(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032613
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ブロックアイスの処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/10 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G21F9/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136349
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 智久
(72)【発明者】
【氏名】五十田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武義
(57)【要約】
【課題】硼砂(Na
2B
4O
7・10H
2O)を含有する氷と、氷を覆うPVAと、を含むブロックアイスをPVAと硼砂水溶液に分離する処理方法を提供する。
【解決手段】硼砂(Na
2B
4O
7・10H
2O)を含有する氷と、前記氷を覆うポリビニルアルコール(PVA)と、を含むブロックアイスを加熱して溶解させた溶解液に対して硫酸マグネシウム(MgSO
4・7H
2O)を添加し、溶解液中の析出物を、溶解液から分離する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷と、前記氷を覆うポリビニルアルコール(PVA)と、を含むブロックアイスを加熱して溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得た溶解液に対して硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加する添加工程と、
前記硫酸マグネシウムを添加して得た溶解液中の析出物を、前記溶解液から分離する分離工程と、
を含むことを特徴とするブロックアイスの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のブロックアイスの処理方法であって、
前記PVAは、PVA重合度=1700、鹸化度=88モル%、0.8重量%硼砂添加品であることを特徴とするブロックアイスの処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブロックアイスの処理方法であって、
前記添加工程では、前記溶解工程で得た溶解液1mlに対して硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を0.4g添加することを特徴とするブロックアイスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一部の原子炉施設において異常時に発生する高温水蒸気を凝縮するために設置されるアイスコンデンサに含まれるブロックアイスの処理方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一部の原子炉においては異常時に原子炉格納容器に充満する高温水蒸気を凝縮するため、複数のブロックアイスが収納されたアイスコンデンサが設置されている。ブロックアイスは、特許文献1に開示されているように、例えば、本体が中性子の吸収を促進するため硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷にて構成され、その外周にブロックアイス本体の昇華を阻止あるいは抑制するための水溶性高分子ポリビニルアルコール(PVA)が貼着されている。なお、PVAの仕様としては、PVA重合度=1700、鹸化度=88モル%、0.8重量%硼砂添加品で、厚みが15μm程度が好適である、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイスコンデンサが設置されている原子炉を廃止する場合には、アイスコンデンサに収納されたブロックアイスを、PVAと、硼砂を含有する溶解液とに分離して適切に廃棄する必要がある。
【0005】
そこで、この発明の目的は、硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷と、氷を覆うPVAと、を含むブロックアイスを、PVAと、硼砂を含有する溶解液に分離する処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0007】
請求項1に記載の発明は、硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷と、前記氷を覆うポリビニルアルコール(PVA)と、を含むブロックアイスを加熱して溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得た溶解液に対して硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加する添加工程と、前記硫酸マグネシウムを添加して得た溶解液中の析出物を、前記溶解液から分離する分離工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブロックアイスの処理方法であって、前記PVAは、PVA重合度=1700、鹸化度=88モル%、0.8重量%硼砂添加品であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のブロックアイスの処理方法であって、前記添加工程では、前記溶解工程で得た溶解液1mlに対して硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を0.4g添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、溶解工程で得た溶解液に硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加することでPVAを析出し、これを分離することにより、ブロックアイスを、PVAと、硼砂を含有する溶解液に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)―(C)は、ブロックアイスの処理方法の流れの一部を示す図である。
【
図2】(A)、(B)は、ブロックアイスの処理方法の流れの一部を示す図である。
【
図3】ブロックアイスの処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
まず、処理対象のブロックアイスについて説明する。ブロックアイスは円柱状をしており、その本体が中性子の吸収を促進するため硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷にて構成される。氷の外周には氷の昇華を阻止あるいは抑制するために、水溶性高分子ポリビニルアルコール(以下PVAと略称する)が貼着されている。PVAからなるフィルムは氷の外面にドライヤ等による加熱処理によって前面溶着あるいは部分溶着により貼着される。
【0014】
PVAからなるフィルムは、PVA重合度=1700、鹸化度=88モル%、0.8重量%硼砂添加品で、厚みが15μm程度が好適とされる。なお、本実施形態では、PVA重合度=1700、鹸化度=88モル%、0.8重量%硼砂添加品で、厚みが15μmのPVAを、硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷に貼着してできたブロックアイスを処理対象とするが、この仕様のPVAに限らず、ブロックアイス本体(氷)の昇華を阻止あるいは抑制することが可能な水溶性高分子ポリビニルアルコール(PVA)について本発明を適用することとしてもよい。
【0015】
次に、
図1-
図3を用いて、ブロックアイスの処理方法の一例について説明する。
【0016】
図1(A)に示すように、まず、ブロックアイスBを粉砕機1に投入し、粉砕機1でブロックアイスBを粉砕する(ステップS1)。
【0017】
次いで、粉砕したブロックアイスBをオイルバス2に入れ、オイルバス2により加熱して溶解させる(ステップS2。「溶解工程」の一例)。このとき、オイルバス2による加熱温度は、80℃程度とする。これによりPVAは完全に溶解する。なお、オイルバス2としては、例えば、株式会社矢沢科学のオイルバスを用いることができる。また、
図2(B)に示すように、攪拌機4によりオイルバス2内の溶解液を攪拌する。なお、ブロックアイスBを粉砕しなくても、オイルバス2で溶解させることができる場合には、ステップS1を省略してもよい。
【0018】
次いで、
図1(C)に示すように、溶解液をオイルバス2から処理槽3に移す。
【0019】
次いで、
図2(A)に示すように、攪拌機4により処理槽3内の溶解液を攪拌する。また、pH計で溶解液のpHを確認しながら、硫酸マグネシウム(MgSO
4・7H
2O)を添加する(ステップS3。「添加工程」の一例)。ここで、pHを測定するのは、水溶液中の反応を確認するためである。PVA水溶液は弱酸性であり(部分ケン化PVAによる)、一方、硼砂水溶液は弱アルカリ性である。そして、ブロックアイスBを溶解した溶解液はpHが「9」であった。この溶解液に硫酸マグネシウムを添加するとpHが「7」と下がり、これが硫酸マグネシウムと硼砂の化合物が形成されていることを意味する。このようにpHを測定することにより溶解液中の反応度合いを確認することができる。なお、溶解液1mlに対して硫酸マグネシウム(MgSO
4・7H
2O)を0.4g添加する。但し、この硫酸マグネシウム(MgSO
4・7H
2O)の添加量は、溶解液中のPVAが充分に析出物と析出される量とすることができる。
【0020】
溶解液に硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加することで、溶解液中のPVAが析出物となる。ここで、溶解液(PVA水溶液)中のPVAは親水コロイドであり、PVAの親水基であるOH基が水素結合で水分子を強く引き付けている。親水コロイド水溶液に多量の電解質水溶液(硫酸マグネシウム等)を加えると、加えたイオン(Mg2+イオン)の方に強く水和が起こり、コロイド粒子の表面の親水基から水分子が引き離される。これにより、水分子が引き離されたPVAは分子間力により凝集し(塩析)、PVA水溶液からPVAが分離する。なお、室温においても塩析は起こるが、水溶液の温度が高いほど塩析の反応は速い。塩析の効果は水和力の強いイオンを含む塩ほど強く、同じ価数ならばイオン半径の小さいイオンの方が水和力が強い。すなわち、Mg2+>Ca2+>Sr2+>Ba2+である。なお、2価イオンを含む化合物において、Mgイオンを除くCa、Srを含む硫酸塩、水酸化物は水にほとんど溶けない。硫酸マグネシウムの水への溶解度は25.5g/100mL(20℃)であるが硫酸カルシウムの水へ溶解度は0.24g/100mL(20℃)。また、硫酸マグネシウムは七水和物(MgSO4・7H2O)であり、MgSO4・7H2Oの49%がMgSO4である。このように、半量を水分子が占めるため、PVA水溶液へMgSO4・7H2Oを添加する場合、水溶液にする必要が無く、MgSO4・7H2O結晶粉末を直接添加することが可能である。
【0021】
次いで、
図2(B)に示すように、処理槽3内の溶解液を、ろ過袋7を設けた廃棄缶6に流し込むことで、溶解液中の析出物を、溶解液から分離する(ステップS4。「分離工程」の一例)。これにより、溶解液内の析出物(PVA)がろ過袋7に取り出され、PVAが分離された、硼砂(Na
2B
4O
7・10H
2O)を含む溶解液が廃棄缶6に貯留する。
【0022】
以上、説明したように、本実施形態のブロックアイスの処理方法は、硼砂(Na2B4O7・10H2O)を含有する氷と、氷を覆うポリビニルアルコール(PVA)と、を含むブロックアイスBを加熱して溶解させる溶解工程と、溶解工程で得た溶解液に対して硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加する添加工程と、硫酸マグネシウムを添加して得た溶解液中の析出物を、溶解液から分離する分離工程と、含む。
【0023】
したがって、本実施形態のブロックアイスBの処理方法によれば、溶解工程で得た溶解液に硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)を添加することでPVAを析出し、これを分離することにより、ブロックアイスBを、PVAと、硼砂を含有する溶解液に分離することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 :粉砕機
2 :オイルバス
3 :処理槽
4 :攪拌機
6 :廃棄缶
7 :ろ過袋
B :ブロックアイス