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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032483
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20240305BHJP
   C23F 1/16 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01L21/308 F
C23F1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136158
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛司
【テーマコード(参考)】
4K057
5F043
【Fターム(参考)】
4K057WA11
4K057WB01
4K057WB03
4K057WB04
4K057WB05
4K057WB08
4K057WB20
4K057WE02
4K057WE04
4K057WE11
4K057WE12
4K057WN01
5F043AA24
5F043AA26
5F043AA37
5F043BB16
5F043BB18
5F043BB25
5F043DD07
5F043DD10
5F043GG02
5F043GG04
(57)【要約】
【課題】一態様において、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、基板上に形成された金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、リン酸、硝酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸、及び水を含有し、前記有機酸の配合量は65質量%以上99質量%以下であり、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量(質量%)をa、無機酸の配合量(質量%)をbとしたとき、式:a/b×100で表される有機酸率は250%以上である、エッチング液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、
リン酸、硝酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸、及び水を含有し、
前記有機酸の配合量は65質量%以上99質量%以下であり、
20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量(質量%)をa、無機酸の配合量(質量%)をbとしたとき、式:a/b×100で表される有機酸率は250%以上である、エッチング液組成物。
【請求項2】
前記金属膜は、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属膜である、請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記有機酸は、酢酸である、請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記基板は、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板から選ばれる少なくとも1種の基板である、請求項1から3のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
過酸化水素の配合量が1質量%未満である、請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む金属膜をエッチングする工程を含む、エッチング方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いて、基板上に形成された金属膜をエッチングする工程を含み、
前記基板は、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板から選ばれる少なくとも1種の基板である、基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング液組成物、並びに、これを用いたエッチング方法及び基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウム等の少なくとも1種の金属を含む被エッチング膜をエッチングして所定のパターン形状に加工する工程が行われている。エッチング液としては、リン酸、硝酸及び酢酸を含む混酸水溶液が一般的に使用されている。
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められており、パターンの加工技術やエッチング液に対する要求も高まりつつあり、様々なエッチング液組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cu/Mo二重膜をエッチングするために使用されるエッチング液組成物として、リン酸を約50~80重量%、硝酸を約0.5~10重量%、酢酸を約4~30重量%、塩素含有化合物を約0.5~6重量%、及び残量の水を含む、エッチング液組成物が提案されている。
特許文献2には、基板上に形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金膜の表面にモリブデン膜が積層された複層構造の金属膜をエッチングして所定パターンを形成するためのエッチング液組成物として、リン酸濃度40~70質量%、硝酸濃度0.5~10質量%、酢酸濃度50~15質量%、残部が水からなるエッチング液組成物が提案されている。
特許文献3には、モリブデン膜を含む積層膜を有する基板を処理するためのエッチング液組成物として、酸化剤(例えば、硝酸)と触媒(例えば、リン酸)と水分調整剤(例えば、酢酸等の有機酸)とを含むエッチング液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-27274号公報
【特許文献2】特開2008-244205号公報
【特許文献3】特開2021-114569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエッチング方法では、タングステン等の金属を含む被エッチング膜が高速でエッチングされると、不均一なエッチングが進行して光沢度が失われることがあった。特に、光沢度が損なわれるとレーザー散乱測定機などに支障をきたし、表面清浄性、形状など正確に測定できないことがあった。半導体ウエハの製造過程において、生産性、収率の観点から、光沢度が損なわれにくいエッチング液が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング液組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、基板上に形成された金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、リン酸、硝酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸、及び水を含有し、前記有機酸の配合量は65質量%以上99質量%以下であり、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量(質量%)をa、無機酸の配合量(質量%)をbとしたとき、式:a/b×100で表される有機酸率は250%以上である、エッチング液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む金属膜をエッチングする工程を含む、エッチング方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、基板上に形成された金属膜をエッチングする工程を含み、前記基板は、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板から選ばれる少なくとも1種の基板である、基板処理方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一態様において、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、一態様において、リン酸、硝酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸、及び水を含み、有機酸率(エッチング液組成物中の有機酸の配合量/エッチング液組成物中の無機酸の配合量×100)が250%以上であるエッチング液を用いることで、エッチングによる金属膜の光沢度の低下を抑制できるという知見に基づく。
【0012】
本開示は、一態様において、基板上に形成された金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、リン酸、硝酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸、及び水を含有し、前記有機酸の配合量は65質量%以上99質量%以下であり、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量(質量%)をa、無機酸の配合量(質量%)をbとしたとき、式:a/b×100で表される有機酸率は250%以上である、エッチング液組成物(以下、「本開示のエッチング液組成物」ともいう)に関する。
本開示のエッチング液組成物によれば、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング液組成物を提供できる。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
エッチング液組成物中の有機酸率を高くすると、エッチング反応に影響する硝酸、リン酸、及び水の基板への接触頻度が低減し、エッチング速度を低下させることができ、結果として、光沢度を改善できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
[リン酸]
本開示のエッチング液組成物中のリン酸の配合量は、光沢度の低下抑制の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、光沢度の低下抑制の観点から、35質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中のリン酸の配合量は、0.1質量%以上35質量%以下が好ましく、0.5質量%以上25質量%以下がより好ましく、1質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0015】
[硝酸]
本開示のエッチング液組成物中の硝酸の配合量は、エッチング速度低減の観点から、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましく、そして、光沢度の低下抑制の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の硝酸の配合量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、2質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
【0016】
[有機酸]
本開示のエッチング液組成物に含まれる20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸としては、例えば、酢酸(溶解度:1000g/L)、メトキシ酢酸(溶解度:485g/L)、クエン酸(溶解度:592g/L)、コハク酸(溶解度:58g/L)、酢酸3-メトキシブチル(溶解度:4.6g/L)等が挙げられる。20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本開示のエッチング液組成物中の20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量は、エッチング速度低減の観点から、65質量%以上であって、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、配合のしやすさの観点から、99質量%以下であって、98質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量は、65質量%以上99質量%以下であって、70質量%以上98質量%以下が好ましく、75質量%以上97質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下が更に好ましい。20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸が2種以上の組合せである場合、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量はそれらの合計配合量である。
【0018】
本開示のエッチング液組成物において、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の配合量(質量%)をa、無機酸の配合量(質量%)をbとしたとき、式:a/b×100で表される有機酸率は、エッチング速度低減の観点から、250%以上であって、300%以上が好ましく、400%以上がより好ましく、500%以上が更に好ましく、600%以上が更に好ましく、800%以上が更に好ましく、そして、配合のしやすさの観点から、10,000%以下が好ましく、5,000%以下がより好ましく、3,000%以下が更に好ましく、2,500%以下が更に好ましく、2,000%以下が更に好ましい。より具体的には、前記有機酸率は、300%以上10,000%以下が好ましく、400%以上5,000%以下がより好ましく、500%以上3,000%以下が更に好ましく、600%以上2,500%以下が更に好ましく、800%以上2,000%以下が更に好ましい。無機酸の配合量bは、一又は複数の実施形態において、リン酸及び硝酸の合計配合量であり、その他の一又は複数の実施形態において、リン酸、硝酸及び所望により配合されてもよいリン酸及び硝酸以外の無機酸の合計配合量である。
【0019】
本開示のエッチング液組成物中のリン酸、硝酸及び20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の合計配合量は、光沢度の低下抑制の観点から、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、99.9質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下が更に好ましい。本開示のエッチング液組成物中のリン酸、硝酸及び20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸の合計配合量は、70質量%以上99.9質量%以下が好ましく、75質量%以上99質量%以下がより好ましく、80質量%以上98質量%以下が更に好ましい。
【0020】
[水]
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含む。本開示のエッチング液に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。
本開示のエッチング液組成物中の水の配合量は、光沢度の低下抑制の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、2質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液組成物中の水の配合量は、0.1質量%以上35質量%以下が好ましく、0.5質量%以上30質量%以下がより好ましく、1質量%以上25質量%以下が更に好ましく、2質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0021】
[その他の成分]
本開示のエッチング液組成物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、リン酸及び硝酸以外の無機酸、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸以外の有機酸、キレート剤、界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、防錆剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0022】
本開示のエッチング液組成物は、光沢度の低下抑制の観点から、過酸化水素を含まないことが好ましい。ここで、「過酸化水素を含まない」とは、一又は複数の実施形態において、過酸化水素を含まないこと、実質的に過酸化水素を含まないこと、又は、エッチング結果に影響を与える量の過酸化水素を含まないこと、を含む。本開示のエッチング液組成物中における過酸化水素の配合量は、特に限定されないが、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含有しないこと)である。
【0023】
[エッチング液組成物の製造方法]
本開示のエッチング液組成物は、一態様において、リン酸と、硝酸と、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸と、水と、所望により上述した任意成分とを公知の方法で配合することにより得られる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも、リン酸と、硝酸と、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸と、水とを配合する工程を含む、エッチング液組成物の製造方法(以下、「本開示のエッチング液製造方法」ともいう)に関する。
本開示において「少なくとも、リン酸と、硝酸と、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸と、水とを配合する」とは、一又は複数の実施形態において、リン酸と、硝酸と、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸と、水と、必要に応じて上述した任意成分とを同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は、特に限定されなくてもよい。前記配合は、例えば、プロペラ型撹拌機、ポンプによる液循環撹拌、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。
本開示のエッチング液製造方法において各成分の好ましい配合量は、上述した本開示のエッチング液組成物中の各成分の好ましい配合量と同じとすることができる。
【0024】
本開示において「エッチング液組成物中の各成分の配合量」とは、一又は複数の実施形態において、エッチング工程に使用される、すなわち、エッチング処理への使用を開始する時点(使用時)でのエッチング液組成物中の各成分の配合量をいう。
本開示のエッチング液組成物中の各成分の配合量は、一又は複数の実施形態において、本開示のエッチング液組成物中の各成分の含有量とみなすことができる。ただし、中和の影響を受ける場合は、配合量と含有量が異なる場合がある。
【0025】
本開示のエッチング液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。2液型のエッチング液組成物としては、水が第1液と第2液とに分かれており、リン酸、硝酸、及び20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸がそれぞれ、第1液及び第2液のうちのいずれか一方又は双方に含まれており、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第1液及び第2液はそれぞれ必要に応じて上述した任意成分を含有してもよい。
【0026】
本開示のエッチング液組成物のpHは、光沢度の低下抑制の観点から、1以下が好ましく、0以下がより好ましく、0未満が更に好ましく、-1または-2程度が更に好ましい。なお、本開示のエッチング液組成物のpHは、好ましくは-5以上、より好ましくは-3以上とすることができる。本開示において、エッチング液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0027】
本開示のエッチング液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて適宜希釈してエッチング工程で使用することができる。希釈割合は例えば、3~100倍とすることができる。
【0028】
[キット]
本開示は、その他の態様において、本開示のエッチング液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。
本開示のキットとしては、一又は複数の実施形態において、第1液と第2液とを相互に混合されない状態で含み、リン酸、硝酸、及び20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸がそれぞれ、第1液及び第2液のうちのいずれか一方又は双方に含まれており、使用時に第1液と第2液とが混合されるキット(2液型エッチング液)が挙げられる。第1液と第2液とが混合された後、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて希釈されてもよい。第1液又は第2液には、エッチング液の調製に使用する水の全量又は一部が含まれていてもよい。第1液及び第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。
本開示のキットによれば、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング液を得ることができる。
【0029】
[被エッチング膜]
本開示のエッチング液組成物を用いてエッチング処理される被エッチング膜は、一又は複数の実施形態において、少なくとも1種の金属を含む金属膜である。ここで、金属膜としては、本開示の効果の奏する限り特に限定されるものではないが、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属膜が挙げられる。金属膜は、一又は複数の実施形態において、銀を含まない。
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属膜(ただし、銀を含まない)のエッチングに用いられることが好ましく、一又は複数の実施形態において、タングステン膜、モリブデン膜、又はニッケル膜のエッチングに好適に用いられる。すなわち、被エッチング膜は、一又は複数の実施形態において、タングステン膜、モリブデン膜又はニッケル膜である。
【0030】
[エッチング方法]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む金属膜をエッチングする工程(以下、「本開示のエッチング工程」ともいう)を含む、エッチング方法(以下、「本開示のエッチング方法」ともいう)に関する。本開示によれば、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング方法を提供できる。
【0031】
本開示のエッチング工程において、エッチング処理方法としては、例えば、浸漬式エッチング、枚葉式エッチング等が挙げられる。
【0032】
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がタングステン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、光沢度の低下抑制の観点から、0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、そして、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。同様の観点から、一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がタングステン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上130℃以下がより好ましく、70℃以上110℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がモリブデン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、光沢度の低下抑制の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、25℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。同様の観点から、一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がモリブデン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、25℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がニッケル膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、光沢度の低下抑制の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。同様の観点から、一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がニッケル膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
【0033】
本開示のエッチング工程において、エッチング時間は、例えば、1分以上180分以下に設定できる。
【0034】
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がタングステン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、光沢度の低下抑制の観点から、0.0001mg/分以上が好ましく、0.0005mg/分以上がより好ましく、0.001mg/分以上が更に好ましく、そして、光沢度の低下抑制の観点から、10mg/分以下が好ましく、1mg/分以下がより好ましく、0.1mg/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がモリブデン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、光沢度の低下抑制の観点から、0.01mg/分以上が好ましく、0.03mg/分以上がより好ましく、0.05mg/分以上が更に好ましく、そして、光沢度の低下抑制の観点から、10mg/分以下が好ましく、3mg/分以下がより好ましく、2mg/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング膜がニッケル膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、光沢度の低下抑制の観点から、0.001mg/分以上が好ましく、0.005mg/分以上がより好ましく、0.01mg/分以上が更に好ましく、そして、光沢度の低下抑制の観点から、10mg/分以下が好ましく、1mg/分以下がより好ましく、0.5mg/分以下が更に好ましい。
【0035】
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、半導体ウエハの製造工程において、金属をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板から選ばれる少なくとも1種の基板の作製に好適に用いることができる。すなわち、本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物又は本開示のエッチング方法を用いて、基板上に形成された金属膜をエッチングする工程を含み、前記基板は、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板から選ばれる少なくとも1種の基板である、基板処理方法(以下、「本開示の基板処理方法ともいう」)に関する。
本開示の基板処理方法によれば、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいため、生産性、収率を向上できる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、NAND型フラッシュメモリを含む不揮発性メモリ等の半導体メモリの製造工程において、電極をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、三次元構造を有するパターンの作製に好適に用いることができる。これにより、大容量化されたメモリ等の高度なデバイスを得ることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、例えば、特開2020-145412号公報に開示されるようなエッチング方法に用いることができる。
【実施例0036】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
1.エッチング液の調製(実施例1~3、比較例1~2)
リン酸、硝酸、表1に示す有機酸、及び水を配合して実施例1~3及び比較例1~2のエッチング液(pH:-2~0)を得た。調製したエッチング液における各成分の配合量(質量%、有効分)を表1に示した。なお、表1中の水の配合量には、酸水溶液等に含まれる水の配合量も含まれている。
【0038】
エッチング液の調製には、下記成分を用いた。
リン酸[燐化学工業社製、濃度85%]
硝酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度70%]
(有機酸)
酢酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度100%、20℃の水への溶解度:1000g/L]
(水)
水[栗田工業株式会社製の連続純水製造装置(ピュアコンティ PC-2000VRL型)とサブシステム(マクエース KC-05H型)を用いて製造した超純水]
【0039】
2.パラメータの測定方法
[エッチング液のpH]
エッチング液の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値であり、pHメータの電極をエッチング液へ浸漬して1分後の数値である。
【0040】
3.エッチング液の評価
[タングステン板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~3及び比較例1~2)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmタングステン板を浸漬させ、タングステン板は90℃で180分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、タングステン板の重量を測定し、その差分をエッチング量とした。重量の測定には、精密天秤を用いた。
そして、下記式によりエッチング速度を求めた。
エッチング速度(mg/分)=エッチング量(g)/エッチング時間(分)
タングステン板のエッチング速度の結果を、表1に示した。また、比較例1のタングステン板のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表1に示した。
[モリブデン板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
前記タングステン板の代りに縦2cm、横2cm、厚み0.1mmモリブデン板を用いたこと、及び、エッチング条件をエッチング温度40℃、エッチング時間10分に変更したこと以外は、前記タングステンのエッチング方法と同様にしてモリブデン板のエッチングを行い、モリブデン板のエッチング速度を測定した。モリブデン板のエッチング速度の結果を、表1に示した。また、比較例1のモリブデン板のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表1に示した。
【0041】
[光沢度の評価]
各エッチング液を用いたエッチング後のタングステン板、ニッケル板及びモリブデン板の外観を目視で確認し、エッチング後の光沢度を下記評価基準に基づいて行い、結果を表1に示した。
<評価基準>
5:板全面が鏡面状態
4:板の大部分が鏡面状態だが、一部腐食痕が見られる
3:板の半分が鏡面状態だが、半分は腐食痕が見られる
2:板の大部分は腐食痕が見られる
1:板全面が曇り鏡面が全くない
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸(酢酸)の配合量が65~99質量%の範囲内であり、有機酸率が250%以上である実施例1~3のエッチング液は、20℃の水への溶解度が1100g/L以下の有機酸(酢酸)の配合量が65質量%未満、有機酸率が250%未満である比較例1~2に比べて、タングステン板及びモリブデン板のエッチング速度が遅く、エッチングによる光沢度の低下が抑制されており、エッチング後に金属膜の光沢度が損なわれにくいエッチング組成物であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示のエッチング液組成物は、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、及び太陽電池用基板上の金属膜のエッチングに有用である。