(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032633
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240305BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240305BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20240305BHJP
【FI】
A61B5/16 120
A61B5/11 230
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199705
(22)【出願日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022136122
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 利彰
(72)【発明者】
【氏名】草野 拳
(72)【発明者】
【氏名】山縣 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】市川 将
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PQ06
4C038PS07
4C038PS09
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】日常の活動の中から得られる情報に基づいて被験者の感情を推定することができる感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法を提供する。
【解決手段】感情推定装置1は、測定装置2で測定した被験者Pの歩行データ、および被験者Pの感情を数値化した感情データの入力を受け付けるインターフェースと、インターフェースで入力を受け付けた歩行データ、および感情データを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを求める演算部と、を備える。演算部は、新たに歩行データをインターフェースで入力を受け付けた場合、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者Pの感情を推定し、推定した被験者Pの感情を表す情報をインターフェースから出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の感情を推定する感情推定装置であって、
測定装置で測定した前記被験者の歩行データ、および前記被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるインターフェースと、
前記インターフェースで入力を受け付けた前記歩行データ、および前記感情データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、前記感情データとを対応付けた対応データを求める演算部と、を備え、
前記演算部は、前記インターフェースで前記歩行データの入力を新たに受け付けた場合、前記対応データに基づき、新たに受け付けた前記歩行データに含まれる前記複数の歩行パラメータから前記被験者の感情を推定し、推定した前記被験者の感情を表す情報を前記インターフェースから出力する、感情推定装置。
【請求項2】
前記歩行データは、ストライド、ピッチ、および歩行速度の前記複数の歩行パラメータのうち少なくとも1つのパラメータを含む、請求項1に記載の感情推定装置。
【請求項3】
前記歩行データは、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、および着地時のつま先上がり角度のうち少なくとも2つのパラメータを含む、請求項1に記載の感情推定装置。
【請求項4】
前記歩行データは、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地衝撃のうち少なくとも3つのパラメータを含む、請求項1に記載の感情推定装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記歩行データから新たに推定した前記被験者の感情が第1感情である場合、前記第1感情と異なる第2感情に対応付けられた前記歩行データを前記対応データから求め、前記第1感情と推定した前記歩行データを前記第2感情に対応付けられた前記歩行データに近づけるための歩行アドバイスを前記インターフェースから出力する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の感情推定装置。
【請求項6】
前記第1感情は、不快に分類される感情であり、前記第2感情は、快いに分類される感情である、請求項5に記載の感情推定装置。
【請求項7】
前記被験者の前記歩行データを測定する測定装置と、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の感情推定装置と、を備える、感情推定システム。
【請求項8】
前記被験者の前記歩行データを測定する測定装置と、
請求項5に記載の感情推定装置と、を備える、感情推定システム。
【請求項9】
被験者の感情を推定する感情推定方法であって、
測定装置で測定した前記被験者の歩行データ、および前記被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるステップと、
入力を受け付けた前記歩行データ、および前記感情データを記憶部に記憶するステップと、
前記記憶部に記憶された前記歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、前記感情データとを対応付けた対応データを求めるステップと、
前記歩行データの入力を新たに受け付けた場合、前記対応データに基づき、新たに受け付けた前記歩行データに含まれる前記複数の歩行パラメータから前記被験者の感情を推定するステップと、
推定した前記被験者の感情を表す情報を出力するステップと、を含む、感情推定方法。
【請求項10】
前記歩行データから新たに推定した前記被験者の感情が第1感情である場合、前記第1感情と異なる第2感情に対応付けられた前記歩行データを前記対応データから求め、前記第1感情と推定した前記歩行データを前記第2感情に対応付けられた前記歩行データに近づけるための歩行アドバイスを出力するステップをさらに含む、請求項9に記載の感情推定方法。
【請求項11】
ラッセルの円環モデルの軸に基づく感情をスコア化して、被験者の感情を推定する感情推定装置であって、
測定装置で測定した前記被験者の歩行データを受け付ける入力部と、
前記歩行データに含まれる複数の歩行パラメータについて各パラメータの母集団データを記憶する記憶部と、
前記入力部で入力を受け付けた前記歩行データに含まれる前記複数の歩行パラメータのうち、ストライド、ピッチ、および歩行速度の少なくとも1つのパラメータと、前記記憶部に記憶する前記母集団データとの比較に基づき、前記被験者の感情をスコア化したマインドスコアを求める演算部と、
前記演算部で求めた前記マインドスコアを出力する出力部と、を備える、感情推定装置。
【請求項12】
前記演算部は、前記複数の歩行パラメータのうち、ストライドおよび歩行速度に加えて着地時のつま先上がり角度または離地時のかかと上がり角度の各パラメータと、前記記憶部に記憶する前記母集団データとの比較に基づき、前記マインドスコアを求める、請求項11に記載の感情推定装置。
【請求項13】
前記入力部は、前記被験者が歩行していない不動時間データの入力を受け付け、
前記演算部は、前記入力部で受け付けた前記不動時間データで、前記マインドスコアを補正する、請求項11または請求項12に記載の感情推定装置。
【請求項14】
前記入力部は、前記被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付け、
前記演算部は、前記入力部で受け付けた前記感情データで、前記マインドスコアを補正する、請求項11または請求項12に記載の感情推定装置。
【請求項15】
前記演算部は、歩行パラメータと前記母集団データの平均値との差分値を前記母集団データの標準偏差で除算した値を用いて前記マインドスコアを求める、請求項11または請求項12に記載の感情推定装置。
【請求項16】
前記演算部は、求めた前記マインドスコアに応じた歩行アドバイスを前記出力部から出力する、請求項11または請求項12に記載の感情推定装置。
【請求項17】
前記被験者の靴に配置され、前記歩行データを測定する測定装置と、
請求項11または請求項12に記載の感情推定装置と、を備える、感情推定システム。
【請求項18】
ラッセルの円環モデルの軸に基づく感情をスコア化して、被験者の感情を推定する感情推定方法であって、
測定装置で測定した前記被験者の歩行データを受け付けるステップと、
受け付けた前記歩行データに含まれる複数の歩行パラメータのうち、ストライド、ピッチ、および歩行速度の少なくとも1つのパラメータと、記憶部に記憶する母集団データとの比較に基づき、前記被験者の感情をスコア化したマインドスコアを求めるステップと、
求めた前記マインドスコアを出力するステップと、を含む、感情推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体の健康だけでなく、心の健康も望まれている。しかし、体の健康は健康診断などで数値化できても、心の健康を数値化することは難しく、心の状態(感情)を可視化する手段や方法について日々研究が行われている。また、体の状態(体調)は、症状として顕在化することで本人にとって自覚しやすく、周囲の人も気付きやすいが、心の状態は、体調のように症状として顕在化しないことから、周囲の人も気付き難く、本人でさえも自覚することが容易ではない。そのため、心の状態が不調のままで、その発見が遅れて深刻化しうつ病などの精神疾患に繋がることがあり、体の状態を健康に保つことは社会問題となっている。
【0003】
したがって、心の状態(感情)を可視化することには大きな需要があり、その推定方法が簡易であれば更に大きな需要となる。たとえば、特開2020-120908号公報(特許文献1)には、被験者の表情を撮像した画像から被験者の表情指標を抽出し、抽出した表情指標に基づいて、被験者の精神状態を推定する精神状態推定システムなどが開示されている。また、特開2019-017946号公報(特許文献2)には、安静状態であるときにおける生体情報と、非安静状態であるときにおける生体情報とに基づいて被験者の気分の変動量を推定する気分推定システムが開示されている。さらに、特許第6388824号公報(特許文献3)には、被験者の生体情報と、この生体情報に対応したそのユーザの感情情報と身体的状態とを格納し、生体情報と感情情報との関係を学習して身体的状態毎に生体情報から感情情報を推定する感情情報推定装置などが開示されている。また、特開2017-144222号公報(特許文献4)には、被験者の生理学データと、非生理学データを取得し、被験者の覚醒の度合い、被験者の快適さの度合いを算出し、算出した値から被験者の感情を推定する感情推定装置などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-120908号公報
【特許文献2】特開2019-017946号公報
【特許文献3】特許第6388824号公報
【特許文献4】特開2017-144222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
開示されている装置や方法では、被験者の感情を推定するために、被験者の表情を撮像した画像が必要であったり、被験者の生体情報や生理学データが必要であったりした。そのため、被験者の感情を推定するために、表情を撮像したり、生体情報や生理学データを取得したりする作業が必要となり、簡易な方法で感情を推定するとは言えなかった。特に、感情を推定するために、被験者に対して特別な作業を行わせることなく、日常の活動の中から得られる情報に基づいて被験者の感情を推定する装置や方法が望まれている。
【0006】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、日常の活動の中から得られる情報に基づいて被験者の感情を推定することができる感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う感情推定装置は、被験者の感情を推定する感情推定装置である。感情推定装置は、測定装置で測定した被験者の歩行データ、および被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるインターフェースと、インターフェースで入力を受け付けた歩行データ、および感情データを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを求める演算部と、を備える。演算部は、インターフェースで歩行データの入力を新たに受け付けた場合、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定し、推定した被験者の感情を表す情報をインターフェースから出力する。
【0008】
本開示のある局面に従う感情推定システムは、被験者の歩行データを測定する測定装置と、上記の感情推定装置と、を備える。
【0009】
本開示のある局面に従う感情推定方法は、被験者の感情を推定する感情推定方法である。感情推定方法は、測定装置で測定した被験者の歩行データ、および被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるステップと、入力を受け付けた歩行データ、および感情データを記憶部に記憶するステップと、記憶部に記憶された歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを求めるステップと、歩行データの入力を新たに受け付けた場合、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定するステップと、推定した被験者の感情を表す情報を出力するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定するので、日常の活動の中から得られる歩行データに基づいて被験者の感情を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る感情推定装置を含む感情推定システムの構成を示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る測定装置を説明するための模式図である。
【
図3】実施の形態1に係る感情推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係る感情推定装置が実行する感情推定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図5】ラッセルの円環モデルを用いて感情を分類した模式図である。
【
図6】感情誘導するための感情誘導課題の一例を示す図である。
【
図7】感情を数値化するためのアンケートの一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1に係る感情推定装置における歩行パラメータと感情データとの関係の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態1に係る感情推定装置における主成分分析の一例を示す図である。
【
図10】
図9に示す主成分分析をグラフ化した一例を示す図である。
【
図11】実施の形態1に係る感情推定装置における重回帰分析の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態2に係る感情推定装置が実行する感情推定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図13】実施の形態3に係る感情推定装置を含む感情推定システムの構成を示す概略図である。
【
図14】実施の形態3に係る感情推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図15】実施の形態3に係る感情推定装置がマインドスコアを求める処理を説明するためのフローチャートである。
【
図16】実施の形態3に係る感情推定装置において感情データを入力するための入力画面の一例を示す図である。
【
図17】実施の形態3に係る感情推定装置においてマインドスコアを求める演算の一例を説明するための図である。
【
図18】実施の形態3に係る感情推定装置においてマインドスコアを出力するための出力画面の一例を示す図である。
【
図19】実施の形態3に係る感情推定装置において歩行パラメータを出力するための出力画面の一例を示す図である。
【
図20】実施の形態3に係る感情推定装置においてマインドスコアを求める別の演算の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示では、心の状態と歩容との関係について着目し、被験者の歩容を歩行データから特定して被験者の感情を推定する感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法を提供する。そのため、本開示に係る感情推定装置、感情推定システム、および感情推定方法では、日常の活動における歩行という簡易的な動作から感情を推定することが可能となる。以下、実施の形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
[感情推定システムの構成]
図1は、実施の形態1に係る感情推定装置1を含む感情推定システム100の構成を示す概略図である。感情推定システム100は、歩行データから被験者Pの感情を推定する感情推定装置1と、被験者Pの歩行データを測定する測定装置2と、を含む。なお、感情推定装置1は、歩行データから被験者Pの感情を推定するために、歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを予め求めておく必要がある。本開示では、複数の被験者Pの歩行データおよび感情データから対応データを求め、その後、求めた対応データを使って被験者Pの感情を推定する例を説明するが、多数の被験者による対応データが蓄積され一般化された対応データが用意されるような構成でもよい。または、属性(たとえば、性別、年代、人種など)ごとに一般化した対応データを用意し、感情推定装置1で被験者Pの歩行データから感情を推定する場合に、被験者Pの属性に応じて適切な対応データを選択して貰うような構成であってもよい。
【0014】
対応データを求める方法については後述するが、対応データを求めるためには測定装置2で被験者Pの歩行データを測定する必要がある。
図1に示す感情推定システム100では、測定装置2がスマートシューズである例を示してある。
図2は実施の形態1に係る測定装置2を説明するための模式図である。
図2には、測定装置2であるスマートシューズが図示されている。スマートシューズには、センサモジュール21が組み込まれており、当該センサモジュール21で被験者Pの歩行データを測定する。
【0015】
センサモジュール21は、図示していないが、加速度センサ、角速度センサ、これらのセンサの測定値から歩行パラメータを演算する演算回路、演算回路で演算した歩行パラメータや測定値を感情推定装置1に無線で送信するための通信回路などを含んでいる。なお、加速度センサは、たとえば、X,Y,Zの3軸の加速度を測定でき、角速度センサは、たとえば、X,Y,Zの3軸それぞれの角速度を測定できる。そのため、センサモジュール21は、被験者Pの歩行データとして、加速度センサの測定値および角速度センサの測定値以外に、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地時の鉛直方向の加速度の最大値の歩行パラメータを得ることができる。ここで、着地時の鉛直方向の加速度の最大値は、着地時において足に加わる衝撃(着地衝撃)を評価する歩行パラメータの一例である。着地衝撃の歩行パラメータには、頭や体の重心の上下動で評価する方法や、フォースプレートや足圧マットなどで直接床反力を計測して評価する方法などがある。
【0016】
センサモジュール21から感情推定装置1への歩行パラメータなどのデータ移行は、無線による通信で行うと説明したが、これに限られない。たとえば、センサモジュール21から感情推定装置1への歩行パラメータなどのデータ移行を有線による通信で行っても、記録媒体(たとえば、メモリチップ,USBメモリなど)で行ってもよい。
【0017】
また、センサモジュール21は、加速度センサの測定値および角速度センサの測定値から歩行パラメータを演算すると説明したが、これに限られない。たとえば、センサモジュール21は、加速度センサの測定値および角速度センサの測定値を感情推定装置1へ送信するだけでもよく、感情推定装置1がセンサモジュール21より取得した加速度センサの測定値および角速度センサの測定値から歩行パラメータを演算してもよい。
【0018】
本開示では、測定装置2がスマートシューズであるとして以下説明するが、被験者Pの歩行データを測定する測定装置2はスマートシューズだけに限定されない。たとえば、測定装置2は、被験者Pの足元を含む全身の動きを認識することができる3次元姿勢認識カメラ(たとえば、Kinect(登録商標)など)、加速度センサおよび角速度センサを有するスマートフォンやスマートウォッチなどの携帯デバイスであってもよい。
【0019】
また、
図1に示すように対応データを求めるためには、歩行時における感情についてのアンケートを被験者Pから回答して貰い、被験者Pの感情を数値化した感情データを感情推定装置1に入力する必要がある。アンケートは、たとえば7点尺度で被験者Pに感情を評価して貰い、感情を数値化する。また、アンケートを行うタイミングは、被験者Pが歩行時に抱いていた感情を事後的に回答して貰う以外に、後述するように被験者Pに感情誘導を行った後に被験者Pの感情が誘導されたかを確認するために行ってもよい。感情誘導を行うのではなく、被験者Pに特定の感情を意識させた上で歩行させてもよく、この場合、被験者Pが意識した感情についてのアンケートを被験者Pから回答して貰う。
【0020】
本開示においては、感情推定装置1と、測定装置2とを備える感情推定システム100で歩行データから被験者Pの感情を推定すると説明するが、システムの構成はこれに限られない。たとえば、システムの構成として、感情推定装置1に測定装置2が一体となったシステムであっても、測定装置2に感情推定装置1が一体となったシステムであってもよい。具体的に、感情推定装置1に測定装置2が一体となったシステムとして、スマートフォンで被験者Pの歩行データを測定し、スマートフォンで測定した歩行データから被験者Pの感情を推定するシステムが考えられる。また、測定装置2に感情推定装置1が一体となったシステムとして、スマートシューズで被験者Pの歩行データを測定し、スマートシューズで測定した歩行データから被験者Pの感情を推定するシステムが考えられる。
【0021】
[感情推定装置の構成]
図3は、実施の形態1に係る感情推定装置1の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、感情推定装置1は、プロセッサ11と、メモリ12と、ストレージ13と、インターフェース14と、メディア読取装置15と、通信インターフェース16とを備える。これらの各構成は、プロセッサバス17を介して接続されている。
【0022】
プロセッサ11は、「演算部」の一例である。プロセッサ11は、ストレージ13に記憶されたプログラム(たとえば、OS(Operating System)130、推定プログラム131)を読み出し、読み出したプログラムをメモリ12に展開して実行するコンピュータである。プロセッサ11は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはMPU(Multi Processing Unit)などで構成される。なお、プロセッサ11は、演算回路(Processing Circuitry)で構成されていてもよい。
【0023】
メモリ12は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)またはSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリ、あるいは、ROM(Read Only Memory)またはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどで構成される。
【0024】
ストレージ13は、「記憶部」の一例である。ストレージ13は、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの不揮発性記憶装置などで構成される。ストレージ13は、OS130、推定プログラム131以外に、歩行データ132、感情データ133、および対応データ134などを記憶する。
【0025】
推定プログラム131は、歩行データ132から被験者Pの感情を推定する処理(後述する
図4に示す推定処理II)を実行するためのプログラムである。推定プログラム131は、歩行データ132から被験者Pの感情を推定する処理を行うための事前処理として、歩行データ132と感情データ133とを対応付けた対応データ134を求める処理(後述する
図4に示す準備処理I)を実行するためのプログラムを含んでもよい。
【0026】
歩行データ132は、測定装置2で測定した加速度、角速度、およびこれらの測定値から演算した歩行パラメータを含む。歩行データ132は、通信インターフェース16を介して測定装置2から入力を受け付け、ストレージ13に記憶されている。
【0027】
感情データ133は、7点尺度のアンケートで被験者Pに感情を評価して貰い数値化したデータを含む。感情データ133は、インターフェース14を介して入力を受け付け、ストレージ13に記憶されている。
【0028】
対応データ134は、歩行データ132と感情データ133を対応付けたデータであり、たとえば主成分分析を行って得られた分析結果のデータ、重回帰分析を行って得られた重回帰式、説明変数の係数のデータなどを含む。つまり、対応データ134には、新たに受け付けた歩行データ132から被験者Pの感情を推定するために必要なデータが含まれていればよい。
【0029】
インターフェース14は、「インターフェース」の一例である。インターフェース14は、被験者Pがキーボード、マウス、およびタッチデバイスなどを操作することで、アンケートで回答した感情データ133の入力を受け付ける。また、インターフェース14は、推定した被験者Pの感情を表す情報を、ディスプレイ、スピーカなどへ出力する。
【0030】
メディア読取装置15は、リムーバブルディスク18、メモリチップ、USBメモリなどの記憶媒体を受け入れ、リムーバブルディスク18、メモリチップ、USBメモリなどに格納されているデータを取得する。
【0031】
通信インターフェース16は、「インターフェース」の一例である。通信インターフェース16は、有線通信または無線通信を行うことによって、測定装置2、または他の装置との間でデータを送受信する。たとえば、通信インターフェース16は、測定装置2と通信することによって、測定装置2で測定した歩行データ132の入力を受け付ける。通信インターフェース16は、他の装置と通信することによって、推定した被験者Pの感情を表す情報を他の装置へ出力してもよい。
【0032】
なお、感情推定装置1は、歩行データ132と感情データ133とから対応データ134を求めると説明したが、一般化された対応データ134が事前に用意されているのであれば通信インターフェース16を介してサーバ等から受け付けてもよい。また、感情推定装置1は、メディア読取装置15によってリムーバブルディスク18などに記憶された対応データ134を読み取ってもよい。
【0033】
[感情推定処理]
感情推定装置1で実行される感情推定処理のフローチャートを参照しながら、歩行データ132から被験者Pの感情を推定する処理について説明する。
図4は、実施の形態1に係る感情推定装置1が実行する感情推定処理を説明するためのフローチャートである。
図4に示す各ステップは、感情推定装置1のプロセッサ11が推定プログラム131を実行することによって実現される。
【0034】
感情推定装置1は、歩行データ132から被験者Pの感情を推定するために、歩行データ132に含まれる複数の歩行パラメータと、感情データ133とを対応付けた対応データ134を予め求めておく必要がある。そのため、感情推定装置1は、歩行データ132から被験者Pの感情を推定する処理を行うための事前処理として、
図4に示すように、歩行データ132と感情データ133とを対応付けた対応データ134を求めるための準備処理Iを実行する。
【0035】
準備処理Iでは、対応データ134を求めるために、被験者Pに対して特定の感情を抱かせるための感情誘導を行った後に、歩行させて測定装置2で歩行データ132を測定する。人の感情は、たとえば、ラッセルの円環モデルを用いて分類することができる。
図5は、ラッセルの円環モデルを用いて感情を分類した模式図である。
図5に示すように、ラッセルの円環モデルでは、「嬉しい」、「怒り」、「落ち込む」等の感情を、「快-不快」および「覚醒-沈静」の二軸で表現し二次元座標平面にマッピングしたものである。本実施の形態では、ラッセルの円環モデルの「嬉しい」と感じる部分の感情を「嬉しい」とし、同モデルの「落ち込む」と感じる部分の感情を「落ち込んだ」とし、同モデルの「怒り」と感じる部分の感情を「イライラ」として、被験者Pに対して感情誘導を行う。
【0036】
準備処理Iでは、被験者Pに対して感情誘導を行う前に、感情誘導を行わない通常状態(コントロール状態)で歩行させて測定装置2で歩行データ132を測定する処理aを行う。感情推定装置1は、
図4に示す処理aにおいて、感情誘導を行わない通常状態で被験者Pに回答して貰ったアンケートの入力を受け付ける(ステップS101)。なお、ステップS101で行うアンケートは、感情誘導状態で行うアンケート(
図7参照)と同じである。さらに、測定装置2のスマートシューズを履いて被験者Pに所定距離(たとえば、5m)を2回歩行させることで、感情推定装置1は、当該歩行で測定した歩行データの入力を受け付ける(ステップS102)。
【0037】
準備処理Iでは、感情誘導を行わない通常状態で歩行データ132を測定する処理aの後に、感情誘導状態で歩行データ132を測定する処理bを行う。本実施の形態で感情誘導を行う「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の3つ感情それぞれについて、過去の体験を想起させる感情誘導課題が設定されている。
図6は、感情誘導するための感情誘導課題の一例を示す図である。感情誘導課題Q1は、「嬉しい」感情に誘導するため過去の体験を想起させる課題で「とても嬉しかった出来事について思い出してください。あなたがその出来事で思ったことを実際に思い、同じ感情を感じてください。」との文章が記載されている。
【0038】
感情誘導課題Q2は、「落ちこんだ」感情に誘導するため過去の体験を想起させる課題で「とても落ちこんだ出来事について思い出してください。あなたがその出来事で思ったことを実際に思い、同じ感情を感じてください。」との文章が記載されている。
【0039】
感情誘導課題Q3は、「イライラ」感情に誘導するため過去の体験を想起させる課題で「とてもイライラした出来事について思い出してください。あなたがその出来事で思ったことを実際に思い、同じ感情を感じてください。」との文章が記載されている。なお、感情誘導課題Q1~Q3は、被験者Pが読む文章である例を説明したがこれに限られず、音声、画像、動画像などであってもよい。
【0040】
被験者Pは、感情誘導課題Q1~Q3のいずれかの文章を読んで感情を誘導された後に、感情がどの程度誘導されたかを確認するため、7点尺度を用いて感情を評価するアンケートを回答する。
図7は、感情を数値化するためのアンケートAの一例を示す図である。
図7に示すアンケートAでは、(1)「今、あなたはどれくらい嬉しい気持ちですか?該当する数字を選択してください。」との問いに対して、人生で一番嬉しくない場合を「1点」、人生で一番嬉しい場合を「7点」、普通の場合を「4点」として回答する。また、
図7に示すアンケートAでは、(2)「今、あなたはどれくらい落ち込んだ気持ちですか?該当する数字を選択してください。」との問いに対して、人生で一番落ち込んでいない場合を「1点」、人生で一番落ち込んでいる場合を「7点」、普通の場合を「4点」として回答する。さらに、
図7に示すアンケートAでは、(3)「今、あなたはどれくらいイライラした気持ちですか?該当する数字を選択してください。」との問いに対して、人生で一番イライラしていない場合を「1点」、人生で一番イライラしている場合を「7点」、普通の場合を「4点」として回答する。
【0041】
感情推定装置1は、
図4に示す処理bにおいて、感情誘導状態で被験者Pに回答して貰ったアンケートAの入力を受け付ける(ステップS103)。さらに、測定装置2のスマートシューズを履いて被験者Pに所定距離(たとえば、5m)を歩行(たとえば2回)させることで、感情推定装置1は、当該歩行で測定した歩行データの入力を受け付ける(ステップS104)。なお、所定距離および歩行回数は例示であって、所定距離が、たとえば3m,10m、歩行回数が1回,3回でもよい。ステップS103~ステップS104の処理は、同じ被験者Pに対して、「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の3つ感情それぞれについて行うが、誘導する感情の順番は被験者Pごとにランダムとする。なお、
図7に示すアンケートAは、一例であって7点尺度を用いて感情を評価するアンケートに限られず、5点尺度や9点尺度などを用いて感情を評価するアンケートであってもよい。
【0042】
感情推定装置1は、
図4に示す処理aおよび処理bで取得した歩行データ132および感情データ133とを対応付けた対応データを求める(ステップS105)。具体的に、健常な20代から50代の18名(男性10名、女性8名)の被験者Pについて、取得した歩行データ132および感情データ133に基づいて対応付けの処理について説明する。まず、
図8は、実施の形態1に係る感情推定装置1における歩行パラメータと感情データとの関係の一例を示す図である。
図8には、各感情における歩行パラメータのそれぞれの平均値および標準偏差(カッコ書きの数値)を示すデータR1が示されている。
【0043】
データR1から、誘導した感情により歩行パラメータの変化に傾向があることが分かる。たとえば、感情が「イライラ」の場合、コントロール状態の場合に比べて多くの歩行パラメータの値に有意な差が見出せる。具体的に、感情が「イライラ」の場合、「ピッチ」が上昇し、「歩行速度」が増加し、「一歩にかかる時間」が減少し、「立脚期期間」が減少し、「遊脚期期間」が減少している。なお、これらの歩行パラメータについては、有意水準5%の統計的仮設検定において有意差ありと判定されている。なお、データR1では、アスタリスクを2つ(**)付与した値が、有意水準5%の統計的仮設検定において有意差ありと判定された値である。
【0044】
また、感情が「嬉しい」の場合、「歩行速度」が増加している。感情が「落ちこんだ」の場合、「ストライド」が減少し、「離地時のかかと上がり角度」が減少し、「プロネーション」が増加している。なお、これらの歩行パラメータについては、有意水準10%の統計的仮設検定において有意差ありと判定されている。なお、データR1では、アスタリスクを1つ(*)付与した値が、有意水準10%の統計的仮設検定において有意差ありと判定された値である。
【0045】
歩行動作は、各々の歩行パラメータが独立して変化する動作ではなく、各々の歩行パラメータが相互に影響しあって変化する動作である。そこで、複数の歩行パラメータに対して主成分分析を適用し、各感情に対する複数の歩行パラメータに及ぼす傾向について分析する。ここで、主成分分析とは、相関のある多数の変数から相関のない少数で全体のばらつきを最も表す変数(主成分)を合成し、次元圧縮する統計的手法の一つである。
図9は、実施の形態1に係る感情推定装置1における主成分分析の一例を示す図である。
図9には、18名の被験者Pから取得した歩行データ132および感情データ133に対して主成分分析を行ったデータR2が示されている。
【0046】
データR2には、3つの主成分PC1,PC2,PC3における各々の歩行パラメータの因子負荷量が示されている。ここで、因子負荷量とは、各々の歩行パラメータと主成分PC1,PC2,PC3との相関係数である。データR2において主成分PC2に着目すると、「ストライド」、「歩行速度」、「着地時のつま先上がり角度」の3つの歩行パラメータにおいて相関係数の絶対値が0.4以上と高い。これら3つの歩行パラメータは、いずれの負の相関を示しているので、「ストライド」が小さいほど、「歩行速度」が遅いほど、「着地時のつま先上がり角度」が小さいほど、主成分PC2の値が大きくなることが分かる。これらの関係から、新たに合成した主成分PC2は、「小さい動きの歩行」を表す変数であると解釈することができる。
【0047】
図10は、
図9に示す主成分分析をグラフ化した一例を示す図である。
図10には、主成分PC1を横軸,主成分PC2を縦軸として、感情データ133をプロットしたグラフが示されている。
図10に示すグラフでは、「嬉しい」感情の感情データ133を丸でプロットし、「落ち込んだ」感情の感情データ133を三角でプロットし、「イライラ」の感情の感情データ133を四角でプロットしている。
【0048】
主成分PC2の値が0(ゼロ)のところに破線が引かれているが、この破線の辺りには「嬉しい」感情の感情データ133が多くプロットされている。さらに、主成分PC2の値が正の範囲には「落ち込んだ」感情の感情データ133が多くプロットされ、主成分PC2の値が負の範囲には「イライラ」の感情の感情データ133が多くプロットされている。そのため、
図10に示すグラフから、主成分PC2の値が大きくなるに従い「イライラ」、「嬉しい」、「落ち込んだ」の順で感情が変化することが分かる。つまり、主成分PC2を、対応データ134として採用することで、「イライラ」、「嬉しい」、「落ち込んだ」の感情を歩行データ132から推定することが可能となる。
【0049】
主成分PC2の値の変化により、「イライラ」、「嬉しい」、「落ち込んだ」と感情が変化していることから、
図5に示したラッセルの円環モデルの「快-不快」の軸でスコア化が可能であると考えられる。そこで、「快-不快」の軸とした重回帰分析を行う。
図11は、実施の形態1に係る感情推定装置1における重回帰分析の一例を示す図である。
図11には、「嬉しい」-「落ち込んだ」を軸とする得点を目的変数とし、歩行データ132の11個の歩行パラメータを説明変数として重回帰分析を行ったデータR3が示されている。なお、
図11に示す重回帰分析では、重相関係数R=0.506218であった。
【0050】
目的変数である「嬉しい」-「落ち込んだ」を軸とする得点は、「嬉しい」感情の得点と「落ち込んだ」感情の得点との組み合わせで求められる。しかし、「落ち込んだ」感情の得点は、
図7で示したように7点尺度で評価し、人生で一番落ち込んでいない場合を「1点」、人生で一番落ち込んでいる場合を「7点」としている。そのため、単純に組み合わると、人生で一番落ち込んでいる場合の得点が最も低い得点、人生で一番嬉しい場合の得点が最も高い得点とならない。そこで、「嬉しい」-「落ち込んだ」を軸とする得点は次のような関係式で定義している。関係式は、「嬉しい」-「落ち込んだ」を軸とする得点(目的変数)=「嬉しい」感情の得点+(8点-「落ち込んだ」感情の得点)である。
【0051】
具体的に、人生で一番嬉しい場合、「嬉しい」感情の得点が7点、「落ち込んだ」感情の得点が1点となるので、目的変数=7点+(8点-1点)=14点となる。人生で一番落ち込んでいる場合、「嬉しい」感情の得点が1点、「落ち込んだ」感情の得点が7点となるので、目的変数=1点+(8点-7点)=2点となる。普通の場合、「嬉しい」感情の得点が4点、「落ち込んだ」感情の得点が4点となるので、目的変数=4点+(8点-4点)=8点となる。
【0052】
データR3では、目的変数に対する各々の説明変数の係数が示されている。データR3に示す説明変数のうち、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータの係数の絶対値が3以上と高い。つまり、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータが、目的変数への寄与度が大きい。そのため、感情推定装置1は、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータを説明変数とする重回帰式を対応データ134として採用することで、「嬉しい」-「落ち込んだ」の範囲において感情を歩行データ132から推定することが可能となる。
【0053】
目的変数への寄与度は、「歩行速度」、「ストライド」、「ピッチ」の順で大きいため、感情推定装置1は、上位の2つの歩行パラメータから感情を推定してもよい。また、感情推定装置1は、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータのうち、少なくとも1つの歩行パラメータから感情を推定してもよい。さらに、感情推定装置1は、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータ以外の歩行パラメータを追加して感情を推定してもよく、感情を推定するための歩行パラメータを増やすことで推定精度を高めることができる。
【0054】
図4に戻って、感情推定装置1は、前述したように準備処理Iで対応データ134を予め求めておくことで、新たに受け付けた歩行データ132から被験者Pの感情を推定する推定処理IIを実行することができる。感情推定装置1は、測定装置2で測定した新たな歩行データ132を受け付けたか否かを判断する(ステップS106)。新たな歩行データ132を受け付けていない場合(ステップS106でNO)、感情推定装置1は、処理をステップS106に戻し、新たな歩行データ132の入力を待つ。
【0055】
新たな歩行データ132を受け付けた場合(ステップS106でYES)、感情推定装置1は、新たに受け付けた歩行データ132と対応データ134とに基づいて被験者Pの感情を推定する(ステップS107)。具体的に、感情推定装置1は、新たに受け付けた歩行データ132の中から「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータの値を、
図11で示した重回帰式に代入して目的変数の値を求め、当該値に対応する感情を推定する。感情推定装置1は、たとえば、目的変数の値が14点に近い場合、被験者Pの感情が「嬉しい」と推定し、目的変数の値が2点に近い場合、被験者Pの感情が「落ち込んだ」と推定する。
【0056】
感情推定装置1は、ステップS107で推定した被験者Pの感情を表す情報をインターフェース14から出力する(ステップS108)。ここで、感情を表す情報とは、単純に「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の文字または音声の情報だけでなく、「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の感情に対応するアイコン、音、画像、動画像などの情報を含む。具体的に、感情推定装置1は、推定した感情に対応して「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の文字をディスプレイに表示したり、「嬉しい」、「落ちこんだ」、「イライラ」の音声をスピーカから出力したりする。また、感情を表す情報として、「嬉しい」を100点、「落ちこんだ」を0点として点数化して表示したり、ラッセルの円環モデルの二次元座標平面に推定した感情をプロットして表示したりしてもよい。さらに、感情推定装置1は、感情を表す情報を出力する方法として視覚や聴覚で認識できる方法に限定せず、嗅覚や触覚などで認識できる方法で出力してもよい。
【0057】
(実施の形態2)
実施の形態1に係る感情推定システム100では、歩行データ132から被験者Pの感情を推定することを説明した。しかし、感情と歩容との関係について一定の対応関係があることが分かっているのであれば、歩容を変えることで感情を変えることができる可能性が考えられる。そこで、実施の形態2に係る感情推定システムでは、歩行データから推定した感情を異なる感情に変えるための歩行アドバイスを行う構成について説明する。なお、実施の形態2に係る感情推定システムは、実施の形態1に係る感情推定システム100と同じハードウェア構成であり、感情推定装置1のハードウェア構成を含んでいる。そのため、実施の形態2に係る感情推定システムのハードウェア構成については、詳細な説明を繰り返さない。
【0058】
図12は、実施の形態2に係る感情推定装置1が実行する感情推定処理を説明するためのフローチャートである。なお、
図12に示す準備処理Iおよび推定処理IIについては、
図4に示す準備処理Iおよび推定処理IIと同じ処理であるため、詳細な説明を繰り返さない。
図12に示すフローチャートでは、推定処理IIの後、推定した感情を異なる感情に変えるための歩行アドバイスを行う推奨処理IIIを行う。
【0059】
感情推定装置1は、ステップS107で推定した被験者Pの感情が
図5に示すラッセルの円環モデルの不快に分類される感情か否かを判断する(ステップS107a)。具体的に、感情推定装置1は、
図11で示した重回帰式から求められる目的変数の値が8点より小さい場合、被験者Pの感情が「落ち込んだ」と推定され不快な感情と判断される。逆に、感情推定装置1は、
図11で示した重回帰式から求められる目的変数の値が8点以上の場合、被験者Pの感情が「嬉しい」と推定され快い感情と判断される。なお、感情推定装置1は、目的変数の値が8点の場合、被験者Pの感情が通常状態と判断してもよい。
【0060】
被験者Pの感情が快い感情と判断された場合(ステップS107aでNO)、感情推定装置1は、ステップS107で推定した被験者Pの感情を表す情報をインターフェース14から出力する(ステップS108)。
【0061】
一方、被験者Pの感情が不快な感情と判断された場合(ステップS107aでYES)、感情推定装置1は、快い感情に対応付けられた歩行データ132を対応データ134から求め、不快な感情と推定した歩行データ132を快い感情に対応付けられた歩行データ132に近づけるための歩行アドバイスをインターフェース14から出力する(ステップS109)。具体的に、感情推定装置1は、被験者Pの感情が「落ち込んだ」と推定され不快な感情と判断された場合、「嬉しい」感情と推定される目的変数の値が14点となる歩行パラメータの値を
図11で示した重回帰式から求める。さらに、感情推定装置1は、求めた歩行パラメータの値に被験者Pの歩行パラメータを近づけるため、たとえば「少し速く歩いてみて下さい」などの歩行アドバイスをディスプレイに表示する。
【0062】
歩行アドバイスを受けて被験者Pが歩行を改善することで、被験者Pの感情を不快な感情から快い感情へと変化させる可能性がある。なお、
図12に示すフローチャートでは、不快な感情(第1感情)から快い感情(第2感情)に代えるために歩行アドバイスを行う推奨処理IIIについて説明しましたが、もちろん、快い感情(第1感情)から不快な感情(第2感情)に代えるために歩行アドバイスを行うことも可能である。また、第1感情を沈静とし、第2感情を覚醒として歩行アドバイスを行っても、逆に第1感情を覚醒とし、第2感情を沈静として歩行アドバイスを行ってもよい。
【0063】
(実施の形態3)
実施の形態1に係る感情推定システム100では、感情推定装置1が、歩行データから被験者Pの感情を推定するために、歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを予め求めておく必要があると説明した。しかし、実施の形態1で説明した実例に基づく対応付けの処理において、「ストライド」、「ピッチ」、「歩行速度」の3つの歩行パラメータのうち、少なくとも1つの歩行パラメータが、被験者Pの感情への寄与度が高いことが分かった。そこで、実施の形態3では、これらの歩行パラメータから被験者Pの感情をスコア化して簡便に感情を推定する感情推定装置およびこれを含む感情推定システムについて説明する。
【0064】
図13は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aを含む感情推定システム200の構成を示す概略図である。感情推定システム200は、歩行データから被験者Pの感情を
図5に示したラッセルの円環モデルの「嬉しい」-「落ち込んだ」を軸としてスコア化する感情推定装置1Aと、被験者Pの歩行データを測定する測定装置2と、を含む。なお、ラッセルの円環モデルの「嬉しい」との表記を、以下「活き活きした」と読み替えて説明する。
【0065】
感情推定装置1Aは、歩行データから被験者Pの感情をスコア化するために、あらかじめ用意されている母集団データとの比較を行う必要がある。本開示では、様々の属性(たとえば、性別、年代、人種など)の被験者の歩行データを含む一般化された母集団データを用いて感情をスコア化する例を説明する。しかし、感情推定装置1Aで起用される母集団データは、属性(たとえば、性別、年代、人種など)ごとに集められた歩行データを含む母集団データであっても、個人別に集められた歩行データ(たとえば、直近10日間の累積)を含む母集団データなどであってもよい。また、本開示では、母集団データを感情推定装置1Aで記憶していると説明するが、クラウドなど感情推定装置1A以外の場所で母集団データが記憶されていてもよい。
【0066】
図13に示す感情推定システム200では、測定装置2がスマートシューズである例を示す。
図13には、測定装置2であるスマートシューズに、センサモジュール21が組み込まれており、当該センサモジュール21で被験者Pの歩行データを測定する。センサモジュール21については実施の形態1で説明しているため、センサモジュール21の詳細な説明を繰り返さない。
【0067】
図14は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aの構成を示すブロック図である。感情推定装置1Aは、たとえば、スマートフォンやタブレット端末などの被験者Pの携帯端末である。感情推定装置1Aは、主たる構成要素として、プロセッサ11Aと、メモリ12Aと、マイク13Aと、入力装置14Aと、メモリインターフェイス(I/F)15Aと、通信インターフェイス(I/F)16Aと、ディスプレイ17Aと、スピーカ18Aと、無線通信部19Aと、センサ20Aとを含む。
【0068】
プロセッサ11Aは、典型的には、CPUやMPUといった演算部である。プロセッサ11Aは、メモリ12Aに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、感情推定装置1の各部の動作を制御する制御部として機能する。プロセッサ11Aは、当該プログラムを実行することによって、感情推定装置1での被験者Pの感情のスコア化の処理を実現する。
【0069】
メモリ12Aは、RAM、ROM、フラッシュメモリなどによって実現される。メモリ12Aは、プロセッサ11Aによって実行されるプログラム、またはプロセッサ11Aによって用いられるデータなどを記憶する。マイク13Aは、感情推定装置1Aに対する音声入力を受け付けて、当該音声入力に対応する音声信号をプロセッサ11Aに与える。
【0070】
入力装置14Aは、感情推定装置1Aに対する操作入力を受け付ける。典型的には、入力装置14Aは、タッチパネルによって実現される。タッチパネルは、表示部としての機能を有するディスプレイ17A上に設けられており、例えば、静電容量方式タイプである。タッチパネルは、所定時間毎に外部物体によるタッチパネルへのタッチ操作を検知し、タッチ座標をプロセッサ11Aに入力する。ただし、入力装置14Aは、ボタンなどを含んでいてもよい。
【0071】
メモリインターフェイス15Aは、外部の記憶媒体150からデータを読み出す。プロセッサ11Aは、メモリインターフェイス15Aを介して記憶媒体150に格納されているデータを読み出して、当該データをメモリ12Aに格納する。プロセッサ11Aは、メモリ12Aからデータを読み出して、メモリインターフェイス15Aを介して当該データを外部の記憶媒体150に格納する。
【0072】
記憶媒体150は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカードなどの不揮発的にプログラムを格納する媒体を含む。
【0073】
通信インターフェイス(I/F)16Aは、感情推定装置1Aと測定装置2との間で各種データをやり取りするための通信インターフェイスであり、アダプタやコネクタなどによって実現される。通信方式としては、例えば、BLE(Bluetooth(登録商標)lowenergy)、無線LANなどによる無線通信方式が採用される。
【0074】
スピーカ18Aは、プロセッサ11Aから与えられる音声信号を音声に変換して感情推定装置1Aの外部へ出力する。
【0075】
無線通信部19Aは、通信アンテナ190を介して移動体通信網に接続し無線通信のための信号を送受信する。これにより、感情推定装置1Aは、たとえば、LTE(Long Term Evolution)や5Gなどの移動体通信網を介して他の通信装置との通信が可能となる。
【0076】
センサ20Aは、加速度センサであり、感情推定装置1Aを携帯している被験者Pの動きを測定することができる。そのため、センサ20Aは、被験者Pが座っている、または寝ているなどの不動時間を検出することができる。
【0077】
[マインドスコア算出処理]
次に、感情推定装置1Aが、ラッセルの円環モデルの「活き活きした」-「落ち込んだ」を軸に被験者Pの感情をスコア化してマインドスコアを求める処理について説明する。ここで、マインドスコアとは、「活き活きした」を100点、「落ち込んだ」を1点として被験者Pの感情をスコア化した評価値である。
図15は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aがマインドスコアを求める処理を説明するためのフローチャートである。
【0078】
感情推定装置1Aは、所定の期間毎(たとえば、1分毎)に測定装置2で測定した歩行データの入力を受け付ける。なお、感情推定装置1Aは、測定装置2と常時接続されている場合について以下説明するが、測定装置2と常時接続されていなくてもよい。感情推定装置1Aが測定装置2と常時接続されていない場合、感情推定装置1Aは測定装置2と接続されたタイミングで歩行データの入力を受け付ける。たとえば、感情推定装置1Aがスマートフォンで測定装置2がスマートシューズのセンサモジュール21の場合、被験者Pがスマートシューズを履いてスマートフォンとセンサモジュール21との通信を開始したタイミングでスマートフォンが歩行データの入力を受け付ける。スマートフォンとセンサモジュール21とが通信可能な状態であれば、以降、所定の期間毎(たとえば、1分毎)にセンサモジュール21からスマートフォンが歩行データの入力を受け付けてもよい。
【0079】
まず、感情推定装置1Aは、歩行データの入力を受け付けるタイミングか否かを判断する(ステップS301)。歩行データの入力を受け付けるタイミングであると判断した場合(ステップS301でYES)感情推定装置1Aは、測定装置2で測定した歩行データの入力を受け付ける(ステップS302)。感情推定装置1Aが受け付ける歩行データには、歩行速度、ストライド、接地角度(着地時のつま先上がり角度、または離地時のかかと上がり角度)の各パラメータを含む。
【0080】
なお、感情推定装置1Aは、マインドスコアを求めるために、歩行速度、ストライド、ピッチのうち少なくとも1つのパラメータを含む歩行データを受け付ければよい。また、歩行データは、測定装置2で測定されるデータであると以下説明するが、歩行速度、ストライド、ピッチなどの歩行パラメータを感情推定装置1Aのセンサ20A(スマートフォンの加速度センサ)で測定しても、他のウェアラブルデバイスで測定してもよい。
【0081】
歩行データの入力を受け付けるタイミングでないと判断した場合(ステップS301でNO)、感情推定装置1Aは、ステップS302の処理をスキップする。次に、感情推定装置1Aは、所定の期間毎(たとえば、1分毎)に不動時間データの入力を受け付ける。感情推定装置1Aは、不動時間データの入力を受け付けるタイミングか否かを判断する(ステップS303)。不動時間データの入力を受け付けるタイミングであると判断した場合(ステップS303でYES)感情推定装置1Aは、不動時間データの入力を受け付ける(ステップS304)。
【0082】
ここで、不動時間データとは、被験者Pが歩行していない時間であり、たとえば被験者Pが座っている時間や寝ている時間である。不動時間データは、感情推定装置1Aのセンサ20A(スマートフォンの加速度センサ)で測定される。それ以外に、測定装置2であるスマートシューズから得られた歩行パラメータから不動時間データを算出してもよい。
【0083】
感情推定装置1Aは、歩行データ以外に、不動時間データを使ってマインドスコアを補正することで、歩行時以外の被験者Pの感情もスコア化でき、マインドスコアを求めることができる。具体的に、感情推定装置1Aは、不動時間データに応じてマインドスコアを減点する。これは、座位時間とメンタルヘルスとの関係を検証した文献(甲斐裕子、外4名、「日本人勤労者における座位行動とメンタルヘルスの関連」、体力研究、BULLETIN OF THE PHYSICAL FITNESS RESEARCH INSTITUTE、No.114、pp.1~10、Apr.,2016)に、座位時間が長いとメンタルヘルスが低下するという研究結果に基づいている。そのため、感情推定装置1Aは、歩行時に求めたマインドスコアから、被験者Pが歩行していない不動時間に応じた点数を減点することで、歩行時以外の被験者Pの感情をスコア化することができる。
【0084】
不動時間データの入力を受け付けるタイミングでないと判断した場合(ステップS303でNO)、感情推定装置1Aは、ステップS304の処理をスキップする。次に、感情推定装置1Aは、所定のタイミング(たとえば、毎朝1回)で感情データの入力を受け付ける。感情推定装置1Aは、感情データの入力を受け付けるタイミングか否かを判断する(ステップS305)。感情時間データの入力を受け付けるタイミングであると判断した場合(ステップS305でYES)、感情推定装置1Aは、感情データの入力を受け付ける(ステップS306)。ここで、感情データとは、感情推定装置1Aのディスプレイ17Aに表示されたアンケートを被験者Pが回答することで得られる被験者Pの主観的な評価値である。
【0085】
図16は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aにおいて感情データを入力するための入力画面の一例を示す図である。ディスプレイ17Aに表示される入力画面171には、「おはようございます。」、「今朝の気分はいかがですか?」、「星1つ~星5つで入力してください。」が表示され、星の入力画面172が表示される。被験者Pは、今朝の気分に応じて悪ければ星1つを入力し、良ければ星5つを入力装置14A(たとえば、タッチパネル)で入力する。その後、被験者Pは、「閉じる」ボタン173を押して、感情データの入力を終了する。なお、感情データの入力は、5段階ではなく、1~100%などのような数値による入力でもよい。
【0086】
感情推定装置1Aは、歩行データ以外に、感情データを使ってマインドスコアを補正することで、マインドスコアの精度を向上させることができる。歩行データから求められるマインドスコアは、被験者Pの気分に応じて変動が大きい。そこで、感情推定装置1Aは、毎朝1回、感情データを入力することで、その日の気分に合わせてマインドスコアを調整することができ、マインドスコアの精度が向上する。特に、毎朝1回、感情データを入力するのは、長時間寝ていた状態から活動を始めて歩行データによる感情のスコア化を開始する際の初期値調整の意味がある。ただし、感情データを入力するタイミングは、毎朝1回に限定されず、数時間毎に入力してよい。なお、感情データの入力回数は、被験者Pが入力操作を煩わしく感じない程度回数にすることが望ましい。また、感情データの内容は、被験者Pの今朝の気分に限られず、入力画面171に表示されるアンケートにより、現在の気分、身体の疲れ、睡眠の質などの被験者Pの主観的な評価値であればよい。
【0087】
図15に戻って、感情時間データの入力を受け付けるタイミングでないと判断した場合(ステップS305でNO)、感情推定装置1Aは、ステップS306の処理をスキップする。次に、感情推定装置1Aは、歩行パラメータ(たとえば、歩行速度、ストライド、接地角度)と母集団データとの比較に基づき、マインドスコアを求める(ステップS307)。
【0088】
具体的に、マインドスコアの求め方について説明する。
図17は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aにおいてマインドスコアを求める演算の一例を説明するための図である。
図17では、感情推定装置1Aが、ステップS301で入力された3つの歩行パラメータ(たとえば、歩行速度、ストライド、接地角度)からマインドスコアを算出する。感情推定装置1Aは、測定装置2から歩行データの入力を所定の期間毎に受け付けることで、マインドスコアを所定の期間毎(たとえば、1分毎)、算出することができる。
【0089】
歩行速度、ストライド、接地角度の3つの歩行パラメータは、値が大きいほど「活き活きした」感情であると推測することができる。そこで、感情推定装置1Aは、以下の式1に従い、各歩行パラメータの値と母集団データとに基づいて歩行スコアを算出する。なお、式1は、一例であって、別の式で歩行スコアを算出してもよい。
歩行スコア=A*歩行速度スコア+B*ストライドスコア+C*接地角度スコア(式1)
ここで、歩行速度スコア、ストライドスコア、および接地角度スコアは、以下のように算出する。
・歩行速度スコア=D1+E1*(歩行速度-歩行速度の母集団データの平均値)/歩行速度の母集団データの標準偏差。
・ストライドスコア=D2+E2*(ストライド-ストライドの母集団データの平均値)/ストライドの母集団データの標準偏差。
・接地角度スコア=D3+E3*(接地角度-接地角度の母集団データの平均値)/接地角度の母集団データの標準偏差。
【0090】
なお、A~Cは、各スコアに対する重み付けの係数である。A~Cの値は、たとえば、0.1~0.9の範囲で設定することができ、A+B+C=1となる条件を満たせばよい。また、D1~D3は、各スコアの初期値で、たとえば40~80の範囲の値に設定でき、すべて同じ値であっても異なる値であってもよい。E1~E3は、各スコアの加算係数で、たとえば5~20の範囲の値に設定でき、すべて同じ値であっても異なる値であってもよい。歩行スコアは、1点~100点までの値とし、100点以上となった場合には100点とする。
【0091】
不動時間データに含まれる不動時間が長いほど「落ち込んだ」感情に近づくと推測することができる。そこで、感情推定装置1Aは、以下の式2に従い、不動時間スコアを算出する。なお、式2は、一例であって、別の式で不動時間スコアを算出してもよい。
不動時間スコア=F-G(不動時間-60分)・・・(式2)
なお、Fは、不動時間スコアの初期値で、たとえば40~80の範囲の値に設定できる。Gは、不動時間スコアの減算係数で、たとえば1~5の範囲の値に設定できる。不動スコアは、1点~100点までの値とし、1点以下となった場合には1点とする。また、歩行データが取得できている時間帯は、1分毎に不動時間スコアを1点増加させてもよい。
【0092】
感情スコアは、
図16の入力画面171で入力した感情データに基づき、たとえば、星1つで-2点、星2つで-1点、星3つで0点、星4つで1点、星5つで2点とスコア化する。
【0093】
感情推定装置1Aは、
図17に示すように、式1で算出した歩行スコア、式2で算出した不動時間スコア、感情スコアを合計してマインドスコアを算出する。具体的に、感情推定装置1Aでは、式3に基づいてマインドスコアを算出する。なお、式3は、一例であって、別の式でマインドスコアを算出してもよい。
マインドスコア=((歩行スコア+不動時間スコア)/2)+感情スコア*10(式3)
感情推定装置1Aは、たとえば24時間マインドスコアを算出することができるように、測定装置2から歩行データが得られない期間について、直近に算出した歩行スコアを利用してマインドスコアを算出している。また、感情推定装置1Aは、直近に算出した歩行スコアを利用できない場合(たとえば、1日を通して被験者Pが歩行しなかった場合)であってもマインドスコアを算出できるように、不動時間スコア+感情スコア*10の値でマインドスコアを算出することができる。
【0094】
図15に戻って、感情推定装置1Aは、ステップS307で求めたマインドスコアを出力する(ステップS308)。具体的に、感情推定装置1Aは、ディスプレイ17Aに求めたマインドスコアを表示する。
図18は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aにおいてマインドスコアを出力するための出力画面174の一例を示す図である。ディスプレイ17Aに表示される出力画面174には、現在のマインドスコアの数値とともに、棒グラフ175でマインドスコアが表示されている。ディスプレイ17Aに表示されるマインドスコアは、1分毎に更新されるマインドスコアであっても、1日の累積平均値したマインドスコアであっても、活動している時間帯のマインドスコアを平均した値であってもよい。
【0095】
また、出力画面174には、マインドスコア以外に、現在の歩数、マインドスコアに応じた歩行アドバイス176なども出力される。歩行アドバイス176では、マインドスコアが低下しているので、被験者Pに歩行を促すために「少し歩いて気分転換しませんか?」となっている。なお、出力画面174には、歩行スコア、不動時間スコア、感情スコアについて表示されていないが、表示できるようにしてもよい。
【0096】
感情推定装置1Aでは、マインドスコアを出力する以外に、各歩行パラメータの時間変化を出力してもよい。具体的に、
図18に示す出力画面174の「次へ」のボタン177を押すと、各歩行パラメータの時系列の変化が出力される。
図19は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aにおいて歩行パラメータを出力するための出力画面178の一例を示す図である。出力画面178には、歩行速度の時系列のグラフ179、ストライドの時系列のグラフ180、および接地角度の時系列のグラフ181が表示されている。感情推定装置1Aは、出力画面178に被験者Pが選択した歩行パラメータの時系列のグラフのみ表示できるようしてもよい。なお、ディスプレイ17Aは、
図19に示す出力画面178の「戻る」のボタン182が押されると、
図18に示す出力画面174に戻る。
【0097】
図15に戻って、感情推定装置1Aは、ステップS308でマインドスコアを出力した後、マインドスコア算出処理を終了するか否かの入力を受け付ける(ステップS309)。マインドスコア算出処理を終了する入力を受け付けていない場合(ステップS309でNO)、感情推定装置1Aは、処理をステップS301に戻し、マインドスコア算出処理を継続する。一方、マインドスコア算出処理を終了する入力を受け付けた場合(ステップS309でYES)、感情推定装置1Aは、マインドスコア算出処理を終了する。
【0098】
図17で説明したマインドスコアの求め方では、ステップS301で入力された3つの歩行パラメータ(たとえば、歩行速度、ストライド、接地角度)からマインドスコアを算出する。しかし、感情推定装置1Aは、歩行速度、ストライド、ピッチのうち少なくとも1つのパラメータからマインドスコアを算出することができる。
図20は、実施の形態3に係る感情推定装置1Aにおいてマインドスコアを求める別の演算の一例を説明するための図である。
図20では、感情推定装置1Aが、ステップS301で入力された1つの歩行パラメータ(たとえば、歩行速度)からマインドスコアを算出する。
【0099】
図20では、感情推定装置1Aが、歩行速度スコアを歩行スコアとして算出する。感情推定装置1Aは、歩行スコア(=歩行速度スコア)、式2で算出した不動時間スコア、感情スコアを合計してマインドスコアを算出する。具体的に、感情推定装置1Aは、式3に基づいてマインドスコアを算出する。
【0100】
さらに、実施の形態3では、感情推定装置1Aが、歩行データから被験者Pの感情をラッセルの円環モデルの「活き活きした」-「落ち込んだ」を軸でスコア化すると説明したが、軸をさらに「活き活きした」-「憂鬱」の範囲に広げてもよい。たとえば、感情推定装置1Aは、マインドスコアを「活き活きした」を100点、「落ち込んだ」を1点、「憂鬱」を-20点として被験者Pの感情をスコア化する。「憂鬱」という状態は、「落ち込んだ」状態よりも更にマインドが低下した状態であると考えられる。文献(村田伸、外4名、「抑うつ傾向にある高齢者の歩行の特徴」、Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy、Vol.7,No.3:127-131,2017)においても、「抑うつ傾向にある高齢者の歩容の特徴として,歩行速度の低下に関与するストライドや歩幅の減少と立脚時間や両脚支持時間の延長が認められた」との研究結果があり、「落ち込んだ」ときのマインドスコアから更に低いスコアになると考えられる。
【0101】
[変形例]
本開示は、前述の実施の形態に限られず、さらに種々の変形、応用が可能である。特に、前述した歩行データ132と感情データ133との対応付けのための分析や方法は一例に過ぎない。たとえば、
図5に示したラッセルの円環モデルの「快-不快」の軸でのスコア化だけでなく、「覚醒-沈静」の軸についてもスコア化することでラッセルの円環モデルの二次元座標平面上において分類されている様々な感情について歩行データ132から推定することが可能となる。
【0102】
測定装置2をスマートシューズとした場合、歩行データとして測定可能な歩行パラメータには、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地時の鉛直方向の加速度の最大値が含まれる。そのため、感情推定装置1で入力を受け付けることができる歩行データ132には、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地時の鉛直方向の加速度の最大値のうち少なくとも3つのパラメータを含めることができる。なお、説明した歩行パラメータは、スマートシューズで測定できる歩行パラメータの一例であって、他の歩行パラメータを演算で求めたり、別のセンサを設けて他の歩行パラメータを測定できるようにしたりしてもよい。
【0103】
測定装置2をスマートフォンとした場合、機種によって、歩行データとして測定可能な歩行パラメータには、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、および最大足上がり高さなどを含めることができないことがある。その場合、感情推定装置1で入力を受け付けることができる歩行データ132には、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、および遊脚期期間のうち少なくとも2つのパラメータを含めることができる。なお、測定装置2をスマートフォンとした場合であっても、他の3次元姿勢認識カメラなどからの情報から、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地時の鉛直方向の加速度の最大値の歩行パラメータを取得できるようにしてもよい。
【0104】
前述の実施の形態では、感情誘導を行って被験者Pに対して特定の感情を抱かせた状態で、歩行データ132を測定装置2で測定している。しかし、被験者Pに対して特定の感情を抱かせる方法は、感情誘導に限定されず、被験者Pに特定の感情を意識させることで、特定の感情を抱かせてもよい。また、被験者Pが特定の感情を抱いているタイミングに、歩行させて測定装置2で歩行データ132を測定してもよい。
【0105】
[態様]
(1)本開示に係る感情推定装置は、被験者の感情を推定する感情推定装置であって、測定装置で測定した被験者の歩行データ、および被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるインターフェースと、インターフェースで入力を受け付けた歩行データ、および感情データを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを求める演算部と、を備え、演算部は、インターフェースで歩行データの入力を新たに受け付けた場合、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定し、推定した被験者の感情を表す情報をインターフェースから出力する。
【0106】
これにより、本開示に係る感情推定装置は、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定するので、日常の活動の中から得られる歩行データに基づいて被験者の感情を推定することができる。
【0107】
(2)(1)に記載の感情推定装置であって、歩行データは、ストライド、ピッチ、および歩行速度の歩行パラメータのうち少なくとも1つのパラメータを含む。
【0108】
(3)(1)に記載の感情推定装置であって、歩行データは、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、および着地時のつま先上がり角度のうち少なくとも2つのパラメータを含む。
【0109】
(4)(1)に記載の感情推定装置であって、歩行データは、ストライド、ピッチ、歩行速度、一歩にかかる時間、立脚期期間、遊脚期期間、着地時のつま先上がり角度、離地時のかかと上がり角度、プロネーション、最大足上がり高さ、および着地衝撃のうち少なくとも3つのパラメータを含む。
【0110】
(5)(1)~(4)のいずれか1項に記載の感情推定装置であって、演算部は、歩行データから新たに推定した被験者の感情が第1感情である場合、第1感情と異なる第2感情に対応付けられた歩行データを対応データから求め、第1感情と推定した歩行データを第2感情に対応付けられた歩行データに近づけるための歩行アドバイスをインターフェースから出力する。
【0111】
(6)(5)に記載の感情推定装置であって、第1感情は、不快に分類される感情であり、第2感情は、快いに分類される感情である。
【0112】
(7)本開示に係る感情推定システムは、被験者の歩行データを測定する測定装置と、(1)~(6)のいずれか1項に記載の感情推定装置と、を備える。
【0113】
(8)本開示に係る感情推定方法は、被験者の感情を推定する感情推定方法であって、測定装置で測定した被験者の歩行データ、および被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付けるステップと、入力を受け付けた歩行データ、および感情データを記憶部に記憶するステップと、記憶部に記憶された歩行データに含まれる複数の歩行パラメータと、感情データとを対応付けた対応データを求めるステップと、歩行データの入力を新たに受け付けた場合、対応データに基づき、新たに受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータから被験者の感情を推定するステップと、推定した被験者の感情を表す情報を出力するステップと、を含む。
【0114】
(9)(8)に記載の感情推定方法であって、歩行データから新たに推定した被験者の感情が第1感情である場合、第1感情と異なる第2感情に対応付けられた歩行データを対応データから求め、第1感情と推定した歩行データを第2感情に対応付けられた歩行データに近づけるための歩行アドバイスを出力するステップをさらに含む。
【0115】
(10)本開示に係る別の感情推定装置は、ラッセルの円環モデルの軸に基づく感情をスコア化して、被験者の感情を推定する感情推定装置であって、測定装置で測定した被験者の歩行データを受け付ける入力部と、歩行データに含まれる複数の歩行パラメータについて各パラメータの母集団データを記憶する記憶部と、入力部で入力を受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータのうち、ストライド、ピッチ、および歩行速度の少なくとも1つのパラメータと、記憶部に記憶する母集団データとの比較に基づき、被験者の感情をスコア化したマインドスコアを求める演算部と、演算部で求めたマインドスコアを出力する出力部と、を備える。
【0116】
(11)(10)に記載の感情推定装置であって、演算部は、複数の歩行パラメータのうち、ストライドおよび歩行速度に加えて着地時のつま先上がり角度または離地時のかかと上がり角度の各パラメータと、記憶部に記憶する母集団データとの比較に基づき、マインドスコアを求める。
【0117】
(12)(10)または(11)に記載の感情推定装置であって、入力部は、被験者が歩行していない不動時間データの入力を受け付け、演算部は、入力部で受け付けた不動時間データで、マインドスコアを補正する。
【0118】
(13)(10)~(12)のいずれか1項に記載の感情推定装置であって、入力部は、被験者の感情を数値化した感情データの入力を受け付け、演算部は、入力部で受け付けた感情データで、マインドスコアを補正する。
【0119】
(14)(10)~(13)のいずれか1項に記載の感情推定装置であって、演算部は、歩行パラメータと母集団データの平均値との差分値を母集団データの標準偏差で除算した値を用いてマインドスコアを求める。
【0120】
(15)(10)~(14)のいずれか1項に記載の感情推定装置であって、演算部は、求めたマインドスコアに応じた歩行アドバイスを出力部から出力する。
【0121】
(16)本開示に係る別の感情推定システムは、被験者の歩行データを測定する測定装置と、(10)~(15)のいずれか1項に記載の感情推定装置と、を備える。
【0122】
(17)本開示に係る別の感情推定方法は、ラッセルの円環モデルの軸に基づく感情をスコア化して、被験者の感情を推定する感情推定方法であって、測定装置で測定した被験者の歩行データを受け付けるステップと、受け付けた歩行データに含まれる複数の歩行パラメータのうち、ストライド、ピッチ、および歩行速度の少なくとも1つのパラメータと、記憶部に記憶する母集団データとの比較に基づき、被験者の感情をスコア化したマインドスコアを求めるステップと、求めたマインドスコアを出力するステップと、を含む。
【0123】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
1,1A 感情推定装置、2 測定装置、11,11A プロセッサ、12,12A メモリ、13 ストレージ、13A マイク、14 インターフェース、14A 入力装置、15 メディア読取装置、15A メモリインターフェース、16,16A 通信インターフェース、17 プロセッサバス、17A ディスプレイ、18 リムーバブルディスク、18A スピーカ、19A 無線通信部、20A センサ、21 センサモジュール、100,200 感情推定システム、131 推定プログラム、132 歩行データ、133 感情データ、134 対応データ。