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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032662
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】高温ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/56 20060101AFI20240305BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240305BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B01D53/56 ZAB
B01D53/62
B01D53/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124315
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2022136170
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘輔
(72)【発明者】
【氏名】小野 芙子
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏嗣
(72)【発明者】
【氏名】田口 拓望
(72)【発明者】
【氏名】武藤 あかね
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AA12
4D002AC10
4D002BA05
4D002BA12
4D002BA13
4D002BA14
4D002BA20
4D002CA05
4D002DA05
4D002DA11
4D002DA66
4D002EA07
4D002FA10
4D002GA01
4D002GA03
4D002GB02
4D002GB03
4D002HA09
(57)【要約】
【課題】セメント硬化体を使用し、天然資源を用いずに高温ガス中に含まれる亜酸化窒素と二酸化炭素とを同工程で効率的に削減できる高温ガスの処理方法の提供。
【解決手段】この高温ガスの処理方法は、50℃~900℃の高温ガス5と、セメント硬化体2とを接触させ、セメント硬化体2に含まれるセメント水和物を分解して酸化カルシウムを生成するとともに、酸化カルシウムをガスと接触させ、酸化カルシウムを触媒として亜酸化窒素を窒素と酸素に分解し、且つ、同工程で二酸化炭素をセメント硬化体2に固定化する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化窒素及び二酸化炭素を含有する高温ガスの処理方法において、
50℃~900℃の前記高温ガスと、セメントを含むセメント硬化体とを接触させ、前記セメント硬化体に含まれるセメント水和物を分解して酸化カルシウムを生成するとともに、該酸化カルシウムを前記ガスと接触させ、前記酸化カルシウムを触媒として前記亜酸化窒素を窒素と酸素に分解し、且つ、同工程で前記二酸化炭素を前記セメント硬化体に固定化することを特徴とする高温ガスの処理方法。
【請求項2】
前記高温ガスは、基準容積当りに亜酸化窒素を50ppm以上、二酸化炭素を5%以上、水分量を10%以上含有する請求項1に記載の高温ガスの処理方法。
【請求項3】
前記高温ガスを450℃~700℃に調整する請求項1又は2に記載の高温ガスの処理方法。
【請求項4】
前記セメント硬化体は、廃セメント材によって構成されている請求項1又は2に記載の高温ガスの処理方法。
【請求項5】
前記セメント硬化体は、コンクリート材から固化前に骨材を分離して除去した残分により構成されている請求項1又は2に記載の高温ガスの処理方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素を固定したセメント硬化体を回収してセメント系材料として再利用する請求項1又は2に記載の高温ガスの処理方法。
【請求項7】
前記高温ガスは、下水汚泥焼却場から発生する排ガスである請求項1又は2に記載の高温ガスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室効果ガスである亜酸化窒素と二酸化炭素とを同じ工程で好適に削減するための高温ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラーや各種プラントの炉から排出される排ガスには、化学的に安定した亜酸化窒素(NO)や二酸化炭素(CO)が含有されていることが知られている。
【0003】
特に亜酸化窒素は、二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、また、成層圏で分解して一酸化窒素を生成しオゾン層の破壊に影響を与えることから、二酸化炭素だけでなく二酸化炭素と亜酸化窒素の両方の削減が地球環境保全の観点から求められている。
【0004】
2種類の温室効果については、二酸化炭素の係数を1、亜酸化窒素の係数を300とし、ガス中に含まれるそれぞれの量に対してそれぞれ係数を乗じて、その合計が小さくなるよう効率的に削減することが地球温暖化対策において有効である。
【0005】
従来、亜酸化窒素を処理する方法としては、石灰石や消石灰粉粒体等の触媒を亜酸化窒素と接触させ、亜酸化窒素を窒素に分解することによって除去する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-171346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、石灰石や消石灰粉粒体が有限な天然資源であることから、亜酸化窒素の処理に潤沢に使用すると資源枯渇につながるおそれがあった。
【0008】
一方、現在では、建造物の解体等によって生じたコンクリート廃材は年間約3500万t、工事現場で使われずに工場に戻されたりしたコンクリートは年間で約160万m、即ち、生コンクリート出荷量約8000万mの2%程度発生し、これらが産業廃棄物として処理されており、このようなコンクリート廃材等を含むセメント硬化体の再利用が社会的課題となっている。
【0009】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、セメント硬化体を使用し、天然資源を用いずに高温ガス中に含まれる亜酸化窒素と二酸化炭素とを同工程で効率的に削減できる高温ガスの処理方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、亜酸化窒素及び二酸化炭素を含有する高温ガスの処理方法において、50℃~900℃の前記高温ガスと、セメントを含むセメント硬化体とを接触させ、前記セメント硬化体に含まれるセメント水和物を分解して酸化カルシウムを生成するとともに、該酸化カルシウムを前記ガスと接触させ、前記酸化カルシウムを触媒として前記亜酸化窒素を窒素と酸素に分解し、且つ、同工程で前記二酸化炭素を前記セメント硬化体に固定化することにある。
【0011】
請求項2の記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記高温ガスは、基準容積当りに亜酸化窒素を50ppm以上、二酸化炭素を5%以上、水分量を10%以上含有することにある。
【0012】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記高温ガスを450℃~700℃に調整することにある。
【0013】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記セメント硬化体は、廃セメント材によって構成されていることにある。
【0014】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記セメント硬化体は、コンクリート材から固化前に骨材を分離して除去した残分により構成されていることにある。
【0015】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記二酸化炭素を固定したセメント硬化体を回収してセメント系材料として再利用することにある。
【0016】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記高温ガスは、下水汚泥焼却場から発生する排ガスであることにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る高温ガスの処理方法は、請求項1に記載の構成を具備することによって、天然資源である石灰石や消石灰粉粒体を用いずに、同一工程で排ガス等の亜酸化窒素及び二酸化炭素を含有する高温ガス中の温室効果ガスである亜酸化窒素及び二酸化炭素を分解し、固定することができる。また、年間排出量が約3500万トン以上にも及ぶコンクリート廃材を好適に再利用することができる。
【0018】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することによって、亜酸化窒素や二酸化炭素の量が多くなるので、温室効果ガスを効率的に削減することができ、且つ、廃棄物であるセメント硬化体をより多く使用することができる。また、セメント硬化体による二酸化炭素の固定量の増加を図ることができる。
【0019】
また、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、亜酸化窒素の分解及びセメント硬化体への二酸化炭素の固定を促進することができる。
【0020】
また、本発明において、請求項4乃至5に記載の構成を具備することによって、不要となったコンクリート廃材や戻りコンクリート等を効率的に再利用することができる。
【0021】
また、本発明において、請求項6に記載の構成を具備することによって、セメント硬化体をセメント系材料として再利用することができるとともに、地球温暖化対策として有効活用することができる。
【0022】
さらに、本発明において、請求項7に記載の構成を具備することによって、下水汚泥焼却場から発生する排ガスに含有される亜酸化窒素及び二酸化炭素を分解し、固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る高温ガスの処理方法に使用する処理装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明に係る高温ガスの処理方法の効果確認試験に使用した装置の概略を示す縦断面図である。
図3】同上の効果確認試験における亜酸化窒素の削減率と温度との関係を示すグラフである。
図4】同上の二酸化炭素の削減率と温度との関係を示すグラフである。
図5】同上の温室効果ガス全体の削減率と温度との関係を示すグラフである。
図6】同上の各温度における亜酸化窒素の削減率と時間との関係を示すグラフである。
図7】同上の各温度における二酸化炭素の削減率と時間との関係を示すグラフである。
図8】同上の温室効果ガス全体の削減率と時間との関係を示すグラフである。
図9】同上のセメント硬化体としてスラッジを使用した際の温度600℃における亜酸化窒素の削減率と時間との関係を示すグラフである。
図10】同上の温度600℃における二酸化炭素の削減率と時間との関係を示すグラフである。
図11】同上の温室効果ガス全体の削減率と時間との関係を示すグラフである。
【0024】
次に、本発明に係る高温ガスの処理方法の実施態様を図1に示した実施例に基づいて説明する。
【0025】
本実施例では、特に図示しないが、下水汚泥焼却場等において下水汚泥等が焼却炉4で焼却され、焼却炉4より排出された高温ガス(高温排ガス)が焼却炉4の下流側に設置された処理装置1に送られ、処理装置1において亜酸化窒素を分解、二酸化炭素をセメント硬化体2に固定して処理するようになっている。
【0026】
処理装置1は、例えば、図1に示すように、傾斜した管状の処理用炉体3と、処理用炉体3内に焼却炉4から排出された高温ガス(高温排ガス)5を供給するガス供給手段と、処理用炉体3内にセメント硬化体2を供給するセメント硬化体供給手段6とを備え、処理用炉体3内で亜酸化窒素及び二酸化炭素を含有する高温ガス5とセメント硬化体2とを接触させ、処理済みガスを排気管7から排出するようになっている。
【0027】
尚、処理装置1から排出された処理済みガスは、亜酸化窒素及び二酸化炭素の濃度を計測した後、特に図示しないが、冷却塔、集塵機、排煙処理塔等を経て煙突より大気に排出するようになっている。
【0028】
処理用炉体3は、一定の長さを有する閉鎖された円筒形状に形成され、外周部に配置されたヒーター等からなる温度調節手段8により内部雰囲気を所定の温度に調節でき、供給された高温ガス5をそのままの温度で利用してもよく、状況に応じて温室効果ガスをより効率よく削減できる温度に制御してもよい。
【0029】
また、処理用炉体3は、特に図示しないが、回転手段によって管軸を中心に円周方向に回転できるようにしてもよい。
【0030】
ガス供給手段は、焼却炉4に接続されたガス供給管9を備え、このガス供給管9を通して焼却炉4より排気された高温ガス5を処理用炉体3内に供給するようになっている。
【0031】
尚、排気管7から排出された処理済みガスは、回収して再加熱手段10によって再加熱した後、ガス供給管9に送込み、再度処理用炉体3内に供給するようにしてもよい。
【0032】
セメント硬化体供給手段6は、処理用炉体3内と上流側で連通する供給側ベルトコンベア11と、供給側ベルトコンベア11上に別プラントで調整されたセメント硬化体2を投入するホッパ等のセメント硬化体供給源12とを備え、供給側ベルトコンベア11によりセメント硬化体2が上流側から処理用炉体3内に送り込まれ、処理用炉体3内を傾斜に沿って所定の速度で通過した後、処理用炉体3内と下流側で連通する排出側ベルトコンベア13によって排出されるようになっている。
【0033】
尚、セメント硬化体2の供給は、バッチ式であってもよく、連続的に投入されるようにしてもよい。
【0034】
また、処理用炉体3から排出されたセメント硬化体2は、回収され、再度処理用炉体3内に投入されるようにしてもよい。
【0035】
次に、上述の処理装置1を使用した高温ガスの処理方法の具体的手順を示す。
【0036】
先ず、建造物の解体等に生じたセメント廃材、モルタル廃材、コンクリート廃材や、工事現場において使用されず残存した残セメント、残モルタル、残コンクリートや、工事現場において使用されず工場に戻された戻りセメント、戻りモルタル、戻りコンクリート(以下、総称してセメント硬化体2という)を別プラントにおいて調整し、セメント硬化体供給手段6により処理用炉体3内への供給を開始する。
【0037】
尚、これらのセメント硬化体2については、セメントが混入したものであればよく、セメント混入量が多いほど好ましい。また、廃コンクリート材については、粉砕し、骨材を除去し、戻りコンクリート材については、固化前に骨材を分離して除去した残分により構成することが、亜酸化窒素及び二酸化炭素の削減には好ましい。
【0038】
一方、下水汚泥焼却場で発生した排ガス、即ち、下水汚泥等を焼却炉4で焼却した際に生じた亜酸化窒素及び二酸化炭素を含む高温ガスを処理装置1(処理用炉体3)にガス供給管9を通して送り込み、50℃~900℃、好ましくは450℃~700℃の所定の温度に調整した処理用炉体3内において高温ガス中の亜酸化窒素及び二酸化炭素とセメント硬化体2とを接触させる。
【0039】
高温ガス5は、基準容積当りに亜酸化窒素を50ppm以上、二酸化炭素を5%以上、水分量を10%以上含有するものとし、必要に応じて水分を追加して調整する。
【0040】
高温ガス中の二酸化炭素は、以下の式(1)(2)に示すように、セメント硬化体2中に含まれる酸化カルシウム、水酸化カルシウムと反応し、常温でも炭酸カルシウムを生成し、高温ほど反応が促進され、効率よくセメント硬化体2に固定される。
CaO+CO→CaCO …(1)
Ca(OH)+CO→CaCO+HO …(2)
尚、(1)式の反応では、水が無いと反応し難いため、高温ガス5中に水分が多いことが好ましい。
【0041】
一方、セメント硬化体2中の水酸化カルシウムは、450~600℃で酸化カルシウムと水に分解され(Ca(OH)→CaO+HO)、新たに酸化カルシウムが生成される。この生成された酸化カルシウムは、ガス中の亜酸化窒素と接触することで、亜酸化窒素の分解を促進する。また、二酸化炭素が新たに生成された酸化カルシウムとも反応し、セメント硬化体2に固定される。
【0042】
ガス中の亜酸化窒素は、200℃以上の温度で酸化カルシウムと接触すると酸素と窒素に分解され、350℃以上では更に分解が進み、高温になるほど分解が促進される。
【0043】
特に、450~700℃の温度域では、セメント硬化体2から新たに酸化カルシウムが生成されるとともに雰囲気が高温になるので、亜酸化窒素の分解がより促進される。
【0044】
一方、700℃程度より上の温度では、CaCO→CaO+COの脱炭酸反応によりCOが新たに発生する。
【0045】
これら各温度における化学反応で生成される物質の量は、セメント硬化体2の化学成分で変わる。
【0046】
尚、処理用炉体3を回転させて内部のセメント硬化体2を攪拌しながら排ガスと接触させることで、効率よくガス中の亜酸化窒素及び二酸化炭素を削減することができる。
【0047】
高温ガスは、セメント硬化体2と接触した後、回収して、再度処理装置1に戻すことも可能である。セメント硬化体2も同様に、ガスと接触後、再度処理装置1に戻して同じ処理を複数繰り返すこともできる。
【0048】
一方、ガスと接触して二酸化炭素が固定されたセメント硬化体2は、新たにセメント原料やコンクリート材料等のセメント系材として再利用することができる。
【0049】
尚、セメント硬化体2は、本処理前(二酸化炭素の固定前)の段階でセメント硬化体2を粉砕し、骨材を除去している場合のみならず、セメント硬化体2に二酸化炭素を固定した後、粉砕し、骨材を除去した場合のいずれの場合であっても新たにセメント原料やコンクリート材料等のセメント系材として再利用することができ、二酸化炭素を固定したことで二酸化炭素排出を抑制し、地球温暖化対策として有効に活用することができる。また、骨材については、周囲に付着しているセメントペースト分が二酸化炭素を固定するため、再生骨材としてコンクリート材料(セメント系材)に再利用することで、地球温暖化対策に有効に活用することができる。
【0050】
亜酸化窒素が窒素と酸素に分解された処理済み排ガスは、熱交換器によって廃熱が回収され、管路を経て煙突等から大気中に放出される。
【0051】
このように構成された処理方法では、天然資源である石灰石や消石灰粉粒体を用いずに、セメント硬化体2と接触させて亜酸化窒素を窒素と酸素とに分解するとともに、同じ工程において二酸化炭素をセメント硬化体2に固定することができ、亜酸化窒素及び二酸化炭素の排出を温室効果ガスとしてトータル的に抑制することができる。さらに廃棄されているセメント硬化体2を好適に再利用することができる。
【0052】
次に、本発明に係る高温ガスの処理方法の効果を確認した実験結果について説明する。尚、以下においては、亜酸化窒素をNOと、二酸化炭素をCOとそれぞれ化学式で適宜表記する。
【0053】
(試料)
普通セメントを用い、W/C0.6のセメントペーストをホバートミキサで練り混ぜ、計30Lのセメントペーストを作製し、それを複数のポリエチレン袋(直径50mm、長さ500mm)に入れ、材齢3週間、20℃の気中で封緘養生を行ってセメント硬化体2を作製し、その後、ポリエチレン袋を除去し、セメント硬化体2をジョークラッシャーで粒径5mm以下に粉砕してセメント硬化体2の試料とし、ポリエチレン袋に入れて密閉する。
そして、試験の前日にセメント硬化体2を105℃で5時間乾燥し、試験に供した。
(実験方法)
1.図2に示すように、処理用炉体3として外熱キルン(内径15cm、長さ70cm)を使用し、外熱キルンの内部の雰囲気温度が設定温度になるまでヒーターで加熱し、温度を安定させる。
2.次に、ステンレスバット(126×155×27mm)にセメント硬化体2の試料100gを入れたものを4つ準備し、素早く外熱キルン内に入れる。
3.試料投入後、速やかにCOを10%、NOを1000ppm、それ以外を大気ガスとした混合ガスを1L/minでキルン内に30分間流入する。
4.キルンの排出側ではCO濃度をモニタリングするとともに、サンプリングバッグでガスを18L(残りの12Lはモニタリング用に分岐)採取し、NOおよびCOのガス濃度をガスクロマトグラフで分析する。
尚、温室効果ガス濃度については、NO濃度を300倍、CO濃度を1倍として合計の温室効果ガス濃度を算出した。また、温室効果ガス削減率は、流入した温室効果ガス濃度0.4(NO:1000ppm×300、CO:10%×1)に対して、以下の計算式により本処理によって温室効果ガスを削減できた割合を算出した。
(1-温室効果ガス濃度/0.4)×100(%)
【0054】
(実施例1)
上記1~4の工程を50℃~850℃の異なる温度において実施し、各温度におけるNOおよびCOのガス濃度について分析した。その結果を表1及び図3図5に示す。
【表1】
【0055】
以上の結果から、50℃~900℃の温度域で温室効果ガスである亜酸化窒素及び二酸化炭素の削減が確認された。一方、亜酸化窒素は、セメント硬化体2から酸化カルシウムが生成される温度450℃以上の温度域で大幅に窒素と酸素への分解が促進され、二酸化炭素は、常温(50℃)~700℃当りまでの温度域で最も効率よく削減されることが確認された。
【0056】
即ち、450℃~700℃の温度域において、亜酸化窒素と二酸化炭素とがそれぞれ好適に削除され、温室ガスである亜酸化窒素と二酸化炭素とを同一工程においてトータルで効率よく削減できることが確認された。
【0057】
(実施例2)
本実施例では、事前に試料の20%となる水を霧状に噴霧して含水させ、上記1~4の工程を温度600℃において実施し、NOおよびCOのガス濃度について分析した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0058】
以上の結果から、高温ガス5中に水分量が多く含まれることにより、効率よく温室効果ガスである亜酸化窒素及び二酸化炭素が削減されることが確認された。
【0059】
(実施例3)
本実施例では、流入ガス(流入量2L/min)にCOを10%、NOを500ppm、40vol%の水蒸気を加えて調整し、上記1~4の工程をキルン内温度400℃~850℃の異なる温度において実施し、各温度におけるNOおよびCOの両者のガス濃度が最も削減率の高い温度について分析した。
【0060】
また、試料には、セメント硬化体2に加え、さらに槽内において4日間常温で炭酸化させ、廃コンクリートのセメント微粉末を模擬したセメント硬化体2′の2種類を使用した。
【0061】
尚、セメント硬化体2は、戻りコンクリートなどのスラッジを想定したもので、セメント硬化体2′は、長年供用され炭酸化したコンクリートを破砕した廃コンクリートの微粉末を想定したものである(以後、セメント硬化体2を未炭酸化品、炭酸化させたセメント硬化体2´を炭酸化品と称する)。
【0062】
以下に、未炭酸化品と炭酸化品の示差熱分析結果を示す。
【表3】
【0063】
さらに、本実施例では、未炭酸化品または炭酸化品を4つのステンレスバッドに100gずつ置き、計400gをキルンに入れる場合に加え、セメント硬化体2000gを回転するキルン内に直接入れる場合とを実施し、両場合の反応を比較した。尚、セメント硬化体をキルンに直接投入する場合のガスのモニタリング方法は、キルンから流出させたガスをガス分析計に直接接続し、常時計測とした。
【0064】
結果を図6図8に示す。なお、キルン炉内のガスの入れ替わりに時間を要するとともに、初期の反応で生じる脱水が多い場合に分析計を一時的に外している時間があることから、その時間を考慮して実験開始から5~10分以降の傾向に着目した。
【0065】
以上の結果から、400℃~700℃の各温度において、温室効果ガスである亜酸化窒素及び二酸化炭素の削減効果が確認された。特に、600℃において温室効果ガスである亜酸化窒素および二酸化炭素の削減率が最も高いことが確認された。また、600℃では炭酸化の影響をうけた炭酸化品の場合であっても最も安定して温室効果ガスの削減率が高いことが確認された。
【0066】
次に、実施例3で温室効果ガスに透過させた後の未炭酸化品および炭酸化品について、モルタルに再利用した際の各種物性について実験した結果について説明する。
【0067】
(実験方法)
実験は、JIS R 5201:セメントの物理試験に準拠し、配合、フロー試験、曲げ試験および圧縮試験を実施した。
【0068】
温室効果ガスの削減率が最も高く安定していた600℃に使用した未炭酸化品および炭酸化品を、標準砂に置換率5%または10%で絶乾状態のまま使用し、水中養生の後に材齢28日強度を確認した。ブランクとして、試料を置換しない条件も作成した。実験結果を表4に示す。
【表4】
【0069】
以上の結果から、温室効果ガスに透過させた後の未炭酸化品および炭酸化品を、モルタルの細骨材に5~10%置換した場合の強度は、ブランクの場合と概ね同等でありセメント系材料として利用できることが確認された。
【0070】
(実施例4)
本実施例では、実際の廃コンクリート材であるスラッジ脱水品(以下、スラッジという)を試料に使用し、実施例3と同様に流入ガス(流入量2L/min)にCOを10%、NOを500ppm、40vol%の水蒸気を加えて調整したうえで、実施例3と同様に上記1~4工程をキルン内温度600℃の温度において実施し、NO及びCOの両者のガス濃度の削減率について検証した。
【0071】
この試料は、既製杭の製造時に発生するスラッジを屋外にて固化させ、ジョーククラッシャーで粒径5mm以下に破砕したものである。試料は、4つのステンレスバッドに100gずつ置き、計400gをキルンに入れて実験を行った。
【0072】
以下にスラッジの示差熱分析結果を表に示す。
【表5】
【0073】
結果を図9図11に示す。尚、キルン炉内のガスの入れ替わりに時間を要するため、その時間を考慮して実験開始から5~10分以降の傾向に着目した。
【0074】
以上の結果から、600℃においてスラッジを用いたとき、亜酸化窒素および二酸化炭素の高い削減効果が確認され、セメント硬化体2としてのスラッジの有用性を確認した。
【符号の説明】
【0075】
1 処理装置
2 セメント硬化体
3 処理用炉体
4 焼却炉
5 高温ガス
6 セメント硬化体供給手段
7 排気管
8 温度調節手段
9 ガス供給管
10 再加熱手段
11 供給側ベルトコンベア
12 セメント硬化体供給源
13 排出側ベルトコンベア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11