(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032664
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】被覆電線および被覆電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240305BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240305BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01B7/02 C
H01B7/02 A
H01B13/00 517
H01B13/16 D
H01B13/16 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126130
(22)【出願日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2022136016
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.HDMI
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
(72)【発明者】
【氏名】河野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】荻田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】助川 勝通
【テーマコード(参考)】
5G309
5G325
【Fターム(参考)】
5G309MA02
5G309MA03
5G309MA06
5G325KA09
5G325KA11
(57)【要約】
【課題】低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を示し、曲げても被覆層にしわが発生せず、平角電線基材と被覆層との密着強度が高い被覆電線を提供すること。
【解決手段】平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された被覆層とを含む被覆電線であって、前記被覆層が、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む水系塗料組成物(1)、または、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む粉体塗料組成物(1)から形成される第1の層と、含フッ素高分子化合物(2-1)を含む水系塗料組成物(2)、または、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む粉体塗料組成物(2)から形成される第2の層と、を含む被覆電線を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された被覆層とを含む被覆電線であって、
前記被覆層が、
アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む水系塗料組成物(1)、または、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む粉体塗料組成物(1)から形成される第1の層と、
含フッ素高分子化合物(2-1)を含む水系塗料組成物(2)、または、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む粉体塗料組成物(2)から形成される第2の層と、
を含む被覆電線。
【請求項2】
高分子化合物(1)が、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の被覆電線。
【請求項3】
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)が、パーフルオロ系高分子化合物である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項4】
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)の比誘電率が、2.0~2.2である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項5】
含フッ素高分子化合物(2-2)の融点が、250~320℃である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項6】
高分子化合物(1)と含フッ素高分子化合物(1)との体積比が、10/90~90/10である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項7】
前記平角電線基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項8】
前記平角電線基材の面粗さSzが、0.2~12μmの範囲にある請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項9】
前記被覆層の厚みが、30~200μmであり、前記被覆層の比誘電率が、2.1~2.8である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項10】
第2の層の厚みが、20~100μmである請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項11】
前記被覆層の部分放電開始電圧が、1100~2500(Vp)である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項12】
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)が、炭素原子106個あたり5~1000個の官能基を有する請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項13】
含フッ素高分子化合物(2-2)が、炭素原子106個あたり0~4個の官能基を有する請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項14】
水系塗料組成物(2)の粘度が、10~10000(cP)である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項15】
粉体塗料組成物(2)の平均粒径が、1~100(μm)である請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項16】
第1の層が、前記平角電線基材の外周に形成され、第2の層が、第1の層の外周に形成される請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項17】
請求項1または2に記載の被覆電線を製造するための被覆電線の製造方法であって、
水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)を、前記平角電線基材の外周に塗布することにより、第1の層を形成し、
水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)を、第1の層の外周に塗布することにより、第2の層を形成する
製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載の被覆電線を備えるモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆電線および被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導体と、前記導体の外周に形成される第一の絶縁層とを有し、前記第一の絶縁層は、熱硬化性樹脂及びフッ素樹脂からなり、熱硬化性樹脂とフッ素樹脂との質量比が90:10~10:90であり、熱硬化性樹脂溶液とフッ素樹脂オルガノゾルとを混合し、得られた混合液を導体上に塗布し、焼き付けることによって形成された層であることを特徴とする電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を示し、曲げても被覆層にしわが発生しにくく、平角電線基材と被覆層との密着強度が高い被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された被覆層とを含む被覆電線であって、前記被覆層が、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む水系塗料組成物(1)、または、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む粉体塗料組成物(1)から形成される第1の層と、含フッ素高分子化合物(2-1)を含む水系塗料組成物(2)、または、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む粉体塗料組成物(2)から形成される第2の層と、を含む被覆電線が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を示し、曲げても被覆層にしわが発生しにくく、平角電線基材と被覆層との密着強度が高い被覆電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0008】
本開示の被覆電線は、平角電線基材と、平角電線基材の外周に形成された被覆層とを含む。
【0009】
(平角電線基材)
平角電線基材の形状は、その断面が略長方形の平角線の形状であれば特に限定されない。平角電線基材の断面の角部は直角であってもよいし、平角電線基材の断面の角部が丸みを有していてもよい。また、平角電線基材は、全体の断面が略長方形であれば、単線、集合線、撚線などであってよいが、単線であることが好ましい。
【0010】
平角電線基材としては、導電材料から構成されるものであれば特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、銀、ニッケルなどの材料により構成することができ、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されたものが好ましい。また、銀めっき、ニッケルめっきなどのめっきを施した平角電線基材を用いることもできる。銅としては、無酸素銅、低酸素銅、銅合金などを用いることができる。
【0011】
平角電線基材の断面の幅は1~75mmであってよく、平角電線基材の断面の厚さは0.1~30mmであってよい。平角電線基材の外周径は、6.5mm以上であってよく、200mm以下であってよい。また、幅の厚さに対する比は、1超30以下であってよい。
【0012】
平角電線基材の面粗さSzは、平角電線基材と被覆層とが一層強固に密着することから、好ましくは0.2~12μmであり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以下である。
【0013】
平角電線基材の面粗さは、エッチング処理、ブラスト処理、レーザー処理などの表面処理方法により、平角電線基材を表面処理することにより調整することができる。また、表面処理により、平角電線基材の表面に凹凸を設けてもよい。凸部から凸部の凹凸間距離は小さいほど好ましく、たとえば、5μm以下である。また、凹凸の大きさは、たとえば、未加工面に対する凸部を切断した時の1つあたりの凹部面積が1μm2以下である。凹凸形状は、クレーター型の単一な凹凸形状でもよく、アリの巣状に枝分かれしているものでもよい。
【0014】
(被覆層)
本開示の被覆電線が含む被覆層は、少なくとも第1の層および第2の層を含む。本開示の被覆電線においては、通常、第1の層が、平角電線基材の外周に形成され、第2の層が、第1の層の外周に形成される。
【0015】
第1の層および第2の層は、いずれも、塗料組成物から形成される塗膜である。第1の層は、水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)から形成される塗膜である。第2の層は、水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)から形成される塗膜である。
【0016】
水系塗料組成物は、高分子化合物または含フッ素高分子化合物とともに、溶媒として水を含有している。粉体塗料組成物は、高分子化合物または含フッ素高分子化合物の粉体を含有している。本開示においては、粉体塗料が、高分子化合物の粉体のみを含有する場合であっても、含フッ素高分子化合物の粉体のみを含有する場合であっても、すなわち、粉体塗料が複数の成分を含有しない場合であっても、「粉体塗料組成物」との用語を用いる。
【0017】
水系塗料組成物(1)は、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む。水系塗料組成物(1)を平角電線基材の外周に塗布して第1の層を形成することにより、平角電線基材に高い密着強度で密着する第1の層を形成することができ、それによって、高い密着強度で平角電線基材に密着した被覆層を形成することができ、曲げてもしわが発生しにくい被覆層を形成することができる。
【0018】
粉体塗料組成物(1)は、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む。粉体塗料組成物(1)を平角電線基材の外周に塗布して第1の層を形成することにより、平角電線基材に高い密着強度で密着する第1の層を形成することができ、それによって、高い密着強度で平角電線基材に密着した被覆層を形成することができ、曲げてもしわが発生しにくい被覆層を形成することができる。
【0019】
水系塗料組成物(2)は、含フッ素高分子化合物(2-1)を含む。水系塗料組成物(2)を第1の層の外周に塗布して第2の層を形成することにより、低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を被覆層に与えるとともに、第1の層と十分に密着することによって、層間強度に優れた被覆層を与える第2の層を形成することができる。
【0020】
粉体塗料組成物(2)は、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む。粉体塗料組成物(2)を第1の層の外周に塗布して第2の層を形成することにより、低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を被覆層に与えるとともに、第1の層と十分に密着することによって、層間強度に優れた被覆層を与える第2の層を形成することができる。
【0021】
被覆層の厚みは、絶縁特性の観点から、好ましくは30~200μmであり、より好ましくは40μm以上であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。厚みが大きすぎると、被覆電線をモータなどの機器に用いた場合に機器の小型化が困難となる可能性があり、厚みが小さすぎると、十分な絶縁性が得られない可能性がある。
【0022】
第1の層の厚みは、平角電線基材と被覆層とを十分に密着させ、曲げてもしわが発生しにくい被覆層を形成する観点から、好ましくは5~50μmであり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは15μm以上であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0023】
第2の層の厚みは、低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を被覆層に与えるとともに、第2の層を、第1の層と十分に密着させる観点から、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは90μm未満であり、尚さらに好ましくは80μm以下である。
【0024】
水系塗料組成物(2)を用いて第2の層を形成する場合には、第2の層の厚みを比較的小さくすることができる。この場合の第2の層の厚みの上限は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下である。
【0025】
粉体塗料組成物(2)を用いて第2の層を形成する場合には、第2の層の厚みを比較的大きくすることができる。この場合の第2の層の厚みの下限は、好ましくは35μm超であり、より好ましくは40μm超であり、さらに好ましくは50μm超である。
【0026】
被覆層の比誘電率は、好ましくは2.1~2.8であり、より好ましくは2.6以下である。本開示の被覆電線は、2つの層の構成材料および形成方法を適切に組み合わせたものであることから、被覆層の比誘電率を低くすることができる。
【0027】
被覆層の部分放電開始電圧は、好ましくは1100~2500(Vp)であり、より好ましくは1200(Vp)以上であり、より好ましくは2000(Vp)以下である。本開示の被覆電線は、2つの層の構成材料および形成方法を適切に組み合わせたものであることから、被覆層の部分放電開始電圧を高くすることができる。
【0028】
被覆層は、第1の層および第2の層を含むものであれば、他の層をさらに含むものであってもよいが、他の層を含まなくても、所望の効果を奏する被覆電線を得ることができる。
【0029】
(第1の層)
第1の層は、水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)から形成される。
【0030】
水系塗料組成物(1)は、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む。水系塗料組成物(1)は、高分子化合物として、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)のみを含むものであってよい。
【0031】
水系塗料組成物(1)は、高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)に加えて、水を含有してもよい。水系塗料組成物(1)は、溶媒として、水のみを含有することも好ましい。
【0032】
水系塗料組成物(1)の粘度は、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、好ましくは10~10000(cP)であり、より好ましくは50(cP)以上であり、さらに好ましくは100(cP)以上であり、より好ましくは1000(cP)以下であり、さらに好ましくは500(cP)以下である。水系塗料組成物(1)の粘度は、水系塗料組成物(1)中の高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)の含有量を調整することにより、調整することができる。
【0033】
水系塗料組成物(1)中の高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)の含有量は、水系塗料組成物(1)の質量に対して、好ましくは1~90重量%であり、より好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは80重量%以下である。
【0034】
粉体塗料組成物(1)は、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む。粉体塗料組成物(1)中の高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)は、通常、いずれも粉体である。粉体塗料組成物(1)は、高分子化合物として、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)のみを含むものであってよい。
【0035】
粉体塗料組成物(1)の平均粒径は、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、好ましくは1~100(μm)であり、より好ましく5μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上であり、より好ましくは90μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。
【0036】
水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)において、高分子化合物(1)と含フッ素高分子化合物(1)との体積比は、被覆層の低い比誘電率および高い部分放電開始電圧を損なうことなく、被覆層を、平角導体基材に十分に密着させる観点から、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは15/85以上であり、より好ましくは85/15以下である。
【0037】
水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、有機・無機系の各種顔料、銅害防止剤、気泡防止剤密着付与剤、潤滑剤、加工助剤、着色剤、リン系安定剤、潤滑剤、離型剤、摺動材、紫外線吸収剤、染顔料、補強材、ドリップ防止剤、充填材、硬化剤、紫外線硬化剤、難燃剤等の添加剤等を挙げることができる。水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)中の他の成分の含有量としては、水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)中の高分子化合物(1)および含フッ素高分子化合物(1)の質量に対して、好ましくは30重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、下限は特に限定されないが、0重量%以上であってもよい。すなわち、水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)は、他の成分を含有しなくてもよい。
【0038】
(第2の層)
第2の層は、水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)から形成することができる。
【0039】
水系塗料組成物(2)は、含フッ素高分子化合物(2-1)を含む。水系塗料組成物(2)は、高分子化合物として、含フッ素高分子化合物(2-1)のみを含むものであってよい。
【0040】
水系塗料組成物(2)は、含フッ素高分子化合物(2-1)に加えて、水を含有してもよい。水系塗料組成物(2)は、溶媒として、水のみを含有することも好ましい。
【0041】
水系塗料組成物(2)の粘度は、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、好ましくは10~10000(cP)であり、より好ましくは50(cP)以上であり、さらに好ましくは100(cP)以上であり、より好ましくは1000(cP)以下であり、さらに好ましくは500(cP)以下である。水系塗料組成物(2)の粘度は、水系塗料組成物(2)中の含フッ素高分子化合物(2-1)の含有量を調整することにより、調整することができる。
【0042】
水系塗料組成物(2)中の含フッ素高分子化合物(2-1)の含有量は、水系塗料組成物(2)の質量に対して、好ましくは1~90重量%であり、より好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは80重量%以下である。
【0043】
粉体塗料組成物(2)は、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む。粉体塗料組成物(2)中の含フッ素高分子化合物(2-2)は、通常、粉体である。粉体塗料組成物(2)は、高分子化合物として、含フッ素高分子化合物(2-2)のみを含むものであってよい。
【0044】
粉体塗料組成物(2)の平均粒径は、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、好ましくは1~100(μm)であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上であり、より好ましくは90μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。
【0045】
水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、有機・無機系の各種顔料、銅害防止剤、気泡防止剤密着付与剤、潤滑剤、加工助剤、着色剤、リン系安定剤、潤滑剤、離型剤、摺動材、紫外線吸収剤、染顔料、補強材、ドリップ防止剤、充填材、硬化剤、紫外線硬化剤、難燃剤等の添加剤等を挙げることができる。水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)中の他の成分の含有量としては、水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)中の含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)の質量に対して、好ましくは30重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、下限は特に限定されないが、0重量%以上であってもよい。すなわち、水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)は、他の成分を含有しなくてもよい。
【0046】
(高分子化合物)
次に、被覆電線の被覆層に用いる高分子化合物について説明する。以下に説明する高分子化合物は、第1の層を形成する高分子化合物(1)として、好適に用いることができる。
【0047】
本開示において、「高分子化合物」は、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有しており、好適にはフッ素原子を有しない。高分子化合物は、アミド基(アミド結合)またはイミド基(イミド結合)を、高分子化合物の主鎖または側鎖に有することができる。
【0048】
高分子化合物としては、平角電線基材との密着性または他の層との密着性の観点から、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミドイミドおよびポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。また、高分子化合物として、2種以上の高分子化合物を組み合わせて用いることもできる。たとえば、高分子化合物として、ポリアミドイミドおよびポリイミドの組み合わせを用いることができる。
【0049】
ポリアミドイミドは、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。ポリアミドイミドとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4-ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。ポリアミドイミドとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0050】
ポリイミドは、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。ポリイミドとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。ポリイミドとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0051】
(含フッ素高分子化合物)
次に、被覆電線の被覆層に用いる含フッ素高分子化合物について説明する。以下に説明する含フッ素高分子化合物は、第1の層を形成する含フッ素高分子化合物(1)、第2の層を形成する含フッ素高分子化合物(2-1)、および、含フッ素高分子化合物(2-2)として、好適に用いることができる。
【0052】
含フッ素高分子化合物は、フッ素原子を有する高分子化合物である。含フッ素高分子化合物は、通常、主鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子が部分的に、または、完全にフッ素原子で置き換えられている高分子化合物である。
【0053】
含フッ素高分子化合物としては、一層低い比誘電率および一層高い部分放電開始電圧を示す被覆層が得られることから、パーフルオロ系高分子化合物が好ましい。本開示において、パーフルオロ系高分子化合物とは、高分子化合物を構成する全ての重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%以上である高分子化合物である。
【0054】
本開示において、パーフルオロモノマーとは、分子中に炭素原子-水素原子結合を含まないモノマーである。パーフルオロモノマーは、炭素原子及びフッ素原子の他、炭素原子に結合しているフッ素原子のいくつかが塩素原子で置換されたモノマーであってもよく、炭素原子の他、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、燐原子、硼素原子又は珪素原子を有するものであってもよい。パーフルオロモノマーとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたモノマーであることが好ましい。
【0055】
含フッ素高分子化合物の比誘電率は、一層低い比誘電率および一層高い部分放電開始電圧を示す被覆層が得られることから、好ましくは2.0~2.2であり、より好ましくは2.1以下である。含フッ素高分子化合物の比誘電率は、JIS-C-2138に準拠し、23℃±2℃、相対湿度50%、周波数1KHzにて測定することができる。
【0056】
含フッ素高分子化合物としては、フッ素樹脂が好ましい。本開示においてフッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フルオロプラスチックスである。フッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有するが、溶融加工性であっても、非溶融加工性であってもよい。
【0057】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/FAVE/HFP共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0058】
フッ素樹脂としては、なかでも、ポリテトラフルオロエチレン、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0059】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、非溶融加工性のPTFEであってもよいし、溶融加工性のPTFEであってもよいが、非溶融加工性のPTFEが好ましい。
【0060】
非溶融加工性のPTFEは、通常、延伸性、フィブリル化特性および非溶融二次加工性を有する。非溶融二次加工性とは、ASTM D 1238及びD 2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質、すなわち溶融温度領域でも容易に流動しない性質を意味する。
【0061】
PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)単独重合体であってもよいし、TFE単位および変性モノマー単位を含有する変性PTFEであってもよい。本開示において、「変性PTFE」とは、得られる共重合体に溶融加工性を付与しない程度の少量の共単量体をTFEと共重合してなるものを意味する。共単量体としては特に限定されず、たとえば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等が挙げられる。共単量体が変性PTFEに付加されている割合は、その種類によって異なるが、たとえば、TFEと少量の共単量体との合計質量に対して、0.001~1質量%であることが好ましい。本開示において、PTFEを構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0062】
PTFEは、標準比重(SSG)が2.280以下であることが好ましく、2.210以下であることがより好ましく、2.200以下であることがさらに好ましく、2.130以上であることが好ましい。SSGは、ASTM D 4895-89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定することができる。
【0063】
PTFEは、ピーク温度が333~347℃の範囲に存在することが好ましい。より好ましくは、335℃以上であり、また、345℃以下である。ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないPTFEについて示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0064】
含フッ素高分子化合物として、溶融加工性の含フッ素高分子化合物を用いることもできる。特に、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、第2の層を形成するための含フッ素高分子化合物(2-2)として、溶融加工性の含フッ素高分子化合物を用いることが好ましい。また、所望の厚みを有する層を容易に形成できる観点から、第1の層を形成するための粉体塗料組成物(1)に含まれる含フッ素高分子化合物(1)として、溶融加工性の含フッ素高分子化合物を用いることが好ましい。
【0065】
本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性の含フッ素高分子化合物は、メルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0066】
含フッ素高分子化合物のメルトフローレートは、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは70g/10分以下であり、好ましくは5g/10分以上であり、より好ましくは10g/10分以上である。
【0067】
含フッ素高分子化合物のメルトフローレートは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0068】
含フッ素高分子化合物の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは230℃以上であり、さらに好ましくは250℃以上であり、より好ましくは320℃以下である。
【0069】
融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0070】
溶融加工性の含フッ素高分子化合物としては、溶融加工性のフッ素樹脂が好ましい。溶融加工可能なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/FAVE/HFP共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0071】
溶融加工可能なフッ素樹脂としては、なかでも、TFE/FAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、および、TFE/FAVE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0072】
TFE/FAVE共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位を含有する共重合体である。
【0073】
FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF2=CFO(CF2CFY1O)p-(CF2CF2CF2O)q-Rf (1)
(式中、Y1はFまたはCF3を表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCF2OR1 (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCF3を表し、R1は、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0074】
FAVEとしては、なかでも、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0075】
TFE/FAVE共重合体のFAVE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは1.0~30.0モル%であり、より好ましくは1.2モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、尚さらに好ましくは1.6モル%以上であり、特に好ましくは1.8モル%以上であり、より好ましくは3.5モル%以下であり、さらに好ましくは3.2モル%以下であり、尚さらに好ましくは2.9モル%以下であり、特に好ましくは2.6モル%以下である。
【0076】
TFE/FAVE共重合体のTFE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは99.0~70.0モル%であり、より好ましくは96.5モル%以上であり、さらに好ましくは96.8モル%以上であり、尚さらに好ましくは97.1モル%以上であり、特に好ましくは97.4モル%以上であり、より好ましくは98.8モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%以下であり、尚さらに好ましくは98.4モル%以下であり、特に好ましくは98.2モル%以下である。
【0077】
本開示において、共重合体中の各モノマー単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0078】
TFE/FAVE共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/FAVE共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.0モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0079】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ1Z2=CZ3(CF2)nZ4(式中、Z1、Z2およびZ3は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z4は、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF2=CF-OCH2-Rf1(式中、Rf1は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0080】
TFE/FAVE共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、上記TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0081】
TFE/FAVE共重合体の融点は、好ましくは280~322℃であり、より好ましくは285℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは315℃以下である。融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0082】
TFE/FAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定できる。
【0083】
TFE/HFP共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位を含有する共重合体である。
【0084】
TFE/HFP共重合体のHFP単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは0.1~30.0モル%であり、より好ましくは0.7モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、より好ましくは10.0モル%以下である。
【0085】
TFE/HFP共重合体のTFE単位の含有量は、全モノマー単位に対して、好ましくは70.0~99.9モル%であり、より好ましくは90.0モル%以上であり、より好ましくは99.3モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%である。
【0086】
TFE/HFP共重合体は、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/HFP共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.9モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0087】
TFEおよびHFPと共重合可能な単量体としては、FAVE、CZ1Z2=CZ3(CF2)nZ4(式中、Z1、Z2およびZ3は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z4は、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF2=CF-OCH2-Rf1(式中、Rf1は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、FAVEが好ましい。
【0088】
TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは240℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは300℃未満であり、特に好ましくは280℃以下である。
【0089】
TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60~110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。
【0090】
含フッ素高分子化合物は、官能基を有していてもよい。
【0091】
官能基としては、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CF2H基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0092】
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(-C(=O)-)を含有する基である。カルボニル基含有基としては、たとえば、
カーボネート基[-O-C(=O)-OR3(式中、R3は炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]、
アシル基[-C(=O)-R3(式中、R3は炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]
ハロホルミル基[-C(=O)X5、X5はハロゲン原子]、
ホルミル基[-C(=O)H]、
式:-R4-C(=O)-R5(式中、R4は、炭素原子数1~20の2価の有機基であり、R5は、炭素原子数1~20の1価の有機基である)で示される基、
式:-O-C(=O)-R6(式中、R6は、炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[-C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[-C(=O)OR7(式中、R7は、炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[-C(=O)NR8R9(式中、R8およびR9は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[-C(=O)-O-C(=O)-]、
などをあげることができる。
【0093】
R3の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記R4の具体例としては、メチレン基、-CF2-基、-C6H4-基などがあげられ、R5の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。R7の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、R8およびR9の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0094】
ヒドロキシ基は、-OHで示される基または-OHで示される基を含む基である。本開示において、カルボキシル基を構成する-OHは、ヒドロキシ基に含まない。ヒドロキシ基としては、-OH、メチロール基、エチロール基などが挙げられる。
【0095】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素-炭素二重結合を有する基である。オレフィン基としては、下記式:
-CR10=CR11R12
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、-CF=CF2、-CH=CF2、-CF=CHF、-CF=CH2および-CH=CH2からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0096】
イソシアネート基は、-N=C=Oで示される基である。
【0097】
また、官能基として、-CH3基、-CFH2基などの非フッ素化アルキル基または部分フッ素化アルキル基を挙げることもできる。
【0098】
含フッ素高分子化合物の官能基数は、炭素原子106個あたり、5~2000個であることが好ましい。官能基の個数は、炭素原子106個あたり、より好ましくは50個以上であり、さらに好ましくは100個以上であり、特に好ましくは200個以上であり、より好ましくは1000個以下であり、さらに好ましくは800個以下であり、特に好ましくは700個以下であり、最も好ましくは500個以下である。
【0099】
また、含フッ素高分子化合物の官能基数は、電気特性に優れる被覆層を形成できることから、炭素原子106個あたり5個未満であってよく、0~4個であってもよい。特に、含フッ素高分子化合物が溶融加工性を有する場合、上記の数値範囲内の官能基数を有することが好ましい。
【0100】
上記官能基は、含フッ素高分子化合物の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基であり、好適には主鎖末端に存在する。上記官能基としては、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2、-OH、-CH2OHなどが挙げられ、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3および-CH2OHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。-COOHには、2つの-COOHが結合することにより形成されるジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)が含まれる。
【0101】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0102】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×106個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0103】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0104】
【0105】
なお、-CH2CF2H、-CH2COF、-CH2COOH、-CH2COOCH3、-CH2CONH2の吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CF2H、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH3、-CONH2の吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CF2COFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CH2COFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0106】
上記官能基数は、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2および-CH2OHの合計数であってよく、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3および-CH2OHの合計数であってよい。
【0107】
上記官能基は、たとえば、含フッ素高分子化合物を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、含フッ素高分子化合物に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CH2OHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、含フッ素高分子化合物の主鎖末端に-CH2OHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が含フッ素高分子化合物の側鎖末端に導入される。含フッ素高分子化合物は、官能基を有する単量体に由来する単位を含有してもよい。
【0108】
官能基を有する単量体としては、特開2006-152234号に記載のジカルボン酸無水物基((-CO-O-CO-)を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー、国際公開第2017/122743号に記載の官能基(f)を有する単量体などが挙げられる。官能基を有する単量体としては、なかでも、カルボキシ基を有する単量体(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等);酸無水物基を有する単量体(無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等)、水酸基またはエポキシ基を有する単量体(ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等)等が挙げられる。
【0109】
含フッ素高分子化合物は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0110】
(被覆電線の製造方法)
本開示の被覆電線は、たとえば、
水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)を、前記平角電線基材の外周に塗布することにより、第1の層を形成し、
水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)を、第1の層の外周に塗布することにより、第2の層を形成する
製造方法により製造することができる。
【0111】
水系塗料組成物の塗布することにより層を形成する方法としては特に限定されず、たとえば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装などの方法が挙げられる。
【0112】
水系塗料組成物を塗布したのち、得られた塗布膜を乾燥および/または焼成することにより、層を形成してもよい。乾燥は、従来公知の方法により行うことができ、60~200℃の温度で5~60分間行うことが好ましい。焼成は、従来公知の方法により行うことができるが、高分子化合物または含フッ素高分子化合物の融点もしくは硬化温度以上の温度で5~60分間行うことが好ましい。焼成は、塗料組成物を塗布する毎に行ってもよいし、塗料組成物を複数回塗布して複数の層(塗布膜)を形成させた後に行ってもよい。
【0113】
粉体塗料組成物の塗布することにより層を形成する方法としては特に限定されず、たとえば、静電塗装、流動浸漬塗装などの方法が挙げられる。
【0114】
粉体塗料組成物を塗布したのち、得られた塗布膜を焼成することにより、層を形成してもよい。焼成は、従来公知の方法により行うことができるが、高分子化合物または含フッ素高分子化合物の融点もしくは硬化温度以上の温度で5~60分間行うことが好ましい。焼成は、塗料組成物を塗布する毎に行ってもよいし、塗料組成物を複数回塗布して複数の層(塗布膜)を形成させた後に行ってもよい。
【0115】
本開示の被覆電線は、たとえば、LAN用ケーブル、USBケーブル、Lightningケーブル、HDMIケーブル、QSFPケーブル、航空宇宙用電線、地中送電ケーブル、海底電力ケーブル、高圧ケーブル、超電導ケーブル、ラッピング電線、自動車用電線、ワイヤーハーネス・電装品、ロボット・FA用電線、OA機器用電線、情報機器用電線(光ファイバケーブル、LANケーブル、HDMIケーブル、ライトニングケーブル、オーディオケーブル等)、通信基地局用内部配線、大電流内部配線(インバーター、パワーコンディショナー、蓄電池システム等)、電子機器内部配線、小型電子機器・モバイル配線、可動部配線、電気機器内部配線、測定機器類内部配線、電力ケーブル(建設用、風力/太陽光発電用等)、制御・計装配線用ケーブル、モーター用ケーブル等に好適に使用できる。
【0116】
本開示の被覆電線は、巻回されて、コイルとして使用することができる。本開示の被覆電線およびコイルは、モータ、発電機、インダクターなどの電気機器または電子機器に好適に用いることができる。また、本開示の被覆電線およびコイルは、車載用モータ、車載用発電機、車載用インダクターなどの車載用電気機器または車載用電子機器に好適に用いることができる。
【0117】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0118】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
平角電線基材と、前記平角電線基材の外周に形成された被覆層とを含む被覆電線であって、
前記被覆層が、
アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む水系塗料組成物(1)、または、アミド基およびイミド基のいずれか一方または両方を有する高分子化合物(1)、ならびに、含フッ素高分子化合物(1)を含む粉体塗料組成物(1)から形成される第1の層と、
含フッ素高分子化合物(2-1)を含む水系塗料組成物(2)、または、含フッ素高分子化合物(2-2)を含む粉体塗料組成物(2)から形成される第2の層と、
を含む被覆電線が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
高分子化合物(1)が、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種である第1の観点による被覆電線が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)が、パーフルオロ系高分子化合物である第1または第2の観点による被覆電線が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)の比誘電率が、2.0~2.2である第1~第3のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
含フッ素高分子化合物(2-2)の融点が、250~320℃である第1~第4のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
高分子化合物(1)と含フッ素高分子化合物(1)との体積比が、10/90~90/10である第1~第5のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
前記平角電線基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である第1~第6のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記平角電線基材の面粗さSzが、0.2~12μmの範囲にある第1~第7のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
前記被覆層の厚みが、30~200μmであり、前記被覆層の比誘電率が、2.1~2.8である第1~第8のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
第2の層の厚みが、20~100μmである第1~第9のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
前記被覆層の部分放電開始電圧が、1100~2500(Vp)である第1~第10のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)が、炭素原子106個あたり5~1000個の官能基を有する第1~第11のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
含フッ素高分子化合物(2-2)が、炭素原子106個あたり0~4個の官能基を有する第1~第11のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
水系塗料組成物(2)の粘度が、10~10000(cP)である第1~第13のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
粉体塗料組成物(2)の平均粒径が、1~100(μm)である第1~第14のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<16> 本開示の第16の観点によれば、
第1の層が、前記平角電線基材の外周に形成され、第2の層が、第1の層の外周に形成される第1~第15のいずれかの観点による被覆電線が提供される。
<17> 本開示の第17の観点によれば、
第1~第16のいずれかの観点による被覆電線を製造するための被覆電線の製造方法であって、
水系塗料組成物(1)または粉体塗料組成物(1)を、前記平角電線基材の外周に塗布することにより、第1の層を形成し、
水系塗料組成物(2)または粉体塗料組成物(2)を、第1の層の外周に塗布することにより、第2の層を形成する
製造方法が提供される。
<18>本開示の第18の観点によれば、
第1~第16のいずれかの観点による被覆電線を備えるモータが提供される。
【実施例0119】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0120】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0121】
(面粗さSz)
レーザー顕微鏡で8000μm2の視野における面粗さSzを測定した。
【0122】
(官能基数)
含フッ素高分子化合物を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、含フッ素高分子化合物における炭素原子106個あたりの官能基数Nを算出した。
【0123】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0124】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0125】
【0126】
(粘度)
JIS Z8803に記載のB型粘度計(東機産業社製BII型粘度計)を用いて、水系塗料組成物の粘度を測定した。測定には、回転ローター#4を用いた。測定温度は25℃とした。
【0127】
(平均粒径)
日機装社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により、粉体塗料組成物の平均粒径を測定した。体積基準による粒度分布における中央値の粒径(メディアン径)を平均粒径とした。
【0128】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0129】
(融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0130】
(被覆厚み)
マイクロメータにより測定した。
【0131】
(比誘電率)
被覆層全体の比誘電率(ε)は、HIOKI社製LCRハイテスタ3522-50を用いて、静電容量を得て下記の式より算出した。
C=Ca+Cb
(式中、Cは被覆の単位長さ当たりの静電容量(pf/m)で、平坦部の静電容量Caと角曲部の静電容量Cbの合成である。)
Ca=(ε/ε0)×2×(L1+L2)/T
Cb=(ε/ε0)×2πε0/Log{(r+T)/r}/r
(式中、ε0は真空の誘電率、L1は平角電線基材の平坦部の長辺の長さ、L2は平角電線基材の平坦部の短辺の長さ、Tは電線全体の被覆厚み、rは導体コーナーの曲率半径である。)
【0132】
(部分放電開始電圧(PDIV))
2本の被覆電線(長さ140mm)の断面形状の長辺を含む面同士を、長さ100mmに亘って隙間が無いように重ね合わせた試験片を作成した。その後、試料端部10mmの絶縁被膜を取り払い、部分放電測定器(総研電気社製DAC-PD-7)を用いて、相対湿度50%の雰囲気下で2本の被覆電線の平角電線基材間に50Hz正弦波の交流電圧を加えることで測定した。昇圧速度50V/sec、降圧速度50V/sec、電圧保持時間を0secとして、10pC以上の放電が発生した時点の電圧を部分放電開始電圧とした。
【0133】
(曲げ試験)
U字コイルを用い、基点から10mm地点の両側を長軸方向にR2曲げた時に、被覆層に浮きしわが発生しなかったものを○、発生したものを×とした。
【0134】
(基材と被覆層間の密着強度)
AGS-Jオートグラフ(50N)(島津製作所社製)を用いて測定した。長軸方向に50mm略平行に2本、その両端を短軸方向に被膜を直角に切り込み、端を10cm剥離させ、上部チャックに挟んだ。導体は長面方向が水平になるよう下部に固定した。引張方向に装置を動かしたとき、その縦方向の移動距離に応じて横方向に連動して動く治具を用い、剥離した被膜が常に長面方向の導体と垂直になるよう角度を調整した。30mm剥離させるまでに100mm/minで引っ張った時の引張応力を測定し、その最大点応力を密着強度とした。密着強度が0.1N/mm以上であれば、十分に密着していると判断して○とした。0.1N/mm未満を×とした。
【0135】
実施例1
面粗さSzが0.45μmである銅製の平角電線基材の外周に、水系塗料組成物Bを塗布、焼成して第1の層を形成した。さらにその外周に、水系塗料組成物Gを塗布、焼成して第2の層を形成した。水系塗料組成物Bを用いた第1の層の形成方法、および、水系塗料組成物Gを用いた第2の層の形成方法の詳細については後述する。得られた被覆電線について、各種性状を測定した。結果を表3に示す。
【0136】
実施例2~7、比較例1
第1の層および第2の層を形成するための組成物を、表3に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、被覆電線を得た。比較例1では、第1の層を形成しなかった。得られた被覆電線について、各種性状を測定した。結果を表3に示す。
【0137】
水系塗料組成物Bを用いた第1の層の形成:
ポリアミドイミド(PAI)ワニス(樹脂分:34重量%)を水中に投入してPAIを析出させた。これをボールミルにより粉砕してPAIの水分散体(固形分20重量%)を得た。これにPTFEの水分散組成物(固形分:60重量%、官能基数:炭素原子106個あたり18個)と水を添加して、PAI/PTFE=25/75(体積%)の水系塗料組成物Bを得た。この粘度は138cPであった。
この水系塗料組成物Bをスプレー塗装し、100℃で15分間乾燥させた後に、380℃で20分間焼成することにより、19μm厚の被覆膜を得た。
【0138】
水系塗料組成物Cを用いた第1の層の形成:
ポリイミド(PI)ワニス(樹脂分:29重量%)を水中に投入してPIを析出させた。これをボールミルにより粉砕してPIの水分散体(固形分:20重量%)を得た。これにPTFEの水分散組成物(固形分:60重量%、官能基数:炭素原子106個あたり18個)と水を添加して、PI/PTFE=30/70(体積%)の水系塗料組成物Cを得た。この粘度は145cPであった。
この水系塗料組成物Cをスプレー塗装し、100℃で15分間乾燥させた後に、380℃で20分間焼成することにより、21μm厚の被覆膜を得た。
【0139】
粉体塗料組成物Eを用いた第1の層の形成:
ポリアミドイミド(PAI)粉末(平均粒径20μm)とPFA粉末(TFE/PPVE共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり220個、MFR:27g/10min、融点:301℃、平均粒径:24μm)を混合して、PAI/PFA=20/80(体積%)の粉体塗料組成物Eを得た。この平均粒径は23μmであった。
この粉体塗料組成物Eを静電塗装し、380℃で20分間焼成することにより、20μm厚の被覆膜を得た。
【0140】
粉体塗料組成物Fを用いた第1の層の形成:
ポリアミドイミド(PAI)粉末(平均粒径20μm)とFEP粉末(TFE/HFP共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり625個、MFR:38g/10min、融点:258℃、平均粒径:41μm)を混合して、PAI/FEP=20/80(体積%)の粉体塗料組成物Fを得た。この平均粒径は26μmであった。
この粉体塗料組成物Fを静電塗装し、320℃で20分間焼成することにより、18μm厚の被覆膜を得た。
【0141】
水系塗料組成物Gを用いた第2の層の形成:
PTFEの水分散組成物(固形分:60重量%、官能基数:炭素原子106個あたり18個)に水を添加して、水系塗料組成物Gを得た。この粘度は292cPであった。
この水系塗料組成物Gをスプレー塗装し、100℃で15分間乾燥させた後に、380℃で20分間焼成することにより、28μm厚の被覆膜を得た。
【0142】
水系塗料組成物Hを用いた第2の層の形成:
PFAの水分散組成物(固形分:60重量%、TFE/PPVE共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり133個)に水を添加して、水系塗料組成物Hを得た。この粘度は224cPであった。
この水系塗料組成物Hをスプレー塗装し、100℃で15分間乾燥させた後に、380℃で20分間焼成することにより、31μm厚の被覆膜を得た。
【0143】
粉体塗料組成物Iを用いた第2の層の形成:
PFA粉末(TFE/PPVE共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり220個、MFR:27g/10min、融点:301℃、平均粒径:24μm)を、粉体塗料組成物Iとして用いた。
この粉体塗料組成物Iを静電塗装し、380℃で20分間焼成することにより、47μm厚の被覆膜を得た。
【0144】
粉体塗料組成物Jを用いた第2の層の形成:
PFA粉末(TFE/PPVE共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり2個、MFR:28g/10min、融点:301℃、平均粒径:23μm)を、粉体塗料組成物Jとして用いた。
この粉体塗料組成物Jを静電塗装し、380℃で20分間焼成することにより、75μm厚の被覆膜を得た。
【0145】
粉体塗料組成物Kを用いた第2の層の形成:
FEP粉末(TFE/HFP共重合体、官能基数:炭素原子106個あたり625個、MFR:38g/10min、融点:258℃、平均粒径:41μm)を、粉体塗料組成物Kとして用いた。
この粉体塗料組成物Kを静電塗装し、320℃で20分間焼成することにより、52μm厚の被覆膜を得た。
【0146】
高分子化合物(1)が、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の被覆電線。
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)が、パーフルオロ系高分子化合物である請求項1または2に記載の被覆電線。
含フッ素高分子化合物(1)、含フッ素高分子化合物(2-1)または含フッ素高分子化合物(2-2)の比誘電率が、2.0~2.2である請求項1または2に記載の被覆電線。
前記平角電線基材の形成材料が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の被覆電線。