(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032623
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】腸内細菌の膜小胞を有効成分とする抗肥満剤およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20240305BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240305BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
A61K35/741
A61P3/04
C12N1/20 A ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136373
(22)【出願日】2022-08-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 達也
(72)【発明者】
【氏名】山崎 竜太
(72)【発明者】
【氏名】灰原 弘高
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC15
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC30
4C087CA09
4C087CA10
4C087DA18
4C087NA14
(57)【要約】
【課題】新規の抗肥満剤およびその作製方法を提供する。
【解決手段】アリスティペス属細菌を有効成分とする抗肥満剤であって、前記細菌の膜小胞(MV)を有効成分とすることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリスティペス属(Alistipes)細菌の膜小胞(MV)を有効成分とする抗肥満剤。
【請求項2】
前記抗肥満剤は脂肪細胞の分化抑制剤、脂肪蓄積抑制剤、または蓄積した脂肪の減少剤である、請求項1に記載の抗肥満剤。
【請求項3】
前記細菌はアリスティペス インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)またはアリスティペス ファインゴルディイ(Alistipes finegoldii)である、請求項1または請求項2に記載の抗肥満剤。
【請求項4】
アリスティペス属(Alistipes)細菌の膜小胞(MV)を有効成分とする抗肥満剤の作製方法であって、アリスティペス属(Alistipes)細菌を培養する工程aを含み、かつ
前記工程aで培養した培養液を遠心分離およびろ過して前記MVを取得する工程b、
を包含する抗肥満剤の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌の膜小胞を有効成分とする抗肥満剤、およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満症は脂肪沈着過多のため、身体が異常に肥満する病態をいい、世界的に患者規模の大きな疾患の一つである。また、肥満症は糖尿病、高脂血症、高血圧等を促進する危険性があり早急に治療すべき疾患である。
【0003】
しかし、肥満症の治療薬(抗肥満剤)の開発は効果不十分、副作用等の観点から困難であり、現在日本で承認されている抗肥満剤は僅かである(非特許文献1)。
【0004】
一方、近年のDNA解析の発展と腸内細菌学の確立によって、腸内環境の変化が宿主の生体恒常性の維持と密接に関与することが明らかになってきた。例えば、アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila,「AM」という。)はムチンを単一の栄養源とする腸内細菌であり肥満症との関連性が報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日内会誌,84巻,p.1290~1294,1995年
【非特許文献2】Gut,65巻,p.426~436,2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、AM以外の腸内細菌に関しては未だ肥満症に関連する知見を得ておらず研究・開発を行う余地が残っていた。
【0007】
そこで、本発明は抗肥満作用を有する腸内細菌を新たに特定し、その作用に基づく新規の抗肥満剤、およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、意外にもアリスティペス属(Alistipes)細菌が抗肥満剤としての使用に適することを見出した。すなわち、本発明の抗肥満剤の特徴は以下の通りである。
【0009】
[1]アリスティペス属(Alistipes)細菌の膜小胞(MV)を有効成分とする抗肥満剤。
【0010】
[2]前記抗肥満剤は脂肪細胞の分化抑制剤、脂肪蓄積抑制剤、または蓄積した脂肪の減少剤である、上記[1]に記載の抗肥満剤。
【0011】
[3]前記細菌はアリスティペス インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)またはアリスティペス ファインゴルディイ(Alistipes finegoldii)である、上記[1]または[2]に記載の抗肥満剤。
【0012】
[4]アリスティペス属(Alistipes)細菌の膜小胞(MV)を有効成分とする抗肥満剤の作製方法であって、アリスティペス属(Alistipes)細菌を培養する工程aを含み、かつ
前記工程aで培養した培養液を遠心分離およびろ過して前記MVを取得する工程b、
を包含する抗肥満剤の作製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アリスティペス属(Alistipes)細菌を有効成分とする抗肥満剤、およびその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は脂肪細胞の分化のプロセスを示す図である。
【
図3】
図3は上段がAlistipes indistinctus(AI)の膜小胞、下段がAMの膜小胞を示す写真図である。
【
図4A】
図4AはAM、AIの加熱死菌体(HKB)が脂肪細胞の分化を抑制することを示す写真図である。
【
図4B】
図4BはAM、AIのHKBが脂肪細胞の分化を抑制することを示す棒グラフである。
【
図5A】
図5AはAM、AIの膜小胞(MV)が脂肪細胞の分化を抑制することを示す写真図である。
【
図5B】
図5BはAM、AIのMVが脂肪細胞の分化を抑制することを示す棒グラフである。
【
図6】
図6はAM、AIが脂肪細胞の分化に関連する因子のタンパク質発現(
図6(A)、
図6(B))およびmRNA発現(
図6(C))を抑制することを示す図である。
【
図7】
図7はAM、AIがアディポネクチン(adiponectin)の分泌を抑制することを示す図である。
【
図8A】
図8AはAI、Alistipes finegoldii(AF)のHKBが脂肪細胞の分化を抑制することを示す写真図である。
【
図8B】
図8BはAI、AFのHKBが脂肪細胞の分化を抑制することを示す棒グラフである。
【
図9A】
図9AはAI、AFのMVが脂肪細胞の分化を抑制することを示す写真図である。
【
図9B】
図9BはAI、AFのMVが脂肪細胞の分化を抑制することを示す棒グラフである。
【
図10】
図10はAI、AFが脂肪細胞の分化に関連する因子のタンパク質発現(
図10(A))およびmRNA発現(
図10(B))を抑制することを示す図である。
【
図11A】
図11AはAI、AFが脂肪細胞の脂肪油滴の蓄積を抑制することを示す写真図である。
【
図11B】
図11BはAI、AFが脂肪細胞の脂肪油滴の蓄積を抑制することを示す棒グラフである。
【
図12A】
図12AはAI、AFが脂肪細胞の脂肪油滴を減少させることを示す写真図である。
【
図12B】
図12BはAI、AFが脂肪細胞の脂肪油滴を減少させることを示す棒グラフである。
【
図13】
図13は各菌体の16S rRNAを検出するプライマーを記載した表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の腸内細菌を有効成分とする抗肥満剤に関して詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の一実施形態としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
本発明者等は、アリスティペス属(Alistipes)細菌が抗肥満剤の有効成分となることを予期せず発見した。抗肥満剤として使用する場合に、有効成分として、例えば、細菌から抽出された膜小胞(membrane vesicle,「MV」という。)、または細菌の加熱死菌体(「HKB」という。)等の死菌体を用いてもよい。組織への移行性等の観点から、膜小胞(MV)の形態がより好ましい。
【0017】
また、アリスティペス属(Alistipes)細菌は、例えば、アリスティペス インディスティンクタス(「AI」という。)またはアリスティペス ファインゴルディイ(「AF」という。)である。
【0018】
また、本発明者等は、上記細菌が作用して前駆細胞から脂肪細胞への分化抑制作用、脂肪細胞における脂肪蓄積抑制作用、肥大化脂肪細胞における蓄積した脂肪の減少作用を有することを予期せず発見した。以下、さらに詳しく説明する。
【0019】
本発明において、抗肥満剤は医薬組成物であってもよい。また、医薬組成物の製剤化の場合には許容可能な添加剤を併用してもよい。添加剤は、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0020】
抗肥満剤は、アリスティペス属(Alistipes)細菌を有効成分とするが、本願発明の効果を妨げない程度に上記細菌以外の成分を含んでいてもよい。上記細菌以外の成分として、例えば、培地成分、水等の溶媒、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム等)、アリスティペス属(Alistipes)以外の細菌やプロバイオティクス、薬学的に許容可能な担体等が挙げられる。
【0021】
抗肥満剤が経口製剤の場合、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等の固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液等の液状製剤の形態をとることができる。
【0022】
本発明の抗肥満剤の摂取量は本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではない。また、摂取者の年齢、健康状態、体重等に応じて適宜調整することができる。
【0023】
例えば、有効成分であるアリスティペス属(Alistipes)細菌を、下限として1日当たり1x102個以上、より好ましくは1x106個以上摂取することが望ましい。また上限として1日当たり1x1015個以下、より好ましくは1x1011個以下接種することが望ましい。
【0024】
1日当たりの摂取量が下限値を下回る場合、抗肥満剤としての効果が薄れるおそれがあり、また上限値を上回る場合には抗肥満剤としての効果が一定に達して、摂取量当たりの効果が表れない可能性がある。
【0025】
本発明の抗肥満剤の摂取期間は、理想的には肥満が解消されるまで長期間にわたり継続的に摂取することが望ましい。その効果をよりよく発揮させるために、下限として、例えば、4週間以上継続的に摂取することが好ましく、また、数か月から数年以上継続的に摂取することがより好ましい。下限値を下回る場合には抗肥満剤としての効果が薄れるおそれがある。
【0026】
なお、抗肥満剤を長期間、継続的に摂取するにあたり、旅行や仕事等のやむを得ない事情により使用者が摂取を怠ってしまう場合も考えられるが、そのような場合には1週間に1~3回摂取したり、数日空けてその後1日に2~3回摂取する等、摂取頻度を適宜調整してもよい。
【0027】
本発明の抗肥満剤の摂取対象者は、特に限定しないが、例えば、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧、または生活習慣病等に罹患する者、またはそれらの疾患を予防する必要のある者が挙げられる。本抗肥満剤は、上記疾患を治療する効果を有するだけでなく、症状の悪化を緩和または改善する効果、上記疾患を予防する効果を有する。
【0028】
抗肥満剤の有効成分となるアリスティペス属(Alistipes)は、バクテロイデス門に属するヒトの腸内細菌の一種である。本発明のアリスティペス属(Alistipes)細菌には、上記のAI、AFの他に、アリスティペス イフミイ(Alistipes ihumii)、アリスティペス イノプス シュコポロフ(Alistipes inops Shkoporov)、アリスティペス オンダドンキィ(Alistipes onderdonkii)、アリスティペス プトレディネス(Alistipes putredinis)、アリスティペス シャヒィ(Alistipes shahii)、アリスティペス ティモネシス(Alistipes timonensis)、アリスティペス セネガレンシス(Alistipes senegalensis)、アリスティペス オベシ(Alistipes obesi)、アリスティペス メガグチ(Alistipes megaguti)、アリスティペス プロヴェンセンシス(Alistipes provecensis)、アリスティペス ディスパー(Alistipes disper)、アリスティペス コムニス(Alistipes communis)、アリスティペス マッシレンシス(Alistipes massiliensis)等が含まれてもよい。
【0029】
加熱死菌体(heated killed bacteria,「HKB」という。)は、生菌体に対し所定時間の加熱処理を施すことにより死菌化したものである。死菌体は、加熱処理の他に、例えば濃縮・希釈、凍結、乾燥、粉末化等の処理を行ってもよい。加熱処理は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、生菌体を殺菌するために通常用いられる条件で行われる。また、加熱処理は死菌化する方法としての一例であり、死菌化する方法は加熱処理に特定されるものではない。
【0030】
脂肪細胞の分化に関して、
図1を用いて説明する。脂肪細胞は、小型脂肪細胞103と、小型脂肪細胞103がカロリーの過剰摂取や運動不足により過剰に脂肪滴を蓄えてサイズが増大した肥大化脂肪細胞104からなる。いずれの脂肪細胞も中胚葉系の幹細胞101からできる前駆細胞102が分化して生じたものである。
【0031】
脂肪細胞の数が増加しかつサイズが増大することで脂肪組織容量が増大した場合には肥満症の症状が現れる。また、肥大化脂肪細胞104が悪玉のアディポサイトカインを生産することにより体内でインスリン抵抗性を引き起し、その結果として糖尿病、高脂血症、高血圧等が促進される。
【0032】
従って、前駆細胞102が小型脂肪細胞103へ分化する過程を抑制するか、小型脂肪細胞103が脂肪滴を過剰に蓄積して肥大化脂肪細胞104を形成する過程を抑制するか、あるいは肥大化脂肪細胞104が既に蓄積した脂肪滴を減少させる作用を特定の物質が有する場合には、その物質が抗肥満剤の有効成分とみなすことができる。
【0033】
膜小胞(MV)に関して、
図2を用いて説明する。MV202は生きた腸内細菌201が生成する小胞である。なお、本発明において開示されるMVの効果を発揮するものであれば、MV202は人工的に作製されてもよい。腸内細菌201から作製される場合には、MV202は腸内細菌201の細胞膜から形成される。腸内細菌201は一般に約1μm程度の大きさを有するため、腸内細菌それ自体は腸管上皮203の細胞間隙を通過せず、MV202またはMV202の膜成分が腸管上皮203の細胞間隙を通過することにより、血管204等を経由して(離れた場所に存在する)脂肪細胞の前駆細胞102、小型脂肪細胞103や肥大化脂肪細胞104等に作用する。腸内細菌201は、その他に樹状細胞205を介してT細胞206等へ作用する等、腸内の恒常性に機能する。
【0034】
図3は上段がAIに由来するMV、下段がAMに由来するMVの写真図である。一般に、MVの平均粒子径は約100nm前後である。
【0035】
本発明の抗肥満剤はアリスティペス属(Alistipes)細菌を有効成分とするものであり、抗肥満剤として使用する際、細菌は加熱死菌体(HKB)等の死菌体または膜小胞(MV)のいずれの形態であってもよいが、組織への移行性等の観点から、膜小胞(MV)の形態がより好ましい。作製方法を簡潔に説明すると、まずアリスティペス属(Alistipes)細菌を培養する工程aを経て、次に工程aで培養した培養液をろ過および遠心分離してMVを取得する(工程b)か、または、工程aで培養した培養液から菌体を取得し加熱処理して加熱死菌体を取得する(工程c)ことにより、抗肥満剤を作製することができる。組織への移行性等の観点から、工程aおよび工程bを組合せた方法が好ましい。詳細は以下の実施例において説明する。
【実施例0036】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
〈腸内細菌の培養〉
アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila YIT 11774, 「AM11774」という。)およびアリスティペス インディスティンクタス(Alistipes indistinctus YIT 12060, 「AI12060」という。)は凍結保存されているものを使用し、GAM(1%のGlucose含有)培地により嫌気条件下にて、37℃で継代、静置培養を行った。Lacticaseibacillus paracasei YIT 9037(「LC9037」という。)は凍結保存されているものを使用し、MRS(1%のLactose含有)培地により、37℃で継代、静置培養を行った。
【0038】
なお、実施例9以降に登場するアリスティペス ファインゴルディイ(Alistipes finegoldii YIT 12685、「AF12685」という。)も実施例1と同様の手法により培養を行った。
【0039】
(実施例2)
〈細胞〉
マウス線維芽細胞株3T3-L1は凍結保存されているものを使用した。なお、3T3-L1は脂肪細胞へ分化誘導されることで細胞内に脂肪滴を蓄積する特徴を有することから脂質代謝の細胞モデル系として広く用いられている。3T3-L1は、10%のFBS、100μg/mLのストレプトマイシンを含んだDMEM培地(10% FBS/DMEM)を用いて、5%CO2下37℃で継代培養を行った。
【0040】
(実施例3)
〈MVの単離と加熱死菌体の作製〉
AM11774、AI12060、およびLC9037のMVは、継代後48時間後の培養上清から単離した。それぞれの菌体培養液を遠心(8,000×g、20min、4℃)し、菌体を除去し培養上清を回収した。
【0041】
回収した培養上清は、孔径0.45μmのPESシリンジフィルター(Millipore)に通した後、分画分子量が100 kDaの限外ろ過(Millipore)によりMVを含む培養上清を濃縮した。濃縮した培養上清を遠心(200,000×g、2 h、4℃)してMVをペレット化し、以後の測定に適した溶媒で懸濁した。
【0042】
なお、実施例9以降に登場するAF12685のMVも実施例3と同様の手法により作製している。
【0043】
上記の培養液から遠心分離により除去した菌体を、MilliQ水に懸濁し、遠心(10,000×g、10min、4℃)し、菌体を洗浄した。この操作を3回繰り返した後、MilliQ水に懸濁した菌体の入ったチューブを、煮沸した100℃のお湯に10分間入れて加熱した。加熱後の菌体を凍結乾燥し、粉末とすることで、加熱死菌体(HKB)を作製した。
【0044】
なお、実施例9以降に登場するAF12685のHKBも実施例3と同様の手法により作製している。
【0045】
(実施例4)
〈脂肪細胞の分化誘導抑制作用の検討〉
24ウェルプレートに3T3-L1を所定の細胞数(1.0×105cells/well)で播種し、37℃、5%のCO2下でコンフルエントより3日後の状態まで、計6日間培養した。
【0046】
その後、AdipoInducer reagent kit(TAKARA)の分化誘導剤であるDexamethasone、3-Isobutyl-1-methylxanthineおよびInsulinをそれぞれが終濃度で2.5μM、0.5mMおよび10μg/mLとなるように加えた10%FBS/DMEMを添加し、同時に各菌のHKBまたはMVを処置して2日間培養した。
【0047】
2日後、HKBまたはMVを含む10μg/mLのInsulin含有10%FBS/DMEMに交換し、さらに2日間の培養を継続した。その後、通常の10%FBS/DMEM培地に交換し、3日後に培養上清および細胞を用い、細胞内の油滴量、タンパク質、遺伝子の発現量およびアディポネクチンの産生量解析に供した。
【0048】
なお、実施例9に登場するAF(およびAI)の脂肪細胞の分化誘導抑制作用の試験も実施例4と同様の手法により行っている。実施例10、11に関しては実施例4の手順と一部が重複する。詳細は実施例10、11の各説明箇所において述べる。
【0049】
(実施例5)
〈Oil-red Oによる細胞内油滴量の測定〉
24ウェルプレートにて培養した3T3-L1の培養上清を除去し、PBSにて1回洗浄した後、10%中性緩衝ホルマリンを加え、一晩4℃にて静置し、細胞を固定した。
【0050】
その後、MilliQ水にて3回洗浄し、リピットアッセイキットのOil-red O染色液(コスモバイオ)を加え、室温にて1時間染色した。染色後、MilliQ水で洗浄液にOil-red O染色液の色が無くなるまで数回洗浄を繰り返した。洗浄後、37℃にて細胞を乾燥させ、細胞染色像を顕微鏡にて撮影した。
【0051】
染色した3T3-L1に、リピットアッセイキットの抽出液(コスモバイオ)を添加して30分間放置し、Oil-red Oを抽出した。抽出後、抽出液の吸光度(505 nm)をプレートリーダーで測定して3T3-L1の細胞内油滴量を定量し、脂肪細胞への分化度の指標とした。
【0052】
なお、実施例9以降に登場するAF(およびAI)のOil-red Oによる細胞内油滴量の測定も実施例5と同様の手法により行っている。
【0053】
実施例5の結果を
図4A、4B、
図5A、5Bに示す。これらの結果は、AM、AIが脂肪細胞の分化を抑制することができたか否かを検討したものである。
【0054】
図4Aおよび
図4Bの試験では、3T3-L1に対し分化誘導剤を添加したのと同時に各菌のHKBを1μg/mL添加し、2日間の分化誘導後、5日培養して、3T3-L1をOil-red O染色した。
図4Aはその際の染色像(写真)である。
【0055】
図4Aにおいて、「Diff」、「AM11774 HKB」、「AI12060 HKB」、「LC9037 HKB」はそれぞれ、分化誘導剤のみのコントロール、AM11774のHKB、AI12060のHKB、LC9037のHKBをそれぞれ添加して培養した3T3-L1の染色像であることを示す。
【0056】
図4Aから、「LC9037 HKB」は「Diff」と変わらない染色度合いである一方、それらと比較して、「AM11774 HKB」と「AI12060 HKB」は染色の度合いが明らかに低かった。
【0057】
また、
図4Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、未分化の3T3-L1の前駆細胞(Non-diff)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央、右の順に、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)、HKB1μg/mL(HKB1)、HKB10μg/mL(HKB10)のそれぞれの濃度で添加した細胞群を示す。
【0058】
図4Bから、「LC9037」のHKBを添加した場合は、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)と変わらない脂肪油滴量の蓄積であった一方、「AM11774」と「AI12060」は1μg/mLのHKB濃度で脂肪油滴量の蓄積に対し強い抑制効果が認められた。
【0059】
図5Aおよび
図5Bの試験では、3T3-L1に対し分化誘導剤を添加したのと同時に各菌のMVを0.1μg/mLまたは1μg/mL添加し、2日間の分化誘導後、5日培養して、3T3-L1をOil-red O染色した。
図5Aはその際の染色像(写真)である。
【0060】
図5Aにおいて、「Diff」、「AM11774 MV」、「AI12060 MV」、「LC9037 MV」はそれぞれ、分化誘導剤のみのコントロール、AM11774のMV、AI12060のMV、LC9037のMVをそれぞれ添加して培養した3T3-L1の染色像であることを示す。
【0061】
図5Aから、「LC9037 MV」はいずれの濃度においても「Diff」と変わらない染色度合いである一方、それらと比較して、「AM11774 MV」と「AI12060 MV」は染色の度合いが明らかに低かった。また、「AM11774 MV」と「AI12060 MV」は濃度依存的に染色の度合いが減少した。
【0062】
また、
図5Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、未分化の3T3-L1の前駆細胞(Non-diff)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央左、中央右、右の順に、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)、MV0.1μg/mL(MV0.1)、MV1μg/mL(MV1)、MV10μg/mL(MV10)のそれぞれの濃度で添加した細胞群を示す。
【0063】
図5Bから、「LC9037」のMVを添加した場合は、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)と変わらない脂肪油滴量の蓄積であった一方、「AM11774」と「AI12060」は0.1μg/mLのMV濃度で脂肪油滴量の蓄積に対し強い抑制効果が認められた。また、抑制効果は濃度依存的に増加していた。
【0064】
以上の結果から、AM、AIのHKB、MVに関し、脂肪細胞の脂肪油滴量の蓄積に強い抑制効果があり、また抑制効果は濃度依存的に増加することが確認できた。
【0065】
(実施例6)
〈ウェスタンブロットによるタンパク質発現解析〉
実施例4に従って培養した3T3-L1の24ウェルプレート(Corning)に細胞可溶化溶液(10mMTris-HCl、pH7.4、0.1% NP-40、0.1% sodium deoxycholate、0.1% SDS、0.15M NaCl、1mM EDTA、10μg/mL aprotinin)を加え、細胞を溶解させた。この溶解液について10%アクリルアミドゲルを使用して電気泳動を実施し、ゲル内のタンパク質を、セミドライ型転写装置を用いてイモビロンPVDFメンブランに転写した。
【0066】
転写後、メンブランをブロッキングし、抗PPAR-γラビットモノクローナル抗体(Cell signaling,#2443S)、抗CEBP ラビットポリクローナル抗体(Cell signaling,#2295S)および、抗GAPDHマウスモノクローナル抗体(Thermo,#AM4300)の一次抗体溶液に一晩浸した。
【0067】
さらにペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体もしくは抗ラビットIgG抗体(GE Healthcare)の二次抗体溶液に1時間浸した後、ECL Prime Western Blotting Detection SystemまたはECL Select Western Blotting Detection System(Cytiva)を用いてメンブラン上の目的タンパク質を検出した。
【0068】
なお、実施例9に登場するウェスタンブロットによるタンパク質発現解析の手法も実施例6と同様である。実施例9では内部標準としてGAPDHの代わりにβ-actinを用いている。
【0069】
(実施例7)
〈リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析〉
実施例4に従って24ウェルプレート(Corning)で培養した3T3-L1を回収し、illustra RNAspin kit(Cytiva)を用い、所定の方法によりトータルRNAを精製した。精製したRNAをGoScript(標章) Reverse Transcriptase(Promega)により逆転写を行い、GoTaq(登録商標) qPCR Master Mix(Promega)およびQuantStudio(標章)12K Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して、添付の操作手順に従ってリアルタイムPCRを行った。
【0070】
なお、PPAR-γの遺伝子に対するプライマーは、公知のmRNA塩基配列よりPrimer Express Software Version 3.0 (Applied Biosystems)を使用してPPAR-γ_Fw(5´-GGGCGATCTTGACAGGAAAG-3´)、PPAR-γ_Rv(5´-CCCATCATTAAGGAATTCATGTCAT-3´)を設計した。
【0071】
なお、実施例9に登場するリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析の手法も実施例7と同様である。
【0072】
実施例6、7の結果を
図6(A)~
図6(C)に示す。
図6(A)~
図6(C)は、AM、AIのHKBまたはMVが脂肪細胞の3T3-L1の分化を抑制する効果を有するか否かを、脂肪細胞の分化に関連のあるタンパク質発現量(
図6(A)、6(B))またはmRNA発現量(
図6(C))を介して検討したものである。各図において、「Non-diff」は未分化の3T3-L1を表し、「Diff」は分化誘導処理のみをした3T3-L1を表す。「GAPDH」は内部標準である。
【0073】
図6(A)は、分化誘導剤の添加と同時にAM11774、AI12060、およびLC9037のHKBを添加し、2日間の分化誘導後、5日間培養した後の3T3-L1のPPAR-γおよびCEBPαタンパク質の発現量を、ウェスタンブロットにより確認した。
【0074】
ここで、PPAR-γは核内レセプタースーパーファミリーに属するタンパク質であり、脂肪細胞に分化した際に発現するマスターレギュレーターである。CEBPαタンパク質はそのコファクターである。PPAR-γおよびCEBPαの各タンパク質の発現量を測定することにより、3T3-L1の分化度合いを確認できる。
【0075】
PPAR-γおよびCEBPαの各タンパク質の発現量を、ウェスタンブロットにより確認したところ、AI12060およびAM11774のHKBを添加した場合、添加量が0.1μg/mLあたりからPPAR-γおよびCEBPαの各タンパク質の発現が抑制された。
【0076】
また、
図6(B)は、分化誘導剤の添加と同時にAM11774、AI12060、およびLC9037のMVを添加し、2日間の分化誘導後、5日間培養した後の3T3-L1のPPAR-γおよびCEBPαタンパク質の発現量を、ウェスタンブロットにより確認した。その結果、
図6(A)のHKBの場合と同様に、添加量が0.1μg/mLあたりからPPAR-γおよびCEBPαの各タンパク質の発現が抑制された。
【0077】
また、
図6(C)は、
図6(A)および
図6(B)におけるPPAR-γのmRNAの発現量を示す。各細胞におけるPPAR-γのmRNA量は、内部標準のGAPDHのmRNA発現量により補正した結果を示している。その結果、
図6(A)、6(B)のタンパク質発現量と並行してmRNAの発現が抑制されていることが確認できた。
【0078】
以上の結果から、タンパク質発現のレベル、mRNA発現のレベルにおいて、AM、AIのHKBおよびMVが脂肪細胞の3T3-L1の分化を抑制する効果を有することが確認できた。従って、AMおよびAIのHKBおよびMVは抗肥満剤、特に、肥満細胞の分化抑制剤の有効成分とみなすことができた。
【0079】
(実施例8)
〈培養上清中のアディポネクチン量の測定〉
培養上清中のアディポネクチンの検出はHuman Adiponectin/Acrp30 DuoSet(R&Dsystems)を用いた ELISA法により行った。Capture抗体を所定の濃度にPBSで希釈し、ELISA用96ウェルプレートに100μLずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。各ウェルを0.05%(v/v)Tween 20を含むPBS (洗浄液)で洗浄後、1%(w/v)BSAを含むPBS(BSA/PBS)を100μLずつ添加し、37℃で90分間ブロッキングを行った。
【0080】
ブロッキング後、1%(w/v)BSA/PBSで1000倍に希釈した培養上清を100μLずつ添加し、4℃で一晩反応させた。反応後、3回の洗浄操作を行い、1%(w/v)BSA/PBSで所定の濃度に希釈したDetection抗体を100μLずつ添加し、室温で120分間反応させた後、1%(w/v)BSA/PBSで所定の濃度に希釈したStreptavidin-HRPを100μLずつ添加し、暗中室温で20分間反応させた。
【0081】
その後、洗浄液にて3回洗浄後、1-Step(標章)Ultra TMB-ELISA Substrate Solution(Thermo Fisher Scientific)を50μLずつ添加し、室温で20分間反応させた。発色を確認後、2MのH2SO4を50μLずつ加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmおよび595nmの吸光度を測定した。
【0082】
実施例8の結果を
図7に示す。
図7は、AM、AIのHKBまたはMVが脂肪細胞の3T3-L1の分化を抑制する効果を有するか否かを、アディポネクチンの分泌量を介して確認した結果である。アディポネクチンはアディポサイトカインの一種であり、分化した脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質である。
【0083】
図7は、HKBまたはMV添加後3T3-L1を培養し、培養上清を回収して、アディポネクチン量をELISAにより測定した結果を示す棒グラフである。「Non-diff」は未分化の3T3L-1を指し、「Diff」は分化誘導処理のみをした3T3-L1を指す。縦軸がアディポネクチン量(ng/mL)、横軸が各菌のMVまたはHKBを添加した3T3-L1を示す。
【0084】
図7から、PPAR-γの発現量と同様に、AI12060およびAM11774のHKB、MVを添加した場合、3T3-L1によるアディポネクチンの培養上清への分泌量も少なかった。以上から、AI12060およびAM11774のHKB、MVは、3T3-L1の脂肪細胞への分化を抑制することがさらに確認できた。
【0085】
実施例1~8の結果から、AM、AIのHKB、MVが脂肪細胞への分化抑制効果を示すことが明らかとなった。そこで、実施例9以降ではアリスティペス属(Alistipes)細菌、特にアリスティペス インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)、アリスティペス ファインゴルディイ(Alistipes finegoldii)のHKB、MVに焦点を当てて、分化抑制作用、脂肪蓄積抑制作用、蓄積した脂肪の減少作用の検討を行った。
【0086】
(実施例9)
〈AIおよびAFの分化抑制作用の検討〉
実施例1~8の結果から、AIのHKBおよびMVがそれぞれ抗肥満作用、特に肥満細胞の分化抑制作用を有することが明らかとなった。そこで、同様の手法を用いて同じアリスティペス属(Alistipes)細菌であるAFが同様の作用を有するものであるかAIと併せて検討した。解析手法に関しては、これまでに説明してきた実施例1~7の解析手法と同様である。
【0087】
これらの結果を
図8~10に示す。まず、
図8A、8B、
図9A、9Bは、分化した脂肪細胞の特徴である脂肪油滴量の蓄積に対して、AF、AIの腸内細菌が抑制効果を有するか否かを検討した。
【0088】
図8A、8Bは分化誘導剤の添加と同時にAF、AIのHKBを添加した3T3-L1のOil-red O染色の結果である。
図8Aは各菌のHKBを0.01μg/mL~1μg/mLの範囲で添加し、2日間の分化誘導後、5日間培養した3T3-L1のOil-red O染色による染色像である。「Diff」は分化誘導剤のみのコントロールである。
【0089】
分化誘導剤のみのコントロールと比較して、AFとAIは染色の度合いが濃度依存的に減少していくことが確認できた。
【0090】
また、
図8Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央左、中央右、右の順に、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)、HKB0.01μg/mL(HKB0.01)、HKB0.1μg/mL(HKB0.1)、HKB1μg/mL(HKB1)のそれぞれの濃度で添加した細胞群を示す。
【0091】
図8Bから、分化誘導剤のみのコントロールと比較して、AFおよびAIは0.01μg/mLのHKB濃度で脂肪油滴量の蓄積に対し強い抑制効果が認められ、その効果は濃度依存的に増加することが確認できた。
【0092】
図9A、9Bは、分化誘導剤の添加と同時にAF、AIのMVを添加した3T3-L1のOil-red O染色の結果である。
図9Aは各菌のMVを0.01μg/mL~1μg/mLの範囲で添加し、2日間の分化誘導後、5日間培養した3T3-L1のOil-red O染色による染色像である。「Diff」は分化誘導剤のみのコントロールである。
【0093】
分化誘導剤のみのコントロールと比較して、AFとAIは染色の度合いが濃度依存的に減少していくことが確認できた。
【0094】
また、
図9Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央左、中央右、右の順に、分化誘導剤のみのコントロール(Diff)、MV0.01μg/mL(MV0.01)、MV0.1μg/mL(MV0.1)、MV1μg/mL(MV1)のそれぞれの濃度で添加した細胞群を示す。
【0095】
図9Bから、分化誘導剤のみのコントロールと比較して、AFおよびAIは0.01μg/mLのMV濃度で脂肪油滴量の蓄積に対し強い抑制効果が認められ、その効果は濃度依存的に増加することが確認できた。
【0096】
以上の結果から、AF、AIのHKB、MVに関し脂肪細胞の脂肪油滴量の蓄積に強い抑制効果があり、また抑制効果は濃度依存的に増加することが確認できた。
【0097】
次に、
図10はAF、AIのHKBまたはMVが脂肪細胞の3T3-L1の分化を抑制する効果を有するか否かを、脂肪細胞の分化に関連のあるタンパク質発現量(
図10(A))またはmRNA発現量(
図10(B))を介して確認したものである。
【0098】
なお、実施例9に登場するタンパク質発現解析の手法は実施例6と同様であるが、内部標準に関してはGAPDHの代わりにβ-actinを用いている。
【0099】
図10(A)は、分化誘導剤の添加と同時にAF、AIのHKBまたはMVを添加し、2日間の分化誘導後、5日間培養した後の3T3-L1のPPAR-γおよびCEBPαタンパク質の発現量を、ウェスタンブロットにより確認した。
【0100】
AFおよびAIのHKBまたはMVを添加した場合、濃度依存的にPPAR-γおよびCEBPαタンパク質の発現が抑制されたことが確認できた。
【0101】
また、
図10(B)は、
図10(A)におけるPPAR-γのmRNAの発現量を示す。各細胞におけるPPAR-γのmRNA量は、内部標準のβ―actinのmRNA発現量により補正した結果を示している。その結果、
図10(A)のタンパク質発現量と並行してmRNAの発現が抑制されていることが確認できた。
【0102】
以上の結果から、タンパク質発現のレベル、mRNA発現のレベルにおいて、AF、AIのHKBおよびMVが脂肪細胞の3T3-L1の分化を抑制する効果を有することが確認できた。従って、AIと同様に、同じアリスティペス属(Alistipes)細菌であるAFのHKBおよびMVも、脂肪細胞の分化抑制剤の有効成分とみなすことができた。
【0103】
(実施例10)
〈AIおよびAFの脂肪蓄積抑制作用の検討〉
実施例1~9までの検討により、アリスティペス属(Alistipes)細菌、例えばAIおよびAFは抗肥満剤、特に脂肪細胞の分化抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0104】
つまり、本剤は、
図1の前駆細胞102から小型脂肪細胞103へ分化する過程を抑制する作用を有する。そこで、実施例10では、アリスティペス属(Alistipes)細菌が、小型脂肪細胞103が脂肪滴を過剰に蓄積して肥大化脂肪細胞104を形成する過程を抑制する作用、すなわち脂肪蓄積抑制作用を有するか否か検討した。
【0105】
解析手法に関しては、これまでに説明してきた実施例1~3,5の解析手法と同様である。ただし、AF、AIが脂肪蓄積抑制作用を有するか検討するため、実施例4の手法のみ一部変更した(以下、「実施例4A」という)。詳細は以下の通りである。
【0106】
〈〈実施例4A〉〉
24ウェルプレートに3T3-L1を所定の細胞数(1.0×105cells/well)で播種し、37℃、5%のCO2下でコンフルエントより3日後の状態まで、計6日間培養した。
【0107】
その後、AdipoInducer reagent kit(TAKARA)の分化誘導剤であるDexamethasone、3-Isobutyl-1-methylxanthineおよびInsulinをそれぞれが終濃度2.5μM、0.5mMおよび10μg/mLとなるように加えた10%FBS/DMEMを添加して3日間培養した。
【0108】
3日後、10μg/mLのInsulin含有10%FBS/DMEMに交換し、同時に1μg/mLの各菌のMVを処置したウェルと無処置のウェルを作製し、さらに21日間の培養を行った。培地交換は2~3日ごとに500μLの各菌のMVを含むInsulin含有10%FBS/DMEMで行った。その後、その細胞を用いて細胞内の油滴量をOilred Oを用いて検討した。
【0109】
結果を
図11A、11Bに示す。
図11A、11Bは分化誘導剤の添加から培養3日後にAF、AIのMVを添加した3T3-L1のOil-red O染色の結果である。
図11AはAF、AIのMVを1 μg/mL添加し、21日間の培養を行った後の3T3-L1のOil-red O染色による染色像である。「Ctrl」は分化誘導剤のみのコントロールである。コントロールと比較して、AFとAIは染色の度合いが明らかに減少していた。
【0110】
また、
図11Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、分化誘導剤のみのコントロール(Ctrl)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央、右の順に、コントロール、AIのMV、AFのMVをそれぞれ添加した細胞群を示す。
【0111】
図11Bから、コントロールと比較して、AFおよびAIは脂肪油滴量の蓄積に対し強い抑制効果が認められた。
【0112】
以上の検討から、アリスティペス属(Alistipes)細菌、例えばAIおよびAFは抗肥満剤、特に脂肪細胞の脂肪蓄積抑制剤としても有用であることが明らかとなった。つまり、本剤は小型脂肪細胞103が脂肪滴を過剰に蓄積して肥大化脂肪細胞104を形成する過程を抑制する作用を有する。
【0113】
(実施例11)
〈AIおよびAFの蓄積した脂肪の減少作用の検討〉
実施例1~10までの検討により、アリスティペス属(Alistipes)細菌、例えばAIおよびAFは抗肥満剤、特に脂肪細胞の分化抑制剤または脂肪蓄積抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0114】
そこで、実施例11では、アリスティペス属(Alistipes)細菌が肥大化脂肪細胞104に既に蓄積した脂肪滴を減少させる作用を有するか否か検討した。
【0115】
解析手法に関しては、これまでに説明してきた実施例1~3,5の解析手法と同様である。ただし、AF、AIが蓄積した脂肪の減少作用を有するか検討するため、実施例4の手法のみ一部変更した(以下、「実施例4B」という)。詳細は以下の通りである。
【0116】
〈〈実施例4B〉〉
24ウェルプレートに3T3-L1を所定の細胞数(1.0×105cells/wellの細胞数で播種し、37℃、5%CO2下でコンフルエントより3日後の状態まで、計6日間培養した。
【0117】
その後、AdipoInducer reagent kit(TAKARA)の分化誘導剤であるDexamethasone、3-Isobutyl-1-methylxanthineおよびInsulinをそれぞれが終濃度2.5μM、0.5mMおよび10μg/mLとなるように加えた10% FBS/DMEMを添加して2日間培養した。
【0118】
2日後、10μg/mLのInsulin含有10%FBS/DMEMに交換し、さらに21日間の培養を行い、肥大化脂肪細胞を作製した。培地交換は2~3日ごとに500μLのInsulin含有10%FBS/DMEMで行った。
【0119】
その後、1μg/mLの各菌のMVを処置したウェルと無処置のウェルを作製し、2~3日ごとに各菌のMVを含む10%FBS/DMEMで培地交換を行いながら、引き続き10日間培養した。その細胞を用いて細胞内の油滴量をOilred Oを用いて検討した。
【0120】
結果を
図12A、12Bに示す。
図12A、12Bは分化誘導剤を添加して肥大化脂肪細胞を作製した後に、AF、AIのMVを添加した3T3-L1のOil-red O染色の結果である。
図12AはAF、AIのMVを1 μg/mL添加し、10日間の培養を行った後の3T3-L1のOil-red O染色による染色像である。「Ctrl」は分化誘導剤のみのコントロールである。コントロールと比較して、AFとAIは染色の度合いが明らかに減少していた。
【0121】
また、
図12Bは染色した3T3-L1からOil red Oを抽出し、吸光度により脂肪油滴量を数値化した棒グラフである。縦軸は吸光度を百分率で示しており、分化誘導剤のみのコントロール(Ctrl)を100%とした場合の各添加条件における3T3-L1の脂肪油滴量を数値化している。横軸は左、中央、右の順に、分化誘導剤のみのコントロール(Ctrl)、AIのMV、AFのMVをそれぞれ添加した細胞群を示す。
【0122】
図12Bから、コントロールと比較して、AFおよびAIは脂肪油滴量の蓄積に対し強い減少効果が認められた。
【0123】
以上の検討から、アリスティペス属(Alistipes)細菌、例えばAIおよびAFは抗肥満剤、特に脂肪細胞の蓄積した脂肪の減少剤としても有用であることが明らかとなった。つまり、本剤は肥大化脂肪細胞104が既に蓄積した脂肪滴を減少させる作用を有する。
【0124】
以上実施例1~11の結果から、本発明の抗肥満剤は、前駆細胞102が小型脂肪細胞103へ分化する過程を抑制し、小型脂肪細胞103が脂肪滴を過剰に蓄積して肥大化脂肪細胞104を形成する過程を抑制し、さらに肥大化脂肪細胞104が既に蓄積した脂肪滴を減少させる作用を有することが明らかとなった。
【0125】
また、実施例中、発明者等はアリスティペス属(Alistipes)細菌から加熱死菌体(HKB)および膜小胞(MV)を単離して各試験に使用したが、アリスティペス属(Alistipes)細菌自体が有効成分を生成するのであるから、アリスティペス属(Alistipes)細菌自体を抗肥満剤に含有させても有効に作用する。
【0126】
また、これまで示してきた特徴から、本発明は、抗肥満剤としてだけではなく、糖尿病治療剤、高脂血症治療剤、高血圧治療剤、または生活習慣病治療剤、またはそれらの疾患の予防剤としても有効に作用する。
【0127】
また、本発明の抗肥満剤は、有効成分であるアリスティペス属(Alistipes)細菌を、下限として1日当たり1×102個以上、より好ましくは1×106個以上摂取することが望ましい。また上限として1日当たり1×1015個以下、より好ましくは1×1011個以下接種することが望ましい。
【0128】
また、本発明の抗肥満剤の摂取期間は、理想的には肥満が解消されるまで長期間にわたり継続的に摂取することが望ましい。その効果をよりよく発揮するために、下限として、例えば、4週間以上継続的に摂取することが好ましく、また数か月から数年以上継続的に摂取することがより好ましい。
【0129】
(実施例12)
〈マウスを用いたMVの組織移行性試験〉
これまでの検討において、HKBとMVは3T3-L1に対して同程度の分化抑制効果、脂肪滴の蓄積抑制効果、および肥大化脂肪細胞に蓄積した脂肪滴の減少効果を示した。さらに、経口投与されたMVが脂肪細胞に直接作用する可能性を検討するために、マウスへの経口投与における組織移行性を検討した。
【0130】
〈〈マウスへの経口投与〉〉
6週齢、雌性のC57BL/6JJclマウス(日本クレア)を購入し、使用した。一週間の馴化後、AI12060およびAM11774のMVを1mg/mL(タンパク質量換算)でPBSにけん濁し、MVの総量が200μgとなるように0.2mLを経口投与した。投与1時間、6時間、16時間後に糞便を採取し、麻酔下心臓全採血により安楽死させた後に脳、肺、脾臓、膵臓、肝臓、大腸、脂肪組織を摘出し、以降の実験に用いた。
【0131】
MV内に含まれる16S rRNAは、MVとしての小胞が崩壊し、外部に露出すると迅速に分解されるため、各組織内に移行したMVは、その菌体の16S rRNAを検出することで形状を維持しているかどうか確認することができる。そこで、下記の方法でqPCRを行い、1、6、16時間後の糞便、血中および各組織中(脳、肺、脾臓、膵臓、肝臓、大腸、脂肪組織)のMVを測定した。
【0132】
〈〈Total RNAの抽出〉〉
MVまたはマウス組織からのRNAの抽出は、測定用のIllustraTM RNAspin(Cytiva)を用いて行った。キット付属の細胞溶解バッファー(Buffer RA1)を加え、バイオマッシャー(ニッピ)を使用し、MVおよび組織を完全に溶解させた。以降の操作は、添付の手順書に従いtotal RNAの抽出を行った。
【0133】
〈〈16S rRNAを利用したRT-qPCRによるMVの定量〉〉
GoTaq(商標) 1-Step RT-qPCR System(Promega)およびQuantStudio
TM 12K Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystem)を使用して、添付の操作手順に従ってqPCRを行った。各菌体の16S rRNAを検出するプライマーを、
図13に示す。
【0134】
図14Aは、経口投与後各時間(1、6、16時間)における5mgあたりの糞便中のMV検出量を、
図14Bは経口投与後各時間(1、6、16時間)における全血液中のMV検出量を示す。
図15AはAI12060のMVの経口投与後各時間(1、6、16時間)における5mgあたりの各組織中のMV検出量を、
図15BはAM11774のMVの経口投与後各時間(1、6、16時間)における5mgあたりの各組織中のMV検出量をそれぞれ示す。なお、組織中のMVの検出量は、細胞・組織由来のRNA等の影響により実際のMV量と誤差が生じる可能性があるため、マウスの各組織(脳、脾臓、肺、肝臓、脂肪、大腸、膵臓))5mgと各MV(AI12060、AM11774)5μgをそれぞれ混合下でtotal RNAを抽出してqPCRにて確認し、その誤差により乖離値を求めて補正した。
【0135】
これらの結果から、MVの腸管の透過、血中への移行、各組織への移行は迅速であることがわかった。また、
図15AおよびBから、AM11774のMVでは脂肪組織への移行性がほとんど確認できなかった一方、AI12060のMVは脂肪組織への移行性が高いことが確認できた。これにより、経口投与されたAI12060のMVは脂肪組織へ移行しやすく、脂肪細胞に直接作用するため、抗肥満効果を奏することが明らかとなった。
【0136】
よって、以上の結果を踏まえて、本発明の抗肥満剤は、アリスティペス属(Alistipes)細菌であって、特に、細菌の膜小胞(MV)を有効成分とすることが明らかとなった。