(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032565
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136286
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】関口 大貴
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB17
3J049BB26
3J049BB33
3J049BB35
3J049BC03
3J049CA02
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、組み立て作業やメンテンナンス作業に伴う手間を抑制し、プランジャの運動を十分に減衰でき、プランジャやテンショナボディの加工コストや大型化を抑制可能なチェーンテンショナを提供すること。
【解決手段】プランジャ収容穴111を有するテンショナボディ110と、プランジャ120と、プランジャ120を付勢する付勢部材Sとを備えたチェーンテンショナ100であって、プランジャ120は係止部材130が係合可能なプランジャ凸部122を有し、プランジャ収容穴111の開放側には係止部材保持部113が設けられ、係止部材保持部113のプランジャ進入方向側の端部には、プランジャ進入方向に進むに従って浅く形成された傾斜面114が設けられ、係止部材130は、プランジャ凸部122と係合して係止部材保持部113内で断面が弾性変形可能なこと。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が開放したプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャを突出方向に付勢する付勢部材とを備えたチェーンテンショナであって、
前記プランジャは、外周面に係止部材が係合可能な複数のプランジャ凸部を有し、
前記プランジャ収容穴の開放側には、前記プランジャの中心軸方向に開放され、前記係止部材を保持する係止部材保持部が設けられ、
前記係止部材保持部の、少なくとも前記プランジャが前記プランジャ収容穴に進入する方向であるプランジャ進入方向側の端部には、プランジャ進入方向に進むに従って浅く形成された傾斜面が設けられ、
前記係止部材は、前記プランジャ凸部と係合して前記係止部材保持部内で断面が弾性変形可能なことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記プランジャ凸部は、前記プランジャの外周面に環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記係止部材保持部の容積は、前記係止部材の容積以上であることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記係止部材保持部は、環状に形成され、
前記係止部材は、リング状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記係止部材保持部は、前記プランジャ収容穴の中心軸方向に開放した複数の穴状に形成され、
前記係止部材は、球体状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記係止部材保持部は、前記プランジャ収容穴の中心軸方向に開放した溝状に形成され、
前記係止部材は、端部を有した棒状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記係止部材は、前記係止部材保持部に少なくとも一部を固定されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方が開放したプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャを突出方向に付勢する付勢部材とを備え、チェーンの張力を適正に保持するチェーンテンショナに関するものである。
【0002】
従来、チェーンの張力を適正に保持するチェーンテンショナとして、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸のそれぞれに設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、張力を適正に保持するためにチェーンテンショナによって走行案内シューを有する揺動チェーンガイドを付勢するものが、特許文献1等で公知である。
【0003】
特許文献1に記載のチェーンテンショナは、一方が開放したプランジャ収容穴(シリンダ部11)を有するテンショナボディ(ハウジング1)と、プランジャ収容穴(シリンダ部11)に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ3と、プランジャ3を突出方向に付勢する付勢部材(リターンスプリング5)とを備えている。
プランジャ3には、外周面に複数の円環状のプランジャ凸部(壁面331、332)を有しており、プランジャ凸部(壁面331、332)に係合可能な係止部材(レジスタリング7)が係合可能にプランジャ3の周囲に取り付けられている。
プランジャ収容穴(シリンダ部11)とプランジャ3の内部はオイルが供給されており、オイルの油圧によって、エンジン運転中のチェーンからの振動をプランジャ3が受けてプランジャ収容穴(シリンダ部11)内を進退移動した際に、プランジャ3の運動を減衰させることができるものである。
【0004】
また、係止部材(レジスタリング7)は、プランジャ収容穴(シリンダ部11)の開放側に設けられた係止部材保持部(ガイド溝18)内を移動可能であり、プランジャの進退移動に所定量追従して進退移動できるが、プランジャ3が係止部材保持部(ガイド溝18)の形成範囲よりも大きくプランジャ収容穴(シリンダ部11)の開放部側へ移動した場合は、係止部材(レジスタリング7)は拡径してプランジャ凸部(壁面331、332)の斜面(テーパ面)を乗り越えた位置でプランジャ凸部(壁面331、332)のロック壁331に係合する。
【0005】
その後、プランジャ収容穴(シリンダ部11)の進入方向側へプランジャ3が移動を始めると、係止部材(レジスタリング7)も係止部材保持部(ガイド溝18)内をプランジャ3とともに移動するが、係止部材(レジスタリング7)が係止部材保持部(ガイド溝18)の傾斜面(第1ストッパ21)に当接すると、傾斜面(第1ストッパ21)とロック壁331とに挟まれた係止部材(レジスタリング7)はプランジャ3のプランジャ収容穴(シリング部11)の進入方向への移動を阻止する。
これによって、チェーンが摩耗等によって伸びた場合でも、チェーンを十分に押圧できる位置を維持した範囲内でプランジャ3が振動するため、チェーンへの適正な張力を維持できるものである。
なお、組立時においては、工具や専用の操作具等を使用して係止部材(レジスタリング7)を係止部材保持部(ガイド溝18)内で拡径させながらプランジャ3をプランジャ収容穴(シリンダ部11)に挿入する作業を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献で公知のチェーンテンショナには、未だ改善の余地があった。
【0008】
すなわち、特許文献1で公知のチェーンテンショナは、プランジャをプランジャ収容穴に取り付ける際、工具や専用の操作具等を使用して係止部材を拡径させ続ける必要があり、エンジン等に取り付けられた作業性の悪い状態で実施することも多く、組み立て作業やメンテナンス作業に手間がかかる虞があった。
また、係止部材がレジスタリングのようなリング状の金属バネであるため、係止部材は傾斜面とロック壁とに挟まれる位置でプランジャのプランジャ収容穴に進入する方向への移動を阻止できるものの、クッション性の乏しい金属等で構成された係止部材でプランジャの進入する勢いをそのまま受け止めているものである。
したがって、エンジン始動時や高速回転時などの運転条件や、オイルポンプの性能が不十分な場合等、テンショナ内にオイルが満たされていない状態においては、ストローク量は規制できるもののプランジャの運動の勢い自体を減衰できず、テンショナの動作が不安定になる虞や、チェーンがプランジャの不安定な動作に追従できずにバタつくことで大きな騒音が発生する虞があった。
【0009】
また、係止部材がレジスタリングのようなリング状の径方向に伸縮可能な金属バネであると、プランジャの外周面を囲むように配置するため、プランジャの外周面全周にわたって係止部材と係合するプランジャ凸部を設ける必要があり、プランジャの加工コストが増加する虞があった。
また、レジスタリングのような係止部材を拡径させるための工具や専用の操作具等による操作部を必要とし、プランジャ収容穴の周囲に操作具を進入させるための空間を設けるためにテンショナボディを大型化してしまう虞や、テンショナボディの加工コストが増加してしまう虞があった。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、組み立て作業やメンテンナンス作業に伴う手間を抑制し、テンショナ内にオイルが満たされていない状態でもプランジャの運動を十分に減衰でき、プランジャやテンショナボディの加工コストや大型化を抑制可能なチェーンテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のチェーンテンショナは、一方が開放したプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャを突出方向に付勢する付勢部材とを備えたチェーンテンショナであって、前記プランジャは、外周面に係止部材が係合可能な複数のプランジャ凸部を有し、前記プランジャ収容穴の開放側には、前記プランジャの中心軸方向に開放され、前記係止部材を保持する係止部材保持部が設けられ、前記係止部材保持部の、少なくとも前記プランジャが前記プランジャ収容穴に進入する方向であるプランジャ進入方向側の端部には、プランジャ進入方向に進むに従って浅く形成された傾斜面が設けられ、前記係止部材は、前記プランジャ凸部と係合して前記係止部材保持部内で断面が弾性変形可能であることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係るチェーンテンショナによれば、プランジャは、外周面に係止部材が係合可能な複数のプランジャ凸部を有し、プランジャ収容穴の開放側には、係止部材保持部が設けられ、係止部材保持部の、プランジャ進入方向側の端部には、プランジャ進入方向に進むに従って浅く形成された傾斜面が設けられ、係止部材は、プランジャ凸部と係合して係止部材保持部内で断面が弾性変形可能なため、プランジャがプランジャ収容穴内で運動した場合でも、係止部材がプランジャ凸部とプランジャ収容穴の傾斜面とに挟まれて圧縮されることで、プランジャのプランジャ進入方向側への運動を減衰できる。
これによって、プランジャ収容穴およびプランジャ内にオイルが満たされていない状態でも、十分にプランジャのプランジャ収容穴へ進入する方向への移動の勢いを係止部材で減衰でき、チェーンのバタつきや騒音の発生を抑制できる。
また、チェーンが摩耗等して伸びた際に、プランジャがプランジャ収容穴の開放側へ移動する場合は、係止部材が係止部材保持部内で拡径してプランジャ凸部を乗り越え、プランジャのプランジャ収容穴の開放側への移動を許容するとともに、プランジャが再びプランジャ進入方向に進もうとしても、乗り越えたプランジャ凸部に係止部材が係合してプランジャ凸部とプランジャ収容穴の傾斜面とに挟まれて圧縮され、プランジャのプランジャ収容穴への進入方向側の移動を制限できる。
また、例えば、係止部材をゴムのような弾性体で構成すれば、工具や操作具等の必要なく簡単に係止部材を伸縮でき、プランジャの周囲に簡単に係合させることができる。
また、工具や操作具によって作業するための空間をテンショナボディに設ける必要がないため、チェーンテンショナの加工コストや大型化を抑制できる。
【0013】
請求項2に記載の構成によれば、プランジャ凸部は、プランジャの外周面に環状に形成されているため、プランジャの外周面の向きに関係なく確実にプランジャ凸部に係止部材保持部内の係止部材を係合させることができ、プランジャを方向規制するような構成が必要なく、製造コストを削減できる。
請求項3に記載の構成によれば、係止部材保持部の容積は、係止部材の容積以上であるため、プランジャがプランジャ収容穴の開放側へ移動する際、係止部材が拡径や断面を弾性変形することで係止部材保持部内に全て収まることができる。
これによって、プランジャに係止部材から大きな抵抗を与えることなく確実にプランジャをプランジャ収容穴の開放側へ移動させることができる。
【0014】
請求項4に記載の構成によれば、係止部材保持部は環状に形成され、係止部材はリング状に形成されているため、係止部材はプランジャ全周にわたってプランジャ凸部に係合することができ、プランジャのプランジャ進入方向への運動を全周均一な力で減衰させることができる。
また、レジスタリング等従来の金属リング用の係止部材保持部が設けられたテンショナボディを流用することもできるため、製造コストを削減することもできる。
請求項5に記載の構成によれば、係止部材保持部は、プランジャ収容穴の中心軸方向に開放した複数の穴状に形成され、係止部材は球体状に形成されているため、係止部材保持部および係止部材の数を調整することで、プランジャに与える係止部材からの抵抗を簡単に調整することができる。
【0015】
請求項6に記載の構成によれば、係止部材保持部はプランジャ収容穴の中心軸方向に開放した溝状に形成され、係止部材は端部を有した棒状に形成されているため、係止部材保持部および係止部材の数を調整することで、プランジャに与える係止部材からの抵抗を簡単に調整することができるとともに、係止部材保持部の溝の向きや位置を調整することで、プランジャの外周面とプランジャ収容穴との間からのオイルリーク量を調整することもできる。
請求項7に記載の構成によれば、係止部材は、係止部材保持部に少なくとも一部を固定されているため、プランジャ凸部と傾斜面とに挟まれた係止部材が圧縮され大きく断面を弾性変形した場合でも、係止部材の少なくとも一部は確実に係止部材保持部内に留まり、圧縮を解除された係止部材が係止部材保持部内に位置した状態で確実に形状を復元できる。
また、チェーンテンショナ組立時の係止部材の位置ズレや落下、プランジャとプランジャ収容穴との間への巻き込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の部分断面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100のA部模式拡大図。
【
図3】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、プランジャ120がプランジャ進入方向へ移動した際の状態を示すA部模式拡大図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、プランジャ120がプランジャ収容穴111の開放側へ移動した際の状態を示すA部模式拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100について、図面に基づいて説明する。
なお、
図2乃至
図4は、説明のためテンショナボディ110、プランジャ120、係止部材130以外の構成を図示しない。
【0018】
チェーンテンショナ100は、
図1および
図2に示すように、一方が開放したプランジャ収容穴111を有するテンショナボディ110と、プランジャ収容穴111に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ120と、プランジャ120を突出方向に付勢する付勢部材Sとを備えている。
テンショナボディ110には、プランジャ収容穴111の奥に油供給路112が設けられており、油供給路112とプランジャ収容穴111とは、チェックバルブVを介して遮断されるとともに、油供給路112側の圧力により、チェックバルブVを開放可能且つオイルを供給可能に構成されている。
【0019】
プランジャ収容穴111の開放側の内周面には、プランジャ収容穴111の中心軸方向に開放された溝状の係止部材保持部113が環状に設けられている。
係止部材保持部113は、プランジャ収容穴111の開放側の係止壁115と傾斜壁114とで構成され、傾斜壁114は、プランジャ収容穴111の奥側へ進むにしたがって徐々に浅くなるように形成されている。
また、係止部材保持部113の容積は、少なくとも後述する係止部材130の容積よりも大きく形成されている。
【0020】
プランジャ120は、プランジャ穴121と、プランジャ120の外周面に設けられた複数のプランジャ凸部122およびプランジャ凹部123とを有している。
プランジャ穴121は、付勢部材Sが進入可能に構成され、付勢部材Sは、プランジャ120を常にプランジャ収容穴111の開放側へ付勢する。
【0021】
係止部材130は、例えばゴム等の外力によって断面形状が弾性変形可能な環状の弾性部材で構成されており、係止部材130の内径は、少なくともプランジャ凸部122の外径よりも小さく形成されている。
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、プランジャ120および係止部材130の装着方法について、
図1および
図2を用いて説明する。
まず、テンショナボディ110のプランジャ収容穴111と油供給路112との連通を遮断するように、チェックバルブVを取り付ける。
次に、付勢部材S、プランジャ120および係止部材130をプランジャ収容穴111内に取り付ける。
なお、係止部材130は、最もプランジャ収容穴111の開放側に設けられたプランジャ凹部123と係止部材保持部113との間に挟まれるように位置させる。
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、プランジャ120の振動減衰方法について、
図1乃至
図4を用いて説明する。
まず、プランジャ120は、付勢部材Sによって常に突出方向、すなわち、プランジャ収容穴111の開放側へ付勢され、これによって案内シュー(図示しない)を介してエンジン(図示しない)に掛け回されたチェーン(図示しない)へ張力を与えている。
なお、プランジャ収容穴111およびプランジャ穴121で形成された空間は圧油室となり、エンジン(図示しない)が動作している間は、油供給路112からチェックバルブVを介して供給されたオイルで満たされるため、プランジャ120が案内シュー(図示しない)から受ける振動を減衰する油圧ダンパとして機能しており、これによってプランジャ120の振動の勢いを減衰でき、チェーンのバタつきや騒音の発生を効率的に抑制することができる。
【0024】
また、圧油室内のオイルは、プランジャ収容穴111やプランジャ120に設けられたオイルリーク通路(図示しない)から僅かに漏れるように構成されている。
そのため、エンジンの初始動時や、しばらく動作させていないエンジンを作動させた直後は、圧油室内がオイルで十分に満たされていない状態となることがあり、油圧ダンパとしての機能を発揮できずにプランジャ120の振動の勢いを減衰できず、プランジャ120の不安定な動作に伴って、チェーンのバタつきや騒音を十分に抑制できなくなることがある。
【0025】
ここで、エンジン始動時におけるプランジャ120の振動に対する係止部材130の挙動について説明する。
まず、プランジャ120がプランジャ収容穴111内に進入する方向(以下、プランジャ進入方向とする)へ移動する際、
図3に示すように、係止部材130はプランジャ凸部122と共にプランジャ進入方向へ移動する。
【0026】
ところが、係止部材保持部113の傾斜面114がプランジャ収容穴111の奥側へ進むにしたがって徐々に浅くなるように形成されているため、係止部材130は傾斜面114とプランジャ凹部123aとの間で断面を弾性変形しながらある程度追従するものの、やがて係止部材130の反力をプランジャ凹部123aを介してプランジャ120に伝達し、プランジャ120のプランジャ進入方向への移動を徐々に抑制し、止めることができる。
これによって、エンジン始動時等において圧油室内にオイルが十分に満たされていない状態であっても、係止部材130の断面が弾性変形することにより発生する反力でプランジャ120のプランジャ進入方向への移動を十分に減衰することができ、チェーンのバタつきや騒音を十分に抑制することができる。
【0027】
次に、プランジャ120のプランジャ収容穴111から突出する方向(以下、プランジャ突出方向とする)へ移動する際は、
図4に示すように、係止部材130は係止壁115に接触するまではプランジャ120と共にプランジャ突出方向へ移動する。
係止部材130が係止壁115に接触すると、係止部材130は移動を遮られるが、プランジャ120はプランジャ突出方向への移動を続けるため、係止部材130はプランジャ凹部123aからプランジャ凸部122に沿って徐々に拡径するとともに、係止部材保持部113の形状に合わせて断面を弾性変形させる。
【0028】
これによって、係止部材130によるプランジャ凹部123aおよびプランジャ凸部122との係合が解除され、プランジャ120は係止部材130からの抵抗を受けることなくプランジャ突出方向へ移動を続け、案内シューを介してチェーンを押圧する。
このとき、チェーンが摩耗等して伸びた場合、プランジャ120の突出量が増えて、係止部材130がプランジャ凸部122を乗り越えてプランジャ凹部123bに収まる。
【0029】
なお、係止部材保持部113の容積は、係止部材130の容積よりも大きく形成されているため、プランジャ凸部122を乗り越える際係止部材130の大半が係止部材保持部113内に移動でき、プランジャ120のプランジャ突出方向への移動に対して係止部材130から大きな抵抗を受けることがない。
さらに、再度プランジャ120がプランジャ進入方向へ移動する際は、プランジャ凹部123bおよび傾斜面114とに挟まれた係止部材130によって、プランジャ120の移動の勢いを減衰しながら移動量を制限することができる。
これによって、チェーンが摩耗等によって伸びた場合でも、チェーンを十分に押圧できる位置を維持した範囲内でプランジャ120が振動するため、チェーンへの適正な張力を維持することができる。
【0030】
なお、係止部材130は環状に形成されていなくてもよく、例えば、端部を有した棒状や球体状に係止部材を形成して、係止部材の形状に合わせてプランジャ収容穴111の内周面に複数の凹溝状や穴状等の係止部材保持部を形成してもよく、係止部材の数や形状に合わせてプランジャの外周面にプランジャ凸部やプランジャ凹部を突起状や凹溝状等に形成してもよい。
これによって、例えば、係止部材130を球体状に形成した場合は、係止部材保持部および係止部材の数や配置を調整することで、プランジャに与える係止部材からの抵抗を簡単に調整することができ、係止部材130を端部を有した溝状に形成した場合は、係止部材保持部および係止部材の数や配置を調整することで、プランジャに与える係止部材からの抵抗を簡単に調整することができるとともに、係止部材保持部の溝の向きや位置を調整することで、プランジャの外周面とプランジャ収容穴との間からのオイルリーク量を調整することもできる。
【0031】
また、係止部材130の一部を係止部材保持部113に接着や溶着等で固定することで、プランジャ凸部122と傾斜面114とに挟まれた係止部材130が圧縮され大きく断面を弾性変形した場合でも、係止部材130の少なくとも一部は確実に係止部材保持部113内に留まり、圧縮を解除された係止部材130が係止部材保持部113内に位置した状態で確実に形状を復元できる。
さらに、チェーンテンショナ100組立時の係止部材130の位置ズレや落下、プランジャ120とプランジャ収容穴111との間への巻き込みを抑制できる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0033】
なお、上述した実施形態では、係止部材保持部は傾斜面と係止壁とで構成されるものとして説明したが、係止部材保持部の構成はこれに限定されず、例えば、傾斜面と係止壁とをつなぐ接続壁が設けられていてもよく、傾斜面が段階的に傾斜角度を変化させるように形成されていてもよい。
また、上述した実施形態では、係止部材は環状、端部を有した棒状、球体状に形成されているものとして説明したが、係止部材の形状はこれに限定されず、例えば、筒状、角柱状、角錐体状に形成されていてもよい。
【0034】
また、上述した実施形態では、プランジャ収容穴やプランジャにはオイルリーク通路が設けられているものとして説明したが、オイルリーク通路の構成はこれに限定されず、例えば、プランジャ収容穴とプランジャとの間のわずかな隙間をオイルリーク通路としてもよく、係止部材の表面に溝を設けてオイルリーク通路としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
100 ・・・ チェーンテンショナ
110 ・・・ テンショナボディ
111 ・・・ プランジャ収容穴
112 ・・・ 油供給路
113 ・・・ 係止部材保持部
114 ・・・ 傾斜面
115 ・・・ 係止壁
120 ・・・ プランジャ
121 ・・・ プランジャ穴
122 ・・・ プランジャ凸部
123、123a、123b ・・・ プランジャ凹部
130 ・・・ 係止部材
S ・・・ 付勢部材
V ・・・ チェックバルブ