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特開2024-32490低温耐性硝化細菌の培養方法、窒素含有水を処理する方法、および窒素含有水の処理装置
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  • 特開-低温耐性硝化細菌の培養方法、窒素含有水を処理する方法、および窒素含有水の処理装置 図1
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  • 特開-低温耐性硝化細菌の培養方法、窒素含有水を処理する方法、および窒素含有水の処理装置 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032490
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】低温耐性硝化細菌の培養方法、窒素含有水を処理する方法、および窒素含有水の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20230101AFI20240305BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240305BHJP
【FI】
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136167
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】若原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】角野 立夫
(72)【発明者】
【氏名】李 沁潼
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040BB05
4D040BB57
4D040BB91
4D040DD03
4D040DD14
(57)【要約】
【課題】簡便な方法で低温耐性硝化細菌を培養する方法、当該低温耐性硝化細菌を用いて窒素含有水を処理する方法、並びに、当該低温耐性硝化細菌の培養および窒素含有水の処理が可能な装置を実現する。
【解決手段】アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、微生物の優占種が低温耐性硝化細菌である窒素含有水bを得る工程を含む、低温耐性硝化細菌の培養方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、微生物の優占種が低温耐性硝化細菌である窒素含有水bを得る工程を含む、低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項2】
前記窒素含有水aのpHを3.0超6.0以下に調整する、請求項1に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項3】
前記窒素含有水aにおけるアンモニア態窒素および/または有機態窒素の濃度が2000mg-N/L以下である、請求項1に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項4】
前記窒素含有水bでは、低温耐性硝化細菌の量の、アンモニア酸化細菌の量に対する比が1を超える、請求項1に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項5】
前記比が5以上100以下である、請求項4に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項6】
前記低温耐性硝化細菌が、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)である、請求項1に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法によって得られた低温耐性硝化細菌を用いて、好気性雰囲気下、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化する工程を含む、窒素含有水を処理する方法。
【請求項8】
培養槽と、硝化槽とを有する窒素含有水の処理装置であって、
前記培養槽と前記硝化槽とは、前記培養槽と前記硝化槽との間で内容物を循環させることが可能であり、
前記培養槽は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記硝化槽から得られた返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水bを生成し、
前記硝化槽は、前記窒素含有水aおよび前記窒素含有水bを貯留することができ、前記窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いて、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化して硝化液を生成する、
窒素含有水の処理装置。
【請求項9】
処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行い、硝化液を生成し;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記硝化槽Iで得られた硝化液、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、これらの硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aを前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌により、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置。
【請求項10】
処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iおよび脱窒槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し;
前記脱窒槽Iは、前記硝化槽Iで得られた前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒し、得られた返送汚泥を前記処理系Bに送り;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記脱窒槽Iからの返送汚泥、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aおよび前記返送汚泥を前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温耐性硝化細菌の培養方法、窒素含有水を処理する方法、および窒素含有水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、産業廃水等に含まれるアンモニア態窒素および/または有機態窒素の処理には、硝化細菌を用いた生物処理法が用いられている。生物処理法は安価な方法であるが、低温での処理が難しい。すなわち、下水等の処理水の水温が15℃以下では反応が進まないため、冬季における処理が困難であるという問題があった。
【0003】
そのため、従来、加温設備(蒸気吹き込み)を用い、処理水を加温した後に生物処理に供する方法が取られていたが、非常に手間がかかるため、代替法が求められていた。
【0004】
前記代替法としては、特許文献1に記載の方法を挙げることができる。当該方法は、低温耐性硝化細菌であるAH菌群(Ammonia oxidizing bacteria detected by MPN method using High ammonium media)(MPN method: most probable number method)を用いて、15℃以下の低温でアンモニア態窒素含有水を処理する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2014/017429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法は、既に実用化されている。しかしながら、AH菌群の培養には、高濃度のアンモニア含有培地を多量に用いる必要がある。それゆえに、培養設備も膨大な設備となる。
【0007】
そのため、より簡便な方法で、かつ、簡易な設備によって低温耐性硝化細菌を培養する方法の実現が求められていた。
【0008】
本発明の一態様は、簡便な方法で低温耐性硝化細菌を培養する方法、当該低温耐性硝化細菌を用いて窒素含有水を処理する方法、並びに、当該低温耐性硝化細菌の培養および窒素含有水の処理が可能な装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る低温耐性硝化細菌の培養方法は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、微生物の優占種が低温耐性硝化細菌である窒素含有水bを得る工程を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る窒素含有水の処理装置は、培養槽と、硝化槽とを有する窒素含有水の処理装置であって、
前記培養槽と前記硝化槽とは、前記培養槽と前記硝化槽との間で内容物を循環させることが可能であり、
前記培養槽は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記硝化槽から得られた返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水bを生成し、
前記硝化槽は、前記窒素含有水aおよび前記窒素含有水bを貯留することができ、前記窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いて、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化して硝化液を生成する、
窒素含有水の処理装置である。
【0011】
本発明の一態様に係る窒素含有水の処理装置は、処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行い、硝化液を生成し;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記硝化槽Iで得られた硝化液、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、これらの硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aを前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌により、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置である。
【0012】
さらに、本発明の一態様に係る窒素含有水の処理装置は、処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iおよび脱窒槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し;
前記脱窒槽Iは、前記硝化槽Iで得られた前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒し、得られた返送汚泥を前記処理系Bに送り;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記脱窒槽Iからの返送汚泥、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aおよび前記返送汚泥を前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;窒素含有水の処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、低温耐性硝化細菌を容易に、かつ大量に取得することができる。つまり、本発明の一態様によれば、多量の高濃度アンモニア培地を使用することなく、窒素含有水のpHを調整するという簡易な方法により、窒素含有水における微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とすることができる。
【0014】
また、前記低温耐性硝化細菌は、十分な低温耐性を備えているため、本発明の一態様によれば、窒素含有水の温度が15℃以下の低温であっても、円滑に硝化を行うことができる。
【0015】
さらに、本発明の一態様によれば、簡易な構造で、前記低温耐性硝化細菌の培養および窒素含有水の処理を行うことができる窒素含有水の処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1において、窒素含有水のpHを5に調整し、好気性雰囲気下、5~6℃で、窒素含有水に含まれるアンモニアを硝化した結果を示す図である。
図2】コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を担体に担持させる方法(担体法)により、窒素含有水に含まれるアンモニアを5℃で硝化する場合、0.05kg-N/m/dayの硝化速度を満足するためには、3×10copy/gの菌数が必要であることを示す図である。
図3】実施例4において、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を担体に担持し、当該担体を種菌として、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の25℃における増殖特性を検討した結果を示す図である。
図4】実施例5等において、窒素含有水のpHを調整し、微生物の優占種をコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)にするために用いた培養装置の構造を示す図である。
図5】実施例5において、酸性環境下での25℃の無機合成廃水につき、水質の経時変化を確認した結果を示す図である。
図6】実施例5において、pHを6、5.5、および5に調整した25℃の無機合成廃水中の担体に担持された菌叢のリアルタイムPCRの結果をそれぞれ示す図である。
図7】実施例6において、pHを6に調整した5~6℃の窒素含有水につき、水質の経時変化を確認した結果を示す図である。
図8】実施例6において、図4に示す装置における容積負荷と、硝化速度との関係を示す図である。
図9】実施例6において用いた担体を取り出し、5~20℃での回分試験を行った結果を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る窒素含有水の処理装置の、構造の一例を示す図である。
図11】本発明の他の実施形態に係る窒素含有水の処理装置の、構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔実施形態1:低温耐性硝化細菌の培養方法〕
本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、微生物の優占種が低温耐性硝化細菌である窒素含有水bを得る工程を含む方法である。
【0018】
本明細書において、「低温耐性硝化細菌」とは、水温が15℃以下の環境下において窒素含有水中のアンモニア態窒素および/または有機態窒素を硝化することができる細菌をいう。「低温耐性硝化細菌の培養方法」とは、低温耐性硝化細菌のみを培養することを意味するものではなく、低温耐性硝化細菌を培養することができれば、培養した菌叢に低温耐性硝化細菌以外の細菌が含まれていてもよい。実際、低温耐性硝化細菌は、現状では単離することが困難であることが知られている。
【0019】
低温耐性硝化細菌としては、特に限定されるものではないが、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)であることが好ましい。低温耐性硝化細菌に含まれる他の細菌としては、例えばNitrosomonas等が挙げられる。
【0020】
本明細書においてコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)とは、ニトロスピラ属に属する細菌であって、窒素含有水に含まれるアンモニアおよび/または尿素から直接硝酸を生成することができる細菌である。コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)は、アンモニアの硝化に際して亜硝酸の生成を経由する必要がないため、効率よく硝化を行うことができる。
【0021】
本明細書では、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水のうち、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法に供されていないものを「アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a」と称する。
【0022】
窒素含有水aとしては、生活排水、し尿、工場排水、畜舎由来の廃水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、必ずしも下水に限られるものではなく、上水であってもよい。アンモニア態窒素(NH-N)は、タンパク質のような窒素を含む有機物が分解してなる窒素化合物である。有機態窒素は、BOD酸化菌の異化代謝によってアンモニア態窒素に転換される。窒素含有水aには、活性汚泥が含まれていることが好ましい。
【0023】
コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)等の低温耐性硝化細菌を培養する方法としては、従来、例えば特許文献1に記載されている方法が知られていた。しかし、当該方法は、高濃度のアンモニア含有培地を多量に用いる方法であるため、簡便な方法とは言い難く、設備も膨大なものであった。
【0024】
本発明者は、より簡便な方法で、かつ、簡易な設備によって低温耐性硝化細菌を培養する方法について鋭意検討した。その結果、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整するという簡便な方法によって、窒素含有水中の微生物において低温耐性硝化細菌を優占種とすることができることを見出した。
【0025】
窒素含有水aのpHを6.0以下に調整する方法としては、例えば、槽中の窒素含有水aを曝気する方法を挙げることができる。これにより、窒素含有水aに酸素が供給され、窒素含有水a中のアンモニアが硝酸に変化し、窒素含有水aのpHが低下するため、pHを6.0以下に調整することができる。
【0026】
このように、窒素含有水aを曝気することによって窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することができる。前記低温耐性硝化細菌は好気性細菌である。前記低温耐性硝化細菌の培養方法は、窒素含有水aを曝気することによって好気性雰囲気を作り出すと共に、窒素含有水aのpHを低温耐性硝化細菌の増殖に好適な値とすることができるため、効率的な方法であると言える。
【0027】
ただし、窒素含有水aを曝気する方法に限定されるものではなく、例えば前記槽に酸貯留タンクおよび/またはアルカリ貯留タンクを接続し、酸および/またはアルカリによって、窒素含有水aのpHを調整してもよい。また、窒素含有水aを曝気する場合でも、前記槽に酸貯留タンクおよび/またはアルカリ貯留タンクを接続することにより、pHの微調整を容易に行うことができる。
【0028】
前記槽としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記工程を行うための培養槽を設けてもよいし、既存の硝化槽を用いてもよい。
【0029】
窒素含有水aのpHは、6.0以下であればよいが、5.5以下であることがより好ましい。前記pHを5.5以下に調整することにより、窒素含有水aにおいて低温耐性硝化細菌が優占種になるまでの時間をより短くすることができ、かつ、より安定的に優占種とすることができる。そのため、窒素含有水aの処理をより効率化することができる。
【0030】
前記pHは、3.0超であることが好ましい。前記pHが低いほど、窒素含有水aにおいて低温耐性硝化細菌が優占種になりやすい傾向がある。一方、前記pHが高いほど、培養された低温耐性硝化細菌の硝化活性は高くなる傾向がある。よって、前記pHは、低温耐性硝化細菌の効率的な増殖と、高い硝化活性とを両立し得るpHであることが好ましい。この観点から、前記pHは、3.0超であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。
【0031】
前記窒素含有水aは、担体を含むことが好ましい。担体は細菌を保持することができるため、担体を含むことにより、低温耐性硝化細菌の増殖および回収が容易となる。担体としては、特に限定されるものではなく、通常の付着固定化担体、包括固定化担体等を用いることができる。
【0032】
付着固定化担体としては、例えば、球状、筒状、ゲル状等の担体、ひも状材料、不織布材料等を用いることができる。これらは表面の凹凸が多いため、細菌を付着させる上で好ましい。
【0033】
包括固定化担体は、細菌と固定化材料とを混合し、固定化材料を重合させることにより、得られたゲルの内部に細菌を包括的に固定化する。前記固定化材料としてはモノマー材料、プレポリマー材料等が挙げられる。モノマー材料としてはアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルホルマール等が挙げられる。また、プレポリマー材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレート、およびそれらの誘導体等を挙げることができる。中でも、20μm以下の網目構造を取り、細菌を高密度に保持することができるため、PVA担体を好ましく用いることができる。
【0034】
前記窒素含有水aにおける前記担体の充填率は、低温耐性硝化細菌の培養効率の観点から、前記槽内の前記窒素含有水aの体積に対して、1~60体積%であることが好ましく、5~20体積%であることがより好ましく、8~15体積%であることが特に好ましい。
【0035】
前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とするまでに要する時間は、前記窒素含有水aの量、pHの具体的な値等によって異なるが、前記窒素含有水aのpHが6.0以下になった日から概ね20日程度である。
【0036】
前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整する際、前記窒素含有水aの温度は、特に限定されるものではないが、低温耐性硝化細菌の増殖速度を向上させる観点から、常温(20~25℃)であることが好ましい。
【0037】
前記窒素含有水aにおけるアンモニア態窒素および/または有機態窒素の濃度は、2000mg-N/L以下であることが好ましく、100mg-N/L以下であることがより好ましく、40mg-N/L以下であることが特に好ましい。
【0038】
前記構成によれば、低温耐性硝化細菌の培養時に、低温耐性硝化細菌に加わる負荷が適切なものとなるため、低温耐性硝化細菌の培養を効率よく行うことができる。かかる観点から、前記濃度は0を超え、5mg-N/L以上であることが好ましく、30mg-N/L以上であることがより好ましい。
【0039】
本明細書では、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法によって得られた窒素含有水を、窒素含有水bと称する。窒素含有水bは、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水である。
【0040】
窒素含有水bは、低温耐性硝化細菌の量の、アンモニア酸化細菌の量に対する比が1を超えることが好ましい。
【0041】
窒素含有水bにおいてアンモニア酸化細菌が優占種であると、低温におけるアンモニアの硝化が滞ってしまう。前記構成によれば、窒素含有水bにおいて低温耐性硝化細菌がアンモニア酸化細菌よりも優占種であるため、低温におけるアンモニアの硝化を効率的に行うことができる。なお、前記比は、例えば、前記担体に担持された菌叢をリアルタイムPCRを用いて解析し、前記比を算出することによって確認することができる。
【0042】
窒素含有水bは、低温耐性硝化細菌の量の、アンモニア酸化細菌の量に対する比が5以上100以下であることがより好ましい。前記構成によれば、窒素含有水bにおいて低温耐性硝化細菌がアンモニア酸化細菌よりも大幅に優占種となっているため、低温におけるアンモニアの硝化を一層効率的に行うことができる。
【0043】
低温耐性硝化細菌が優占種とされた前記窒素含有水bは、低温下におけるアンモニアの硝化に好適に用いることができる。したがって、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法によれば、簡便な方法によって低温耐性硝化細菌を優占種とし、低温時の硝化の効率化に資することができる。
【0044】
〔実施形態2:窒素含有水を処理する方法〕
本発明の一実施形態に係る窒素含有水を処理する方法は、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法によって得られた低温耐性硝化細菌を用いて、好気性雰囲気下、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化する工程を含む。
【0045】
前記工程の例としては、例えば、以下の工程が挙げられる:
・窒素含有水b、もしくは窒素含有水b中に充填されていた担体を、窒素含有水aを貯留する硝化槽に導入し、好気性雰囲気下、水温0℃以上15℃以下で硝化を行う工程;
・窒素含有水aを貯留する硝化槽中で本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法を行い、窒素含有水bを得て、好気性雰囲気下、前記硝化槽中で、0℃以上15℃以下の窒素含有水bに対し硝化を行う工程。
【0046】
前記好気性雰囲気は、例えば、窒素含有水aおよび/または窒素含有水bを曝気することによって作成することができる。
【0047】
「水温0℃以上15℃以下」とは、硝化の対象となる前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bの水温が0℃以上15℃以下であることを意味する。前記窒素含有水を処理する方法に供される低温耐性硝化細菌は、低温での高い硝化活性を有する。そのため、前記水温は、0℃以上10℃以下であることがより好ましく、0℃以上5℃以下であることが特に好ましい。
【0048】
硝化の対象となる前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bのpHは特に限定されるものではなく、特に調整せず、そのまま硝化に供してもよい。低温下での硝化を行うため、低温耐性硝化細菌以外の細菌は増殖できない。そのため、前記pHに関わらず、低温耐性硝化細菌は、優占種である状態を保ったまま、硝化を行い、アンモニアを硝酸とすることができる。
【0049】
水温は、人為的に0℃以上15℃以下とする必要はない。水温が高い場合は、従来公知の硝化方法を用いれば足りる。しかし、水温が0℃以上15℃以下である場合に、簡便かつ効率的に硝化を行い得る方法は、これまで存在していなかった。
【0050】
本発明の一実施形態に係る窒素含有水を処理する方法は、前述した低温耐性硝化細菌の培養方法によって得られた、窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いる方法である。窒素含有水bでは、前述したように低温耐性硝化細菌が優占種となっている。そのため、前記窒素含有水を処理する方法は、水温が低い時期に用いることにより、硝化対象の窒素含有水を加熱すること等の煩雑さを回避し、効率的に硝化を行うことができる。
【0051】
〔実施形態3:第一の窒素含有水の処理装置〕
本発明の一実施形態に係る窒素含有水の処理装置は、培養槽と、硝化槽とを有する窒素含有水の処理装置であって、
前記培養槽と前記硝化槽とは、前記培養槽と前記硝化槽との間で内容物を循環させることが可能であり、
前記培養槽は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記硝化槽から得られた返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水bを生成し、
前記硝化槽は、前記窒素含有水aおよび前記窒素含有水bを貯留することができ、前記窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いて、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化して硝化液を生成する。
【0052】
前記窒素含有水の処理装置は、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法および窒素含有水を処理する方法を実施することができる。図10は、本実施形態に係る窒素含有水の処理装置の、構造の一例を示す図である。
【0053】
図10において、100は窒素含有水の処理装置、1は脱窒槽、2は硝化槽、3は培養槽、4は酸貯留タンク、5はアルカリ貯留タンク、「pH」はpHメーター、「P」はポンプ、「ORP」は酸化還元電位測定計、「B」は曝気装置、「M」は撹拌用モーター、※1は硝化槽2から培養槽3への返送汚泥の導入、※2は硝化槽2からの硝化液の脱窒槽1への導入をそれぞれ表す。
【0054】
「原水」は、窒素含有水aを脱窒槽1および培養槽3へ導入することを示しており、培養槽3から硝化槽2への矢印は、培養槽3で生成された窒素含有水bを硝化槽2へ導入することを示している。これらの導入は、脱窒槽1、硝化槽2、培養槽3にそれぞれ接続された導入部を介して行われてもよい。前記導入部としては、例えば配管を挙げることができる。
【0055】
脱窒槽1、硝化槽2、培養槽3の材質および体積は、特に限定されるものではない。なお、図10には脱窒槽1が記載されているが、処理装置100において脱窒槽1は任意の構成である。
【0056】
培養槽3は、実施形態1で説明した方法を実施することができ、導入された窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水bを生成する。前記pHを調整する方法は、実施形態1で述べたとおりである。
【0057】
培養槽3は、窒素含有水bを硝化槽2へ導入する。窒素含有水b中に、低温耐性硝化細菌を優占的に繁殖させた担体が存在する場合は、当該担体を培養槽3から取り出し、当該担体のみを硝化槽2へ導入してもよい。硝化槽2では、窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いて、好気性雰囲気下、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化して硝化液を生成する。硝化については、実施形態2で説明したとおりである。
【0058】
脱窒槽1は、窒素含有水aと、硝化槽2で生成した硝化液とを貯留することができ、前記硝化液に含まれる硝酸を嫌気性雰囲気下で脱窒し、窒素ガスを生成する。
【0059】
培養槽3と硝化槽2とは、培養槽3が窒素含有水bおよび/または窒素含有水b中に含まれる担体を硝化槽2へ導入し、硝化槽2は、硝化槽2で得られた返送汚泥を培養槽3へ導入する。
【0060】
すなわち、培養槽3と硝化槽2とは、培養槽3と硝化槽2との間で内容物を循環させることができる。前記返送汚泥は酸性であるため、培養槽3に導入された窒素含有水aのpHを6.0に調整するために使用することができる。また、前記返送汚泥には低温耐性硝化細菌が含有されているため、一旦培養槽3に戻した後、培養槽3で新たに生成した窒素含有水bと共に、再度硝化槽2へ導入し、硝化に供することができる。窒素含有水bでは低温耐性硝化細菌が優占種となっているため、硝化槽2において、水温0℃以上15℃以下の環境下で硝化を効率的に進めることができる。このように、処理装置100では、培養槽3と硝化槽2との間で内容物を循環させることにより、低温耐性硝化細菌の培養と、低温下での硝化とを連続的に行うことができる。
【0061】
〔実施形態4:第二の窒素含有水の処理装置〕
本発明の一実施形態に係る窒素含有水の処理装置は、処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行い、硝化液を生成し;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記硝化槽Iで得られた硝化液、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、これらの硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aを前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌により、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置である。
【0062】
前記処理装置は、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法および窒素含有水を処理する方法を実施することができる。図11は、本実施形態に係る処理装置の、構造の一例を示す図である。既に説明した符号については更なる説明を省略する。
【0063】
図11において、101は窒素含有水の処理装置、Aは処理系A、Bは処理系B、1および1’は脱窒槽、2および2’は硝化槽、6および6’は沈殿池、※aは沈殿池6から脱窒槽1’への硝化液の導入、※bは沈殿池6’から硝化槽2への返送汚泥の導入を表す。「原水」は、窒素含有水aを脱窒槽1、硝化槽2、脱窒槽1’へ導入することを示している。
【0064】
図11には脱窒槽1が示されているが、本実施形態に係る処理装置は、脱窒槽1を備えない。そのため、図11では脱窒槽1から沈殿池6へ処理液が導入されているが、本実施形態では、硝化槽2から沈殿池6へ硝化液が導入される。なお、脱窒槽1を備える態様については、実施形態5で説明する。
【0065】
処理系Aでは、硝化槽2(前記硝化槽Iに該当)が、前記培養槽3と同様に、導入された窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とする。その結果、硝化槽2では、窒素含有水bが得られる。続いて、硝化槽2では、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で、窒素含有水bに含まれるアンモニアの硝化が行われ、得られた硝化液は沈殿池6を経て、処理系Bの脱窒槽1’(前記脱窒槽IIに対応)に導入される。
【0066】
一方、処理系Bでは、脱窒槽1’と硝化槽2’(前記硝化槽IIに対応)とが、脱窒槽1’と硝化槽2’との間で内容物を循環させる。すなわち、脱窒槽1’と硝化槽2’との間では硝化液循環が行われる。
【0067】
脱窒槽1’には、硝化槽2で生成された硝化液(図中「※a」)、および、硝化槽2’で生成された硝化液(硝化槽2’から脱窒槽1’への矢印)が導入される。脱窒槽1’は、これらの硝化液に含まれる硝酸を嫌気性雰囲気下で脱窒して窒素ガスを生成する。そして、脱窒槽1’に導入された窒素含有水a(図中「原水」)を硝化槽2’に送る。
【0068】
硝化槽2’は、前記培養槽3と同様に、導入された窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とする。その結果、硝化槽2’では、窒素含有水bが得られる。続いて、硝化槽2’では、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で、窒素含有水bに含まれるアンモニアの硝化が行われ、得られた硝化液は、前述のように、脱窒槽1’に導入される。脱窒槽1’で脱窒された後の処理液は、沈殿池6’に導入される。そして、返送汚泥6’が硝化槽2へ導入される(図中の※b)。
【0069】
以上述べたように、処理装置101では、硝化槽2および硝化槽2’が、前記培養槽3の役割を果たすと共に、優占種となった低温耐性硝化細菌を用いて硝化も行う。そして、処理系Bで得られた返送汚泥中には低温耐性硝化細菌が含まれており、これを硝化槽2に導入することにより、硝化槽2において低温耐性硝化細菌を再利用することができる。また、処理系Aで得られた硝化液は脱窒槽1’に導入され、硝化槽2’から導入された硝化液と共に、一度に脱窒がなされる。
【0070】
このように、処理装置101は、処理系Aの生成物と処理系Bの生成物とを循環させることにより、低温耐性硝化細菌の培養と、低温下での硝化とを連続的に行うことができる。
【0071】
〔実施形態5:第三の窒素含有水の処理装置〕
本発明の一実施形態に係る窒素含有水の処理装置は、処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iおよび脱窒槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し;
前記脱窒槽Iは、前記硝化槽Iで得られた前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒し、得られた返送汚泥を前記処理系Bに送り;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記脱窒槽Iからの返送汚泥、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aおよび前記返送汚泥を前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置である。
【0072】
本実施形態の処理装置の構成の一例を、図11に示す。当該処理装置は、脱窒槽1を備える点が第二の窒素含有水の処理装置とは異なる。そのため、第二の窒素含有水の処理装置では、硝化槽2で得られた硝化液を処理系Bの脱窒槽1’に導入していたが、本実施形態では、脱窒槽1で得られた返送汚泥を脱窒槽1’に導入している。本実施形態では、脱窒槽1で得られた返送汚泥に含まれている低温耐性硝化細菌を、硝化槽2’で再利用する点で、第二の窒素含有水の処理装置とは異なる。他の点については第二の窒素含有水の処理装置と同様であり、当該処理装置と同様に、処理系Aの生成物と処理系Bの生成物とを循環させることにより、低温耐性硝化細菌の培養と、低温下での硝化とを連続的に行うことができる。
【0073】
〔まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれる。
〈1〉アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、微生物の優占種が低温耐性硝化細菌である窒素含有水bを得る工程を含む、低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈2〉前記窒素含有水aのpHを3.0超6.0以下に調整する、〈1〉に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈3〉前記窒素含有水aにおけるアンモニア態窒素および/または有機態窒素の濃度が2000mg-N/L以下である、〈1〉または〈2〉に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈4〉前記窒素含有水bでは、低温耐性硝化細菌の量の、アンモニア酸化細菌の量に対する比が1を超える、〈1〉から〈3〉のいずれか1つに記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈5〉前記比が5以上100以下である、〈4〉に記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈6〉前記低温耐性硝化細菌が、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)である、〈1〉から〈5〉のいずれか1つに記載の低温耐性硝化細菌の培養方法。
〈7〉〈1〉から〈6〉のいずれか1つに記載の方法によって得られた低温耐性硝化細菌を用いて、好気性雰囲気下、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化する工程を含む、窒素含有水を処理する方法。
〈8〉培養槽と、硝化槽とを有する窒素含有水の処理装置であって、
前記培養槽と前記硝化槽とは、前記培養槽と前記硝化槽との間で内容物を循環させることが可能であり、
前記培養槽は、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記硝化槽から得られた返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とした窒素含有水bを生成し、
前記硝化槽は、前記窒素含有水aおよび前記窒素含有水bを貯留することができ、前記窒素含有水bに含まれる低温耐性硝化細菌を用いて、水温0℃以上15℃以下で、前記窒素含有水aおよび/または前記窒素含有水bに含まれるアンモニアを硝化して硝化液を生成する、
窒素含有水の処理装置。
〈9〉処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行い、硝化液を生成し;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記硝化槽Iで得られた硝化液、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、これらの硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aを前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌により、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置。
〈10〉処理系Aと、処理系Bとを備える窒素含有水の処理装置であって、
前記処理系Aは、硝化槽Iおよび脱窒槽Iを備え、
前記硝化槽Iは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水aと、前記処理系Bからの返送汚泥とを貯留することができ、前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、かつ、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し;
前記脱窒槽Iは、前記硝化槽Iで得られた前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒し、得られた返送汚泥を前記処理系Bに送り;
前記処理系Bは、硝化槽IIと脱窒槽IIとを備え、
前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとは、前記硝化槽IIと前記脱窒槽IIとの間で、内容物を循環させることが可能であり、
前記脱窒槽IIは、アンモニア態窒素および/または有機態窒素を含有する窒素含有水a、前記脱窒槽Iからの返送汚泥、および前記硝化槽IIで得られる硝化液を貯留することができ、前記硝化液に含まれる硝酸を脱窒すると共に、前記窒素含有水aおよび前記返送汚泥を前記硝化槽IIに送り、
前記硝化槽IIは、前記脱窒槽IIから送られた前記窒素含有水aのpHを6.0以下に調整することにより、前記窒素含有水aに包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とし、前記低温耐性硝化細菌および前記返送汚泥に含まれる低温耐性硝化細菌により、0℃以上15℃以下で硝化を行って硝化液を生成し、前記硝化液を前記脱窒槽IIに送る;
窒素含有水の処理装置。
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0075】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0076】
〔実施例1〕
実施例1では、アンモニア態窒素および有機態窒素を含有する窒素含有水のpHを5とし、前記窒素含有水に包含される微生物の優占種を低温耐性硝化細菌とすることができるか否かについて検討した。
【0077】
硝化細菌含有の前記窒素含有水としては、一般的な活性汚泥法を行っている下水処理場(所在地:群馬県)の下水を用いた。処理対象の前記窒素含有水に含まれるアンモニア態窒素の濃度は、約48mg/Lであった。
【0078】
図4に示す連続運転装置102に、前記下水処理場の返送汚泥を水槽容積の90%、および担体10を水槽容積の10%投入し、処理対象の前記窒素含有水を、水槽容積の100%が1日で置き換わる流量で通水した。連続運転装置102の水槽の有効容積は1.1Lである。図4において、4は酸貯留タンク、5はアルカリ貯留タンク、7は熱電対、8はヒータ、10は担体、「B」は曝気装置、「P」はポンプ、「pH」はpHコントローラを示す。連続運転装置102では、前記窒素含有水に曝気装置からエアを吹き込むことにより、前記窒素含有水のpHを5まで低下させた。酸貯留タンク4には0.5Nの塩酸が貯留されており、アルカリ貯留タンクには5%(W/V)のNaHCOが貯留されている。pHコントローラは、酸貯留タンクおよびアルカリ貯留タンクを制御し、必要に応じて前記塩酸または前記NaHCOを槽内に投入し、前記窒素含有水のpHを5、水温を20~25℃に保持した。
【0079】
担体10としては、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ担体(アイオン社製、4mm角)を用いた。
【0080】
次に、図1に示すように、水温を運転開始から448日目に5℃まで低下させた。その後、水温は概ね5~6℃に保持された。図1は、好気性雰囲気下、窒素含有水に含まれるアンモニアを硝化した結果を示す。図1において、「原水NH-N」は、前記窒素含有水に含まれるアンモニア態窒素、「処理水NH-N」は、処理水(硝化液)中のアンモニア態窒素、「処理水NO-N」は、処理水中の亜硝酸性窒素、「処理水NO-N」は、処理水中の硝酸性窒素をそれぞれ指す。
【0081】
「原水NH-N」、「処理水NH-N」、「処理水NO-N」、および「処理水NO-N」の濃度の測定は、下水試験方法(日本下水道協会 2012年版)によって行った。
【0082】
図1に示すように、水温を5~6℃に保持した状態では、650日目付近から処理水(硝化液)中のNO-N(硝酸由来の窒素)濃度が増加し、770日目付近でプラトーに達し、以降、1100日目まで安定してNO-Nが得られている。この結果から、窒素含有水のpHを5としたことにより、窒素含有水中で低温耐性硝化細菌が優占種となったと考えられる。そのため、その後、水温が5~6℃に低下した場合でも、安定した硝化を達成することができたと考えられる。
【0083】
6℃における硝化速度は、0.12kg-N/m/dayであった。当該硝化速度は、前記下水試験方法によって求めた。
【0084】
また、窒素含有水中で低温耐性硝化細菌が優占種となった後の担体の菌叢を、リアルタイムPCRによって解析した。プライマーとしては表1に示すものを用いた。
【0085】
担体からのDNA抽出はDNeasy PowerBiofilm Kit(Qiagen)を用いて行った。リアルタイムPCRは、環境試料を用い、それぞれ標的遺伝子の精製産物をスタンダードとして使用した。測定にはTB Green(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を用い、リアルタイムPCR装置としては、StepOnePlus(商標)Real-time PCR(Applied Biosystems)を用いた。
【0086】
表中、Beta-AOBは一般的なアンモニア酸化細菌、AOAはアンモニア酸化古細菌、comammoxはコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)、Bacteriaは細菌全体を指す。
【0087】
【表1】
【0088】
リアルタイムPCRによる解析の結果、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が、アンモニア酸化細菌より多く検出された。よって、本実施例では、窒素含有水のpHを5としたことにより、窒素含有水中でコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占種となったと考えられる。そして、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占種となったことにより、5~6℃という低温でも安定した硝化を達成することができたと考えられる。
【0089】
通常の廃水処理における硝化の場合、亜硝酸の蓄積および亜硝酸による硝化の阻害による硝化不良を防止するため、窒素含有水のpHは高く保たれる。今回、窒素含有水のpHを6.0以下とすることにより、通常の亜硝酸生成型の硝化が阻害され、窒素含有水中の微生物において低温耐性硝化細菌を優占種とすることができることが初めて見出された。低温耐性硝化細菌は、低温環境下でも硝化を行うことができ、かつ、アンモニアから亜硝酸を経ずに硝酸まで酸化を行うことができる。本実施例の結果から、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法によれば、簡便な方法によって低温耐性硝化細菌を優占種とすることができ、低温環境下で亜硝酸の生成を阻害しつつ、硝化を行うことができることが分かる。
【0090】
〔実施例2〕
本実施例では、5℃で硝化を行うために必要な低温耐性硝化細菌の量について検討した。
【0091】
MLSSが2000mg/L(浮遊汚泥)である硝化槽に、硝化槽の容量に対して10体積%の担体を添加し、連続的に培養した。培養できたコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)は、担体1g当たり1×10copy/g~1×10copy/g担持であった。担持させた菌の量は、図2の横軸に示されている。用いた廃水の組成は表4に示す。用いた担体は実施例1と同じく、PVAスポンジ担体である。
【0092】
図2に結果を示す。担体投入率0.1L/L-水槽でコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の担持量が1×10~1×10copy/gの場合、硝化速度は低かったが、3×10copy/gで0.05kg-N/m/dayの硝化速度を示した。さらに、8×10copy/gでは0.1kg-N/m/dayを超える硝化速度を示し、以降、1×10copy/gまで、0.1kg-N/m/dayを超える硝化速度を示した。
【0093】
このように、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を担体に担持させる方法(担体法)による硝化の場合、0.05kg-N/m/dayの硝化速度を満足するためには、3×10copy/gの菌数が必要であることが分かった。
【0094】
このとき、担体1g当たり3×10copyのコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を担持した担体を、硝化槽の容量に対して10体積%添加している。そのため、活性汚泥方式で硝化を行う場合、0.05kg-N/m/dayと同程度の性能を得るためには、硝化槽の容積1ml当たり3×10copyのコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を使用することが必要となることが分かる。
【0095】
〔実施例3〕
本実施例では、活性汚泥循環変法を用いて下水処理を行い、浮遊法におけるコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)使用の優位性について確認した。活性汚泥循環変法は、硝化槽と脱窒槽とを用い、硝化槽と脱窒槽との間で硝化液循環を行う方法である。運転条件を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
T-Nの除去率は75%以上であった。また、従来法として、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を添加しないこと以外は実施例3と同じ条件で運転した。このときのT-N除去率は40%以下であった。
【0098】
〔実施例4〕
本実施例では、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占した担体を用いて、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の増殖特性について検討した。つまり、種担体を増加させるための条件について検討した。
【0099】
装置としては、図4に示す連続運転装置102を用いた。運転条件を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示す種菌としての担体(栄野比ら(2021)、水処理生物学会誌、57、35-41)、および新品スポンジ担体を、連続運転装置102に投入し、Run1からRun4まで、各Runを2週間ずつ、合計8週間運転した。各Runの最終日に、PVAスポンジ担体を採取し、実施例1と同様の方法により、リアルタイムPCRを用いて菌叢の解析を行った。結果を図3に示す。
【0102】
図3は、前記種菌としての担体を用い、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の25℃における増殖特性を検討した結果を示す図である。図中、comammoxはコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の数、bacteria16Sは全真正細菌数、beta-AOBはアンモニア酸化細菌数、AOAはアンモニア酸化古細菌数を指す。
【0103】
コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の比増殖速度μは0.124/日、倍加時間は5.58日であった。コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の比増殖速度はアンモニア酸化細菌の1/30であり、水温25℃の条件下ではアンモニア酸化細菌が優占種となることが分かった。しかし、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の倍加時間は5.58日であるため、前記条件下でも、SRT(汚泥滞留時間)を5.58日以上として運転することにより、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を増殖させることができる。
【0104】
〔実施例5〕
本実施例では、低温耐性硝化細菌の適切な培養条件の検討を行った。装置としては、図4に示す連続運転装置102を用いた。用いた無機合成廃水の組成を表4に示し、運転条件を表5に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
表5に示す種菌としての担体(栄野比ら(2021)、水処理生物学会誌、57、35-41)、および新品スポンジ担体を、表4に示す無機合成廃水を有する連続運転装置102に投入した。前記無機合成廃水は、曝気装置からエアを吹き込むことにより、pHを6とした。前記無機合成廃水のpHが6となった時を運転開始0日目とし、149日目までpHを6に保ち、馴養した。
【0108】
図5は、酸性環境下での前記無機合成廃水につき、水質の経時変化を確認した結果を示す図である。図中、「原水NH-N」は、前記無機合成廃水に含まれるアンモニア態窒素、「原水NO-N」は、前記無機合成廃水に含まれる亜硝酸性窒素、「原水NO-N」は、前記無機合成廃水に含まれる硝酸性窒素、「処理水NH-N」は、処理水(硝化液)中のアンモニア態窒素、「処理水NO-N」は、処理水中の亜硝酸性窒素、「処理水NO-N」は、処理水中の硝酸性窒素をそれぞれ指す。
【0109】
また、前記「原水NH-N」等の濃度の測定方法は、下水試験方法(日本下水道協会 2012年版)である。
【0110】
その後、図5に示す経過日数で前記無機合成廃水のpHを5.5、さらに5に変更し、それぞれ約60日間運転した。運転期間中は、水温を25℃、溶存酸素を7-8mg/Lに維持し、週2回水質分析を行った。
【0111】
図5に示すように、馴養の最初段階(100日まで)では硝酸の生成と共にアンモニアの除去が見られたが、硝化率は約54.19%であった(硝化率は図示せず)。100日目から149日目まで(pH6.0)は、水質の安定が見られ、硝化率が95.44%に達した。pH5.5(150日目~176日目)では、硝化率が100%となり、後述するようにコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の現存量がアンモニア酸化細菌を上回った。pH5.0での運転(177日目以降)は、条件を変えた直後に若干亜硝酸の発生が見られたが、長期運転(225日目以降)に、より安定な水質(硝化率平均98.66%)を得ることができた。
【0112】
図6は、pHを6、5.5、および5に調整した前記無機合成廃水中の担体に担持された菌叢のリアルタイムPCRの結果をそれぞれ示す図である。横軸は運転開始からの日数、縦軸は担体1g当たりの遺伝子の存在量を示す。また、beta-AOBは一般的なアンモニア酸化細菌、comammoxはコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)を指す。
【0113】
担体中のコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)およびアンモニア酸化細菌は、特異的プライマーを用いて、各amoA遺伝子をリアルタイムPCR法で定量した。図6の横軸に示す日に採取した担体から、DNeasy PowerBiofilm Kit(Qiagen)を用いてDNA抽出を行った。リアルタイムPCRは、環境試料を用い、それぞれ標的遺伝子の精製産物をスタンダードとして使用した。測定にはTB Green(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を用い、リアルタイムPCR装置としては、StepOnePlus(商標)Real-time PCR(Applied Biosystems)を用いた。なお、前記特異的プライマーは、表1の「Beta-AOB」および「comammox」に示すものと同じである。
【0114】
図6に示すように、運転開始から80日目付近までは、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の集積は弱いものであった。しかし、pHを5.5に調整した運転開始150日目以降は、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占種となっていることが確認された。図5に示す結果と、図6に示す結果とから、pHが6の条件下で、徐々にコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の集積が進み、運転開始120日目では優占種になっているものと考えられる。
【0115】
また、pH5.0では、pH5.5よりコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の大幅な増殖が確認された。
【0116】
これらの結果より、本発明の一実施形態に係る低温耐性硝化細菌の培養方法によって集積培養された硝化菌群を用いることにより、酸性条件下においても良好な処理水質が得られることが分かった。また、酸性環境が、担体中のコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の増殖に有利な条件であることが示唆された。
【0117】
〔実施例6〕
本実施例では、5℃での硝化を長期間行っている装置を用い、低温硝化に対するコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)の関与について検討した。
【0118】
装置としては、図4に示す連続運転装置102を用いた。用いた無機合成廃水の組成を表6に示し、運転条件を表7に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
表6に示す無機合成廃水を連続運転装置102に投入し、表7に示すように担体を投入した。前記無機合成廃水は、曝気装置からエアを吹き込むことにより、pHを6とし、前記無機合成廃水のpHが6となった時を運転開始0日目とした。
【0122】
図7は、前記無機合成廃水の水質の経時変化を確認した結果を、運転開始から2892日目まで示す図である。図7の横軸は運転開始からの経過日数であり、縦軸は凡例に示した窒素の濃度である。「原水NH-N」、「処理水NH-N」、「処理水NO-N」、および「処理水NO-N」の濃度の測定方法は、実施例1で説明した方法と同じである。
【0123】
図7より、処理水NO-Nの濃度が安定して高く、処理水NH-Nおよび処理水NO-Nの濃度は安定して低いことが分かる。このように、前記無機合成廃水のpHを6とすることにより、水温が5~6℃であっても安定した硝化が行われていることが分かる。
【0124】
図8は、図4に示す装置における容積負荷と、硝化速度との関係を示す図である。最大0.34kg-N/m/dayの硝化速度が得られ、硝化率はほぼ100%を示した。
【0125】
運転開始から2779日目に担体から菌叢を採取し、リアルタイムPCRを行った結果、全真正細菌は5.85×1010copy/g-担体、アンモニア酸化細菌は検出限界以下、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)は7.49×10copy/g-担体であった。リアルタイムPCRの方法は実施例1に示した方法と同じであり、プライマーは表1に示したものを用いた。この結果から、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占種となっていることにより、水温が5~6℃であっても安定した硝化が行われていると考えられる。
【0126】
窒素含有水の温度を5℃、10℃、15℃、および20℃と変化させて回分処理を行った。図9は回分試験の結果を示す図である。いずれの温度でも、安定した硝化が可能であることが分かる。
【0127】
以上の結果から、前記無機合成廃水のpHを6とすることにより、前記無機合成廃水における優占種をコマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)とすることができることが分かる。また、コマモックス ニトロスピラ(Comammox Nitrospira)が優占種となった菌叢を用いることにより、5℃から20℃までの幅広い温度で安定した硝化を行うことができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、低温条件下で硝化を行う必要がある下水処理場等において、有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0129】
1、1’ 脱窒槽
2、2’ 硝化槽
3 培養槽
4 酸貯留タンク
5 アルカリ貯留タンク
※1 硝化槽2から培養槽3への返送汚泥の導入
※2 硝化槽2からの硝化液の脱窒槽1への導入
6 沈殿池
※a 沈殿池6から脱窒槽1’への硝化液の導入
※b 沈殿池6’から硝化槽2への返送汚泥の導入
100 窒素含有水の処理装置
101 窒素含有水の処理装置
A 処理系A
B 処理系B
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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