(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032456
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】描画装置およびオートフォーカス補正方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/207 20060101AFI20240305BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G03F7/207 Z
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136121
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】藤本 力夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 一将
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA28
2H197CC05
2H197CC11
2H197DB06
2H197DB11
2H197EA06
2H197HA02
2H197HA03
2H197HA10
(57)【要約】
【課題】オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減する。
【解決手段】描画装置は、照射光量推定部(露光データ処理部41)と、オートフォーカス制御部42とを備える。照射光量推定部は、基板上において描画光が連続的に照射される各分割領域に対する描画光の照射光量を、基板に描画すべきパターンを示す画像データを用いて推定照射光量として推定する。オートフォーカス制御部42は、推定照射光量に基づいて、各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得し、当該分割領域の描画時に当該補正値に従ってオートフォーカス機構5のオートフォーカス動作を補正する。これにより、オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンを描画する描画装置であって、
基板を保持するステージと、
光源部からの光を光変調器により変調し、投影光学系を介して描画光として出射する描画ヘッドと、
前記ステージを前記描画ヘッドに対して相対的に、かつ、前記基板に沿う走査方向に連続的に移動する移動機構と、
前記描画ヘッドから出射される前記描画光の焦点位置を前記基板に合わせるオートフォーカス動作を行うオートフォーカス機構と、
前記基板上において前記描画光が連続的に照射される各分割領域に対する前記描画光の照射光量を、前記基板に描画すべきパターンを示す画像データを用いて推定照射光量として推定する照射光量推定部と、
前記推定照射光量に基づいて、前記各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得し、前記各分割領域の描画時に前記補正値に従って前記オートフォーカス機構の前記オートフォーカス動作を補正するオートフォーカス制御部と、
を備えることを特徴とする描画装置。
【請求項2】
請求項1に記載の描画装置であって、
前記各分割領域に対する前記推定照射光量が、前記画像データが示す前記各分割領域のパターン密度から推定されることを特徴とする描画装置。
【請求項3】
請求項1に記載の描画装置であって、
前記ステージの前記走査方向への一回の連続的な相対移動により、前記基板上において前記走査方向に延びるストライプ領域に対して前記描画ヘッドによりパターンが描画され、
前記各分割領域が、前記ストライプ領域を前記走査方向に分割した領域であることを特徴とする描画装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の描画装置であって、
前記オートフォーカス制御部が、連続する2つの分割領域間の前記照射光量の変化量と、フォーカス変動量との関係を示す補正用情報を記憶し、前記各分割領域の直前の分割領域と前記各分割領域との間の前記推定照射光量の変化量を用いて前記補正用情報を参照することにより、前記各分割領域に対応する前記フォーカス変動量を特定し、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得することを特徴とする描画装置。
【請求項5】
請求項4に記載の描画装置であって、
前記補正用情報が、前記照射光量の各変化量に対して前記フォーカス変動量の時間変化を示し、
前記オートフォーカス制御部が、前記各分割領域に対応する前記フォーカス変動量の時間変化に基づいて、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得することを特徴とする描画装置。
【請求項6】
請求項5に記載の描画装置であって、
前記オートフォーカス制御部が、前記各分割領域まで連続する複数の分割領域に対応する複数のフォーカス変動量の時間変化を、分割領域の描画に要する時間だけシフトしつつ加算することによりフォーカス変動量の累積変化を取得し、前記フォーカス変動量の累積変化に基づいて、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得することを特徴とする描画装置。
【請求項7】
パターンを描画する描画装置におけるオートフォーカス補正方法であって、
前記描画装置が、
基板を保持するステージと、
光源部からの光を光変調器により変調し、投影光学系を介して描画光として出射する描画ヘッドと、
前記ステージを前記描画ヘッドに対して相対的に、かつ、前記基板に沿う走査方向に連続的に移動する移動機構と、
前記描画ヘッドから出射される前記描画光の焦点位置を前記基板に合わせるオートフォーカス動作を行うオートフォーカス機構と、
を備え、
前記オートフォーカス補正方法が、
前記基板上において前記描画光が連続的に照射される各分割領域に対する前記描画光の照射光量を、前記基板に描画すべきパターンを示す画像データを用いて推定照射光量として推定する工程と、
前記推定照射光量に基づいて、前記各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得する工程と、
前記各分割領域の描画時に前記補正値に従って前記オートフォーカス機構の前記オートフォーカス動作を補正する工程と、
を備えることを特徴とするオートフォーカス補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画装置およびオートフォーカス補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上の感光材料にパターンを描画する描画装置(直接描画装置)が利用されている。描画装置では、基板に向けて描画光を出射する描画ヘッドが設けられる。描画ヘッドでは、光源部からの光が光変調器により変調され、投影光学系を介して描画光として出射される。一方、描画装置の生産性を向上するため、描画ヘッドから出射する光の強度を増大することも検討されている。この場合、高強度の光が投影光学系のレンズに入射するため、レンズ温度の上昇による屈折率変化や表面形状の変化の影響、すなわち、熱レンズ効果の影響が大きくなる可能性がある。熱レンズ効果の影響が大きくなると、描画光の焦点位置がシフトするフォーカス変動が発生する。描画装置において、描画動作中にフォーカス変動が発生すると、オートフォーカス動作において描画光の焦点位置を基板に精度よく合わせることができなくなる。その結果、基板上に形成される像のコントラストが、描画の開始時と終了時とで相違し、描画されるパターンの品質にばらつきが生じる。また、熱レンズ効果の影響が大きく、フォーカス変動量が大きくなると、所望のパターンを描画することができなくなる。
【0003】
特許文献1では、フォーカス変動等の抑制が可能な描画装置が開示されている。当該描画装置では、複数の描画ヘッドが筐体の室内に収納され、当該室内には温調機から温調用のエアが供給される。また、描画ヘッドにおける投影光学系のレンズの温度が温度検出器により検出され、温度情報に基づいて温調機が制御される。なお、描画装置ではないが、特許文献2では、レンズとカメラとを有する赤外線カメラにおいて、レンズの温度を検出する温度センサを設け、温度センサが検出した温度に基づいて焦点距離を補正する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-197136号公報
【特許文献2】特開2012-181362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、温調機および温度検出器が必要となるため、描画装置の製造コストが増大してしまう。特許文献2の手法を採用する場合も、レンズの温度を検出する温度センサが必要となる。また、上述のように、フォーカス変動はレンズの屈折率変化等に起因しているが、屈折率が変化している部位は光路上に存在するため、当該部位の温度を直接測定することはできない。その結果、フォーカス変動が発生してから、温度による検知まで時間遅れが発生し、フォーカス変動の影響を適切に低減することができない場合がある。したがって、オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減して、パターンを精度よく描画する新規な手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減して、パターンを精度よく描画することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、パターンを描画する描画装置であって、基板を保持するステージと、光源部からの光を光変調器により変調し、投影光学系を介して描画光として出射する描画ヘッドと、前記ステージを前記描画ヘッドに対して相対的に、かつ、前記基板に沿う走査方向に連続的に移動する移動機構と、前記描画ヘッドから出射される前記描画光の焦点位置を前記基板に合わせるオートフォーカス動作を行うオートフォーカス機構と、前記基板上において前記描画光が連続的に照射される各分割領域に対する前記描画光の照射光量を、前記基板に描画すべきパターンを示す画像データを用いて推定照射光量として推定する照射光量推定部と、前記推定照射光量に基づいて、前記各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得し、前記各分割領域の描画時に前記補正値に従って前記オートフォーカス機構の前記オートフォーカス動作を補正するオートフォーカス制御部とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の描画装置であって、前記各分割領域に対する前記推定照射光量が、前記画像データが示す前記各分割領域のパターン密度から推定される。
【0009】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の描画装置であって、前記ステージの前記走査方向への一回の連続的な相対移動により、前記基板上において前記走査方向に延びるストライプ領域に対して前記描画ヘッドによりパターンが描画され、前記各分割領域が、前記ストライプ領域を前記走査方向に分割した領域である。
【0010】
本発明の態様4は、態様1ないし3のいずれか1つの描画装置であって、前記オートフォーカス制御部が、連続する2つの分割領域間の前記照射光量の変化量と、フォーカス変動量との関係を示す補正用情報を記憶し、前記各分割領域の直前の分割領域と前記各分割領域との間の前記推定照射光量の変化量を用いて前記補正用情報を参照することにより、前記各分割領域に対応する前記フォーカス変動量を特定し、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得する。
【0011】
本発明の態様5は、態様4の描画装置であって、前記補正用情報が、前記照射光量の各変化量に対して前記フォーカス変動量の時間変化を示し、前記オートフォーカス制御部が、前記各分割領域に対応する前記フォーカス変動量の時間変化に基づいて、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得する。
【0012】
本発明の態様6は、態様5の描画装置であって、前記オートフォーカス制御部が、前記各分割領域まで連続する複数の分割領域に対応する複数のフォーカス変動量の時間変化を、分割領域の描画に要する時間だけシフトしつつ加算することによりフォーカス変動量の累積変化を取得し、前記フォーカス変動量の累積変化に基づいて、前記各分割領域の描画時における前記補正値を取得する。
【0013】
本発明の態様7は、パターンを描画する描画装置におけるオートフォーカス補正方法であって、前記描画装置が、基板を保持するステージと、光源部からの光を光変調器により変調し、投影光学系を介して描画光として出射する描画ヘッドと、前記ステージを前記描画ヘッドに対して相対的に、かつ、前記基板に沿う走査方向に連続的に移動する移動機構と、前記描画ヘッドから出射される前記描画光の焦点位置を前記基板に合わせるオートフォーカス動作を行うオートフォーカス機構とを備え、前記オートフォーカス補正方法が、前記基板上において前記描画光が連続的に照射される各分割領域に対する前記描画光の照射光量を、前記基板に描画すべきパターンを示す画像データを用いて推定照射光量として推定する工程と、前記推定照射光量に基づいて、前記各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得する工程と、前記各分割領域の描画時に前記補正値に従って前記オートフォーカス機構の前記オートフォーカス動作を補正する工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減して、パターンを精度よく描画することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】基板に対する複数の描画ヘッドの移動経路を示す図である。
【
図6】オートフォーカス補正処理の流れを示す図である。
【
図7】基板上に描画される予定のパターンを示す図である。
【
図8】各分割領域に対する推定照射光量を示す図である。
【
図10】フォーカス変動の補正値の取得を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る描画装置1の構成を示す斜視図である。
図1では、互いに直交する3つの方向をX方向、Y方向およびZ方向として矢印にて示す。
図1に示す例では、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0017】
描画装置1は、基板9上の感光材料に空間変調された光を照射し、当該光の照射領域を基板9上にて走査することによりパターンの描画を行う直接描画装置である。基板9は、例えば、プリント配線基板である。基板9は、半導体基板やガラス基板等であってもよく、フレキシブル基板等、フィルム状の基板であってもよい。本実施の形態では、基板9の主面(後述の上面91)に、感光材料であるレジスト膜が、当該主面の略全体を覆うように設けられている。描画装置1では、基板9のレジスト膜にパターンが描画される。後工程では、現像等の処理が行われ、レジスト膜のパターンが形成された基板9が得られる。
【0018】
描画装置1は、ステージ21と、ステージ移動機構22と、描画部3と、制御部4と、オートフォーカス機構5(後述の
図4参照)とを備える。制御部4は、例えば、CPU、メモリ等を有するコンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現され、描画装置1の全体制御を担う。制御部4は、専用の電気回路を含んでもよい。ステージ21は、描画部3の下方(すなわち、(-Z)側)において、水平状態の基板9を下側から保持する略平板状の保持部である。ステージ21上に載置された基板9の(+Z)側の主面(以下、「上面91」と呼ぶ。)は、Z方向に対して略垂直であり、X方向およびY方向に略平行である。ステージ21は、基板9の外縁を把持するもの等であってもよい。
【0019】
ステージ移動機構22は、支持プレート23と、ベースプレート24と、基台25と、回動機構26と、主走査機構27と、副走査機構28とを備える。支持プレート23は、ステージ21を下方から支持する。回動機構26は、例えば、リニアモータと、回動軸とを有する。リニアモータは、ステージ21の端部に取り付けられた可動子と、支持プレート23の上面に設けられた固定子とを有する。回動軸は、Z方向に略平行であり、ステージ21の下面の中央部に設けられる。当該リニアモータの駆動により、ステージ21が当該回動軸を中心として所定の角度範囲内で回動する。
【0020】
副走査機構28は、例えば、リニアモータと、一対のガイド部とを有する。リニアモータは、支持プレート23の下面に取り付けられた可動子と、ベースプレート24の上面に設けられた固定子とを有する。一対のガイド部は、X方向に延びており、支持プレート23とベースプレート24との間に設けられる。当該リニアモータの駆動により、支持プレート23がベースプレート24上のガイド部に沿ってX方向に移動する。
【0021】
主走査機構27は、例えば、リニアモータと、一対のガイド部とを有する。リニアモータは、ベースプレート24の下面に取り付けられた可動子と、基台25の上面に設けられた固定子とを有する。一対のガイド部は、Y方向に延びており、ベースプレート24と基台25との間に設けられる。当該リニアモータの駆動により、ベースプレート24が基台25上のガイド部に沿ってY方向に移動する。換言すると、主走査機構27は、基板9の上面91に沿うY方向に、基板9およびステージ21を移動する。以下の説明では、Y方向を「走査方向」といい、走査方向に垂直かつ基板9の上面91に沿うX方向を「幅方向」という。回動機構26、副走査機構28および主走査機構27の駆動源は、リニアモータ以外であってもよく、例えば、ボールねじにモータを取り付けたものが用いられてもよい。ステージ移動機構22では、ステージ21をZ方向に昇降させるステージ昇降機構が設けられてもよい。また、回動機構26が省略されてもよい。
【0022】
描画部3は、幅方向に配列される複数の描画ヘッド31を備える。本実施の形態では、描画ヘッド31の個数は、5であるが、4個以下、または、6個以上であってもよい。複数の描画ヘッド31は、ステージ21を跨いで設けられるヘッド支持部19により、ステージ21の上方にて支持される。
【0023】
図2は、1つの描画ヘッド31を示す斜視図である。複数の描画ヘッド31は、略同じ構造を有する。各描画ヘッド31には、光源部36および照明光学系37が接続される。光源部36は、例えばLED等の光源を有し、所定波長の光を出射する。光源部36は、他の種類の光源を有してもよい。照明光学系37は、例えば、ロッドインテグレーターおよびレンズ等を有する。光源部36から出射された光は、照明光学系37を介して描画ヘッド31に導かれる。
【0024】
描画ヘッド31は、光変調器32と、投影光学系33とを備える。光変調器32は、例えば、複数の微小ミラーが二次元に配列されたDMD(デジタルミラーデバイス)である。照明光学系37からの光は、光変調器32における複数の光変調素子(ここでは、複数の微小ミラー)に照射される。各光変調素子では、投影光学系33に向かって光を反射する姿勢(ON状態)と、投影光学系33とは異なる方向に光を反射する姿勢(OFF状態)とが、制御部4の制御により切替可能である。光変調器32に照射された光のうち、ON状態である光変調素子にて反射された光が投影光学系33に入射する。すなわち、光変調器32から空間変調された光が、投影光学系33に向かって出射される。投影光学系33は、当該光を所定の倍率に変倍し、基板9の上面91に照射する。上面91には、光変調器32の像が投影(形成)される。以下の説明では、各描画ヘッド31から基板9に向けて出射される変調された光を「描画光」という。なお、光変調器32は、複数の光変調素子が一次元に配列された変調器等であってもよい。
【0025】
図3は、基板9に対する複数の描画ヘッド31の移動経路を示す図である。パターンの描画では、まず、
図1の主走査機構27により、ステージ21が(+Y)側から(-Y)方向に連続的に一回移動(主走査)する。これにより、
図3に示すように、各描画ヘッド31から出射される描画光の照射領域A1(平行斜線を付す矩形にて示す。)が、基板9の上面91を(-Y)側から(+Y)方向に移動し、上面91において走査方向に延びる帯状の領域R1(以下、「ストライプ領域R1」という。)にパターンが描画される。このとき、幅方向(X方向)において、複数の描画ヘッド31の照射領域A1の間には隙間が設けられており、複数のストライプ領域R1の間にも隙間が設けられる。照射領域A1が、基板9の(+Y)側の端部まで到達すると、副走査機構28により、ステージ21が(-X)方向に所定の距離だけ移動(副走査)する。典型的には、幅方向におけるステージ21の移動距離は、ストライプ領域R1の幅と同じ、または、当該幅よりも僅かに小さい(以下同様)。
【0026】
続いて、ステージ21が(-Y)側から(+Y)方向に連続的に移動し、描画光の照射領域A1が上面91上を(+Y)側から(-Y)方向に移動する。これにより、各ストライプ領域R1に対して(+X)側に接するとともに、走査方向に延びるストライプ領域R2にパターンが描画される。ストライプ領域R2は、ストライプ領域R1と部分的に重なっていてもよい。照射領域A1が、基板9の(-Y)側の端部まで到達すると、副走査機構28により、ステージ21が(-X)方向に所定の距離だけ移動する。
【0027】
その後、ステージ21が(+Y)側から(-Y)方向に連続的に移動し、描画光の照射領域A1が上面91上を(-Y)側から(+Y)方向に移動する。これにより、各ストライプ領域R2に対して(+X)側に接するとともに、走査方向に延びるストライプ領域R3にパターンが描画される。最も(+X)側のストライプ領域R3を除く各ストライプ領域R3は、(+X)側に位置するストライプ領域R1とも接する。ストライプ領域R3は、ストライプ領域R1,R2と部分的に重なっていてもよい。以上の動作により、上面91における描画対象領域の全体に、パターンが描画される。
図3の例では、ステージ21が描画ヘッド31に対して走査方向への連続的な相対移動(以下、単に「ステージ21の主走査」という。)を3回行うことにより、上面91に対するパターンの描画が完了する。
【0028】
描画装置1では、ステージ21の主走査を2回、または、4回以上行うことにより、描画対象領域の全体に対してパターンが描画されてもよい。また、1回のステージ21の主走査により、パターンの描画が完了してもよい。この場合、副走査機構28が省略されてもよい。さらに、照射領域A1の走査方向への移動は、描画ヘッド31が移動することにより実現されてもよい。照射領域A1の幅方向への移動について同様である。もちろん、ステージ21および描画ヘッド31の双方が移動してもよい。
【0029】
図4は、描画ヘッド31の一部を示す側面図である。各描画ヘッド31には、オートフォーカス機構5が設けられる。オートフォーカス機構5は、フォーカス調整を自動で行うフォーカス調整機構である。オートフォーカス機構5は、距離測定部51と、昇降機構52と、図示省略の演算部とを備える。距離測定部51は、照射部511と、受光部512とを備える。
図4の例では、照射部511および受光部512は、取付具513を介して投影光学系33の鏡筒に取り付けられる。照射部511は、レーザ光である検出光の光源を有し、基板9の上面91に向けて検出光を出射する。検出光は、基板9に垂直なZ方向に対して傾斜した軸に沿って上面91に導かれ、上面91に検出光のスポットが形成される。
【0030】
受光部512は、例えば、およそZ方向に延びるラインセンサ(ポジションセンサ)を有する。受光部512では、基板9からの検出光の反射光が、当該ラインセンサにて受光される。当該ラインセンサ上において、当該反射光の受光位置が所定位置からずれることにより、Z方向において、描画ヘッド31における基準位置と基板9の上面91(正確には、レジスト膜の表面)との間の離隔距離F1が、設定距離から変動したことが検出される。すなわち、離隔距離F1が実質的に測定される。離隔距離F1の測定値(設定距離からのずれ量を示す値であってもよい。)は、演算部に出力される。描画ヘッド31の基準位置は、照射部511および受光部512に対して固定された位置であり、例えば、投影光学系33の下端である。
【0031】
昇降機構52は、投影光学系33の鏡筒に取り付けられた移動体と、ヘッド支持部19に取り付けられた固定体とを有する。離隔距離F1の測定値に基づく演算部の制御により、昇降機構52が移動体と共に投影光学系33の一部をZ方向に移動し、受光部512のラインセンサ上において、検出光の反射光の受光位置が所定位置へと戻される。これにより、離隔距離F1が設定距離に戻され、光変調器32の像が基板9の上面91(正確には、レジスト膜の表面)に形成される。すなわち、描画光の焦点位置(フォーカス位置)が基板9の上面91に合わせられる。昇降機構52の一例は、ボールねじをモータにて駆動する機構と、移動体をZ方向にガイドする機構とを組み合わせたものである。昇降機構52の駆動源として、リニアモータ等が用いられてもよい。
【0032】
以上のように、各描画ヘッド31に設けられるオートフォーカス機構5では、離隔距離F1を測定するとともに、離隔距離F1に基づいて描画光の焦点位置を基板9に合わせるオートフォーカス動作が行われる。距離測定部51では、検出光を用いない手法により(例えば、超音波等を利用して)、離隔距離F1が測定されてもよい。
図4の例では、昇降機構52により、描画ヘッド31の一部の構成がZ方向に移動するが、描画ヘッド31の全体がZ方向に移動してもよい。また、1つの描画ヘッド31のみが設けられる場合には、ステージ21がZ方向に移動してもよい。
【0033】
既述のように、描画装置1によるパターンの描画では、制御部4の制御により、ステージ21が描画ヘッド31に対して相対的に、かつ、走査方向に連続的に移動(主走査)する。また、ステージ21の主走査に並行して、各描画ヘッド31からステージ21上の基板9に向けて変調された描画光を出射することにより、基板9にパターンが描画される。各描画ヘッド31からの描画光の出射制御では、図示省略のデータ変換部により、設計データから露光データが生成され、露光データに従って制御部4により描画ヘッド31が制御される。設計データは、例えば、CAD(Computer-Aided Design)データであり、ベクトルデータである。露光データは、例えば、描画光を照射すべき位置を示すラスタデータである。本実施の形態では、後述の露光データ処理部41(
図5参照)が、各描画ヘッド31の光変調器32に対する制御用のデータを露光データから生成し、光変調器32に順次入力することにより、描画ヘッド31が制御される。なお、露光データは、ステージ21上の基板9の変形等に応じて補正されてもよい。
【0034】
また、
図4のオートフォーカス機構5では、パターンの描画におけるステージ21の主走査に並行して、オートフォーカス動作が実行される。オートフォーカス動作では、上述のように、描画ヘッド31における基準位置と基板9の上面91との間の離隔距離F1が測定され、離隔距離F1に基づいて描画光の焦点位置が基板9に合わせられる。
図4の例では、離隔距離F1を設定距離にて維持する動作が行われる。このとき、投影光学系33における熱レンズ効果の影響により、投影光学系33の光軸J1上において描画光の焦点位置がシフトするフォーカス変動が発生する。そこで、描画装置1では、オートフォーカス動作において熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を低減する、オートフォーカス補正処理が行われる。
【0035】
図5は、制御部4の構成を示すブロック図であり、オートフォーカス補正処理に係る構成を示す。
図5では、描画ヘッド31およびオートフォーカス機構5も示す。制御部4は、露光データ処理部41と、オートフォーカス制御部42とを備える。露光データ処理部41は、露光データから後述の推定照射光量を推定する。露光データ処理部41は、照射光量推定部である。オートフォーカス制御部42は、推定照射光量に基づいて、オートフォーカス機構5のオートフォーカス動作を補正する。
【0036】
図6は、オートフォーカス補正処理の流れを示す図である。オートフォーカス補正処理は、上述のパターンの描画において、各描画ヘッド31からの描画光の出射に並行して行われる。以下の説明では、1つの描画ヘッド31に着目するが、他の描画ヘッド31に対しても同様の処理が行われる。
【0037】
オートフォーカス補正処理では、描画ヘッド31に対して、基板9上に複数の分割領域が予め設定される。各分割領域は、当該描画ヘッド31により描画光が連続的に照射される領域であり、例えば、各ストライプ領域R1~R3を走査方向に分割した領域である。
図3では、最も左側のストライプ領域R1において、太線の矩形により複数の分割領域Dを示す。各ストライプ領域R1~R3を分割して得られる分割領域Dの個数は、2以上である。また、各ストライプ領域R1~R3が1つの分割領域Dであってもよい。さらに、1つの描画ヘッド31により多数のストライプ領域に対して描画が行われる場合には、同一の描画ヘッド31によりパターンが描画される、互いに隣接する2以上のストライプ領域が、1つの分割領域Dであってもよい。この場合、当該2以上のストライプ領域に対するパターンの描画において、副走査の前後も描画光が連続的に照射されているものとする。
【0038】
図7は、基板9上に描画される予定のパターンを示す図である。
図7では、1つの描画ヘッド31が描画する5個の分割領域D1~D5に重ねて、露光データが示す露光領域81(
図7中の白い領域)を描いている。露光領域81は、描画ヘッド31により光が照射される予定の領域である。基板9上の感光材料の種類によっては、
図7中の黒い領域が露光領域81であってもよい。ここでは、説明の便宜上、各分割領域D1~D5は、1つのストライプ領域であり、5個の分割領域D1~D5に対して順に、かつ、ほぼ連続的に描画光が照射されるものとする。実際のストライプ領域(分割領域D1~D5)には、
図7よりも多くの、かつ、微細なパターン要素が含まれる。
【0039】
図3を参照して説明したように、パターンの描画では、各描画ヘッド31から出射される描画光の照射領域A1が基板9の上面91を移動する。当該照射領域A1は、光変調器32の複数の光変調素子からの光がそれぞれ照射可能な複数の照射単位領域の集合である。照射領域A1の移動において、各光変調素子に対応する照射単位領域が露光領域81と重なる際に、当該光変調素子がON状態とされる。これにより、当該光変調素子からの光が、投影光学系33を介して当該照射単位領域に実際に照射される。したがって、投影光学系33に入射する描画光の光量(光エネルギー量)は、露光データに従ってON状態とされる光変調素子の個数および頻度に依存し、露光領域81の密度に依存する。
【0040】
露光データ処理部41では、各分割領域D1~D5に対する描画光の照射光量が露光データを用いて推定照射光量として推定される(ステップS11)。具体的には、露光データが示す、各分割領域D1~D5に相当する領域の画素数のうち、露光領域81に含まれる画素数の割合が、当該分割領域D1~D5に対する推定照射光量として取得される。推定照射光量は、0~100%の値であり、各分割領域D1~D5における露光領域81の密度を示す。換言すると、推定照射光量は、露光データが示す当該分割領域D1~D5のパターン密度である。
【0041】
図8は、各分割領域D1~D5に対する推定照射光量を示す図であり、各分割領域D1~D5における、後述の推定照射光量の変化量も示す。実際には、各分割領域D1~D5に対する露光データの部分は、当該分割領域D1~D5の描画の直前に露光データ処理部41に入力される。したがって、複数の分割領域D1~D5に対して順に、ステップS11および後述のステップS12~S14が繰り返される。
【0042】
投影光学系33における熱レンズ効果の影響によるフォーカス変動は、投影光学系33に入射する光エネルギ量に変化が生じたときに発生する。したがって、露光データ処理部41では、各分割領域D1~D5の直前の分割領域と、当該分割領域D1~D5との間の推定照射光量の変化量(以下、「分割領域における推定照射光量の変化量」という。)が求められる(ステップS12)。
図8の例では、分割領域D2における推定照射光量の変化量は、分割領域D2の推定照射光量から、直前の分割領域D1の推定照射光量を減算することにより、-30%と求められる。同様の計算により、分割領域D3における推定照射光量の変化量は+20%となり、分割領域D4における推定照射光量の変化量は-20%となり、分割領域D5における推定照射光量の変化量は+40%となる。分割領域D1については、直前の分割領域が存在しないため、直前の推定照射光量は0であり、分割領域D1における推定照射光量の変化量は+80%となる。分割領域D1~D5における推定照射光量の変化量は、オートフォーカス制御部42に出力される。推定照射光量の変化量は、オートフォーカス制御部42により求められてもよい。
【0043】
ここで、
図5のオートフォーカス制御部42では、後述の補正値の取得に利用される補正用情報421が予め準備されて記憶される。
図9は、補正用情報421を示す図であり、
図9の縦軸はフォーカス変動量を示し、横軸は時間を示す。補正用情報421は、連続する2つの分割領域間の照射光量の変化量と、当該照射光量の変化により発生するフォーカス変動量との関係を示す。
図9では、照射光量の変化量が、-100%、-50%、-10%、0%、+10%、+50%、+100%である場合におけるフォーカス変動量の時間変化にそれぞれ符号L11~L17を付す。実際には、補正用情報421は、照射光量の変化量が他の値である場合のフォーカス変動量の時間変化も含む。連続する2つの分割領域間において、照射光量の変化量が、例えば+50%である場合、線L16に示すフォーカス変動量の時間変化が、描画ヘッド31において発生する。
【0044】
補正用情報421の取得では、例えば、描画ヘッド31に対してステージ21に相当する位置にカメラが設けられ、投影光学系33の光軸J1方向に当該カメラを高速で往復移動する機構が取り付けられる。続いて、光変調器32において全ての光変調素子がOFF状態である初期状態から、例えば、10%の光変調素子をON状態とし、その後、各経過時間において、高速で往復移動するカメラを用いて光軸J1方向の複数の位置でのコントラストが測定される。そして、各経過時間において最も高いコントラストが得られる光軸J1方向の位置が、当該経過時間における焦点位置として特定される。これにより、照射光量の変化量が+10%である場合における、焦点位置の時間変化が取得可能である。
図9の例では、初期状態の直後における焦点位置からの焦点位置の変化量(光軸J1方向の変化量)をフォーカス変動量としている。
【0045】
照射光量の変化量が負の値である場合におけるフォーカス変動量の時間変化の取得では、初期状態において、光変調器32における全ての光変調素子がON状態とされる。そして、例えば、10%の光変調素子をOFF状態(すなわち、90%の光変調素子をON状態)とし、その後、各経過時間において光軸J1方向の複数の位置でのコントラストが測定される。これにより、照射光量の変化量が-10%である場合における、焦点位置の時間変化が取得可能である。なお、同じ構造の投影光学系33であってもフォーカス変動量の時間変化が相違する場合があるため、補正用情報421は、描画ヘッド31毎に準備されることが好ましいが、描画装置1において求められる描画精度によっては、同じ補正用情報421が、複数の描画ヘッド31において用いられてもよい。
【0046】
オートフォーカス制御部42では、分割領域D1~D5における推定照射光量の変化量が入力されると(または、求められると)、分割領域D1~D5における推定照射光量の変化量を用いて補正用情報421が参照される。これにより、分割領域D1~D5に対応するフォーカス変動量の時間変化が特定される。補正用情報421において、推定照射光量の変化量と一致する照射光量の変化量が含まれない場合には、当該推定照射光量の変化量に最も近似する照射光量の変化量におけるフォーカス変動量の時間変化が、対応するフォーカス変動量の時間変化として扱われてよい。あるいは、当該推定照射光量の変化量に近似する照射光量の変化量におけるフォーカス変動量の時間変化を用いて補間演算を行うことにより、対応するフォーカス変動量の時間変化が取得されてもよい。
【0047】
分割領域D1~D5に対応するフォーカス変動量の時間変化が特定されると、当該フォーカス変動量の時間変化に基づいて、分割領域D1~D5の描画時におけるフォーカス変動の補正値が取得される(ステップS13)。
図10は、フォーカス変動の補正値の取得を説明するための図である。
図10の縦軸はフォーカス変動量を示し、横軸は時間を示す。補正値の取得では、フォーカス変動量および時間により規定される
図10の座標平面において、複数の分割領域D1~D5にそれぞれ対応する複数のフォーカス変動量の時間変化が、順次書き込まれる。
図10では、分割領域D1,D2,D3,D5にそれぞれ対応する複数のフォーカス変動量の時間変化に、符号L21,L22,L23,L25を付す。
【0048】
ここで、各分割領域D1~D5における推定照射光量の変化は、当該分割領域D1~D5への描画開始時点を境界とする照射光量の変化である。したがって、各分割領域D1~D5に対応するフォーカス変動量の時間変化は、当該分割領域D1~D5への描画開始時点から影響が生じるものである。
図10では、各分割領域D1~D5に対して描画が行われると想定される期間(以下、「分割領域の描画期間」という。)を、符号T1~T5を付す矢印にて示しており、各分割領域D1~D5に対応するフォーカス変動量の時間変化は、当該分割領域D1~D5の描画期間T1~T5の始点を起点として発生する。よって、複数の分割領域D1~D5にそれぞれ対応するフォーカス変動量の時間変化は、分割領域D1~D5の描画期間T1~T5の長さ(すなわち、分割領域D1~D5の描画に要する時間)だけ順次シフトして配置される。本処理例では、分割領域D1~D5の描画期間T1~T5の長さは一定である。
【0049】
図10の座標平面では、各描画期間T1~T5において複数のフォーカス変動量の時間変化を互いに加算することにより、
図10中に符号L31を付して示す加算値の時間変化(以下、「フォーカス変動量の累積変化」という。)が取得される。例えば、分割領域D1の描画期間T1では、分割領域D1に対応するフォーカス変動量の時間変化L21がそのままフォーカス変動量の累積変化L31となる。分割領域D2の描画期間T2では、分割領域D1に対応するフォーカス変動量の時間変化L21と、分割領域D2に対応するフォーカス変動量の時間変化L22とが加算され、フォーカス変動量の累積変化L31が取得される。分割領域D3の描画期間T3では、分割領域D1に対応するフォーカス変動量の時間変化L21と、分割領域D2に対応するフォーカス変動量の時間変化L22と、分割領域D3に対応するフォーカス変動量の時間変化L23とが加算され、フォーカス変動量の累積変化L31が取得される。分割領域D4,D5の描画期間T4,T5においても同様にして、フォーカス変動量の時間変化が加算される。
【0050】
フォーカス変動量の累積変化L31は、分割領域D1~D5に対するパターンの描画時(描画期間T1~T5)におけるフォーカス変動量の推定値を示す。オートフォーカス制御部42では、各分割領域D1~D5の描画期間T1~T5において、フォーカス変動量の累積変化L31の平均が、フォーカス変動の補正値として求められる。
図10では、符号L32を付す線にてフォーカス変動の補正値を示す。描画装置1の設計によっては、各描画期間T1~T5において、フォーカス変動量の累積変化L31に含まれる他の値(最大値、最小値、中央値等)が、フォーカス変動の補正値として求められてもよい。本処理例では、フォーカス変動量の正負は、
図4中のZ方向の正負と同じである。
【0051】
オートフォーカス制御部42では、各分割領域D1~D5の描画時に、補正値に従ってオートフォーカス機構5のオートフォーカス動作が補正される(ステップS14)。例えば、分割領域D1の補正値がV1である場合、分割領域D1の描画時において、離隔距離F1が、設定距離に補正値V1を加算した目標距離となるようにオートフォーカス動作が行われる。これにより、分割領域D1の描画時において描画光の焦点位置が基板9にほぼ合わせられる。同様に、分割領域D2の補正値がV2である場合、分割領域D2の描画時において、離隔距離F1が、設定距離に補正値V2を加算した目標距離となるようにオートフォーカス動作が行われる。これにより、分割領域D2の描画時において描画光の焦点位置が基板9にほぼ合わせられる。分割領域D3~D5の描画時においても同様である。なお、補正値が負の値である場合には、目標距離は設定距離よりも短くなる。上述のように、実際には、複数の分割領域D1~D5に対して順に、ステップS11~S14が繰り返される。
【0052】
フォーカス変動の補正値を取得する際に、各分割領域D1~D5の描画期間T1~T5において、当該分割領域D1~D5に対応するフォーカス変動量の時間変化のみを用いることも可能である。例えば、分割領域D1の描画期間T1では、分割領域D1に対応するフォーカス変動量の時間変化がそのまま用いられる。分割領域D2の描画期間T2では、描画期間T2の始点における、分割領域D1に対応するフォーカス変動量の位置を起点として、分割領域D2に対応するフォーカス変動量の時間変化が用いられる。同様に、分割領域D3の描画期間T3では、描画期間T3の始点における、分割領域D2に対応するフォーカス変動量の位置を起点として、分割領域D2に対応するフォーカス変動量の時間変化が用いられる。この場合も、各分割領域D1~D5の描画期間T1~T5において、フォーカス変動量の平均等が、フォーカス変動の補正値として求められる。
【0053】
一方、各描画期間T1~T5において複数のフォーカス変動量の時間変化を互いに加算する(すなわち、フォーカス変動量の累積変化を取得する)
図10の例では、理由は明確ではないが、実際のフォーカス変動量の時間変化により近似することが確認されている。したがって、フォーカス変動の補正値を精度よく取得するには、フォーカス変動量の累積変化を取得することが好ましい。
【0054】
ここで、比較例の描画装置を想定する。比較例の描画装置では、投影光学系33の鏡筒温度またはレンズ温度を測定する温度センサが設けられる。そして、測定温度からフォーカス変動の補正値が取得され、オートフォーカス動作が補正される。比較例の描画装置では、温度センサが必要になるため、描画装置の製造コストが増大する。また、フォーカス変動はレンズの屈折率変化等に起因しているが、屈折率が変化している部位は光路上に存在するため、当該部位の温度を直接測定することはできない。その結果、フォーカス変動が発生してから、温度による検知まで時間遅れが発生し、フォーカス変動の影響を適切に低減することができない場合がある。また、レンズ設計により、熱レンズ効果によるフォーカス変動を抑制することも考えられるが、使用できるレンズ硝材が制限される等の問題がある。
【0055】
これに対し、描画装置1では、照射光量推定部(上述の例では、露光データ処理部41)と、オートフォーカス制御部42とが設けられる。照射光量推定部は、基板9上において描画光が連続的に照射される各分割領域に対する描画光の照射光量を、基板9に描画すべきパターンを示す画像データ(上述の例では、露光データ)を用いて推定照射光量として推定する。オートフォーカス制御部42は、推定照射光量に基づいて、各分割領域の描画時におけるフォーカス変動の補正値を取得し、当該分割領域の描画時に当該補正値に従ってオートフォーカス機構5のオートフォーカス動作を補正する。
【0056】
描画装置1では、機械的構造の変更やセンサ類の追加、レンズの使用硝材の制限等を行うことなく、オートフォーカス動作の補正を実行することができ、描画装置1の製造コストの増大を回避することができる。また、時間遅れが発生することなく、熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を容易にかつ適切に低減することができる。その結果、高強度の光源部36を用いる場合でもパターンを精度よく描画することができ、感光材料の無駄を伴うパターン描画のやり直し等を防止して、環境負荷を低減することができる。
【0057】
好ましくは、各分割領域に対する推定照射光量が、上述の画像データが示す当該分割領域のパターン密度から推定される。これにより、描画光の照射光量を容易に推定することができる。
【0058】
好ましくは、オートフォーカス制御部42が、連続する2つの分割領域間の照射光量の変化量と、フォーカス変動量との関係を示す補正用情報421を記憶する。また、各分割領域の直前の分割領域と当該各分割領域との間の推定照射光量の変化量を用いて補正用情報421を参照することにより、当該各分割領域に対応するフォーカス変動量を特定し、当該各分割領域の描画時における補正値を取得する。このように、補正用情報421を用いることにより、フォーカス変動の影響をさらに容易に低減することができる。なお、描画装置1では、周辺温度が精密に制御されるため、周辺環境による外乱は少なく、補正用情報421の再現性は高い。
【0059】
好ましくは、補正用情報421が、照射光量の各変化量に対してフォーカス変動量の時間変化を示す。また、オートフォーカス制御部42が、各分割領域に対応するフォーカス変動量の時間変化に基づいて、当該分割領域の描画時における補正値を取得する。このように、フォーカス変動量の時間変化を考慮することにより、フォーカス変動の影響を精度よく低減することができる。
【0060】
好ましくは、オートフォーカス制御部42が、各分割領域まで連続する複数の分割領域に対応する複数のフォーカス変動量の時間変化を、分割領域の描画に要する時間だけシフトしつつ加算することによりフォーカス変動量の累積変化を取得する。そして、フォーカス変動量の累積変化に基づいて、当該各分割領域の描画時における補正値を取得する。これにより、フォーカス変動の影響をより精度よく低減することができる。
【0061】
図3を参照して説明したように、各分割領域が、ストライプ領域R1~R3を走査方向に分割した領域であることが好ましい。これにより、フォーカス変動の補正値を短い周期で取得して、熱レンズ効果によるフォーカス変動に素早く追従することが可能となり、フォーカス変動の影響をさらに低減することができる。その結果、パターンをより精度よく描画することができる。
【0062】
上記描画装置1およびオートフォーカス補正処理では様々な変形が可能である。
【0063】
光源部36から出射される光の強度が変動する、または、光の強度が変更可能である場合に、当該光の強度も考慮して、推定照射光量が求められてもよい。
【0064】
描画装置1において求められる精度等によっては、補正用情報421が、照射光量の各変化量に対して、フォーカス変動量の1つの値を示すものであってもよい。また、推定照射光量の変化量を求めることなく、推定照射光量自体からフォーカス変動の補正値が取得されてもよい。この場合、例えば、推定照射光量の複数の範囲のそれぞれに対してフォーカス変動の補正値を対応付けたテーブルが予め準備される。予め準備された関数に、各分割領域の推定照射光量(または、推定照射光量の変化量)を代入することにより、補正値が取得されてもよい。
【0065】
描画装置1の設計によっては、各分割領域の推定照射光量が、設計データを用いて取得されてもよい。すなわち、分割領域の推定照射光量は、基板9に描画すべきパターンを示す様々な画像データから取得可能である。
【0066】
オートフォーカス機構5では、例えば、基板9の上面91の高さの情報が別途測定され、パターンの描画時に当該情報に基づいてオートフォーカス動作が実行されてもよい。この場合でも、オートフォーカス制御部42が、補正値に従ってオートフォーカス動作を補正することにより、熱レンズ効果によるフォーカス変動の影響を適切に低減することができる。
【0067】
描画装置1における移動機構は、ステージ21が描画ヘッド31に対して相対的に移動するのであれば、様々な構造が採用可能である。例えば、上述のように、ステージ21が固定され、描画ヘッド31が移動してもよい。
【0068】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0069】
1 描画装置
5 オートフォーカス機構
9 基板
21 ステージ
22 ステージ移動機構
31 描画ヘッド
32 光変調器
33 投影光学系
36 光源部
41 露光データ処理部
42 オートフォーカス制御部
421 補正用情報
D,D1~D5 分割領域
R1~R3 ストライプ領域
S11~S14 ステップ