8)硬化性樹脂と硬化剤の合計に対する一般式(1)で示される化合物の割合が20質量%以下である(4)~(7)いずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(9)(4)~(8)いずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
(10)(9)に記載の硬化物を含む電気絶縁材料。
(11)(9)に記載の硬化物を含む封止材。
(12)パワー半導体モジュールに用いる(11)に記載の封止材。
(13)(9)に記載の硬化物を含むプリント配線基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、柔軟性にも優れた硬化物を得ることができる化合物およびそれを用いた硬化性樹脂組成物を提供することができる。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、電気絶縁性材料、封止材、プリント配線基板に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の硬化物の海島型の相分離構造を示すTEM写真である。
図2】実施例1、参考例1、参考例3の硬化物の電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<化合物>
本発明の化合物は、一般式(1)で示される化合物である。
【化2】
【0013】
一般式(1)において、Xは、炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価基を示す。前記二価基を与える脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、セバシン酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ヘンエイコサン二酸、ドコサン二酸、トリコサン二酸、テトラコサン二酸、ペンタコサン二酸、ヘキサコサン二酸、ヘプタコサン二酸、オクタコサン二酸、ノナコサン二酸、トリアコンタン二酸、ヘントリアコンタン二酸、ドトリアコンタン二酸、トリトリアコンタン二酸、テトラトリアコンタン二酸、ペンタトリアコンタン二酸、ダイマー酸が挙げられる。中でも、汎用性が高く、得られる硬化物の柔軟性が向上することから、ダイマー酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸は、水素添加反応を施したものであってもよいし、環状構造を有していてもよい。また、脂肪族ジカルボン酸は、分岐を有してもよいし、不飽和結合を有してもよい。脂肪族ジカルボン酸は純度が高いものが好ましい。ダイマー酸の市販品としては、築野食品社製「ツノダイム395」、クロ―ダジャパン社製「PRIPOL1009」、クロ―ダジャパン社製「PRIPOL1004」が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
一般式(1)において、Yは、炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価基を示す。前記二価基を与える脂肪族ジアミンとしては、例えば、デカンジアミン、ドデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、イコサンジアミン、ヘンイコサンジアミン、ドコサンジアミン、トリコサンジアミン、テトラコサンジアミン、ペンタコサンジアミン、ヘキサコサンジアミン、ヘプタコサンジアミン、オクタコサンジアミン、ノナコサンジアミン、トリアコンタンジアミン、ヘントリアコンタンジアミン、ドトリアコンタンジアミン、トリトリアコンタンジアミン、テトラトリアコンタンジアミン、ペンタトリアコンタンジアミン、ダイマージアミンが挙げられる。中でも、汎用性が高く、得られる硬化物の柔軟性が向上することから、ダイマージアミンが好ましい。脂肪族ジアミンは、水素添加反応を施したものであってもよいし、環状構造を有していてもよい。また、脂肪族ジアミンは、分岐を有してもよいし、不飽和結合を有してもよい。脂肪族ジアミンは純度が高いものが好ましい。ダイマージアミンの市販品としては、BASFジャパン社製「バーサミン551」、コグニスジャパン社製「バーサミン552」(バーサミン551の水素添加物)、クロ―ダジャパン社製「PRIAMINE1075」、クロ―ダジャパン社製「PRIAMINE1074」が挙げられる。脂肪族ジアミンは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
一般式(1)において、Rは、それぞれ独立して水素またはアリール基を示す。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が挙げられる。
【0016】
一般式(1)において、nは、機械的特性の観点から、1以上であることが必要であり、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明の化合物の分子量は、1000以上であることが好ましく、耐熱性、柔軟性のさらなる向上の観点から、2000~5000であることがより好ましい。
【0018】
本発明の化合物は、硬化性樹脂と併用することにより、硬化剤として用いることができる。
【0019】
本発明の化合物を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、上記脂肪族ジカルボン酸と上記脂肪族ジアミンとを反応させ化合物を作製した後、さらにトリメリット酸無水物を反応させ、加熱閉環反応をおこなう方法が挙げられる。さらに必要に応じて、エステル化反応をおこなって、末端をエステル化してもよい。エステル化する場合、公知のエステル化反応によりおこなえばよく、例えば、触媒とフェノール類を反応させる方法や、エステル交換反応を利用する方法が挙げられる。
【0020】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、一般式(1)で示される化合物と硬化性樹脂を混合することにより得ることができる。
【0021】
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、マレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。中でも、エポキシ樹脂がより好ましい。上記硬化性樹脂は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
エポキシ樹脂は、1分子中、2個以上のエポキシ基を有することが好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、リン変性エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100~3000eq/モルであることが好ましく、150~300eq/モルであることがより好ましい。
【0023】
本発明の硬化性樹脂組成物は、耐熱性を向上させるため、他の硬化剤を含めてもよい。他の硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、チオール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、シアネート系硬化剤、活性エステル系硬化剤、イミド系硬化剤が挙げられる。中でも、イミド系硬化剤が好ましい。硬化剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の耐熱性を向上させるための硬化剤と本発明の化合物を併用することにより、硬化物中において、本発明の化合物を島とする海島型の相分離構造を形成することができ、耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、より柔軟性にも優れた硬化物を得ることができる。
【0024】
イミド系硬化剤としては、分子中に1~4個のイミド基と2~4個のグリシジル基反応性官能基を有する化合物が挙げられる。前記イミド系硬化剤としては、例えば、無水トリメリット酸と4,4’-ジアミノフェニルエーテルからなる三量体、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と2-アミノテレフタル酸からなる三量体、無水トリメリット酸と2-アミノテレフタル酸からなる二量体が挙げられる。
【0025】
本発明の硬化性樹脂組成物において、硬化性樹脂と硬化剤の合計に対する一般式(1)で示される化合物の割合は、耐熱性と柔軟性を両立させるため、20質量%以下とすることが好ましく、10~15質量%とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、硬化促進剤、無機充填剤、酸化防止剤、難燃剤、有機溶媒等の他の添加剤を加えてもよい。
【0027】
硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類が挙げられる。硬化促進剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。硬化促進剤を用いる場合、その配合量は、硬化性樹脂に対して、0.01~2.0質量%とすることが好ましく、得られる硬化物の耐熱性と誘電特性が向上することから、0.01~1質量%とすることが好ましく、0.05~0.5質量%とすることがより好ましい。
【0028】
無機充填剤としては、例えば、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、ガラスパウダー、ガラスフリット、ガラス繊維、カーボンファイバー、無機イオン交換体が挙げられる。無機充填剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無機充填剤を用いる場合、無機充填材の平均粒子径は、50nm~4μmとすることが好ましく、塗布性や加工性により優れることから、100nm~3μmとすることがより好ましい。
【0029】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
難燃剤としては、非ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤が挙げられる。中でも、環境への影響の観点から非ハロゲン系難燃剤が好ましい。難燃剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
有機溶媒は、硬化剤および硬化性樹脂が均一に溶解し塗工できれば特に限定されず、環境への影響の観点から非ハロゲン化溶媒が好ましい。非ハロゲン化溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。有機溶媒は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー等の混合機を用いて、一般式(1)で示される化合物と硬化性樹脂と、必要に応じて添加する他の添加剤とを混合する方法が挙げられる。
【0033】
<硬化物>
本発明の硬化性樹脂組成物を加熱することにより、一般式(1)で示される化合物と硬化性樹脂とを反応させ、硬化物を得ることができる。加熱温度(硬化温度)は、80~350℃とすることが好ましく、130~300℃とすることがより好ましい。加熱時間(硬化時間)は、1分~24時間とすることが好ましく、5分~10時間とすることがより好ましい。なお、有機溶媒を含む硬化性樹脂組成物の場合、加熱により有機溶媒は留去される。
【0034】
本発明において、硬化物の特性値は、一般式(1)において炭素数が4以上の脂肪族炭化水素基を有しない以外は同組成である化合物(以下、「柔軟成分を有しない特定化合物」という。)と対比して評価する。
【0035】
本発明の硬化物のガラス転移温度は、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物のガラス転移点との差が、耐熱性の観点から、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明の硬化物の引張弾性率は、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物と対比して、柔軟性の観点から、75%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明の硬化物の引張破断強度は、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物と対比して、機械的特性の観点から、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明の硬化物の誘電正接は、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物よりも、誘電特性の観点から、同じであるか低くなることが好ましい。
【0039】
<硬化物の用途>
本発明の硬化物は、耐熱性、機械的特性、誘電特性を維持しつつも、柔軟性にも優れているため、電気絶縁材料として好適に用いることができる。具体的には、封止材(例えば、パワー半導体モジュール用封止材)、プリント配線基板、モールド材(例えば、ブッシング変圧器用モールド材、固体絶縁スイッチギア用モールド材)、原子力発電所用電気ペネトレーション、ビルドアップ積層板等に好適に用いることができる。中でも、封止材、プリント配線基板により好適に用いることができる。
【0040】
本発明の硬化物を封止材用絶縁材料として用いる場合、例えば、パワー半導体モジュールを作製した後、モジュールがセットされた金型内にエポキシ樹脂溶液を充填し、乾燥および硬化することにより用いることができる。また、本発明の硬化物をプリント配線基板用絶縁材料として用いる場合、エポキシ樹脂溶液をガラスクロスに含浸または塗布させた後、乾燥および硬化することより用いることができる。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0042】
A.原料
実施例、比較例で用いた原料を以下に示す。
(A)硬化性樹脂
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:東京化成工業社製、エポキシ当量170g/eq
・ビフェニル型エポキシ樹脂:三菱ケミカル社製「YX4000H」
【0043】
(B)硬化剤の原料、硬化剤
・ダイマー酸:クロ―ダジャパン社製「PRIPOL1009」
・ダイマージアミン:クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」
・無水トリメリット酸:東京化成工業社製
・4,4’-ジアミノジフェニルエーテル:東京化成工業社製
・ノボラック型フェノール樹脂:DIC社製「PHENOLITE TD-2131」
・ポリ(プロピレングリコール)ビス(2-アミノプロピルエーテル):HUNTSMAN社製「ELASTAMINE RP-2009」、分子量2000
【0044】
・ジイミドジカルボン酸E
ダイマージアミン50質量部と無水トリメリット酸35.9質量部を、大阪ケミカル社製ワンダークラッシャーWC-3Cを用いて、9000rpmの回転速度で1分間混合粉砕することを3回繰り返して、メカノケミカル処理をおこなった。処理した試料をガラス容器に移し、ヤマト科学社製イナートオーブンDN411Iにて、窒素雰囲気下で300℃2時間イミド化反応をおこない、ジイミドジカルボン酸Eを得た。
なお、ジイミドジカルボン酸Eは、H-NMRで確認したところ、トリメリット酸-ダイマージアミン-トリメリット酸から構成される三量体であった。また、該ジイミドジカルボン酸Eの数平均分子量は890であり、常温で固体であった。
【0045】
・ジイミドジカルボン酸F
ダイマージアミン50質量部を4,4’-ジアミノジフェニルエーテル18.8質量部に代えた以外はイミドジカルボン酸Eと同様にして、ジイミドジカルボン酸Fを得た。
なお、ジイミドジカルボン酸Fは、H-NMRで確認したところ、トリメリット酸-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル-トリメリット酸から構成される三量体であった。また、該ジイミドジカルボン酸Fの数平均分子量は549であり、常温で固体であった。
【0046】
(C)硬化促進剤
・2-エチル-4-メチルイミダゾール:東京化成工業社製
【0047】
(D)有機溶媒
・N,N-ジメチルホルムアミド:東京化成工業社製
・トルエン:東京化成工業社製
【0048】
B.評価方法
実施例、比較例で得られた、化合物、硬化物について以下の評価をおこなった。
(1)化合物の樹脂組成
実施例および比較例で得られた化合物を、高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製JNM-ECA500 NMR)を用いて、H-NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド、温度:25℃)。を求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド、温度:25
【0049】
(2)化合物の数平均分子量
(GPC測定条件)
溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(LiBr流速:1.0mL/min
温度:カラム35検出器:UV検出器
較正試料:単分散標準ポリスチレンゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記の条件で標準ポリスチレンのGPCを測定し検量線を作成したのち、実施例および比較例で得られた化合物を同一の条件でGPCを測定しポリスチレン換算の平均分子量を求めた。
<GPC測定条件>
装置:東ソー社製HLC-8220GPC
カラム:昭和電工社製Shodex GPC KF-405L HQ 3本
溶媒:クロロホルム
流速:0.3mL/min
温度:カラム40℃
試料濃度:0.2質量%
検出器:RI検出器
較正試料:標準ポリスチレン
【0050】
(3)硬化物のガラス転移温度
実施例および比較例で得られた硬化物を、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて、以下の条件で測定した。
<測定条件>
装置:Perkin Elmer社製 DSC 6000
昇温速度:10℃/分
25℃から300℃まで昇温し、得られた昇温曲線中の転移温度に由来する不連続変化の開始温度をガラス転移温度とした。
【0051】
以下の式から、値Aを求めて、以下の基準で評価した。
値A=[柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物のガラス転移温度]-[実施例および比較例で得られた硬化物のガラス転移温度]
<評価基準>
◎:20℃以下(最良)
×:20℃を超える(不良)
【0052】
(4)硬化物の引張弾性率、引張破断強度
実施例および比較例で得られた硬化物を幅10×長さ100mmに切断して試験片を作製し、ISO 178に準拠して測定した。
【0053】
以下の式から、値B、値Cを求めて、以下の基準で評価した。
<引張弾性率の評価>
値B=[実施例および比較例で得られた硬化物の引張弾性率]/[柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物の引張弾性率]×100
◎:値B≦65%(最良)
○:65%<値B≦75%(良)
×:75%<値B(不良)
【0054】
<引張破断強度の評価>
値C=[実施例および比較例で得られた硬化物の引張破断強度]/[柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物の引張破断強度]×100
◎:70%≦値C(最良)
○:60%≦値C<70%(良)
×:値C<60%(不良)
【0055】
(5)硬化物の誘電正接
実施例および比較例で得られた硬化物を、以下の装置を用いて、以下の条件で誘電正接を測定した。
<測定条件>
装置:キーサイト・テクノロジー社製 PNAネットワークアナライザN5222B
関東電子応用開発社製 空洞共振器 5.8GHz用CP-521
試料寸法:長さ80mm×幅2mm×厚み100μm
周波数:5.8GHz
測定温度:23℃
試験環境:23℃±1℃、50%RH±5%RH
【0056】
柔軟成分を有しない特定化合物の誘電正接と対比し、以下の基準で評価した。
<誘電正接の評価>
◎:実施例および比較例で得られた硬化物の誘電正接と同じであるか、低い(良)
×:実施例および比較例で得られた硬化物の誘電正接よりも高い(不良)
【0057】
(6)硬化物の相分離構造
実施例および比較例で得られた硬化物を、ライカ製EM UC-7ウルトラミクロトームを用いて、硬化物から厚さ80nmの切片を採取し、以下の条件で相分離構造を観察した。
<測定条件>
装置:日本電子株式会社製 JEM-1230 TEM
測定方法:透過測定
測定条件:加速電圧 100kV
【0058】
得られたTEM写真を、以下の基準で評価した。
<相分離構造の評価>
◎:海島型の相分離構造を有していた。
×:海島型の相分離構造を有していなかった。
【0059】
(7)硬化物の絶縁性評価
実施例および比較例で得られた硬化物を、高温測定用パルス静電応力(PEA)測定システムにより、以下の条件で電荷密度分布を測定し、得られるサンプル中の最大電界の評価を行った。エポキシ樹脂硬化物サンプルはシリコンオイルに浸された状態で高電圧印加ユニットに設置後、140℃になるまで加熱し、140℃に到達した後、140℃一定に制御して、30分後に直流電圧を印加した。陽極(アノード)には試料の音響特性インピーダンスを考慮して、市販の導電性PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)のシートを用い、陰極(カソード)はアルミニウム板を用いた。エポキシ樹脂硬化物(試料)はフィルム形状を有し、陽極と陰極との間で挟持されている。直流電圧を印加するに際しては、試料の厚さを考慮して、平均電界が20kV/mmに相当する直流電圧を10分間印加し、その後5分間短絡して、その電圧印加中および短絡中にパルス電圧(5ns,200V)を1ms間隔(1kHz)で印加し、得られた波形を1000回加算平均して1波形を得た。なお、測定間隔は10秒である。上記の20kV/mmの印加中および短絡中の測定が終了した後には、平均印加電界が40kV/mmとなるよう、印加する直流電圧を増加させ、上記と同様の一連の測定を行ない、これを順次、60,80,100および120kV/mmに相当する平均印加電界下で測定を繰り返した。このように経時的に測定された電荷密度分布を図2に示す。図2は、実施例1および参考例2、3についての電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。最大電界(特に最大電界/印加電界の比)が小さいほど、絶縁性に優れていることを示す。
<測定条件>
装置:高電圧印加ユニット
試料寸法:長さ50mm×幅50mm×厚み100μm以上150μm以下
印加電界:20、40、6、80、100、120kV/mm
測定温度:150℃
<絶縁性の評価>
◎:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.1以下であった(最良)
○:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.1より大きく1.5以下であった(良)
×:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.5より大きかった(不良)。
【0060】
(8)総合評価
耐熱性、機械的特性、誘電特性および柔軟性の評価結果に基づいて、総合的に評価した。
◎:全ての評価結果が◎であった。
〇:全ての評価結果うち、最も低い評価結果が〇であった。
×:全ての評価結果うち、最も低い評価結果が×であった。
【0061】
実施例1
(化合物A)
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器にダイマー酸35.2質量部、ダイマージアミン50質量部を投入した。その後、撹拌下、230℃で加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下常圧で2時間重合をおこなった。その後、一旦50℃まで冷却し、無水トリメリット酸11.9質量部を投入した。再度、撹拌下、210℃で加熱し、加熱閉環反応を1時間おこない、化合物Aを得た。
なお、化合物Aは、H-NMR、GPCで確認ところ、一般式(1)で示される構造であった。また、該化合物Aの数平均分子量は2762であり、常温で粘調液体であった。
【0062】
(硬化性樹脂組成物)
表1に記載された配合比率で、得られた化合物Aとビスフェノール型エポキシ樹脂とイミドジカルボン酸FとN,N-ジメチルホルムアミドとを130℃で0.5時間の還流加熱をおこない、溶解した。冷却後、その他添加剤を混合・撹拌し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0063】
(硬化物)
得られた硬化性樹脂組成物をアルミニウム基材に300μmの厚みで塗工し、イナートオーブンにて、窒素雰囲気下、120℃で1時間、続いて8時間かけて300℃まで昇温し、300℃で1時間乾燥して、脱溶媒および硬化反応をおこなった。
その後、樹脂層を形成したアルミニウム基材からアルミニウム基材を除去し、硬化物を得た。
【0064】
実施例2
(化合物B)
ダイマー酸35.2質量部を42.2質量部、無水トリメリット酸11.9質量部を7.1質量部に代えて用いた以外は実施例1と同様にして、化合物Bを得た。
なお、化合物Bは、H-NMR、GPCで確認したところ、一般式(1)で示される構造であった。また、該化合物Bの数平均分子量は4900であり、常温で粘調液体であった。
【0065】
得られた化合物Bを用いて、表1に記載の組成になるように配合量を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、硬化性樹脂組成物の作製、硬化物の作製をおこなった。
【0066】
実施例3
(化合物C)
ダイマー酸35.2質量部を26.4質量部、無水トリメリット酸11.9質量部を17.8質量部に代えて用いた以外は実施例1と同様にして、化合物Cを得た。
なお、化合物Cは、H-NMR、GPCで確認したところ、一般式(1)で示される構造であった。また、化合物Cの数平均分子量は1861であり、常温で半固体であった。
【0067】
得られた化合物Cを用いて、表1に記載の組成になるように配合量を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、硬化性樹脂組成物の作製、硬化物の作製をおこなった。
【0068】
比較例1
(ポリアミドD)
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器にダイマー酸、ダイマージアミン50質量部を投入した。その後、撹拌下、230℃で加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下常圧で2時間重合をおこない、ポリアミドDを得た。
なお、ポリアミドDは、H-NMR、GPCで確認したところ、ダイマー酸とダイマージアミンが交互に重合した構造であった。また、ポリアミドDの数平均分子量は2703であり、常温で粘調液体であった。
【0069】
得られたポリアミドDを用いて、表1に記載の組成になるように配合量を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、硬化性樹脂組成物の作製、硬化物の作製をおこなった。
【0070】
実施例4、5、比較例2、3、参考例1~3
表1に記載の組成になるように原料、配合量を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、硬化性樹脂組成物の作製、硬化物の作製をおこなった。
【0071】
硬化性樹脂組成物の組成と得られた硬化物の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0072】
実施例1~4の硬化物は、いずれも、一般式(1)において、Rは水素、Xは炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価基、Yは炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価基、nは1以上の数の化合物を用いたため、海島型の相分離構造を有しており、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物に対して、ガラス転移温度の差が20℃以下、引張破断強度が60%以上、誘電正接が小さく、耐熱性、機械的特性および誘電特性は維持しながらも、引張弾性率が75%以下と、柔軟性にも優れていた。
また、実施例5の硬化物は、一般式(1)において、Rは水素、Xは炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸、Yは炭素数10以上の脂肪族ジアミン、nは1以上の数の化合物を用いたため、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物に対して、ガラス転移温度の差が20℃以下、引張破断強度が60%以上、誘電正接が小さく、耐熱性、機械的特性および誘電特性は維持しながらも、引張弾性率が75%以下と、柔軟性にも優れていた。
実施例1および参考例1の硬化物は、電荷の局所的な蓄積現象は観測されなかったが、参考例3の硬化物は、電荷の局所的な蓄積が観測された。
【0073】
比較例1の硬化物は、引張弾性率が、ダイマー酸とダイマージアミンからなるポリアミドを用いたため、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物に対して、引張破断強度が60%以下であった。
比較例2の硬化物は、一般式(1)で示される化合物を用いなかったため、ガラス転移温度が、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物のガラス転移温度に対して、差が20℃を超え、引張弾性率が75%を超えていた。
比較例3の硬化物は、一般式(1)で示される化合物を用いなかったため、誘電正接が、柔軟成分を有しない特定化合物を用いて得られた硬化物の誘電正接よりも大きかった。
図1
図2