(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032639
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ブレーカ用打撃部材およびブレーカ
(51)【国際特許分類】
B25D 17/11 20060101AFI20240305BHJP
B25D 9/04 20060101ALI20240305BHJP
B25D 17/02 20060101ALI20240305BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20240305BHJP
B25D 17/06 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B25D17/11
B25D9/04
B25D17/02
E04G23/08 C
B25D17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041872
(22)【出願日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2022135944
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 ひかり
【テーマコード(参考)】
2D058
2E176
【Fターム(参考)】
2D058AA12
2D058BA04
2D058DA33
2E176DD13
(57)【要約】
【課題】騒音を小さくすることのできる新規なブレーカ用打撃部材とブレーカを提供すること。
【解決手段】長さ方向の少なくとも一部に、制振合金からなる制振部を備えるブレーカ用打撃部材と、チゼルとピストンのいずれか、または両方がこのブレーカ用打撃部材であるブレーカ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向の少なくとも一部に、制振合金からなる制振部を備えることを特徴とするブレーカ用打撃部材。
【請求項2】
前記制振合金が、ヤング率5.0×1010以上の鉄-アルミニウム系合金であることを特徴とする請求項1に記載のブレーカ用打撃部材。
【請求項3】
前記制振部が、長さ方向で中間部を含む少なくとも10%を占めることを特徴とする請求項1に記載のブレーカ用打撃部材。
【請求項4】
全体に対する前記制振部の容積割合が、5v/v%以上80v/v%以下であることを特徴とする請求項1に記載のブレーカ用打撃部材。
【請求項5】
周面に制振合金からなる制振層を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーカ用打撃部材。
【請求項6】
先端から順に、先端部、前記制振部、根元部を備え、それぞれが螺合されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーカ用打撃部材。
【請求項7】
チゼルとピストンのいずれか、または両方が、請求項1~6のいずれかに記載のブレーカ用打撃部材であることを特徴とするブレーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカ用打撃部材と、このブレーカ用打撃部材を有するブレーカに関する。
【背景技術】
【0002】
解体工事等において、コンクリート等を破砕するためにブレーカが用いられている。ブレーカには、重機のアームの先端に取り付けるジャイアントブレーカや、作業員が手で持って取り扱うハンドブレーカ等の様々な大きさのものが存在するが、基本的な原理は同じであり、内部でピストンがチゼル(ロッド、ノミ等とも呼ばれる)を打撃し、打撃されたチゼルをコンクリート等に押し当てて衝撃を加えることにより破砕するものである。
ブレーカは、非常に大きな騒音が発生するため、騒音を小さくすることが求められている。ブレーカの騒音対策としては、ブレーカ内部のピストンとチゼルの衝突音を小さくするために、チゼルの根元部分とピストンとを内蔵するボックスに遮音性を付与することが一般的である。通常タイプのブレーカは、ボックスに注油や清掃のためのメンテナンス用の開口が設けられている。しかし、ボックスに開口を設けると遮音性能が低下してしまうため、低騒音タイプのブレーカは、ボックスに開口が設けられておらずメンテナンス性に劣る。
【0003】
また、ピストンとチゼル、チゼルと被破砕物との衝突音のほかにも、チゼルとピストンも、これら自体が打撃により振動しているため、音を発生している。チゼルとピストンは、一般に鋼からなるが、衝撃が加わると大きく振動して大きな音が発生し、また、鋼は減衰が小さいため生じる音はなかなか小さくならない。
チゼルが発する音を抑制するための方法として、特許文献1には、周面に制振材からなる層を設け、さらにその周面に本体と同種の鋼材を設けたチゼルが提案されている。また、特許文献2には、チゼルの周りすべてを泡で覆うことで騒音を抑制する方法が提案されている。
特許文献1に記載されたチゼルは、原理上は曲げ方向の振動(チゼルが軸と直交する方向に曲がる振動)を抑制することで音を小さくすることができるが、抑制した結果は記載されておらず、どの程度の効果があるかは不明である。特許文献2に記載された方法は、音を小さくすることはできるが、その効果は5dB程度であり、また、ロッドで破砕する箇所が泡で覆われてしまい作業員が視認することができないため、作業性、安全性を損なうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-175478号公報
【特許文献2】特開2018-105044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、騒音を小さくすることのできる新規なブレーカ用打撃部材とブレーカを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.長さ方向の少なくとも一部に、制振合金からなる制振部を備えることを特徴とするブレーカ用打撃部材。
2.前記制振合金が、ヤング率5.0×1010以上の鉄-アルミニウム系合金であることを特徴とする1.に記載のブレーカ用打撃部材。
3.前記制振部が、長さ方向で中間部を含む少なくとも10%を占めることを特徴とする1.または2.に記載のブレーカ用打撃部材。
4.全体に対する前記制振部の容積割合が、5v/v%以上80v/v%以下であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のブレーカ用打撃部材。
5.周面に制振合金からなる制振層を備えることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のブレーカ用打撃部材。
6.先端から順に、先端部、前記制振部、根元部を備え、それぞれが螺合されていることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載のブレーカ用打撃部材。
7.チゼルとピストンのいずれか、または両方が、1.~6.のいずれかに記載のブレーカ用打撃部材であることを特徴とするブレーカ。
【発明の効果】
【0007】
本発明のブレーカ用打撃部材とブレーカは、発生する騒音を抑えることができ、作業員、周辺環境への影響を低減することができる。
本発明のブレーカ用打撃部材は、従来のブレーカ用打撃部材を置き換えるだけでそのまま用いることができるため、施工性を損なわない。
本発明のブレーカは、チゼルまたはピストンの振動による騒音が小さいため、これらを内蔵するボックスが開口を備えていても騒音の増大を抑えることができ、騒音を抑えながらもメンテナンス性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施態様例であるチゼルの概略図。
【
図2】本発明の一実施態様例であるブレーカの概略図。
【
図3】実験1で使用したチゼルの模型の寸法を示す図。
【
図4】実験1において、チゼルを叩いて加振した際に発生する音と振動を測定する様を示す図。
【
図5】実験1における、チゼルを叩いて加振した際に発生する音と振動を表すグラフ。
【
図6】実験2で使用したチゼルの模型の寸法を示す図。
【
図7】実験2における、チゼルを叩いて加振した際の振動を表すグラフ。
【
図8】実験3における、シミュレーションに用いた各モデルを表す図。
【
図9】実験3のシミュレーションにおける、加振箇所と出力箇所を示す図。
【
図10】実験3における、シミュレーション結果を示すグラフ。
【
図11】実験3における、シミュレーション結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
・ブレーカ用打撃部材
本発明のブレーカ用打撃部材は、長さ方向の少なくとも一部に、制振合金からなる制振部を備える。なお、本明細書において、ブレーカ用打撃部材とは、チゼルとピストンを意味する。
【0010】
本発明のブレーカ用打撃部材の一実施態様例であるチゼルの概略図を
図1に示す。
一実施態様例であるチゼル1は、先端から順に先端部11、制振部12、根元部13を備える。
先端部11、制振部12、根元部13を連結する方法は特に制限されず、例えば、対向する面に雄ねじと雌ねじを設けて螺合し、さらに、使用時の振動で緩まないように周面を溶接する方法が挙げられる。
なお、本明細書において、
図1に示すようにチゼル1の長さ方向での位置を、先端を0%、根元を100%とする数値で表現する場合がある。なお、先端部11と制振部12、制振部12と根元部13とが螺合されている場合、それぞれの境界は、チゼル断面において面積の広い領域が位置する箇所であり、例えば、ネジ部分が細くチゼル断面における面積の50%未満である場合はその周縁部において制振部とそれ以外の部分が接する位置、ネジ部分が太くチゼル断面における面積の50%以上である場合はネジ部分において制振部とそれ以外の部分が接する位置とする。
【0011】
先端部11、根元部13は、チゼルとして使用される材質を特に制限することなく使用することができ、例えば、炭素鋼、クロム-モリブデン鋼、ニッケル-クロム-モリブデン鋼等を用いることができる。ブレーカ用打撃部材がチゼルの場合、先端部11は、使用により摩耗する部位であるため、先端部11の長さは、チゼル1全体に対して、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。なお、一実施態様例であるチゼル1において、先端部11の形状は特に制限されず、先端が尖ったポイントタイプ、平坦なフラットエンドタイプ、面状に尖ったフラットタイプ等のいずれでもよい。
【0012】
制振部12は、制振合金からなる。制振合金とは、その結晶構造等により振動エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換することのできる合金であり、振動を素早く減衰することができ、様々な分野で用いられている。本発明で使用する制振合金としては、チゼルとしての使用に耐える耐久性を備えるものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、鉄-アルミニウム系合金、鉄-クロム-アルミニウム系合金、マグネシウム系合金、マグネシウム-ジルコニウム系合金、マンガン-銅系合金等が挙げられる。これらの中で、安価であり、先端部11と根元部13に一般的に使用される鋼材と物性が近いため、ヤング率5.0×1010以上の鉄-アルミニウム系合金を好適に用いることができる。制振合金のヤング率は、1.0×1011以上であることがより好ましく、1.5×1011以上であることがさらに好ましい。制振合金の減衰係数は、鋼材の10倍以上、すなわち0.01以上であることが好ましく、0.015以上であることがより好ましい。また、衝撃を受けても制振性能が低下しないものがよい。さらに、解体工事中には衝撃によってチゼルは熱を持つことがあるため、熱に強く200℃程度では制振性能が低下しないものがよい。
【0013】
制振部12は、チゼル1の長さ方向の少なくとも一部に、軸方向の全面を横断するように設けられる。この構成により、チゼル1の長さ方向に伝達する振動(縦波)が制振部12を必ず通過するため、振動(縦波)が素早く減衰して騒音の大きさを抑えることができる。制振部12は、長さ方向の別々の2箇所以上に設けることもできる。
また、チゼル1の周面を取り囲むように、制振合金からなる制振層を設けることもできる。制振層は、先端部11と根元部13のいずれか、または両方の少なくとも一部を覆うことが好ましい。周面に制振層を設けることにより、チゼルの曲げ方向(径方向)の振動(曲げ波)による騒音を小さくすることができる。
【0014】
図1に示すように、制振部12は、チゼル1の長さ方向の42~58%の領域を占めており、中間部(50%部分)を含む16%(=58-42%)を占めている。制振部12は、必ずしも長さ方向の中間部を含む必要は無いが、騒音を抑制する観点から、長さ方向の中間部(50%部分)を含むことが好ましい。また、長さ方向の中間部(50%部分)を含む10%以上を占めることが好ましく、長さ方向の中間部を含む15%以上を占めることがより好ましく、長さ方向の中間部を含む20%以上を占めることがさらに好ましい。チゼル1全体に対する制振部12の占める割合が大きくなるほど、振動をより減衰して騒音を抑制することができるが、制振合金は一般的な鋼合金と比較して高価であるため高コストとなる。そのため、チゼル1全体に対する制振部12の容積割合は、5v/v%以上80v/v%以下であることが好ましく、10v/v%以上であることがより好ましく、15v/v%以上であることがさらに好ましく、60v/v%以下であることがより好ましく、40v/v%以下であることがさらに好ましく、30v/v%以下であることがよりさらに好ましい。
【0015】
図1に示すチゼル1は本発明の一実施態様であり、本発明のブレーカ用打撃部材はこれに限定されない。また、本発明の打撃部材の一種であるピストンも上記したチゼル1と同様の構成とすることができる。
【0016】
・ブレーカ
本発明のブレーカは、チゼル、ピストンのいずれか、または両方が、本発明のブレーカ用打撃部材である。
図2に、本発明の一実施態様例であるブレーカの概略図を示す。
一実施態様例であるブレーカ100は、チゼル1とピストン2とボックス3を有する。チゼル1とピストンは、それぞれ先端側から順に先端部11、21、制振部12、22、根元部13、23を備えている。ボックス3には開口31が設けられており、この開口31からピストン2がチゼル1を打撃する箇所を視認することができ、注油や異物清掃等のメンテナンスを行うことができる。
本発明のブレーカは、その大きさ等は特に制限されず、公知のブレーカとすることができるが、打撃が強力で騒音が大きいため、重機のアームの先端に取り付けるジャイアントブレーカであることが好ましい。
【0017】
図2に示すブレーカ100は本発明の一実施態様であり、本発明のブレーカはこれに限定されない。本発明のブレーカにおいて、チゼルとピストンの両方が制振合金からなる制振部を備える本発明のブレーカ用打撃部材である場合、チゼルとピストンとは同一構成、異なる構成のいずれでもよい。
【実施例0018】
「実験1」
炭素鋼、または制振合金(リックス株式会社製、WAVLES2、鉄-アルミニウム系合金)を用いてチゼルの模型を製作し、打撃による音と振動を測定した。模型の寸法を
図3に、使用した材の物性を表1に示す。
【表1】
発生する音と振動を比較するため、
図4に示すように加速度センサーとマイクを設置して、軸方向から(
図4左)と径方向から(
図4右)、ハンマーで叩いて加振した際の音と振動を測定した。
【0019】
結果を
図5に示す。
図5(A)、(C)が、それぞれ軸方向、径方向から叩いた場合の音の大きさ(音圧を加振力で基準化)を表すグラフであり、
図5(B)、(D)が、それぞれ軸方向、径方向から叩いた場合の振動の大きさ(振動加速度を加振力で基準化)を表すグラフである。
チゼルを軸方向に伝わる波としては、図中の矢印に示す約9300Hzの周波数に生じ、この周波数の音に着目する。
図5(A)に示す通り、炭素鋼は共振が生じるため約9300Hzで大きな音が発生しているのに対し、制振合金ではこの周波数での音が小さく、共振の影響がみられないほどであった。また、
図5(B)に示す通り、炭素鋼は共振が生じるため大きな振動が発生しているのに対し、制振合金では振動が抑えられていた。同様に
図5(C)、(D)に示す通り、炭素鋼では共振により大きな音と振動が生じているのに対し、制振合金では共振の影響がみられないほど音と振動が小さかった。
これらの結果から、制振合金を用いることにより、チゼルの共振周波数における振動を大幅に低減することができ、発生する音も大幅に低減できることが確かめられた。
【0020】
「実験2」
制振合金は炭素鋼等の鋼材と比較して高価であり、一般的に鋼材よりもやや剛性が低下する。
そこで、本発明である制振合金からなる制振部を備えるチゼルの模型を製作した。制作したチゼルの模型の寸法を
図6に示す。なお、先端部と制振部、制振部と根元部とは、それぞれ雄ねじと雌ねじで螺合し、周面を溶接して固定した。
上記実験1の
図4と同様にして、ハンマーで叩いて加振した際の振動を測定した。上記した実験1における全体を炭素鋼で作成したチゼル模型の結果とともに、
図7に示す。
【0021】
図7(A)に示す通り、軸方向に伝わる振動の周波数(9300Hz付近)を見ると、本発明である制振合金からなる制振部を備えるチゼルは、ピークが消滅していた。このことから、軸方向に伝わる振動(縦波)を、制振部により減衰できることが確かめられた。また、
図7(B)に示す通り、軸と直交方向に加振した際の曲げ振動の周波数(3000Hz付近と7300Hz付近)を見ると、低周波数側にシフトするとともに、3000Hz付近の音は8dB、7300Hz付近の音は18dBも小さくなっていた。このことから、長さ方向の少なくとも一部に設けた制振部であっても、軸と直交方向の曲げ波についても振動を減衰することができ、騒音を抑制できることが確かめられた。
【0022】
「実験3」
有限要素法(FEM)により、制振部の配置を代えたブレーカ用打撃部材についてシミュレーションを行った。
簡略化のため、ブレーカ用打撃部材の形状を四角柱としてFEMモデルを作成した。モデルは、無垢の一般鋼材モデル(Case S)、無垢の制振合金モデル(Case D0)、制振部を異なる配置で設置した本発明のモデル(Case D1-1~Case D1-3)、周面の制振層のみを設けたモデル(Case D2)について計算を行った。各モデルを
図8に示す。
図8において、薄い灰色部分は一般鋼材、濃い灰色部分は制振合金からなる。
計算ではソリッド要素を用い、1mm間隔のメッシュでモデル化した。計算に使用した物性値は、一般鋼材部分は炭素鋼の値、制振部と制振層には制振合金(リックス株式会社製、WAVLES2、鉄-アルミニウム系合金)の値を用いた。
モデルに対し、軸方向の加振または水平方向の加振を行った。加振箇所と出力箇所およびそれらの方向の模式図を
図9に示す。
【0023】
各モデルの計算結果を、一般鋼材モデル(Case S)の計算結果とともに、
図10、11に示す。なお、
図10、11において、左側が軸方向、右側が水平方向に加振したときの結果である。
図10上段に示すように、無垢の制振合金モデル(Case D0)は、一般鋼材モデル(Case S)よりもいずれのピークも値が小さくなっており、実験と同様の特性が計算で再現できていることが確認できた。
図10下段に示すように、制振層のみを設けたモデル(Case D2)は、水平方向加振の2次の共振において一般鋼材モデル(Case S)と比較して8dB程度の制振効果が得られたが、水平方向加振の1次共振周波数および軸方向加振の1次共振周波数においては制振の効果が小さかった。これは、制振層が周面のみに形成されており、制振層を変形させる振動(曲げ波)は減衰できるが、縦波の場合はほとんどの振動が制振層ではなく一般鋼材部を通ることにより減衰できないためである。
【0024】
図11に示すように、長さ方向の少なくとも一部に制振部を備える本発明のモデル(Case D1-1~3)は、いずれも一般鋼材モデル(Case S)と比較して、軸方向加振の1次共振周波数と水平方向加振の2次の共振において制振効果が得られた。制振部を通る振動(縦波)を減衰できることは予想通りであるが、制振部の変形をあまり期待できない振動(曲げ波)も減衰することができ、水平方向加振の2次の共振の制振効果は、制振層のみを設けたモデル(Case D2)と同等のレベルで減衰することができた。特に、長さ方向で中間部を含む17%(=52/300)を占める制振部を有するモデル(Case D1-1)は、他のモデル(Case D1-2、3)では確認できなかった、水平方向加振の1次共振周波数も3dBの制振効果が確認でき、制振部をチゼルの長さ方向中間部を含む少なくとも10%を占めるように設けることが、有効であることが確認できた。