(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032612
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】金属加工油用組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 105/38 20060101AFI20240305BHJP
C11C 3/00 20060101ALI20240305BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240305BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C10M105/38
C11C3/00
C10N30:00 Z
C10N40:20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136347
(22)【出願日】2022-08-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】522450831
【氏名又は名称】築野グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 弥
【テーマコード(参考)】
4H059
4H104
【Fターム(参考)】
4H059BA26
4H059BA30
4H059BB02
4H059BB03
4H059BB06
4H059CA48
4H059DA06
4H104EA22R
4H104LA20
4H104PA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低動粘度及び高引火点の金属加工油用組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、脂肪酸と下記式(1)で表されるアルコール及び/又は下記式(2)で表されるアルコールとのエステルを含有し、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合が、20質量%以上75質量%未満であり、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であるエステル(b)の割合が、0質量%超6質量%以下である金属加工油用組成物である。下記式(1)中、m1は、0~8の整数である。n1は、0~8の整数である。p1は、1~9の整数である。但し、m1+n1+p1は9である。下記式(2)中、m2は、0~9の整数である。n2は、0~9の整数である。p2は、1~10の整数である。但し、m2+n2+p2は10である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸と下記式(1)で表されるアルコール及び/又は下記式(2)で表されるアルコールとのエステルを含有し、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合が、20質量%以上75質量%未満であり、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であるエステル(b)の割合が、0質量%超6質量%以下である金属加工油用組成物。
【化1】
(式(1)中、m1は、0~8の整数である。n1は、0~8の整数である。p1は、1~9の整数である。但し、m1+n1+p1は9である。)
【化2】
(式(2)中、m2は、0~9の整数である。n2は、0~9の整数である。p2は、1~10の整数である。但し、m2+n2+p2は10である。)
【請求項2】
前記エステル全体に対する、前記エステル(a)の割合が30質量%以上70質量未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エステル全体に対する、前記飽和脂肪酸がステアリン酸であるエステル(b1)の割合が4質量%以下である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記構成脂肪酸全体のヨウ素価が125以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記エステル全体に対する、前記飽和脂肪酸がパルミチン酸であるエステル(b2)の割合が2質量%以下である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
(A)オレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む混合脂肪酸と、
(B)下記式(1)で表されるアルコール
とのエステル(i)及び/又は前記混合脂肪酸と下記式(2)で表されるアルコールとのエステル(ii)を含む、金属加工油用組成物。
【化3】
(式(1)中、m1は、0~8の整数である。n1は、0~8の整数である。p1は、1~9の整数である。但し、m1+n1+p1は9である。)
【化4】
(式(2)中、m2は、0~9の整数である。n2は、0~9の整数である。p2は、1~10の整数である。但し、m2+n2+p2は10である。)
【請求項7】
前記混合脂肪酸のオレイン酸が30質量%以上70質量未満である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記混合脂肪酸のステアリン酸が4質量%以下である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記混合脂肪酸のヨウ素価が125以上である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項10】
前記混合脂肪酸が、パルミチン酸を2質量%以下含む、請求項6又は7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、実施例1~3にて、オレイン酸含有率75質量%以上の脂肪酸混合物とC12/C13混合アルコールのエステル化反応を行って得られたエステル含有組成物A~Cが、低動粘度、高引火点及び低流動点の全てを高いレベルで実現させることができる旨が開示されている。また、特許文献1の表2に記載されている実施例組成物A~Cの引火点、動粘度及び流動点の関係から、オレイン酸を含む脂肪酸混合物と分岐数が1の1価の1級アルコールとのエステル含有組成物の動粘度が低いほど、引火点が低く、流動点が低いことを読み取ることができる。
【0003】
非特許文献1には、エステルを構成する脂肪酸が飽和脂肪酸であるか不飽和脂肪酸であるかはエステルの粘度に影響を与えないことが開示されている(非特許文献1の表3)。したがって、エステルを構成する脂肪酸における飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の割合を変化させても、エステルの粘度に影響を及ぼさないと考えられていた。
【0004】
一方で、最近では、金属加工油用組成物における低動粘度の要求、さらに好ましくは低動粘度かつ高引火点の要求はさらに高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生分解性エステル系油圧作動油の動向 407~412頁 トライボロジスト 第59巻 第7号 2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低動粘度の金属加工油用組成物を提供することである。好ましくは、本発明の目的は、低動粘度及び高引火点の金属加工油用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記背景技術に記載の、オレイン酸を含む脂肪酸混合物と分岐数が1の1価の1級アルコールとのエステル含有組成物の、動粘度、引火点及び流動点の関係を考慮し、特許文献1の最も低い動粘度11.9mm2/s(組成物C)(測定温度40℃)よりも低い動粘度(測定温度40℃)の、オレイン酸を含む脂肪酸混合物と分岐数が1の1価の1級アルコールとのエステル含有組成物を作製しようとすれば、そのエステル含有組成物は、特許文献1の組成物Cの引火点(254℃)よりも低い引火点になると予想された。したがって、動粘度が11.9mm2/s以下で、引火点が254℃超の、オレイン酸を含む脂肪酸混合物と分岐数が1の1価の1級アルコールとのエステル含有組成物の作製は困難と考えられた。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、オレイン酸及び飽和脂肪酸を特定割合含む脂肪酸と、特定の分子構造を有するアルコールとのエステルを用いることにより、低動粘度の、さらに好ましくは高引火点の、金属加工油用組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、脂肪酸と下記式(1)で表されるアルコール及び/又は下記式(2)で表されるアルコールとのエステルを含有し、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合が、20質量%以上75質量%未満であり、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であるエステル(b)の割合が、0質量%超6質量%以下である金属加工油用組成物である。
【化1】
(式(1)中、m1は、0~8の整数である。n1は、0~8の整数である。p1は、1~9の整数である。但し、m1+n1+p1は9である。)
【化2】
(式(2)中、m2は、0~9の整数である。n2は、0~9の整数である。p2は、1~10の整数である。但し、m2+n2+p2は10である。)
【0011】
上記金属加工油用組成物は、例えば、オレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む混合脂肪酸と、上記式(1)で表されるアルコール及び/又は上記式(2)で表されるアルコールとをエステル化反応させること等により製造することができる。
【0012】
さらに詳しくは、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]脂肪酸と上記式(1)で表されるアルコール及び/又は上記式(2)で表されるアルコールとのエステルを含有し、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合が、20質量%以上75質量%未満であり、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であるエステル(b)の割合が、0質量%超6質量%以下である金属加工油用組成物。
[2]前記エステル全体に対する、前記エステル(a)の割合が30質量%以上70質量未満である、上記[1]に記載の組成物。
[3]前記エステル全体に対する、前記飽和脂肪酸がステアリン酸であるエステル(b1)の割合が4質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記構成脂肪酸全体のヨウ素価が125以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5]前記エステル全体に対する、前記飽和脂肪酸がパルミチン酸であるエステル(b2)の割合が2質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の組成物。
[6](A)オレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む混合脂肪酸と(B)上記式(1)で表されるアルコールとのエステル(i)及び/又は前記混合脂肪酸と上記式(2)で表されるアルコールとのエステル(ii)を含む、金属加工油用組成物。
[7]前記混合脂肪酸のオレイン酸が30質量%以上70質量未満である、上記[6]に記載の組成物。
[8]前記混合脂肪酸のステアリン酸が4質量%以下である、上記[6]又は[7]に記載の組成物。
[9]前記混合脂肪酸のヨウ素価が125以上である、上記[6]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10]前記混合脂肪酸が、パルミチン酸を2質量%以下含む、上記[6]~[9]のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属加工油用組成物は、動粘度が低い(例えば40℃で動粘度が11.9mm2/s以下)。好ましくは、本発明の金属加工油用組成物は、動粘度が低く、引火点が高い(例えば40℃で動粘度が11.9mm2/s以下で、引火点が254℃超)。さらに好ましくは、前記に加え、流動点が低い(例えば-30℃以下)。従って、本発明の組成物は、金属加工油等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<金属加工油用組成物>
当該組成物は、脂肪酸と上記式(1)で表されるアルコール及び/又は上記式(2)で表されるアルコールとのエステルを含有し、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合が、20質量%以上75質量%未満であり、前記エステル全体に対する、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であるエステル(b)の割合が、0質量%超6質量%以下であってもよい。当該組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記エステル以外の任意成分を含有していてもよい。
また、当該組成物は、オレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む混合脂肪酸と、アルコール(1)とのエステル(i)、及び/又は、前記混合脂肪酸とアルコール(2)とのエステル(ii)を含有していてもよい。当該組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、エステル(i)及び/又はエステル(ii)以外の任意成分を含有していてもよい。
当該組成物は、切削油、潤滑油等の金属加工油用組成物として用いることができる。
【0015】
以下、各成分について説明する。
【0016】
[エステル(a)]
エステル(a)は、構成脂肪酸がオレイン酸であり、構成アルコールが、上記式(1)で表されるアルコール(以下、「アルコール(1)」ともいう)及び/又は上記式(2)で表されるアルコール(以下、(以下、「アルコール(2)」ともいう)である。「オレイン酸」とは、(Z)-9-オクタデセン酸を意味する。当該組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(a)の割合は、20質量%以上75質量%未満であり、例えば20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、34質量%以上、75質量%未満、70質量%以下、70質量%未満、60質量%以下、55質量%以下のうちいずれかの用量を選択し、適宜組み合わせることにより、好ましい範囲の用量として適用することができる。そのような範囲としては、具体的には、25質量%以上70質量%以下、30質量%以上70質量%未満、30質量%以上60質量%以下、34質量%以上55質量%以下等が挙げられる。
【0017】
(アルコール(1))
アルコール(1)は、下記式(1)で表される化合物である。アルコール(1)は、炭素数12の分岐数が1の1価の1級アルコールである。アルコールの「分岐数」とは、例えばアルキル鎖における分岐数をいい、アルコールの1H-NMR分析により求めたメチル基の数から、主鎖の末端メチル基に相当する1を減ずることで算出することができる。
【0018】
【0019】
上記式(1)中、m1は、0~8の整数である。n1は、0~8の整数である。p1は、1~9の整数である。但し、m1+n1+p1は9である。
【0020】
m1としては、1~8が好ましく、2~8がより好ましく、4~8がさらに好ましい。
【0021】
n1としては、0~6が好ましく、0~5がより好ましく、0~3がさらに好ましい。
【0022】
p1としては、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
【0023】
アルコール(1)としては、例えば、
2-メチルウンデカン-1-オール、2-エチルデカン-1-オール、2-ブチルオクタン-1-オール、2-ペンチルヘプタン-1-オール等の上記式(1)のp1が1である化合物;
3-メチルウンデカン-1-オール、3-エチルデカン-1-オール、3-ブチルオクタン-1-オール、3-ペンチルヘプタン-1-オール等の上記式(1)のp1が2である化合物;
4-メチルウンデカン-1-オール、4-エチルデカン-1-オール、4-ブチルオクタン-1-オール、4-ペンチルヘプタン-1-オール等の上記式(1)のp1が3である化合物などが挙げられる。
【0024】
アルコール(1)は、例えば、炭素数11のα-オレフィンのオキソ反応及び水素化等により製造することができる。アルコール(1)として、その1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0025】
(アルコール(2))
アルコール(2)は、下記式(2)で表される化合物である。アルコール(2)は、炭素数13の分岐数が1の1価の1級アルコールである。
【0026】
【0027】
上記式(2)中、m2は、0~9の整数である。n2は、0~9の整数である。p2は、1~10の整数である。但し、m2+n2+p2は10である。
【0028】
m2としては、1~9が好ましく、2~9がより好ましく、4~9がさらに好ましい。
【0029】
n2としては、0~6が好ましく、0~5がより好ましく、0~3がさらに好ましい。
【0030】
p2としては、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
【0031】
アルコール(2)としては、例えば、
2-メチルドデカン-1-オール、2-エチルウンデカン-1-オール、2-ブチルノナン-1-オール、2-ペンチルオクタン-1-オール等の上記式(2)のp2が1である化合物;
3-メチルドデカン-1-オール、3-エチルウンデカン-1-オール、3-ブチルノナン-1-オール、3-ペンチルオクタン-1-オール等の上記式(2)のp2が2である化合物;
4-メチルドデカン-1-オール、4-エチルウンデカン-1-オール、4-ブチルノナン-1-オール、4-ペンチルオクタン-1-オール等の上記式(2)のp2が3である化合物などが挙げられる。
【0032】
アルコール(2)は、例えば、炭素数12のα-オレフィンのオキソ反応及び水素化等により製造することができる。アルコール(2)として、その1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0033】
エステル(a)は、例えば、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)とオレイン酸とを用い、酸化スズ等を触媒としてエステル化反応を行うことにより得ることができる。
【0034】
当該組成物は、エステル(a)として、その1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0035】
[エステル(b)]
エステル(b)は、構成脂肪酸が飽和脂肪酸であり、構成アルコールが、アルコール(1及び/又はアルコール(2)である。当該組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b)の割合は、0質量%超6質量%以下であり、0質量%超5.2質量%以下であることが、低流動点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。
【0036】
(飽和脂肪酸)
「飽和脂肪酸」は、好ましくは炭素数14~22、より好ましくは炭素数16~18の飽和脂肪酸である。当該組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b)の割合の下限としては、0質量%超であればよく、0.1質量%以上であってもよく、1.0質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上であってもよい。エステル(b)を上記範囲にすることで、低動粘度かつ高引火点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。飽和脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸であっても分岐飽和脂肪酸であってもよいが、直鎖飽和脂肪酸であることが好ましい。そのような直鎖飽和脂肪酸として具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、中でもパルミチン酸、ステアリン酸等が好ましい。分岐飽和脂肪酸の例として、イソステアリン酸、2,2-ジメチルオクタン酸、3-メチルブタン酸等が挙げられる。
【0037】
(ステアリン酸)
「ステアリン酸」とは、オクタデカン酸を意味する。当該組成物が、前記飽和脂肪酸がステアリン酸であるエステル(以下、エステル(b1)ともいう)を含有する場合、上記組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b1)の含有率は、好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.7質量%以下である。上記組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b1)の含有率の下限としては、0.1質量%以上であってもよく、1.0質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上であってもよい。エステル(b1)を上記範囲にすることで、低動粘度かつ高引火点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。
【0038】
(パルミチン酸)
「パルミチン酸」とは、ヘキサデカン酸を意味する。当該組成物が、前記飽和脂肪酸がパルミチン酸であるエステル(以下、エステル(b2)ともいう)を含有する場合、上記組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b2)の含有率の上限としては、好ましくは3.0質量%未満であり、より好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以下であり、特に好ましくは1.5質量%以下である。上記組成物に含まれるエステル全体に対する、エステル(b2)の含有率の下限としては、0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよい。エステル(b2)を上記範囲にすることで、低動粘度かつ高引火点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。
【0039】
エステル(b)は、例えば、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)と飽和脂肪酸とを用い、酸化スズ等を触媒としてエステル化反応を行うことにより得ることができる。
【0040】
当該組成物は、エステル(b)として、その1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0041】
エステル(a)及び/又はエステル(b)の合計含有率の下限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、20質量%超が好ましく、25質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、36質量%以上が特に好ましい。エステル(a)及び/又はエステル(b)の合計の、当該組成物中のエステル全体に対する含有率の上限としては、例えば80質量%以下であり、60質量%以下が好ましい。
【0042】
[エステル(i)]
エステル(i)は、式(1)で表されるアルコールと、オレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む混合脂肪酸とのエステルである。
【0043】
(オレイン酸)
混合脂肪酸中のオレイン酸の含有率は、20質量%以上75質量%未満であり、例えば20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、34質量%以上、75質量%未満、70質量%以下、70質量%未満、60質量%以下、55質量%以下のうちいずれかの用量を選択し、適宜組み合わせることにより、好ましい範囲の用量として適用することができる。そのような範囲としては、具体的には、25質量%以上70質量%以下、30質量%以上70質量%未満、30質量%以上60質量%以下、34質量%以上55質量%以下等が挙げられる。オレイン酸を前記含有率で含む混合脂肪酸の市販品としては、例えば、「TFA-125」(商品名)、「TFA-145WF」(商品名)(以上、築野食品工業株式会社製)、「ハートール HARTALL」(商品名)の品番 FA-1(ハリマ化成グループ株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
(飽和脂肪酸)
混合脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有率は、0質量%超6質量%以下であり、好ましくは5.2質量%以下である。混合脂肪酸中の飽和脂肪酸を5.2質量%以下にすることで、低流動点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。上記混合脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有率の下限としては、0質量%超であればよく、0.1質量%以上であってもよく、1.0質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上であってもよい。飽和脂肪酸を上記範囲にすることで、低動粘度かつ高引火点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。
【0045】
(混合脂肪酸)
「混合脂肪酸」とは、2種以上の脂肪酸を含む混合物であって、少なくともオレイン酸を20質量%以上75質量%未満及び飽和脂肪酸を0質量%超6質量%以下含む。混合脂肪酸を、例えば、脂肪酸混合物と言い換えることもできる。混合脂肪酸に含まれるオレイン酸及び飽和脂肪酸以外の脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。上記混合脂肪酸中にリノール酸を含む場合、リノール酸の含有率は、特に限定されないが、上限としては、60.0質量%以下、57.0質量%以下、56.5質量%以下等であってもよい。上記混合脂肪酸中にリノール酸を含む場合の下限としては、20.0質量%以上、30.0質量%以上、33.0質量%以上、33.1質量%以上等であってもよい。上記混合脂肪酸中にリノレン酸を含む場合、リノレン酸の含有率は、特に限定されないが、上限としては、12.5質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、7.5質量%以下等であってもよい。上記混合脂肪酸中にリノレン酸を含む場合の下限としては、0.1質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5.0質量%以上、6.0質量%以上、7.0質量%以上等であってもよい。また、混合脂肪酸全体でヨウ素価が125以上であることが好ましい。好ましい混合脂肪酸の市販品としては、例えば、「TFA-125」(商品名)、「TFA-145WF」(商品名)(以上、築野食品工業株式会社製)、「ハートール HARTALL」(商品名)の品番 FA-1(ハリマ化成グループ株式会社製)等が挙げられる。
【0046】
エステル(i)は、例えば、アルコール(1)と混合脂肪酸とを用い、酸化スズ等を触媒としてエステル化反応を行うことにより得ることができる。
【0047】
エステル(i)の含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。エステル(i)の含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、100質量%未満が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましい。エステル(i)の含有率を上記範囲とすることで、低動粘度、好ましくは高引火点をより高いレベルで実現させることができる。
【0048】
当該組成物は、エステル(i)として、その1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0049】
[エステル(ii)]
エステル(ii)は、アルコール(2)と上記混合脂肪酸とのエステルである。
【0050】
エステル(ii)は、例えば、アルコール(2)と上記混合脂肪酸とを用い、酸化スズ等を触媒としてエステル化反応を行うことにより得ることができる。
【0051】
エステル(ii)の含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。エステル(ii)の含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。エステル(ii)の含有率を上記範囲とすることで、低動粘度、好ましくは高引火点をより高いレベルで実現させることができる。
【0052】
当該組成物は、エステル(ii)として、1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0053】
アルコール(1)及び/又はアルコール(2)を含むアルコールとしては、α-オレフィン由来のアルコール、すなわち、α-オレフィンからオキソ反応及び水素化等により製造されたアルコールが好ましい。ブテン由来のアルコール又はプロピレン由来のアルコール、すなわち、ブテン又はプロピレンの多量化により得られたオレフィンからオキソ反応及び水素化等により製造されたアルコールは、通常、分岐数が1.5~2.9のアルコールである。このような分岐数が1より大きい多分岐のアルコールと上記構成脂肪酸又は上記混合脂肪酸とのエステルでは、組成物の動粘度は増大し、かつ引火点は低下する。
【0054】
アルコール(1)とアルコール(2)とを含むアルコールの市販品としては、例えば、「ISALCHEM」、「ISOFOL」、「SAFOL」(以上、SASOL社)等が挙げられる。
【0055】
(ヨウ素価)
ヨウ素価とは、油脂100gに吸収されるハロゲンの量をヨウ素のg数で表したものをいう。不飽和脂肪酸の割合が高いほどヨウ素価は大きくなる。ヨウ素価は、例えば、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に従って測定することができる。構成脂肪酸全体のヨウ素価又は混合脂肪酸中のヨウ素価は、特に限定されないが、例えば、125以上であり、好ましくは、128以上であってもよい。ヨウ素価を上記範囲にすることで、低動粘度かつ高引火点をより高いレベルで実現させることができる点で好ましい。
【0056】
金属加工油用組成物が、エステル(i)及びエステル(ii)を含む場合、エステル(i)とエステル(ii)との割合としては、エステル(i)/エステル(ii)(質量比)の下限として、30/70以上が好ましく、40/60以上がより好ましく、50/50以上がさらに好ましく、60/40以上が特に好ましく、70/30以上がさらに特に好ましく、80/20以上が最も好ましい。エステル(i)/エステル(ii)(質量比)の上限として、99.9/0.1以下が好ましく、99/1以下がより好ましく、95/5以下がさらに好ましく、90/10以下が特に好ましい。エステル(i)とエステル(ii)との割合を上記範囲とすることで、低動粘度、好ましくは高引火点をより高いレベルで実現させることができる。
【0057】
エステル(i)及び/又はエステル(ii)の合計含有率の下限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。エステル(i)及び/又はエステル(ii)の合計の、当該組成物中のエステル全体に対する含有率の上限としては、例えば100質量%以下であり、99質量%以下が好ましい。「エステル」とは、アルコールと脂肪酸とのエステルを意味する。
【0058】
エステル(a)及び/若しくはエステル(b)の合計含有率、又は、エステル(i)及び/若しくはエステル(ii)の合計含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上がさらに特に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。エステル(a)及び/若しくはエステル(b)の合計、又は、エステル(i)及び/若しくはエステル(ii)の合計の、当該組成物全体に対する含有率の上限としては、例えば100質量%以下であり、99質量%以下が好ましい。
【0059】
エステルの構成脂肪酸及び構成アルコールのそれぞれの比率は、当該エステルを加水分解して脂肪酸混合物及びアルコール混合物に分離した後、それぞれをガスクロマトグラフィー分析することで確認できる。また、原料の各脂肪酸(混合脂肪酸中の各脂肪酸を含む)が全てエステル化反応に用いられたとみなされる場合で、かつ、組成物に含まれるエステルが当該反応により得られたエステルのみである場合には、当該組成物中のエステルの構成脂肪酸の比率は、原料の各脂肪酸の比率と同じであってもよい。また、エステルの構成脂肪酸の比率は、エステル(a)、(b)、及び後述する(c)の混合比率により確認できる。前記比率を利用して、エステル全体に対する各エステル(例えば、エステル(a)、(b)、後述する(c)、(i)、(ii)、後述する(iii)等)の割合、組成物全体に対する各エステル(例えば、エステル(a)、(b)、後述する(c)、(i)、(ii)、後述する(iii)等)の割合等を導き出すことができる。
【0060】
[任意成分]
任意成分としては、例えば、エステル(i)及び/若しくはエステル(ii)以外のエステル(以下、エステル(iii)という)、又は、エステル(a)及び/若しくはエステル(b)以外のエステル(以下、「エステル(c)」ともいう)、添加剤等が挙げられる。当該組成物は、任意成分を1種又は2種以上含有することができる。
【0061】
(エステル(iii))
エステル(iii)としては、例えば、分岐数が1超の分岐ドデシルアルコール又は直鎖ドデシルアルコールと混合脂肪酸とのエステル、分岐数が1超の分岐トリデシルアルコール又は直鎖トリデシルアルコールと混合脂肪酸とのエステル等のアルコール(1)及びアルコール(2)以外のアルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。
【0062】
当該組成物がエステル(iii)を含有する場合、エステル(iii)の含有率の上限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましい。エステル(iii)の含有率の下限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、例えば0.1質量%以上である。
【0063】
当該組成物がエステル(iii)を含有する場合、エステル(iii)の含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。エステル(iii)の含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、例えば0.1質量%以上である。
【0064】
(エステル(c))
エステル(c)としては、例えば、アルコール(1)とオレイン酸及び飽和脂肪酸以外の脂肪酸とのエステル、アルコール(2)とオレイン酸及び飽和脂肪酸以外の脂肪酸とのエステル、アルコール(1)及びアルコール(2)以外のアルコールとオレイン酸及び飽和脂肪酸以外の脂肪酸とのエステル等が挙げられる。
【0065】
当該組成物がエステル(c)を含有する場合、エステル(c)の含有率の上限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、80質量%未満が好ましく、70質量%以下、65質量%以下等であってもよい。エステル(c)の含有率の下限としては、当該組成物中のエステル全体に対して、例えば19質量%超が好ましく、20質量%超、30質量%以上、40質量%以上等であってもよい。
【0066】
当該組成物がエステル(c)を含有する場合、エステル(c)の含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、80質量%以下が好ましく、70質量%以下、55質量%以下等であってもよい。エステル(c)の含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、例えば0.1質量%以上である。
【0067】
当該組成物がエステル(iii)又はエステル(c)を含有する場合、エステル(i)、エステル(ii)及びエステル(iii)、又はエステル(a)、エステル(b)及びエステル(c)の合計含有率の下限としては、当該組成物全体に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。エステル(i)、エステル(ii)及びエステル(iii)、又はエステル(a)、エステル(b)及びエステル(c)の合計含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、例えば100質量%以下であり、99.9質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましい。
【0068】
(添加剤)
添加剤としては、公知の添加剤を用いることができ、例えば、フェノール系の酸化防止剤;ベンゾトリアゾ-ル、チアジアゾール、ジチオカーバメート等の金属不活性化剤;エポキシ化合物、カルボジイミド等の酸捕捉剤;リン系の極圧剤;ポリアルキルメタクリレート(例えば、アクルーブ132、アクルーブ146等)の流動点降下剤などが挙げられる。
【0069】
当該組成物が添加剤を含有する場合、添加剤の含有率の上限としては、当該組成物全体に対して、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0070】
当該組成物は、添加剤を実質的に含まず、実質的にエステルからなっていてもよい。組成物が「添加剤を実質的に含まない」とは、例えば、添加剤の合計含有率が5質量%未満であることをいう。組成物が「実質的にエステルからなる」とは、例えば、エステル(a)、エステル(b)及びエステル(c)の合計含有率が95質量%以上であること、又は、エステル(i)、エステル(ii)及びエステル(iii)の合計含有率が95質量%以上であることをいう。
【0071】
当該組成物の40℃における動粘度の上限としては、14.0mm2/s未満が好ましく、13.5mm2/s未満、13.4mm2/s未満、13.0mm2/s未満がより好ましく、12.8mm2/s未満、12.7mm2/s未満、12.5mm2/s以下、12.4mm2/s未満、12.0mm2/s以下、11.9mm2/s以下、11.9mm2/s未満がさらに好ましい。当該組成物の40℃における動粘度の下限としては、例えば8.0mm2/s以上、10.0mm2/s以上であり、11.0mm2/s以上が好ましい。当該組成物の動粘度を上記範囲とすることで、金属加工等における精度、冷却性などをより改善することができる。
【0072】
動粘度は、例えば、JIS K-2283に従って測定することができる。
【0073】
当該組成物の引火点の下限としては、240℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、254℃超がさらに好ましく、255℃以上、258℃以上、264℃超が特に好ましい。当該組成物の引火点の上限としては、例えば280℃以下であり、272℃以下が好ましい。当該組成物の引火点を上記範囲とすることで、安全性をより向上させることができ、使用時において揮発する油による汚れや臭気などの作業環境の悪化をより改善することができる。
【0074】
引火点は、例えば、JIS K-2265に従い、クリーブランド式オープンカップ法にて測定することができる。
【0075】
当該組成物の流動点の上限としては、-20℃以下が好ましく、-25℃以下がより好ましく、-30℃以下がさらに好ましく、-35℃以下が特に好ましい。当該組成物の流動点の下限としては、例えば-60℃以上であり、-50℃以上、-40℃以上が好ましい。当該組成物の流動点を上記範囲とすることで、低温環境下においてもより固化し難く、加熱用の設備が不要となる。
【0076】
流動点は、例えば、JIS K-2269に従って測定することができる。
【0077】
当該組成物は動粘度が低く、引火点が高いことが好ましい。動粘度と引火点の好ましい数値の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、動粘度が40℃で11.9mm2/s以下で、引火点が約254℃超、動粘度が40℃で12.8mm2/s以下で、引火点が約264℃超、又は、動粘度が40℃で12.4mm2/s未満で、引火点が約258℃以上であることが好ましい。さらに好ましくは、前記に加え、流動点が低い(例えば-30℃以下)ことが好ましい。オレイン酸を含む脂肪酸混合物と分岐数が1の1価の1級アルコールとのエステル含有組成物の動粘度が低いと、引火点が低く、流動点が低い関係にあるという技術常識を考慮すれば、上記動粘度と引火点との組み合わせ、さらに好ましくは上記動粘度と引火点と流動点との組み合わせは、特許文献1からは予想外の格別顕著な効果であるといえる。
【0078】
当該組成物の水酸基価の上限としては、2mgKOH/gが好ましく、1mgKOH/gがより好ましい。当該組成物の水酸基価の下限としては、例えば0mgKOH/gであり、0.1mgKOH/gが好ましい。
【0079】
「水酸基価」は、例えば通常の水酸基価の測定方法により求めることができるが、その他に、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)等により、遊離アルコールの含有量を測定することにより求めることもできる。
【0080】
[組成物の製造方法]
当該組成物は、例えば、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)と、混合脂肪酸とを反応させてエステルを得るエステル化工程を備える製造方法により製造することができる。
また、当該組成物は、例えば、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)と、オレイン酸とを反応させてエステルを得るエステル化工程、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)と、飽和脂肪酸とを反応させてエステルを得るエステル化工程、並びにこれらの工程で得られたエステルを混合する混合工程を備える製造方法により製造することができる。
【0081】
当該組成物の製造方法は、エステル化工程後に、得られたエステルから低沸点成分を除去してエステル化粗物を得る工程(以下、「低沸点成分除去工程」ともいう)をさらに備えることが好ましく、低沸点成分除去工程後に、得られたエステル化粗物を処理剤で処理する工程(以下、「処理工程」ともいう)をさらに備えていてもよい。
エステル化工程の後、原料の脂肪酸が全てエステル化反応に用いられたとみなされる状態であってもよい。そのような場合は、得られたエステルにおける各構成脂肪酸の比率と各原料脂肪酸の比率とが一致してもよい。
以下、各工程について説明する。
【0082】
(エステル化工程)
本工程では、アルコール(1)及び/又はアルコール(2)を含むアルコール成分と、混合脂肪酸、オレイン酸、飽和脂肪酸等の脂肪酸とを混合し、必要に応じて触媒を加え、加熱し、生成した水を除去しながらエステル化反応を行う。
【0083】
アルコール成分と脂肪酸成分との当量比として、アルコール成分1モルに対し、脂肪酸成分としては、0.8~1.5モルが好ましく、生産効率と経済性の観点から、0.9~1.2モルがより好ましい。アルコール成分中のアルコール(1)及びアルコール(2)のモル数は、アルコール成分のガスクロマトグラフィー分析により、アルコール(1)及びアルコール(2)の各面積割合(GC%)を測定し、2-ブチル-1-オクタノールのファクターを用いることにより算出することができる。
【0084】
触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、亜鉛等の元素を含む金属触媒などが挙げられる。触媒の使用量としては、アルコール成分及び脂肪酸成分の合計に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.05~1質量%がより好ましい。
【0085】
エステル化反応の温度の下限としては、160℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、215℃以上がさらに好ましく、230℃以上が特に好ましい。エステル化反応の温度の上限としては、例えば240℃以下であり、235℃以下が好ましい。
【0086】
エステル化反応は、常圧下で行っても、減圧下で行ってもよいが、生成水の除去容易の観点から、減圧下が好ましい。減圧時の圧力の下限としては、例えば1Torr以上であり、10Torr以上が好ましく、50Torr以上がより好ましい。減圧時の圧力の上限としては、例えば200Torr以下であり、150Torr以下が好ましい。
【0087】
エステル化反応の時間の下限としては、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましく、2時間以上が特に好ましい。エステル化反応の時間の上限としては、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、8時間以下がさらに好ましく、5時間以下が特に好ましい。
【0088】
エステル化反応は、例えば、反応液の酸価を測定しながら行うことが好ましく、脂肪酸が全てエステル化反応に用いられたとみなされる反応液の酸価としては、5mgKOH/g以下が好ましく、1~3mgKOH/g以下がより好ましい。酸価は、例えば、JOCS(日本油化学会) 2.3.1に従って測定することができる。
【0089】
(低沸点成分除去工程)
本工程では、得られたエステルから低沸点成分を除去してエステル化粗物を得る。ここでの「低沸点成分」とは、遊離のアルコール(1)、遊離のアルコール(2)、遊離の脂肪酸を含む。
【0090】
本工程は、具体的には、170℃~230℃の温度、0Torr超100Torr以下の圧力の減圧下で、低沸点成分を留去する。
【0091】
(処理工程)
本工程では、得られたエステル化粗物を処理剤で処理する。
【0092】
処理剤としては、例えば、活性炭、活性白土等が挙げられる。処理剤の使用量としては、例えばエステル化粗物に対して、通常0.01~5質量%であり、0.1~1質量%が好ましい。
【0093】
処理の方法としては、例えば、エステル化粗物に処理剤を投入し、50℃~100℃で、10分~2時間程度攪拌し、次いで10分~2時間程度減圧下で攪拌した後、処理剤を濾去する方法等が挙げられる。
【0094】
本開示において、「程度」及び「約」とは、例えば少々逸脱した場合も含ませる意図で使用する用語である。このような範囲は、所与の値又は範囲の測定及び/又は定量に使用される標準の方法に特有である実験誤差内の場合も含まれる。
【0095】
エステル化粗物中の余剰の遊離の脂肪酸を除去するために、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリによる脂肪酸の中和精製工程を行ってもよいが、行わなくてもよい。
【0096】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上述の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例0097】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0098】
実施例及び比較例の組成物の製造におけるエステル化反応の反応液の酸価は、JOCS(日本油化学会) 2.3.1に従って測定した。
【0099】
<組成物の製造>
実施例1~3で用いた「C12/C13混合アルコール」は、α-オレフィン由来の炭素数12のアルコール(アルコール(1))及び炭素数13のアルコール(アルコール(2))の混合物である。
実施例1~3並びに比較例1及び2で用いた「混合脂肪酸」の商品名、ヨウ素価、構成脂肪酸の含有率を表1に示す。
【0100】
【0101】
実施例1~3及び比較例1~2で組成物の製造に用いたアルコール全体(炭素数12及び炭素数13の混合物、C12/C13混合アルコール)について、アルコール(1)及びアルコール(2)の含有割合(GC%)をガスクロマトグラフィー分析により測定した。GC測定条件を以下に示す。また、測定結果を下記表2に示す。
【0102】
(GC測定条件)
装置:島津製作所社の「GC-2014」
カラム:アジレント・テクノロジー社の「DB-1HT」
カラム温度:70℃(2分)→昇温速度10℃/min→350℃(5分)
サンプル量:1μL
キャリアガス:ヘリウム(全流量57.8mL/min)
インジェクション条件:スプリット(スプリット比50)
インジェクション温度:350℃
検出器:FID
【0103】
【0104】
[実施例1]
攪拌器、温度計及び冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸(商品名「TFA-125」、築野食品工業株式会社製)380g、C12/C13混合アルコール313.9g、及び触媒としての酸化スズを総量に対し0.1質量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、過剰のアルコールと低沸点成分とを留去してエステル化粗物を得た。得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.2質量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去し、組成物Aを得た。
【0105】
[実施例2]
攪拌器、温度計及び冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、実施例1と同じ混合脂肪酸(商品名「TFA-125」、築野食品工業株式会社製)380g、2-ブチル-1-オクタノール300g(1.61モル)、C12/C13混合アルコール6.0g、及び触媒としての酸化スズを総量に対し0.1質量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、過剰のアルコールと低沸点成分とを留去してエステル化粗物を得た。得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.2質量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去し、組成物Bを得た。
【0106】
[実施例3]
攪拌器、温度計及び冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸(商品名「TFA-145WF」、築野食品工業株式会社製)380g、C12/C13混合アルコール313.9g、及び触媒としての酸化スズを総量に対し0.1質量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、過剰のアルコールと低沸点成分とを留去してエステル化粗物を得た。得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.2質量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去し、組成物Cを得た。
【0107】
[比較例1]
攪拌器、温度計及び冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、混合脂肪酸(商品名「Evyap Oleo O-1875」、Evyap社製)380g、C12/C13混合アルコール313.9g、及び触媒としての酸化スズを総量に対し0.1質量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、過剰のアルコールと低沸点成分とを留去してエステル化粗物を得た。得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.2質量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去し、組成物Dを得た。
【0108】
[比較例2]
混合脂肪酸として、商品名「NAS-125」(築野食品工業株式会社製)を用いる以外は、比較例1と同様にして、組成物Eを得た。
【0109】
A~Eの各組成物中の、エステル全体に対する、構成脂肪酸がオレイン酸であるエステル(a)の割合、構成脂肪酸がステアリン酸であるエステル(b1)の割合、構成脂肪酸がパルミチン酸であるエステル(b2)の割合、構成脂肪酸がリノール酸であるエステル(c1)の割合、構成脂肪酸がリノレン酸であるエステル(c2)の割合(単位は全て質量%)は、下記表3の通りであった。
【0110】
【0111】
<評価>
実施例及び比較例で得られた組成物の各種分析は、以下の方法に従って行った。
【0112】
動粘度:JIS K-2283に従って測定した。
引火点:JIS K-2265に従い、クリーブランド式オープンカップ法にて測定した。
流動点:JIS K-2269に従って測定した。
【0113】
実施例1~3並びに比較例1及び2で得られた組成物の動粘度(mm2/s)、引火点(℃)及び流動点(℃)について、下記表4に示す。
【0114】
【0115】
表4の結果より明らかなように、実施例の組成物は、低動粘度を高レベルで実現させることができた。更には、実施例の組成物は、高引火点を高いレベルで実現させることができた。