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特開2024-32648正極材料の製造方法及びそれにより製造される電池
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  • 特開-正極材料の製造方法及びそれにより製造される電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032648
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】正極材料の製造方法及びそれにより製造される電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240305BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093706
(22)【出願日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】111132583
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】魏兆男
(72)【発明者】
【氏名】蔡鋒諺
(72)【発明者】
【氏名】王雅慧
(72)【発明者】
【氏名】陳漢宇
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050DA02
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】リン酸リチウムの電子伝導性を向上させる現在の方法はプロセスが複雑で、高コストであり且つ環境汚染を引き起こす可能性があるという問題を解決する正極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明が提供する正極材料の製造方法は、鉄金属をリン酸溶液によってリン酸鉄分散溶液に合成するステップと、五酸化バナジウム、非イオン界面活性剤及び炭素源を同時に前記リン酸鉄分散溶液に添加するステップと、前記リン酸鉄分散溶液にリチウム塩を添加した後、研磨及び分散して正極材料を製造するステップと、を含む。本発明は、前記五酸化バナジウムを添加するタイミングの制御によって、前記正極材料で製造される電池により高い電池性能を持たせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄金属をリン酸溶液によってリン酸鉄分散溶液に合成するステップと、
五酸化バナジウム、非イオン界面活性剤及び炭素源を同時に前記リン酸鉄分散溶液に添加するステップと、
前記リン酸鉄分散溶液にリチウム塩を添加した後、研磨及び分散して正極材料を製造するステップと、
を含む、正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記炭素源は、単糖を含む、請求項1に記載の正極材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素源は、二糖を含む、請求項1に記載の正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記炭素源は、多糖を含む、請求項1に記載の正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭素源は、果糖を含む、請求項1に記載の正極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により製造された正極材料を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極材料の製造方法、特に二次電池の正極材料に適用され、その容量を向上させる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)のパンデミックが発生して以来、人々の生活では在宅で勤務、作業及び学習することが通常となり、感染症流行による人々の拘束状態下で電子製品は、人と外界とのコミュニケーションの架け橋っとして一層重要な役割を担っている。電池は、電子製品の核心部品であり、特に、ポータブル電源は、電子製品の主電源又は優先電源とされ、二次電池にはリチウム電池がよく使用されるが、従来の二次電池の中でもリチウムイオン二次電池は、体積比静電容量が高く、汚染がなく、充放電サイクル特性が良好で、メモリー効果がない等の利点を有し、発展の潜在力がある。
【0003】
二次電池によく使われるリチウム電池の性能を評価するための指標の一つは、静電容量であり、帰還容量の性能を左右する要素は正極材料の選択と改良であり、比較的よく知られ商業的に使用されている正極材料としては、スピネル構造やオリビン構造を有するリン酸鉄リチウム化合物材料が挙げられ、優れた電気化学的特性、安全性、十分な原料、高い比容量、優れたサイクル性能と熱安定性、高い充放電効率などの利点から、現在市場で主流の正極材料の選択の1つとなっている。
【0004】
しかし、リン酸鉄リチウム化合物材料の物性の限界により、高速充放電時にリチウムイオン全体の拡散性や電子伝導性が大きな影響を受けやすく、容量の低下につながる。現在、リン酸鉄リチウムの電子伝導性を向上させる方法としては、材料粉末の粒径を小さくしたり、導電性物質をドープしたりする方法があるが、これらの方法は複雑で制御が難しいだけでなく、全体の製造コストが高くなり、且つプロセスにおいて、大量生産時、有機物分解後の排出が環境を汚染し、環境問題を引き起こすため実用的ではない。
【0005】
これに鑑み、正極材料に静電容量を増加させ、上記に開示された既存の技術的困難を改善できる製造方法を如何に提供するかについて早急な解決が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リン酸リチウムの電子伝導性を向上させる現在の方法はプロセスが複雑で、高コストであり且つ環境汚染を引き起こす可能性があるという問題を解決するために、本発明は、正極材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提供する正極材料の製造方法は、鉄金属をリン酸溶液によってリン酸鉄分散溶液に合成するステップと、五酸化バナジウム及び炭素源を同時に前記リン酸鉄分散溶液に添加するステップと、前記リン酸鉄分散溶液にリチウム塩を添加した後、研磨及び分散して正極材料を製造するステップと、を含む。
【0008】
本発明において、前記炭素源は、単糖を含む。
【0009】
本発明において、前記炭素源は、二糖を含む。
【0010】
本発明において、前記炭素源は、多糖を含む。
【0011】
本発明において、前記炭素源は、果糖を含む。
【発明の効果】
【0012】
上記の説明によれば、本発明は、以下の有益な効果と利点を有する。
1.本発明は、五酸化バナジウムを添加するタイミングの制御によって酸素欠損を有する五酸化バナジウム(V)を生成し、それによってイオンの拡散を促進するという動力学を利用し、前記正極材料により良好な電気的効果を達成させることができる。
2.更に、本発明により製造される正極材料を電池に適用する時、その電池がより良好なリチウムイオン拡散能力を有し、電池の分極現象を軽減させ、電池の性能が向上し、正極材料の寿命を延ばす目的を達成することに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の0.1Cの充電曲線のテストグラフである。
図3】本発明の0.1Cの充電曲線のテストグラフである。
図4】本発明の1Cの充電曲線のテストグラフである。
図5】本発明の5Cの充電曲線のテストグラフである。
図6】本発明のサイクリックボルタンメトリー曲線のテストグラフである。。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を例示的実施例によって更に説明する。これらの例示的実施例は、図面と共に詳細に説明する。これら実施例は、限定に用いるものではなく、これらの実施例において、同じ部材符号で同じ構造を示す。
【0015】
本発明の実施例の技術案をより明確に説明するために、各実施例の説明に使用する必要がある図面を以下に簡単に紹介する。明らかに、以下の説明における図面は、本発明の一部の例示又は実施例にすぎず、当業者は、創造的な作業をすることなく、これらの図面に従って他の同様の場合に本発明を適用することもできる。文脈から明らかでない限り、又は別途説明がない限り、図中の同様の部材符号は同様の構造又は動作を表す。
【0016】
本発明及び特許請求の範囲に示すように、文脈が例外を明確に示していない限り、「一」、「1つ」、「1種」又は「前記」等の単語は、特に単数を指すものではなく、複数を含んでもよい。一般的に言えば、「備える」及び「含む」という用語は、明確に識別されたステップ及び要素を含むこと示すのみであり、これらのステップ及び要素は排他的なリストを構成するものではなく、方法又は装置は他のステップ又は要素も含んでもよい。
【0017】
本発明では、フローチャートを使用して、本発明の方法の実施例に従って実行されるステップ及びその操作手段を説明する。なお、方法に含まれるステップは、必ずしも順に従って正確に実行される必要はなく、逆の順序で処理又は各ステップを同時に処理してもよい。また、他のステップをこれらの過程に追加してもよく、これらの過程から一部のステップを削除してもよい。
【0018】
以下では、本発明の正極材料の製造方法を詳細に説明する。図1に示すように、そのステップは、以下を含む。
ステップS1)鉄金属をリン酸溶液によってリン酸鉄分散溶液に合成する。
ステップS2)分散剤、五酸化バナジウム(V)及び炭素源を同時に前記リン酸鉄分散溶液に添加する。
ステップS3)リチウム塩を添加し、研磨及び分散して正極材料を製造する。
【0019】
ここで、前記炭素源は、例えば、果糖などの単糖、二糖又は多糖を含む。添加された前記炭素源は、正極材料を覆うことができる。
【0020】
ここで、本発明の要点は、五酸化バナジウムを添加するタイミングがリチウム塩を添加する前であることにあり、五酸化バナジウム(V)を添加した後に研磨工程を行うことで、酸素欠損を有する五酸化バナジウム(V)を生成し、イオンの拡散速度を促進し、前記正極材料がより優れた電気的効果を達成できるようにする。本発明が製造する正極材料は、金属酸化物を含むLiFePO材料であり、「ナノ金属酸化物共晶リチウムリン酸鉄化合物(LFP‐NCO)」とも称される。
【0021】
<実施例>
リン酸3760gと脱イオン水9000mlを混合して酸性溶液を形成し、鉄粉(純度99%以上)2466gを加えて3時間反応させ、さらにリン酸1427gと脱イオン水1000mlを加え、常温に置いて反応させて鉄とリンを含む生成物を形成し、混合スラリーを形成する。
【0022】
次に、混合スラリーをボールミルで5分間研磨して、混合スラリーを均一に分散させる。同時に、5.4gの分散剤、31.5gの五酸化バナジウム(V)及び495gの果糖を添加し、5分間研磨して第1前駆体を形成する。
【0023】
第1前駆体をボールミルで研磨し、1525gの水酸化リチウム(LiOH)及び303.8gの炭酸リチウム(LiCO)を研磨プロセス中に徐々に添加して15分間研磨及び分散させて、第2前駆体を形成する。ここで、前記第2前駆体のD70サイズは1~1.6ミクロン(μm)である。
【0024】
前記第2前駆体を高温で焼成し、粉砕した後、リン酸鉄リチウム、酸化バナジウム及び炭素を含む一実施例の正極材料粉末(LiFePO/V/C)が得られる。
【0025】
<比較例>
リン酸3760gと脱イオン水9000mlを混合して酸性溶液を形成し、鉄粉(純度99%以上)2466gを加えて3時間反応させ、さらにリン酸1427gと脱イオン水1000mlを加え、常温に置いて反応させて鉄とリンを含む生成物を形成し、混合スラリーを形成した。
【0026】
次に、前記混合スラリーをボールミルで5分間研磨して、前記混合スラリーを均一に分散させる。同時に、5.4gの分散剤及び495gの果糖を添加し、5分間研磨して、第1比較前駆体を形成する。
【0027】
前記第1比較前駆体をボールミルに入れて研磨し、1525gの水酸化リチウム(LiOH)及び303.8gの炭酸リチウム(LiCO)を研磨プロセス中に徐々に添加して15分間研磨及び分散させて、第2比較前駆体を形成する。ここで、前記第2比較前駆体のD70サイズは、1~1.6ミクロン(μm)である。
【0028】
次に、31.5gの五酸化バナジウム(V)を加え、ボールミルに入れてD70サイズが1~1.6ミクロン(μm)になるまで研磨及び分散させ、高温で焼結及び粉砕してリン酸鉄リチウム、酸化バナジウム及び炭素質を含む比較例の正極材料粉末(LiFePO/V/C)を得る。
【0029】
<電気的結果>
実施例と比較例の間のVが異なるタイミングで添加された後の有効性を比較する。
以下の表1、表2及び図2図5を参照して、本発明は、前記実施例及び前記比較例をそれぞれ電池として製造し、充放電曲線テストを実施し、各電池の0.1C充電容量、0.1C放電容量、第1クーロン効率、1C充電容量、5C放電容量及び定電流比を計算する。
【0030】
ここで、0.1C充電容量と0.1C放電容量は、各前記電池の第1充放電性能を検討することに用い、さらに第1クーロン効率(同一サイクル過程の充電容量と放電容量の比)及び定電流比(定電流充電容量と電池の総充電容量の比)に換算することができ、各前記電池の充放電効率を検討することに用いることができる。
【0031】
1C充電容量と5C放電容量は、各前記電池の高倍率の放電プロセス中の分極現象を検討することに用いる。表2では、比表面積、炭素含有量、面密度及び圧縮密度は、各前記電池の物理的特性を確認し、各前記電池の物理的条件が類似していることを確認し、並びに各前記電池の電気的特性が他の物理性質によって大きな影響を発生していないことを証明し、電流安定性の参考とすることができる。表1、表2及び図2図5の結果から、前記実施例及び前記比較例によって製造された2つの前記電池の0.1C充電容量、0.1C放電容量、第1クーロン効率、1C充電容量及び5C放電容量に大きな差がないことが分かる。
【0032】
本発明は、さらに、前記実施例及び前記比較例に対してサイクリックボルタンメトリーテストを実施し、各前記電池におけるリチウムイオンの拡散能力を検出した。3.5mV/s(5C充放電速度)及び2~4.5Vの電圧範囲をテスト条件として充電及び放電曲線テストを行った。表3及び図6の結果から、Vの添加順序によって材料の物理的及び電気的特性はあまり変化しないことが分かるが、サイクリックボルタンメトリーテストの結果では、実施例で製造した前記電池の酸化還元ピーク値(酸化ピーク電位、Epa;還元ピーク電池、Epc)、及びそれから得られる酸化還元電位差(ΔE)及びリチウムイオン拡散係数(DLi+)は、前記比較例で製造した前記電池との間に顕著な差異を有する。ここで、酸化還元電位差(△E)は、前記電池全体の分極現象を証明することができ、電池内の分極現象が小さいほどリチウムイオンの拡散能力が高く(リチウムイオン拡散係数を比較した結果)、電池性能の向上に役立つ。
【0033】
上記から、実施例で製造した前記電池は、リチウム塩が投入される前にVが添加されており、これが材料の倍率放電における分極現象の抑制に役立つことが分かる。この現象の原因は、前記実施例がステップS2によって前記第1前駆体を形成すること、及びステップS3によって前記第2前駆体を形成することなどの製造時、前記実施例で添加した前記Vがプロセス全体において比較的多く、比較的長い時間の研磨を受け(前記比較例と比較)、前記Vに酸素欠損の特徴を生成させ、リチウムイオンの出入りする能力を向上させることにある。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
上記の明細書の説明及び詳述に基づき、当業者は、上記の実施例に変更及び修正を加えることもできることに留意されたい。従って、本開示は、上で開示及び説明した具体的実施例に限定するものではなく、本開示に対するいくつかの均等の修正及び変更も、本開示の特許請求の範囲の保護範囲内にあるべきである。また、本明細書では一連の特定の用語を使用しているが、これらの用語は説明の便宜のためのみであり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0038】
S1 ステップ
S2 ステップ
S3 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6