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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032557
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】男性型脱毛症の発症リスクの判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240305BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240305BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240305BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240305BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/50 U
G01N30/88 C
G01N30/72 C
G01N27/62 X
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136275
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】522343658
【氏名又は名称】株式会社ミルイオン
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小竹 和樹
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA10
2G041HA01
2G045AA25
2G045CB10
2G045DA54
2G045FB06
(57)【要約】
【課題】本発明は、男性型脱毛症の発症リスクをより簡便に判定することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る男性型脱毛症の発症リスクの判定方法は、被検者の皮脂試料を取得する工程、前記皮脂試料中のジヒドロテストステロン(DHT)の含有量を測定する工程、及び、前記含有量を健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値と比較する工程を含み、前記含有量が前記正常値よりも大きくなる場合に、男性型脱毛症(AGA)を発症する可能性があると判断することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
男性型脱毛症の発症リスクを判定する方法であって、
被検者の皮脂試料を取得する工程、
前記皮脂試料中のジヒドロテストステロン(DHT)の含有量を測定する工程、及び、
前記含有量を健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値と比較する工程を含み、
前記含有量が前記正常値よりも大きくなる場合に、男性型脱毛症(AGA)を発症する可能性があると判断することを特徴とする方法。
【請求項2】
DHT含有量を液体クロマトグラフィー質量分析法で測定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
油脂吸収フィルムを使って前記皮脂試料を取得する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
AGA治療前の被検者から皮脂試料を取得する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
AGA治療の開始後の被検者から皮脂試料を取得する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
AGA治療前とAGA治療開始後に取得した皮脂試料を試験し、DHT含有量を比較する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
被検者自ら皮脂試料を取得する請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性型脱毛症の発症リスクをより簡便に判定することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
男性型脱毛症(AGA)とは、男性ホルモンと遺伝が関連した脱毛症をいう。より詳しくは、アンドロゲンに属するステロイドホルモンであるテストステロンは、主要な男性ホルモンであり、男性生殖組織の発達、筋肉や骨量の増加などを促進する他、男性のみならず女性に対しても、気分や行動などの健康や幸福感、骨粗鬆症の予防にも関与する。更に、医薬品として男性の性腺機能低下症や女性の乳癌の治療に使用されている。
【0003】
しかしテストステロンは、還元酵素である5αリダクターゼにより、より活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)に還元される。このDHTは、特に前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体に結合し、脱毛因子であるTGF-βを増加させ、毛母細胞の増殖を抑制する。その結果、髪の成長期が短縮され、脱毛したり、細く弱い毛に置き換わるなどして、薄毛に繋がる。
【0004】
AGAの発症リスクの判定方法としては、例えば、男性ホルモン受容体の感受性を遺伝的に試験したり、専門家による触診や、頭皮や毛髪などの観察などが挙げられる。しかしこれら専門的な判定の他、DHTの量を測定することができれば、将来におけるAGAの発症の可能性や、既にAGAが進行している場合にはそれ以上進行するのか或いは進行が軽減されるのかが判定され得る。
【0005】
例えば非特許文献1には、5~10本の毛髪を根本からカットし、検査機関に送付してDHT量を測定してもらい、AGAリスクを判定してもらうことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】あすか製薬,“男性ホルモン研究所”,[online],[令和4年8月23日検索],インターネット <URL:https://www.aska-pharma.co.jp/media_men/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、毛髪中のDHT量を測定することによりAGAリスクを判定することは知られていた。
しかし、AGAの心配のある被検者にとり、5~10本の毛髪を根元から切断することには抵抗があると考えられ、また、毛髪に含まれるDHT量は極微量であるし、毛髪にはDHT以外の様々な化合物が含まれていることから、おそらく切断された毛髪は、微細に粉砕された後に抽出操作に付され、DHTの濃縮試料が作製されると考えられる。
そこで本発明は、男性型脱毛症の発症リスクをより簡便に判定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、毛髪試料ではなく皮脂試料からもDHT量の測定は可能であり、延いてはAGAの発症リスクをより簡便に判定可能であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 男性型脱毛症の発症リスクを判定する方法であって、
被検者の皮脂試料を取得する工程、
前記皮脂試料中のジヒドロテストステロン(DHT)の含有量を測定する工程、及び、
前記含有量を健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値と比較する工程を含み、
前記含有量が前記正常値よりも大きくなる場合に、男性型脱毛症(AGA)を発症する可能性があると判断することを特徴とする方法。
[2] DHT含有量を液体クロマトグラフィー質量分析法で測定する前記[1]に記載の方法。
[3] 油脂吸収フィルムを使って前記皮脂試料を取得する前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] AGA治療前の被検者から皮脂試料を取得する前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] AGA治療の開始後の被検者から皮脂試料を取得する前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6] AGA治療前とAGA治療開始後に取得した皮脂試料を試験し、DHT含有量を比較する前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7] 被検者自ら皮脂試料を取得する前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る男性型脱毛症の発症リスクの判定方法によれば、毛髪などの生体試料を採取することなく、男性型脱毛症の発症リスク判定に有用なデータを簡便に得ることが可能である。従って本発明は、近年、関心が高まっている男性型脱毛症の発症リスク判定に有用なデータの取得に関する技術として、産業上非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明方法を工程毎に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0012】
1.試料取得工程
本工程では、被検者から皮脂試料を取得する。被検者は、男性型脱毛症(AGA)の発症リスクを判定すべき者であれば特に制限されず、例えば、AGA治療前の被検者であってもよいし、AGA治療の開始後の被検者であってもよい。また、同一の被検者において、AGA治療前およびAGA治療開始後の2回以上、皮脂試料を取得してもよい。
【0013】
AGA治療前の被検者から取得した皮脂試料におけるDHTの量や濃度を本発明方法により測定すれば、AGAの発症前の被検者であれば将来におけるAGAの発症の可能性を知り得、AGAの発症後の被検者であれば、AGAのそれ以上の進行の有無や進行スピードを知り得たり、治療手段の決定のためのデータが得られる可能性もあり得る。
【0014】
AGA治療後の被検者から取得した皮脂試料におけるDHTの量や濃度を本発明方法により測定すれば、AGAのそれ以上の進行の有無や進行スピードを知り得たり、治療手段の維持または変更の決定のためのデータが得られる可能性もあり得る。
【0015】
更に、AGA治療前とAGA治療開始後の被検者から取得した皮脂試料におけるDHTの量や濃度を本発明方法により測定し、その結果を比較すれば、治療の有効性を評価することも可能になり得る。
【0016】
皮脂とは、皮脂腺から分泌される脂肪などを含むエマルション様の液体であり、汗によって拡散し、汗と混じって脂肪膜という弱酸性の膜をつくり、皮膚の表面を覆い、細菌や真菌などから皮膚を保護し、皮膚にうるおいと弾力性を与える。皮脂の構成成分は、コレステロールや脂肪酸、トリグリセリドやワックスエステル等、それらのエステル、スクアレン等の脂溶性物質である。AGAの原因となるジヒドロテストステロン(DHT)も脂溶性物質であるため、特にAGAの発症に影響する毛母細胞付近のDHTは、皮脂中に溶解して体外に放出され得る。本発明では、皮脂中に含まれるDHTの量や濃度を測定する。
【0017】
皮脂試料の取得方法は特に制限されないが、例えば、皮脂は皮脂腺から分泌されるため、おでこ、鼻、脇の下など、皮脂腺を多く含む部位から容易に取得することができる。皮脂試料は、例えば、チューブ状の容器の開口部端をおでこや鼻に接触させつつ移動させることにより取得することも可能であるし、あぶらとり紙など、皮脂を吸収可能な油脂吸収フィルムでおでこ、鼻、脇の下などを拭くことにより取得することも可能である。
【0018】
油脂吸収フィルムとしては、例えば、不織布など多孔質な基材シートに、皮脂の溶解や吸収が可能な洗浄剤成分を含侵させたものが挙げられる。洗浄剤成分としては、例えば、界面活性剤、多価アルコール、及びグリコールエーテルから選択される1種以上の洗浄剤成分が挙げられる。
【0019】
洗浄剤成分である界面活性剤は、皮脂を有効に溶解または吸収できるものであれば特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、塩化アルキルジアミノエチルグリシン液、β-ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の両性イオン性界面活性剤;塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の陽イオン界面活性剤;金属せっけん、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤が挙げられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油やポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤が好ましい。
【0020】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。
【0021】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0022】
洗浄剤成分は、アルコール系溶媒またはアルコール系溶媒と水との混合溶媒に溶解した上で基材シートに含侵させることが好ましい。アルコール系溶媒としては、エタノールや2-プロパノール等、低毒性のものが好ましい。
【0023】
皮脂試料は、医師などの専門家により被検者から取得してもよいし、或いは被検者自ら取得してもよい。本発明方法では、取得対象が皮脂であることから、皮脂試料を被検者自ら容易に取得することが可能である。例えば、被検者が自宅などで自ら取得した皮脂試料を、測定を行うクリニック等へ送付してもよいし、クリニック等において被検者が皮脂試料を自ら取得してもよい。
【0024】
取得した皮脂試料は、測定対象であるDHTの濃縮を目的として、後処理に付してもよい。例えば、取得した皮脂試料を溶媒に溶解したり、抽出に付してもよい。溶解や抽出に用いる溶媒は、DHTを良好に溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;及び、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0025】
更に、DHTは脂溶性物質ではあるが、n-ヘキサンなど極性が極めて低い溶媒に対する溶解度は比較的低いといえる。よって、n-ヘキサン等の非極性溶媒と互いに相溶しない溶媒を用いた場合には、前記DHT溶液を非極性溶媒で洗浄することにより、DHTよりも脂溶性が高い不純物を皮脂試料から低減または除去することも可能である。また、カラムクロマトグラフィー等でDHTを精製してもよい。
【0026】
皮脂試料には様々な化合物が含まれており、DHTの定量が難しい場合があり得る。よって、DHTを測定し易い化合物に誘導体化し、以下の工程においてDHT誘導体を測定してもよい。DHTを誘導体化する試薬としては、例えば、ジラール試薬T、ジラール試薬P、フェニルヒドラジン、ピレンヒドラジド、ピレンブチルヒドラジド、Cy3-ヒドラジド、Cy5-ヒドラジド、Fmocヒドラジド、N-アミノアセチル-トリプトフィル(アルギニンメチルエステル)、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸ヒドラジド、ビオチンヒドラジド、ビオチン-(AC5)2-ヒドラジド、ビオチン-LC-ヒドラジド、カスケード・ブルー・ヒドラジド、DMEQ-ヒドラジド、テキサス・レッド・ヒドラジド、ビオチン-AC5-ヒドラジド等、DHTのケトン基と反応することができる試薬が挙げられる。以下では、DHT誘導体の含有量を測定する場合も、DHTの含有量を測定すると簡素化して記載する。
【0027】
2.測定工程
本工程では、前記工程1で取得した皮脂試料中のDHTの含有量を測定する。ここでのDHTの含有量とは、皮脂試料におけるDHTの濃度であってもよいし、皮脂試料に含まれるDHTの絶対量であってもよい。
【0028】
DHT含有量の測定方法は、特に制限されないが、例えばELISA法(酵素免疫定量法;Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)やラマン分光法などを用いることができる。但しELISA法には、特異的抗体の必要性、複数回の洗浄工程による手間、比較的高いバックグラウンドといった欠点がある。また、ラマン分光法には、測定対象化合物に対する特異性が低いといった欠点がある。
【0029】
よって、DHT含有量の測定方法としては、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS法)が好ましい。LC/MS法は、液体クロマトグラフィーにより成分を固定相と移動相の相互作用の差を用いて分離し、分離された各ピークの分子量を質量検出器で検出する方法である。LC/MS法によれば、成分の分離と特定に加えて、ピーク面積により定量が可能である。
【0030】
皮脂試料中のDHT含有量の測定に加えて、DHTの含有量が分かっている標準試料を測定に付し、検量線を作成しておくことが好ましい。ヒト男性の皮脂中におけるDHT含有量は、通常、1pg/mg以上、100pg/mg以下程度であるため、標準試料におけるDHT含有量は0pg/mg以上、150pg/mg以下とすることが好ましい。また、準備およびDHT含有量を測定すべき標準試料の数としては、3以上、10以下が好ましい。
【0031】
取得した皮脂試料中のDHT含有量から、検量線を参照して、皮脂試料中におけるDHT含有量を決定する。
【0032】
また、次工程における比較のために、健常者の皮脂試料中のDHT含有量を正常値として同様の条件で測定する。当該DHT含有量を測定すべき健常者の数は、適宜調整すればよいが、より正確な判定のために、例えば25人以上とすることができる。当該数の上限は特に制限されず、当該数が多いほどより正確な判定が可能になると考えられるが、効率の観点から、当該数としては100人以下が好ましい。ここで健常者とは、少なくとも測定時においてAGAを発症していないヒト男性をいうものとする。
【0033】
3.測定工程
本工程では、前記工程2で測定された被検者の皮脂試料中DHT含有量を、健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値と比較する。
【0034】
被検者の皮脂試料中DHT含有量が健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値以下である場合には、AGAの発症リスクが低い傾向があると判断することができる。それに対して、被検者の皮脂試料中DHT含有量が健常者の皮脂試料中のDHT含有量正常値を超える場合には、AGAの発症リスクが高い傾向があると判断することができる。
【0035】
なお、本発明方法による測定結果のみからAGAの発症リスクを判断してもよいが、本発明方法による測定結果は、他のより正確ではあるが手間や時間のかかる方法による判定結果を補助する目的のために用いてもよい。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
実施例1
(1)測定試料の取得
皮脂吸収フィルム(「GATSBY あぶらとり紙 フィルムタイプ」マンダム社製)を4.5cm×5.5cmに切断し、重量を精密に測定した。25歳の男性被検者の額に皮脂吸収フィルムを押し当ててもらった後、フィルムの重量を再び精密に測定した。皮脂試料の取得は、4回行った。その結果、フィルムに付着した皮脂重量は10~20mgであった。
アセトニトリル:メタノール=4:1(容量比)の混合溶媒(1.2mL)にフィルムを浸漬し、40℃、1200rpmで振盪しつつ、1時間抽出した。更に内部標準として重水素化ジヒドロテストステロン(d3DHT)を10pg/mL添加した。次いで、遠心分離し、得られた上清(0.9mL)を新しいチューブに移し、n-ヘキサン(0.5mL)を加えて分液した。下層(0.8mL)を新たなチューブに移し、1時間遠心濃縮した。得られた残渣を20%アセトニトリル(0.3mL)に溶解し、固相抽出レジン(「Oasis HLB」Waters社製)にロードし、20%アセトニトリル(1mL)で洗浄した後、100%アセトニトリル(1mL)で抽出することにより簡易精製した。得られた溶液を、1時間遠心濃縮した。
【0038】
(2)誘導体化
得られた濃縮物を、メタノール:酢酸=9:1(容量比)の混合溶媒(80μL)に溶解し、ジラール試薬Pの1mg/mLメタノール溶液(40μL)を添加し、誘導体化反応を1時間行った。
次いで、反応溶液を遠心濃縮した後、50%メタノール(100μL)に再溶解した。
なお、上記誘導体化反応により、ジヒドロテストステロン(DHT)とd3DHTは、それぞれ下記構造のDHT_GPと3dDHT_GPとなる。
【0039】
【化1】
【0040】
(3)LC/MS分析
上記で得られた溶液を、下記条件のLC/MSで分析した。
カラム: L-column 2 ODS 3μm,2.1×150mm(化学物質評価研究機構,Cat.No.:711020)
装置: NexeraX3+LCMS-8060NXシステム(島津製作所社製)
流速: 0.3mL/min
溶出液としては、A液として5mM酢酸アンモニウム水溶液を、B液としてアセトニトリル:メタノール=4:1(容量比)の混合溶媒を用い、表1に示すグラディエントをかけた。
【0041】
【表1】
【0042】
多重反応モニタリング(MRM)モードを用いて、下記検出条件でDHT_GPとd3DHT_GPを検出した。また、皮脂中に含まれる夾雑物の中でテストステロン(Tss)を確認のために検出した。
【0043】
【表2】
【0044】
別途、0~100pgのDHTを含む試料を用いて同様に測定を行い、検量線を作成した。作成された検量線は、0.994という高い決定係数で良好な線形性を示した。
検量線によれば、採取された皮脂中に含まれるDHT量は17~24pg/mgであり、その平均値は19.17pg/mgであった。
【0045】
(4)AGA治療
被検者に、AGA治療薬(「デュタステリドカプセル0.5mgZA「SN」」江州製薬社製)を1日1回、2週間にわたり服用してもらった。服用開始から1週間後と2週間後、同様にDHTを測定し、内部標準であるd3DHTに対する比を算出した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示される結果の通り、AGA治療薬の服用前と比較して、服用後では皮脂中の相対DHT量は低下することが分かった。よって、本発明によりDHT量変化を測定することにより、AGA治療薬の効果を判定することが可能であると考えられる。